気ままな生活

♪音楽と書物に囲まれて暮らす日々の覚え書♪

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コロリオフ ~ バッハ/インヴェンションとシンフォニア

コロリオフの《フランス組曲》を聴いた勢いで、久しぶりに《インヴェンションとシンフォニア》を聴いてみた。

《インヴェンションとシンフォニア》(Hanssler盤)は、《平均律クラヴィーア曲集第1巻》(Tacet盤)と同時期の2000年に録音。
初めて聴いたコロリオフの録音が《インヴェンションとシンフォニア》。
子供の頃に練習した《インヴェンション》のトラウマ(?)のせいで、その後長い間バッハを弾くのも聴くのも嫌になってしまった。
でも、コロリオフが弾く《インヴェンション》を聴くと、記憶の中の曲とは全く違って、滑らかなノンレガートと豊かな表現で、とっても魅力的。
(この曲に限らず)やはり自分の下手なピアノで聴くのではなく、コロリオフのような素晴らしい演奏で聴くものだとつくづく思ったのだった。

コロリオフの《インヴェンション》はノンレガートで弾くときでも、グールドのようにクリスピーではなく、滑らかにつながっていく。
色彩感豊かな音色で、音の輪郭も、旋律の流れもくっきりと明瞭に浮かび上がってくるので、二声のシンプルな対位法でも立体感があるし、さりげない歌い回しにさらりと柔らかい叙情感が籠っている。

INVENTIONS & SINFONIASINVENTIONS & SINFONIAS
(2000/8/13)
Evgeni Koroliov

試聴ファイル




BWV772-801 Inventions & Sinfonias Evgeni Koroliov 1999



《インヴェンション》は15曲全て練習したけれど、明らかに練習したのを覚えているのは、曲自体が好きな1番、2番、4番、13番。
ちょっと変わった単純な旋律で始まる6番も覚えている。
今聴いてもやっぱり好きではない曲は、練習した記憶が全くない。(いかに身を入れずに練習していたのか、我ながらよくわかった)
レッスンのお手本にするのにぴったり....とは思うけれど、これだけ素敵なインヴェンションを聴いたら、自分で弾く気がすっかり失せてしまった。

第1番の冒頭から、速いテンポで躍動感に溢れた力強く軽快なタッチが、はっと目が覚めるように鮮やかで輝いている。
芯のしっかりした硬質のタッチなので、ノンレガートでなくとも歯切れ良い音で、フレージングはとても流麗。
強弱・硬軟交えたタッチで表情も豊かに変わり、色彩感豊かくっきりと2声がそれぞれくっきりと浮き上がって掛け合いの妙もしっかり味わえる。

急速系の曲(第4番、第8番、第10番、第12番、第13番とか)はノンレガートを多用しているけれど、クリスピーではなく軽やかで柔らかいタッチで尖ったところはなく、リズミカルでコロコロと玉が転がるように滑らか。
クリスピーなノンレガートでネズミが走り回るように慌ただしく弾くようなところはなく、線のしっかりした堂々とした演奏のダイナミズムが爽快。
緩徐系の曲(第2番、第6番、第7番、第9番、第11番とか)でも、やや線の太めの芯がしっかりした音は豊かな響きと色彩感が美しく、さらに細やかな起伏やルバートがかかったレガートな旋律がメロディアスで優美。
これだけ豊かな音楽が流れる《インヴェンション》はめったに聴けない。《インヴェンション》のイメージがすっかり変わったくらいに、コロリオフの演奏は素晴らしい。

3声の《シンフォニア》になると、コロリオフの声部の弾き分けの見事さがさらによくわかる。(特に速いテンポの第1番、第6番、第12番)
第1番や第3番は軽やかで柔らかいタッチが可愛らしい曲想にぴったり。思わず口元が緩んでしまう。
第6番はまるで鳥たちの三重唱を聴いているみたい。
第8番、第10番、第12番、第14番は、歯切れ良くリズミカルなタッチでとても楽しそう。
コロリオフの演奏で聴くと、《インヴェンションとシンフォニア》で私の好きな曲はほとんどが速いテンポの長調。軽快な躍動感と明るい色彩感が開放的でとても気持ちいい。久しぶりに平均律曲集も聴きたくなってきた。

