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『ブランジュリ タケウチ どこにもないホームベーカリーレシピ』
ふだん食べているパンは、ホームベーカリーで焼いた食パンと、ホームベーカリーでパン生地まで作ってオーブンで焼いたベーグルやナン、たまにピザ。蒸しパンとパンケーキもおやつによく作っている。
菓子パンの類をほとんど食べないのは、マクロビオティックの本で「菓子パンはケーキのようなもの」と書いてあって、確かにバター、砂糖、卵、牛乳がたっぷり使われているリッチな生地のパンはケーキに近い高カロリー食品だと思ったから。卵や乳製品はなるべく摂らないようにしているし。

パンを買うことはめったにないので、人気のベーカリーショップというものを全然知らない。
All About Japanの読者投票”ベストパン★2003 西日本編”でベストワンだったのが、大阪靭本町の<ブランジュリ タケウチ>。
会社の近くにあるお店だったのに一度も買ったことがないし、何回かその界隈は通りがかったはずなのに、そんな大人気のパン屋さんを見かけた記憶が全然ない..。

たまたまホームベーカリーのレシピブックを探していて、『ブランジュリ タケウチ どこにもないホームベーカリーレシピ』という本を発見。
ホームベーカリーで焼く食パンレシピが2/3、残り1/3はその焼きあがったパンを使った料理レシピ。
個人的には、後半も食パンレシピとか、パン生地からつくる成型パンのレシピを載せてもらいたいと思ったけれど。

ブランジュリ タケウチ どこにもないホームベーカリーレシピブランジュリ タケウチ どこにもないホームベーカリーレシピ
(2009/11/24)
竹内久典

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レシピの数はあまり多くなく、その中では、ハードトーストや全粒粉、ライ麦を使ったもの、ゴマを混ぜたものとかは、わりとリーンな食パンなので、作ってみても良さそう。
他の食パンは、バターや砂糖、卵、牛乳を多量に使っているとてもリッチな生地のパン。いつも油脂・乳製品は極力減らしたパンしか焼かないので、ほとんどのレシピはそのままでは使えない。
<ブランジュリ タケウチ>で作っているパンをホームベーカリー用にアレンジしたらしいので、どうしてもリッチなパンが多くなるらしい。
スイートパン系なら、”ショコラバナーヌ”というバナナとチョコパウダーを使ったケーキっぽいパンならまだしも砂糖とバターが少ない方なので、お菓子がわりにさらに砂糖とバターを減らして作ってみても良いかなという感じ。

本を買うほどでもないけれど、<ブランジュリ タケウチ>のパンをホームベーカリーで作ってみたいと思う人なら、panasonicのホームページにある「ベーカリー倶楽部」にあるホームベーカリー用レシピをどうぞ。
『どこにもないホームベーカリーレシピ』に載っている”胚芽とはちみつのパン”と”ショコラバナーヌ”、本に載っていない”じゃがいも食パン”の合計3つの食パンレシピ。
”じゃがいも食パン”は、バターなしのとてもヘルシーな配合でもちもち。これなら好みにぴったりなので、近々作ってみたいパン。

tag : ホームベーカリー

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ネッド・ローレム/3つのピアノ・ソナタ
米国の現代音楽作曲家のなかでも大御所の一人(と見なされているらしい)、ネッド・ローレムは、第2次大戦後直後の若かりし頃、音楽の勉強のためにパリで暮らしていた。
その時期に、アメリカ人演奏家・作曲家でパリにいたのは、知っているだけで、ゲイリー・グラフマン、飛び級で大学を卒業した直後パリに留学してきたジュリアス・カッチェン、師シュナーベルの元を離れたレオン・フライシャーなど。
当時ドイツは敗戦の混乱期にあり、戦時中にユダヤ人や反政府的とみなされた演奏家はアメリカやスイスなどに亡命していたし、音楽界では著名な演奏家がナチズムとの関係を厳しく追及されて混乱していたはずなので、当時欧州でクラシックの演奏活動が盛んだったのはパリだったのかもしれない。

ローレム、カッチェン、グラフマンは、パリ在住中は親しい友人だったので、音楽だけでなくプライベートでもよく付き合っていたらしい。
カッチェンのDECCA録音集BOXのブックレットには、パリ時代のカッチェンとの親交や彼の演奏活動について、グラフマンとローレムの思い出話が載っている。

ローレムは歌曲の作品で知られているので、ピアノ作品はそれほど数多くはない。
それでも、ピアノ協奏曲が数曲(第4番までは少なくともある)、独奏曲で録音されている曲は、ピアノ・ソナタが3曲、8つのエチュード、ピアノのためのトッカータ、リコーリング、3つの舟歌、など。
ピアノ協奏曲とピアノ・ソナタのそれぞれ第2番は、カッチェンがピアノで弾くことを想定して書かれた作品。
ピアノ協奏曲第2番は1951年の作品で、現代のフランス音楽とガーシュインが融合したような洒落ていて美しい曲。1954年にカッチェンのピアノ、ジャルディーノ指揮フランス国立放送管弦楽団の伴奏でパリで初演された。
ピアノ・ソナタ第2番もやや調性感が曖昧で現代的な乾いた叙情感のある聴きやすい作品。カッチェンがモノラル時代のDECCAに初録音している。

ピアノ協奏曲第4番は左手ためのピアノ協奏曲で、1993年にグラフマンが初演。フライシャーも録音している。これはローレムにしてはちょっと前衛的なタッチの作品。

ローレムの作風は「難解な前衛的手法には走らず、旋律を重視し、変化和音やトーンクラスターを取り入れるなど調性の拡大を試みた」と言われる。
ピアノ作品はだいたい聴きやすいものが多く(特に初期の作品)、ピアノ・ソナタは第1番(1948年)、第2番(1949年)、第3番(1954年)とも作風が似ている。
前衛的な難解さはなく、軽快なリズム感と調性感の強い安定した和声が美しく、さらりと乾いた叙情感と洒落た現代的なセンスのある作品。
テンポの速い楽章は、リズミカルで軽やかなタッチで目まぐるしく動き回って、緩徐楽章はさらりとしたどこかレトロな雰囲気のする叙情感が美しく、現代音楽でもこういう曲ならBGMにもなりそうなくらいに心地よい。

3曲のピアノ・ソナタの録音は、オクラホマ大学の教授でピアニストのトーマス・ランナーズのCentaur盤。
ローレムのピアノ・ソナタ以外の作品を収録したピアノ作品集VOL.2もリリースされている。
ピアノ・ソナタはカッチェンの録音に比べて、かなり穏やかで柔らかいタッチなので、ちょっと緩くて重たい感じがする。
こういう解釈なんだろうけれど、響きがやや長く厚みあり、リズム感がやや鈍くて起伏もそれほど細かくはないので、表現が少し平板な感じはする。
でも、このCDで初めてローレムのピアノ・ソナタを聴けばそうは感じないだろうし、曲想はちゃんと伝ってくる。なにより3曲全部録音しているというのは貴重。

Three Piano SonatasThree Piano Sonatas
(2007/05/29)
Ned Rorem

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 <ネッド・ローレム/ピアノ・ソナタ第2番>の記事

 <ネッド・ローレム/ピアノ協奏曲第2番>の記事

tag : ローレム

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高橋雅子著 『少しのイーストでホームベーカリー』
高橋雅子さんの”少しのイースト”シリーズ。
ホームベーカリーを使う人が増えてきたためか、とうとうホームベーカリー版まで出てました。
他社のホームベーカリーレシピ本に比べて、ちょっと高めのお値段。パルコ出版らしくビジュアルに凝って写真が大きくてとても綺麗なので、これは仕方のないところ。

少しのイーストで ホームベーカリー 天然酵母コースでゆっくり発酵 (少しのイーストでゆっくり発酵パン)少しのイーストで ホームベーカリー 天然酵母コースでゆっくり発酵 (少しのイーストでゆっくり発酵パン)
(2010/07/07)
高橋雅子

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雑誌の「クロワッサン」(791号:10/25)でも、”少しのイーストでホームベーカリーレシピ”が載っていると、著者のブログに書いてました。


手捏ね用のレシピブック『すこしのイーストでゆっくり発酵パン』はたしか数年前に買って、ベーグルを何回か作ったのみ。
ベーグルは上手く出来てわりと美味しかったけれど、最近は発酵不要のお豆腐ベーグルばかり作っているので、この本は今は観賞用。
少しのイーストでゆっくり発酵パン?こんな方法があったんだ。おいしさ再発見!少しのイーストでゆっくり発酵パン?こんな方法があったんだ。おいしさ再発見!
(2007/01)
高橋 雅子

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『少しのイーストでホームベーカリー』のレシピは、手捏ねの時と同じくイーストの使用量を大幅にカット。
手捏ねだと冷蔵庫で長時間発酵させるところを、発酵時間がドライイースコースより倍くらいは長い天然酵母コース(捏ね・焼成含めてトータル7時間)を使う。
最近の機種は天然酵母コースがついているので、旧型の機種を持っている人以外は問題なくこのレシピで焼けるはず。

基本の食パンは、「ふんわり」「さっくり」「もっちり」の3種類。
食感の違いを出すために、牛乳や米粉を使ったり、砂糖やバターとかの量も変えたりして、3種類の配合がかなり違う。
ふだんドライイーストで焼くときは、牛乳なし・バター少量なので、このレシピはそのままでは使えない。
イーストの分量だけレシピ通りに減らして、自分の好みの配合でシンプルな食パンを焼いてみると、予想どおりちょっと膨らみが悪い。
もともと膨らみにくい方法なのと、レシピの粉量がいつも焼いている量より30g少なかったせいもある。
それ以外は、予想以上に良い焼き上がり。
パンの表面は、天然酵母パンを焼いたときと同じように、滑らかでつややかだし、高さがでなかったせいか薄~い茶色で好みの焼き色。

半日置いてから、パンナイフで7枚(いつもは8枚)に切り分けて食べて見ると、皮の部分がとても柔らかく、クラムもしっとりして、キメも細かくて、ふんわり。トーストすると、クラムは少しもっちりした食感。
油脂・乳製品不使用の天然酵母パンにかなり近い食感で、小麦の味も強い(気がする)し、ほんのり甘みもあって(砂糖も多いせい?)、これはなかなか美味しい。
いつものようなイースト食パンらしいイーストの香りがしないのに、トーストを食べている最中に気がついた。

強力粉を変えると、膨らみ具合が変わる。
南部小麦のテリヤ特号とキタノカオリを使ってみた。・
テリヤ特号はそれほど膨らまないけれど、キタノカオリは普通のパンコース以上に膨らんで、気泡がかなり多くてちょっと過発酵気味。
イーストを小さじ1/4よりかなり大目に入れたのと、バターを10gと心持大目。
イーストとバターをちょっと減らしても、やっぱりキタノカオリはよく膨らむ。長時間発酵はキタノカオリには相性が良い(良すぎる)のかも。
ふわふわパンは好きではないので、もっとイーストとバターを減らしてみないと。

