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アンブローズ・ビアス 『悪魔の辞典』
確か中学時代にたまたま本屋さんで見つけたアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』。
タイトルが面白そうだったので少し読んでみると、これが常識とは全く違っていて結構面白い。
品行方正で世の中の常識が大事だと思う真面目な人にとっては、"悪魔の"辞典なのかもしれないけど。

ビアスによる言葉の"定義"は、建前と常識の砂糖衣にくるまれているエッセンスの毒性を、シニカルな言い回しで突いてくる。
軽妙なウィットを通り過ぎて、皮肉に満ちた痛烈な言説が散りばめられている。
はははと笑える面白い視点のもの("BACK")や、確かにそういうところはある...と思うような一面の真理が含まれているもの("PREDILECTION")から、あまりに真実でありすぎて笑うに笑えないもの("ABORIGINES")まで、毒性の強さもいろいろ。


悪魔の辞典 (角川文庫)悪魔の辞典 (角川文庫)
(1975/04)
アンブローズ ビアス、奥田 俊介 他

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私が持っているのは、昔の角川文庫版。表紙のイラストは、昔の方が辞書らしくて品が良かったのに。
訳文がときどきわかりにくく、日本語にしては直訳的で変なものもある。

新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)
(1997/01/16)
アンブローズ ビアス

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これは岩波文庫版。こちらの方が辞書らしい装丁。この新訳版は、紹介文を読むと角川文庫版よりもくだけた感じでわかりやすそうな気がする。部分的に読み比べても良いかも。

常識・道徳にまつわる言葉は、その自己正当化と利己性の側面から定義しているものが多く、価値観や常識のフィルターを外して、"原理的"に考えると、その通りなのかも。
人間関係がらみの言葉の定義にも、痛烈な皮肉が込められている。
職業に関する言葉は、政治家、医者、弁護士が多い。定義は、ブラックジョークの類でよく登場するのと同じタイプ。
一番印象が強くて、記憶にしっかり残ったのが、"ABORIGINES" と "BACK"。
他にも、上手いことをいうなあと思った言葉はいろいろあれど、すぐに定義が思い浮かぶものはそう多くはない。

政治・経済
- ADMINISTRATION 【行政機関】政治において巧妙に仕組まれた抽象的概念。総理大臣または大統領の身代わりとして、殴る、蹴るの乱暴狼藉を受けるように仕組まれている。悪辣な先導や非難に耐える藁人形。
- DIPLOMACY 【外交手腕】自国のために虚偽を申し立てる愛国的術策。
- VOTE 【投票】自身を馬鹿者にし、自国を破滅させてしまう、自由人の力の道具ならびにおよび象徴。

職業
- ACCOMPLICE 【共犯者】他の一名と語らって犯罪に荷担し、しかも有罪であると知りつつ、みすみす共犯関係に入るもの。たとえば有罪であることを承知の上で犯罪者を弁護する弁護士がその例。(略)
- DENTIST 【歯医者】口の中に金属をはめ込みながら、ポケットからコインをいく枚も抜き出す手品師。
- LAWYER 【法律家】法律の抜け穴に長じた者。

定説
- ABSURDITY 【不条理】自分自身の意見とは明らかに相容れない所説ないし信条。
- MAN 【人間】これが自分の姿だと思う姿に、ひとり恍惚として思いふけり、当然あるべき自分の姿を見落とす動物。その主要な仕事は、他の動物たちと、自分の属する種族を絶滅することである。
- OPTIMISM 【楽天主義】醜いものも含めて全てが美しく見え、悪いものはなおのことだが、ものすべてが良く見え、そして間違っているもののすべてが正しく見えるという主義または信念。
- PYRRHONISM 【懐疑説】その発明者(ピロ。ギリシャの哲学者)の名をとってつけられた古代哲学。懐疑説を除いて全てを絶対的に信じないという説から成っていた。懐疑説を研究する近代の教授連は懐疑説そのものまで信じなくなってきている。
- RESPONSIBILITY 【責任】神、宿命、運命、運勢、または近所の人の肩へとたやすく移ってしまう離れ易い負担。占星術が行われていた時代には、星に責任転嫁するのが普通だった。

歴史
- ABORIGINES 【原住民】新発見された国土の開拓を妨害しているほとんど価値なき人間ども。彼らはやがて妨害することをやめ、国土の肥料となる。
- DELUGE 【ノアの洪水】この世の数々の罪悪(ついでに悪人どもも)を洗い流してしまった世にも名高き最初の洗礼実験。

建造物
- CEMETERY 【共同墓地】会葬者たちが嘘つき合戦をし、詩人が物笑いの種を書き、石工が賭け金稼ぎに仕事をする孤立した郊外の一郭。
- PALACE 【宮殿】豪華な御殿で、特に高級官吏のそれ。キリスト教会の高位の者たちの住居は宮殿(パレス)とよばれ、一方その宗教の「創始者」の住居は乾燥場、もしくは路傍として知られていた。そこに進歩あり。

人間関係
- ACQUAINTANCE 【知り合い】お金を借りるくらいの面識はあっても、お金を貸すほどはよく知らない人。相手が貧乏であれば、「一面識しかない」といわれ、裕福でしかも有名人だったりすると、「懇意な」と呼ばれる友人関係のこと。
- BACK 【背中】自分が落ち目になったとき、つくづくと眺めることが特に許される友人の身体の一部。
- DEFAME 【中傷する】他人について嘘八百ならべる。他人についてありのままをいう。
- FRIENDSHIP 【友情】天気の良い日は二人くらい充分乗れるが、悪い日にはたった一人しか乗れない船。
- NEIGHBOUR 【隣人】わが身と同じよう愛するように命じられているのだが、その命に逆らわせようとわれわれに対して万策を尽くす人間。
- PREDILECTION 【偏愛】幻滅への予備段階。

耳鳴音のサンプルファイル
耳鳴りが本人以外にも聴こえるかどうかを基準にすると、「自覚的」耳鳴りと「他覚的」耳鳴りの2つの分かれる。
耳鳴りの診断が厄介なのは、本人以外には聴こえない「自覚的耳鳴り」の場合は、音の高さやパターン、音量が他人にもわからない。
そこで、耳鳴り患者本人にどういう耳鳴り音がしているのか質問し、他人でもその耳鳴り音を「聞く」ことができるようにした音源がいくつか公開されている。

British Tinnitus Association - Sounds of Tinnitus
英国耳鳴協会(British Tinnitus Association)が1970年代に作成した耳鳴音のレコード。
周波数やパターンが異なる耳鳴りが次々に再生される。





The Sounds Of Tinnitus - Work Out What Kind of Tinnitus You Have.
耳鳴り患者の個人ブログ"Tinnitus - RingingInEars.net"に載っている耳鳴音のサンプル。
ブログ記載の説明によると、この音源は、国際的な医学研究組織が行った研究で作成されたもの。
耳鳴り患者に防音室で自分の耳鳴りを聴いてもらい、その音をシンセサイザーで作成、再度、患者に聴いてもらって完成したという。
パルス音、Hiss音、スタッカート音、ホワイトノイズ音、ホイッスル音、ハミング音、ベル音、それらの組み合わせ音など、合計12種類の耳鳴り音のファイルがある。

この他に、自分の耳鳴り音に似た音を合成し、録音したファイルをYoutube上でで公開している人もいる。


耳鳴り関連の臨床試験情報データベース(日本国内)
現在、日本国内で実施されている耳鳴り用治療薬・治療法の治験および臨床試験情報は以下の通り。

臨床試験情報データベース
日本国内で実施中の治験・臨床試験のうち、下記の3機関に登録されている試験については、ウェブ上の検索システムで検索可能であり、試験概要も公開されている。
なお、厚生労働科学研究補助金が支給されている臨床研究は、研究開始時までに下記のいずれかの登録機関に研究情報を登録することとされている。

大学病院医療情報ネットワーク研究センター(UMIN)
   - UMIN臨床試験登録システム(UMIN-CTR)
   -- 試験情報の検索
   -- 登録・公開された全臨床試験の一覧(登録件数:6832件)

 
(社)日本医師会治験促進センター(JMACCT)
   - 臨床試験登録システム
   -- 登録済み臨床試験検索
   -- 登録済み臨床試験一覧(登録済件数:75件)


(財)日本医薬情報センター(JAPIC) (製薬企業系)
   - 臨床試験情報(JapicCTI)検索
   - 登録済み臨床試験情報一覧(登録済件数:5809件)
 ※対象:医薬品(試験薬剤)を用いた臨床試験(治験及び非治験)
 ※臨床試験:有効性や安全性、品質が未知な薬剤について、研究を目的に行われる試験。臨床試験のうち、医薬品の承認申請に使用することを目的とした臨床試験が「治験」。それ以外の臨床試験は「非治験」。

国立医療保健科学院(UMIN)
   - 臨床研究(試験)情報ポータルサイト
   -- 臨床研究(試験)情報検索
   -- 検索結果(全登録情報)(登録済件数:8,569件)
上記3機関の臨床試験登録情報を一括して検索できる。
フォーマットが統一されているので、情報を比較するには便利。
情報によっては、情報公開・登録日のタイムラグは発生する可能性がある。



実施中の臨床試験[UMIN検索結果]
- KRP-209 第II相臨床試験 -自覚的耳鳴患者に対する有効性及び安全性の検討-[杏林製薬株式会社]
- 蜂の子成分によるメニエール病に対する治療効果[岐阜大学医学部 耳鼻咽喉科]
   ※はちみつメーカーの山田養蜂場(みつばち研究助成金基金)が研究助成。
- 漢方薬[半夏厚朴湯]の臨床試験[北里大学病院]
- 5%炭酸ガス吸入による耳鳴の治療[長崎大学耳鼻咽喉科]
- 耳鳴に対する経頭蓋磁気刺激による治療効果調査[慶應義塾大学医学部]


治験に関する参考サイト
- 厚生労働省「治験」ホームページ
- 治験ナビ-患者の為の治験・臨床試験ポータルサイト

[2011.12.27現在]


バッハ=ブゾーニ編曲/前奏曲とフーガ ニ長調 BWV532
今年のクリスマスはなぜかバッハばかり聴いている。
といっても、コラールやオルガン曲をピアノ独奏用に編曲したもの。
クリスマスの今日は、バッハのオルガン作品をブゾーニが編曲した《前奏曲とフーガ ニ長調 BWV532》。
華やかで、明るく清々しい雰囲気が、クリスマスにぴったり。

この曲の演奏で一番好きなレーゼルの録音はYoutubeに無く(残念)、見つけたのはギレリス、シフラ、アムランの録音。
ギレリスは遅めのテンポで丁寧に弾いているけれど、どうも粘っこくてまだるっこしい気がする。(単なる個人的好みの問題)
アムランの方は、テンポが速くて指回りは滅法良いけれど、技巧の方が走りすぎて、メカニカルな練習曲風と間違いそう。

一番気に入ったのがシフラ。1963年のルガーノライブとBBC-TV Concertの2種類の音源があって、好きなのはBBCの方。
音質はルガーノの方が雑音がなくて良いけれど、響きにガラスのような鋭さと硬さがあって、フォルテは耳に痛い。
演奏時間は約11分とテンポは速めで、切れ良くシャープなタッチ。
BBCのコンサートは、雑音が入っているけれど、篭もった録音音質のせいか、音が柔らかくて暖かみがあり、この曲の雰囲気によく似合っている。こちらもフォルテの音がきつくて、シフラはこういう弾き方をする人なんだろう。
演奏時間が約12分とテンポが少し遅いけれど、これくらいのテンポの方が、落ち着いていてちょうど良い感じ。
シフラは、繊細な表現で聴かせるというわけではないけれど、神経質なところも技巧が先走るところもなくて、ストレートでシンプルな叙情表現が爽やかで堂々として、バッハらしい格調の高さもある。
しっかりとつかんだ和音の響きの安定感と生き生きとした躍動感に加えて、音符の間からこぼれ落ちてくるような自然な情感がとても心地良い。
個性的で外面的に派手なヴィルトオーゾというイメージとは違って、曲のフォルムを崩すようなこともなく、緩徐部分は意外に丁寧で細やかな叙情感もあるところが、少し意外だったけど、このバッハ=ブゾーニはとても素敵。
ギレリスやアムランの録音を聴いているときよりも、ずっと暖かいものが伝わってくる気がする。

前半は、和音で華やかな幕開け。奥ゆかしく清々しいプレリュード。
Cziffra - Bach/Busoni Prelude and fugue in D major 1/2




とても可愛らしく始まるフーガ。クリスマスを迎えて一面の雪景色のなかで、子供達が楽しそうに遊んでいるような情景が自然と浮かんで来る。
シフラは軽やかなタッチと弾力のあるリズム感で勢いよく、重層感のある和声の響きは力強く堂々として明るい輝き。

