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フランクリン探検隊に関する本と映像
角幡唯介『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』がとても面白かったので、フランクリン探検隊に関する資料をいろいろ探してみた。見つけたのは、小説3作、研究書1冊、ドラマシリーズ1作。

ダン・シモンズ『ザ・テラー―極北の恐怖』は、フランクリン探検隊の実話を下敷きにして、イヌイット伝説の怪物を登場させた冒険&ホラー小説。

ザ・テラー―極北の恐怖〈上〉 (ハヤカワ文庫NV) 文庫ザ・テラー―極北の恐怖〈上〉 (ハヤカワ文庫NV) 文庫
(2007/12/1)
ン シモンズ (著), Dan Simmons (原著), 嶋田 洋一 (翻訳))



上下2冊で1000頁以上もあり、登場人物の細かい描写や過去の回想が多く、さらに現在と過去が錯綜し、現在の時系列も複数の場面転換のせいで前後することも多いため、小見出しに書かれている場所と年月日を確認しないと、一体いつの話なのかわからくなって混乱することがある。それでも、人物造形や史実をベースにしたフィクション部分は描写が細かく緻密な構成なので、小説としては読みごたえあって、かなり面白い。

フランクリン探検隊の公知の事実がストーリーに上手く織り込まれ、当時の隊員たちの会話や行動を小説仕立てにしているのはノンフィクション小説みたいで、実際にありえたかもしれないリアリティがあって、フランクリン探検隊が遭難した経緯や隊員たちの足取りの理由が想像だとしても、臨場感豊かで説得力はある。

一方で、探検隊メンバーの実名や知られている経歴を援用していても、人物造形は著者の創作。さらに、隊員たちを次々と襲って喰う正体不明の巨大シロクマ(?)みたいな怪物(イヌイットの伝説に出てくる怪物)、何者かに舌を食いちぎられて言葉が話せないイヌイットの女性レディ・サイレンス(イヌイットのシャーマン(巫女))、サー・フランクリンが怪物に食べられて死んだり、指揮権を引き継いだクロージャー艦長が部下に銃撃されて瀕死になったり(こういう反乱はあり得たとは思うけど)、サイレンスがクロージャーの命を救い、シャーマンになったクロージャーがサイレンスと2人の子供をもうけて北極で暮らすエンディングなど、創作がかなり多い。
ラストでクロージャーが燃やしたテラー号は、実際は、キング・ウィリアム島沖水深20me強の海底で、無傷に近い状態で沈んでいるのを2016年に発見された。
北極探検で沈んだ19世紀の軍艦、驚きの内部を公開[NATIONAL GEOGRAPHIC]

好みを言えば、創作の怪物とレディー・サイレンス、本筋とは直接関係のない回想部分をバッサリ削除して頁数を数割カットし、史実と未解明の謎の推測に基づいたノンフィクションノベルを読みたかった。探検隊が北極で彷徨い、壊血病や食料不足で疲弊し、カニバリズムに陥っていく過程だけでも、悲愴感や絶望感が色濃く、それだけで恐ろしい”ホラー的”なストーリーだと思う。
フィクションとしてなら、クロージャーとレディー・サイエンスのロマンスはあってもいいけど、他の部分と比べて非現実感が際立つイヌイット伝説と怪物、シャーマニズムはない方が良かった。
イヌイット神話上の伝説の存在の「巨大ホッキョクグマ (‘King’ Polar Bear) 」は実在した可能性が浮上[Polarbearology & conjectaneum]


シモンズの『ザ・テラー』をドラマ化した『The Terror Season 1』。面白そうなので、そのうち観たい気はする。
The Terror Season 1 Trailer | Rotten Tomatoes TV


「ザ・テラー」に含まれる15の実話要素をピックアップ
ドラマのあらすじ、原作とドラマの相違点、史実の紹介など役に立つ情報がたくさん載っている。


こちらはフランクリン探検隊の遭難の理由を追求したドキュメンタリー。ドラマ『ザ・テラー』の映像を使い、近年の調査(埋蔵された隊員や残された骨の状態)などの映像も挿入しているので、探検隊の行動や陥った窮地が視覚的によくわかる。
History Buffs: The Terror