もっちりタイプを、粉量を減らして、上新粉がなかったので代わりに白玉だんご粉を使って焼いてみる。
やっぱり高さは出なかったけれど、薄めの焼き色でキメも細かく、もちもち。
味もお米っぽい甘さがあって、これもなかなか美味しい。しっかり焼き色がつくくらいにトーストすると、カリカリして、お米の粉の入ったパン独特の美味しさ。
グルテン入りの米粉を混ぜると、白玉だんご粉よりも膨らみは良くなる。

このレシピの良いところは、天然酵母が使えない夏でも、バター不使用の天然酵母パンに近いパンが焼けそうなところ。
できればバターは使わずにすませたいので、バターなしでどんな焼き上がりになるか、試してみないと。
それに、米粉を使わずもちっとした食感にするには、粉を増やす、湯種を使う、バターを減らすとか、配合を変えてみると良さそう。

ちょっと気になったのは、ドライイーストの消費量がかなり減ると、冷凍室で保存していても、あまり長期間保存していると、イーストの発酵力が弱くなりそうなこと。
これからはイーストの小分けパッケージを買うか、もっちり焼きあがる湯種パンとかイーストの使用量がもともと少ないフランスパンは、ドライイーストコースで焼いて、早めに使い切った方が良いかも。


この本のレビューを見ていて、おかしかったのは塩の量にまつわるエピソード。
初版のみ29頁の”さっくりプレーン”パンの塩の量に誤植があって、1斤用の場合なら、4gのところを12gと書かれている。(重版では修正されているらしい)
パンを作り慣れている人なら、塩をこんなに大量に使うのは発酵しにくくなるのでおかしいと思うだろうし、きつい塩味のパンになるのも予想できるので、まず誤植を疑うに違いない。
レビューには、あまりパンを作ったことがないのか、活字になっていると正しいと思い込むのか、そのまま12gの塩を投入して、すごく塩辛いパンになった...という人もちらほら。
それにしても、12gも塩を投入しても、それなりにパンは膨らむものらしい。

tag : ホームベーカリー

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ガヴリーロフ ~ バッハ/フランス組曲
プロコフィエフのピアノ・ソナタの録音を探していた時に、ガヴリーロフが第8番を録音しているのを見つけて、その時たまたま目に入ったフランス組曲のCD。
フランス組曲は、リヒテル、アンデルジェフスキ、ケンプ、フェルナーとか、抜粋盤はいろいろ持っているけれど、全曲盤はリファレンス用にとりあえず持っているシフの録音だけ。
全曲盤でぴったりくるものがなく、そもそも聴くのは第5番ばかりだし、イギリス組曲の方が好きなので、もう新しく全曲盤を買う必要もないかなあと思っていたところ。

ガヴリーロフというと、ショパンのエチュードとかのバリバリと技巧で押すイメージが強くて、以前ゴルトベルクの録音を聴いた時も、クリスピーなタッチで指が良く回っているけど、変奏別の表情がちょっと一本調子で、色彩感もそれほどなくて単調かな...という印象くらいしか残っていない。
フランス組曲も似たようなものだろうなあと思いながらも、レビューを見るとこれが結構良くて、ちょっと興味が湧いてきて、早速試聴。
このフランス組曲が思いのほか素晴らしくて、ゴルトベルクとは全く違った演奏。
丁寧なタッチと絹のような繊細で柔らかい響きで弾くフランス組曲は、ゴルトベルクやショパンのエチュードを弾いたピアニストと同一人物とはとても思えない...。

ガヴリーロフのフランス組曲は、ちょっとロマンティックな雰囲気がするので、好みにぴったりというわけではない演奏なのに、聴けば聴くほど強く魅かれるところが不思議。
試聴しただけでも、今まで退屈に思えた曲がきらきら輝いて聴こえてくる。
曲ごとにタッチも響きも明瞭を変えているので、表情も曲想もコロコロと移り変わっていくところが鮮やか。
これなら、全曲通しで聴いても飽きずに聴けるはず。
いつも聴いている第5番のAllemandeは、速いテンポにしては優美な雰囲気で、ちょっと夢にいるような霞がたった柔らかい響きがとても印象的。Couranteは力強いけれどやや丸みのあるノンレガートで躍動的、Sarabandeはゆったりと語りかけるような歌いまわしで、思いをめぐらしているような内省的な雰囲気。”Gigue”は確信に満ちたような力強いタッチと躍動感。
どの曲も生き生きとして、音の間から自然な感情がこぼれおちてくるよう。

全体的に”優しく穏やか”なイメージがあったフランス組曲にしては、力強さと柔らかさのコントラストがはっきりしていて、かなりドラマティックなのかも。
ケンプが弾くフランス組曲なみに、ピアノの音がとても美しく、弱音のレガートは絹のようなまろやかさ。
ノンレガートの強いタッチで弾くときは、崩れることない堅牢さがあって安定感が爽快で、特にフォルテが中味の詰まった引き締まった音でとても綺麗。
かなり強いタッチのフォルテなのにまろやかさがあり、割れることも雑な響きになることもなく、こういうフォルテを弾ける人はかなり好き。
柔と剛のバランスがとても良くて、こういう風に偶然に見つけた録音には掘り出しものが結構多い。
フランス組曲の全曲盤ならこれだけで充分かも...と思えるくらいに試聴した印象がとても良くて、早速オーダーすることに。

Youtubeにあった音源で聴いてみると、やっぱり試聴したときの印象どおり、とても素敵なフランス組曲。
これを聴いてしまうと全曲聴かずにはいられない。今回は直観がしっかり当たってました。

J.S.Bach:French Suite No.5 G major BWV 816(1)




ガヴリーロフのフランス組曲のCDは何種類か出ているけれど、一番新しい廉価盤はイギリス組曲第6番とイタリア協奏曲とのカップリング。
イギリス組曲とイタリア協奏曲を聴いていると、フランス組曲とは急にタッチも何もかも違う弾き方になったので、???と思ったら、弾いているのはブーニンだった。
精妙さにやや欠けた粗く感じるタッチで(特にフォルテはきつい)、ピアノの音もそれほど綺麗ではないし、厳かというよりは元気で威勢が良いバッハ。直前にガヴリーロフのフランス組曲を聴いていたので、余計にそう感じてしまう。

French SuitesFrench Suites
(2005/08/30)
Andrei Gavrilov

試聴する(米amazon)


[追記]
ガヴリーロフのフランス組曲の録音は、1984年のEMI盤だけでなく、1993年のDG盤もあるのを発見。
基本的な解釈は変わっていないけれど、DG盤の方がフォルテが柔らかくて全体的にやや落ち着いた感じ。音質はEMI盤よりも残響めいたぼわ~としたところがなくて、クリア。
9年近くの年の差が出ているのか、EMI盤の方が自由で伸びやかで快活な演奏。
どちらも良いのでかなり迷ったけれど、音質が好みに近かったので、結局DG盤の方に。でも、EMI盤もやっぱり聴きたくなっているので、そっちも買うかも。

French Suites Bwv 812-817French Suites Bwv 812-817
(2003/04/01)
Andrei Gavrilov

試聴する(国内盤にリンク)

tag : バッハ

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有元利夫 - 天空の音楽
昔はよく美術展に通っていたし、画集・写真集の類も少しずつ集めていたので、CDほどのコレクターではないけれど、いつの間にか100冊近くたまっていた。
画集はクリムト、オキーフ、それにホッパー、シャガールなど、写真集はブレッソン、アーウィット、ケルテス、メイプルソープ、大石芳野のものが多い。
National Geographicの特別編集版の大型写真集もとても好きだったので、これはほとんど集めたし、いろんな写真家の作品を集めたテーマ別の写真集もちょこちょこと買っていた。
展覧会の図録集めも結構好きで、行っていない展覧会の図録でも通販で良く買っていた。主要作品以外も数多く載っていることが多く、プロフィールやら評論、年表などの付録ついていて、価格のわりに中味が充実しているので。

図録以外は原書の輸入版で買うことが多い。外国人の画家や写真家だと画集・写真集の日本版は少ないし、amazonだと原書がかなり安い価格で手に入ることが多い。
日本人の画家は、超有名な画家の美術展にはよく行ったけれど、すごく好きという画家がいないので、絵葉書集を持っているくらいで、大型本の画集を買うほどのことはなく。

最近たまたま日経ポケットギャラリーで見つけた画家が有元利夫。39歳の若さで病気で早世したという。
日本人の画家で早世した人というと、すぐ思い浮かぶのは佐伯祐三。
ほかにも若くして亡くなった画家は何人もいるので、音楽家に比べると画家は(病気で)早世する人が多いような気がする。

有元利夫の画風は、西洋のフレスコ画と日本の仏画の影響を受けているそうで、シュールな感じもする古典的な典雅さを漂わせる静謐な世界。
宮本輝の本の表紙に使われているので、見たことがある人は多いかも。
ほとんどの作品で、中世風(?)のシンプルなドレスを纏った、かなり太り気味で顔が小さな女性が登場する。女性といっても、中性的な感じで、どこかしら大理石的なまろやかでクールな質感。
色彩が鮮やかで、やや薄めの落ち着いた色合いのものや、赤・黒・緑・金色などをとりまぜたコントラストの強いものなど、色合いがとても綺麗。
岩絵具のようなものや箔などを使っているらしく、何百年も前のちょっと絵の具がはげかかった古いイタリアの絵画のような、ざらついた感じのする風合いが独特。
構図もとっても面白い。薄い水色の空に、輪郭がはっきりした雲が浮かんでいたり、背景に大きな窓がくり抜かれていたりと、ファンタスティックで、絵によっては浮遊感のようなものも感じる。

音楽(特にバロック)が好きで、自分でリコーダーも吹いていたというので、音楽にまつわるタイトルの絵も多い。
「重奏」「古曲」「音楽」「賛歌」「春」(ビバルディの”春”にちなんだ)、「楽典」「室内楽」「厳格なカノン」、「ささやかな時間」(リコーダーを吹いている女性)、「ソナタ」、「ロンド」、「7つの音」など。

一番好きなのが代表作の「花降る日」。赤色の背景にベージュの大理石の螺旋階段、そこに佇む赤いドレスで長い髪の女性、それに空から降ってくる白い花びら。
部屋の中に飾りたくなるような、落ち着いた典雅な華やかさがとても綺麗。
なぜか古い時間が絵のなかに閉じ込められて、時が止まったような感覚がする。
他の絵もとっても好みのものばかりで、これは実物を見てみたくなる。