Cziffra - Bach/Busoni Prelude and fugue in D major 2/2





tag : バッハ ブゾーニ

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『ブラームス回想録集〈1〉 ヨハネス・ブラームスの思い出』 ~ ピアノ教師&ピアニストとしてのブラームス
ブラームスの伝記と言えば、真っ先に思い浮かぶのがガイリンガー著『ブラームス 生涯と芸術』
1952年に音楽之友社、1975年に現代芸術社が出版し、今入手できるのは1997年の改訂版。

新潮文庫版"カラー版作曲家の生涯"シリーズの『ブラームス』は、ブラームスの一生がコンパクトにまとまっていて、何より良いのが小さいけれどカラー写真が豊富なところ。

最近読んでいるのは、ブラームスと親交があった人たちが彼の思い出を綴った『ブラームス回想録集』。
全3巻とかなりのボリューム。ブラームスの若い頃から晩年まで、音楽仲間の作曲家、指揮者、演奏家、教え子など、立場の違う人たちがブラームスと共に過ごした時の記憶や手紙をもとに、ブラームスの人となりやその音楽について語っている。

ちょうど第1巻と第2巻を読んだところ。ブラームスとホイベルガーとの会話が満載されている第2巻よりも、ブラームスとの思い出を綴った文章や双方の手紙が多数載っているが第1巻の方が、(個人的には)面白かった。
第1巻は、ブラームスがシューマンのもとを訪れた頃~中年期の頃に関する回想が多く、若い頃の友人ディートリヒや歌手ヘンシェル、クララ・シューマンの弟子たちがブラームスについて語っている。
後年の"辛らつな批評家で気難しく人付き合いが悪い"というイメージとは違って、若い頃のブラームスは穏やかで人あたりの良い好青年。
その才能は多くの人に賞賛され、作曲家人生は順風満帆だし、優れたピアニストとして、自作だけでなくベートーヴェンやバッハなどを演奏会でもよく弾いていたという。

ブラームスと交わした会話や手紙もいろいろ載っている。
翻訳文体が話し言葉のせいか、まるでブラームスの話をじかに聞いているような気がするので、とても身近で親近感が湧いてくる。
それに、浮かんでくるのは、中年以降のビア樽のような体型のヒゲ面ブラームスではなくて、若かりし頃の長髪の文学青年風ブラームス。

特に興味を惹かれたのは、ピアノ教師、それに、ピアニストとしてのブラームス。
ブラームスはピアノを教えるということはほとんどしていなかったらしいが、クララ・シューマンに頼まれて、彼女の弟子たちにはピアノを教えていた。
ブラームスのレッスン風景や、ブラームス自身のピアノ演奏について、クララの弟子たちが自らの経験を綴っている文章が、この本のなかで一番印象的で、好きなところ。

ブラームス回想録集〈1〉ヨハネス・ブラームスの思い出 (ブラームス回想録集 (1))ブラームス回想録集〈1〉ヨハネス・ブラームスの思い出 (ブラームス回想録集 (1))
(2004/01/01)
アルベルト ディートリヒ、ジョージ ヘンシェル 他

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 「クララ・シューマンの弟子たちの回想録 その一 私のブラームス回想録(1905年) フローレンス・メイ」
(「ヨハネス・ブラームスの生涯」の序章部分から省略なしの訳出したもの。以下は抜粋または要約)

フローレンス・メイは、ロンドンでクララ・シューマンのレッスンを受けた後、ドイツのバーデンバーデン近郊にあるリヒテンタールの別荘で、クララのレッスンを受けるようになった。
クララが演奏活動でスイスへ行っている間、メイはブラームスのレッスンを受けることになる。

 ブラームスのひととなり
当時、ブラームスは38歳。身長はやや低めで体格はがっしり。後年の肥満の傾向は全くなし。
理知的な額を有する堂々たる頭部と頭脳の明晰さを表わす青い瞳。挙動には気取りがなく、社交性と慎み深さが同居する、親しみのもてる人という印象だった。
ブラームスは自分について話すのを極端に嫌っており、自分の作品について話すことはめったになく、集まりではどんなに頼んでも、絶対に演奏しなかった。
ブラームスは極端な気分屋で、演奏しろといわれるのが嫌いなうえに、演奏する彼自身のムードと演奏される側、つまり作品の雰囲気がぴったり合わないと、全くだめだった。

ご機嫌なのは先生(クララ・シューマン)たちと一緒の時で、彼女にはいつも下僕のように使え、態度には尊敬の念が表れていた。それは息子が母に持つ愛情と、芸術家同士の共感とがないまぜになったような感覚-弟子のメイにはそう思えた。

ブラームスは大の散歩好きで、自然への愛着もひとしお。夏の間は4時か5時には起き、自分でコーヒーをいれ、それから朝のおいしい空気と鳥の歌を満喫しに、森へ出かけるのが日課だったという。
[※ベートーヴェンも、同じように田園や森の中での散歩をこよなく愛していたのを思い出した。]

 ブラームスのピアノ指導法
クララは「ブラームスは最高のピアノ教師」だと言っていた。実際、メイがブラームスのレッスンを受けると、「何一つ欠点のない、全ての資質を備えた理想的なピアノ教師」だった。
ブラームスの頭の中には、技術的な修練方法が、細かなことまで全て入っており、しかもそれをきわめて短時間で教えることができた。
メイがテクニックの弱点を説明して、クレメンティの《グラドゥス・アド・パルナッスム》を弾き始めると、その指をほぐして均等にする作業に取り掛かった。
レッスン初日から、目的に達するにはどうするのが一番なのかの解説付きで、音階、分散和音、トリル、重音奏法、オクターヴといった技術訓練を次々と与えていった。
レッスン中ブラームスは椅子に腰かけ、弟子の指を見ながら、誤った動きを指摘し、自分の手の動きで正しい形を見せながら、夢中で指導していたという。
ブラームスは、通常行われる五本指のエクセサイズがメイに有効だとは思わず、もっぱら一般の作品や練習曲を使い、自ら習得した、困難なパッセージを克服するための練習法をメイにも教えた。
メイの手首も、聞いたこともないブラームス独自の方法で、ほとんど苦労しないまま二週間ですっかりほぐれ、指の付け根の固い出っぱりが、大方消え失せた。

ブラームスは、指づかいには特にうるさかった。特定の指に頼らず、全ての指をできるかぎり均等に働かせるよう注意した。
バッハの楽譜はメイがイギリスから持ち込んだもの。指使いが書かれていなかったので、ブラームスはツェルニー版の運指を使うように(それ以外の書き込みには従わないように)指導した。
当初、レッスンの大半はバッハの《平均律》か《イギリス組曲》。メイの技術が向上すると、レパートリーも音楽の本質を学ぶ時間も少しづつ増えていった。
ブラームスは、曲の細部に至るまで厳しく気を配れと注意する一方、「フレージング」はできるだけゆったりととるように言った。繊細な詩集の外側を縫い進み、飾り付けていくように、フレーズのアウトラインを大きく一筆書きするのである。音楽の陰影を使って、フレーズをつなげたりもした。
音色、フレーズ、感覚など、ブラームスのイメージが音になるまで、バッハの一部分を十回でも二十回でも演奏させた。
ブラームスは些細なことまで信じられないほど誠実で、生徒に向かって物知りぶったり、イライラしたり貶したりしなかった。趣味はほめることで、どんな曲でもまず好みどおりに演奏すると「いいねえ、言うことなし」で、「そこはこう変えて」とはならなかった。

 ブラームスのピアノ演奏法
レッスンの終わりに、メイに頼まれてブラームスが自らピアノを弾くようになったが、一番多く取り上げたのはバッハ。
《48の前奏曲とフーガ》(平均律)を解説付きで、1曲か2曲、暗譜で弾き、その後は気分によって楽譜集から曲を選んで弾き続けた。
ブラームスは、著名なバッハ信奉者達のように、「バッハはただ流れるように演奏すべし」などとは思っておらず、彼のバッハ解釈は型破りで、伝統的な理論に捉われていない。
ブラームスが弾く《前奏曲》は躍動感溢れる力強い演奏で、濃淡と明確なコントラストがついて、まるで詩のようだったという。
バッハの音符一つ一つは感性あふれるメロディを作ってゆく。たとえば深い哀感、気楽なお遊び、浮かれ騒ぎ、爆発するエネルギー、えもいわれぬ優美さ。しかし、情緒は欠けておらず、決して無味乾燥ではない。情緒(センチメント)と感傷(センチメンタリズム)は別物なのだ。組曲では、音色とタッチを様々に変え、テンポも伸縮自在だった。
彼はバッハの掛留音をこよなく愛していた。「絶対にきこえなければならんのはここだ」と言いながら、タイのかかった音符を指し、「その後ろの音符で最高の不協和音効果が得られるように[前の音符を]打鍵すべし、でも、準備音が強くならないように」と強調した。
激しさも要求する一方、「もっとやさしく、もっと柔らかく」が、レッスン中のブラームスの口癖だった。

ブラームスは、バッハ、スカルラッティ、モーツァルトなどの「小奇麗な演奏」を認めなかった。巧みで均一で、正確かつ完全な指づかいは求めたが、多様で繊細な表現が絶対条件、いうならば呼吸のようなものだった。
作曲家が何世紀の人間であろうが、聴く人に作品を伝えるために、ブラームスはモダン・ピアノの力をためらうことなく利用した。

ブラームスは「安手の表情」をつけるのを好まず、特に嫌がったのは、作曲家の指示がないのに和音を分散させること。
メイがそんなことをすると必ず「アルペッジョじゃない。」と注意した。
ブラームスは音の強弱に関係なく、スラーのかかった二つの音符の醸しだす効果に重きを置き、それを強調したため、メイは、「こういった記譜部分は、彼自身の作品でこそ特別な意味を持つことが飲み込めた」と書いている。[※これは、ブラームスが多用していたヘミオラのこと?]

メイが聴いたブラームスの演奏は、「刺激的かつ独特で、到底忘れることはできない。名人芸を自由に操るといっても、それはいわゆるヴィルトゥオーゾ的演奏ではなかった。どんな作品でも、うわべの効果は決して狙わず、細部を明らかにし、深い部分を表現しながら、音楽の内部に入り込んでいるようだった。」

メイが、ブラームスの作品を練習させてほしいと頼むと、「僕の曲は、強い筋力と手の強い掴みが必要なので、今の君には向かないだろう」。自分が書いたピアノ曲は、女性には向いていないと思っていたらしい。
「どうしてピアノ用に、とんでもなく難しい曲ばかり作曲なさるのですか」とメイが詰め寄ると、ブラームスが言うには「(そういう音楽が)勝手にこちらにやってくるんだ。さもなきゃ、作曲なんかできないよ(I kann nicht anders)。」


 「クララ・シューマンの弟子たちの回想録 そのニ 私のブラームス回想録(1905年) アデリーナ・デ・ララ」
クララ・シューマンのレッスンで、ブラームスの《スケルツォOp.4》の一部分を弾き終えたとき、ブラームスが突然部屋に入ってきて、「今弾いた所をもう一度」。
最初のフレーズを弾き終わると、「違う違う、はやすぎる。ここはがっちり提示するんだ。ゆっくりと、このように」。
ブラームスが自ら演奏。鍵盤の上でゆったりとくつろいでいるようにしか見えないのに、それが豊かで深みのある音を、そして雲の上にいるようなデリケートなppを紡ぎだす。あのスケルツォのオクターブを一つも外さず、ものすごいリズム感で演奏するのだ。
ブラームスは生徒が自分の作品の低音(ベース・ライン)を弱く弾こうものなら、烈火のごとく怒った。その作品はきわめて深い音で、そして左手は決然と弾かなくてはならない。ブラームスは先生[クララ・シューマン]と同じで感傷的な演奏を嫌い、「決してセンチメンタルにならず、ガイスティック(精神的)でなくてはならない。」

日常生活では全く飾らず、ユーモアの感覚にあふれ、冗談を飛ばす。こんな人が真に偉大な巨匠だなんて、思い出すのも難しいほど。最初に会ったとき、ブラームスは40歳だったと思う。