映像の中で、彼らの運命を決めた判断は、キング・ウィリアム島の西側(夏でも氷に覆われている)を針路にしたことだとされている。東側は後にアムンセンのヨーア号が通り抜けたが、水深がかなり浅くて底が岩だらけの場所があり、小さなヨーア号(全長21m、乗員7人)よりもはるかに大きく喫水が深い軍艦エレバス号とテラー号が航行できたとは思えない(座礁するか、引き返すか、どちらか)。2隻の軍艦が島の東側を進んだとしても、船が途中で立ち往生した可能性は高いと思う。


シュテン・ナドルニー『緩慢の発見』は、フランクリンを主人公にした歴史小説でドイツのベストセラー。
フランクリンが4度行った北極探検のうち、2度目(1819年~1822年)のカナダコッパーマイン川流域徒歩探検の様子が詳しく描かれている。フランクリンが隊長だった探検隊20人のうち9人をほとんど餓死で失い、1人は殺人で人肉食も行われたらしい。飢餓状態だったので、生えているコケや自分の牛革のブーツまで食べていた。小説でもそういうストーリーだった。(ただし、史実を変えている部分もあり、同僚の隊員を殺して食べた先住民隊員を射殺したのは、フランクリンではなく別の隊員)
最後の北極航路探検については文書記録が皆無に近く、フランクリンがなぜ亡くなったのかは謎。小説では積氷に囲まれて動けなくなった船内で脳卒中に見舞われたフランクリンが、動くのも話すのも不自由な状態になり亡くなった、という設定にしている。

緩慢の発見 (EXLIBRIS)  緩慢の発見 (EXLIBRIS)
(2013/10/16)
シュテン ナドルニー (著), 浅井 晶子 (翻訳)




谷田博幸『極北の迷宮―北極探検とヴィクトリア朝文化』は、フランクリン探検隊自体の探検内容ではなく、遭難した探検隊をめぐる当時の社会の反応、探検隊を探す捜索隊の動向などを詳細にまとめた研究書。本文が約300頁、巻末の索引・文献リスト・註が約50頁と研究書らしlいしっかりした構成と内容。
特に捜索隊が報告した「カニバリズム」の証拠に愕然とした当時の人々の様子が、雑誌や演劇、絵画などに反映されているのがよくわかる。”文明人”のフランクリン探検隊が”野蛮人”の所業である「カニバリズム」をするはずがないと否定したディケンズは、北極の海に座礁した戦艦と崇高な軍人を主人公とした演劇”The Frozen Deep"(凍てついた海)を自作自演し、大評判になった。

捜索活動が始まって10年後、フランクリン夫人が派遣した捜索隊がフランクリンが遭難初期に亡くなったことを伝える記録文書が発見。北極航路を最初に開拓した功労者としてフランクリンを称賛することにより、「カニバリズム」の忌まわしいイメージが消し去られることになった。(実際は、フランクリンの死後にカニバリズムに陥らざるを得なかった隊員たちが北極航路を開拓した)
学生の頃は社会史が好きだったせいか、メディアに表れてくる当時の世論が手に取るようにわかって面白かった。特に政府が探検活動を中止した後も、フランクリン夫人が私財を投じて船と隊員を雇い、何度も捜索隊を派遣した執念が凄い。

極北の迷宮―北極探検とヴィクトリア朝文化極北の迷宮―北極探検とヴィクトリア朝文化
(2000/11/30)
谷田 博幸 (著)

(文字数が多くて情報が多いのはいいけど、1頁に改行がゼロまたは1回しかない頁も多く、延々と文章が続くので結構目が疲れる。)


角幡唯介『アグルーカの行方』の文庫版解説で紹介されていたウィリアム・T.ヴォルマン『ザ・ライフルズ』。市立図書館に所蔵していたので読んでみたけど、イヌイットとフランクリン探検隊の話が脈絡なく(と思える)交錯して、理解不能。最後までパラパラ頁をめくってもフランクリン探検隊の話が少ないし、途中で頭が読むのを拒否して挫折した。

tag : ダン・シモンズ

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【新譜情報】アンジェラ・ヒューイット『ラヴ・ソングズ』 
7月発売予定のアンジェラ・ヒューイットの新譜は『ラヴ・ソングズ~ピアノ・トランスクリプション集』。
ヒューイットは特に好きなピアニストではないので普段は全然聴かないけど、この新譜は好きな曲が多くて試聴してみた。
「献呈」と「オルフェオの嘆きと精霊の踊り」はルバートのかけ方(テンポの揺れ具合)が私の感覚とは合わなくて、少し忙しなくて落ち着きがないように聴こえる。
選曲自体は好きだし、もう少し試聴してみて全曲聴きたくなれば、CD買うかもしれない。