調べてみると、展覧会は数年おきにどこかで開催されている。関西エリアの美術館ではないのが残念。
先月まで開催されていたのが、東京都庭園美術館の「没後25年有元利夫展 天空の音楽」
東京に住んでいたときは、この庭園美術館にはよく遊びに行っていた。
展覧会がなくても、芝生が敷き詰められた庭園が開放されているので(入園料はいるけれど)、のんびり日向ぼっこしたり、お弁当やお菓子を食べたりと、目黒の真ん中にある”都会のオアシス”的美術館だった。
久しぶりに思い出したら、懐かしくって、また行きたくなってきた...。

展覧会の公式映像『有元利夫 その芸術と生涯』
絵も綺麗だけれど、作風にぴったりのバロック風音楽(有元利夫自身が作曲した『RONDO』)がとても美しく、こういう動画を見ると絶対に美術展に行きたくなる。



yk2さんのブログ<Hearts and Numbers>の”有元利夫展を観る前に知っていると面白いかも知れない幾つかの事柄 / 前編”(後編もあり)には、略歴や作品についてコメントが載っている。
絵画に詳しくない私としては、予備知識がインプットされるし、絵をいろんな観点から見ることができるので、とても参考になった記事。


画集
展覧会に行けないなら、画集の方で。画集は数種類出ているけれど、一番気になるのはこの全作品集。(ページ数がそれほど多くないわりに、掲載点数が多い気がするけど、なにせ大型本なので)
過去の展覧会の図録もいくつかあるようなので、在庫があればそれを入手するのが一番良さそう。できればこの庭園美術館の展覧会の図録を手に入れたいなあ。

有元利夫全作品 1973~1984有元利夫全作品 1973~1984
(1991/02)
有元 利夫

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有元利夫 女神たち有元利夫 女神たち
(2006/04/13)
有元 利夫

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日経ポケットギャラリー。絵は小さいけれど、掲載している絵の数が結構多いので、入門編として最初に見るには良い画集。どうも絶版らしいので、図書館やUSED本を探してください。
有元利夫 (日経ポケット・ギャラリー)有元利夫 (日経ポケット・ギャラリー)
(1991/12)
有元 容子

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伝記
伝記として出ているのはこの2種類らしい。他にも自身の美術観とか創作方法について綴った本がいくつか。

評伝有元利夫早すぎた夕映評伝有元利夫早すぎた夕映
(2008/02/24)
米倉 守

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花降る日花降る日
(2002/01)
有元 利夫有元 容子

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音楽
なぜかイメージCDまでリリースされていた。オクタヴィアなので試聴ファイルがないのが残念。

七つの絵~有元利夫に捧ぐ~七つの絵~有元利夫に捧ぐ~
(2004/10/20)
平野公崇、大久保光哉

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tag : 有元利夫

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エゴロフ ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第19番,楽興の時
まず聴くことがないシューベルトの音楽を久しぶりに聴いたのは、エゴロフのピアノ・ソナタ第19番。
シューベルトを聴くとしたら、後期ピアノ・ソナタの3曲と《3つの小品》の第1曲くらい。
聴かないわりにシューベルト関係のCDがいつの間にか20枚くらいは溜まっている。
昔は、ルプー、アラウやゼルキンの弾く即興曲やピアノ・ソナタ、ソプラノ歌手が歌う歌曲に交響曲も数曲とか、いろいろ試しに聴いてはみたけれど、シューベルトの世界とは全く合わず、まず聴こうという気が起こらない。遠い遠い距離感と異質なものを感じるので、どうもシューベルト的な心象世界とは無縁らしい。

Youtubeで見つけたユーリ・エゴロフの第19番のピアノ・ソナタの第1楽章。1982年のアムステルダム・コンセルトヘボウでのライブ録音。
第19番はアラウの晩年の録音しか聴いたことがなく、これが緩々として緊迫感にかけるところがあるので、どうもピンとこない曲だった。
でも、エゴロフの弾く第19番を聴いていたら、冒頭からベートーヴェン的な力強さと緊迫感に満ちていて、珍しく、違和感なく聴ける。(多分、例外的な曲のような気はするけれど)
特に、エゴロフのシューベルトは、リサイタルのライブ録音なので、なおさら緊張感が強く感じられて、この曲の曲想にぴったり。

Youri Egorov/Franz Schubert-Piano Sonata No.19 Mvt.1(part1)


Youri Egorov/Franz Schubert-Piano Sonata No.19 Mvt.1(part2)[Youtube]


Sonata Dv958Sonata Dv958
(1993/08/19)
Youri Egorov

商品詳細を見る(試聴ファイルなし)
このエゴロフのシューベルトを収録したCDは廃盤。


まともに聴いたことがない曲なので、一応レビューもチェックしてみたけれど、レビューがほとんど見つからない。
そもそもエゴロフの録音を(シューベルト以外でも)聴いたことのある人は少ないだろうし、20年近く昔のCDなので、なおさらのこと。
しっかりとしたレビューが載っていたのが、いつもチェックしている<kyushima’s home page>の”CD聴き比べ”
今までの経験から言えば、ここで評価が高い録音を聴いてほとんど外れたことがない。

Youtubeにあったポール・ルイスの第19番(シューベルトらしい感動がないというレビューをあちこちでみかけたけれど、かえってそういうところが聴きやすくてこの演奏はわりと好き)と聴き比べてみても、エゴロフはライブのせいか音楽の流れが自然に感じるし、タッチが柔らかめのフォルテの充実した響きも好み。

第1楽章の冒頭の和音から充実した響きで始まり、線のしっかりした力強いタッチ。少しベートーヴェンの曲を聴いているような気がする。
と思っていたら、気分が躁鬱的に変化するように絶えず明暗が交錯し、中間部のもやもやしたやや幻想的な旋律が延々と続くし、やっぱりベートーヴェンとは全然違って、シューベルトの曲らしい(と思える)成り行き。
第2楽章はエゴロフらしい柔らかいタッチで、静かな沈みこむような弱音が美しく、内省的な雰囲気。
シューベルトとなると神経質なくらいの繊細なタッチで弾く有名なピアニストもいるけれど(ああいうのは聴いていて疲れてしまう)、自然な叙情感が流れているところがエゴロフらしい。
第4楽章はかなり速いテンポ(らしい)。確かにルイスのテンポよりも結構速くはあるけれど、そんなに違和感もなく、かえってこれくらい速いテンポの方がシューベルトの曲は聴きやすい。
この一気に突き進むような速さのおかげで、全編緊張感が緩むことがないように感じるし、なかなか終るに終われないようなシューベルトの曲でも、集中力が途切れることなく聴けたのが何より良かったところ。
それでも、シューベルトが好きにはなれないのは、やっぱり変わらなかったけれど。

                                  

カップリングは、シューベルトの《楽興の時 D.780》。1987年11月27日、アムステルダム・コンセルトヘボウでのエゴロフ最後のリサイタルのライブ録音。
このリサイタルの数ヶ月後に彼はAIDSが原因の合併症のため、33歳の若さで亡くなってしまう。
この後にもリサイタルのスケジュールが決まっていたけれど、彼自身これが最後のリサイタルになると思っていたらしく、《楽興の時》の演奏を聴けばそれが良くわかる。

《楽興の時》は有名な第3番しか聴いたことがなくとも、全体的に恐ろしく穏やかで静寂な雰囲気が漂っているのは明らかに感じとれる。
特に第2番と第6番の静けさの異様なこと。柔らかな弱音は、常に深く沈み、消えてしまいそうな気がする。第5番は激しく感情が噴出するようで、最後の第6番はまるでこれから深い眠りに落ちていくように終っている。
ゆったりとしたテンポで、一つ一つの音を名残り惜しそうに丁寧なタッチで弾いているのが感じられて、彼がこのリサイタルが”Farewell Concerto"になることがわかっていたのだろうと思わずにはいられない。
シューベルトの音楽について、エゴロフは、苦しみはなくあるのはただ悲しみだけ、と言っていた。
《楽興の時》に流れている(ように感じる)来るべき死の予感と抑制された悲痛さと、ピアニストの投影している感情とが共鳴しているようにも感じられて、こんな《楽興の時》を聴くことは二度とないに違いない。

Youri Egorov - Schubert Moment Musicaux No.3

tag : シューベルト エゴロフ

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トラーゼ ~ プロコフィエフ/ピアノ・ソナタ第7番
アレクサンドル・トラーゼといえば、数年前にNHKの「スーパーピアノレッスン」の講師をしていて、それを見ていた人なら知っているに違いない。
TVは見ないのでそういう番組が放送されていることさえ当時は知らず、トラーゼを聴いたのは、とっても個性的なプロコフィエフのピアノ協奏曲の録音。

コンチェルトが面白かったので、トラーゼのプロコフィエフのピアノ・ソナタの方の録音も探してみたけれど20年以上前に録音した第7番しかないらしく、それも廃盤。
ありがたいことに、トラーゼのホームページ<Toradze Piano Studio>で、第7番のライブ録音の音源が公開されている。(他のソナタはトラーゼ以外のピアニストの演奏)
他に、バッハ、ドヴォルザーク、ラフマニノフ、ストラヴィンスキの録音もあり。特に明記されていない限りはトラーゼの演奏らしい。

第7番を聴くときは、いつもソコロフのパリ・リサイタルのライブ映像。
今までどうも好きになれなかったこのピアノ・ソナタが、このソコロフのリサイタルのDVDで聴いて以来、お気に入りの曲になってしまったので、この演奏は忘れられない。
ソコロフの色彩感の豊かで鋭く研ぎ澄まされた叙情感が美しいプロコフィエフを聴いてしまうと、ポリーニとかグレムザーのようなメカニカルでやや殺伐としたプロコフィエフは全然聴けなくなってしまった。

ちょっとデッドな音質なのは残念だけど、トラーゼの第7番のライブ録音を聴いてみると、重量感のある鋼のような重厚さと、色彩感のある響きと繊細・濃密な叙情感の両方を備えたトラーゼらしい演奏。
トラーゼのフォルテはロシアの大地を驀進する重戦車のように力強く、重厚な和音の響きもクリアでバンバン強打して音割れすることがないのが良い。
緩徐部分の響きのねっとりした妖艶さにはぞくっとするものがあるし(もっと音質が良いとずっと綺麗に聴こえると思うけれど)、第3楽章は色彩感のある音が綺麗だし、テンポも遅めなので、リズムも複数の旋律もくっきり浮かびあがってくる。
いろんな音にアクセントをつけて強調して弾くところも面白くて、ラストの和音の連打も地鳴りのように迫力充分。
こういう表情豊かなところは、ソコロフの演奏といい勝負。

