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気ままな生活

2009.11/23(Mon)

ブロッホ 〜 ピアノと管弦楽のための交響的協奏曲、スケルツォ・ファンタスク

エルネスト・ブロッホといえば《シェロモ》が有名。この曲がユダヤの民俗音楽的雰囲気が濃厚なので、ブロッホ=ユダヤ音楽というイメージが強い。
ブロッホの作品にはエキゾチックな雰囲気がする曲が結構多いが、古典的な典雅な構成の《コンチェルト・グロッソ》(第1番と第2番がある)があったり、ヴァイオリン・ソナタ第2番のようなミスティリアスな雰囲気の印象主義風な曲もあるので、時代と作品によってトーンがかなり違っている。

ブロッホの《コンチェルト・グロッソ第1番》(以前に書いた記事あり)は、その名の通り合奏協奏曲でピアノも使われている。
ピアノ協奏曲ほどではないが、わりとピアノも目だって、和声も旋律も美しくてとても聴きやすい。この曲を初めて聴いてから、ブロッホをいろいろ聴き始めたので、ブロッホのピアノ作品の中では最も好きな曲。

《ピアノと管弦楽のための交響的協奏曲 / Concerto symphonique pour piano et orchestre》も、普通のピアノ協奏曲ほどピアノがメインの旋律を担当しているわけではないが、交響曲の主要楽器としてピアノが使われているような曲で、《コンチェルト・グロッソ》よりも、ずっとピアノの役割が大きい。
”交響曲的な”協奏曲というタイトルどおり、第1楽章はピアノによる結構長いカデンツァが入っていて形式的には協奏曲風。
ただし、ピアノが弾いている旋律は歌謡性はあまりなく、交響曲のフレーズの一部を受け持っているようで、ピアノ協奏曲ではなく交響曲を聴いている感じがする。
それでも、ピアノがオケの響きに埋もれることなく、オケとは独立した動きをしているので、存在感がしっかりあって、ピアノ部分だけを聴いていても結構面白い。

ブロッホ独特のややエキゾチックな雰囲気がする和声と旋律が出てくるが、響き自体はとても綺麗。コンチェルト・グロッソを聴きなれていれば、ほとんど違和感なく聴ける。
アメリカの現代音楽のピアノ協奏曲とは違って、悠然とした構えの交響曲的雰囲気が濃厚。調性も安定し、突発的に不協和音が暴発することもないので、ゆっくり腰を落ち着けて聴くのに向いている。
なによりスペクタクル映画のサントラでも聴いているような気がするせいか、最後まで飽きずに聴けてしまう。

この曲はそれほど録音は多くない(そもそもブロッホのピアノ作品の録音自体が多くない)。
このCHANDOS盤は、ピアノはヒルダ・ディノワ、アレクサンドル・チェルヌシェンコ指揮サンクト・ペテルブルク国立アカデミー・カペラの伴奏。
ピアノがややおとなしめでマッシブさはそれほど強くないけれど、そのかわりブロッホ独特の和声の響きと叙情感が良く出ていて、ピアノがとても美しく聴こえる。

Ernest Bloch: Concerto Symphonique; Scherzo Fantasque; Hiver-PrintempsErnest Bloch: Concerto Symphonique; Scherzo Fantasque; Hiver-Printemps
(2003/07/22)
Halida Dinova (Piano) ,Alexander Tchernushenko (指揮), St. Petersburg State Academic Capella Symphony Orchestra

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ピアノと管弦楽のための交響的協奏曲 / Concerto symphonique pour piano et orchestre(1948年)

第1楽章 Pesante
冒頭は、ちょっとエキゾチックな感じがする威厳があって勇壮なオケのトゥッティ。
”ベン・ハー”とか”アラビアのロレンス”とかの歴史を舞台にしたサントラにも使えそうなくらいスペクタクルな雰囲気が充分。
それでも、ブロッホらしい独特の響きのする和声的と、ユダヤ音楽的なモチーフが織り込まれているし、緩徐部や弱音部分の曲想は、ちょっと神秘的な雰囲気で叙情感もあって美しい。
あまり歌謡性のある旋律でもなく、構成ももう一つよくわからないし、その上、演奏時間が15分と長い。そのわりに、全然飽きもせず聴けるのは、まるで映画のサントラを聴いている気分がするせい?