コロリオフ ~ バッハ/フランス組曲

バッハの鍵盤楽器組曲の中で、《イギリス組曲》と《パルティータ》は好きなのに、流麗優美な《フランス組曲》はどうも好きにはなれない。(一時期、第5番が気に入って、ピアノで練習したことはある。)
例外はガヴリーロフの《フランス組曲》(1993年録音のDG盤。1984年EMI盤よりも音が綺麗)。
ペダルを多用したピアノの響きがとても美しく、とりわけ”Allemande”の美しさは格別。(でも、”Courante”や”Gigue”はテンポが速くてタッチが少々粗いので、忙しなくて情趣に欠ける気がする)
ガヴリーロフの演奏なら、短調の第1番~第3番が第5番よりも好きな曲。

コロリオフが録音した《フランス組曲》(と似たような曲想の《フランス風序曲》)は、両曲とも好きではないので未購入のまま。
最近コロリオフの録音を聴き続けているので、《フランス組曲》をどう弾いているのかちょっと興味が湧いてきた。
試聴ファイルとYoutubeで聴いてみると、予想外なことに、聴けば聴くほど深く心打たれるくらいに素晴らしい。
残響の少ない色彩感豊かな音と克明で立体的な声部が、細部まで緻密に練りあげた彫の深い表現で語りかけ、この曲に流れる美しい歌と芳醇な叙情を鮮やかに描き出している。とりわけ強く惹かれるのは、深い哀感が流れる第1番。
間違いなくガブリーロフを上回る私のベスト盤。
※amazonのレビューでは、”声部の明瞭な提示を目的とした潤いのない演奏”のように書かれていたので、味気無さそうなイメージだったけど、聴いてみたら全然違っていた。好みと感性が違えばどれだけ印象が変わるのか、今さらながらよく分かる。(それに、”コロリオフの演奏に足りないのは、曲に対する愛情”とかなんとか書いている人もいたりする。)

第1番の冒頭を聴いただけで、研ぎ澄まされて凛とした音色は水滴がしたたり落ちるようなしっとりとした潤いと瑞々しさがあり、繊細な情感が籠ったように切々と響き、凝縮された音の美しさに惹き込まれてしまう。
アゴーギクを多用しているところはチェンバロ奏法に似ているけれど、クリスピーなノンレガートでもなく、逆にペダルを使ってピアノ特有の美しい残響を聴かせるというわけでもない。
音を刻むように丁寧で明瞭な音をレガートで繋ぎつつ、残響の重層感をできる限り抑えたようなとてもシンプルな響き。
弦をつまはじいているかのようにピンと張り詰めた音は、残響を切り詰めたチェンバロか、リュートみたいに聴こえるときもある。
もともとアゴーギクを多用する演奏は全く好きではないのに、コロリオフのアゴーギクは不思議なくらいにすっと受け入れられる。装飾音はシンプルでくっきりと響き、旋律の流れに綺麗に溶け込んでいる。

緩徐系の曲では、ゆったりとしたテンポとまったりとしたタッチで、旋律の動きが克明にわかる一方で、細かなアゴーギクによりテンポとリズムが小刻に揺れる。
オーソドックスな演奏のような外形的なフレージングの柔らかさと流麗さはないけれど、この旋律が滑らかに流れないところが面白いし、フレージングの流麗さとは関係なく、起伏の多い抑揚のついた歌い回しで自然と歌が流れ出てくるかのよう。(コロリオフがメロディをハミングしているのがよく聴こえてくるし)
細部まで緻密に練られたアーティキュレーションは何度聴いても飽きない。くっきりと浮かび上がる声部の対話は、まるで心のなかで対話しているかのよう。
急速系の曲では、コロコロと粒立ち良く張りのある音が歯切れよくて快活。
どの曲も元々情感豊かな旋律なので、こういう少しデッドな響きで聴くと、情感が浄化・凝縮されてピュアに感じられる。
かなり濃密な情感が流れているのだけど、コロリオフらしいかっちりとした構成感で中和されて、べったり情感過剰になることはなく、引き締まった叙情感のある端正な音楽になっている。

残響の少ない芯のしっかりとした色彩感の美しい音と、線が細く明瞭に浮かびあがる声部とで、モノローグか心の中の対話かのように、静かに語りかけてくるような親密感と細やかな叙情感がとても美しい。
フレージングの流麗さを抑制している代わりに、音の輪郭と旋律の動きが克明に聴きとれる丁寧な打鍵と抑揚のついた精緻な表現で、一つ一つの音のなかから繊細な情感がじわ~っと滲み出て、心に深く沁み込んでくる。
コロリオフの一連のバッハ録音(フーガの技法、平均律曲集、インヴェンション、フランス風序曲)とは一風違ったアプローチで、まるで密やかでパーソナルな内面世界を静かにドラマティックに表現したかのような音楽。