トラーゼの演奏は、ソコロフのような透明感と煌きのある美音で詩的で洗練されたタッチではなくて、線が太めで油絵のような厚みのある色彩感のある音で、表現もこってりと濃厚な感じがする。
方向性は違うけれど、どちらも無機的で機関銃を連射するようなプロコフィエフとは無縁なのが、とても好みにぴったり。
ドライでスピード感のある感覚的刺激が強い演奏は、聴いていてすぐに飽きるので1回聴けば充分。
どちらかというとソコロフの美的なプロコフィエフの方が好みに合っている気はするけれど、いつも聴くならソコロフやトラーゼのように、音の綺麗で叙情感の濃い表現意欲に満ちたプロコフィエフで。
トラーゼのピアノ協奏曲は全集がCDで出ているのに、ピアノ・ソナタ全集の録音がないのがとっても残念。

                             

トラーゼの第7番ソナタのレッスン風景
Toradze Teaches Prokofiev Piano Sonata No. 7 - II. [Part 1]


トラーゼの「スーパーピアノレッスン」に関する実況記事が、preludeさんの<瞬間の音楽~preludeのクラシック音楽日記~>に連載されてます。
レッスンのポイントが書いてあって、無音の意識、音楽の流れ、対話する旋律とか、なるほど~と思うことがたくさん。プロのピアニストが何を考えながら弾いているのかが垣間見えてきて、いろいろ勉強になる記事です。
ピアノを弾かない人でも、この「スーパーピアノレッスン」を見ていたという人はよく見かける。
子供の頃に見ていた昔の番組「ピアノのおけいこ」とは違って(これは普通の人の普通の練習風景のようで全然面白くなかった)、ピアノを弾かない人にとっても、世界的に著名なピアニストのレッスン風景が見れるのが面白いらしい。
これからどんなピアニストが講師に登場するのかと楽しみだし、こういう面白い企画はずっと続けていって欲しいもの。



トラーゼ&ヤルヴィ指揮N響によるプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番の第3楽章
爆演(快演)と評する人もいるくらいに、よく耳にする軽快なプロコフィエフではなく、音が分厚い絨毯のようで力感・量感もたっぷり、重厚でパワフル。緩徐部分の音の美しさと濃厚な叙情感もトラーゼらしい。
軽快でスポーティなプロコフィエフは好きではないので(軽すぎてどんな曲だったかすぐに忘れてしまうので)、トラーゼのプロコフィエフはとっても面白くて好き。
Prokofiev - Paavo Järvi -Toradze - Piano Concerto No.3 Mvt.3



トラーゼといえば、このプロコフィエフのピアノ協奏曲全集
トラーゼが強い思い入れのある第2番は、かなり個性的で全集中最も素晴らしい演奏。
テンポは速くても重量感があり、細部までこだわった表現は陰翳が強く、重々しく濃厚な叙情感のあるところで、好みは分かれるだろうけれど、この演奏を聴くと5曲の協奏曲のなかで、この第2番が最も奥が深い名曲だと思えてくる。

5 Piano ConcertosProkofiev / 5 Piano Concertos
(1998/03/17)
Alexander Toradze(piano),Valery Gergiev(conductor), Mariinsky Theatre Orchestra

試聴する(米amazon)

tag : プロコフィエフ トラーゼ

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涼しくなったら、ホームベーカリーで天然酵母パン
ようやく秋めいて涼しくなりました。おかげで、ホームベーカリーで天然酵母パンが焼けるのが嬉しい。
室温が30℃を超えると生種おこしや発酵が上手くいかないらしく(と取説に書いてある)、6~9月頃は天然酵母は使わず、サフのドライイーストのみ。

天然酵母の良いところは、バターなしでも、しっとりと柔らかくほどよい噛み応えのパンが焼けること。
それに、国産小麦と相性が良く、さらにホシノ天然酵母(他の酵母は試したことがない)はご飯を混ぜ込んでも相性がとても良い。

バター・ミルク不使用の食パン
天然酵母パンを使うときは、たいていバターを使わず焼く。(牛乳・スキムミルクはドライイーストでも入れない)
レシピは、panasonicのホームベーカリーの添付のものを使用。
panasonicのホームページには、シンプルな基本食パンレシピがないので、メープルシュガー食パンのレシピにあるメープルシュガーの代わりに、お好みの砂糖を(上白糖、三温糖、きび砂糖、てんさい糖、etc.)と使えばOK。
ただし、小スプーン・中スプーン・大スプーンとは、ホームベーカリー付属の計量スプーンでの分量。
重量だと、生種24g、塩5g、砂糖(17g)。

ご飯入り天然酵母パン
特に美味しいのが、炊いたご飯を混ぜ込んだ天然酵母パン。
お米からパンが作れるのは三洋電機の新製品ライスブレッドクッカー。あまりに斬新なアイデアなので、今使っているホームベーカリーが壊れたら、次はライスブレッドクッカーを買いたいなあ。その頃に量産されているだろうから、機能も改良されて価格も安くなっているはず。

今は、炊いたご飯を強力粉に混ぜ込むだけ。製パン用米粉を使うよりもずっと手軽だし、美味しい。
使っているレシピは、『ホシノ天然酵母の焼きたてパンLESSON』を元に、分量を変えたもの。

 強力粉  235g
 ご飯   90~100g
 水    120~130cc(ご飯の水分量によって調整)
 生種   24g
 砂糖   17g
 塩    3g

難点は、水分量の調整が難しいこと。強力粉の種類とご飯の状態で(それに生種の新しさ、水温、気温なども影響する)、同じ水分量でも、毎回焼き具合が変わる。
水分が多いと、捏ねている途中でご飯の粘り気が出すぎて、膨らみが悪くなり、高さの低いパンに焼き上がる。多少生地が硬いくらいの水分量の方が膨らみやすいらしい。
膨らみが悪くても、ふわふわパンは嫌いでどっしりとしたパンが好きなので、ご飯の甘みやもっちり感がたっぷりあって、これはこれで美味しい。

ホシノ天然酵母の焼きたてパンLESSON―からだがよろこぶたのしさとおいしさ (白夜ムック―白夜書房のレシピBOOK (No.170))ホシノ天然酵母の焼きたてパンLESSON―からだがよろこぶたのしさとおいしさ (白夜ムック―白夜書房のレシピBOOK (No.170))
(2005/01)
深本 恭正深本 和美

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バター入り食パン
たまにバターを入れるときは、『ホームベーカリーだからカンタン! 黄金の配合率でつくるはじめての天然酵母パン』のレシピ。
この本のレシピは、国産小麦使用で、全体的にレシピの水分は少なめ。シンプルな基本パン系統は、高さの低いどっしりした固めの焼き上がり。
何度か焼いてみて、好みの出来上がりになる水分量を見つけるつもりで使った方が良い。
「基本の朝食パン」はバター10gと分量がそんなに多くないわりに、ふっくらしっとり焼きあがってかなり美味しい。(ただし、水分を増やして焼いている)

ホームベーカリーだからカンタン! 黄金の配合率でつくるはじめての天然酵母パンホームベーカリーだからカンタン! 黄金の配合率でつくるはじめての天然酵母パン
(2007/07/21)
濱田 美里

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tag : ホームベーカリー

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アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番”テンペスト”
ベートーヴェンのピアノ・ソナタを聴くときの定番は、アラウが1960年代60歳頃に録音した旧盤の全集。
80歳代で録音した新盤の全集は、後期ソナタなどの数曲以外は聴くことはないし、聴き比べる時は技巧が安定している旧盤で聴くようにしている。
旧盤の全集のなかで特に好きな演奏は、最後のピアノ・ソナタ3曲と、第17番のテンペスト、第21番のワルトシュタイン。
アラウのワルトシュタインは有名だけれど、なぜかテンペストはそれほど評判になっていない。でも、響きの移り変わりがまるで絵画のように描写的で面白いのがテンペスト。
アラウにしては、他のソナタよりもかなりソノリティをかなり工夫したアプローチで、他のピアニストのテンペストと比べてもかなり個性的。

テンペストは、第1楽章と第2楽章は飛ばして(たまに聴くこともある)、一番好きな第3楽章だけ聴くことが多い。
第3楽章はいくつかの音型パターンをベースに展開していくので、音色・響きとペダリング、それに強弱をどうつけていくかで、かなり印象が変わる。
初めて聴いたのはポリーニの1988年の録音。音のメカニカルな動きと強弱の強いコントラストが印象的で、テンペストは交響曲第7番に似たような”舞踏的”な曲だというイメージが刷り込まれてしまった。
次に聴いたのが幻想的なリヒテル。嵐のような激しさのあるケンプなど。好きなピアニストの録音をいくつか聴いて、最後はアラウの絵画か物語のようなテンペスト。
それまで聴いていたいろんなテンペストの演奏とは違っていて、ソノリティが音楽の組み立てに強く結びついた演奏だったのが新しい発見。これは何度聴いても面白い。

Beethoven by Arrau - Sonata No 17 "Tempest" in D minor, Op. 31 No 2 (3rd mvt)



Complete Piano Sonatas & ConcertosComplete Piano Sonatas & Concertos
(1999/11/09)
Claudio Arrau

試聴する(別の国内盤にリンク)

テンペストは1965年5月にアムステルダムのコンセルトヘボウで録音。残響が新盤ほど多くはないので、ピアノの音がずっとすっきりと聴こえる。


アラウが書いたテンペストの演奏解釈が、新盤の分売盤のブックレットに載っている。
今は廃盤となっていて、この解説を目にする機会はほとんどないと思うので、全文引用すると...

「ベートーヴェンがシントラーに作品31の2の意味について、シェイクスピアの「テンペスト」を読むように示唆したのは、おそらく劇の物語や哲学よりも題名との関連においてであったと思われる。テンペスト(嵐)の始まりは強力で悲劇的なものに他ならない。最初の2小節のラルゴの動機、休止、そしてニ短調で応答する4小節のアレグロの主題の組み合わせは、嵐の中で苦悩する魂以外の何ものでもあるまい。そしてなんという展開だろう。芸術の世界で苦悩がこれほど生命を持った音となったことがあろうか。誰がこのように、問いと答えに肉声を持たせられるだろう。シェイクスピアとベートーヴェンの他にはあるまい。」

「変ロ長調のアダージョは第1楽章と同じく、分散和音で始まる。展開のないソナタ形式で、天上のもののような最初の旋律が孤立した憂愁の気分を作り上げる。しかしその上に息づいているのは、現世の神秘と究極の慰めである。」

「ニ短調のアレグレットには、永続的な16音符のリズム(「嵐」の要素だろうか?)を伴う、ソナタ形式のアレグロに似た熱気と活力がある。しかし、チェルニーとは反対に、疾駆する馬のひづめの響きと文字通りに捉えてはならない。これは、あらゆる芸術がそうであるように、内部的な感情に置き換えて考える必要がある-内なるざわめきと不安の感情である。」

                             


アラウのテンペストはゆったりテンポ。アレグロの第3楽章でもやっぱり遅い。
ポリーニが約6分(かなり速い。グルダはもっと速いけど)、ポミエが6分台前半秒、ケンプとリヒテルとブレンデルが約7分、アラウは7分43秒ともうすぐ8分に届こうかという、かなりのスローテンポ。
私はどのテンポでも聴き慣れているので、テンポの緩急自体は全然気にならなくて、逆にこれだけテンポが違うと音楽の作り方も随分変わるので、それが聴けるのが面白いところ。