第2楽章 Allegro vivace
第1楽章がゆったりとした曲想だったので、第2楽章は一転して躍動的。砂漠で騎馬態の戦闘シーンでも見ているような曲。
オケはわりと勇壮な構えで重々しいが、ピアノがかなり軽快に飛び回っているところは、リズム感とスピード感が結構出ている。
中間部はテンポが落ちて、ユダヤ音楽的な旋律が登場して、清々しく晴れやかな雰囲気に変わる。第1楽章同様、緩徐部では和声もピアノの響きも綺麗。

第3楽章 Allegro deciso
冒頭の金管のファンファーレが華やか。行進曲風にリズム感のある力強い主題が展開されていく。
この楽章も、王様ご一行の行列か、勝利の行進みたいな感じもする威厳と勇壮な曲想で、とってもスペクタクルな雰囲気。
ピアノがオスティナート的に、低音部でリズムを刻んでいくことが多い。中間部は流れるようなピアノのパッセージが流麗。


スケルツォ・ファンタスク(1948年)
ピアノとオケのコンチェルティーノ風。タイトル通り、ファンタスティックな響きとスケルツォ的な快活さが共存したような曲。
《交響的協奏曲》と同じ年に作曲しているせいか、曲想や旋律・和声が良く似ている。《交響的協奏曲》の後に続けて聴くと、第4楽章でも聴いている気分になる。
18:00  |     -- 米国(クラム、リーバーマン、ローレム、バーバー、コリリアーノ、他)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11/21(Sat)

バッハ=ラフマニノフ編曲/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番

バッハの作品は作曲家の編曲意欲を刺激するらしく、《無伴奏ヴァイオリンのソナタとパルティータ》も、一部の曲(楽章)をブゾーニ、ゴドフスキー、ラフマニノフなどがピアノ独奏用に編曲している。
ロマン派の曲のようにしか私には思えないようなブゾーニ、ゴドフスキーと違って、ラフマニノフの編曲版は、和声の厚みをかなり抑えて、対位法による旋律の動きが明瞭にわかるようにした、とてもシンプルな編曲。
ゴドフスキの編曲版は、あまりにも音が多くて数楽章を続けて聴いていると、かなり疲れてくるものがあるが、ラフマニノフの編曲版は、ケンプのバッハ編曲ものを聴いている時と同じで、とても心地よい感じがする。
バッハに限らず、本来は原曲を聴くのが一番良いのだろうけれど、バッハのピアノ編曲ものは結構好きなので、原曲よりもピアノ編曲版の方を聴いている曲の方が多い気がする。

このラフマニノフ編曲に関する解説が載っているサイトがあって、編曲のポイントや楽譜のサンプルが掲載されている。
《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番》の編曲版はいろいろあって、サン=サーンスも編曲しているし、ピアニストだとムストネンとカツァリスの編曲版もある。
ムストネンの編曲版はMIDIがホームページの下の方に掲載されている。聴いてみると、調性がころころ変わって、やや調子ハズレになっていく感じが結構面白い。

ラフマニノフの場合は、第3番のうち、「前奏曲」、「ガヴォット」、「ジーグ」の3曲だけ編曲している。
このラフマニノフ編曲版の演奏はいくつか出ているが、Marco Polo盤のセケイラ・コスタは、柔らかい旋律の歌いまわしと軽やかで丸みのある響きで、流れが滑らか。

Rachmaninov: The Complete TranscriptionsRachmaninov: The Complete Transcriptions
(1994/07/14)
Sequeira Costa