 「クララ・シューマンの弟子たちの回想録 その三 ブラームスはこう弾いた ファニー・デイヴィス」
ブラームスの演奏を文字で書き表すことは、非常に難しい。それは孤高の天才が、作品を作ってゆく過程を論じるようなものだからだ。
巨匠の演奏に向かう姿勢は自由かつしなやかで、余裕があり、しかもつねにバランスがとれていた。たとえば耳に聞こえてくるリズムの下には、いつでも基本となるリズムがあった。特筆すべきは、彼が叙情的なパッセージで見せるフレージングだ。そこでブラームスがメトロノームどおりに演奏することはありえず、反対に堅牢なリズムで表現すべきパッセージで、焦ったり走ったりすることも考えられなかった。下書きのようなザッとした演奏をするときも、その背後には楽派的奏法がはっきり見てとれた。推進力、力強く幻想的な浮遊感、堂々たる静けさ、感傷を拝した深みのある優しさ、デリカシー、気まぐれなユーモア、誠実さ、気高い情熱、ブラームスが演奏すれば、作曲家が何を伝えたいのか、聴き手は正確に知ることになったのだ。
タッチは温かく深く豊かだった。フォルテは雄大で、フォルティシモでも棘々しくならない。ピアノにもつねに力感と丸みがあり、一滴の露のごとく透明で、レガートは筆舌に尽くしがたかった。
"良いフレーズに始まり良いフレーズに終る"-ドイツ/オーストリア楽派に根ざした奏法だ。(アーティキュレーションによって生じる)前のフレーズの終わりと、次のフレーズの間の大きなスペースが、隙間なしにつながるのだ。演奏からは、ブラームスが内声部のハーモニーを聴かせようとしていること、そして、もちろん、低音部をがっちり強調していることがよくわかった。
ブラームスはベートーヴェンのように、非常に制限された表情記号で、音楽の内面の意味を伝えようとした。誠実さや温かさを表現したいときに使う <> は、音だけでなくリズムにも応用された。ブラームスは音楽の美しさから去りがたいかのごとく、楽想全体にたたずむ。しかし一個の音符でのんびりすることはなかった。また、彼は、メトロノーム的拍節でフレーズ感を台なしにするのを避けるために、小節やフレーズを長くとるのも好きだった。

若きブラームスが完璧なピアノ・テクニックを象徴する有名な逸話。
巡業先で半音高く調律されたピアノに遭遇したヴァイオリニストのレメーニは、弦が切れるのを怖れて調弦を上げられない。そこでブラームスは、《クロイチェル・ソナタ》のピアノ・パートを公開演奏の場で、瞬時に半音低く移調して弾いた。[※半音高くと移調したという説もある]
移調できるとかできないという次元の問題ではなく、《クロイチェル・ソナタイ長調》とは全く異なる《クロイチェル・ソナタ変イ長調》用に、指の準備が即刻できてしまう能力を持っていた。
この他に、メイの伝記中、ハ短調を半音上げて弾いた話があり、こちらの方が有名。
さらにこの回想録シリーズの第2巻でも、似たような移調演奏のエピソードがある。

<参考サイト>
バーデンバーデン・リヒテンタール散策[A Plaza of Clara Schumann クララ・シューマンのホームページ]
リヒテンタール(光の谷)にあるクララ・シューマン別荘跡やブラームスハウス周辺の写真がたくさん載ってます。
美しい街並みや落ち着いた自然の風景が満載。写真も大きくて鮮明に撮れてます。
ブラームスハウスの室内写真をみると、ブラームスはここでどんな暮らしをしていたのか、いろいろ想像してしまいます。
寝室のベッドがとても小さいのは、この家を使っていた頃のブラームスは、後年のビア樽体型とは違ってスリムだったし、もともと背が低かったためでしょう。
こちらのホームページには、他にもクララ・シューマン関連の情報-作曲家クララの作品・CD、クララに関する書籍・映画リストなどがあり、大変充実しています。


tag : ブラームス 伝記・評論

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ホームベーカリーで作るシュトーレンとパネトーネ
クリスマスらしいお菓子といえば、シュトーレンとパネトーネ。
この時期になると、ベーカリーショップやスウィーツのお店に並んでいるのをよく見かけます。
両方とも、お家でホームベーカリーを使って手作りできます。
シュトーレンは生地コースで生地だけ作って、成型する必要があるけれど、パネトーネはホームベーカリーにおまかせでもOK。
レシピは、panasonicのホームページにある<ベーカリー倶楽部/フェーヴのパン日記>より。

 発酵1回のシュトーレンレシピ!
 自家製フルーツ漬けでシュトーレン!
    ホームベーカリーの生地コースを使った簡単シュトーレン。

 パネトーネマザーで作るクリスマスのパン
    HBでおまかせパネトーネ。パネトーネマザーの代りに
    ドライイーストを使っても良いけれど、できれば耐糖性のドライイーストで。
    取説のレシピとは全然違ってリッチな生地で、こちらの方が普通。

 ホシノ天然酵母のクリスマスリースパン
    とってもめずらしいクリスマスリース型のパン


 シュトーレンとパネトーネのお話[ロワンモンターニュ]
    シュトーレンとパネトーネの由来について。


tag : ホームベーカリー

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クリスマスに聴きたいバッハ (その2)
み神に 謝しまつらん
カンタータ第29番"Wir danken dir, Gott, wir danken dir."より《シンフォニア》。
ピアノ編曲版でも、オーケストラのような重層感と明るい輝きで華やか。クリスマスの幕開けに相応しい曲。

Wilhelm Kempff plays J.S. Bach's Prelude from Cantata, BWV 29




目覚めよ、とわれらに呼ばわる物見らの声
カンタータ140番BWV140の第4曲コラール「Wachet auf, ruft uns die Stimme」。
バッハはこの曲をオルガン用に編曲している。
この演奏はブゾーニによるピアノ編曲版。ブゾーニのコラール前奏曲集の中で最も好きな曲。
明るく暖かみのある音色と爽やかな曲想が、クリスマスの晴れやかな朝にぴったり。

Paul Jacobs: Wachet auf, ruft uns die Stimme (Bach / Busoni)




われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ
コラール前奏曲「Ich ruf' zu dir, Herr Jesu Christ」BWV639のピアノ編曲版。
ブゾーニとケンプの編曲版が有名で、これはケンプ自身の演奏。
速めのテンポと力強いタッチで、格調高く、決然とした強い意志が伝わってくるよう。

Wilhelm Kempff: Ich ruf' zu dir, Herr Jesu Christ, BWV 639 (arr., Kempff)




いざ来たれ、異教徒の救い主よ
《Nun komm, der Heiden Heiland》BWV61。待降節第1週の礼拝のために作曲した教会カンタータの第1曲。
神の生誕の時を讃えた厳粛で神々しい曲。
ジェイコブスの演奏は、テンポがかなり揺れて起伏も激しくてかなりロマンティック。
強い祈りの気持ちと切々とした哀感が強く伝わってくる。

Paul Jacobs: Nun komm' der Heiden Heiland (Bach / Busoni)



前奏曲とフーガ BWV 532(ブゾーニ編曲)
明るく清明な雰囲気と心が浮きたつような楽しさと躍動感が、クリスマスにぴったり。
冒頭のファンファーレに続いて、前奏曲は清明で賛美歌のような喜びに溢れた美しい旋律。
フーガへ移行する部分は、テンポが落ちて静かに眠りにつくように。
フーガの冒頭は、子供のピアノの練習曲のようなシンプルな旋律。やがて音の密度が増して、音色も響きも多彩になり、弾むような躍動感とシンフォニックな響きは教会建築のように荘重。

Bach: Prelude & Fugue in D, BWV 532 for Piano (Cziffra György)




<参考サイト>
 Bach with Piano 
現代ピアノによるバッハ演奏に関する情報なら、このサイトの充実度は抜群。
記事中の録音・楽譜紹介、特にバッハ作品曲目・編曲データベースが素晴らしい。

tag : バッハ ブゾーニ ケンプ ジェイコブス

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クリスマスに聴きたいバッハ (その1)
主よ、人の望みの喜びよ
曲名は知らなくても、どこかで聴いたことがある人は多いに違いない名曲。
原曲は、カンタータ第147番《口と心と行いと生きざまもて》の第6曲&第10曲のコラール「Jesu,joy of men's desiring」。
ピアノ独奏曲としてはマイラ・へスとヴィルヘルム・ケンプの編曲版が有名。ヘス編曲版の方がよく演奏されている。
有名なのはリパッティの録音。個人的趣味でいつも聴くカッチェンのピアノで。

Julius Katchen play Bach : Jesu,joy of men's desiring Cantata,BWV174 arrange by Myra Hess




羊たちは安らかに草を食み
カンタータ《わが楽しみは、元気な狩りのみ》BWV208(狩りのカンタータ)の有名なアリア「Schafe können sicher weiden」。
ピアノ独奏用に、フリードマン、グレインジャー、ペトリなどが編曲。フライシャーの弾いている編曲版は、ブゾーニの高弟エゴン・ペトリのもの。
フライシャーは、1960年代前半にジストニア(筋失調症)による右手の故障で実質的にピアニスト活動を断念。(その後、左手のピアニストとして演奏活動を再開)
近年開発されたボトックス療法(ボツリヌス菌が出す猛毒の毒素を活用した治療法)により、再び右手でピアノを弾けるまでに回復。
このライブ映像は、両手のピアニストとしてカムバック後の演奏。

Schafe können sicher weiden (BACH) Leon Fleisher




シチリアーノ
《シリチアーノ》で有名なのは、バッハとフォーレの曲。
バッハの《シリチアーノ》は、フルートソナタ第2番変ホ長調BWV1031の第2楽章。
気品の漂う哀感がとても美しい曲。
ピアノ編曲はケンプ編曲版が有名。これはケンプが60歳前の演奏。

Bach - W. Kempff (1955) - Siciliano from Flute Sonata No 2 in E flat major, BWV1031



<参考サイト>
 Bach with Piano 
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tag : バッハ ケンプ カッチェン フライシャー

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アックス/ヨーヨー・マ/パールマン ~ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲集
最近、集中的に聴いているエマニュエル・アックスのCDから、今回はメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲集。
アックスの室内楽といえば、ヨーヨー・マと録音した数々のチェロ・ソナタが有名らしい。
チェロ曲は最近聴き始めたばかりなので、室内楽曲でピアニストを中心に聴くなら、ヴァイオリンソナタかピアノトリオで。

Mendelssohn: Piano Trios Op 49 Op 66Mendelssohn: Piano Trios Op 49 Op 66
(2010/02/02)
Yo-Yo Ma,Emanuel Ax,Itzhak Perlman

試聴する(米amazon)


試聴した時から、テンポがゆったりで緩々しているような気はしたけれど、CDで聴いてみるとやっぱりその通り。
第1番の第3楽章の"Scherzo: Leggiero E Vivace"、第4楽章の"Finale: Allegro Assai Appassionato"という指定にしては、他の名盤と言われる録音に比べると、とっても穏やか。
第3楽章は軽快で尖ったところが少なくて、とても可愛らしい雰囲気。ここはもっと速いテンポで弾く人が多いので、かなり慌しい感じになりがち。
それと比べると、スピード感には欠けるけれど、地に足がついた落ち着きがあるので、逆にこれくらい優雅なタッチを聴くのが目新しくて良いかも。
第4楽章も冒頭からテンポがかなり遅く、それほどシャープなタッチでもないので、"Allegro assai appassionato"にしては物足りないといえば、そういう気もする。でも、この雰囲気に慣れてしまうと特に気になることもなく。

パールマンのヴァイオリンは、若い頃の録音ばかりを聴いていたせいか、この録音では音が痩せてダイナミックレンジも狭くなって、音に弾力と鋭さがなくなっている気がする。
ヴァイオリンがかなり目立つこの曲にしてはやや影が薄く、そのせいで、ヴァイオリンが突出することなく、逆に3つの楽器がほどよく調和しているように思えてくる。

このCDを聴く目的はアックスのピアノ。
メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲は、ピアノパートがかなりピアニスティックで技巧的な難しさのある曲。
アックスがまだ60歳頃の録音なので、テクニックはしっかりしていて、危なげないし、細部まで丁寧なタッチと表情の変化で、流麗で懐深く包み込むような叙情感が美しい。
軽やかで歯切れ良く、硬めの音とタッチのプレヴィンと比べると、アックスのピアノの音にはしっとりとした潤いがあり、やや残響が長めで、流麗な叙情感がある。
弱音はアックスの方がややフェルトが覆われたように柔らかい響き。フォルテでもバンバンと強打せず、ヴァイオリンとチェロの音を掻き消すことなく、響きが深くて厚みがある音色が心地良い。

ピアノパートはかなり細かなパッセージで動き回るので、テンポが速いとややバタバタとしがち。
アックスは細かいパッセージでも、丁寧に音を押さえていくし、表情づけが細やかでニュアンスが多彩。
ピアノが派手に動き回って目立ち過ぎることもないかわりに、控えめすぎることもなく、ヴァイオリンとチェロぴったりと調和させていくので、一番しっかりとした存在感があるような気がしてくる。

甘美な思い出を追憶するように美しく儚げな第2楽章。ピアノが高音で弾く主旋律がとても綺麗。
Piano Trio No. 1 In D Minor, Op. 49, Andante con Moto Tranquillo - F. Mendelssohn(Itzhak Perlman, Yo-Yo Ma, Emanuel Ax.)