この第3楽章は、アラウの旧録音のなかでも響きの多彩さと美しさ、それに描写的な語り口が特に印象的。
初めて聴いた時は、アラウはこういう風にも弾けるのだと、かなりびっくり。
初めは嵐のイメージを持って聴いていたので、雨音の強さの変化や馬のひづめの音とかが聴こえてくるようで、まるで長い絵巻ものを見ているように、次々とシーンが移り変わっていくように思える。
”嵐”から離れて聴き直してみると、アラウの言う通り「内なるざわめきと不安の感情」がいろいろな形で表現されているように聴こえてくる。
アラウは若い頃に精神分析医にかかったこともあるし(アラウ15歳の時、師クラウゼが亡くなり精神的に不安定になった時に出会ったこの精神分析医も、クラウゼのようにアラウの父親がわりのような存在だったという)、精神分析に関するエッセイも書いていたというから、それが演奏解釈にも現れているのかもしれない。

アラウのテンペストは、音がよくコントロールされて響きが多彩。
明瞭に打鍵するのでコツコツしたタッチではあるけれど、流れ自体はスムーズで、スローテンポのわりに結構リズム感もある。
弱音のレンジが広く表現が繊細で、心のなかの呟きや怖れ、ペダリングでアルペジオを重ねると増幅された不安感、スフォルツァンドは焦燥感...といろいろな想像が湧いてくる。
全体的に弱音が支配的で静寂さと透明感を感じさせるけれど、その分sf がよく効いて、起伏が細かくニュアンス豊か。
とてもゆったりしたテンポで、ディナーミクの細かな変化、タッチを変えながらペダリングも使って、フレーズごとの表現に合わせた響きに変えていく。
響きに透明感があり、多彩な響きは絵画のような描写力があって、フレーズ(場面)ごとに響きが変化していくところを注意して聴いていると本当に面白い。

アラウの音質は太めで伸びやかで、一音一音しっかり打鍵してクリアに聴こえるせいか、旋律を通して人が語っているかのように感じることも多い。
展開部の初めのほうで、左手と右手がそれぞれ交代して主旋律を弾く部分があって、ここは心の中で2つの相反する部分が綱引きをしているような掛け合いに聴こえてくる。

音の使い方が印象に残ったところはいろいろあるので、楽譜を見ながら聴くと
87~90小節では、響きをわざと重ねて少しネットリしてちょっと妖艶。
次の95小節からは、弱音のなかで左手の持続音がオスティナート的に響いて瞑想的。
173小節からは弱音が続き、時々入るスタッカートのsfは、それほど強くはないけれど、弱音のなかから、一瞬浮かび上がってくる。これは不安感?
全体的にアクセントのついた音と持続音の響きがとても印象に残る。

流麗というよりも、1音1音が聴きとれるくらいにゴツゴツとした感触があるけれど、スピード感のあるテンペストの演奏とは違った味わい。これは、同じくスローテンポのワルトシュタインでも感じたこと。
アラウが弾くこの2曲を聴くと、テンポ設定で、曲のイメージと表現がこれだけ変わるというのが実感できる。

これは旧盤の録音を聴いた時に書いたので、1987年録音の新盤になるとまた雰囲気が違っている。
デジタル録音の新盤はさすがに伸びやかな響きが綺麗。特にアルペジオや弱音の澄んだ響きが美しく、第3楽章展開部冒頭の弱音はとても哀しげな音色で、全体的にその哀しげなトーンが底流に流れているような感じもする。
音の粒が揃っていなかったり、音量のコントロールが不安定だったりするのが多少気になるのと、旧盤の方が人の内面の動きを表現しているように感じられるので、テンペストを聴くのは主に旧盤の方。

tag : ベートーヴェン アラウ

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ブラッド・メルドー『Live in Tokyo』より ~ 《Paranoid Android》
オッターの新譜でピアノ伴奏をしているブラッド・メルドーは、若手のジャズ・ピアニストの中でもかなり個性的なスタイル。とても思索的で詩的なピアノを弾く。
タワーレコードの店内で流れていたジャズ・ピアノの演奏がとても理屈っぽい弾き方だったので、これ、もしかしてメルドー?と思って確かめるとやっぱりメルドーだった。(メルドーは日本ではあまり人気がないような気はするけれど)

メルドーのソロアルバムは2枚(国内盤も入れると3枚)あって、『エレゲイア・サイクル』と『Live in Tokyo』。
この『Live in Tokyo』は、2003年2月15日のすみだトリフォニー・ホールでのライブ録音。
当時、輸入盤(1枚組)、国内盤(2枚組)の2枚がリリースされていたので、私は迷うことなく国内盤を買ったけれど、今は輸入盤しか出回っていないらしい。

輸入盤の曲目は8曲。
メルドーが強くこだわりをもっているNick Drakeの2曲(《Things Behind The Sun》が特に良い)が最初と最後に並べられ、20分近くと一番長い《Paranoid Android》(これは傑作)や、メルドーの好きな《Monk's Dream》も入っているので、輸入盤でも全然悪くはない。
でも、メルドーのピアノがとても好きな人なら、曲数が多い国内盤の方がずっと楽しめます。

Live in TokyoLive in Tokyo
(2004/09/06)
Brad Mehldau

試聴する(米amazon)


2枚組の国内盤(今は廃盤らしい)。15曲収録。itunestoreでダウンロードできます。
ライヴ・イン・トーキョーライヴ・イン・トーキョー
(2004/09/23)
ブラッド・メルドー

試聴する


国内盤1枚目のラストは《Things Behind The Sun》。(これは輸入盤の最初の曲)
作曲したNick Drakeは26歳の若さで亡くなった人で、メルドーは彼の曲に対してとてもこだわりを持っているという。
複数のリズムが交錯するところが面白くて、メルドーのリズムも歯切れ良く、都会的な乾いた哀感のある曲。

メルドー自作曲も入っていて、叙情的な旋律が美しい《introⅠ》《introⅡ》、不協和的な和声が面白い《C tune》《Waltz Tune》
私はスタンダードはほとんど聴かなくて、たまたまカップリングで入っている場合はスタンダードでも聴くけれど、モダン・ジャズでもピアニストの作曲センスが明確にわかるオリジナルを聴くのが好きなので。
でも、同じスタンダードの旋律を使っていても、エヴァンスやバイラークのような素晴らしいピアノなら、もうスタンダードだろうかオリジナルだろうが、どちらでもよくなってくる。

このアルバムで一番良かったのが、《Paranoid Android》。作曲はレディオヘッド。(レディオヘッドが誰なのかも全然知らないけど)
メルドーのアルバム『Largo』にもこの曲が収録されているけれど、こちらはソロではなくて、メルドーの編曲によるピアノ&小編成バンドによる演奏。
2つの録音を聴き比べれば、圧倒的にピアノ・ソロの方が、この曲のタイトルからイメージされる雰囲気がよく出ている。
原曲は6分あまりの曲。メルドーのバージョンでは20分に拡大され、アンドロイドの内面の変化を描写しているような演奏。
冒頭の静かで幻想的な旋律と和声、徐々に妄想に悩まされていくように拡大する左手の低音部、急迫感のある執拗なオスティナート、アンドロイドの哀しみと天への祈りのような静かで厳粛な旋律(コラールのような...)、最後は、再び疾走するようなミニマル的旋律が現れてエンディング。
結局、アンドロイドは救われなかったのかもしれない。

20分の演奏のなかで、いろんなモチーフが展開されていき、次々に変転していくリズムと和声が面白いし、特に和声が不協和的であっても響きが美しいのがとてもメルドーらしい。
キースのライブで弾くソロ・ピアノに似ているところを少し感じはするけれど、キースのような強い凝縮力や求心力というのではなく、すっきりとした構成と淀みない流麗な展開。
標題音楽のようにイメージ喚起力があって、残酷だけれど詩的な美しさのある物語を聴いているような気がする。
このピアノ・ソロは、原曲のユニークなところが良かったし、メルドーらしい詩的なイメージを感じさせる表現と凝った和声の美しい響きで、アンドロイドの内面的な動きを表現しているところがとても印象的。

Brad Mehldau - Paranoid Android [Youtube](Part 1)



レディオヘッドの原曲(英文歌詞付)[Youtube]
英文の歌詞を読むとまさにタイトルどおり。曲の方も、錯乱気味のアンドロイドの頭の中のように、不安定に変化する和声と旋律が不気味。

                             

《Paranoid Android》を聴いていて、ふと思い出したのが、ロシア出身の現代音楽作曲家アウエルバッハが作曲した《LUDWIGS ALBTRAUM》
これは”LUDWIGの悪夢”という意味。LUDWIGはあのベートーヴェンのこと。
2つの曲自体はそれほど似たところはないけれど、不気味な雰囲気を感じるところは同じだし、悪夢も妄想の一つといえなくもないので、連想したに違いない。

LUDWIGS ALBTRAUM 2007 [ライブ録音の音声ファイル]

《LUDWIGS ALBTRAUM》はとても幻想的な曲。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第13番(幻想ソナタ)の第1楽章の冒頭主題の断片が、曲中に度々遠くからエコーするように聴こえてくる。徐々に不協和的に歪んだ響きになって現れ、これが不安定感や不可思議さを増幅している。
多彩なピアノの響きがとてもファンタジックで、悪夢のなかに現れる不吉さ、不安、切迫感などの要素を象徴したような感じ。
はじめは、曖昧模糊とした響きで幻想的な雰囲気が強いが、徐々に不安に駆り立てられ、何かに追われているような焦燥感や恐怖感のような雰囲気に変わる。左手のバスのオスティナートが不吉でとても効果的。

tag : ブラッド・メルドー アウエルバッハ

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新譜情報:アンネ・ゾフィー・フォン・オッター&ブラッド・メルドー 『Love Songs』
アンネ・ゾフィー・フォン・オッターがnaiveと専属契約したそうで、その第一弾のアルバムが間もなくリリースされます。
なぜかクラシックではなくて、ポピュラーな曲を集めた『Love Songs』。

最近は、メジャーレーベルからマイナーレーベルへ移籍したり、マイナーレーベルからもCDをリリースする有名な演奏家が増えているような。
CDが売れなくなってきたメジャーレーベルは、話題性のある若手の新譜ばかり出している(ように思える)一方、キャリアのある人の新譜はかなり絞り込んできているせい?

naiveといえば、すぐ浮かぶのはソコロフ。
ソコロフは、今はスタジオ録音はしなくなったし、ライブ録音も最近は全くリリース許諾していない。
そのためにnaiveはCDを出したくても出せないという(これはとっても残念)、世の流れとは逆のケース。