ヒューイット/ラヴ・ソングズ~ピアノ・トランスクリプション集"ヒューイット/ラヴ・ソングズ~ピアノ・トランスクリプション集
(2021年07月02日)
アンジェラ・ヒューイット

試聴ファイル

<収録曲>
シューマン/リスト編:献呈、春の夜、セレナード
シューマン/ゴドフスキ編:あなたは花のようだ
シューベルト/ジェラルド・ムーア編:音楽に寄せて
R.シュトラウス/ギーゼキング編:心地良い幻影
R.シュトラウス/レーガー編:朝、あした!、夜の逍遙、万霊節、ツェツィーリエ
グルック/ケンプ編:オルフェオの嘆きと精霊の踊り
シュテルツェル/ヒューイット編:あなたが私とともにいるのなら
マーラー/ヒューイット編:アダージェット:非常に遅く(交響曲第5番嬰ハ短調より)
グリーグ:最後の春、グリーグ:あなたを愛しています
フォーレ/グレインジャー編:ネル
ファリャ/ハルフテル編:7つのスペイン民謡より第3番「アストゥリアス地方の歌」、第4番「ホタ」、「子守歌」、第6番「歌」、第7番「ポロ」
ガーシュウィン/グレインジャー編:ラヴ・ウォークト・イン
グレインジャー/ジロティ編:ロンドンデリーの歌


収録曲のなかで一番好きなのは、シューマン歌曲集《ミルテの花》の第一曲「献呈」。
有名なのはリスト編曲版。フィオレンティーノが編曲した「献呈」は、ゆっくりしたテンポで語りかけるようなフレージングが優しく、愛情がにじみ出てくるようなとても素敵な編曲。

Sergio Fiorentino plays Schumann "Widmung"


キーシンの弾くリスト編曲版。最初と終わりのキーシンの柔らかいタッチとフレージングが優しくてこちらも素敵。後半は重音が多く、リストらしい華やかで堂々とした編曲。
Evgeny Kissin - Schumann-Liszt - Widmung (Liebeslied)



その次に好きなのは、レーガー編曲によるシュトラウス歌曲の”Morgen!”。歌曲ならピオー&マノフ。

4 Lieder, Op. 27, TrV 170: No. 4. Morgen (arr. M. Reger for piano)



ケンプが編曲したグルックの「オルフェオの嘆き」。哀感と繊細さに満ちた美しい曲。

Gluck: Orfeo ed Euridice (Orphée et Eurydice) - Arranged By Wilhelm Kempff - La Plainte d'Orphée (Ballet) · Wilhelm Kempff


tag : ヒューイット

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la base まな板
2007年に購入した 「la base」のまな板。5250円と高かったけど、四角い形とゴムの木でできているのが良さそうだった。
使い始めてしばらくすると、黒いカビみたいなのがついてきたし、キッチンの作業スペースが狭くて邪魔になので、使わなくなってしまった。100円の木のまな板もためしに使ったことがあり、表面がすぐに深い傷だらけになって、力が入るカボチャ丸ごとカット専用にしている。結局、元に戻って、今は貝印のプラスチック板を使っている。

ラバーゼ la base 有元葉子 まな板 26cmラバーゼ la base 有元葉子 まな板 26cm

ラバーゼ(La Base)




最近、包丁を新調したせいか、プラスチックまな板の刃当たりの硬さが気になってきた。刃が摩耗しやすいプラスチック製よりも、やっぱり木のまな板を使いたくなってきた。
しまい込んでいた「a base」のまな板をまたひっぱりだして使ってみると、刃が当たった時の弾力のある柔らかさがとても良い感じ。26cmの正方形で多少邪魔にはなるけど、切った食材がこぼれ落ちにくく、厚さ2.5cmと普通のまな板の倍以上厚みでずっしりした安定感がある。正方形なので少量の手作りパンや団子なら捏ね台に使えないこともない。
このまな板に変えてから、シャープナーで研ぐ頻度がかなり減っているから、プラスチックまな板よりも刃が減りにくい利点が実感できる。