アメリカのamazonのレビューはまずまず良いけれど、面白いのは、「テンペラメントを期待してはいけない」とか、「seasoned and relaxed」(Seasoned;手馴れた、熟練した、老練した、枯れた)とか、評している。
それもなるほどと思うほどに、ハイテンションな演奏を期待すると、肩透かしを食うことになる。
悠々とした川の流れのように、肩肘張らずに自然体でしなやか。
メンデルスゾーンらしい優雅で穏やかで節度のある品の良さで、これはこれで、流れるような叙情がとても綺麗。
テンポが遅いことと、ヴァイオリンが相対的に弱いせいか、丁々発止と掛け合うのような演奏ではないので、ピアノパートが細部の表情から微妙な音のニュアンスまでよく聴きとれる。
数ある名盤のようなテンションの高さや緊迫感は薄いので、そういうものを期待すると物足りなくなるだろうけれど、流麗で優雅で落ち着いた品の良い叙情感が美しくて、この緩々とした雰囲気に慣れてしまうと意外に心地良い。


tag : メンデルスゾーン アックス パールマン

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難聴・耳鳴治療法の研究開発トピックス
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市民公開講座「これからの難聴・耳鳴治療」(平成18‐20年度 厚生労働省科学研究成果発表会)
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講演会資料ダウンロード[PDF]

平成20年2月23日、「平成18‐20年度 厚生労働省科学研究成果発表会」として開催された市民講座「これからの難聴・耳鳴治療」は、難聴および耳鳴治療に関する最新の研究研究開発動向を中心した一般向け講演会。京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科、財団法人長寿科学振興財団が共催した。

「難聴治療開発のこれから」によると、京大で現在、「内耳薬物投与システム」を臨床試験中とのこと。
内耳に有効な薬物(インスリン様細胞成長因子1:IGF-1)をゼラチン製のハイドロゲルに滲み込ませて鼓膜内側の正円窓に置くと、薬が溶け出して内耳へ投薬できるという仕組み。[臨床試験の概要はこちら]
内耳の細胞が死んだ段階の治療法には、内耳再生法と人工内耳という2つの方向がある。幹細胞移植による内耳再生法や、完全な埋め込み型など高度化した人工内耳、さらに、脳に電極を埋め込む脳幹インプラントなどが研究・開発中。

「耳鳴りはどこから来るのか」では、耳鳴りの原因を、内耳・聴神経、脳、精神の三つに分けて解説している。


参考資料
高度難聴と人工内耳(内藤 泰) (京都大学医学部附属病院・京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科ホームページのトピックス)
聴神経機能の再生(関谷徹治) (同上)
内耳疾患の治療をめざして―基礎研究の最前線薬物の経正円窓投与(中川隆之)(日本耳鼻咽喉科學會會報 )
感音難聴への治療戦略(山下 大介)(慶應醫學)


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厚生労働科学研究費による研究開発
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「ナノテクノロジー、再生医学を融合した人工内耳・人工蝸牛の開発」 <感覚器障害研究>

厚生労働科学研究成果データベース
    検索キーワード:耳鳴-検索結果:19件 (参考:検索キーワード:難聴-検索結果:240件)
    (検索結果一覧から、各研究の概要が閲覧できる)

検索結果19件中で、耳鳴り治療法に関しては、「内耳薬物投与システムを応用した感音難聴、耳鳴り治療技術の臨床応用」(中川隆之,京都大学医学部医学研究科)と「ナノテクノロジーを用いたDDSによる耳鳴の克服」(坂本達則,京都大学医学部附属病院)という研究が、複数年にわたって行われている。



シューベルト/アヴェ・マリア
クリスマスも近くなったので、今日はクリスマス気分になれる曲を。
《アヴェ・マリア》というと、中世~現代まで多くの作曲家が書いている。
おそらく最も有名なのはグノーとシューベルトの曲。
グノーよりは、シューベルトの《アヴェ・マリア》の方がはるかに好きなのは、子供の頃に見た『弦鳴りやまず』というテレビドラマの影響に違いない。
このドラマは、ヴァイオリニスト辻久子さんの半生を描いたもの。
主演が樋口可南子、ヴァイオリンを自ら教えた父・辻吉之役が中村賀津雄だった。
CM嫌いでNHK以外のドラマはめったに見ない家庭だったけれど、このドラマだけは母親がとても好きだったので、私も毎回一緒に見ていた。
細かいストーリーはすっかり忘れてしまったけれど、ヴァイオリンが弾いていたシューベルトの《アヴェ・マリア》のメロディだけは、しっかり覚えている。
《アヴェ・マリア》というと、シューベルトの曲がすぐに頭の中で鳴り始めるくらいに、刷り込まれてしまったらしい。

有名な曲だけあって、ヴァイオリン&ピアノ、管弦楽版、ピアノソロ、ソプラノ&ピアノなど、フォーマットはいろいろ。

ソプラノとピアノ伴奏で。バーバラ・ボニーのやや硬質の品の良い歌声がとっても綺麗。



こちらは管弦楽版。
Franz Schubert - Ave Maria For Violin



tag : シューベルト

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2012年にメモリアルイヤーを迎える作曲家は?
毎年、年末近くになるとチェックするのが、翌年にメモリアルイヤーを迎えるクラシック作曲家生没記念年一覧

来年2012年の大物作曲家といえば、生誕150年のドビュッシー(1862-1918)くらいだろうか。
他に知っている作曲家も数人。

 生誕150年 ディーリアス (1862-1934)
 生誕100年 ジョン・ケージ (1912-1992)
 没後100年 マスネ (1842-1912)
 生誕100年 フランセ (1912-1997)
 没後 50年 イベール (1890-1962)
 没後 50年 ハンス・アイスラー (1898-1962)


ピアノ作品が多い作曲家といえば、ドビュッシー。
ケージはプリペアードピアノを使った曲を書いていたはず。ずいぶん昔、その録音を聴いたときはもう一つピンと来ないものがあったので、そのCDをまた聴きたいかというと...。
フランセとアイアランドは、ピアノ協奏曲は聴いたような気がするけれど、作品リストを調べてみるとピアノ独奏曲が結構多い。
この分だと、来年はドビュッシーで始まり、フランセとアイアランドに少し寄り道して、最後は再びドビュッシーで終りそう。

[追記 2012.1.16]
ブログ<鎌倉スイス日記>でハンス・アイスラーの《九重奏曲》を紹介していた。
アイスラーの録音はBerlin Classicsから多数リリースされているので、NAXOSで全曲聴くことができる。ピアノ作品を聴いてみると、べースはシェーンベルクでときどきベルクが混在しているような作風。わかりやすく親しみやすいシェーンベルクという印象。
シェーンベルクの高弟の一人だから、シェーンベルク的な作風を感じさせるのも当然かと思うけれど、管弦楽曲の《組曲》シリーズはもっと色彩感と躍動感があって、また作風が違う。アイスラーは意外に面白いそうな作曲家で、いろいろ聴いてみたくなってきた。


ブラッド・メルドー 『Largo』
カルテット以上の多楽器編成の曲は得意ではないので、ブラッド・メルドーの人気アルバム『Largo』も数回聴いただけでラックの奥で眠っていた。
聴き直したくなったのは、kenさんの<Kanazawa Jazz days>"Brad Meldau: Largo (2002)"の記事を読んだので。

LargoLargo
(2002/08/12)
Brad Mehldau

試聴する(米amazon)


多楽器編成の曲を聴くときは、まず音色で好き嫌いが分かれる。
音色と曲想はかなり関連しているので、好きな曲で使われている楽器を見ると、やっぱり音色が好きな楽器が多い。
特にアコースティック系の音は耳触りもよくて、心地良い。
例外的なのは、《Medley:Wave/Mother Nature's Son》。シンセやらエレクトリック楽器が多いけれど、ヴィブラフォンの音がくっきり鮮やかでとても綺麗。

アルバム収録曲12曲のうちで、気に入ったのが次の7曲。
"Franklin Avenue"と"Dear Prudence"は、凄く好きというほどではないけれど、BGMやぼ~として聴くのにはちょうど良い。
どの曲も、ピアノが埋もれることなく、しっかりした存在感。今まで聴いたことのあるビッグバンドとかの曲とは全然違う。
バックの多彩な音色とリズムにのって、ピアノパートが引き立っている。
ピアノソロやピアノ・トリオとは違った音のタペストリーを聴いているようで、久しぶりに聴いてみると、印象が全然違っていた。

1.When It Rains


木管系の音が入っているせいか、ちょっと黄昏がれた雰囲気のメロディで始まる。
爽やかで温もりのある"雨"がしとしと振っているようで、何かが浄化されるような清々しさ。
イントロ部分が終ると、ブラス系の楽器は通奏低音のように、それぞれ持続音を鳴らして、その上をピアノ・トリオが演奏。
普通のトリオとちがって、音の種類と厚みが増え、トリオを柔らかく包むような感じがして、とっても心地良い。

(Piano,Acoustic Bass,Drums,Flute,Clarinet,Oboe,Bassoons)

5.Paranoid Android
メルドーはRADIOHEADがとても好きらしく、このアルバムでも《Paranoid Android》をカバーしている。
ピアノソロバージョンは、ソロアルバム《Elegiac Cycle》にも収録していて、これはとても好きな曲。
聴き比べてみると雰囲気がかなり違っているけれど、この編曲も面白い。
ピアノソロは哀感漂う"Paranoia"といった趣きで、澄んだピアノの響きが美しく叙情的。
多楽器バージョンは音色が多彩でimagitive。エレクトリック系の音やリズミカルなところは、アンドロイドっぽいメカニカルな感じが出ている。"Paranoia"風の錯綜感はあまりないけれど。

後半は、一転して静かで淡々としたリズムと、濃淡のある叙情的な旋律と和声。
ピアノが弾く主旋律は、長調と短調が混在し、穏やかで透明感のある明るさのなかに、androidの哀しさが伝わってくるように儚げ。
最後は、調子の狂ったような冒頭部分がほんの少し回顧的に現れてエンディング。



(Piano,Acoustic Bass,Drums,Prepared Piano,French Horns,Trombone,Bass Trombone)


6.Franklin Avenue
(Piano,Acoustic Bass,Drums,Vibes,French Horn,Trombone,Bass Trombone)

8.Dear Prudence
(Piano,Acoustic Bass,Drums,Percussion,Shaker)

10.Alvarado
New Age風なところが面白い。
Table Percussionのリズム感とパタパタという響きが、プリミティブで祝祭的な空間を連想させる。
ピアノが弾く少し魔術的(?)なオドロオドロしい旋律が絡み合って、摩訶不思議な雰囲気。

(Piano,Acoustic Bass,Electric Bass,Drums,Percussion,Table Percussion,Prepared Piano)

11.Medley: Wave/Mother Nature's Son
いつになってもピアノが登場しないなあと思って、演奏者を確認したら、ヴィブラフォンを弾いているのはメルドー。
苦手なシンセとかエレクトリック系の楽器が入っているのに、この曲は音が柔らかくて耳に優しい。
主旋律のヴィブラフォンの音が耳に残って、中和しているのかも。
軽快なリズム感とスピード感が爽快。特に、クリスタルグラスのような質感のあるヴィブラフォンの音色が明るくて爽やか。

(Vibes,Guitar (Synthesizer),Chamberlin,Acoustic Bass,Electric Bass,Electronics,Drums)


12.I Do
"回想調"のような内省的な雰囲気と、しっとりとした叙情感は、アルバム最初の"When It Rains"と対のよう。
時々ピアノの背後で、管楽器が通奏低音のように流れているけれど、大半はピアノソロ。
冒頭のピアノソロが弾く素朴で飾り気のない旋律は、穏やかで親密な感じ。
途中から不協和音の和声が入ったり、左手が同一音をオスティナートして、水面が波打つように、穏やかさがかき乱されていく。
ショパンの"雨だれエチュード"をちょっと思い出させるような...。

(Piano,Flute,Oboes,Clarinets,Bassoons)


tag : ブラッド・メルドー

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アラウ ~ アルベニス/イベリア第2巻より "トリアーナ(Triana)"
アルベニスのピアノ作品の録音で有名なのは、スペインのピアニスト、アリシア・デ・ラローチャ。
チリ生まれのアラウが、アルベニスの《イベリア》を録音していたのはあまり知られていない。
アラウは、1947年に米コロンビアに《イベリア》の第1巻&第2巻の録音を残していた。
たいそう古い録音なので、CD化されたのが2006年。
このCDは、録音年が1947年にしては、"驚異的な音質"という宣伝文句に違わず、驚くほどに音質が良い。
音が煌めいてロマンティックでパッショネイトな雰囲気には、スペイン風のエキゾティシズムの薫りが漂っている。