巷の《フランス組曲》の流麗優美なところに聴き飽きてしまう私には、今までに聴いたことがないようなコロリオフの個性的な演奏が驚くほど新鮮。
外形的なしなやかさや柔らかさはなくとも、その音楽の流れは自然で叙情感は深く美しい。
コロリオフのバッハ録音のなかでも、一番好きな曲だと確信したくらいに気に入ってしまった。(やっぱりどんな曲でも試聴するに限る)
ということで、早速コロリオフの《フランス組曲》を注文。Tacetの綺麗なピアノの音をステレオで聴けば、ますます好きになるに違いない。

J.S. Bach: Franzoesische SuitenJ.S. Bach: Franzoesische Suiten
(2007/11/28)
Evgeni Koroliov

試聴ファイル(jpc.de)




第1番は全体的に強い哀感が流れ、張り詰めた緊張感が漂っている。
”Allemande”は、しっとりとした潤いのある瑞々しいピアノの音が美しく、ゆったりとしたテンポで細かな起伏とアゴーギクで、心の中のモノローグのような趣き。リピートしてからは少し音量を落としてさらに密やかに。静謐で引き締まった叙情が瑞々しい。
トリルの多い”Courante”は哀愁は哀愁が漂い、語り口は”Allemande”に似ているけれど、こちらは少し力強く弦をつまはじくようなタッチで、(ピアノではなく)リュートの弾き語りを聴いている気がしてくる。声部が立体的に重なり合って二重唱や三重唱みたいに聴こえる。
音を刻印するようなタッチの”Sarabande”は悲愴感が鋭く突き刺ささり、”Menuet”は淡い哀感と束の間の安息感が交錯する。
一音一音力強い打鍵で鋭いリズムを刻む”Gigue”は、パルティータ第6番を連想させるように厳粛で毅然として痛切。
コロリオフのピアノで繰り返し聴けば聴くほど、この曲の美しい哀感に惹き込まれていく。とりわけ”Allemande”と”Courante”の深い叙情感が美しい。

BWV812 French Suite No.1 in d Evgeni Koroliov 2007




第1番と同じくらいに好きな第2番の”Allemande”も切々とした哀感が深く美しい。第1番よりも少し軽やかなタッチで、残響もやや長く煌きのあるピアノの響きがとても綺麗。
”Courante”と”Air”は速いテンポで舞曲風のリズミカルなタッチに変わって、第1番よりも哀感が和らいでいる。

BWV813 French Suite No.2 in c Evgeni Koroliov 2007


第3番は、最初の2曲よりもさらに哀感が柔らかいで、色調が明るい。
冒頭の”Allemande”は、前の2曲に比べて、タッチが軽やかで柔らかくなり、アゴーギクも強くなく、フレージングも滑らか。哀感が淡くなっている。
"Courante”、”Anglaise”、”Menuet”も速いテンポで軽やかなタッチ。”Gigue”もタッチはシャープでもリズミカルで軽快。
短調の3曲は、テンポ、アゴーギク、タッチの強さ、リズム感など、曲ごとにアーティキュレーションに変化をつけて、同じ短調でも哀感の強さの違いを弾き分けているように思える。


第5番の”Allemande”もゆったりとしたテンポでまったりと時間が流れ、明瞭に浮かびあがる旋律でじっくりと優しく語りかけるような歌い回し。なぜかそこはかとない憂いや淋しさが漂っている。リピートした時は音量を落として、何かを思い悩んでいるようにちょっと弱々しくて頼りなげ。
小鳥がさえずるようなトリルがとても美しい”Sarabande”と多彩なリズムを持つ”Loure”は、ゆっくりと静かに口ずさむような語り口で、穏やかで潤いのある情感がゆったりと流れている。
”Gavotte”は少女が楽しそうに舞うようなタッチが可愛らしい。
”Courante”、”Bourree”と”Gigue”は、速いテンポで粒立ちの良い音が歯切れ良く、弾むような張りがあって快活。”Gigue”は馬車が駆けるような推進力と躍動感が爽快。
曲ごとにテンポとタッチと歌い回しが大きく変化して、緩急・静動・強弱がコントラスト鮮やかに移り変わっていくので、いろんな場面が展開していく物語を聴いているみたい。

BWV816 French Suite No.5 in G Evgeni Koroliov 2007




<参考ブログ>
♪バッハ・カンタータ日記 ~カンタータのある生活~
コロリオフの《フランス組曲》に関するブログ記事は少ないのだけど、こちらは私と同じように素晴らしく思われたブロガーさんの記事。全く同感。
*CommentList

