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グルック/歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》より ~ Melodie (ピアノ独奏編曲版,ヴァイオリン&ピアノ編曲版)
今年最後の曲は、とても清楚で美しいグルック《オルフェオとエウリディーチェ》の<Melodie>。
原曲は、有名な歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》のなかにある<精霊たちの踊り>。
この曲の中間部に出てくる短調の叙情的な旋律が、ヴァイオリン&ピアノ、フルート&ピアノ、ピアノソロ用に編曲されたのがこの<Melodie>。さらにギター編曲版というのもある。

ピアノ独奏版は、ケンプ、ズカンバーティ、シロティ、チェイシンズ(これは初耳)の編曲版があるが、一番良く演奏されているのは、ズカンバーティ版。
ケンプ編曲版はケンプの自作自演盤とビレット、ラエカッリオなどの録音がある。
さらにズカンバーティ版を編曲したラフマニノフ編曲版まである。
それほど編曲意欲をそそるのも、一度聴けばよくわかるほどに、清楚でやや物哀しそうな旋律がとっても綺麗。
ピアニストのアンコールピースにとてもよい曲だと思うけれど、なぜか実演ではあまりお目にかからない。

楽譜が入手できるのはズカンバーティのフルート&ピアノ編曲版。
ピアノ独奏版は米国とEUでパブリックドメインになっていないので、IMSLPでは入手不可。
それほど込み入った編曲ではないので、フルート版の方をもとに少し変えれば、ピアノソロでもちゃんと弾ける。
楽譜ダウンロード(IMSLP)


Youtubeに登録されている音源は、ピアノかヴァイオリン用の編曲版が多い。比較的音の良いものを探してみると、いろんな編曲版の演奏があって、聴き比べができるのが面白い。
好きなのは、ピアノ版がラフマニノフの演奏、ヴァイオリンならハイフェッツ。元からとても叙情的な曲なので、やや抑制的に弾いた方が気品があって叙情感も甘くなりすぎなくて奥深い感じがするので。

ピアノ独奏[編曲:ズカンバーティ](ピアノ:キーシン)
他のピアニストに比べてテンポはかなりゆっくり。丁寧なタッチで弾いているので、一粒一粒の音が表情豊かに聴こえる。全体的に高音域で音が鳴っているせいか、とても切々とした叙情感があって清らかな感じ。(でも、この映像を見ていると、独特の指の動きと手の形の方がなぜかとても気になってしまう。)

ピアノ独奏[編曲:ズカンバーティ/ラフマニノフ](ピアノ:フレイレ)
ズカンバーティ版より若干左手の和音の音が多く、内声部も追加されているように聴こえる。(楽譜がないので正確なところはよくわかりませんが)
フレイレの弾き方だと、テンポが速く、ルバートもあちこちにかかり、特に左手の伴奏の音が大きめでリズムも揺れるのがとっても気になってしまう。キーシンの演奏を聴いた後だと、しっとりした叙情感がやや薄く感じるかも。

ピアノ独奏[編曲:ズカンバーティ/ラフマニノフ?](ピアノ:ラフマニノフ)
音が古めかしいけれど、ラフマニノフはこの曲を好んで演奏していたらしい。
フレイレとテンポが大体同じくらいだけれど、左手の伴奏がずっと柔らかな響きで控えめに聴こえる。ルバートや強弱の揺れも結構あるけれど、なぜかフレイレよりもさらっと弾いている感じがする。抑制された情感がにじみ出るような落ち着きと品のよさがあって、とっても良い感じ。

ピアノ独奏[編曲:シロティ](ピアノ:?)
左手の伴奏は、低音~中音域に厚みがあって、音型がわりと単純なので、ちょっとどっしりして四角四面な感じがする。右手の旋律の繊細さが、左手伴奏の響きの厚みと重たさでややかき消されているような...。

ヴァイオリン&ピアノ版[編曲:ハイフェッツ](ヴァイオリン:ハイフェッツ、ピアノ:ベイ)
これも音は古いけれど、きりっと引き締まった表現でややストイックな感じもする叙情感が清らか。凛とした気品漂う美しさがあって、この曲にとっても良く似合っている。
ハイフェッツはバリバリと快速で弾いた録音をいくつか聴いたことがあるだけだったけれど、こういう風にも弾けるのですね。

ヴァイオリン&ピアノ版[編曲:クライスラー](ヴァイオリン:西崎崇子、ピアノ:ハーデン)
さすがに録音の音が良いので、ヴァイオリンの高音で弾く旋律は響きがとても綺麗。かなり叙情たっぷりに歌っているような感じ。


ケンプとチェイシンズの編曲版は、まともな演奏映像がないので、これはCDの試聴音源で。

ピアノ独奏[編曲:ケンプ](ピアノ:ケンプ)
ケンプ:バッハ作品集、編曲集(バッハ、ヘンデル、グルック)(ピアノ:ケンプ)[トラック:27のLa Plainte d'Orphée (Orpheus' Lament) ]
ケンプのレガートの響きはとても柔らかで温もりがあり、透明感と煌きの両方が備わっていていつもながらうっとりする。
この煌きとほとんどインテンポで淡々と弾いているせいか、物哀しい雰囲気があまりなくて、逆に暖かさと明るさが差し込んでいる感じがするのが、他の演奏とは違うところ。

ピアノ独奏[編曲:チェイシンズ](ピアノ:ダニエル・ベルマン)
Rarities of Piano Music at Schloss vor Husum, 1989 Festival
チェイシンズは1903年生まれの作曲家。この編曲は、左手の和音の厚みが増して、アルペッジョも使われているので、やや華やかな感じのする部分もあり。終盤近くはフォルテで結構盛り上がる。

tag : グルック ケンプ キーシン クライスラー ジロティ

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スティーヴン・ハフ ~ ツォンタキス/ゴースト・ヴァリエーションズ
スティーヴン・ハフの現代アメリカの変奏曲をテーマにしたアルバム『New York Variations』から、ツォンタキスの《Ghost Variaions》。
このハフの録音が世界初録音となる珍しい曲。

1951年生まれのツォンタキスの日本語情報はほとんどなく、HMVの紹介文だと”権威あるグロマイヤー賞、チャールズ・アイヴズ・リヴィング賞”を受賞している作曲家。
ツォンタキスのピアノ協奏曲はハフに献呈され、2005年にハフが初演、録音もリリースされている。
ブックレットにはハフ自身による解説が載っていて、特にこの《Ghost Variaions》の作品解説は楽曲構造に関して数頁に渡って詳しく書かれている。ハフは作曲家でもあるので作品解説はいつも詳しく、見知らぬ曲を聴くときはとても参考になる。
ブックレットの解説では、1980年代の調性の再発見/回帰へのトレンドのなかで、ツォンタキスは過去の慣れ親しまれている旋律と調和的な和声のなかから、独自の個性的な和声を開拓していく方向へ向かった。代表作は弦楽四重奏曲第4番で、それ以降書かれた作品の中ではこの《Ghost Variaions》が最も重要な作品。

New York VariationsNew York Variations
(1998/05/12)
Stephen Hough (Piano)

試聴する(hyperionサイト)



《ゴースト・ヴァリエーションズ/Ghost Variaions》(1991)

ハフの解説によれば、<ゴースト>というタイトルが象徴しているのは、スピリチュアルなもの、記憶、夢といった世界。モーツァルトのピアノ協奏曲第22番の第3楽章の主題に基づいた伝統的な変奏が現れるところは、まるで劇中劇のよう。変奏曲という形式性は消えていて、変奏ではなくむしろメタモルフォーゼン(変容)というアイデアの世界。

和声的にはやや不協和的でファンタスティックな響きがとてもモダン。ハフのシャープなタッチとクリアな響きが美しく映えている。
特に、第1楽章でモーツァルトのピアノ協奏曲の主題が登場して以降の展開が面白い。第3楽章はその主題旋律が変奏というよりも流麗に変容し和声の響きも幻想的でとても美しくて、この曲(というかアルバム)の中で一番印象的で気に入った曲。


第1楽章 Ad Libitum
冒頭から幻想的な響きは美しいが、主題がどうなっているのかつかみどころがない曲。
旋律に歌謡性はあまりないのに、かなり内省的な雰囲気が強く感じられて、モノローグを音で聴かされているような気がする。

終盤近く(9m20s頃)に、不協和音にまじって突如エコーするように侵入してくるのはモーツァルトのピアノコンチェルトの旋律の一部(たぶん)。やがて、ピアノ協奏曲第22番の第3楽章の主題だけが明瞭に現れてくるところは、突然ゴースト(幽霊)が現れて徘徊しているような奇妙さ。
普段聴いている楽しげで健康的なこの旋律が、ここではデ・ジャ・ヴを伴って、どこかしら異世界の窓から流れ込んできたような不思議な感覚がする。
初めは、原曲どおり調和的な明るく楽しいモーツァルトの旋律が、徐々に不協和音に侵食されていき、まるでシュニトケ風。でも、シュニトケよりも不協和音の響きは調和的な方で、響きが互いに融合していくので、パロディ的で調子はずれのような感じがしないというところが、シュニトケとは違っている。

第2楽章 Scherzo 1
冒頭から1/3くらいは、変則的なリズムが流れたジャズ風の曲。モダンジャズのピアノソロ曲だと言われても全然違和感がない。
終盤は、スローテンポで、モーツァルトの主題の変奏が静かに、やや不和和音混じりに展開されていく。

第3楽章 Scherzo 2
スケルツォというよりタランテラ風。
モーツァルトの主題がリズミカルでシャープな現代的な旋律に変形され、また主題本来の天国的な美しい旋律も交錯し、この曲もとっても不思議な感覚がする。
この単純な主題が、現代的な不協和音の世界と伝統的な調和的な音の世界の間を行き来し、次から次へと姿形と響きを変えていく様は、変奏というよりもメタモルフォーゼンの如く七変化しているような感じ。
あまりにめまぐるしく展開するので、聴いているだけでは構成が良くわからないけれど、なぜか最後までとても面白く聴けてしまう。
特に、不協和音で変奏されていく中を度々突発的に現れるモーツァルトの主題の響きの美しさはとても幻想的。
ガラスのような透明感がヒンヤリと冷たく、遠くからエコーしているような浮遊感がある。これが繰り返し現れてくると、なぜかコラールのように聖的なものが漂っているような気がしてくる。
3楽章中、この楽章が切れ目なく主題が変形されていくところが最も面白く、キラキラと煌くような響きの美しさもとっても印象的。

tag : ツォンタキス スティーヴン・ハフ

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フィッシャー/ミュラー=ショット/ギラード ~ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲
メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は人気のある曲だけあって、録音が多くて選ぶのに結構迷う。

室内楽曲はまずピアニスト、次にヴァイオリニストで選ぶので、いつも聴くのはカヴァコス/デメンガ/パーチェのSONY盤。
演奏自体は良い盤なのに録音がもう一つ。ステレオで聴いていると、ヴァイオリンが一番目立って、ピアノとチェロの音がやや控え目で、ピアノが後方から聴こえて高音がスカスカするので、ちょっとフラストレーションを感じる。
AKGのモニター用ヘッドフォンで聴くと、音がかなり分離されて鮮明になって、高音もずっと綺麗な音がするので、最近はもっぱらヘッドフォンで。

音の良さで選ぶなら、かなり良かったのがフィッシャー/ミュラー=ショット/ギラードのPentatone盤。
残響が少なめで、楽器の音が分かれてほぼ同じ距離から聴こえ、低音・高音とも細部まで明瞭。
演奏は、3人とも(たぶん)20歳代の頃に録音したせいか、若者らしく威勢がよくて切れも良い。メンデルスゾーンの流麗さや優美な叙情感は希薄だけれど、明快で快活なメンデルスゾーンもたまに聴くと新鮮。

Mendelssohn: Piano Trios Nos. 1 & 2 [Hybrid SACD]Mendelssohn: Piano Trios Nos. 1 & 2 [Hybrid SACD]
(2006/07/25)
Julia Fischer (Violin) ,Daniel Müller-Schott (Cello), Jonathan Gilad (piano)

試聴する(米国amazon)