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Haenssler盤のアレクサンダー・パレイは、低音や和音の響かせ方とかいろいろ凝ったところがある。
パレイはライプツィヒ・バッハ国際ピアノ・コンクールで優勝したピアニスト。ピアノは珍しくBlüthner concert grandを使っている。
コスタよりも音色・響きが多彩で声部の分離が明瞭なので、それぞれの旋律の動きが良くわかるし、音の切れが良くて、結構面白い演奏。
スタッカートのはねるようなタッチが、ちょっとだけムストネンに似ているところはあるが、あれほど極端ではないので、抵抗なく普通に聴ける。


Alexander Paley Plays BlüthnerAlexander Paley Plays Blüthner

Alexander Paley

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パレイはゴルトベルク変奏曲も録音しているが、ラフマニノフの編曲版よりもずっと表現意欲に満ちたとても個性の強い演奏。
テンポ設定やフレージングが独特。1つの変奏のなかでもよくテンポが揺れるし、装飾の域を超えてフレーズ自体が編曲されている変奏も多い。
変奏曲をさらに変奏しているようなそのユニークさは、今まで聴いたゴルトベルクのなかでは飛びぬけている。(でも、ちょっとやりすぎの気はするけれど)
全曲通しで聴いていると、バッハのゴルトベルク変奏曲ではなくて、ゴルトベルクの編曲版を聴いているような気分がしてくるのが難点。それでも、無難だけれどつまらないゴルトベルクの演奏を聴くよりはずっと面白い。ただし、度々聴きたいかというと、とても濃厚な味つけなので、う〜ん...という感じ。

Bach: Goldberg VariationsBach: Goldberg Variations
(2007/05/08)
Alexander Paley

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17:52  |    - その他のピアニスト/ピアノ曲(現代音楽以外)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11/19(Thu)

シサスク/ヘール・ボップ彗星

たまたま見つけたシサスクの《The Hale-Bopp Comet(ヘール・ボップ彗星)》。
この曲は珍しいフルートとギターによるデュオ。
彗星をテーマにしていなければ、両方の楽器とも音色があまり好きではないので、たぶん見逃していたに違いないアルバム。
実際に聴いてみると曲自体が良かったし、フルートとギターという音の組み合わせは、曲想にとても良く似合っていた。
このヘール・ボップ彗星は、1997年に太陽の近くを通過したので、肉眼で見れるほど明るかったらしい。なぜかこの彗星に関する記憶が全くない。見逃したのは残念。

これはエストニアの作曲家によるフルート&ギターの作品集。知らない作曲家の小品がほとんど。
Portraits of Estonia: Works for Flute and GuitarPortraits of Estonia: Works for Flute and Guitar
(2001/09/25)
Duo Concertante

試聴する(米国amazon)[トラック10]



《The Hale-Bopp Comet》の冒頭は、ギターが静かに、雨音のようなリズムをオスティナートで刻んでいき、その上をフルートがミニマル的な旋律を吹いていく。
彗星はまだ太陽系から遠く離れたところにいるので姿は見えないが、ゆっくりと着実に太陽系に近づいてきているイメージ。(彗星というと、つい「白色彗星」をイメージしてしまう)

ギターのリズムが徐々に変形されて躍動的になっていき、フルートの旋律も同じように装飾されていくが、徐々にクレッシェンドしながら、両方の旋律が変奏曲のように大きく変形していき、華やかな雰囲気になっていく。
和声自体は美しい曲で、どことなくエキゾチックで不可思議さを感じさせるものがある。
これは、太陽系にかなり接近し、真っ白い綺麗な箒のような姿が、徐々に大きく見えてきているようなイメージ。

曲のなかば辺りにさしかかると、曲想が一転してテンポが速くなり、ミニマル的な旋律から抜け出して、メロディアスなフルートの旋律とギターの伴奏に変わる。
彗星が大接近して、白い渦が高速でぐるぐると渦巻き、スピーディで活動的な流線型の彗星がクローズアップされたイメージ。
この部分は完全な調性音楽になっているので、短調で哀感を感じさせるところがあって、ロマンティックで聴きやすい。