お手入は、楕円形のタワシで、塩をまぶしてゴシゴシ洗ってから、セルローススポンジで水分をふき取って、まな板スタンドに立てておけば、結構乾くのも早い。ただし、かなり重くて、洗う時に片手で持つと腕が疲れる。
毎日夕食後にゴシゴシ洗っていたら、黒っぽくカビていた部分がかなり薄くなってきた。どうやらタワシで擦りとられたらしい。このまま続ければ、黒ずみがほとんどなくなるかも。

購入時には表面を削るメンテナンスサービスがあったのに、今は無くなっているという。これは残念。メンテナンスサービスがないと、まな板にしては高すぎる。できるだけカビないように大事に使わないといけない。
次にまな板を買う時はもう少し安くて小ぶりで、表面を削ってくれるサービスのあるもの買う、ずっと安い木製まな板を何度も買い換える、木のように刃当たりの柔らかいプラスチック製まな板を買う、のどれかにしたい。

小菅優ピアノ・リサイタル「Four Elements Vol.4 Earth」 (ダイジェスト映像)
2020年11月27日に東京オペラシティ コンサートホールで行ったリサイタル「Four Elements Vol.4 Earth」のダイジェスト映像。

Yu Kosuge - Chopin, Fujikura, Schubert | Piano Recital Four Elements Vol.4 "Earth" 2020

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58 | 第1楽章(抜粋)、第2楽章
藤倉 大:Akiko’s Diary
シューベルト:幻想曲 ハ長調 D760 「さすらい人」| 第4楽章


小菅優ピアノ・リサイタル「Four Elements Vol.4 Earth」(2020年11月25日住友生命いずみホール)のダイジェスト映像。

Yu Kosuge Piano Recital / Four Elements Vol.4 Earth[Digest]/ Sumitomolife Izumi Hall

ベートーヴェン/バレエ「森の乙女」のロシア舞曲の主題による変奏曲 WoO 71
シューベルト/幻想曲 ハ長調 D760 「さすらい人」 第1楽章
ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ 「1905年10月1日・街頭にて」 第1楽章 予感
藤倉 大/Akiko’s Diary

藤倉 大の《Akiko’s Diary》は、好きなタイプの曲ではないけど、シンプルな旋律とピアノの響きが静謐で美しい。
プログラムは好きな曲がほとんど。特に好きなのは、ヤナーチェクとショパンのピアノ・ソナタ。CDは今年録音予定なので、リリースされたらすぐに聴きたい。


<関連情報>
ピアノ・リサイタルシリーズFour Elements 最終回 小菅優が現在の胸中を語る

tag : 小菅優

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角幡唯介『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』
極地探検の歴史を調べていると、探検隊の遭難事故が何度も起こっている。一番知られているのは、イギリスのロバート・スコット海軍大佐率いる南極点到達探検隊の死亡事故。ノルウェーのアムンセンに先を越された南極点到達後の帰還途上、壊血病や食料・燃料が尽きて隊員5名が全員死亡した。
スコットの日記や遺書がテントの中に残されていたし、南極点へ向かわなかった隊員も多数いるので、スコットたちが死亡した要因や経緯は明らかになっている。

北極探検では、イギリスのサー・ジョン・フランクリン率いる北西航路開拓を目的とする探検隊129人全員が行方不明となり全滅したと見なされているが、未だに多くの謎に包まれている。生存者が全く見つからないうえに、探検隊が残した文書がほとんどない。何度も派遣された捜索隊や極地探検家たちが発見した物的証拠(隊員の墓、遺体、遺品、ボート、食料、等)とイヌイットの証言で、大体の経緯はわかってきたといっても、未解明な点は多い。

いくつか読んだ北極や南極の探検話(南極のスコットとシャクルトン、北極のフランクリンなど)では、イギリスの探検隊は食料不足や壊血病で死んだり、死ぬ手間だったりすることが度々起こっている。
逆にノルウェーのアムンセンは、イヌイットの生活から犬ぞりやアザラシの毛皮など極地を生き残る方法を学び、食料や犬そりソリ・スキーなどを使うなど準備周到で、さらに困難なルートを上手く避けることができた運の良さもあって、北極でも南極でも悲惨な探検行にはならなかった。