トリオを聴くときはピアノに耳が集中しているので、ピアニストの演奏が好みにあうかどうかで、聴くか聴かないがだいたい決まってしまう。
ギラードはテクニカルなところは全然問題はなく、指回りが良くて音の粒も明瞭。明るい音色でとっても元気なピアノ。
内声部を時々強調した弾き方をするので、それほど浮き上がってこなかった旋律が聴こえてくるところが面白い。
気になるところといえば、フォルテの打鍵が力強く威勢が良いのはいいけれど、ボリュームを上げて聴いているとガンガンとやたら騒々しいし、ペダリングで時々響きが飽和したように不鮮明になることがある。
パネンカの雷みたいなフォルテの打鍵よりはマシとはいえ、ヴァイオリンとチェロよりもピアノが目立っている気もする。
個人的な好みを言うなら、フォルテといっても、もう少し丁寧なタッチで綺麗な音で弾いて欲しいんですが...。といっても、フォルテが騒々しいのを除けば、音質もテクニカルな切れ味もとても良いところは好きなので、時々聴いてます。

tag : メンデルスゾーン

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スティーヴン・ハフ ~ コリリアーノ/エチュード・ファンタジー
コリリアーノの作品のなかで、比較的有名なピアノ作品は、《オスティナートによる幻想曲》、《エチュード・ファンタジー》。独奏曲よりもさらに録音が少ない《ピアノ協奏曲》も、バーバー、リーバーマンと同じくらいに現代アメリカのピアノコンチェルトとしては名曲ではないかと。

《エチュード・ファンタジー》の録音も多くはないが、アメリカ人ピアニストではトッコ、ジャルバート、その他にはシルマー、それにイギリス人のスティーブン・ハフの録音がある。
ハフは今は英国に住んでいるけれど、ニューヨークには若いときに暮らしていたし、米国でのコンサートも多いので、欧州だけでなくアメリカでも結構知られている。評価が高いわりに、なぜか日本ではあまり知られていない。
リーバーマンやツォンタキスなど、アメリカの現代音楽作曲家の作品もレパートリーになっていて録音も何種類かあり、ニューヨークをベースに活動していた作曲家のピアノ独奏曲を収録したアルバムが『New York Variation』。
収録した作曲家は、古いところではコープランド、ベン・ウェーバー、新しいのはコリリアーノとツォンタキス。
いずれもピアノ以外の作品の方で有名な作曲家とはいえ、このピアノ独奏曲は彼らが30歳代に書いた作品でそれぞれ独自の語法がはっきりと現れていて、個性的な曲が詰まった密度の濃いアルバム。

New York VariationsNew York Variations
(1998/05/12)
Stephen Hough (Piano)

試聴する(hyperionサイト)


ハフの現代アメリカ音楽もののアルバムは、これとリーバーマンの作品集の2種類がリリースされている。(ツォンタキスのピアノ協奏曲のアルバムもあるが、これは後期ウィーン楽派とのカップリング)
どちらのジャケットデザインも、都会的な匿名性とNYの混沌とした街を象徴するようなくすんだブラウンをベースに、ぼんやりと輪郭が曖昧なイラスト。Ben Mooreという人が描いた風景画で、このアルバムのイラストは”14th Street"New York"という絵。


コリリアーノ 《エチュード・ファンタジー》

《オスティナートの幻想曲》に比べて、エチュードらしい技巧的な難しさが聴いていてもわかる。それに”ファンタジー”という名のとおり、幻想的な雰囲気が濃厚。
この曲には"強大な形式的統一性と幻惑的な技巧性を両方備えている"とハフが書いている。
第1番の主題が全体を通じて変形されて絶えず現れてくるので、それぞれ独立した5つの練習曲というよりも、『New York Variations』というコンセプトどおりの変奏曲。

ブックレットでは、ハフが解説全体を書いていて、そこにコリリアーノ自身がリスナーのために書いた文章が引用されている。作曲者自らの解説を読むと、曲ごとの主題や構成がどうなっているのかわかるので、いつもながらHyperionのブックレットは充実している。(ただし輸入版は英語なので専門用語が入っていて日本語に置き換えるのにちょっと苦労する)

Etude No.1 For The Left Hand Alone
音はそれほど詰まっていないけれど、とても左手だけで弾いているとは思えないエチュード。 
ハフのタッチは力強いけれどシャープで軽快。芯のしっかりしたクリアな響きが美しく、明晰だけれど幻想的。
冒頭の6つの音列はプロローグのような力強い低音の旋律。雨音が加速するようなオスティナートが入っているのが印象的。
それに続いて、何かが静かに生起していくような密やかで緩い動きの旋律に変わり(コリリアーノは”melodic germ”と言っている)、この2つの旋律が組み合わさって変形しながら展開していく。
リズム、響き、強弱の変化が面白く、終盤に向かって加速して目まぐるしく展開し、最後はピアニシモでゆっくりと半音階で下降し、アタッカのように第2番につながっていく。

Etude No.2 Legato
ほとんど弱音域で弾かれるスローテンポの密やかな曲。ぽつん、ぽつんと、間隔をあけて水滴が落ちるようなイメージ。
対位法が使われているが、コリリアーノによると、交錯する声部を明瞭にすることと同時に響きを持続させることが大事だそう。

Etude No.3 Fifths To Thirds
曲集中最も技巧的に華やかな曲。中央に見せ場をもってきた曲順で、この曲が一番記憶に残っている。
5度(1と5の指)と3度(2と4の指)のシンプルなパターンに基づいて展開していくので、旋律やリズムはわりと単純でわかりやすい。
コリリアーノの解説では、両手がクロスして弾くところが多く、旋律は高音部に現れる、とあり、これは結構弾きづらそうな感じがするけれど、ハフのピアノで聴いている限りは、リズム感も良くスラスラとスピーディで軽快。

Etude No.4 Ornaments
これはオーナメント(装飾音)の練習曲。
第1番の冒頭の主題を、トリル、装飾音符、トレモロ、グリッサンドにルラードと、いろんなパターンで装飾していく。
第3番の初めの4つの音列が展開される。このときに、ルラードが使われているらしく、左手の4つの指で遠くから聞こえてくるドラムのように低音の音群を弾きながら、親指と右手で高速の野性的な(Barbaric)なパッセージを打ち込むのだとコリリアーノが解説。
初めはスローテンポのピアニシモで第2番に似た雰囲気がする。すぐにトリルが始まり装飾音のパターンが増えていくと、テンポが上がりフォルテが続くので、装飾音を綺麗な響きで1音1音を明瞭に弾くのには、かなりの力技がいりそう。
さすがにハフはフォルテの速いパッセージでも、響きも濁らず装飾音も含めて音の輪郭がくっきり。

Etude No.5 Melody
第2番、第4番と同じように、スローテンポで神秘的な響きの旋律。
複数の旋律が並行して弱音の柔らかい響きのなかで流れているところに、主旋律を入れ込みながらも明瞭に聴こえるように弾きわけるという練習曲。
第1番の主題がベースで、少し第2番の旋律も使われている。
終始弱音でテンポも遅く、音もつまっていないので、起伏の少ない平板な曲ではあるけれど、いろんなパターンの旋律の流れがくっきり聴こえてくるので、意外と立体的な感じがする。


 コリリアーノ《ピアノ協奏曲》の記事

tag : コリリアーノ スティーヴン・ハフ

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スーク&カッチェン ~ ブラームス/ヴァイオリンソナタ第2番
ブラームスの3曲あるヴァイオリンソナタのなかで、たぶん一番演奏機会が少ないのがこの第2番。
第1番は《雨の歌》で有名だし、第3番はテンションが高くブラームスらしいほの暗い情熱が漂っていて良く演奏されている。
それに比べると、間に挟まれたこの第2番は、第1番よりもさらに穏やかで優しげ。
3つの楽章とも感情が昂ぶるような盛り上がりが多少はあり、第2楽章はかなり躍動的なところもあるけれど、ブラームスにしては全体的にとても穏やか。これといった作曲時のエピソードもなく、地味といえば地味。
久しぶりに第2番をじっくり聴くと、楽譜を見て構成が良くわかったせいか、以前聴いた時よりも平板な感じが無くなったのが良かった。
特に、長調の合間に時折顔を出す短調の旋律がとても綺麗に聴こえる。力みがなく透明感がある典雅なところは、嵐(第3番)の前の静けさなのかも。

Violin Sonatas: Decca LegendsViolin Sonatas: Decca Legends
(2001/02/06)
Josef Suk, Julius Katchen

試聴ファイル



ヴァイオリンソナタ第2番イ長調 Op.100 (1886年) [五嶋みどりさんの作品解説]

Josef Suk,J.Katchen, Brahms Violin Sonata A major ( 1 )


第1楽章:Allegro amabile
冒頭のピアノ独奏で始まるイ長調の主題が羽毛のように柔らかく優しげ。ほとんど和音だけれど、カッチェンの丸みのあるコロコロとした弱音がとても軽やか。続いて主題を弾くスークのヴァイオリンも、少し線が太めのきりりと引き締まった音が品良く優雅。
第2主題もとてもロマンティックな美しい旋律。長調と短調が交錯するピアノはほとんどクロスリズムで左手は8分音符の三連符の分散和音。途中で感情の横溢したようにピアノが弾く短調の旋律がちらっと顔を出すけれど、すぐに元に戻って穏やかな表情に。
展開部は第1主題を使っていて、強い感情的なフォルテの短調の旋律が続き(ピアノはスタッカートの和音)、最後(137小節目)は、弱音でピアノが弾く旋律がとても哀しげ。
形式はソナタ。初めから終わりまで同じ主題が展開されていくので、楽譜を見ないと構成がちょっとわかりにくい。

第2楽章:Andante tranquillo
冒頭は第1楽章と似た雰囲気の緩徐楽章。この楽章は構成がとてもシンプル。
Andanteの第1主題はゆっくりと優雅な旋律。ピアノの右手とヴァイオリンが対話しながら主題を弾いている。
続いてVivaceの弾むように軽やかで楽しげな第2主題に変わる。ここはピアノが弾く和音や分散和音の多くがでスタッカートだけれど、カッチェンはバタバタすることなくとても軽やか。
この第1主題と第2主題がもう一度繰り返されて、最後は第1主題と第2主題がそれぞれとても短く顔を出して終わる。

第3楽章:Allegretto grazioso (quasi Andante)
やや速めのテンポで、穏やかで少し憂いのある主題をヴァイオリンが弾き、ピアノは柔らかいタッチの和音と分散和音の伴奏。
この楽章はヴァイオリンが旋律を弾くことが多く、ピアノはリズムがいろいろ違った分散和音で伴奏のヴァリエーションを出している。弱音域で弾くことが多いので、全体的には起伏が緩やか。終楽章にしてはぼわ~とした曖昧な雰囲気でかなり大人しい曲。
耳から入る音に比べて、楽譜で見るとピアノパートは結構厄介に見える。音の開きが大きいので鍵盤上をあちこち動きまわり、いろんなパターンのクロスリズムが使われて、弱音やスタッカートで和音や分散和音を軽やかに弾かねばならずと、ピアニスティックに聴こえない曲のわりには、打鍵や響きのコントロールに気を使わないといけない。


 ヴァイオリンソナタ第1番の記事

 ヴァイオリンソナタ第3番の記事

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

tag : スーク カッチェン ブラームス

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カヴァコス&デメンガ&パーチェ ~ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第2番
メンデルスゾーンの2曲あるピアノ三重奏曲のうち、人気があるのが第1番。
どちらか1曲を録音する場合は、必ずといっていいほど第1番だけが録音されて、ブラームスやシューマンとかのピアノトリオとカップリングされている。

初めて第1番と第2番を聴くと、第1番の方が旋律がメロディアスでわかりやすいので、記憶に残りやすい。
第2番は、初めて聴いた時は、旋律の美しさが第1番に比べて弱い感じがして、構成がちょっとわかりにくい印象。
繰り返し聴くと、ストレートにメロディアスになりすぎない品の良さがあり、陰翳が濃く、明暗のコントラストも強くて、ドラマティックな感じがする。
第1楽章の明暗が交錯する流麗さと力強さはベートーヴェン的な雰囲気がするし、第4楽章は格調高く、広がりと清々しさを感じさせるエンディングが素晴らしく良い。
第2番は、主題とその展開が凝っていて、構成もずっと入り組んでいるので、聴けば聴くほど第2番の方が内容的に充実している気がする。
それもそうで、第2番はメンデルスゾーンの生前に出版された最後の室内楽曲なので、構成が緻密で各パートの演奏効果も高く、円熟した作曲技法で書かれた曲だという。
ピアノパートは、もともと華麗な技巧が詰め込まれていた第1番に、さらに輪をかけて技巧的でピアニスティックになっている。

Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2
(2009/02/16)
Leonidas Kavakos (violin), Patrick Demenga (cello), Enrico Pace (piano)

試聴する(米国amazon)


ピアノ三重奏曲第2番 ハ短調 Op.66

第1楽章 Allegro energico con fuoco
密やかに始まる短調の主題は、第1楽章とは違ってほの暗い情熱的な雰囲気が漂っている。
長調の第2主題は伸びやかで開放感があり、この2つの主題が、光と影、緊張と弛緩のコントラストのように、何度も交代する。
展開するにつれ、第1主題に決然とした力強さのある旋律がつけ加わり、第2主題は短調に転調したりと、段々テンションが上がっていく。
主題の展開がわりと凝っていて、聴こえていく旋律のバリエーションが多く、シンプルに展開していく第1番の第1楽章よりもずっと変化に満ちた曲。
ピアノパートは聴くからにアルペジオがとても多く、流麗な流れのなかにも感情が浮き沈んでいくようなうねりを感じさせる。明暗が交錯しながら緊迫感が高まっていくので、メンデルスゾーンにしては彫りの深い曲。


第2楽章 Andante espressivo
第1番ほどにメロディアスな”無言歌”風の旋律ではなく、とても穏やかで柔らかな雰囲気の旋律。
たびたび短調に転調した旋律が挟まれるので、明るい色調のなかにもさらりとした哀感が漂うとても美しい楽章。

第3楽章 Scherzo. Molto allegro quasi presto e vivace
冒頭から小刻みな動きのヴァイオリンとチェロの疾走感のある旋律が小気味良い。この楽章は、弦楽オケのミニチュア版を聴いているような旋律で、第1番よりも疾走感が強い。
メンデルスゾーンの交響曲(たぶん”イタリア”?。長い間聴いていないので記憶が曖昧)にも、こういう無窮動的な旋律があったような気もする。(CDの解説では、≪真夏の夜の夢 序曲≫を連想するようなスケルツォだという。)
この主題は弾むようなリズム感が印象的。25小節目以降は、パーチェのピアノのアクセントを効かせたリズムが、弾力があってとても躍動的。
第1番と同じく、とにかくテンポが速いので、ピアニストの指回りの良さがものをいう。(イストミンの弾き方だと少しゆっくりめで、雰囲気が違っていて面白い。) 
ピアノに限らず、ヴァイオリンとチェロのパートもすこぶる難しいらしい。
再び冒頭主題が再現されて、ピアノがD音を3つ続けてタタタッと弾く短いフレーズが2ヶ所追加されている。音色が全く違う高音なので、とても耳に残る響き。オケのどこかのパートを模したような感じがする。
第2主題は舞曲風(とでもいうのか)でちょっと優雅。テンポがやや落ちてレガートな旋律なので、ほっと一息。再び主題にもどりまた第2主題が現れて、最後は第1番と同じく弦のピッツィカートで、軽やかなトリオで終る。

第4楽章 Finale. Allegro appassionato
冒頭は優雅だけれどやや憂いのある短調の主題。第2主題は、大らかで開放感のある明るい色調の旋律。
第1主題がいろいろ変形しながら、第2主題と交代で頻繁に現れ、第2主題を展開していくところでは第1主題の旋律が並行して現れたり、この楽章は展開がかなり面白い。
この第2主題はどこかで聴いたような気がする。CDの解説によると、直接的には引用してはいないが、良く知られた多くのコラールに似た旋律。(”引用している”と書いている解説が他にもいろいろあるが、引用されているとされるコラールとは旋律が微妙に異なるらしい。)
このコラール風の旋律がクライマックスで鳴り響いていると、メンデルスゾーンの交響曲”宗教改革”やオラトリオ、それにブラームスの宗教音楽を思い起こさせるらしい。
たしかに、第2主題には喜びにきらめくような明るさと清々しさがあって、終盤で盛り上がっていくところを聴いていると、優雅で格調高く、霧が晴れて澄み渡った空のようなイメージ。
この爽やかな高揚感のあるエンディングは聴けば聴くほど素晴らしく、この第4楽章に限らず、他の楽章も第1番とは違った奥深さがあって格調の高い名曲だと思います。

メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番の記事

tag : カヴァコス パーチェ メンデルスゾーン

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ホームベーカリーで湯種食パン
ちょっとだけ手間をかけて焼く「湯種食パン」は、ご飯パン(炊いたご飯を強力粉にまぜて焼くパン)にやや似てもっちりしているし、ちょっと甘みがあって小麦粉本来の味が濃くなったような気がする。これはかなり美味しい。

パンメーカーでは、神戸屋さんが「湯種」の食パンを製造販売していて、”炊きたてのごはんのようなもっちり感”、”小麦の自然な甘み”と特徴をPRしている。(食べたことがないので、この食パンがどんな味かは知らないけれど)

「湯種食パン」は家庭でもとっても簡単に作れる。
前日に湯種を作っておいて、一晩冷蔵庫で保存してから、残りの材料と一緒に混ぜて、ホームベーカリーをスイッチON。これだけ美味しい湯種食パンの出来上がり。

湯種の量によって、焼き上がりのボリュームが変わるので、もっちりした食感が好きなら湯種を多くする。
ただし、湯種の量が多いと膨らみが悪くなるので、いろんな配合を試してみるのも実験みたいで面白い。

前日用意する湯種の量は、通常使う強力粉と水分の半量だと、配合割合を計算しなくてもすぐに量が決まる。
この量はかなり多いらしいので(多分上限に近い)、もう少し減らしてみても良いかも。

通常、強力粉280g、水分190ccで配合するなら、湯種をその半分にする場合は、強力粉140g、水分(熱湯)95cc。
湯種は名前の通り、熱湯で捏ねて粉気がほどほどに消えて生地がまとまる程度に、スパチュラ(や手やホームベーカリーの生地コース)で混ぜる。
丸くまとめた湯種をサランラップできちんと包んでから、冷蔵庫で一晩寝かす。寝かす時間が長ければ長いほど、もっちり感が強くなるらしい。私は12時間以上は寝かした。

翌日、室温に戻した湯種を必ず小さくちぎってから、残りの材料と混ぜて、ホームベーカリーのスイッチをONにすれば、後はHBにおまかせ。冬は室温だと湯種がかなり冷たいので、少し暖めた方が膨らみがよくなるかもしれない(これはまた実験していない)。

レシピはインターネット上にいろいろ載っているので、お好みのものを。

panasonicのベーカリー倶楽部サイトに掲載されているレシピ
これは外国産小麦を使ったレシピ。水分がちょっと多目。国産小麦なら10~20ccくらい減らさないとベタベタする。
塩を湯種に入れないレシピもあり。
バター、砂糖の分量を好みの量に変更しても、膨らみや柔らかさが違ってくるけれど、それでもちゃんと焼き上がる。


私が使っている配合は、上田まり子さんのレシピブック(『卵・乳製品ゼロのホームベーカリーレシピ』)に載っている分量を1割増やし、バター(レシピではショートニング)を半分に減らしたもの。
国産小麦なのでバターを減らすとかなり膨らみが悪いけれど、食感と味は普通に焼くよりも良いので、最近は湯種食パンに凝っている。
このレシピブックは、まり子さんのレシピにしては、卵不使用・油分も少なく配合がヘルシー。写真やデザインもすっきりして見やすいので、わりと良く使っている。

卵・乳製品ゼロのホームベーカリーレシピ―あじわい食パン・ふんわりおやつパン・もちもち米粉パン卵・乳製品ゼロのホームベーカリーレシピ―あじわい食パン・ふんわりおやつパン・もちもち米粉パン
(2007/04)
上田 まり子

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ブラウティハム ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番(1808年改訂版)、ピアノ協奏曲ニ長調(ヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版)
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、通常演奏されるのは1806年に作曲したバージョン。
1808年の初演はベートーヴェン自身のピアノ独奏。このときのピアノパートは最初の楽譜とは違った改訂バージョンで弾いていたと言われる。
ベートーヴェンが実際に弾いた内容に関しては、写譜師(copyist)が残したスコアの中に、ベートーヴェンの手による注釈がついているので、それをベートーヴェン研究者のBarry Cooperが書き写して、とうとう改訂版が完成。
Cooperは"Beethoven's Revision to his Fourth Piano Concerto”という論文も発表し、その中に改訂版の楽譜が掲載されている(らしい)。(原著は、Robin Stowell編『Performing Beethoven 』(Cambridge Univ. Press, 1994), 23-48)
ベートーヴェンが弾いて以来、演奏も録音もされていなかったに違いない改訂版の第4番。このコンチェルトをロナルド・ブラウティハムが録音した最新アルバムがつい最近リリースされた。
伴奏はアンドルー・パロット指揮で、スウェーデンのノールショピング交響楽団。

ピアノ協奏曲第4番(改訂版)、ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)ピアノ協奏曲第4番(改訂版)、ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)
(2009/12/08)
ブラウティハム、パロット&ノールショピング響

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楽譜を見ないでも、耳で聴けば明らかにわかるくらいに、いつも聴いている第4番のコンチェルトとは違うところがいろいろ。
特に第1楽章でかなり音が付け加わっているので、きらきら煌きが増してちょっと華やかにお化粧したような...。
和音の厚みが増しているというのではなく(そういうところは少しあるけれど)、全休符のところにフレーズを書き込む、同一音でなく音を移動させながらトリルする、フレーズの一部を1オクターブ上下させる、あまり詰まっていない音符の間に音を追加して動きをだす、上行するところを下降する、etc.。
いろいろ細かい動きが付け加わっているので、よりピアニスティックになって、やや即興的な自由な雰囲気もある。カデンツァはほんの少し変えているけれど、大筋は一緒。
原曲はかなりシンプルでとても清楚な感じがするので、それを聴きなれていると、この改訂版は装飾的なところが増えて華やか。ちょっとうるさい感じがしないでもないけれど、これはこれで音がキラキラと煌くように舞っていてとても美しい曲。

ブラウティハムの録音はフォルテ・ピアノで弾いたものが多くて、モダンピアノで弾いている方が珍しい。メンデルスゾーンやベートーヴェンの協奏曲全集は全て現代ピアノ。
ピアノ・フォルテの響きはあまり好きではないので、コンチェルトの方がスタインウェイで聴けるのは嬉しい。スタインウェイを弾くブラウティハムは、鋭く硬質なタッチで濁りのないクリスタルのような響きが美しく、弱音はとても柔らかな響き。
テンポは速めできびきびと軽快で、強弱のコントラストはシャープ。リズムやアクセントをそれほど強調するわけでもなく表現はわりとあっさり。それでも、響きが綺麗で音自体に表情があるので、そんなに無愛想に聴こえてこない。
隅ずみまで明晰で理知的な感じはするけれど、ドライでは全くなく、研ぎ澄まされたクールな叙情感がひんやりと気持ちよい。
第3楽章になると力強いタッチでスピード感も出て、ちょっとした熱気も感じる。
ブラウティハムはフォルテ・ピアノで響きをコントロールするのに慣れているせいか、スタインウェイを弾いていても、タッチの変化が精妙で響きのバリエーションも広く、濁りのない透明感と明るい輝きのある綺麗な音で弾いている。
ちょっとしっとりした水気のある録音の音とクールな表情の演奏がちょうど良いバランス。

プラハティウムへのインタビュがブックレットに載っていて、フォルテピアノではなくモダンピアノ(スタインウェイ)で弾くことについて、いろいろ書いている。
オケの響きがどこか他の演奏とは違うと思ったら、このオケはノンヴィブラートで演奏するのを好むオケだと書いてあった。注意して聴き直すとたしかにヴィブラートがかかっていないので、スカスカ~とした響きがする。それに、音を歯切れ良く弾いているので躍動感がでて、生き生きとしたところはあるが、かなり直線的な表現も多いので、深い情趣のある演奏ではないように感じる。(これは、最近流行っているらしき古楽奏法の特徴?)
特徴的なのは、ピアノをオケの前に置くのではなく、ピアノの回りをオケが囲むように、ピアノを少し下げて中央に配置しているところ。
プラハティウムは、オケとピアノが対抗するのではなく、室内楽的な演奏を意図したという。オケとピアノの音が同じような位置と大きさで聴こえてきて、協奏するときは時として、ピアノの音がオケの演奏に溶け込むような感じがするのが、今まで聴いてきた録音とはかなり違っているところ。
単に改訂版を弾いているというだけではなく、フォルテピアノではなくスタインウェイを弾くブラウティハムと古楽奏法を取り入れたオケによる室内楽的な演奏という点でも、思ったよりもいろいろ発見がある。