Birth of a LegendBirth of a Legend
(2006/11/27)
Claudio Arrau

試聴する(独amazon)


アラウといえば、晩年の録音を聴いている人が多いようなので、概して遅いテンポのイメージが強い。
昔はそれほどスローテンポなピアニストだったわけではないのは、1950年代くらいまでの録音をいろいろ聴いていると、よくわかる。
若い頃は、逆に速すぎると批評されていることもあると、アラウ自身が対話録で言っていた。

《イベリア》第2巻の"トリアーナ(Triana)" の演奏時間は4分30秒。
この曲は6分~6分半で演奏する人が多い。
アラウのテンポは、この間聴いたカッチェンのライブ録音と同じくらいにかなり速い。(演奏もちょっとカッチェンと似ている気がしないでもないし..)
中間部はとんでもなく音が密集したパッセージで、他のピアニストの録音を聴いてもテンポが落ちている。
初めから遅いテンポをとっていると、かなりもたもた感がでるところ。
アラウも少しテンポは落としているけれど、それほどもたつき感はなく、細かいパッセージの音の粒も立っている。
線が太めで力強いタッチがいつものアラウらしい。
濃厚な表現のラローチャに比べると、全然華やかではないけれど、粘りのないさらっとした表現と叙情感がとても爽やか。

Claudio Arrau plays Albeniz "Triana"




これはラローチャの1962年録音。
リマスタリングのせいか、エコーがかかったような煌びやかな音。
高音のフォルテのタッチがかなりきつくて、キンキンと耳に刺すように響く。
線の細い鋭い音とアクセントを強く利かしたシャープなリズム感に、強弱のコントラストが明解で濃淡の濃い色彩感が華やか。
音の密集したアルペジオもそれほどテンポが落ちず、軽やかで和声の濁りもなく流麗なところが、とても鮮やか。
細部まで凝った表現で油絵的な濃厚な色彩感と叙情感のある、とても華麗な"Triana"。
(でも、バターと生クリームたっぷりのケーキのようで、私にはかなりコッテリした後味)





<関連記事>
 アラウ ~ アルベニス/イベリア第1巻&第2巻


tag : アルベニス アラウ

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英国耳鳴協会(British Tinnitus Association)の概要(2) 活動内容
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活動実績
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英国の成人人口の10%が常に耳鳴りが聴こえる状態であり、同1%(まで)の成人ではQOLに影響している可能性がある。
BTAは、耳鳴り患者に対する支援と耳鳴りへの社会的理解の向上を目的として、戦略を構築し社会的認知を喚起する活動を行っている。
 - 秘密厳守の無料電話ヘルプライン 0800 018 0527
 - 30種類以上の情報パンフの無料配布(主要な医療専門家も執筆)
 - BTAの四半期発行の機関紙『Quiet』
 - ウェブサイトでの各種情報・アドバイスの提供

同時に、医療専門家との協同することで、耳鳴り患者に対応するスキルや耳鳴りへの理解を得られるよう専門家を支援したり、医学的・臨床的研究へのサポートを行う。
 - "Tinnitus Adviser Training courses"(耳鳴りアドバイザー研修コース)の開催
 - "Annual conference":英国唯一の耳鳴り特化型会議
 -  耳鳴り関連研修に参加する専門家向けの奨学金制度
 -  耳鳴りに関する学的研究への助成

活動実績(2009/10月)
 - 秘密厳守の無料電話を通じて3300人以上をサポート
 - 55,000部以上の耳鳴り情報リーフレット(数ヶ国語で記載)を配布
 - BTA機関誌『Quiet』(季刊)6500部を配布
 - 152人の医療専門家をトレーニング。耳鳴り患者をサポートするのに必要なスキルと理解を向上させる。
 - "Tinnitus Awareness Week"(2月)実施。社会の耳鳴りに対する認知・理解向上
 - ロンドン大学"Senior Research Associate"への研究助成。 耳鳴りの原因と治療法の探索。
 - "Annual conference"の調整:全国規模の耳鳴りをテーマにしたイベント
 - 学校への"教育パック"を配布(Key Stages 2&3)

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サポート活動(情報提供・交流活動)
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BATが提供する情報の多くは医学的専門家や研究者によって書かれており、医学的見地から、「正確で信頼性があり、オーソライズされた」情報である。

ホームページでの情報提供
 - 耳鳴りに関する知識
 - 耳鳴りとは何か[ビデオ映像]:David Baguley(PACメンバー)が考えられる原因と耳鳴りが人間に与える影響について解説
 - ケーススタディ(患者の体験談)[ビデオ映像]
 - 治療法耳鳴りと難聴耳鳴りの予防法に関するアドバイス治療法の探求(研究状況)
 - 特定のグループと耳鳴り航空関連の職業音楽家・音楽愛好家モーターサイクリスト子供の耳鳴り
 - ノイズレベルと暴露時間上限の図

Readers Panel(読者パネル)
BTAが発信する情報(冊子など)に掲載する各種情報をチェックし、データを更新するボランティアグループ。

イベント開催
耳鳴りに関する啓発活動として、Tinnitus Adviser Training, Annual ConferenceTinnitus: Learning to Cope weekendなど、異なったタイプの数々のイベントを実施。
イベントカレンダーで開催時期や概要などがチェックできる。

BTA forum
"BTA forum"(BTAフォーラム)は、耳鳴りに悩んでいる人たちが対処法や経験などを話し合うチャットスペース。

BTA Blog(更新は不定期)

機関紙『Quiet Magazine』
『Quiet Autumn 2010』(サンプルダウンロード)

BTA shop
BTAが十分に考慮して選定した耳鳴りマネジメントに役立つグッズのオンラインショップ。
販売アイテムは、書籍類、クリスマスカード、グリーティングカード、耳の保護グッズ(音楽家・愛好者用)、サウンドセラピーシステム(Sound Oasis)、CD/Audio製品、ピロー・スピーカーなど。

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サポート活動(サポートグループ)
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サポートグループの役割
英国内には、耳鳴り患者たちによるセルフサポートグループが多数あり、耳鳴りに悩む人にアドバイスしたり、相談相手になっている。
家庭医のクリニックで掲示されているポスターなどで、コーヒーミーティングやグループが関わっているイベント等の情報がわかる。

サポートグループ検索
英国にあるアルファベット順のサポートグループリスト、地図によるサポートグループ検索、カテゴリー別リスト(個人のサポーター、サポートグループ)

支援組織(Helpful organisations)
 英国内には、BTAと同じく、耳鳴り患者に対する支援活動を行っている組織が数団体設立されている。
 Action on Hearing Loss (formerly RNID)
 British Acoustic Neuroma Association
 British Deaf Association (England)
 Cruse Bereavement
 Hearing Link (formerly Hearing Concern Link)
 Labyrinthitis.org.uk
 Low Frequency Noise Sufferers Helpline
 Menieres Society
 NHS Direct
 Samaritans
 Whooshers.com:For those with pulsatile tinnitus

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サポート活動(専門家向け)
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専門家向けサイト(情報提供)
専門家とは、聴覚士、聴覚療法士、家庭医、補聴器メーカー、hearing aid dispenser(補聴器関係の人(販売者、カウンセラーなど)のことを指す。
BTAの専門家向けのホームページで、耳鳴やそのマネジメント方法に関する専門的な情報を提供している。
 - 耳鳴りに関する解説
 - 耳鳴り用器具
 - 耳鳴りに悩む若者への対応
 - 耳鳴りと補聴器
 - 耳鳴りマスカー
 - メニエール病
 - ブックレビュー:Professional Advisers' Committeeのメンバーによる耳鳴り関係の書籍レビュー。

Publications list
BTAが発行している情報冊子のリストと本文を集めたページ。ホームページの各該当ページにも冊子と同様の内容が記載されている。

Tinnitus Adviser Training
このタイプの研修としては、世界でも唯一のコース。
期間は2日間、定員は16名。ノッティンガム、英国南部、スコットランド南部で開催。
参加費用は300-400ポンド:ホテル宿泊費、食事代等込み。開催場所、BTA会員/非会員などで費用が異なる。
研修内容は、耳鳴り患者に対処するためのカウンセリング手法がモデル。
トレーナーのPierre Cachiaは、公認カウンセリング・サイコロジスト(BPS:英国心理学会)、登録心理療法士(UKCP/EAP:英国/欧州心理療法協会)。
  「Tinnitus Adviser Training 2011/2012」(プログラム概要)[PDF]

Annual Conference
最新の研究動向、政策、全体的アプローチなどに関する専門家の報告。
  「BTA's Annual Conference 2011.09.28」(プログラム概要)[PDF]

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研究助成活動
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現在の研究概要(BTAが支援中の主要研究)
- Tinnitus Senior Research Fellowship(ロンドン大学聴覚研究所研究所)(研究期間:2008-2011.11)
- Serotonin Research Programme(バーミンガム大学)(研究期間:2年間、112,000ポンド[約1400万円])
- Tackling Tinnitus: The BTA's campaign to further research and find a cure
過去3年間の寄付により、BTAはロンドン大学(UCL)聴覚研究所における耳鳴り分野の優れた研究に対して助成することができた。さらに潜在的な治療法の研究を続けるために127,223ポンド(約1500万円)の研究助成が必要であり、"Tackling Tinnitus"キャンペーンの一貫として、プロジェクト助成のための寄付を呼びかけている。
- Chasing phantom noise, part 3

過去の研究概要
- Research at The Ear Institute, UCL :ロンドン大学聴覚研究所の研究概要
- Research summaries :2006-07年の研究概要
- Tinnitus Research Initiative meetings:TRIは耳鳴り治療法を早期に確立する目的で数年前に設立された組織。2007年にドイツで第1回会議を開催。これは同年モナコで開催された第2回会議のレポート。

Marie & Jack Shapiro Prize(マリー&ジャック・シャピロ賞)
毎年英国を拠点にしている研究者が発表した研究論文のなかで、耳鳴り治療や社会的認知・啓発に関する改善効果があるものに与えられる。賞金250ポンド。
対象論文について、Professional Advisers Committeeが審査し、BTA Council of Managementに助言する。
授与式は、"BTA Annual Conference"で毎年実施される。

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キャンペーン活動
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Tackling Tinnitus
"Research Appeal 2011"で、BTAのChief Executive,David Stockdaleが寄付を呼びかけている。
目的は、ロンドン大学聴覚研究所の助成研究をさらに2年間継続して助成するため。(「研究助成活動」参照)

Tinnitus Priority Setting Partnership(PSP)
PSPは、James Lind Allianceが提唱。
プロジェクトの目的は、患者と臨床医が耳鳴り治療における研究の優先度と不確実性について意見を持てるようにすること。[The project's aim is to allow patients and clinicians to have an input in research priorities and uncertainties in the treatment of tinnitus.]
BTAは、NIHR National Biomedical Research Unit in Hearing (NBRUH)(英国衛生研究所国立生物医学聴覚研究ユニット)と共同で、重要な研究課題を特定するプロジェクトを先導している。
患者と臨床医の視点から、耳鳴り治療に関して未解明の課題を特定し、彼らが最も重要だと同意する課題に優先権を与えることであり、それが課題解明に直結した将来の研究を促進することになる。
PSPは1年間実施され、2012年9月にその成果を発表する予定。

プロジェクト発起人:BTA、NBRUH、The Judi Meadows Memorial Fund
組織運営グループメンバー:Action on Hearing Loss、British Society of Audiology、BTA、ENT UK、James Lind Alliance、NBRUH
他の支援組織:Deafness Research UK

Tinnitus Awareness Week 2011
全ての年齢層の人々にアピールするため、自宅で聴く個人的な音楽プレーヤーから公開コンサート・ナイトクラブにいたるまで、特に大音量の音楽にさらされている人々に焦点を当てたプロジェクト。
大音量の音楽が耳鳴りと永続的な聴覚障害を引き起こすことを知らせるキャンペーンを展開。2010年にも同様のキャンペーンを実施。


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備考
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英国耳鳴協会の概要(1)および(2)は、同協会の英文ホームページから適宜抜粋・要約したものです。
正確な内容については、原文をご確認ください。

英国耳鳴協会(British Tinnitus Association)の概要(1) 歴史・組織・財政
世界に耳鳴協会(Tinnitus Association)はいくつかあるが、アメリカ耳鳴協会と同様、歴史が古く、耳鳴り患者のサポートと耳鳴り研究促進を精力的に活動を行っているのが、英国耳鳴協会(British Tinnitus Association:BTA)
政府からの財政支援は受けていないため、BTA活動は会員と支援者の善意(会費・寄付・ボランティア)によって全て成り立っている。