このオッターの新譜で話題になる点といえば、ジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーがピアノ伴奏をしていることと、1枚目のCDは全曲メルドーの作曲というところ。
2枚目はポピュラーな曲ばかりだし、このアルバム、クラシックしか聴かない人にはさほど魅力的にも思えないかも。
メルドーが好きな私としては、オッターの歌よりも(オッターの歌ならクラシックを聴きたいので)、詩的なメルドーのピアノと自作曲が聴けるところに魅かれるものがある。
といっても、メルドーのピアノ・ソロではないので、ちょっとどうかなという気もするし、試聴ファイルで聴いてみた方が良さそう。

Love SongsLove Songs
(2010/10/26)
Anne Sofie Von Otter,Brad Mehldau

商品詳細を見る(HMVへリンク)

tag : ブラッド・メルドー

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ビル・エヴァンス 『You Must Believe in Spring』,『I Will Say Goodbye』
最近、夜中によく聴いているのがビル・エヴァンス。すっかり秋めいた静かな夜には、エヴァンスのピアノがとてもよく合うので。
10年くらい前にジャズ・ピアノばかり聴いていた頃があって、いろんなジャズ・ピアニストのCDを集めていた。エヴァンスCDはトリオとソロで10枚くらい。
そのなかでとりわけ好きなのが、1977年に録音したこの『You Must Believe in Spring』
この録音の数ヶ月前に、同じトリオで『I Will Say Goodbye』を録音しているので、この2つのアルバムが晩年の傑作と言われている。

You Must Believe in SpringYou Must Believe in Spring
(2003/10/27)
Bill Evans Trio

試聴する(米amazon)


ジャズ・ピアノを聴くときは、トリオやカルテットよりは、ソロの方が多い。
好きなピアニストは、エヴァンス、ジャレット、バイラーク、メルドーと、ピアノ・ソロも素晴らしいピアニストが中心。
エヴァンスのピアノ・ソロは3枚持っているけれど、エヴァンスに限ってはトリオもソロと同じくくらいに好き。
ピアノがベースと対話しながら展開していくところに独特の雰囲気があるし、特に晩年の録音の穏やかな静けさのある佇まいと叙情感がとても美しいので。

『You Must Believe in Spring』は、原盤に加え3曲のボーナストラックが収録されている。
この3曲、聴けばわかるとおり、アルバム全体の静かな哀感の漂う雰囲気とは違って、屈託なく明るい曲なので、アルバムの統一感を出すために収録しなかったらしい。
ボーナストラックが入っているのは別にかまわないとは思うけれど(結構不評だけれど)、ラストは原盤どおり《Theme from M★A★S★H》が相応しい気がするので、ボーナストラックは聴かずにプレーヤーはストップ。

このアルバムは、失われたものに対するレクイエムのように哀感のような深い叙情感が静かに流れているけれど、なぜか突き抜けた明るさも漂う不思議な雰囲気。
「死」にまつわるモチーフが多いけれど陰鬱なムードはなく、シンプルで甘美な旋律と洗練されたハーモニーの醸しだす、しっとりとした深い叙情感がとても美しくて。

エヴァンスの曲は、メランコリーに覆われていると言われるけれど、Fantasyに移籍後のアルバム(『アローン(アゲイン)』『トーキョー・ライブ』とか)を聴くと鬱々とした雰囲気はそれほど強くはない感じがする。
和声がますます洗練されて美しくなっているし、このアルバムに関しては、メランコリーというより追憶するような深い叙情感のなかに、さばさばとした悟ったような(もしくは諦観?)明るさを感じる。
情緒的な感傷に陥ることなく、限りなくリリカルな美しさを、レビューでは”破滅的な美”だと言う人もいる。
数年後に亡くなる自分自身の運命を漠然と予感していたのかもしれない。


冒頭は《B minor waltz (for Ellaine)》
録音の前年に亡くなった妻エレインに捧げられた曲。
彼女も麻薬中毒にかかって治療を受けてはいたが、エヴァンスとは数年前から別居状態で(法的にはもともと婚姻関係にはなかった)、結局エヴァンスと別れてから数日後、地下鉄で投身自殺したという。
右手が高音で弾き続ける旋律の硬質で凛とした響きがとても甘く哀しい、静かな短調のワルツ。

アルバムのタイトル曲《You must believe in spring》は、曲名がこのアルバムの意味を象徴しているかのよう。”must”というところに祈るような気持ちが感じられてくる。
前半は哀しげに微笑んでいるような物静なトーン。後半はテンポが上がってリズミカルで明るさが差し込むようなところはあるけれど、最後は元通り静かな雰囲気に。

第4曲《We will meet again (for Harry)》は、鬱病を抱えてこの録音の4ヶ月前に拳銃自殺した音楽の教師だった兄への追悼歌。
この曲名は“we may never meet again”という別の曲の歌詞に由来するという。
冒頭のピアノ・ソロが弾く旋律は、以前にどこかで聴いたことがあって、すぐに思い出したくらいにあまりに印象的。一度聴いたら忘れられない曲の一つ。
全編に兄に対する愛情と彼を失った淋しさが深く痛切に流れ、中盤からクレッシェンドして響きが重なっていくところは、抑えていた感情が溢れだしてくるかのよう。
エンディングは、追憶の中に消えていくかのように、ピアニッシモで静かに終っている。
エヴァンスの有名なモントルー・ジャズ・フェスティバルのCDで《I Loves YouPorgy》を聴いていると、アルペジオの使い方や和声の響きがちょっと似ているせいか、この曲をすぐに思い出した。
この曲には、トリオバージョンとピアノ・ソロバージョンがあり、ピアノ・ソロバージョンは、エヴァンスが1979年にスタジオ録音した最後のアルバム《We Will Meet Again》に収録されている。

《We will meet again (for Harry)》(Piano Solo Version / By Evans)



原盤の最後の曲は、《Theme from M★A★S★H》”Suicide is painless”(自殺は無痛)というサブタイトルで有名。
アルバムの解説によると、友人(たぶん作詞者)がエヴァンスを評して”the world's slowest suicide”と言ったという。
麻薬を常習していたエヴァンスはヘロインからコカインへとドラッグに染まっていったが、晩年はまともに治療を受けようともせず、飲酒・薬物の常用による肝硬変などが原因で、このアルバムを録音した3年後の1980年に51歳で亡くなった。

Bill Evans - MASH Theme (Suicide is Painless)


『M★A★S★H』は、はるか昔、深夜にTVで放送されていて、たまに見ていた映画。
記憶ではベトナム戦争が舞台だと思い込んでいたけれど、調べてみると朝鮮戦争だった。
軍服を来た軍医(女医さんもいたような)が何人か登場していたことと、戦争映画のはずなのにコメディっぽくて面白かった記憶がある。
テーマ曲をしっかり覚えていたので、このエヴァンスのアルバムで久しぶりに聴いた時には、とても懐かしい感じがしたし、この曲は結構好きだった。
コメディ映画のテーマ曲にしては品の悪くない明るさがあるし、エヴァンスのトリオバージョンだと、華麗で開放感のあるリズミカルな曲に仕上がっている。
しっとり深く美しい叙情が流れている背後に傷心が隠されているような曲が続くこのアルバムが、最後にはさばさばした明るい雰囲気で終るので、ほんの少し救われた気分になれる。

                             

『You Must Believe in Spring』より数ヶ月前に録音されたアルバム『I Will Say Goodbye』に収録されている《I will Say Goodbye》《Seascape》も、リリカルな哀感のある美しい曲。
《Seascape》の作曲者は、「M★A★S★H」のテーマ曲を書いたJohnny Mandel。

《I will Say Goodbye》は強い感情が込められたほろ苦い甘美な旋律が美しく、《Seascape》は穏やかさと激しさが交錯するようなところがドラマティックで、Seascapeというよりも、感情の揺れ動く心象風景のような気がする。
いずれもエヴァンスの厚みのある和音の響きが華やかで、憂いの漂うロマンティックな旋律と相まって、エヴァンス独特のリリシズムが濃厚。

I Will Say GoodbyeI Will Say Goodbye
(1996/02/12)
Bill Evans

試聴する(米amazon)




ビル・エヴァンスのディスコグラフィー(「ジャズCDの個人ページ」by K. Kudo)
バイラークのCDのレビューを探していて見つけたホームページ。CDを探すのにとても役に立っている。

tag : ビル・エヴァンス

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アラウ ~ アルベニス/イベリア第1巻&第2巻
ピアノ作品が多いラテン系の作曲家でポピュラーなのは、たぶんモンポウ、グラナドス。
あいにくモンポウを聴くとすぐに眠たくなるし、グラナドスはまるでショパンを聴いている気がするので、《星々の歌》以外はまず聴かない。

わりと好きなのはヴィラ=ロボス。有名なのはブラジル風バッハやショーロスだけど、ピアノ作品はかなり多くて、協奏曲、独奏曲とも、詩的で魅力的。
あとは、最近初めて聴いたアルベニス。有名なのは組曲《イベリア》や組曲《スペイン》。

アルベニスのプロフィールを調べると、ずっとスペインで暮らしていたわけではなく、23歳で結婚してからは、マドリッド、ロンドン、そして、30歳半ばからパリに定住していた。
当時のフランスで著名な作曲家であるショーソン、フォーレ、デュカスとも親交があったという。
アルベニスの曲を聴いていると、スペインの風土に題材をとっているにしては、スペイン風のエキゾティシズムはかなり稀薄な気がする。
それよりもずっとコスモポリタンというか、旋律や和声にフランス音楽風の洗練されたものを感じるけれど、このバックグラウンドを知って、それも納得。

そのアルベニスを初めて聴いたのが、アラウが1947年に録音した米コロンビアの復刻盤。
『ピアニストとのひととき』という対話集では、アラウは「子供のころラテン・アメリカでアルベニスはずいぶん聞いています。...「イベリア」組曲は驚くべき構成じゃないでしょうか?これはもっともむずかしいピアノ作品に入ると思います。ピアノによるオーケストラですね。」と言っていた。

《イベリア》は全部で全4巻12曲からなる組曲で、難曲として有名。
副題は「12の新しい印象(12 nouvelles "impressions")」。その副題の通り、印象主義音楽のように、南スペインの風景や風土を喚起するような、エキゾチックな旋律と色彩感豊かな和声が美しく、交響曲的な立体感のある響きとダイナミズムのある曲集。

ピティナの作品解説によると、「洗練された技法に、スペイン情緒あふれる感性が加わることによって、独創性あふれる最高傑作」で、ドビュッシーや、メシアン、グラナドス、ファリャなどもこれを絶賛したという。

アルベニス/組曲《イベリア》の楽譜ダウンロード(IMSLP)


                              