                                

カップリングは、これも録音がとても少ないピアノ協奏曲ニ長調 Op.61a
この曲はヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版で、ヴァイオリン協奏曲では残していなかったカデンツァをこの編曲版ではベートーヴェン自身がしっかり書き込んでいる。
旋律がシンプルで長大なヴァイオリン協奏曲よりはピアノ協奏曲版の方が好きだけれど、ピアノで聴いた後にはいつも思い出したようにヴァイオリンの方を聴きたくなってくる。

このニ長調のピアノ協奏曲はオリ・ムストネンが得意のレパートリーにしている。
ムストネンの演奏はバッハを弾くときと同じスタッカートに近いノンレガートなタッチ、それに強いアクセントと急変する強弱を特徴とするアーティキュレーションが独特。こればかり聴いていると、この奏法が頭の中でスタンダード化して、レガートなニ長調協奏曲の方がなぜか変わったように聴こえてしまう。
ムストネンの演奏は好みがすっぱり分かれるので、これが苦手な人にはブラウティハムの演奏はテクニックはしっかりしているし、変わったクセがなくて聴きやすい。
透明感のある硬質の響きがこの曲の品の良さによく似合っているし、第1楽章と第2楽章は第4番より柔らかいタッチで弾いていて、とても優美。ティンパニが入ったカデンツァは急に曲想が変わるところが面白い。
この曲もブラウティハムのピアノの響きがうっとりするくらいに美しい。高音の弱音の響きは綿菓子のように甘くて溶けてしまいそう。フォルテピアノを弾いてきたことが、スタインウェイを綺麗に響かせることに役立っているのか、元からこういうピアノを弾く人なのか、どちらかは良くわからないけれど、この綺麗なピアノの音を聴くだけでも満足できてしまう。
ピアノ協奏曲よりもさらに室内楽的というか、ピアノがオケのなかから聴こえてくるし、ピアノとオケの音が互いに呼吸を合わせるように共鳴して調和のとれたところがとても和やか。オケがフォルテになるとピアノがちょっと聴こえにくくなるけれど、それでも合奏協奏曲みたいな雰囲気があって、こういう音のバランスは全然悪くなかった。

オケの方は第4番で聴いた時と同じように、軽やかな響きで快活。ちょっと表現は直線的なところがあるので、もう少し繊細さと落ち着きが欲しい気もする。そういう点では、ムストネンが弾き振りしているタピオラ管の方が、しなやかで軽やかで品良くまとまっている。
ムストネンとブラウティハム(とオケ)の演奏の方向がこれだけ極端に違うと、同じ曲でもかなり違った雰囲気。どちらが良いとも言いがたく、この曲は両方聴き比べるのがとても面白い。

 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲ニ長調(ピアノはムストネン)の記事

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スーク&シュタルケル&カッチェン ~ ブラームス/ピアノ三重奏曲第2番・第3番
ブラームスのピアノ三重奏曲のなかでは最も有名な第1番に比べて、第2番と第3番は規模が少し小さく、たぶん演奏機会もかなり少ない。3曲のうち1曲だけ録音されている場合はたいてい第1番。
ブラームスのヴァイオリンソナタだと、第3番が一番良く演奏されているような気がするけれど、《雨の歌》の第1番も結構人気がある。

ピアノ三重奏曲は、第2番が完成したときに、ブラームスが出版者のジムロックへの手紙に、「君はここ10年の間で、こんなに美しいトリオを受け取ったことがたぶんないだろう」と書いている。第2番は自信作だったらしい。
第1番の方は、元々は20歳ころの青年期の作品で、34年後にわざわざ改訂したくらいなので、初版のままだったらさほど人気がでなかったかも。
第3番になると、さらに短くなって演奏時間は20分ほどだけれど、楽章ごとの曲想の変化が連作短編小説のストーリーのようにも聴こえる、コンパクトにエッセンスが詰め込まれたような作品。

3曲続けて聴くと、ブラームスらしいほの暗い雰囲気とがっちりした構造のせいか、多少疲れるものがあるが、同じく3曲で完結したヴァイオリンソナタ全集と比べて、チェロが入っているせいか色彩感と音の厚みがあって、それに曲想のバリエーションが色とりどりという感じでわりと面白い。この2曲も第1番と同じく、3人のアンサンブルが滑らかで隙間のない緊密な感じ。


Piano Trio 3ブラームス:ピアノ三重奏曲全集 
(1997年3月25日)
Julius Katchen, Josef Suk, János Starker


試聴ファイル


 ピアノ三重奏曲第2番の楽譜ダウンロード(IMSLP)
 ピアノ三重奏曲第3番の楽譜ダウンロード(IMSLP)


ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87(1882年)


Johannes Brahms - Piano Trio No. 2, Op. 87
Haydn-Trio, Wien


第1楽章 Allegro
冒頭は明るい色調で和やかな雰囲気の主題。ヴァイオリンソナタ第2番やピアノ・ソナタ第1番(これが実際は2番目のピアノ・ソナタ)のように、2番目に書いた曲は第1番と違って大らかで明るく、3番目になると再び暗く力強くなっている。短調の曲を書くと次は長調の曲を書きたくなるとブラームスは言っていたし。
時々短調に転調しても、すぐに長調に戻るし、短調でも全然暗い翳りがないので、晴れた午後のティータイムみたいにとっても穏やか。

第2楽章 Andante con moto
悲痛感が全楽章を浸しているような緩徐楽章。イ短調の主題とそれに基づく5つの変奏で構成されている。
冒頭のヴァイオリンが奏でる高音の旋律は力強く決然とした雰囲気で、氷が突き刺すように美しく、ピアノ伴奏がさらに輪をかけて叙情的。情緒的にベタっとした弾き方ではないので、透明感のある凛とした美しさ。
ピアノ独奏で始まる第2変奏は憂いに満ちて、涙の雨がポロポロと降り注いでいるような、水気をたっぷり含んだ哀感がある。ピアノとヴァイオリン、さらにチェロが加わって、2音の下降音形(”ため息音形”というらしい)を対話するように弾いているのが、とても悲しげに聴こえる。ピアノのアルペジオと和音のハーモニーもとても悲しそう。
第3変奏は冒頭の主題の悲痛な雰囲気に戻り、続く第4変奏は束の間の安息のように長調の穏やかな旋律にかわる。
第5変奏は短調に戻って、流れるようなレガートで主題が変奏される。ピアノのアルペジオの伴奏を背景に、ヴァイオリンとチェロが交互に、その後で、ユニゾンで弾く旋律がとても流麗。
この楽章は楽譜で見ると変奏の移り変わりが良くわかる。

第3楽章 Scherzo - Presto
ブラームスの短調のスケルツォらしい急迫感のある楽章。
ピアノはPrestoで弾くアルペジオやらスケールが多く、カッチェンのピアノのタッチが軽やかなので、速いテンポでリズム感の良い。ここは強いフォルテでは弾いていないけれど、とても張り詰めた雰囲気。
中間部はコロっと雰囲気が変わって、とても伸びやかで確信に満ちたようなおおらかな旋律。緊張と弛緩のお手本みたいに、この旋律を聴くとほっと一息。

第4楽章 Finale: Allegro giocoso
楽しげでちょっとおどけたようなタッチの主題が面白い。この主題が楽章中いろんな形に姿を変えて頻繁に現れる。
主題の旋律はヴァイオリンが弾いていることが多いが、ピアノがヴァイオリン・チェロと掛け合うように対話しているような旋律のやりとりが軽妙で、どこか可笑しい。ヴァイオリンとチェロが音階を上に駆け上がっていったら、急にピアノが和音で遮ってから反対に鍵盤上を下降していったり(53~58小節のところ)。
ピアノ伴奏は細かく上下下降を繰り返すフレーズと和音の連打が多い。軽やかな主題の雰囲気に合わせて、カッチェンはわりと柔らかいタッチで、とても楽しげなタッチで弾いている。他のパッセージを弾くときも響きにも丸みがあるので、ほんわかとした雰囲気。
エンディングは、フォルテで明るく快活に。



ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.101(1986年)

1886年にThun湖の見えるスイスの湖畔で書き上げたのが、この第3番のピアノトリオと、第2番のチェロ・ソナタとヴァイオリンソナタ。
解説によると、この3作品には、初期作品に見られた”生気(Vigour)”を、中年期に至るまで蓄積していった音楽的な知恵(Wisdom)で和らげて再現したようなところがあるという。
短い曲なので、余分な枝葉はつけずに構成はわりとすっきりした感じで、それでも言いたいことは全部しっかり詰めこんだような緊密感がある。

Johannes Brahms - Piano Trio No. 3, Op. 101
Haydn-Trio, Wien


第1楽章 Allegro energico
冒頭は明らかにブラームスの作品のトレードマークのような嵐のように力強く悲愴な雰囲気の旋律。
でも、すぐに長調の第2主題に交代する。この第2主題の柔らかく広がりのある旋律は晩年のブラームスにしてはかなり清々しい。
と思ったら、また冒頭の主題が変形されてしばらく続き、再び第2主題が登場する。
主題の旋律はヴァイオリンが主に受け持ち、たまにチェロが弾いているが、ピアノはほとんど伴奏か、ユニゾンで旋律を弾いている。

第2楽章 Presto Non Assai
ブラームスのピアノ小品集にでもでてくるような内省的な旋律のスケルツォ。形式・構成からいえばスケルツォなのだと言われるが、ブラームスはスケルツォとは書かれていないし、一般的なスケルツォとは違って、なにか不安げな予感のするような短調でリズムも変わっている。
この楽章を喩えて言えば、”怯えている子供のように急いで通り過ぎていく”(ドナルド・トーヴェイという人が言った言葉)。
この楽章も主題の旋律はヴァイオリンとチェロのユニゾンで弾くことが多い。
その背後で、ピアノは、スタッカート気味の軽やかに(子供が逃げ回っているように?)あちこちを飛び跳ねている。

第3楽章 Andante grazioso
少し寒気を感じさせる第2楽章から一転して、ブラームスが好んで使う”子守歌”風の可愛らしく和やかな旋律。
拍子が頻繁に変わる変拍子が特徴的。2/4と3/4、または、6/8と9/8の拍子が1小節ごとに交代し、時々9/8拍子が続いたりと弾く方はややこしいだろうけれど、その複雑さがメロディの浮遊感につながっている。
ここはピアノとヴァイオリン&チェロのデュエットが、初めからずっと対話しながら、弾いている。
カッチェンの柔らかい響きでひく高音の旋律は、夢見るようにメルヘンティックな雰囲気。こういう感じはカッチェンが弾いていたブラームスのワルツやピアノ小品とそっくり。

第4楽章 Allegro Molto
フィナーレらしく、力強く決然とした雰囲気の冒頭の主題。
初めの2つの楽章のCマイナーに戻っているが、第1楽章とは違って、強い悲愴感はなく、和音主体のピアノが力強い感じ。ソナタ形式の中間部は何かを駆け抜けるように疾走するような旋律。
最後のコーダは主題が長調に転調して明るい色調に変わる。暗い色調の第1楽章と第2楽章から、徐々に明るさがさしこんで、最後のフィナーレではすっかり霧が消えて、晴れやかに澄み切った空に覆われたようなイメージ。



 ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番の記事

 ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番の記事

 ブラームス/ヴァイオリンソナタ第2番の記事

 ブラームス/ヴァイオリンソナタ第3番の記事

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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現代のクリスマス音楽 ~  プラッゲ、バルトーク、ニールセン、シェーンベルク
20世紀に書かれたクラシックの作曲家によるクリスマス曲(ピアノが入ってる曲)を探すと、これが結構いろいろある。
1960年生まれのプラッゲが書いた《クリスマス変奏曲》は伝承されてきた素朴な旋律と調和的な和声が美しい曲。ポピュラーなクリスマス曲を聴くよりも、音が綺麗でとってもナチュラルな雰囲気。
バルトークの《ルーマニアのクリスマスの子供の歌》は民謡を題材にした一連のピアノ小品と同じタッチで、バルトークらしいシンプルな旋律と独特の和声が綺麗な曲。
シベリウスと同じ1876年生まれのニールセンの《クリスマスの夢》は1905年の作品。現代音楽的なところは希薄で北欧風の澄み切った透明感のある美しい曲。
シェーンベルクの《クリスマスの音楽》も、シェーンベルクの書いた曲とは思えないような調和的で穏やかな曲。