極地探検史上最悪の悲劇。フランクリン隊全滅の謎?(1)~(8)[リアルライブ]
19世紀に北極海に沈んだ探検船の内部が明らかに “世紀の大惨事”、フランクリン隊の謎の解明に一歩前進[National Geographic]
19世紀に消えた北極探検船テラー号ついに発見 意外にも大部分が無傷、“世紀の大惨事”フランクリン隊のもう1隻[National Geographic]
無傷の沈没船 19世紀悲劇の北極探検隊の謎に光明?[日経電子版]


探検家でノンフィクション作家でもある角幡唯介の『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』は、フランクリン探検隊の隊員たちが北極に残した足取りを追って、実際にほぼ同じルートを北極に詳しい探検家と2人で辿った体験記。

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫)  アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極 (集英社文庫)
(2014/9/19)
角幡 唯介 (著)

単行本はカラー写真が大きくて見やすい。文庫本の写真はモノクロ印刷で小さくて不鮮明。

第35回講談社ノンフィクション賞受賞作品『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊がみた北極』(角幡唯介著)より(『アグルーカの行方』第1章より抜粋)

【連載】北西航路~探検家が魅せられた氷の迷宮第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検(角幡唯介、ノンフィクション作家・探検家)[ナショナルジオグラフィック]
第1回 ランカスター海峡――神話となった北西航路探検
第2回 キングウイリアム島――地図のない世界
第3回 グレートフィッシュ川――クロージャーの決断


本書では、フランクリン探検隊の足取りを文献と論理で説明・推理する部分と著者の体験を記した部分では、文体と時間の流れ(感覚)が違う。探検隊について書いている部分が全体の半分かそれ以上はあり、ミステリーの謎解きと同じ知的な面白さがある。
著者の探検家としての経験と視点から、既存の文献や証言に加えて、実際に体験している気候や目前の情景をもとに、分析・推理していく。当時の地図情報や事実として知られていた情報から探検隊の行動を論理的に説明したり、確実な情報がない部分は推理したりしているので、探検隊が選択したルートや残されている痕跡の理由がわかる。
特に良いところは、翻訳されていない資料が多数引用されていること。なかでも頻繁に引用されているアメリカの探検家チャールズ・フランシス・ホールの探検記”Narrative of the Second Arctic Expedition Made by Charles F. Hall(Edited by J. E. Nourse”には、一般的にまとめられている既存情報とは違ったフランクリン探検隊の道のりが想像できる。

「アグルーカ」とはイヌイット語で「大股で歩く男」という意味。イヌイットから「アグルーカ」と呼ばれていた探検家は何人かいるので、イヌイットの目撃証言で出てくる「アグルーカ」は自分だと主張する探検家もいる。著者はエンバス号艦長で探検隊副隊長、そして、フランクリンの死後は隊長として、2隻の探検船(エンバス号とテラー号)を放棄し、陸路でカナダを目指したフランシス・クロージャーではないかと推測している。
1980年代にある研究チームが墓に埋葬されている隊員の遺体を調査した結果、多量の鉛を検出。缶詰のはんだ付けに使用された鉛が中身に混入したのが原因で鉛中毒がかかっていたと見なされており、本書でもそう書いている。現在では船の真水供給装置(蒸留設備)が原因という説もある。
著者が現地で知り合った住民との会話から、過去に訪れた探検隊が先住民3名を殺したため、フランクリン探検隊の一部は同じ先住民の部族に殺されたという可能性も書かれている。

もともと著者の探検自体の体験記を読むのが目的ではなかったけど、その部分も面白い。食べものに関連する話(狩り、釣り、ペミカン、イタリアの保存食、売店で買ったお菓子類とか)、高さ数メートルのら乱氷帯では平坦な道がなく、ソリを持ち上げては降ろす作業を繰り返していく。乱氷帯の写真が載っているので、それを乗り越えていく苦労が察せられる。