英国耳鳴協会(以下、BTA)のミッションは、「教育的プログラムを通じて予防を奨励すること、および、医学的研究プログラムを通じて永久に続く耳鳴り(head noise)の治療法を追求すること」。
1979年に設立され、1992年に完全な非営利団体(Charity)として登録。本部はシェフィールドで、スタッフは合計7名。
※英国では、非営利団体として認定されるには、独立した行政機関であるチャリティ委員会(Charity Commission)への登録が必要。

BTAに関する情報サイト
- BTAのホームページ
- BTAのFacebook
- Sounds of Tinnitus[Youtube]:1970年代に製作されたBTAの広報用レコードが音源。様々なパターンの耳鳴音を収録。

※米国耳鳴協会に比べて、BTAは俳優やYoutubeを活用した広報活動はあまり行っていない。BTAのホームページ上には、耳鳴り患者が登場する動画が多数掲載されている。

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BTAの歴史
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今では耳鳴りはメディアでも良く登場するテーマだが、今から40年ほど前には、耳鳴りについて語られることがなかった。
1979年、王立全国聴覚障がい者協会(Royal National Institute for Deaf People:RNID)がロンドン大学病院に助成金を支給。
当時のロンドン大学病院の耳鼻咽喉科長は、英国に人工内耳を導入したことで著名なJames Graham Fraser。
Fraserは、耳鳴り研究の助成制度を設け、研究担当者に若いJonathan Hazellを指名した。
※Dr.Hazellは、1980年代にDr.Pawel Jastreboff博士と共に、TRT療法を開発したことで有名。

マスカー装置の誕生
Hazellは、当初5年間、耳鳴関連文献を全て読破するのに費やしたが、そこには耳鳴りの原因や治療法への言及がほとんどなかった。
Hazellは、耳鳴り研究のパイオニアであるJack Vernonがいる米国Oregon Institute of Hearingを訪問。
二人が噴水が静かに湧き出る庭園で話をしていた時、Hazellは耳鳴りがほとんど聴こえなかった。
Vernonは、噴水の穏やかな雑音がこの"ミラクル(奇跡、魔法)"を実現したのだと判断。
その噴水音を録音して、他の耳鳴り患者に聞かせたところ、彼らも同じように耳鳴りが緩和されたのだった。
この単純な出来事がきっかけで、マスカー(今で言うホワイトノイズ・ジェネレーター)が誕生した。
Vernonに説得された補聴器メーカーがマスカー装置を製造。テストしてみると、マスカーがいくつかの症例で効果があるとわかり、Hazellが英国にそのアイデアを持ち帰った。

BTAの設立
1978年までには、耳鳴りは以前よりは広く知られるようになったが、英国の家庭医(GP:ファミリードクター)や病院の医師たちは患者に対して、‘You’ll have to learn to live with it’(耳鳴りと共に生きることに慣れないといけないでしょう)と言うだけだった。
耳鳴り患者たちはセルフ・ヘルプ(自助)グループを作っていったが、その中にいたのが、障害者運動家で難聴の代議士、そして後に貴族となるJack Ashley(RNIDの理事会メンバー)と、彼の同僚理事であるJack Shapiro。

BBCプロデューサーとして、Ashleyは耳鳴りを含めた難聴のシリーズ番組を製作した。
その放送後、RNIDへ、耳鳴りに対して対策(時々は治療に関して)を求める数千の電話が殺到した。
1979年7月、RNIDが下院のGrand Committee Roomで行った会議では、300人以上が参加。RNIDのトップであるMichael Reedも同席した。
その会議で、VernonとHazellは、耳鳴り患者や進行中の研究について説明。Ashleyは、耳鳴り患者の状況を改善するために、議会の内外でキャンペーンを行うことを約束した。
セルプ・ヘルプグループを増やすことや協会(BTA)設立に関する討議を経て、RNIDの評議会が検討した結果、英国耳鳴協会(BTA)が誕生した。

BTAの活動拡大と非営利団体化
国中にセルフ・ヘルプグループが生まれ、耳鳴り患者に対する理解や患者同士の助け合いを促進するため、定期的会合を行ったり、著名な数人の耳鳴り専門家を訪問するなどの活動を展開。
彼らの勢いに押されて、RNIDはオフィスと秘書Pamela Kennedyを提供、協力するようになった。

耳鳴りニュースレターが、RNIDの機関誌『Hearing』(後の『Soundbarrier』)に掲載される。
RNIDは、Hazellをヘッドとする医学研究組織を設立、同僚はRoyal Ear HospitalのGraham Fraser。
1981年、CIBA Foundationがシンポジウムを行い、その会議録が初の耳鳴り関連書籍として出版された。このシンポジウムが、後のInternational Tinnitus Seminarの元となる。

パブリシティに耳鳴りのテーマが登場する機会が増えたことで、頭の中のノイズが想像上のものでも不吉なものでもなく、"耳鳴り"として一般に知られるようになった。
クリニック(診療所)が耳鼻咽喉科の中に設けられ、audiologist(聴覚訓練士)やHearing Therapists(言語聴覚士)が耳鳴り治療も手がけるようになった。

1982年以降、BTAは毎年会議を開催。1990年まで活動や社会状況の進展に伴い、BTAの独立的非営利団体化の実現可能性が検討された。
1991年、新しい独立した非営利団体として、BTAが誕生。

BTAの活動の現状
現在は、6人の選任チームにより事務局が運営され、協会に対する数千の問い合わせに対応している。
四半期ごとに全会員へ送付している協会誌『Quiet』が有名になり、耳鳴り分野に関する指導的な雑誌として認められている。

最近の数年間に渡って、BTAは数多くのキャンペーンを支援し、医学専門家に情報提供。
社会的な大騒音に過剰にさらされる危険性を認識してもらうため、学校向け教育パックも作成した。
"Don’t Turn it Off, Turn it Down (secondary)"、"Safe & Sound (primary)"。この両方のイニシアティブは幅広く賞賛されている。

BTAを支援するProfessional Advisers’ Committee(PCA)は、英国における耳鳴り分野の活動・研究で著名な人々で構成。
BTAホームページからダウンロードできるセルプ・ヘルプ用資料の大半の作成に助力している。
数年間に渡って展開された"Younger Person’s project"では、年次会合、電話・メールによるサポート、優れた情報冊子"Sound Matters"を製作。
BTAが提供する定期的な最新情報のメール更新サービスにより、最新の治療法や研究内容を知ることができる。

1994年以降、開催されている"Counselling Training Seminars"(現在の"Tinnitus Adviser Training")は、毎年に2回、時には3回実施。
このトレーニングコースは非常に人気があり、参加者の大半は聴覚分野の専門家で、地域での耳鳴りサポートに関連した仕事を行っている。
BTAのオフィススタッフは全てこのコースに参加し、耳鳴りに特化した英国内のヘルプライン(電話相談)を運営している。

過去数年間にわたって、BTAは"Tinnitus Awareness Week"のプロモートにも参加。
このイベントは、耳鳴りの社会的認知を高め、良質なサポートや情報に対する"気づき"に役立っている。
耳鳴り患者が感じている孤独感を取り除き、支援を提供し、上手く対処できるようになっている。
BTAは耳鳴りに関する広報活動の一環として、家庭医(GP)、科学者、図書館向けに毎年ポスターを配布。

BTAは、耳鳴り関連の情報や患者へのサポートを提供するだけでなく、ロンドン大学聴覚研究所やバーミンガム大学で行っている耳鳴り分野の研究も支援している。
ロンドン大学聴覚研究所向けに、耳鳴研究のリサーチフェローのスポンサーとなるプロジェクト(2008年~2013年)を実施。耳鳴治療法開発を長期的目標にして研究を促進する。
バーミンガム大学については、同大Barnes教授と米国バッファロー大学Salvi教授が連携した研究(2010-2012年完了予定)を支援中。

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組織・スタッフ
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パトロン:The Duchess of Devonshire, DL (2009年~)

プレジデント:The Rt. Hon. Sir Stephen Sedley(2006.11~)
(初代:The Rt. Hon. The Lord Jack Ashley of Stoke(設立者)、2代目The Rt. Hon. The Lord Robert McLennan of Rogart.)

Ambassador:DJ Eddy Temple-Morris
DJのEddy Temple-Morrisは耳鳴り患者であり、新しい世代の耳鳴り患者との橋渡しとなっている。
Eddy Temple-Morrisのメッセージ(Tinnitus Awareness Week)

理事会(trustee)=運営評議員会(Council of Management)
Chairman:Roy Bratby
trustee(理事):6名
Vice President(ヴァイスプレジデント):3名
※ヴァイスプレジデント:プレジデントを補佐又は代理する役員。約款などに特別の規定がない限り、理事でなくても良い。

Professional Advisers' Committee(PCA)
英国内の優れた耳鳴り専門家によるアドバイザー委員会。
PAC Chair、PAC Vice Chair、他8名の合計10名構成。
PACの目的
 - 『Quiet』誌などのBTAが発行する全文献の医学的・科学的内容を精査
 - 耳鳴りに関する医学的・科学的領域での助言
 - 耳鳴り研究の特定分野に対する支援または支援しないことの医学的・科学的メリット・デメリットに関する助言
 - 研究戦略の定式化における支援、および、研究助成申請に関わる方針と手続きに関する支援

PCAの活動については、<The Professional Advisers' Committee - who we are and what we>に詳しく記載。

本部スタッフ
 CEO
 イベントマネージャー
 グループ・コーディネーター兼管理担当者
 会員管理責任者(アドミニストレーター)
 会計担当者Finance Officer)
 コミュニケーションマネージャー兼編集者(Quiet Magazine)
 以上、各1名、合計6名

 他に、産休・育児休暇取中者 1名

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会員制度
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個人会員(Individual membership)
   年会費15ポンド(英国外の会員は20ポンド)

企業会員(Corporate membership)
  Gold members :年会費445ポンド
    Puretone Ltd
    The Tinnitus Clinic Ltd

  Silver members :年会費295ポンド (公共団体・慈善団体は195ポンド)
    PC Werth
    Sandwell and West Birmingham Hospitals NHS Trust
    Doncaster and Bassetlaw Hospitals NHS Foundation Trust
    The Royal Hallamshire Hospital


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ファンドレイジング
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BTAを資金面で支援するための方法は、「Fundraising Guide」(PDF)で詳しく説明されている。
会員制度以外での資金調達方法は、以下の通り。

- オンライン寄付JustGivingVirginmoneygiving経由での寄付
- オンラインショッピングまたは検索: everyclick.com経由
- JustTextGiving(Vodafone):Vodafoneの携帯電話を使った新サービス。独自コード TBTA00 と寄付金額(例:TBTA00 £10)をテキストメッセージとして送信することで、自動的にBTAへの寄付が受け付けられる。
- Payroll giving:給与天引方式の寄付。
- その他の支援方法:携帯電話・インクカートリッジのリサイクル、お天気くじ、eBay利用

「Gift Aid」
「Gift Aid」制度を使った場合、寄付金額1ポンドにつき、25ペンスが歳入関税庁(HMRC)からBTAに支払われる。
この制度では、寄付を受けた機関は寄付金以外に寄付者の所得控除額を税務署から受け取ることができる。
オンライン寄付サイトはなく、書面での寄付申し込みのみ。
昨年、BTAがHMRCに要求した支払金額は、8200ポンド以上になる。これは、ヘルプ・ラインの2000回以上の電話に応答する費用をカバーできる金額である。


>> (2)に続く


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備考
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英国耳鳴協会の概要(1)および(2)は、同協会の英文ホームページから適宜抜粋・要約したものです。
正確な内容については、原文をご確認ください。

板東&習志野俘虜収容所とクラシック音楽
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板東俘虜収容所
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12月になって頻繁に演奏されるクラシック音楽というのはいろいろあるけれど、なぜか日本だけで流行っているのが、ベートーヴェンの『交響曲第9番』。
第九の日本初演は、1918年6月1日、鳴門市の板東俘虜収容所のドイツ人捕虜が行った演奏会、というのが定説。

日本国内の俘虜収容所というと、太平洋戦争当時のものが思い浮かぶが、第一次大戦時でも国内に俘虜収容所は数ヶ所設置されていたという。
日英同盟により、イギリスの敵国ドイツと中国・青島で戦い、およそ5000人のドイツ人が捕虜となった。
捕虜の大半が日本の丸亀・松山・徳島の俘虜収容所に分散収容されていたが、その後、鳴門近郊の板東へ約1000人の捕虜が移送される。
板東俘虜収容所での音楽活動は盛んで、ハンゼン軍楽兵曹指揮の「徳島オーケストラ」、エンゲル二等海兵指揮の「エンゲル・オーケストラ」、吹奏楽中心の「シュルツ・オーケストラ」が結成され、板東で開催されたコンサートは100回以上にのぼる。
この板東俘虜収容所が第九初演の舞台となり、その逸話が『バルトの楽園』として映画化されている。