プラッゲ《クリスマス変奏曲~クリスマス・キャロルによる即興変奏曲》
ヴォルフガング・プラッゲは1960年オスロ生まれの作曲家。4歳の時からピアノと作曲を学んでいたので、ピアノもコンクールで優勝するほどの腕前。
この《クリスマス変奏曲》は北欧の有名なクリスマス・キャロルの変奏曲。15の変奏曲があるので演奏時間は50分あまりとリストの《クリスマス・ツリー》並みの力作。プラッゲの他の作品とは違い現代音楽的では全然なく、ポップス的な親しみやすさでこれは誰にでもお薦め。

ピアノを弾いているのはプラッゲ自身。ほとんどが聴いたこともない旋律ばかりだけれど、プロのピアニスト並の腕をもつ作曲家が自作自演しているだけあって、色彩感のある音色と響きがとても綺麗で、どの曲もとてもシンプルでほのぼのとした味わい。
リストの《クリスマス・ツリー》のような重音の響きが厚い曲ではなく、素朴な旋律に柔らかい和音の響きが付け加わって、ふわ~とした響きがとても心地よい。
なによりこの録音はピアノの音がとても良い。オスロの教会で行っているわりに、残響が少なく濁らないのでとてもクリア。同じ部屋のなかでピアノを弾いているようなリアルで親密感のある響きが綺麗。
とても柔らかな音で暖かみがあり、雪の結晶がきらきらと煌めくような明るさもあって、クリスマスらしい雰囲気がいっぱい。
ホットココアやホットミルクとチョコレートケーキと一緒に、この曲を聴きながらぼ~っとクリスマスの夜を過ごしたくなる。
ペンティネンのクリスマスアルバムと同じくらいに素敵な曲集です。

Julevariasjoner [Hybrid SACD]Julevariasjoner [Hybrid SACD]
January 1, 2005
Wolfgang Plagge (Piano)

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1.イェルサレムの定期市 (Sjå Jerusalem)
    -主題の旋律が初めはシンプルな単音で。何度か繰り返されるたびに和音の厚みが増して
     きらきらとした輝き。
2.あなたのあわれな子どもたちがやってきます (Her kommer dine arme små)
3.青々と緑、きらきらと輝く (Du grønne, glitrende)
4.たくさんのキャンドルに灯がともった (Nå tennes tusen julelys)
    -今までの曲と違ってアルペジオを多用しているので、響きに膨らみがあって華やか。
5.さあ鐘よ鳴れ (Kling no klokka)
    -ノルウェー伝承歌。透き通った響きの高音で弾く旋律と伴奏がとても幻想的。
     サイモン&ガーファンクルの曲を聴いているみたいに高音が透き通るように綺麗。
6.荒れ野の果てに (Høyr kor Englehæren) 
    -これはとっても有名な旋律。こんなに綺麗なピアノ音で聴いたのは初めて。
7.ベツレヘムの小さな町 (O Betlehem)
8.あなたのあわれな子どもたちがやってきます (Her kommer dine arme små) (その2)
    -これもどこかで聴いたことのある旋律。長調なのに短調が混ざってちょっと物悲しげな
     雰囲気。
9.一輪のばらが咲いた (Det hev ei rosa sprunge)
10.つねに待ち望む心を (Mitt hjerte alltid vanker)
11.ノルウェーのクリスマスキャロル (Norsk juleslått)
12.さあ鐘よ鳴れ (Kling no klokka) (その2)
    -1曲目は長調だったので、2曲目は短調の哀しげな曲に。
13.鐘たちよ、今鳴っている (Kimer i klokker)
14.なんじは讃えられよ (Du være lovet)
    -軽やかな旋律といろいろ変形していくオスティナート的な伴奏。コラール風の厳粛さが
     そこはかとなく漂う曲。
15.民の救済 (Folkefrelsar)
    -ゆったりと静かな雰囲気のなかにも、明るさがあり喜びの気持ちが伝わってくるような曲。
    -1音1音が長いので全ての音が重なっていくようなのに、不思議と響きに濁りがない。
*日本語タイトル情報はノルディックサウンド広島のニュースレターより。


バルトーク《ルーマニアのクリスマスの子供の歌 BB67》(1915年)
《ルーマニアのクリスマスの子供の歌 BB 67/Sz. 57》には第1集と第2集があり、それぞれいろいろな曲想の短い曲が組み合わさっている。
バルトーク独特のさっぱりした哀感のある旋律と和声がとても綺麗で、弾けるようなリズムはとても楽しげ。
なじみのない東欧圏の民謡に加えてバルトーク編曲で聴くと、巷に良く流れているトラディショナルなクリスマス・キャロルとはかなり違った雰囲気。

バルトーク:ピアノ作品全集 2 「舞踏組曲」/「ルーマニア民族舞曲」/他バルトーク:ピアノ作品全集 2 「舞踏組曲」/「ルーマニア民族舞曲」/他
2002年03月25日
イェネ・ヤンドー(ピアノ)

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ニールセン《クリスマスの夢 Drommen om Glade Jul》, FS 34》(1905年)
《きよしこの夜》の有名な旋律をモチーフにしたピアノソロ。英文タイトルが ”The Dream of a Merry Christmas”。”Dream of Silent Night”と表記されている録音もある。
最初と最後に”きよしこの夜~”の部分の旋律が使われている。後は夢見ごこちのノクターン風に違う旋律を続けて、北欧の澄んだ空気が感じられるような透明感がとても綺麗な曲。

《クリスマスの夢》のMP3ファイル[ピティナ/演奏:内藤晃さん](サイトの右側にある曲名をクリック)

Carl Nielsen: Complete Piano Music Carl Nielsen: Complete Piano Music
(May 3, 2007)
Miller(piano)

試聴する(米国amazon)[DISC1-Track17]



シェーンベルク《クリスマスの音楽 Weihnachtsmusik》(1921年)
シェーンベルクにしては珍しく、とてもまともな普通の調性音楽。弦楽四重奏が入っているので、優雅ながら厳粛な雰囲気がクリスマスらしい。
編成は弦楽四重奏にピアノとハーモニウム(リードオルガン)という珍しい組み合わせ。アコーディオンかと思った音は、ハーモニウムの音だった。
タイトルの通り”クリスマスの音楽”のごとく、《きよしこの夜》の旋律がかなり変形されて埋め込まれている。

この録音の演奏は、アルディッティ四重奏団、アウストボー(ハーモニウム)、バセット(ピアノ)、指揮がミシェル・ベロフ。アウストボーがハーモニウムを弾いているというのが珍しいし、それになぜかベロフが指揮者になっている。

Arnold Schoenberg: Weihnachtsmusic & TranscriptionsArnold Schoenberg: Weihnachtsmusic & Transcriptions
(2002/07/09)
Arditti String Quartet,Bessette,
Austbo,Conducted by Michel Beroff
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tag : プラッゲ バルトーク ニールセン シェーンベルク

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シュニトケ/ピアノ・ソナタ第2番
シュニトケの書いたピアノ・ソナタは3曲。真ん中のピアノ・ソナタ第2番(1990)は、妻のピアニスト、イリーナ・シュニトケに献呈された曲で、初演・初録音もイリーナが行っている。
イリーナの録音盤は廃盤らしく入手しにくいので、試聴だけしてみると、柔らかいピアノの響きが美しく叙情感がとても強い。
クールでシャープなボリス・ベルマンの録音とは方向性が正反対。イリーナのピアノで全曲聴けば、シュニトケはこんなに美しい旋律と和声の曲を書く人だったのだと再発見するに違いない。

Alfred Schnittke: Quasi Una Sonata; Piano Trio; Piano Sonata No. 2Alfred Schnittke: Quasi Una Sonata; Piano Trio; Piano Sonata No. 2
(1994/01/11)
Mstislav Rostropovich (Cello, Conductor), English Chamber Orchestra, Irina Schnittke (Piano), Mark Lubotsky (Violin)
試聴する(米国amazon)
この録音は、シュニトケ自身が立ち会ったスタジオ録音。


ピアノ・ソナタ第2番の録音は、イリーナのほかに、ボリス・ベルマン、ラグナ・シルマー、イーゴリ・チェトゥーエフなどが録音している。(それぞれの録音については、《ピアノ・ソナタ第1番》の記事で少し書いてます)

このCDはラグナ・シルマーの録音。ゆったりしたテンポでややテヌート気味に弾き、ピアノの響きも綺麗なので、ちょっとウェットな感じの叙情的なシュニトケ。
Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3
(2006/02/28)
Ragna Schirmer (Piano)

試聴する(米国amazon)
米国amazonのレビュワーが結構手厳しく、”テンポ、リズム、ペダリング、音符さえもアバウト”というコメント(それが的確なのかどうか判断不能)。
この曲を何の予備知識もなく初めて聴くなら、このCDは入手しやすくとっつきやすい演奏なのでそんなに悪くはない。曲が気に入ったら他の録音と聴き比べしてみると演奏の違いはわかるが、それが妥当かどうかは楽譜と突き合せないとたぶんわからないはず。

ピアノ・ソナタ第2番 (1990)

第1番が4楽章形式で30分以上とかかる結構長いピアノ・ソナタだったが、この第2番は3楽章形式で演奏時間は20分ほど。
第1番よりも、楽章間のつながりがスムースで、第1楽章と第3楽章は主題旋律も明瞭で印象的なので、構成的にもわかりやすい。
3曲のピアノ・ソナタのなかでは、この第2番が最も旋律・和声が美しくて叙情性が強く、聴きやすい。

第1楽章 Moderato
主題旋律は、濃厚な情感がべったりと敷き詰められたような美しさがあり、かなり妖艶さも漂っている。ベルクのピアノ・ソナタのネットリした叙情感を、冷たく研ぎ澄ましたような感じ。
その主題が絶えず変形されているが、旋律線は明瞭なので、シェーンベルクのピアノ曲を聴いた時のような変奏パターンのわかりにくさはない。
その旋律線の上に和音が重なって響きに厚みがあり、和音は不協和的だが響きは美しい。
最後はフォルテでゴーンと打鍵して終った...と思うと、エピローグのように微かな弱音で主題旋律が再現されて、フェードアウトしてゆく。
シュニトケは、静寂さのなかに消えていくという終り方を好むらしく、こういうエンディングは、室内楽曲でも良く出てくる。

第2楽章 Lento
冒頭は第1楽章の静寂さをそのまま引きづったように静かに始まる。
主題の旋律があまり明瞭さのある旋律ではなく、この楽章は全体的に断片的なフレーズがぼんやりポロポロと鳴っているような感じ。
弱音で弾く和音が結構多く、その柔らかい響きと不明瞭さのある旋律のせいで、もやもやとした漠然とした不確実性のようなものが漂っている。

第3楽章 Allegro moderato
この楽章はとても饒舌。主題旋律もそれ以外の旋律も、音があちこち飛び跳ね回って、ピアノがいろいろおしゃべりしているようで、”陽気な”シェーンベルク風の曲。この曲はとっても面白い。
リズムパターンがいろいろ変わるが、主題旋律は明瞭なので、変奏されているところが良くわかる。第1楽章同様、和声には不協和音が混じって入るが、調和的な感じの響きなので耳ざわりは悪くない。
中間部になると、なぜかペルトの”ティンティナブリ”様式に似たとても静寂な曲想に変わる。シュニトケは引用を多用した作品も多いので、ここだけ取り出して聴いたら、ペルトの曲を聴いているように錯覚しそう。
徐々にクレッシェンドしつつ、再び主題を織り込んだ旋律が登場し、最後はトーンクラスター風な響きも入り混じって、高音部から和音で急転下降して、ガーン、ガーンとしつこく低音を連打して終る。...と思ったら、またペルト風の旋律が静かに再現される。これが本当のエンディング。
すんなりとしたエンディングしてくれないところが、シュニトケらしい。

tag : シュニトケ シルマー ベルマン

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ペンティネンのクリスマスアルバム 『EVENING BELLS』 
この時期になるとクリスマス向きの音楽を聴きたくなるのはいつものこと。
今までに記事に書いたのは
  バッハの《主よ、人の望みよ喜びよ》
  ジョン・ラターの『Fancies』
  アンネ=ゾフィー・フォン・オッターのクリスマス・アルバム『Home for Christmas』


