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エッシェンバッハ『モーツァルト/ピアノ・ソナタ全集』
エッシェンバッハの弾くモーツァルトのピアノ・ソナタに強く魅かれるものを感じたので、珍しくもモーツァルトのCDを買う気になって、早速試聴。
分売盤を1枚買うつもりだったけれど、全集盤もついでに試聴していると、子供の頃によく練習した曲がいくつも入っている。
数十年昔のことがとても懐かしく思えてしまったせいか、つい全集盤の方を買ってしまった。

エッシェンバッハのピアノ・ソナタ全集は、2種類の輸入盤が出ている。
私が買ったのは、ピアノ鍵盤のジャケットデザインが気に入った下側の全集。
ちょっと残念なのは、コンパクトな紙製BOXではなくて、3枚組プラケースが2つセットされていて、嵩張るし、置き場所に困ること。
それでも、プラケースのジャケットもブックレットも、同じピアノ鍵盤のイラストだし、まあいいか...。

Mozart: The Piano SonatasMozart: The Piano Sonatas
(2000/10/10)
Christoph Eschenbach

試聴ファイル


Mozart;the Piano SonatasMozart;the Piano Sonatas
(1999/10/1)
Christoph Eschenbach

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試聴ファイルやYoutubeで聴く以上に、ステレオで聴くと、硬質で斬れ味のよいタッチと、甘さを感じさせない感情表現がより鮮やかに聴こえるので、これ以上ないというくらい私の波長にぴったり。
ペダルの使い方やトリルの弾き方とかも、耳が自然と引き付けられるものがある。
音の響きもとても心地良くて、エッシェンバッハのモーツァルトなら、どの曲でも、何度でも聴けてしまう。

全集盤を買って正解だったのは、エッシェンバッハの演奏ということもあるせいか、気にいった曲が意外なくらい多かったこと。
特に、モーツァルトなら短調の曲の方がまだしも好きなので(ピアノ協奏曲第20番や交響曲第40番とか)、《第14番ハ短調K 457》は《第8番イ短調K 310》の次に好きなソナタ。決然とした曲想の第1楽章がとっても気にいってしまった。(第2楽章にはほとんど魅かれないけど)

Eschenbach - Mozart, Piano Sonata K.457 in C minor - I Allegro molto


ブックレットの解説では、”When Eschenbach plays Mozart, the curtain dos not go up on a costume drama ......... , but on a real-life world of real-life passions, real-life pleasure, real-life pain and joys.”と書いてある。
たしかに、モーツァルトに限らず、エッシェンバッハのベートーヴェン、シューマン、ショパンの演奏を聴いても、生々しい感情を感じてしまう。

この全集盤には、《幻想曲ハ短調 K.475》が収録されている。
冒頭から、重たく暗く、凄みと不気味さが漂っている。”幻想”というよりは、”悪夢”と言ったほうがよいかも。
エッシェンバッハの演奏を聴いてよく感じるのは、曲想が変わるときは、映画のスクリーンショットみたいに、場面が次々と切り替わっていく。
明暗異なる曲想の部分が、互いに引き摺ることなく展開していくところは、ジキルとハイドのような分裂した二面性のようなイメージ。
それも、テンポはごく普通で、極端に変わった風に弾いているわけではないので、余計に怖い。

長調の曲のなかで特に好きな曲は、《第12番ヘ長調K.332》と《第17番ニ長調K 576》。
第12番の冒頭のフレーズを聴いて、そういえばピアノのレッスンでも練習していたことがあるのを思い出した。
ヘ長調といえども、かなり短調的で力強くも陰翳が濃いところが、第8番や第14番とちょっと似ていて、好きなのかもしれない。

第17番は聴いた記憶があまりないので、身構えることなく聴いていたら、第1楽章は軽快なタッチでカッコウの鳴き声(?)みたいな音型が面白くて、細やかな情感で品も良くて可愛らしい。(それでも、ときとしてガラス細工のような脆さは感じるけれど)
第2楽章Adagioは、音色は綺麗で可愛らしくて、色調も明るいのに、とてももの悲しくて淋しくて、涙が滴り落ちてくるよう。
この寂寥感のおかげで、続く第3楽章を聴いていても、暗雲がさっと消えたように晴れやかで爽やかなのに、透き通るような哀感が漂っているようで、顔で笑って心で泣いて...みたいに聴こえてきてしまう。(ベートーヴェンの《ピアノソナタ第31番》のエンディング部分を聴いたときも同じように感じたし。)

中庸なテンポと奇をてらうことないアーティキュレーションで弾いているように聴こえても、ベートーヴェンやシューマンと同じくモーツァルトも、エッシェンバッハ独特の孤独感が漂っていた。