最後はディミヌエンドされて同じフレーズを繰り返しながらフェードアウトする。これは去り行く彗星のイメージ。

フルートとギターとも元々どこかしら憂いをおびた響きなので、この2つの楽器でデュオすると、やっぱりさらさらとした哀感がずっと流れている。
18:35  |     -- 北欧(ペルト、シサスク、スメラ、他)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11/17(Tue)

バーバー/ピアノ協奏曲

バーバーといえば《弦楽のためのアダージョ》。他にもいろいろ作品は残しているが、一番有名なのでこの曲を真っ先に思い浮かべる人が多いに違いない。
このアダージョ、よくセレモニーでかかっているし(特にお葬式)、鎮魂歌ならブルッフの《イン・メモリアム》の方が好きなので、わざわざCDを買って聴く気にはならない。

リーバーマンのピアノ協奏曲のレビューを米国amazonで見ていると、”バーバーのピアノ協奏曲以来の傑作”というコメントが度々出てくる。
バーバーのピアノ協奏曲は、アメリカ人作曲家が書いたピアノ協奏曲の中でも傑作と言われて、初演では絶賛されたという。録音自体は多くはないが、見かけるのはアメリカ人ピアニストによるものが多い。
日本のamazon、HMVでは、バーバー作品に対するレビューがあまりついていないが、米国amazonだとさすがに自国の作曲家だけあって、バーバーの作品は人気があってレビューも多い。

このピアノ協奏曲は、ピアニストのジョン・ブラウニングをソリストに想定して作曲されている。ブラウニングはバーバー作品の演奏で有名。
初めの2つの楽章は1960年末、途中いろいろ出来事があって中断し、第3楽章は1962年9月に完成。初演は同月、ブラウニングのピアノとラインスドルフ指揮ボストン響で行われた。
1963年のピュリツァー賞、1964年のMusic Critics’ Circle Award(音楽評論家サークル賞) を受賞し、ピアノ協奏曲はバーバー作品の中で一般的に最も高い評価を受けている曲の一つ。

初演者のブラウニングによる録音がいくつかあるが、なかでも1964年のセル指揮クリーヴランド管弦楽団の評価が良いらしい。
このNAXOS盤のスティーヴン・プルッツマンのピアノ(マリン・オールソップ指揮ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団)による演奏は、シャープなタッチでエネルギッシュ。ピアノの音も綺麗。
Barber: Piano ConcertoBarber: Piano Concerto
(2002/10/22)
Marin Alsop (Conductor), Royal Scottish National Orchestra (Orchestra), Stephen Prutsman (Performer)

試聴する(米国amazon)


バーバーの時代のアメリカ人作曲家(コープランド、ローレム、ガーシュウィンなど)のピアノ協奏曲だと、ジャズとかフランス音楽の影響を感じさせるところがよくあるが、バーバーはそういうところはない。
ロシア風のロマンティックでピアニスティックなところとバルトーク(というよりプロコフィエフ?)のピアノ協奏曲のような荒々しいところを融合させて、現代的に洗練したような感じがする。

機Allegro appassionato
全楽章とも短調が支配的で、第1楽章冒頭はピアノ独奏で和音による力強いフォルテの主題。
旋律はシンプルだがリズムと和声が独特で、予期しない不吉なものがやってくるような劇的で、不安に満ちた響き。
この主題がピアノとオケにより次々と変形されて演奏されて、しつこいくらいに繰り返し現れる。
旋律に歌謡性はあまりないが、テンポが速く、鋭いリズムと細かなパッセージが多いので、強く訴えかけるような急迫感がある。
かなりピアニスティックな曲で、音の詰まった高速のパッセージに加えアルペジオと和音を多用した流麗で華やかなピアノの響きが、とても綺麗。
緩徐部がときどき挿入されて、頻繁に緩急・静動が入れ代わっていく。前後がやたらに急迫感があるので、一転して静寂で呟くようなピアノの響きは、ちょっと幻想的。
ヒンデミットのような即物的なメカニカルさや乾いた叙情感とは違い、また、リーバーマンのような厳つく物騒な響きとも違う。やや水気を含んだ冷たく研ぎ澄まされた叙情感がとても美しい楽章。