今年のクリスマスはピアノ・ソロで聴きたいので、ちょっと珍しいクリスマスアルバム『Evening Bells』から、リストの《クリスマス・ツリー》をメインに、レーガーの《マリアの子守歌》(これは原曲の歌曲が有名)、ブゾーニの《クリスマスの夜》などを。
このアルバムには、最初と最後にケンプ編曲のバッハのコラール、メシアンとステファン・ペンティネンの曲も収録されている。メシアンとペンティネンは現代音楽なので他の曲とはちょっと趣きが違う。
オーソドックスなクリスマス的雰囲気の旋律や響きの曲も良いけれど、そればかり聴いていると、たまには毛色の全然違うクリスマスの音楽を聴きたくなる。そういう点では、このアルバムはリストの珍しいクリスマス曲や滅多に見かけない現代ものも入っていて、バリエーションが豊か。
選曲が面白いし演奏も申し分なく、今まで聴いたクリスマス曲集の中では出色の出来。個人的にはとても満足。

ピアニストはBIS盤で良く見かけるローランド・ペンティネン。
いつもシュニトケの曲で聴いていたけれど、ペンティネンはロマン派~現代のドイツ、フランス、東欧、ロシアものなども弾くので、レパートリーがとても広い。このアルバムでも、バッハに始まり、ロマン派から現代ものまでカバー。
すっきりとしたスマートな表現と色彩感のあるとても綺麗な響きのピアノで、クリスマスらしい静謐さや清らかさといった雰囲気がとてもよく出ている。

このアルバムは、大勢の人が集まるパーティで流す曲ではなくて、クリスマスの静かな夜に巣篭もりして紅茶とクリスマスケーキでもいただきながら(私はお酒は飲まないので)、じっくり聴くのにぴったり。

Evening BellsEvening Bells
(2000/11/21)
Roland Pöntinen (Piano)

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リスト《クリスマス・ツリー Weihnachtsbaum-Arbre de Noël S.186》(1866年/1876年改訂)
  [ピティナの楽曲解説][楽譜ダウンロード(IMSLP)]

リストは、ピアニスティクでデモニーッシュなイメージが強いので(晩年は静謐で宗教的な曲になっていくけれど)、この曲集はリストにしては、とても清々しくシンプルな旋律が多くてとっても新鮮。和声も綺麗だし、クリスマスらしい楽しさや静けさとかが良く出ている。
クリスマス・キャロルからの編曲が何曲かあるので、聴いたことのあるメロディが出てきてクリスマスの雰囲気がちゃんとする。
楽譜を見ると、リストにしてはそれほどあちこち飛び跳ねたり入り組んではいないが(曲にもよる)、やっぱり重音・和音移動がかなり多い。
1つの曲は数分の小さな曲だけれど、12曲あるので全部で40分以上かかるという結構な大作。

第1曲 <古いクリスマスの歌> Altes Weihnachtslied
解説によると中世の作曲家プレトリウスのコラール主題がモチーフ。
クリスマス曲集でよく出てくるとても晴れやかで喜びに満ちた旋律。
冒頭の主題は低音の響きが堂々と力強い和音。次に高音域に移るととても可愛らしい響きに変わり、最後は再び力強く輝かしい主題で終る。低音も高音も鐘の音のような煌めきがあって、オープニングに相応しい曲。

第2曲 <おお聖なる夜> O heilige Nacht!
原曲の”O heilige Nacht!”は結構有名な賛美歌らしいが、聴いた記憶があまりない。Lentoで清々しい感じの旋律。

第3曲 <飼葉桶のそばの羊飼たち> Die Hirten an der Krippe
原曲はクリスマス・キャロル。”もろびとこぞりて”(だと思う)のラストのフレーズが少しだけ出てくる。
左手の符点付きのリズムの伴奏が軽やか。
この曲も鐘の音が鳴っているような柔らかて清々しい響きがとても綺麗。

第4曲 <誠実な人々よ来たれ> Adeste fideles
原曲はとっても有名なクリスマス・キャロル。タイトルを知らなくても、聴いたことがある人は多いはず。
冒頭は珍しく暗い短調で始まり、すぐに長調に転調しておなじみの旋律に。その後も短調と長調が頻繁に入れ代わって、最後は輝かしい長調で終る。

第5曲 <スケルツォーソ> Scherzoso: Man zundet die Kerzen des Baumes an
サブタイトルは”ツリーに点火するとき”。
とっても楽しげな雰囲気。灯りが次々に点って、明るくきらきら輝きが膨らんでいくイメージ。
ピアノがちょこまかと飛び跳ねるようなリズムで、和音・重音・オクターブを軽やかに速いテンポで弾かないといけない。

第6曲 <カリヨン> Carillon
実際にカリヨンの鐘の音を聴いたことがあれば、イメージが良くわかりそうな曲。
主に右手はトリル・トレモロ風の重音、左手は三連符の分散和音の伴奏で、クロスリズムになっている。

第7曲 <子守歌> Schlummerlied
タイトルどおり、まったりと眠くなりそうな柔らかく優しい雰囲気の旋律。
ゆったりとしたトリル・トレモロの響きが規則的で眠りを誘う。

第8曲 <古いプロヴァンスの歌> Altes Provenzalisches Weihnachtslied
舞曲のように軽快なリズムの短調と長調の旋律。この曲集のなかでは一番躍動感がある曲。

第9曲 <夕べの鐘>  Abendglocken
アルバムタイトルの”Evening Bells”がこの曲の名前。
細かい動きで軽快な<カリヨン>と違って、こちらは、一日の終わりを告げる鐘の音らしく、穏やかで疲れを癒すようなタッチ。音の響きも柔らかくてとても心地よい。
終盤になるとテンポが急に落ちて、日がとっぷり暮れて夕闇が広がっていくように、やや暗く沈んだような雰囲気の和声に変わり、重たく静かに終る。

第10曲 <昔々> Ehemals
ちょっとファンタスティックで憂いに満ちた響きが美しい回想風。
短調と長調が交錯して徐々に感情が昂ぶっていくような感じで、他の曲と比べてこの曲だけとても叙情感が強い。

第11曲 <ハンガリー風> Ungarisch
タイトルどおりハンガリー風で、ちょっといかつい行進曲風。クリスマスとはあまり関係ないような...。

第12曲 <ポーランド風> Polnisch
ポーランド風のマズルカ。冒頭は調性がはっきりしないような曖昧な雰囲気。
すぐにマズルカのリズムに変わり、ショパンのマズルカらしき旋律(たぶん)も出てくる。
全体的に短調でちょっと暗い雰囲気だけれど、時々フォルテで華やかな曲想に変わり、最後は堂々とした力強いフィナーレ。

ステファン・ペンティネン 《カリヨン》(2000年)
2000年の作品だけあって、頭から終わりまで現代音楽的。鐘を模したような不協和的で音がキンキンと耳につくところが、面白くはある。
リストの<カリヨン>とは全く違ったカリヨン。やや金属的な響きがするところが、似ているといえば似ている。
どちらかというと、こっちの方がカリヨンの響きに近いんじゃないかという感じがする。

レーガー 《マリアの子守歌 ~<素朴な歌>Op. 76より第52番》(ピアノ編曲版)
やはり有名な曲だけあって、旋律が清々しくて綺麗。ピアノ版への編曲、ペンティネンの演奏ともとっても良い感じ。変奏曲のずっしり重いレーガーとは違っていて、やはりピアノ小品の世界のレーガーはとてもシンプルで美しい。
ピアノ1台で弾いているにしては、色彩感のある響きが美しく、まるで2人で弾いているような印象。
ペンティネンの現代音楽的《カリヨン》の響きを聴いた後なので、もともと綺麗なこの曲がよけいに美しく聴こえる。

ブゾーニ 《クリスマスの夜 Nuit de Noël》(1908年) [楽譜ダウンロード(IMSLP)]
1900年代の作品なので、初期のロマンティックな《シャコンヌ》の頃とは作風がかなり変わっている。
最初はとても清らかな響きの旋律で静かに始まり、徐々に調性が曖昧になっていき、不協和的な和声が強くなっていく。その不協和的な響きが、ちょっとユーモラスな感じで楽しげ。
右手のトリルのオスティナートの上を、クリスマス的な雰囲気の調和的な旋律と不協和的な旋律が何度か入れ代わり流れていくところが面白い。
トリルの響きは、月明かりに照らされながら、深々と静かに降りつもっていく雪のイメージのような感じ。
ドビュッシーの《子供の領分》にある<雪が踊っている>でも、オスティナートで雪の降る様子が表現されているけれど、ブゾーニよりもずっと描写的に聴こえる。

メシアン《幼な子イエスにそそぐ20の眼差し》(1944年)<ノエル>、<イエスの口づけ>
<ノエル>は冒頭から、一体に何が始まったんだろうと思うような騒々しさ。最後まで聴くとちょっとファンタスティックなところもある。<ノエル>というタイトルのわりには、お決まりのクリスマスらしい雰囲気はしないけれど、こういう曲があるのも、ありふれたクリスマスアルバムとは違って面白い。

<イエスの口づけ>はとても静謐さと神聖な雰囲気に満ちた曲。
メシアンのピアノ独奏曲は、微細な変化をしながらわりと長い曲が多い。これはまだマシな方(だと思う)。
同じ旋律が多少変形されながら、終盤近くでかなり盛り上がって、12分くらい続く。
ゆったりとしたテンポの旋律と、やや現代風だけれどかなり調和的な和声の響きが透明感があってとても美しい。
中盤以降は変化が大きく、クライマックス的な盛り上がりもしっかりあるので、途中で挫折した《鳥のカタログ》よりはずっと聴きやすい。

<「みどり児イエスに注ぐ二十のまなざし」の解析>(専門的なとても詳しい解説)を読むと、イエスにまつわる象徴的な意味がいろいろ込められているようで、仏教徒の私には理解不能。

最初と最後の曲は バッハ=ケンプ編曲版の《甘き喜びのうちに》(BWV 608)《いざ来たれ、異教徒の救い主よ》(BWV 659)
鐘が鳴り響いているようなピアノの響きがとっても美しいバッハ。やっぱりクリスマスアルバムは、バッハで始まり、バッハで締めくくり。
特に、最後の《いざ来たれ、異教徒の救い主よ》の厳粛な雰囲気と静かに切々と祈るような旋律がなんともいえません。

tag : ペンティネン バッハ ブゾーニ メシアン レーガー フランツ・リスト

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ローレム/11の練習曲、6楽章のピアノ・コンチェルト
ネッド・ローレムは歌曲で知られている作曲家。交響曲や協奏曲、室内楽曲も数は多くはないが、いろいろ残している。
初めて聴いたのは、たまたまカッチェンのモノラル録音集に収録されていたピアノ・ソナタ第2番。これがなかなか良くて、他の曲を聴こうと探してみても、録音がそれほど多くはない。
その中では、ピアノ協奏曲第2番はプーランクとガーシュインの影響を感じさせるので、わりと聴きやすい。この曲は、パリ在住時代、ローレムの友人だったカッチェンをイメージして作曲したので、技巧的にも華やかで、カデンツァがやたら長いのが面白い。
 ローレム:ピアノ・ソナタ第2番の記事
 ローレム:ピアノ協奏曲第2番の記事


ピアノ協奏曲は、この他に《左手のためのピアノ協奏曲》、《6楽章のピアノ・コンチェルト》が録音されている。
《左手の...》は右手を故障したレオン・フライシャーの録音(これは未聴)、《6楽章の...》はジェローム・ローウェンタールの録音がそれぞれ残っている。
管弦楽曲でもピアノが入っているのは《11人の演奏家のための11の練習曲》(1959年)。

《6楽章のピアノ・コンチェルト》と《11の練習曲》がカップリングされた珍しいCDがFirst Editionからリリースされている。
Ned Rorem: Eleven Studies for Eleven Players; Piano Concerto in Six MovementsNed Rorem: Eleven Studies for Eleven Players; Piano Concerto in Six Movements
(2004/02/10)
The Louisville Orchestra, Robert Whitney, Jorge Mester, Jerome Lowenthal

試聴する(米国amazon)



 《11人の演奏家のための11の練習曲 Eleven Studies for Eleven Players 》(1959年)