<参考サイト>
「音楽の力。1917年―1919年板東(日本)におけるドイツ捕虜収容所の文化的生活」(ベートーヴェン・ハウス ボン 特別展示会)(当時の写真、楽譜など画像資料を多数掲載)
「板東俘虜収容所」(鳴門市ホームページ<第九のふるさと>)
「丸亀のドイツ兵俘虜について」(香川近代史研究会)

映画『バルトの楽園』(2006年6月全国公開)
バルトの庭:映画『バルトの楽園』のロケセットを「歓喜の郷」より移築。「BANDOロケ村~歓喜の郷」は、すでに閉館。
鳴門市ドイツ館 Das Deutsche Haus:板東俘虜収容所のドイツ兵士と地元市民との交流を記念して建設



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習志野俘虜収容所
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板東俘虜収容所のように、ドイツ人俘虜が音楽活動をしていたのが、習志野俘虜収容所。
アルトのパパさんのブログ<ブラームスの辞書>の記事"Schnadahupfel"で、「習志野俘虜収容所」に関するエピソードを初めて知りました。

記事によると、習志野市がホームページで当時の俘虜収容所の様子を紹介していると書いてある。
調べてみると、「大正8年の青きドナウ 習志野俘虜収容所 Kriegsgefangenenlager Narashino」に詳しく載っている。
習志野俘虜収容所では、第九を演奏したかはどうかははっきりとはわからない。
「習志野捕虜オーケストラは、所内でたびたび演奏会を開き、ベートーヴェン、モーツァルト、シューベルトそれにヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」までが演奏されていた」と書かれているので、音楽活動は盛んだったらしい。

また、記事のタイトル"Schnadahupfeln"とは、「南ドイツあるいはオーストリアに伝わる戯れ歌」。
ドイツ兵俘虜たちが仲間とよく歌っていた歌は、「Narashino Schnadahupfeln」として楽譜に残されている。

収容所内ではドイツ料理やワイン、ビールなども出されていたらしい。
毎日の食事は、日本側が用意した食費、材料、薪炭、調理設備を使って、食事当番の俘虜兵が調理する。
俘虜兵の中には職人やマイスターがいたので、所内でソーセージやワインを自分たちで作ることができた。
近隣住民にも、収容所内で作ったドイツ菓子やソーセージを配っていたという。

「大正8年の青きドナウ」を読むと、習志野捕虜収容所のドイツ兵の中には、日本の産業や文化に深く関わっていた人がいる。
当時、山梨県のぶどう園の技術指導をするため来日中、戦争に巻き込まれ俘虜となったのがワイン技師ハインリッヒ・ハム。彼は俘虜の身から解放された後、ドイツに帰国したが、彼が指導したぶどう園が現在のサントリー山梨ワイナリー。
日本に残ったドイツ人兵でソーセージ職人カール・ブッチングハウスは、東京・目黒にソーセージ工場を作り、ヨーゼフ・ヴァン=ホーテンは明治屋でソーセージの技術指導を行った。
フリッツ・ルンプは帰国後、日本文化研究のオーソリティーとなり、有名な浮世絵研究を残した。習志野では、日本の民話のドイツ訳も完成させたという。これは出版されている。
他にも、日本で大学教員やビジネスマンとなった兵士もいる。
フリードリッヒ・ハックは、外交ブローカーとして日独防共協定締結に関わったが、ナチス・ドイツ時代にスイスに亡命し、日本の終戦工作に尽力したという。

<関連サイト>
「習志野の歴史を知ろう ~ 美味し 懐かし 大正浪漫 ドイツ風食文化発祥の地・習志野」
 ~ソーセージ、バームクーヘン、ワイン…ドイツの味が日本に伝わった時代~(全編)
 ~ソーセージ、バームクーヘン、ワイン…ドイツの味が日本に伝わった時代~(後編)
「市史を食べよう ドイツ捕虜編1~5 (料理レシピ集)」(広報習志野/新ならしの散策)


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番外編:メシアン《世の終わりのための四重奏曲》
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第2次大戦中、捕虜収容所で作曲・初演されたことで有名なのは、フランスの作曲家オリヴィエ・メシアンの《世の終わりのための四重奏曲》。[Wikipediaの作品解説]
フランス軍のメシアンはドイツ軍の捕虜となり、ドイツとポーランドを分けるゲアリッツ=ズゴジェレツの強制収容所StaLag VIIIaに収容された。(Stalagは、ドイツ語の捕虜収容所Stammlagerの略語。ナチズム時代の強制収容所名として頻繁に使われていた)
同じく捕虜の身となった三人の音楽家と出会ったメシアンが作曲したが、四重奏曲にしては楽器編成が変則的でピアノ、ヴァイオリン、チェロ、クラリネット。全8楽章構成で、楽章によって使う楽器が違う。
捕虜収容所での初演は、ヴァイオリンがジャン・ル・ブーレール、クラリネットがアンリ・アコカ、チェロがエティエンヌ・パスキエ、ピアノがメシアン。

Quartet for the End of Time - Louange a l'Eternite de Jesus- Olivier Messiaen
Performer: Yvonne Loriod, Christoph Poppen, Manuel Fischer-Dieskau, Wolfgang Meyer
これは第5楽章「イエスの永遠性への賛歌」。長いヴァイオリンのソロと一定のリズムで和音を刻むピアノ伴奏による静謐な曲。賛歌にしてはやや陰鬱な和声に、どこかしら神聖さに対する畏敬の念のようなものを感じる。
ぼ~として聴いていたら、第8楽章「Louange à l'immortalité de Jésus(イエスの不滅性への賛歌)」と間違いそうになる。この2曲は曲想や音の流れが似ている気がするので。





tag : ベートーヴェン メシアン

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
ジュリアス・カッチェン 『Ica Classics Legacy』 (ライブ録音集)
先月リリースされたカッチェンの新譜は、Ica Classics盤のライブ録音集。
メインはブラームスのピアノ協奏曲第1番。ケンペ指揮BBC響の伴奏で、1967年10月11日、ロンドンのBBCマイダ・ヴァレ・スタジオのライブ録音(モノラル録音)。

カップリングはピアノソロで、アンコールピースを集めたものらしい。
ショパン《バラード第3番》、リスト《メフィストワルツ第1番》、シューマン《予言の鳥》、アルベニス《イベリア第2巻~トリアーナ》。いずれもライブのモノラル録音で、シューマンとアルベニスが少し篭もったような音に聴こえる以外は、音質はそれほど悪くない。
シューマンとアルベニスは過去の録音が全く残っていないので、とても珍しいレパートリー。
ボーナストラックが収録されていて、これも貴重なカッチェンのインタビュー。モーツァルトのピアノ協奏曲第20番とブラームスのピアノ協奏曲第1番について、カッチェンが語ったもの。

Ica Classics Legacy/Brahms Piano Concerto No.1 Ica Classics Legacy/Brahms Piano Concerto No.1
(2011/11/15)
Katchen(Piano), Kempe(Conductor), BBC Symphony Orchestra

試聴する
ICA internationalはNML(ナクソス・ミュージック・ライブラリ)の参加レーベル。会員なら全曲ストリーミング配信で聴けます。

カッチェンのブラームスのピアノ協奏曲第1番は、全部で5種類の録音が残っている。(Youtubeの録音も含めて)
各楽章の演奏時間は、このica盤が最も短い。
ライブ録音で最終楽章に拍手が入っている場合は、実際の演奏時間は少し短いけれど、DECCA盤が少し遅く感じられる以外は、体感するテンポはどれも同じくらいに速い。
緩徐楽章の第2楽章のみ、1961年のライブ録音がスタジオ録音と同じくらいにゆったりとしたテンポなのが他のライブ録音とは違っている。

      第1楽章/第2楽章/第3楽章
1951年 21:08/13:28/11:13 (ブール指揮/Live)  
1958年 21:21/14:12/12:03 (モントゥー指揮/Stadio)[DECCA]  
1960年 21:27/13:03/11:36 (コンヴィチュニー指揮/Live)   
1961年 21:32/13:56/11:26 (ローター指揮/Live)[Youtube]
1967年 21:04/12:58/11:16 (ケンペ指揮/Live)[ica]

1960年以降のライブ録音なら、音質の違いで印象が少し変わるところはあるけれど、演奏内容自体はほとんど変わらない。
1960年のコンヴィチュニー指揮のライブ録音は、モノラル録音なので音質が少し落ちるけれど、力感・量感のあるカッチェンのピアノの音をよく捉えている。エンディングもテンポが落ちずに、打鍵も一番力強くて、颯爽としている。
1961年のライブ録音は、第2楽章がスタジオ録音並のゆったりしたテンポなので、より深々とした息遣いと情感が感じられる気がする。録音年のわりに音質がとてもよくて、これが一番好きかも。
ica盤は音がクリアで聴きやすくはあるけれど、ピアノ・オケとも若干遠めから聴こえ、低音の重厚感やゴツゴツとした骨太感がやや薄めで、全体的に音が少し高めに感じられる。
ホールではなく、スタジオで公開録音しているらしく、狭い空間で残響が短く、ピアノの音が中空から聴こえてくる。
ボリュームをかなり上げて、低音を最大にセットすると、低音の重層感も出て、ちょっとマシ。
1967年と一番新しい録音なのに、ica盤は音質面ではかなり残念。

ブラームス/ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 Op.15 [作品解説(Wikipedia)]

第1楽章 Maestoso
テンポ指定がなく、Maestoso(威厳を持って)のみ。カッチェンの録音では、いずれも21分台の前半くらいの演奏時間。
それほど遅くはないテンポでも、やはり20分以上かかる長大な楽章。同じく好きなアラウの演奏では、23分台。

冒頭から暗雲が垂れ込めて嵐が渦巻くような雰囲気。
弱音のピアノソロから、徐々に波が荒立っていくようにクレッシェンドして高音域へと上り詰めていくところは、張り詰めた緊張感が漂っている。
再び弱音にもどって、波が静まり、それを何度も繰り返していくところが長大なプロローグのようにも思える。
ピアノのクリアな音色とシャープで芯の引き締まった張りのある響きは、青白い炎が揺れるような叙情感。
25歳くらいの青年ブラームスの感情の嵐が、曲に乗り移っているのかように、感情の波が寄せては退いていくような部分が延々と繰り返される。

突然、量感のある力強いフォルテで、ファンファーレのようにピアノが和音で飛び跳ねてから、曲想がすっかり変わる。
ここからずっと荒波が湧き立っていくかと思うと、また突然静かになったりして、緩急、強弱が極端なくらい交互にやってくる。
テンポが速くなると、カッチェンらしい力強く重みのあるシャープな打鍵が冴えて、ほんとに切れ良く勢いがある。
緩徐部分は、ブラームスらしい陰翳の濃い叙情感とその合間から明るい日差しが差し込んだような穏やかさや開放感、高揚感が交錯する。

この第1楽章は、数あるピアノ協奏曲の名曲の中でもかなり長大な楽章。その上、主題旋律の展開が明快というわけでもなくて、感情が絶えず揺れ動いて、とりとめのないようなところがある。
構成を考えながら聴くと段々よくわからなくなってくるので、そういうことは気にせず、揺れ動く感情にシンクロするようにすると、なぜか自然に身体のなかに入り込んでくる。

第2楽章 Adagio
主旋律部分にラテン語の祈祷文「」が引用されており、これは、作曲家シューマンを念頭していたらしいけれど、ブラームスは、クララに宛てたものだとも言っていたという。
この祈祷文は、後にブラームスが削除してしまって、私の持っている楽譜には載っていなかった。
あまりに自分の感情が表れすぎてしまった...と思ったのだろうか。

第1楽章とは打って変わって、平和的で安らかな雰囲気に満ちている。
この曲を聴いている、どちらかというと、若い頃のブラームスのクララに対する思慕の情を感じてしまう。
息の長い旋律は心の奥深くにずっと流れている秘めた感情のようで、それがフォルテになると時々浮かび上がってくるかのようでもあり...。

第3楽章 Rondo: Allegro non troppo
第3楽章は、鍵盤上で激しく上下行を繰り返して、若干の緩徐部分を挟みながらも、ほとんど一気呵成に走り抜けていく。
テンポはかなり速く、冒頭から勢いよく駆け出し、ピアノソロの力強くて重量感のある音がとてもカッチェンらしい。
全体的にペダルも少なめで、使ってもいても浅めなので、音の輪郭もくっきり。
アクセントを良く利かせたメリハリの良さとスピード感、急な勾配のあるクレッシェンドとデクレッシェンドも淀むことなく滑らか。
強弱と緩急のコントラストと移り変わりの鮮やかさが、力強さと技巧一辺倒ではない明晰さとクリアな叙情感を感じさせるところ。