供Canzone: Moderato
Canzoneなので、やや不協和的な響きの混ざってはいるが、やや暗めのトーンの叙情的な旋律。
中間を過ぎると、ピアノの左手アルペジオと右手で弾く旋律がややロマンティック。パタパタと羽音を立てながら蝶が待っているようなトリルがよく使われている。ヒンデミットが多用するトリルに似ている感じ。
全体的にピアノ独奏が多くて目立っているが、時々、弦楽や管楽によるソロが入ったりする。

掘Allegro molto
短調のかなり勇壮な曲想で、冒頭はブラスによるファンファーレが耳に突き刺さるよう。
すぐにピアノが速いテンポでシャープな打鍵で、鍵盤上を目いっぱい使って動き回っている。
第1楽章にも増してピアニスティックで、打楽器的奏法が多用されている。ドラムがオスティナート的に低音を連打しているのが、とてもリズミカルで、疾走感も充分。
曲想が曲想だけに、ドラムと管楽がとても目立っている。時々休憩するように挿入される静かな緩徐部は別として、ピアノがメインの旋律を弾くというよりも、同じ主題をピアノとオケで受け渡していき、ピアノがオケの背後でリズムセクションのように伴奏しているので、ピアノはオケパートの一つのように聴こえる。
第1楽章と第3楽章は緊迫感と勢いがあるので、これをライブで聴くとかなり高揚感を感じるに違いない。批評家も絶賛したというのも、なぜか納得してしまった。

リーバーマンのピアノ協奏曲第2番は、このバーバーのピアノ協奏曲とちょっと曲想や構成が似ているので、並べて評されたのも良くわかる。
《弦楽のためのアダージョ》を書いた同じ作曲家とは思えないような作風なのは、ピアノ協奏曲がかなり後年の作品なので作風も変遷していったため。
《弦楽のためのアダージョ》と同じ頃に書かれた最初の協奏曲であるヴァイオリン協奏曲は、とってもロマンティックで聴きやすい。現代のヴァイオリン協奏曲の中では、よく演奏されている曲らしい。
スリリングでインパクトの強いピアノ協奏曲も同じくらい(かそれ以上)に面白いと思うのに、あまり演奏も録音も見かけない。やはりとっつきにくいところのある曲想と、技巧的に難度が高いせいだろうか。
18:00  |     -- 米国(クラム、リーバーマン、ローレム、バーバー、コリリアーノ、他)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2009.11/16(Mon)

ブリテン/セレナード〜テノール、ホルンと弦楽のための

ブリテンが錚々たるイギリスの詩人たちのテキストをもとに作曲した歌曲集『セレナード〜テノール、ホルンと弦楽のための Op.31』。
『イリュミナシオン』が毒気のあるランボーの詩を使っていたのに比べれば、この『セレナード』を聴くと至極まともなロマン派的な歌曲に聴こえる。

ブックレットに載っているボストリッジの解説を読むと、ブリテンは、100年以上早く生まれていたら、ロマンティックな音楽を書いていただろうと言っていた。
ブリテン自身はこの『セレナード』について”重要な作品ではないが、とても楽しいもの”と素っ気ないが、元々ロマン派音楽に対する親近感はあったらしい。

この歌曲集は卓抜した技巧をもつホルン奏者のデニス・ブレインのために書かれた曲で、各曲のホルンパートは雰囲気や性格が異なっていて、バラエティ豊か。このホルンという楽器は、ロマン派の作曲家にとってイメージを喚起する楽器らしい。
詩がそれぞれ異なるテーマと雰囲気を持っていて、ブリテンがつけた曲もそれに合わせて走馬燈のようにイメージが次々と変わり、死の重荷とともに、ホルンによって森のごとき深さと形容しがたい憧憬を想起させる。