アラウが録音したのは、全4巻の《イベリア》のうち、第1巻と第2巻のみ。
子供の時、チリではアルベニスの音楽は日常的に聴いていたので、母国を離れてもレパートリーとして、リサイタルやスタジオ録音で弾いていた。
再録音もあるらしいけれど(ディスコグラフィーには載ってないので怪しい)、アラウの《イベリア》と言えば米コロンビアの47年録音。

ヴィラ=ロボスは、ラテン的な熱さとエキゾティシズムを感じるのに、アルベニスはそういうところは稀薄。
モダンというか、洗練された響きがとっても綺麗。長調と短調が混在しているような響きは、曖昧で不可思議な雰囲気も漂っている。
印象主義風の作風と和声が美しく個性的に感じられるところは、”スペインのドビュッシー”と言われるのもよくわかる。
時々、ドビュッシーの曲に出てくるような旋律や和声が時々出てきたりして、とっても聴きやすくて、ヴィラ=ロボスよりもずっと親近感が湧いてくる。
第1巻と第2巻を聴いた限りでは、パッショネイトな熱さはあまりなくて、どこか冷んやりした感覚がするところが面白い。
曲自体がそういう雰囲気を持っているのと、1940年代までのアラウの演奏が「きらきらと輝きのある洗練された音で磨きたてられている」(『アラウとの対話』)からだろうか。

《イベリア第1巻》
第1曲 エヴォカシオン Evocacion
エヴォカシオンは「記憶、心象、情感」という意味。
最初はモダン・ジャズのピアノソロを聴いている気がする静かで洒落た感じ。
抑えたトーンの短調で物憂げな旋律とアルペジオが不可思議な雰囲気を醸し出し、どこか意識をまさぐっているような感覚。
後でバセルガの録音を聴いてみたら、これはアラウの演奏が持つ独特の雰囲気だった。
起伏が緩やかでまったりした流れが延々と続き、少し夜想曲風なところもあり、平板といえば平板だけれど、旋律と和声の美しさで不思議に飽きさせないものがある。

第2曲 港(エル・プエルト) El puerto
躍動的なリズムと、港に漂う風や波を表すような緩やかで流麗なアルペジオで始まり、シンプルな旋律を和音で装飾しながら、躍動感のある曲想に移行する。
哀愁を誘うような短調と、爽やかさ港の活気を表すような明るい長調が交錯するところが素敵。
アラウの《イベリア》の中では、エヴォカシオンと並んで印象的で好きな曲。

第3曲 セビリヤの聖体祭 El Corpus en Sevilla
行進曲風の面白いリズムと軽妙さのある旋律で、どこかユーモラス。
初めは短調でちょっとおっかなびっくり風。同じ旋律を長調に転調させてからアルペジオと和音で装飾して、とてもゴージャスで壮大な響き。
終盤部になると重音のトレモロが入ってキラキラ煌くように華やか。

Iberia - Livre 1 - 3. Corpus -Christi- in Sevilla



《イベリア第2巻》
第4曲 ロンデーニャ Rondena
ロンデーニャはタンゴの一種。6/8拍子と3/4拍子が交互に表れる変拍子の曲。
冒頭は重音とアルペジオが混在して、流麗でリズミカルで、爽やかなで明るいタッチ。
途中でスペイン風の短調の憂いのある旋律が挟まって、短調と長調が混在してきて、アルベニスに独特なエキゾチックで不可思議な雰囲気がする。

第5曲 アルメリア Almeria
アルメリアはグラナダの港。この曲も短調特有の憂いのある旋律で、アルペジオの和声もちょっと不安げな独特な響き。
全体的に、エル・プエルトと違って躍動感は強くなく、穏やかな海の波や爽やかな風が流れているような雰囲気。
中間あたりから、テンポが速まり、音も密度を増して、躍動感が強くなるけれど、最後はテンポが落ちてピアニッシモに変わり、眠りに誘うような高音の静かな旋律が現われてエンディング。

Iberia - Livre 2 - 2. Almeria


第6曲 トゥリアーナ Triana
トゥリアーナはセビーリャにあるジプシー居住地。
他の曲よりもリズミカルでやや情熱的な雰囲気の舞曲。
気分がコロコロ変っていくように、雰囲気の違ったモチーフが次々と現われて、軽妙で可愛らしくて、時にパッショネイトにも。
重音とアルベジオがいろんなパターンで出てくるのが面白く聴こえるので、楽譜みてみると重音とアルペジオにクロスリズムが入ってて、パターンがコロコロ変って入り組んでいる。
曲が素敵に思えても、楽譜を見たらすっかり弾く気がなくなってしまった。


やや似たような雰囲気の曲が多い気はするけれど、スペイン風の薫りが漂う旋律や独特の和声の響きには洗練された美しさがあって、短調と長調が交錯する響きも面白くて、最後まで飽きずに聴けてしまう。
《イベリア》の第3巻と第4巻や、他のピアノ作品も聴いてみたいと思わせられるほどに、アルベニスはとっても好みの作曲家。
ドビュッシーの初期の頃の作品が好きな人なら、アルベニスとはかなり相性が良さそう。

                              

アルベニスの《イベリア》が収録されているのは、1940年代後半にアラウが米コロンビアに録音した曲をまとめた復刻盤のCD。
CDの解説が資料的に面白くて、1940年頃に米国へ移住して以降、RCA、米コロンビア、EMIとレーベルを移っているアラウの当時のレコーディング事情が書かれている。

”驚異的な音質”という宣伝文句に違わず、素晴らしい音質。RCA盤の1942年録音のゴルトベルクのボケた音質に比べると、雲泥の差。
選曲はバラエティに富んでいて、ベートーヴェンのワルトシュタインと告別、ショパンの24の前奏曲、シューマンのクライスレリアーナとアラベスク、ドビュッシーのピアノのために・版画・映像第1集&第2集、ラヴェルの夜のガスパール(スカルボは未収録)、それに、このアルベニス。
後年の録音と聴き比べる面白さや、他に録音がほとんど残っていないラベルやアルベニスは稀少。
アラウは晩年の演奏が絶対良いという人は別として、どちらかというと1970年頃以前の録音の方が晩年のものよりも好きなので、40歳代の若いアラウの軽快で切れ良くスマートな演奏が聴けるのが楽しい。

Birth of a LegendBirth of a Legend
(2006/11/27)
Claudio Arrau

試聴する(独amazon)


アラウよりも音質が良い録音なら、《イベリア》の定番はラローチャ(DECCA盤)
私はラローチャよりも、バセルガの全集(BIS盤)の方が音が綺麗で表現もいろいろ面白くて好きなので、聴くのはバセルガ。
バセルガの全集の難点は、《イベリア》全曲が4枚のCDに巻ごとに分けて収録されていること。《イベリア》だけ収録した分売盤を出して欲しいものだと思う。

tag : アルベニス アラウ

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エゴロフ ~ ショパン/エチュード Op.10
ショパンのエチュードは、昔は全然好きではなかったけれど、最近になってようやく普通に聴けるようになった。前奏曲集の方は相変わらず相性が良くないらしく、なかなか聴く気になれないけれど。

全集で聴いたのは、定番のポリーニ、詩的なロルティとペライア。Op.25だけならソコロフ。他にも聴いたような気がするけれど、記憶に残っていないということは全然印象的でなかったに違いない。
Op.25はダイナミックで表情豊かなソコロフが良かったけれど、Op.10は微妙。以前は繊細で美音のロルティが良く思えたけれど、堅実で大仰でない詩的なペライアも良くて、どちらで聴くか悩ましい。

つい最近聴いたのは、25歳頃のユーリ・エゴロフのライブ録音。Op.10だけがCDリリースされた。
このリサイタルは、1980年アムステルダム・コンセルトヘボウで行われ、Op.10とOp.25の両方を弾いていた。
CD化するときに、技術的な理由(収録時間と聴衆ノイズなど)から、Op.25はカットされてしまった。
Op.10が素晴らしい出来だったので、これはとっても残念。

エゴロフのエチュードは、メカニック的に凄い!というようなタイプではなくて、練習曲風とは違ってエチュードを"Moments musical"(ライナーノートの言葉)に変容させたように、音楽として聴かせるもの。
CDのライナーノートには、”各曲が音楽的に明快に弾き分けられて、詩的、時にリリカル、さらに叙事詩的あるいはヒロイック”と形容されている。
ライブ録音ということもあってか、自然に感情が湧き出てくるような伸びやかさと、ホールに響く絹のような高音の弱音の美しさがリアルに伝わってくる。詩的なセンスと躍動的なダイナミズムの両方を感じさせるところもとても気に入ったけれど、おかげで、残響の多いロルティの美音が人工的な響きに聴こえ繊細な表現もそれほど自然に思えず、魅力が薄れてしまったのが残念。
エチュードは一度聴くと疲れるものがあるのでそう度々聴かないけれど、エゴロフのエチュードは練習曲風なところが全然なくて美しい音楽になっているので、珍しく繰り返し聴きたくなる。

Legacy - Youri Egorov - Bach, Bartók, ChopinLegacy - Youri Egorov - Bach, Bartók, Chopin
(1993/08/19)
Youri Egorov

商品詳細を見る(廃盤のため試聴ファイルなし)


メカニック的な凄さはあまり感じられないとはいえ、テンポはペライアとほぼ同じ。ルバートでテンポを落とすこともなく、ほぼインテンポで弾いている。
ライブ録音なのでミスタッチは残っているけれど、耳の方が技巧面ではなくて音楽そのものに自然に向かっていくので、あまり気にならない。
高速の細かなパッセージを弾くときも滑らかなレガートで、歌いまわしも柔らかく、軽やかで煌きと色彩感の豊かな音が本当に綺麗。
ライブ録音のせいか、自然に音楽が湧き出てくるような雰囲気と、ホールに広がる響きがとてもアコースティックな感じで、スタジオ録音でよく聴くエチュードとは全く違った響きと雰囲気が素敵。

Youri Egorov Chopin Etudes Opus10 Part 1(No.1~No.4)

"Part 2"があるのかなと思って探したけれど、Youtubeにはなかったです。

第1番のアルペジオは滑らかで、柔らかく伸びやかな響きはキラキラと煌くように明るく、とても開放的な雰囲気。

第2番はとても素晴らしくて、タッチの柔らかい軽やかさと繊細な弱音の美しさは驚くほど。
特に右手高音部の絹のように光沢のあるシアーな響きと歌うようになめらかなレガートがとても綺麗。
あまりの美しさに演奏が終ると聴衆から盛大な拍手。普通は曲集の途中で拍手はしないけれど、この録音を聴いていると拍手したくなるのも良くわかる。

第5番の《黒鍵のエチュード》。カーネギーホールのデビューリサイタルでもアンコールで弾いていたので、得意な曲らしい。
右手が蝶が羽をパタパタさせるように軽やかで、多彩な響きが瞬くように煌いて、これはとても素敵。