カデンツァの冒頭のアルペジオも、いつもどおり、テンポを落とさず、力強いタッチで一気に弾きこんでいる。
続くフィナーレもスピードを落とすことなく、左手の重みのある低音部が良く効いて、低音から高音へ盛り上がっていく。
このカデンツァからフィナーレにかけて、疾風怒涛の如く横溢する感情が解放されて、雲に覆われた空がさっと晴れ渡ったような爽やかさ。
ヴィルトオーゾにありがちな直線的な表現ではなく、力感・量感・スピード感という技巧優れたところと、若々しい情感溢れる音楽性が両立しているところは、いつ聴いても惚れ惚れする。

ショパン/バラード第3番 変イ長調 Op.47
カッチェンのショパンの録音は、1950年代のピアノ・ソナタ第2番、第3番、バラード第3番、幻想曲と数曲のモノラル録音が残っている。
この頃弾いたショパンは、かなり大時代がかったような、重厚でドラマティックな演奏。
ルバートを多用しているのでリズムに粘りがあり、山あり谷ありと激しい起伏は、19世紀のロマンティシズム風(?)なのかどうかはわからないけれど、時代がかった弾き方に聴こえる。
巷のショパンとはかなり違っていて、普通のショパンを聴きなれている人には、かなりの不評。
でも、個人的にはショパンらしくないところが面白くて、好きなのだけど。

《バラード第3番》は、1965年10月4日のロンドンのブロードキャスティング・ハウスでのライブ録音。
最初の録音は1949年のスタジオ録音。

予想はしていたけれど、やっぱり、普通のショパンにしては、骨太なタッチと力感・重量感があって、ブラームスを聴いている気分。
弱音部分でも、線の細くて儚げな繊細さは薄く、粒立ちの良い硬質の音できりっと引き締まっている。
低音から立ち上るようなフォルテやクレッシェンドは、パッショネイトな情感が溢れて、力強くダイナミックで"男性的"。
シームレスに滑るような流麗なタッチとは違って、一音一音が力強く発音も明瞭だし、スケールとアルペジオは指回りの良さで切れが良く、力感と量感のあるフォルテは本当にブラームスの重厚な和音そのもの。
でも、"ショパン弾き"ではないせいか、時々弾きにくそうなパッセージがいくつか。特に、音が詰まって近接した和音で旋律をつなげていくところは、ややもたつき気味に聴こえる。
そういうところはあっても、線のしっかりした力強いタッチで、ロマンティシズムとダイナミズム溢れたショパンはとても素敵。


1950年代のスタジオ録音。粘りのあるルバートやリズム、大仰なフォルテに激しい強弱のコントラストと、ショパンにしては?と思わないでもない。
1965年の録音では、そういうところがかなり影を潜めて、流れが良くなり、ずっとすっきりした弾き方になっている。


リスト/村の居酒屋での踊り "メフィスト・ワルツ第1番" S514/ R181
これもモノラル時代の1954年に録音していた曲。ライブ録音はショパンと同じく1965年10月4日ロンドンの演奏会。
この曲はリスト作品のなかでも、比較的有名で録音も多いけれど、何度聴いても好きにはなれない曲。
モノラル録音と比べると、演奏時間が10分。音質がかなり良くなっていることもあり、響きのバリエーションが広がり、表現的に幅が広くなったのは確か。
それに、ブックレットの解説コメントでは、"これほど明確に表現されたdemonismを聴いたことがない"とある通り、中間に挟まれた緩徐部分以外は、テンションが高く緊張感が漲っている。

シューマン/森の情景Op.82 ~ 第7番予言の鳥
これはいつ聴いても摩訶不思議な曲。
初めて聴いた時も、今聴いても、シューマンらしくないような曲想という気がする。
主題部と再現部が特に神秘的。静寂さのなかで、問いかけるようなポロロン、ポロロンと主題旋律の短いフレーズが、何度も繰り返される。中間部は、普通のロマンティックな安定した和声に変わる。
聴けば聴くほど、この神秘的な雰囲気がとても気に入ってしまった。
"予言の鳥"という鳥がどういう姿形をしているのかは知らないけれど、なぜかカラフルなオウムのような鳥のイメージが浮かんできてしまう。
カッチェンのディスコグラフィでは初出。1958年9月29日ロンドン・BBCマイダ・ヴァレ・スタジオのライブ録音。

アルベニス/《イベリア》第2巻 ~ トリアーナ
カッチェンがアルベニスをレパートリーにしていたのは意外。たぶん、アンコールピースのレパートリーだと思うけれど。
カッチェンのアンコールピースには、ファリャの《火祭りの踊り》やドビュッシーの『月の光』とか、いろんなタイプの小品が入っている。

"スペインのショパン"といわれるのは、グラナドス。
アルベニスは"スペインのドビュッシー"と言いたくなるほどに、ドビュッシーの音楽を南国風の情熱的な作風にしたような気がする。ドビュッシーは《イベリア》を絶賛し、時折、ピアノで弾いていたという。
アルベニスとグラドナスを聴くと、やっぱりドビュッシーとショパンの違いがしっかり感じられる。

アルベニスの作品は、旋律も和声も両方とも美しく、南国風の異国情緒がありつつ、土俗性のない洗練された美しさを感じる。
それに、《イベリア》を始めとして、爽やかな開放感がある曲も多くて、聴いていてもうっとり。
ドビュッシーにも南国風の曲はいくつかあるけれど(「ハバネラの門」など)、それよりも、アルベニスの曲の方がずっと好みにあっている。
《イベリア》は全部で4巻12曲。「トリアーナ」は第2巻の第3曲にあたり、曲名はセビリアのジプシー居住地。軽やかだけれどパッショネイトな雰囲気。
"2拍子の闘牛場の行進曲(パソドブレ)"のリズムとよく言われているが、基本はセビリャーナス(3拍子)なので、2拍子のリズムを感じるのは難しいという説もある。[作品解説(上原由記音スペイン音楽セミナー),試聴ファイルあり]

カッチェンの「トリアーナ」は、シューマンと同じく1958年9月29日ロンドン・BBCマイダ・ヴァレ・スタジオのライブ録音。
他の曲の演奏よりもタッチが多彩で、色彩感がとても豊か。
普通は6分~6分半くらいで演奏するところを、カッチェンは4分30秒あまりというかなり速いテンポ。
とても軽快なタッチで、生き生きとした躍動感とパッショネイトな雰囲気が素敵。
中間部でテンポがやや落ちて、ロマンティックで叙情的な曲想になると、かなり細かいパッセージが続く。ちょっとモタモタとした感じがするし、少し和声が濁り気味かも。
カッチェンだけかと思って、他のピアニストの録音をいろいろ聴いても、同じような演奏。あまりに音が密集しすぎているせいらしい。
カッチェンは最初からテンポが速いので、この中間部でもそれほどテンポが落ちていない。
中間部をかなり遅いテンポで弾いているピアニストの場合は、音はごちゃごちゃせずに比較的クリアに聴こえるけれど、もともた感が強くなる。それに最初の主題部がかなり遅いテンポで始めることになるので、スピード感がなくなりがち。
やっぱり軽やかで勢いのあるカッチェンのテンポの方が良いなあ~と。

《関連記事》
 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』
 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ



tag : カッチェン ブラームス ショパン シューマン アルベニス ケンペ フランツ・リスト

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新譜情報:ペーター・レーゼル『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集』 Vol. 7&8
4年間に亘って順に発売されてきたペーター・レーゼルの『ベートーヴェン・ピアノソナタ全集』がとうとう完結します。

今年の10月1日と10月12日に行った紀尾井ホールでのリサイタルのライブ録音が、『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集』 の"Vol.7&8"として、来年1月25日に発売予定。
HMV、amazon、TOWER RECORDSで、予約受付中。

先日、キングレコードに照会した際、全集版BOXセットの発売予定は未定との回答。
本当は全集版で一まとめに買いたかったのに、それを待っていると、一体いつ最後の2枚のCDを聴くことができるのかわからない。
結局、分売盤の最終巻2巻を買って、全8巻を揃えることに。
例年通り、12月中にリリースされていれば、とっても素敵なクリスマスプレゼントになったのに、今回はなぜか1月にずれ込んでます。
Vol.8は、最初と最後の4つのピアノ・ソナタを収録。一番好きなソナタの第31番、第32番を聴くのがとても楽しみ。
それに第1番の最終楽章も好きなので、Vol.8が全集中で一番よく聴くCDになるのでは。


CDのジャケット写真もまだ決まっていないらしく、キングレコードの新譜情報にも写真が掲載されていない。
今のところ、試聴ファイルもなし。
録音日がそれぞれ2日間にわたっているのが、ちょっと気になるところ。
リサイタル当日のライブ録音だけではなくて、前日のセッション録音(?)を一部収録しているのかも。

 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 7』
ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集7ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集7
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

試聴する

【曲目】
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 Op.78
ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 Op.79「かっこう」
ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 Op.22
ピアノ・ソナタ 第7番 ニ長調 Op.10-3
ピアノ・ソナタ 第13番 変ホ長調 Op.27-1
【録音】
2011年9月30日, 10月1日 紀尾井ホール



 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8』
ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

試聴する


【曲目】
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ 第2番 イ長調 Op.2-2
ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110
ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 Op.2-1
ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111
【録音】
2011年10月11,12日 紀尾井ホール


tag : ベートーヴェン レーゼル

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吉田秀和著『世界のピアニスト』(新潮文庫版、ちくま文庫版)
音楽関係の本のなかで私が一番よく読んだのが、新潮文庫から出ていた『世界のピアニスト』。
ピアノ好きの人なら、この本を読んだことがある人は多いでしょう。

大学時代にCDを買い集め始めたときに、新潮文庫版を購入。それ以来、興味を持ったピアニストや初めて聴いたピアニストのことを調べるときに参考書代わりに読んでいる。

巷のピアニストガイドとは違って、録音に関する評論が多くて詳しい。
章立ては「世界のピアニスト」「ピアニストの横顔」「ピアニストを語る」の3章から構成。
取り上げているピアニストは59人と多いけれど、ピアニストによって頁数と内容にかなりの濃淡がある。
特に「ピアニストを語る」はエッセイ風のものが多い。
ピアニストの名盤と言われるものでも、取り上げていないことが結構あるので、ガイドブックがわりには使いづらい。

頁数が多いのは、バックハウス、ミケランジェリ、グールド、グルダ。
1980年代に出版されているので、内容的にはかなり古い。1980年代以前に亡くなったピアニストについては、最近CDリリースが多い古いライブ音源には言及されていなくても、特に気になることはない。
今でも現役で活動しているピアニストについては、最近の録音に関する評論がないけれど、これは仕方がないこと。
それに、アラウ、ルドルフ・ゼルキン、ケンプが「世界のピアニスト」と「ピアニストの横顔」のいずれにも入っていない。

これは新潮文庫版。巻末に紹介されたレコード一覧が付録でついている。今では絶版。
世界のピアニスト (新潮文庫)世界のピアニスト (新潮文庫)
(1983/08)
吉田 秀和

商品詳細を見る


                       

ちくま文庫の「吉田秀和コレクション」にも、『世界のピアニスト』という巻がある。
新潮文庫版がベースにはなっているけれど、収録内容はかなり違う。
新潮文庫版の「世界のピアニスト」に登場したピアニスト全てと、「ピアニストの横顔」からはブレンデル、エッシェンバッハ、ルプーを掲載。
一部のピアニストについては、朝日新聞に連載された「音楽展望」の評論を追加収録している。
新しく追加されたピアニストは、ガヴリーロフ、内田光子、ツィメルマンの3人。
その一方で、「ピアニストを語る」と「レコード一覧」は削除されている。

追加されたガヴリーロフ、内田光子、ツィメルマンの3人。
リリースされたCDがあまりに印象的だったのか、ガヴリーロフは《フランス組曲》、内田光子は《クライスレリアーナ》と《謝肉祭》、ツィメルマンは弾き振りしたショパンの再録盤《ピアノ協奏曲集》に関する評論が中心。

《フランス組曲》の中で最も好きなのはガヴリーロフの録音。
この録音を取り上げている評論がとても少ないので、それが追加収録されているのが、個人的には嬉しい点。

とても残念だったのは、新潮文庫版に収録されていた「ピアニストを語る」は全く収録されていないこと。
頁数も少なく評論としては内容的にやや薄かったとはいえ、カッチェン、フライシャーやピーター・ゼルキン、アラウ、アンダなどが取り上げられていて、特にカッチェンに関する文章はとても好きだった。

世界のピアニスト―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)世界のピアニスト―吉田秀和コレクション (ちくま文庫)
(2008/05/08)
吉田 秀和

商品詳細を見る



tag : 吉田秀和 伝記・評論

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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