コロリオフ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第28番

ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタが素晴らしく良かったので、すぐに購入したCDはピアノ・ソナタ第28番&第29番。まともに聴いたことがないハンマークラヴィーアではなく、かなり好きな第28番が聴きたかったので。

同じ教会で録音したのに、こちらの方は残響が短くすっと音が消えていき、音もまろやかで輪郭にも丸みがある。夾雑物の混ざっていないような澄んだピアノの音にアコースティック感があって、とても心地良い。
ペダルを踏んだ時の重層感のある低音や、柔らかく伸びる残響がとても綺麗で、特に美しい高音の弱音を聴くと教会録音の良さがよくわかる。
ブックレットの録音情報で確認すると、ピアノはベーゼンドルファー・インペリアル。
後期ソナタ集の方はスタインウェイDなので、音の輪郭がややシャープで音色にもクリスタルのような輝きがある。
同じ教会録音なのに、ピアノの音にかなり違いがあるのは、録音方法だけでなく、ピアノの違いも影響していると思う。

Koroliov Series Vol. 14: Sonatas Op. 101 & Op. 106Koroliov Series Vol. 14: Sonatas Op. 101 & Op. 106
(2013/3/26)
Evgeni Koroliov

試聴ファイル(allmusic.com)



第28番は期待どおりに素晴らしい。
どの楽章も、コロリオフらしい多彩な色彩感と声部の立体感があって、音と旋律がくっきりと浮かび上がってくる。
第2楽章と第4楽章では余計な力が入っていない飄々とした自由闊達さを感じる。
第1楽章~第3楽章は、”問い”と”答え”みたいに右手と左手が対話して、ぐるぐると循環しているように感じる部分が多いので、コロリオフの旋律に立体感のある演奏ではそういう感覚が強くなる。
第1楽章は、ゆったりしたテンポと柔らかく滑らかな歌い回しでとても優美。
第2楽章はやや速めのテンポと明確で軽快なリズムに弾むような躍動感があって、気持ちの良い。中間部は第1楽章を回想しているようで、ちょっと不可思議な(好奇心に満ちたような)雰囲気がする。
第3楽章は、心の中で自問自答しているような静けさともどかしげな旋律。
第1楽章に出てくる主題の回想後に始まる第4楽章は、まるで突然天の啓示が舞い降りたかのように、”問い”と”答え”の繰り返しがようやく解決してモヤモヤがすっと消え去って、飛翔していくような自由さがある。

今まで断片的にしか聴いていなかったので、今回初めて最後まで全て聴いた「ハンマークラヴィーア」は、長大な緩徐楽章がどうにも好きになれないのがわかった。(もともと緩徐楽章自体はあまり聴くのが好きではない上に、異様に長いので)
それでも、第1楽章と第2楽章は普通に聴けるし、特に第1楽章はかなり好きになれたのが良かった。
最後のフーガも変幻自在に変容していくので、構成がわかりにくくてとらえどころがない気はするのだけど、聴き続けていけばそのうちわかるような感触はある。
この曲の録音はたくさん持っているので、いろいろ聴いていけばもっと馴染めるようになれそう。

コロリオフの弾く後期のピアノ・ソナタがこれだけ素晴らしければ、他のソナタもいろいろ聴きたくなってくる。
コロリオフがピアノ・ソナタを全集録音することはないと思うけど、標題付きソナタくらいは録音してくれれば嬉しい。


<参考情報>
第2回 ベーゼンドルファーのおはなし[Gala工房]
インペリアルの鍵盤は、ブゾーニの要望を取り入れて、1オクターブ拡張して97鍵(C0~C8、8オクターヴ)。低音部左端の9鍵のうち5つの白鍵は黒塗りになっているんだそう。

ベーゼンドルファー290インペリアル[音楽スタジオ「アスタルテ」]
拡張された1オクターブ(エクステンドベース)を使う曲のリストが載っている。
このリストにある曲は、ベーゼンドルファー以外のピアノ(スタインウェイ、ヤマハとか)で弾いているピアニストが多いと思うけど、その場合はエクステンドベースの音は弾けないので、省略するしかない。

エマニュエル・アックス ~ ブラームス/ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ

レーゼルのUHQCD盤『ブラームス:ピアノ独奏曲全集Ⅲ』を聴いたせいで、久しぶりに聴きたくなったのはエマニュエル・アックスのブラームス。
アックスのソロ録音のなかで好きなのは、シェーンベルクの《ピアノ協奏曲》、ベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第4番》、それにブラームスの《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》。