第6番はやや速めのテンポで、あまり感傷的にならずに、柔らかいタッチでさっぱりした哀感がほどよい感じ。

第7番や第11番も、第2番や黒鍵のエチュードと同じく、右手側旋律の高音の響きが柔らかく軽やかでとても綺麗。第11番はまるで小鳥が歌っているように流麗で愛らしく、歌心溢れるところが素敵。

第8番も高音部のレガートなアルペジオやトレモロの響きが煌くように美しく、左手側の旋律の柔らかいタッチと軽快なリズム感と相まって、優雅で楽しげな雰囲気。
第9番は抑制されたほの暗い情熱を感じさせるような叙情感がとても美しい。冒頭の速いテンポから急にテンポが落ちて弱音になる部分での緩急のコントラストが鮮やかで、まるで静寂な庭に響く「鹿威し」のように水気を含んだ突き刺すような響きが印象的。

最後の《革命のエチュード》はこの日で最もパッショネイトな演奏。
ほとんどペダルを踏み続けているのではないかと思うくらいに、左手アルペジオの響きが重層的で厚みがあって、うねるようにダイナミック。
右手側の旋律も弱音で弾くところは少しあるけれど、ほとんど直線的に力強く進んでいくので、かなりの迫力があって、この《革命》はフィナーレに相応しい演奏。

Op.10がこの日の最後のプログラムではなくて、この後にOp.25も演奏するけれど、Op.10の演奏が終った途端、盛大な拍手歓声。何分間もそれが続いていた。

tag : ショパン エゴロフ

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ムストネン&オラモ/フィンランド放送響 ~ レスピーギ/ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲
オリ・ムストネンのベートーヴェンのピアノ協奏曲の一連の録音に続いてリリースされたのは、レスピーギの《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》

今度はレスピーギ!?と思ったほどに、意外な選曲。それも、ミクソリディア旋法の方のコンチェルトを選ぶとは。
でも、良く考えてみると、イ短調協奏曲よりはずっとムストネンに向いている。
ムストネンのレパートリーというと、ベートーヴェン、バッハ、ショスタコーヴィチ、シベリウス、ヒンデミット、プロコフィエフ、チャイコフスキー、etc.。
イメージとして、北半球の、それも寒い国の音楽が多いかなという感じ。
太陽が輝く南欧イタリアの作曲家レスピーギというと、ちょっとすぐにはイメージがつながらなくて。
でも、現代ものはかなり向いていると思うので、過去と現代が融合したようなレスピーギの演奏は意外と面白そう。
少し調べてみると、2004年11月のヘルシンキの演奏会で、今回の録音と同じくオラモ指揮フィンランド放送響の伴奏で、《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》をムストネンが弾いていた。どうもこの曲を以前からレパートリーにしていたらしい。

ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲、ローマの噴水ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲、ローマの噴水
2010年10月27日 発売予定
オリ・ムストネン(ピアノ)、オラモ指揮フィンランド放送交響楽団

試聴する(米amazon)
日本では10月末頃の発売。すでに米amazonでは販売されていて、米国NAXOSのNMLでも全曲聴ける。

レスピーギといえば「ローマ三部作」が有名。これはあまり好きでもなく、それよりは優雅で古典的な薫り漂う《リュートのための古風な舞曲とアリア》の方がずっと好き。あまり聴かれていないのではと思うけれど、ストラヴィンスキーの《プルチネルラ》と同じくらいに素敵な曲。
ピアノ独奏版もあって、シチェルバコフが『レスピーギ/ピアノ作品集』に録音している。

レスピーギのピアノ協奏曲は2曲、管弦楽曲としては《ピアノと管弦楽のためのトッカータ》や《スラヴ風幻想曲》などもあり。
2曲のピアノ協奏曲のうち、Op.40のイ短調協奏曲は古典的な雰囲気を持ったロマンティックな曲なので、とても聴きやすい。
Op.145の《ミクソリディア旋法によるピアノ協奏曲》は、全く作風が違っていて、かなり変わった構成のピアノ協奏曲。レスピーギらしい流麗で煌びやかなシンフォニックな音楽ではないので、あまり人気がないらしい。
録音も少なく、シチェルバコフのNAXOS盤かトーザーのCHANOS盤など数えるほど。

このミクソリディア旋法とは、教会旋法の一つらしく、音源と説明は<リコーダーと吹奏楽の部屋>という下記のサイトに載ってます。
教会旋法の試聴(教会旋法の種類の説明、実際の音がMIDI音源で聴ける)
ミクソリディア旋法の特徴は「響きの豊かな旋法です。明快、熱烈、感動、喜悦、飛翔、 熱狂的、飛躍、凱歌、躍動的、確信、荘厳、充満、充全のイメージを持ちます。基音の「ソ」と下の「ファ」、 「ソ」と上の「ラ」、「ラ」と上の「シ」がすべて全音の間隔なので開放的で明る印象を創り出します。」

《ミクソリディア旋法によるピアノ協奏曲》は、古典的な佇まいがあるところは格調高く、確かにミクソリディア旋法の特徴どおり、明るく華麗な響きはするけれど、第1楽章と第2楽章は即興風のいろんな旋律が現われては消えていくようで、とらえどころのなさがある。
和声自体はとても綺麗な響きなので、音自体は聴きやすいけれど、普通のピアノ協奏曲のように印象的な主題旋律をピアノが展開していくというわけではないので、一度聴いただけでは構成もよくわからない。

この曲のピアノパートを聴いていると、私はなぜかキース・ジャレットのソロリサイタルのインプロヴィゼーションを連想してしまう。
多分、モーダルな旋律がとめどなく流れていくようなところが似ているせい。
誰もいない湖を連想させるような静謐さや、いろいろと思いめぐらすような思索的なフレーズとかが、キースのソロピアノとオーバーラップして、まるでクラシック調のインプロヴィゼーションを聴いている気分がする。
このコンチェルトには親近感を覚えるし聴きやすく感じるのは、ジャズピアノを聴いていたおかげらしい。
クラシック以外の曲を聴くのも、意外なところでクラシックにつながっていくというところがなぜか面白く思えます。

Respighi: Concerto in modo misolidio P.145, (Mustonen)



                             

第1楽章 Moderato
冒頭は、レスピーギらしい典雅なピアノ・ソロ。
ピアノ協奏曲らしくピアノソロが主体ではあるけれど、協奏曲にしては伴奏なしの独奏が多い。
オケは時折ピアノの伴奏をしているけれど、この時はさほど存在感がなく、トゥッティになると主題を思い出させるように、突如壮麗なサウンドで主題(とその変形)を演奏している。
ピアノ協奏曲というより、管弦楽付きピアノ独奏曲と言った方が良いのでは..と思えてくる。

ピアノパートの旋律・和声とも美しいけれど、古典やロマン派の音楽のように主題旋律を軸に展開していく明快さがなく、主題がいろいろな形で組み込まれたモーダルな旋律が、脈絡もないように(実際は何かあるんでしょうが)次々とパターンを変えて現われては消えていく。
散文的というか、即興的というか、いろいろ思い巡らせながら音楽が湧き出ているような感覚。
こういうところが、キースのインプロヴィゼーションを連想させるに違いない。(当然、レスピーギの曲の方が構成感があるし、とめどなさは少ないけれど)

この一見とらえどころがないような第1楽章を、ムストネンらしいエッジの効いたアーティキュレーションと硬質で透明感のあるカラフルな音で、彫の深い立体感のある鮮やかな表現で弾いている。
緩急・強弱のコントラストがシャープで、多彩な響きには煌くような輝きがあり、静謐さとダイナミズムの両方が交錯するピアノ・ソロが素晴らしく、さらに伴奏がうねるようにダイナミックで壮大。
水気を含んだようなクリアなピアノの響きが瑞々しいし、いつもと違って軽妙さは全く感じさせず、この曲に相応しい引き締まった端正な美しさがある。
ムストネンのピアノは、人間のいない湖に広がる波紋や、その上を飛び交う色鮮やかな蝶々とか、視覚的なイメージを喚起するところが、とてもファンタスティック。

第2楽章 Lento - Andante con moto -
冒頭は大河ドラマ風の壮大な主題が出てくるけれど、主題とテンポが変わっただけで、第1楽章と同じく、ピアノが断片的な旋律を次々と弾いていく。

第3楽章 Passacaglia: Allegro energico
アタッカで繋がる第3楽章は、この曲のなかでは一番わかりやすい。
前2楽章に比べて、主題旋律が明快で、壮大で開放感のある曲。ようやくオケの存在感が出て、トゥッティだけでなく、伴奏でもフィナーレらしい華やかさ。

冒頭は少しファンファーレ風のピアノ・ソロで始まる。ちょっとブロッホの《コンチェルト・グロッソ》も似ているかも。
時々、オケのトゥッティが「アラビアのロレンス」のようなスペクタクルな歴史映画のサントラ風に聴こえる。(格調は高いけど)
その間に入るピアノソロは、直前のオケの演奏とは全然違った雰囲気で、相変わらず静かで思索的なところがアンバランスで面白い。
楽章半ばの協奏部分に入ると、終盤に向かってエンジンがかかったようにピアノもテンポが上がって、華麗でピアニスティックなパッセージに変わり、最後は量感と力感たっぷりのオケが主体になって壮大なエンディング。

第3楽章のムストネンのピアノは、ノンレガートでシャープな強弱のコントラストの独特のアーティキュレーションが良く映えて、生き生きとした躍動感があるし、オケの表情豊かで勇壮な伴奏も加わって、映画を見ているような臨場感のあるドラマティックな演奏。


《ミクソリディア旋法のピアノ協奏曲》は、モーダルな旋律がするすると流れているようなとらえどころのなさがあって(特に第1楽章と第2楽章)、ピアノ・パートには即興的な自由さを感じる。
かなり変わった作風だと思うけれど、キースのインプロヴィゼーションや現代もののコンチェルトをいろいろ聴いてきたせいで、以前シチェルバコフの録音で聴いた時よりも、はるかに聴きやすくなっていた。
よく聴く古典やロマン派のクラシックのピアノ協奏曲とは趣きが違っているし、現代音楽のピアノ協奏曲としてもユニークなコンチェルトでとても面白い。

CDのPR文によると、ムストネンの演奏はサンデー・タイムズの批評では「夢が息づくピアニズムは、他のプレイヤーが乗り越えられない表現の壁をやすやすと突破した」と好評だったらしく、この録音を聴けばそれも納得。
ムストネンは作曲家でもあるし、こういう曲想と構成が錯綜した曲でも、彼独特のアーティキュレーションと色彩感豊かな美音に明晰な解釈で、鮮やかに聴かせてくれる。
ムストネンは現代ものが感性的にもよく合っているに違いない。ヒンデミット、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、それにこのレスピーギと、どの録音も個性的で冴えた知性と才気が感じられて、もっと現代ものを録音してくれたら良いのに...と思ってしまう。

tag : レスピーギ ムストネン

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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