兎、狐、雷鳥、鵞鳥(がちょう)、雁、白熊、麝香牛(ジャコウウシ)などの動物と遭遇する。食料も乏しくなったので、兎や雁、麝香牛、レイクトラウトを狩猟したり、鳥の卵(鵞鳥、雷鳥、シロフクロウ、シロハラトウゾクカモメ)を見つけたりして、食べていた。鵞鳥の卵は黄桃みたいな黄身で濃厚な味で凄く美味しかったという。
そのなかで最も強烈で忘れがたい話なのは、母牛のジャコウウシを猟銃で仕留めた場面。子牛がいるのが見えた時にはもう引き金を引く指が止まらなかった。死んだ母牛を解体してから、肉を持ってテントへ戻る途中、子牛がずっと後をついてきて、ビエーッ、ビエーッ!と叫び続ける。

「この小さな命は明らかに自分がこのままでは死ぬことを本能的に察知していた。そしてその絶望的な状態をもたらした私たちに怒りの声を上げていた。なぜ母親を殺したのだ、と私たちを糾弾していた。なぜ自分を置いていくのだ、なぜ連れて行ってくれないのか、このままでは死んでしまうではないか、無責任ではないか、そう私たちを罵っていた。」

テントへ戻っても子牛は去らず、叫び続ける。このまま放っておいても、餓死するか狐や狼に食べられるだけなので、楽に死なせるために子牛も射殺し、解体した親牛の側へ置いてきた。
巨大なジャコウウシの肉は50kgはあり、数日かけても食べきれないほど多い。食料が乏しく飢えていた彼らの喰いっぷりが豪快。

このノンフィクションが面白いのは、探検家だけしかできない追体験と探検家としての視点に基づいて、フランクリン探検隊にまつわる謎解きをしていること。
過去の探検行の足取りを追うという同じ手法で書いたノンフィクション『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』『雪男は向こうからやって来た』も読んでみた。探検行としては、『雪男は向こうからやって来た』よりも『空白の五マイル』の方が面白いと思ったけど、両方とも『アグルーカの行方』に比べると、謎解きの要素と体験記の面白さが少なく感じたのと、”雪男”や”秘境の滝”探しのテーマ自体に興味が持てなかった。


<北極と南極の違い>
北極探検が航路開拓で、南極探検が南極点到達が目的だったのを知り、そもそも北極と南極の違いが全然分かっていなかったのに気がついた。北極の中心は海で南極は大きな大陸。”北極大陸”は存在していないし、そういえばマクリーンの小説『北極基地/潜航作戦』でも、イギリスの気象観測(実は軍用レーダー基地)「浮氷基地」だったのを思い出した。
北極と南極の違いとは?極地と呼ばれる地域の特徴
こんなに違う南極と北極
-南極には地球上の9割の氷があって、北極は1割くらい。北極よりも南極の方が寒い。
-南極はもともとは無人の大陸。北極には先住民(エスキモー、イヌイット)が昔から住んでいた。
-南極大陸には数カ国の基地があるが「領土」ではない。(1959年の南極条約)
-北極とは、北緯66度33分より北に位置する範囲で”北極圏”とその周辺の北極海のこと。北アメリカ大陸、ユーラーシア大陸、グリーンランドなどの大きな島国の一部で、アメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク (グリーンランド )、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの計8ヶ国の領土がある。


<荻田泰永オリジナル「北極チョコ」>
北極で食べていた「北極チョコ」のお試し用少量レシピ。
北極男直伝!マイナス40℃でも凍らないチョコレシピ

チョコレートの重量30%分のオイルに加えて、さらに、きなこ、すりごま、ナッツにレーズンも投入。さすがに極地行動食だけあって、高カロリーで糖質も結構多い。普段食べるなら、一口サイズで10gくらいにしておくほうが無難。

「北極チョコ」は、寒くなるとレンガ色のブロックみたいに固くなり、歯を折るのではないかと怖れるほどに固い。
北極に来ると必ずこのチョコを食べている荻田曰く、「そのうち疲れてくると、このチョコがうまくなるんだ」。
チョコ嫌いの著者は、どうも彼とは味覚や顎・歯の硬さが違うのかもしれないと疑っていた。しかし、旅が始まってから疲労が蓄積していくと、それが美味しく感じられるようになって、休憩時に真っ先に食べるのがこのチョコになっていた。
「相変わらず固くて食べにくかったが、ビーバーのように前歯でがりがり削ると、なんともいえないとろりとした上質な甘みが口のなかに広がった」。
「ついにこのチョコが一番うまくなった。体が本当に消耗している証拠だ」と荻田。

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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