楽器は11種類あるが、楽章によって使われる楽器が違うので、奏者によって演奏する楽章の数が違う。フォーマットとしては、ソナタ、トリオ、カルテット、室内オーケストラ。
第1楽章でトランペットにより主題が提示され、続く第2楽章と、最後の4つの楽章は変奏曲形式になっている。
全般的に管楽器が旋律、伴奏側両方によく使われているが、第4楽章と第7楽章は、ピアノ、ハープ、弦楽器主体。第6楽章はパーカッション2台のみ。
似たような曲想の楽章があっても、楽器編成が違っていると、色彩感や響きが変わるので、結構バラエティがあるように聴こえる。
解説では、この形式と曲想が色とりどりに変わっていく作風を"Musical Soda-Fountain(ソーダスタンド)"なんて喩えている。管楽器が目立つ曲が多くて、その音色が好きな人なら、わりと面白く聴けそう。
ハープの出番は少ないけれど響きが綺麗で、弦楽+ハープ+ピアノの組み合わせた時の響きが一番好みに合っている。

Ⅰ Prelude (11 players:trumpet solo)
冒頭は新古典主義のストラヴィンスキーの《カプリッチョ》かと思えたような打楽器の”パンパン、パン”という連打&ピアノの低音の”ガ~ン”。
この短いフレーズが何度か繰り返されていくのを背景に、トランペットのソロが延々とアンニュイな雰囲気の旋律を引き続けている。
アメリカの現代音楽で良く感じる乾いた叙情感が漂って、黄昏たような雰囲気がする。

Ⅱ Allegretto (9 players)
ピアノの伴奏を背景に、管楽器にパーカッションが、同じ旋律をカノンように順番に弾いていく。
やや不協和的だが楽しげな雰囲気の旋律で、ここもストラヴィンンスキーみたい。

Ⅲ Bird Call (4 players:flute solo)
ゆったりとした静かな曲想で、フルートのソロは、暗い森のなかで鳥が寂しく歌っているようなイメージ。

Ⅳ The Diary (6 players)
過去を振り返るような懐かしさを感じさせる旋律を、弦楽とハープに管楽が弾いている。こういう曲想はやはり弦楽だと情感豊か。

Ⅴ Contest (5 players:trumpet and clarinet solos)
trumpetとclarinetがミニマル的な旋律をカノン風に繰り返し弾き、ピアノがリズムセクションがわり。

Ⅵ Invention for Battery (2 players)
ジャズ風で、パーカッションがいろんな音をランダムに立てて、リズムだけで成り立っているような曲。テンポがゆったりしているので、音の隙間が多い。

Ⅶ In Memory of my Feelings (10 players:cello solo)
これも叙情的な曲で、かなり抑制された情感が漂う。
初めから暗い感じのチェロのソロが延々と続き、ピアノやハープもそれに呼応するような重たげな伴奏。時々パーカッションが低くゴーンと鳴っている。前半はちょっと憂鬱な感じ。
やがて曲想が変わり低音部から徐々に高めの音へと移行しつつ、明るめの色調の旋律になり、徐々に開放感されていくような雰囲気になる。

Ⅷ Fugato (11 players)
これもストラヴィンスキー風の不協和音がかった、明るくてどこか人を食ったようなところのある旋律。
管楽器が順に主旋律をフーガのように弾いていき、他の楽器も徐々に加わっていく。時たまハープが弾くアルペジオが幻想的で綺麗。

Ⅸ Elegy (11 players:English horn solo)
冒頭はイングリッシュホルンのソロ。元々音色自体に翳りがある上に叙情的な旋律。ついで弦楽と管楽がこの旋律を弾き、パーカッションとピアノがリズムセクションのようにリズムを刻んでいる。この曲も砂のように乾いた哀感がある。

Ⅹ Presto (5 players)
管楽と弦楽が旋律を弾く。ピアノの伴奏が珍しく派手で、速いテンポで目まぐるしく動き回っている。

XI. Epilogue (11 players:clarinet solo)
憂鬱げなクラリネットのソロ。バックではパーカッションとピアノが冒頭の楽章と同じく同音連打して、さらにフルートや残りの楽器も伴奏に加わる。
ヴァイオリンのソロも終わりには入ってきて、締めくくりらしく華やかに終る...とおもったら、一旦ディミニヌエンドしてから静かになり、少しクレッシェンドして明るめの安定した協和音で締めくくり。



 《6楽章のピアノ・コンチェルト》(1969年)

パリ在住時代に作曲したピアノ協奏曲第2番とは全く違った作風。
この《6楽章のピアノ・コンチェルト》は、1960年代頃に流行った前衛的な音楽に影響されている気がするような、全体的にかなりメカニカルなパッセージ、打楽器的なピアノ奏法、やや威圧的な不協和音が特徴的。
旋律や響きの妙というよりも、音自体の動き方やリズムの方が目立って聴こえてくる。オケも打楽器や管楽器のパートが賑やか。
解説ではこの作風を”programmatic(標題音楽的)”と評していた。
聴きにくいタイプの曲ではないといっても、聴きやすいともいい難い。楽章ごとの標題と音楽とのイメージがつなげにくく、ちょっととらえどころがないかな~という感じ。

この曲のなかでは、第4楽章Signsが旋律も響きも最も美しい。
静かな曲想に切り替わって(オケは相変わらず賑やかで物々しいが)、前の3つの楽章とは違って、ピアノは高音域主体のやや憂いを帯びた叙情感を感じさせる旋律と和声がわりと美しく感じる。
弱音主体のかなり内省的で雰囲気で、もやもやとした不可思議さが漂っている。時々突発的にフォルテになったりしているが、最後は段々明るい色調になっていって、雲が消えて視界がすっきりとしたような感じ。第5楽章Lavaも似たような雰囲気。

第6楽章Sparksは、一番明るくて躍動感もある。”Sparks”というタイトルのごとく、速いテンポで、ピアノが目まぐるしく動き回り、とても煌びやか。
オケは、ここでも打楽器と管楽器が目立って、物々しく騒々しい。Sparks(火花)が激しく踊っているといえば、そういう気もする..。

tag : ローレム

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コリリアーノ/ピアノ協奏曲
1938年生まれのジョン・コリリアーノは、ニューヨーク生まれの作曲家。
受賞歴が多い人で、交響曲第1番でグロマイヤー賞(1991年)、交響曲第2番(弦楽合奏のための)でピューリッツァー賞(2001年)。

映画音楽も「アルタード・ステーツ」、「レボリューション・めぐり逢い」などがあり、とりわけ1999年のアカデミー賞作品「レッド・バイオリン」が有名。この曲をもとに《レッド・ヴァイオリン奇想曲》というクラシック作品も書かれている。
最近では、ボブ・ディランの詩をもとにした歌曲集「ミスター・タンブリン・マン:ボブ・ディランの7つの詩」が2009年度のグラミー賞を受賞したのが話題になった。

コリリアーノの数少ないピアノ作品であるピアノ協奏曲は、とてもヴィルトオーソ的なピアニスティックな曲。
作品自体は基本的に調性があるので聴きやすくはあるが、調性が崩れ12音技法が使われている部分もあり、リズムは全楽章を通じて不規則で、変拍子が頻繁に現れる。
叙情的な雰囲気のパートがかなり使われていても、旋律はそれほどメロディアスでもないので、印象はあまり強くない。
どちらかというと、ピアニスティックな華やかさとオケの音色の色彩感、変拍子による不規則なリズム感、トーンクラスター的な響きなど、いろんな要素が混在して音の動きを追うのは面白いが、1度や2度聴いただけでは、テーマがいろいろ変形して展開していったり、変拍子も多くてリズム感が独特なので、構成がつかみにくい。
リーバーマンのピアノ協奏曲に似たところがあって聴きやすく、スケール感も結構あるけれど、わかりやすさという点では、リーバーマンの方がモチーフとその展開がずっと明快。

この曲の録音は少ないが、FirstEditon盤はジェームズ・トッコによるピアノ。トッコはこの曲を得意のレパートリーにしており、コリリアーノはトッコを”決定的な演奏者”と評しているらしい。伴奏はローレンス・レイトン・スミス指揮ルイヴィル管弦楽団。
このルイヴィル管は現代音楽の演奏と数多くの自主制作盤で知られているというアメリカ・ケンタッキー州のオケ。

John Corigliano: Tournaments Overture; Elegy; Piano Concerto; Gazebo DancesJohn Corigliano: Tournaments Overture; Elegy; Piano Concerto; Gazebo Dances
(2003/03/11)
James Tocco (Piano), Lawrence Leighton Smith (Conductor), Sidney Harth (Conductor), Louisville Orchestra (Orchestra)

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 ピアノ協奏曲

第1楽章 Allegro
バーバー、リーバーマンのピアノ協奏曲と似ていて、第1楽章はガンガンと騒然とした雰囲気のオケとピアノで始まる。違うところは色彩感がとても豊か。
イントロの数小節が終ると、ピアノが早速巨大なカデンツァを弾いている。背後でパーカッションとハープが鳴っていて、とてもカラフルな音色。
ピアノは打楽器的に力強いパッセージが主体。トゥッティの部分が少なく、少数の楽器が同時に演奏することが多いので、響きの厚みは薄い。
そのせいか、賑やかでちょっと厳つい雰囲気がするにしてしては、とても軽快。
旋律自体はほとんど歌謡性がなく、色彩感と不規則なリズムと変拍子による音のアクロバット的な動きの組み合わせが面白い。

このエネルギッシュな第1主題が終ると、とても穏やかな第2主題に。
ホルンのソロで始まって、叙情的で開放感を感じさせる旋律。静かな雰囲気のなかで、和声は調和的なので、ホルンとピアノのソロは綺麗な響き。
緩徐部以外は、ピアノは打楽器的な奏法を取り入れてリズム感が良く、パッセージも技巧的なところが多くて、ピアニスティックな曲。

14分という長めの演奏時間のなかで、この第1主題と第2主題が次から次へと形を変えて現れて、旋律自体も印象に残るような確固としたまとまりのあるパッセージがそれほど多くない。
解説で構成を確認したけれど、一度や二度聞いても構成が良くわからない曲だった。

第2楽章 Scherzo
Scherzoなので、ピアノが速いテンポで動きまわり、第1楽章の緊張感を壊すように軽快。
ピアノが細かいパッセージをメインで弾いているが、オケが背後で賑やか。管楽器がとても目立っている。ここはあっという間に終ってしまった。
スケルツォ的な主題は、絶えず繰り返されず3種類の和音で作られ、トリオに入ると冒頭のモチーフから派生した12音列を元に展開されている(と解説に書いていた)。

第3楽章 Andante Appasionata
ようやく緩徐楽章に。第3楽章の主題は、6つの音からなり、構成は中央でクライマックスになってから静かな単音のピアノの旋律へと移動するアーチ型。
はじめはピアノが静かにソロを弾いているが、管楽・弦楽とも音の厚みがかなりあるので、オケが結構賑やか。
バーバーやリーバーマンの叙情感とは全く違った、静かな森に佇んでいるかのような描写的なタッチの旋律。
Appasionataとあるように、徐々に高揚していくようにフォルテになっていくが、やっぱりここも騒然とした雰囲気になってしまう。これをドラマティックと言えなくもない。

第4楽章 Allegro
アタッカで繋がり、速いテンポのロンド。トーンクラスターを使ったフーガのように主題を管楽が順に弾き、続いてピアノがその主題を引き継いでいく。
ヒンデミットのようなトリルが多用されて、ちょっと不思議で軽妙な雰囲気。
拍子に強いアクセントがついたリズムで、ピアノが打楽器的に使われ、オケも同じ音型の旋律を弾いているのは、リーバーマンのコンチェルトに少し似ている。
ピアノがとても派手に動き回って、ピアノ協奏曲らしさのあるとてもピアニスティックな楽章。でも、オケもそれに劣らず、出番が多くて音も大きいので、どちらかというと協奏交響曲風な感じがする。

tag : コリリアーノ

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カヴァコス&デメンガ&パーチェ ~ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番
ロマン派のピアノ三重奏曲のなかで聴くのは、ブラームスとメンデルスゾーン。
ピアノトリオに限らず、そもそもロマン派の作曲家とはあまり相性が良くないので、もっぱら聴くのはブラームス。時々メンデルスゾーンとリスト。これに、バッハ、ベートーヴェン、現代音楽(20世紀の音楽)を加えると聴きたい曲がほとんどカバーできる。