アックスは、ブラームスの《ピアノ協奏曲》と《後期ピアノ曲集》、《2つのラプソディ》も録音している。
ブラームス録音では、《ヘンデルヴァリエーション》の演奏が際立っていて、以前聴いた時よりもさらに素晴らしく聴こえる。
丁寧で精密な切れの良い打鍵と濁りのない響きですっきりとした構成感があり、変奏ごとにタッチと響きが多彩に変化する。
速いテンポと力業の必要な変奏でも、精密なメカニックと軽やかな打鍵で軽快。
変奏ごとに変わるタッチとソノリティが多彩で美しく、特にペダルを使ったときの響きの美しさは格別。ペダルワークが絶妙なせいか、残響が長く重なりあっても混濁することがない。
歌い回しも柔らかで情緒過剰なところはなく、情感細やかでロマンティック。
終盤の盛り上がり方が素晴らしく、荘重な響きとスケール感の大きさで圧巻。
この曲は好きなので、今まで結構聴いてきたけれど、私の好みから言えば、カッチェンとアックスが双璧。(それに次いで、若い頃のコヴァセヴィチ)

ブラームス : ヘンデルの主題による変奏曲とフーガブラームス : ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ
(1992/8/21)
アックス(エマニュエル)

試聴ファイル(amazon.de)



(カップリングのOp118は霧のように響きが重なり、緩徐系の曲はわりと好きかも。《2つのラプソディ》の第1曲のように、疾風怒濤のようなパッショネイトな曲は、緩急をつけすぎて淀んでしまうところがあるので、好みとしては、もっとストレートに一気に弾きこんで欲しい気がする。)



「Aria」は軽やかなノンレガートがちょっと可愛らしい。続く第1変奏も軽快。
第2変奏・第5変奏などの緩徐系の変奏や、第11変奏・第18変奏など細やかなパッセージが続く弱音系の変奏は、ペダルを使って残響が長く重なっていくのに混濁感がない。優美な和声の響きと粘り気のない歌い回しの繊細さで、叙情美しく。
第6変奏はさらに残響が長く、靄が垂れ込めたように曖昧模糊とした柔らかい響きがとても幻想的。(弱音ペダルを使っている?)
弱音が続く第21・第22変奏もソノリティが鮮やかに変化する。
特に響きが美しいのが第22変奏。高音はオルゴールや鐘の音みたいにキラキラと煌いている。

和音移動が多い第4、第7、第10、第14変奏も、シャープなスタッカート気味のタッチで、軽やかだけど力感がある。(このスタッカートがかったタッチではあまり好きではないのだけど、これは単に好みの問題なので)
特にかなり力業のいる第4変奏は、速いテンポでも全然バタつかずに軽快。
量感がそれほど重くなくとも、芯のしっかりした音で力感と張りがあるので、軽いということはない。

第24変奏では、低音のスケールが波のようにうねって盛り上がっていく。
最初はゆったりとしたテンポでじわじわとクレッシェンドしていき、最後でペダルを踏み続けたパッセージは重厚で力強い。この勢いで次の変奏へ入っていく流れがとても滑らか。続く第25変奏は軽快なタッチで和音も濁りなく澄んだ響きで明るい。

最後のフーガも、揺るぎないテンポと打鍵で、じわ~とした圧力感で迫ってくる。
強弱の旋律が交代して進んでいくところは、タッチとソノリティの変化が明瞭で鮮やか。
終盤のフォルテの和音移動でペダルを踏むところでは、すっきりとした響きが幾重にも重なって荘重華麗。
何度聴いてもアックスの《ヘンデルヴァリエーション》は素晴らしい。


<参考情報>
ブラームスのヘンデル・バリエーションをアックスの演奏で聞く [鎌倉スイス日記]
私が初めてアックスの録音を聴くきっかけになったレビュー。実際に聴いてみると、本当にこのコメントの通りの素晴らしさだった。

松井今朝子『料理通異聞』、『今ごはん、昔ごはん』

「江戸の料理屋「八百善」の跡取り善四郎が、寺町の小さな店を将軍御成りにまで大きくしていく一代記。」と紹介されていたので面白そうだった松井今朝子『料理通異聞』。

伝記的な語り口を期待していたので、読んでみたら普通の小説スタイルで、好みとはちょっと違っていた。
今まで読んだ料理(人)小説で面白かったのは、辻静雄をモデルにした海老沢泰久の『美味礼賛』。ストーリーはしっかり覚えてしまったのに、何度も読んでもやっぱり面白い。
それに比べると、本書はボリュームも調理技術に関するエピソードも少ないけれど、それでも一気に読んでしまうくらいには面白かった。

