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スティーヴン・ハフ ~ ツォンタキス/ゴースト・ヴァリエーションズ
スティーヴン・ハフの現代アメリカの変奏曲をテーマにしたアルバム『New York Variations』から、ツォンタキスの《Ghost Variaions》。
このハフの録音が世界初録音となる珍しい曲。

1951年生まれのツォンタキスの日本語情報はほとんどなく、HMVの紹介文だと”権威あるグロマイヤー賞、チャールズ・アイヴズ・リヴィング賞”を受賞している作曲家。
ツォンタキスのピアノ協奏曲はハフに献呈され、2005年にハフが初演、録音もリリースされている。
ブックレットにはハフ自身による解説が載っていて、特にこの《Ghost Variaions》の作品解説は楽曲構造に関して数頁に渡って詳しく書かれている。ハフは作曲家でもあるので作品解説はいつも詳しく、見知らぬ曲を聴くときはとても参考になる。
ブックレットの解説では、1980年代の調性の再発見/回帰へのトレンドのなかで、ツォンタキスは過去の慣れ親しまれている旋律と調和的な和声のなかから、独自の個性的な和声を開拓していく方向へ向かった。代表作は弦楽四重奏曲第4番で、それ以降書かれた作品の中ではこの《Ghost Variaions》が最も重要な作品。

New York VariationsNew York Variations
(1998/05/12)
Stephen Hough (Piano)

試聴する(hyperionサイト)



《ゴースト・ヴァリエーションズ/Ghost Variaions》(1991)

ハフの解説によれば、<ゴースト>というタイトルが象徴しているのは、スピリチュアルなもの、記憶、夢といった世界。モーツァルトのピアノ協奏曲第22番の第3楽章の主題に基づいた伝統的な変奏が現れるところは、まるで劇中劇のよう。変奏曲という形式性は消えていて、変奏ではなくむしろメタモルフォーゼン(変容)というアイデアの世界。

和声的にはやや不協和的でファンタスティックな響きがとてもモダン。ハフのシャープなタッチとクリアな響きが美しく映えている。
特に、第1楽章でモーツァルトのピアノ協奏曲の主題が登場して以降の展開が面白い。第3楽章はその主題旋律が変奏というよりも流麗に変容し和声の響きも幻想的でとても美しくて、この曲(というかアルバム)の中で一番印象的で気に入った曲。


第1楽章 Ad Libitum
冒頭から幻想的な響きは美しいが、主題がどうなっているのかつかみどころがない曲。
旋律に歌謡性はあまりないのに、かなり内省的な雰囲気が強く感じられて、モノローグを音で聴かされているような気がする。

終盤近く(9m20s頃)に、不協和音にまじって突如エコーするように侵入してくるのはモーツァルトのピアノコンチェルトの旋律の一部(たぶん)。やがて、ピアノ協奏曲第22番の第3楽章の主題だけが明瞭に現れてくるところは、突然ゴースト(幽霊)が現れて徘徊しているような奇妙さ。
普段聴いている楽しげで健康的なこの旋律が、ここではデ・ジャ・ヴを伴って、どこかしら異世界の窓から流れ込んできたような不思議な感覚がする。
初めは、原曲どおり調和的な明るく楽しいモーツァルトの旋律が、徐々に不協和音に侵食されていき、まるでシュニトケ風。でも、シュニトケよりも不協和音の響きは調和的な方で、響きが互いに融合していくので、パロディ的で調子はずれのような感じがしないというところが、シュニトケとは違っている。

第2楽章 Scherzo 1
冒頭から1/3くらいは、変則的なリズムが流れたジャズ風の曲。モダンジャズのピアノソロ曲だと言われても全然違和感がない。
終盤は、スローテンポで、モーツァルトの主題の変奏が静かに、やや不和和音混じりに展開されていく。

第3楽章 Scherzo 2
スケルツォというよりタランテラ風。
モーツァルトの主題がリズミカルでシャープな現代的な旋律に変形され、また主題本来の天国的な美しい旋律も交錯し、この曲もとっても不思議な感覚がする。
この単純な主題が、現代的な不協和音の世界と伝統的な調和的な音の世界の間を行き来し、次から次へと姿形と響きを変えていく様は、変奏というよりもメタモルフォーゼンの如く七変化しているような感じ。
あまりにめまぐるしく展開するので、聴いているだけでは構成が良くわからないけれど、なぜか最後までとても面白く聴けてしまう。
特に、不協和音で変奏されていく中を度々突発的に現れるモーツァルトの主題の響きの美しさはとても幻想的。
ガラスのような透明感がヒンヤリと冷たく、遠くからエコーしているような浮遊感がある。これが繰り返し現れてくると、なぜかコラールのように聖的なものが漂っているような気がしてくる。
3楽章中、この楽章が切れ目なく主題が変形されていくところが最も面白く、キラキラと煌くような響きの美しさもとっても印象的。

tag : ツォンタキス スティーヴン・ハフ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

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好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

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