秋になるとなぜか聴きたくなってしまうブラームスは、ピアノトリオをこの前聴きなおしたばかり。
ついでにメンデルスゾーンも聴きたくなってしまう。第1番は旋律の美しさと潤いのある瑞々しい叙情感が素晴らしく、短調でもブラームスのようなほの暗い翳りがないので、何度でも繰り返し聴いてしまう。
メンデルスゾーンの曲のなかでは、ピアノ/ヴァイオリン協奏曲、ピアノ独奏曲をさしおいて、一番好きな曲。第2番も同じくらいに良い曲だけれど、第1番はなにより旋律がメロディアスで綺麗。

第1番は古い録音ならスーク・トリオ、新しい録音ならフィッシャーがジョナサン・ギラードというフランス人の若手ピアニストと録音したPentatone盤を聴いていた。
スーク・トリオはなぜか絶叫調でけたたましく、ピアノのフォルテが耳にキンキンくる(スーク・トリオにしてはこんな演奏は珍しい)。
Pentatone盤は音がとてもクリアで、ギラードのピアノが切れ味良く、ヴァイオリンやチェロよりもピアノの方が目立っている気がする。ただし時々フォルテが強くて騒々しいので、もう少し丁寧なタッチで綺麗な音で弾いて欲しいとは思うけど。
スターン/イストミン/ローズの古い録音も試聴したら、とても親密感があってかなり良い感じ。これも聴かないといけない。
この間見つけたのは、ヴァイオリンがカヴァコス、ピアノがパーチェと、両方とも好きな奏者のSONY盤。(チェロは初めて聴くパトリック・デメンガ。お兄さんのトーマスの方ではなくて。)
これも試聴してぴったり波長が合ったので、CDで全曲聴くとやはり期待通りの演奏。
しっとりした叙情感なかにも凛とした緊張感のある優美なメンデルスゾーン。カヴァコスのやや線の細い引き締まったヴァイオリンの音が綺麗で、ピアノは波がうねるように滑らかで軽やか。チェロは録音のせいかちょっと控えめに聴こえる。
このトリオは音楽の流れが途切れずにとてもしなやかで、リズミカルな躍動感もあって一番良いている録音。

カヴァコスとパーチェは、ノルウェーの音楽祭で初めてメンデルスゾーンの《ヴァイオリン, ピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調》で共演。この時2人はとてもスムーズに調和した演奏ができてお互い相性が良いことがわかり、いろいろ刺激になることも発見して、パーチェがカヴァコスの指揮するオケでソリストをつとめたり、カヴァコスのリサイタルでピアノ伴奏をするなど、定期的に共演するようになったという。[Youtubeのインタビュー録画より]

Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2
(2009/02/16)
Leonidas Kavakos (violin), Patrick Demenga (cello), Enrico Pace (piano)

試聴する(米国amazon)

このSONY盤は残響がやや多めで水気を含んだような潤いのある響きがリリカルに聴こえる。ヴァイオリンの音が一番明瞭でとても綺麗に聴こえるが、チェロとピアノの低音部が少しモコモコ。ピアノはやや後方から聴こえてくるが音量は充分。ただし高音がスカスカして響きが良くない。総じてヴァイオリンにフォーカスしたような感じの録音。演奏自体には全く文句なく満足しているけれど、音質面ではフラストレーションを感じるものがある。
AKGのモニター用ヘッドフォンで聴いてみると、楽器のバランスが均等に近くなり音もかなりクリア。ピアノの音も大分前方に出てきて高音もかなり綺麗に聴こえて、不満もすっかり解消。AKGはヘッドフォンにしてはもともとかなり音が良いので、このCDはヘッドフォンで聴くに限る。
フィッシャーのPentatone盤の方が残響が少なく、3つの楽器の音がかなり分離されて明瞭に聴こえる(フォルテの時はピアノがかなり強め)。ステレオで聴くなら、音の鮮明さだけをいえばPentatone盤が良いし、第1番の演奏はかなり良いので時々聴いている。

メンデルスゾーンのピアノ作品といえば《無言歌》が有名。短いながらも旋律の美しい曲が多く、テクニカルにはそれほど難しくもないので、子供の頃はピアノのレッスンの教材になっていた。
”無言歌”とは違って、ピアノ協奏曲や変奏曲などは華やかな技巧を凝らしてとてもピアニスティック。
このピアノ三重奏曲のピアノパートも、ピアノ協奏曲並に技巧的でとても華やかに聴こえる。
ピアノパートが難しいブラームスのピアノトリオに比べて、大きな跳躍はあまりないし、和音も最大8度なのでそんなに開いていない。ただし、スケールでもアルペジオでも音はかなり詰まっているので、AllegroやPrestoで弾くところは指回りが良くないと、切れの悪い演奏になってしまう。
パーチェは、ブゾーニのヴァイオリンソナタ(これもピアノパートがソロ並に難しい)でとても冴えていたので、このメンデルスゾーンでも鮮やなテクニックと流れるように滑らかな弾きぶり。

 ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49(1839年)

第1楽章 Molto allegro agitato
冒頭のチェロの憂いの満ちた深い響きがとても印象的。パーチェのピアノのアルペジオは響きが柔らかく、波がうねるようなクレッシェンドがダイナミックで流麗。
この主題にはピンと張り詰めたような叙情感が流れていて、清々しい情熱をおびたこの主題を一度聴くと、なかなか忘れられない。この楽章のピアノパートを弾いてみると、甘く切ない響きの和声がとてもメロディアス。”無言歌”を弾くより、この曲を弾いている方がずっと気分が良い。

やがて長調に転調して、ほっと一息ついたような第2主題が登場する。
この2つの主題が絶えず入れ代わって、光と影、緊張と弛緩が交錯しながら、展開していく。
和声の美しさに加えて、音に水気を含んだような潤いがあるように感じられるせいか、とても瑞々しい感じがする第1楽章。

第2楽章 Andante con moto tranquillo
ピアノ独奏による叙情的な旋律は、まるでメンデルスゾーンの”無言歌”を聴いているような柔らかく明るいタッチで、とてもほのぼのとした雰囲気。
ピアノが伴奏に回って、チェロとヴァイオリンのデュオになるが、すぐにピアノがソロで続きを弾き始まる。第1楽章もそうだったけれど、ピアノがいつもどこかで鳴っているので、かなりピアノの存在感が強い感じがする。
中間部では、短調に転調して旋律が憂いを帯びていき、切々と訴えるように徐々に強くなっていく。ここはヴァイオリンとチェロのデュエットがこの旋律に良く映えている。

第3楽章 Scherzo. Leggiero e vivace
悲愴感と切迫感のあるブラームスのピアノトリオのスケルツォとは違って、明るく軽快なスケルツォ。
小さなバレリーナが舞台の上を目まぐるしくクルクル動き回っているように躍動的で軽やかな雰囲気。
このピアノパートは細かく速いパッセージが続くピアニスティックな書き方。パーチェの指さばきはすごぶる良く、タッチも軽やかでシャープ、急速な強弱の変化も滑らかで、特に弾むようなリズム感が爽快。フォルテのタッチのコントロールも良く、強すぎたりバタバタした感じがしないのが良い。

ついピアノの方に耳が集中してしまうけれど、ヴァイオリンとチェロもリズミカルに動き回っている。
この楽章はヴァイオリンとチェロがかなり違った動きをするので、3つの楽器の旋律を聴き分けていると、結構面白く感じる。
ラストは、ピアノが鍵盤上を細かい動きで駆け上がってから、ちょっと気が抜けたみたいに、弦のピッチカートと一緒に、ポロン、ポロン..と終るのが、とても可愛らしい。

第4楽章 Finale. Allegro assai appassionato
この楽章の主題は短調で独特のアクセントのあるリズム(舞曲みたい?)が緊張感を生み出しているようで、これが頻繁に登場する。
このリズムを持った主題が、ピアノか、またはヴァイオリン&チェロ(の両方かどちらか)かのパートで、変奏されながらほとんどずっと(第2主題とフィナーレの部分は除いて)演奏されているので、嫌でも記憶に定着してしまう。
ややゆったりと大らかな雰囲気の第2主題をはさみながら、シンプルな主題が楽章中を展開されていくので、旋律の流れ自体はわりと単純。速いテンポでかなり疾走感があるのと、ピアノとヴァイオリン・チェロとの主題の旋律の受け渡しが目まぐるしい。
この楽章のピアノパートは、第2主題を弾くところ以外は、ほとんど休む間もなく鍵盤上を高速で動き回っている。
和音、アルペジオ、スケールを詰め込んでいるので、とても華やかだけれど、ピアニストはかなりの運動神経がいりそう。ここもパーチェのピアノはうねるように滑らかなフレージングと軽やかな指さばきが鮮やか。


 メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第2番の記事

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スメラ/ピアノ協奏曲
エストニアの作曲家レポ・スメラ(1950年~2000年)のピアノ協奏曲(1987年/1997年改訂)は、とても神秘的で冷たく研ぎ澄まされた音楽。
このところアメリカの現代音楽ばかり聴いていたので、これは全く違う文化圏の音楽だとすぐにわかる。
ピアノの響きは氷のように透明感があり、ファンタスティックな雰囲気の漂う旋律がとても綺麗。
全体的にシサスクの音楽に響きやモチーフが良く似ているので、シサスクの作品だと言われてもあまり違和感はない。
シサスクは宇宙ものが多いので、イメージとしても音感としても、絶対零度(だった?)の宇宙空間的な冷たさを感じるが、スメラは表面は冷たく凍っていても、その下でチラチラと炎が瞬いているような熱さがある。

スメラもシサスクも、和声はさほど不協和的ではないのでとても美しいけれど、異世界的なミステリアスな響きがする。
旋律も歌謡性はなく、どちらかというと描写的。ある物理現象を音で表現しているようなイメージ喚起力がある。シサスクの宇宙ものや、クラムのマクロコスモスを聴いていたので、つい宇宙的な現象をイメージしてしまう。
楽章によっては、”スター・トレック”のバトルシーンに流れていても、全然違和感がない感じ。(”スター・ウォーズ”には全然向いていない。)


第1楽章 Come cercando un tempo
冒頭は高音域のピアノ・ソロで始める。密かに何かが徐々に生成しつつあるような、ちらちらとした動きを感じさせる旋律。
ここに、オケのパートが部分的に時々加わって、徐々に動きと色彩感のある旋律に変わり、生成のスピードが加速されていくようなイメージになる。
終盤になると、突然高音域から低音へとピアノが移動してガガ~ンと衝撃のような音を打鍵をするので、何かが暴発したような雰囲気。
その直後に高音のフルートとピアノが、チロチロと青白い炎が燃えているようなリズミカルな旋律を弾きながら、徐々にテンポを落としてフェードアウト。

第2楽章 Incantando. Fereco
アタッカでつながり、ピアノが鈍い響きの低音をオスティナートして、何かが起こりそうな前兆のような冒頭の旋律。オケも同じように低音域あたりで静かに蠢いている。
ピアノの右手側は、何かがふつふつと沸き起こりつつあるような雰囲気の旋律を弾いていて、オケともども徐々に加速し、響きも厚みが増していく。
最後は猛スピードに加速して突如としてプツンと止まり、再びテンポを落として、同じ旋律を繰り返し、オケの響きがさらに厚みを増して、また加速していく。
終盤は、リズム中心のフレーズの組み合わせになり、躍動感と切迫感が強くなっていく。
この旋律、どこかで聴いたような気がする。シサスクの曲に似ているせいか、デ・ジャ・ヴみたいな感じがするのに、どの曲だったかが思い出せない。

両楽章とも、ミニマル的にフレーズを変形しながらオスティナートしていく。和声の響きがとても美しく、旋律もファンタスティックで、曲の流れがドラスティックに盛り上がっていく。
どうもこの曲を聴いていると、SF映画を思い出してしまうので、ミニマル的とはいえグラスよりも聴きやすい。


同じエストニアの作曲家であるペルトと違って、スメラの録音はどの作品でもそれほど多くはなく、このピアノ協奏曲はBIS盤とFINLANDIA盤の2種類があるくらい。
これはBIS盤のカレ・ランダルのピアノ、パーヴォ・ヤルヴィ指揮マルメ交響楽団の演奏。

Sumera: Musica Tenera; Piano Concerto; Symphony No.4Sumera: Musica Tenera; Piano Concerto; Symphony No.4
(1994/12/20)
Paavo Järvi (Conductor), Malmö Symphony Orchestra (Orchestra), Kalle Randalu (Performer)

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