料理通異聞
(2016/9/8)
松井 今朝子



江戸料理の調理法は、期待していたほどに詳しくなかったとはいえ、精進料理の料理法がいろいろ載っている。
お寺の精進料理レシピブックに載っている簡単な料理とは違って、台湾の素食に似たもどき料理が多い。

- 昆布や干瓢の出汁を使う。
- 葛粉と小豆の煮汁で作った”鰹の刺身”もどき。
- 鳥魚の脂の代わりに、榧の実・胡桃の油を使った揚げ物。
- こんにゃくを葛粉振って揚げれば、”雁肉”代わり。

あとがきを読むと、本文に登場する料理の献立は、『料理通』に書かれているものを再現したというわけではなく、一部を除いて、江戸料理研究の専門家の話を参考にして、作者が想像して組み立てたという。

料理にまつわる話は興味を魅かれるけど、貧乏旗本の娘で後に大奥で出世する千満、芸者の富吉とのエピソードは、創作っぽい。
それに、「将軍御成り」というから、江戸城で将軍が食べる料理を作ったのだろうかと思っていたら、将軍が狩りの途中にちょっと立ち寄ったくらいだった。それに、将軍はお茶を飲んだだけで、料理には手を付けずに帰ってしまった。

4章構成で、章が変わると、スキップしたみたいに数年後の話になる。
大イベントのはずの伊勢参り(と上方料理)とかお店の改築といった転機となる出来事の話が飛ばされているので、ちょっと肩透かしだった。
付記として、65歳になった善四郎が決行した長崎旅行のことが、ほんの少しだけ書かれている。

主要な登場人物が最初の方にいろいろ出てくる伏線が多くて、かなりフィクションが多い伝記小説なので、それならもっといろいろ創作した方が面白かったかも。


ついでに読んだのは、食にまつわるエッセイ集。
著者は京都出身なので、大阪の食文化と一部オーバーラップするところがあって、その通りと思う話がいろいろ出てくる。
鱧の骨切りの大変さ、昔はポピュラーだった京のお菓子・五色豆、関東の煎餅は醤油・塩味系で関西は甘いものが多い(たしかに、瓦煎餅や炭酸煎餅は甘い)、お雑煮の白味噌は火を通せば通すほどまろやかな味になるのでポタージュみたいにトロリとするまで煮込むとか。
「ぜんざい」を東京で頼んだら、粒あんの塊がのっかったお餅がでてきてびっくり。、「田舎汁粉」と注文して、関西で言うところの「ぜんざい」がようやく出てきたという。
小説に出てくる馴染みのない江戸料理と違って、実際に見たり食べたりしている食材や料理の話が出てきて面白かった。

今ごはん、昔ごはん
(2014/6/4)
松井 今朝子

<目次>
江戸のごちそう、京のとっておき(花よりもんじゃ/じゅんさいな人 ほか)
めぐる季節の愉楽、悦楽(はじめての初鰹/ちまきのうらみ ほか)
今ごはん、昔ごはん(にんじんの色、いろいろ/ブランド茹子、今むかし ほか)
マイ・スイート・メモリーズ(おめでたい餅スイーツ/懐かしのおやつ、酒の粕 ほか)
食の色、いろいろ(花より油、菜の花色/成長のあかし、若竹色 ほか)
食べれども、食べれども(カメとほうれん草/春は天ぷら、火の用心 ほか)

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プロフィール

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

愛聴するのはベートーヴェンとブラームス。最近はバッハにも凝っている。ロマン派ならリスト。​さらに現代(20​世紀)の音楽を探検中。特に好きなのはピアノ音楽(ソロ、コンチェルトに室内楽)。

好きなピアニスト:早世したカッチェン、アラウ。現役では、レーゼルとソコロフ、ハフ、パーチェ。

好きな曲:ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第30・31・32番,ピアノ協奏曲第3番&第4番、ブラームス/ピアノ協奏曲第1番&第2番、後期ピアノ作品集

好きなジャズピアニスト:バイラーク、メルドー、ジャレット、エヴァンス、若かりし頃の大西順子。
好きな画家;クリムトとオキーフ。
好きな写真家:アーウィット、カルティエ=ブレッソン、ケルテス。

 

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