ボストリッジの解説はとてもわかりやすく、やはりCDを買ったのは正解。
ituneでダウンロードしたコンテンツにはブックレットもついていないし、オンラインでも読めない。(米国サイトだとデジタルブックレットが付いているアルバムもある。)

ブリテン:歌曲集ブリテン:歌曲集
(2005/11/09)
ボストリッジ ラトル&BPOボストリッジ(イアン)

試聴する

伴奏は小沢征爾指揮のベルリン・フィル。カップリングは、メインの『イリュミナシオン』と『夜想曲〜テノール、7つのオブリガート楽器と弦楽のための』。
『セレナード』の日本語訳詩を探してみると、<梅丘歌曲会館「詩と音楽」>のブリテンのページのところに載っている。
 
プロローグ(Prologu)
ホルンのソロのみ。ゆったりと演奏されるホルンの低くて深い響きが綺麗。

パストラ−ル(牧歌) Pastoral 詩:チャールズ・コットン
詩はイギリスの田園風景の夕暮れを歌った美しくのどかな詩。
弦楽の伴奏にのって、ホルンのソロとテナーの歌声がとてもよく映える曲。
ホルンのゆったりとした深い響きが詩のイメージによく似合うし、ボストリッジの明るい色調で伸びやかな歌声にはとても開放感があって爽やか。
ところどころ翳りを感じさせる不協和的な音が入ってくる。最後は黄昏のように、消え入るように静かに終えている。

夜想曲 Nocturne 詩:アルフレッド・テニスン
「牧歌」とは違って、テニスンの詩は同じ言葉を何度も繰り返し、自然に対する人間の感情が強く表現しているように思える。
3節に分かれていて、各節の前半は静かな曲想だが、後半の”Blow,bugle,blow,set the wild echoes flying””Bugle,blow ; answer,echoes”というようなフレーズにくると、ホルンが高らかになり、”dying,dying,dying”でホルンが静かに消えていく。

悲歌 Elegy 詩:ウィリアム・ブレイク
ブレイクの詩は象徴的なところがあって、わかりにくい。ブレイクといえば、大江健三郎がよく引用していた記憶がある。 弦楽の悲痛な響きを背景に、ホルンが重苦しく物憂げ。

挽歌 Dirge 詩:作者不明(15世紀)
「Dirge」は日本仏教でいうところのお通夜。
静かな曲を予想したけれど、歌詞はキリスト教の天国(地獄?)への道のりを描写したようなオドロオドロしさがある。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の暗い世界を連想してしまった。
曲も、詩に合わせて、静かどころかとても劇的でいかつい。

賛歌 Hymn 詩:ベン・ジョンソン
一転して、明るく躍動感と開放感のある曲。シンシアは月の女神。夜空を支配し輝かせる月を賛美した美しい詩。ホルンが速いテンポなのにとても軽やか。

ソネット Sonnet 詩:ジョン・キーツ
夜を照らす月への賛歌の次は、昼間の疲れと苦悩を癒す眠りへの賛歌。ボストリッジは、この詩の言葉は、”Innocence”から”Sin”へ遡っていきながら、この歌曲を一つのミクロコスモスのように総括しているという。
静かな夜想曲風の叙情的な曲で、ホルンは入っていない。

エピローグ
ホルンのソロのみ。歌曲集を封印するプロローグとエピローグでは、プロローグはホルンが近くから聴こえてくるが、エピローグはかなり遠くからかすかに聴こえてくる。
ボストリッジは、単純さと自然の秩序が失われた世界を思い出させるような自然なハーモニクスで演奏されると書いている。

元から詩というジャンル自体にさほど興味がない上に、キリスト教世界の死生観が背景に埋め込まれているような詩が多いので、どうもピンとこないところがあって、詩に対する共感はあまり感じない。
ホルンのソロとボストリッジの歌声を聴くだけでも、十分満足。曲にはブリテン独特の翳りと不安定さを感じさせる和声が流れていて、ブリテンの場合は、歌曲はピアノ伴奏より管弦楽伴奏の方が聴く楽しみが多い。
18:15  |     -- イギリス(ブリテン、他)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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