Eschenbach - Mozart, Piano Sonata K.576 in D Major - II Adagio



Eschenbach - Mozart, Piano Sonata K.576 in D Major - III Allegretto


tag : モーツァルト エッシェンバッハ

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モーツァルト
yoshimiさんはモーツァルトは苦手なのかと思い込んでいたので、
なんだかとても嬉しい気分です。
「顔で笑って心で泣いて」ぴったりの表現ですね。
モーツァルトのピアノソナタでは、わたしはそう感じる曲が多いです。
エッシェンバッハ、いいですね…。
欲しくなってしまいます。
異質なモーツァルト
RainLight様、こんにちは。

やっぱりモーツァルトは(今でも)好きな作曲家とはいえませんが、昔から好きな曲はいくつかありましたね。
でも、CDを買うとなると、よほど好きな曲と演奏でないと、なかなか手が出ません..。
ピリス、内田光子、ケンプ、ゼルキン、ブレンデル、etcと、名盤は数曲は聴いていますが、持っているCDは少ないです。
特に気に入って買ったのは、ツィンマーマンのヴァイオリンソナタ全集。曲自体が好きというわけではなく、明晰なロンクウィッヒのピアノが好きです。
エッシェンバッハの場合は、曲によっては、モーツァルトにしてはかなり異質な暗さ(内面的に閉ざされた世界の孤独感みたいなもの)を私は感じるので、そこに魅かれます。
こんにちは。

モーツァルトのソナタは私もあまり聴かないですね。ピアノ協奏曲は好きなんですが、ソナタに関してはやはりベートーヴェンの気品、ドラマ性、激しさに惹かれます。ハイドンのソナタも聴くとほっとする感じで、これも好きです。

一応、全集はペルルミュテールのものを持っているんですが、さすがに録音が悪くて観賞用としては辛いものがあります。エッシェンバッハは特に好きなピアニストではないのですが、彼のツェルニーは面白かったです。プロならこういう風に弾く(弾ける)んですね、という意味では面白く聴けますが、まあ、上手すぎてアマチュアの参考にはならないと思いますね(笑)。

最近は指揮活動に精を出しているようですが、バレンボイムといい、アシュケナージといい、止めた方がいいのに…と常々思っています。もっとも、エッシェンバッハの場合はピアノへの情熱は薄く、指揮者になるためにまずはピアニストとして名声を得ることにした、と本人は語っているようですので、他の二人とはちょっと違いますね。

それにしても、ヘブラー、ピリス、内田さんなど、定評あるソナタ全集は女流ピアニストの演奏が多いですね。モーツァルトは女性向きなのかな?
 
かかど様、こんばんは。

エッシェンバッハのツェルニーは聴いたことはありませんが、ブルグミュラーは子供の頃に練習するのが好きだったこともあって、試聴だけはしました。
予想通りエッシェンバッハらしく、一見優しげではありますが、どことなく暗~い翳りや淋しさが漂っていて、こういう演奏を子供のお手本にしても良いのかしらん?と思いました。
ツェルニーの方は、メカニカルな曲が多いので、それほど暗くもないのかもしれませんが。

言葉を失った子供時代のエッシェンバッハを救ったのはピアノだったせいか、演奏を聴いていると彼の内面を聴いているように感じます。
子供時代にしてすでに指揮者になると決意した人ですから、念願がかなってよかったのではないでしょうか。

モーツァルトは、メカニカル面ではパワーが必要ないので女性向きなのかもしれませんが、譜面がシンプルでもタッチや表現面では、男性・女性に関わらず音楽的に上手く弾くのはそう簡単ではないでしょうね。
パワフルで技巧鮮やかな曲を弾き尽した後で、晩年近くになってモーツァルトに取り組む男性ピアニストが何人もいるのがわかる気がします。
yoshimiさま 初めまして

記事を拝見いたしまして嬉しくなり書き込みさせていただきました。自分以外にもエッシェンバッハのモーツァルトをお好きな方がいることを確認し、とても喜ばしい気分です。

私自身は、何年もエッシェンバッハのピアノソナタ第12番(1967年)を初めとするアルバムを聴いてきました。

ケレン味がなく、内省的で、そして明るい伸びやかさもあり、自分の中では最も理想的なモーツァルト作品の演奏スタイルではないかと思っています。

これからもブログを続けてください。
 
alpha_c 様、こんにちは。
ご訪問とコメント、どうもありがとうございます。

エッシェンバッハの演奏は端正で美しいですね。
私の場合は、(このモーツァルトに限りませんが)美しさと明るさの中に潜む陰りや孤独感に惹かれます。
モーツァルトの音楽を通して、エッシェンバッハの心の内を垣間見ている気がします。
こういうモーツァルトを弾く人はいないのではないでしょうか。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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