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アラウ ~ シェーンベルク/3つのピアノ小品 Op.11
アラウのレパートリーの中で珍しいのはシェーンベルク。
同世代のピアニストのゼルキンやケンプは、シェーンベルク(などの現代音楽)の録音はほとんどない。
ゼルキンがバルトークのピアノ協奏曲第2番を録音しているくらいだろうか。(よく探せば他にもあるかもしれない)

吉田秀和氏の著書『世界のピアニスト』(新潮文庫版)によれば、60歳過ぎに来日したアラウは記者会見で、シュトックハウゼンの選択自由(チャンス・オペレーション)の手法をとりいれた『20のグループ』も彼の好む曲だと話していたという。
シュトックハウゼンを弾くアラウ...というのは、どうもイメージが湧いてこないので、これは一度は聴いてみたいと思うのに、録音が残っていないのが残念。

アラウのシェーンベルク録音で、今聴くことができるのは、《3つのピアノ小品Op.11》のみ。
1959年にBBCスタジオで録音したもので、BBC Legends盤でリリースされている。
カップリングはベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第13番》、シューマン《幻想曲 ハ長調》で、1960年の録音。

ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第13番》は他にもライブ録音が出ているので、よく演奏会では弾いていたのかも。
BBC Legends盤はまだ50歳代半ばの録音なので、Philips盤の2度の全集録音や後年のライブ録音よりも、ずっと力強く、勢いがあり、体力・気力とも充実した精悍な演奏が聴ける。

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番/シューマン:幻想曲 ハ長調/シェーンベルク:3つのピアノ小品 Op. 11 (アラウ)(1959, 1960)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番/シューマン:幻想曲 ハ長調/シェーンベルク:3つのピアノ小品 Op. 11 (1959, 1960)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番/シューマン:幻想曲 ハ長調/シェーンベルク:3つのピアノ小品 Op. 11 (1959, 1960)
(2010/11/16)
Claudio Arrau

試聴する(米amazon)


ここ数年、ヒルやジェイコブス、グールド、それにアラウなど、いろいろなピアニストのシェーンベルク録音を聴くと、聴き慣れたせいもあるのだろうけれど、シェーンベルクはそんなに殺伐としているわけでも、無機的なわけでもない音楽。
それ以前の時代の音楽では聴くことができない独特の音の配列と現代的な叙情感が、新鮮で面白くも思えてくる。

シェーンベルク自身が「わたしの音楽はモダンなのではない。演奏がひどいだけだ」とか言った話は有名。
どういう演奏ならシェーンベルクの意にかなったのか、とても知りたい気がしてくる。

Op.11の3曲は、第1曲と第2曲が"Massige"(中庸に)、"Bewegte"(動きをもって)と標題が付いている。
グールド、ポリーニと聴き比べてみると、やっぱりそれぞれのピアニズムの違いが出ていて面白い。
一番解釈の違いがはっきりとわかるのは第3曲。
アラウは太く厚みのある響きで、冒頭から加速しているかのように一気に弾きこんでいる。テンポも頻繁に伸縮しているようで、強弱のメリハリもよく利いて、起伏が激しくてパッショネイト。
ドビュッシーを弾くときも、綺麗な音が並んでいるように弾くのではなく、音に込められた感情を表現したいと言っていたので、これはシェーンベルクを弾くときでも同じなのだと思う。
ドビュッシーでは、印象派的な透明感のある響きではなく、響きが重なり霞のような煙幕がかかったような気がする。
シェーンベルクでも、やや濁りのある重層感のある響きで、皮膚感覚というか生理的な生温かさを感じるところは似ている。

Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-3



ポリーニは、フォルテがとりわけ強く、ガチガチと固いタッチと崩れないリズムが厳めしい。3人のなかでは一番叙情感が薄く感じる。
最初に聴いたシェーンべルクがポリーニの録音だったせいか、長らくシェーンベルクを聴きたい気分にならなかった。
Arnold Schonberg - 3 Klavier Stucke op. 11, no. 3 (Pollini)



グールドは、軽やかなフォルテとしなやかなタッチで聴きやすいし、不協和音も濁りが少なくて、すっきりとした響き。
さっぱりとした叙情感と力みのない表現は、洗練された都会的な(?)シェーンベルク。
Arnold Schoenberg - Three Piano Pieces, II-III (Gould) (第3曲は8:24~)



第1曲、第2曲のアラウの演奏はこちら。
Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-1[youtube]
Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-2[youtube]

tag : シェーンベルク アラウ グールド ポリーニ

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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (3) Neuromonics Tinnitus Treatment (改訂版)
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Neuromonics Tinnitus Treatmentの概要
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豪州&米国に拠点をもつNeuromonics社が開発した療法。
同社は、画期的な耳鳴り治療法の開発を目的として、2001年に設立された。
"Neuromonics Tinnitus Treatment(NTT)"の開発者はオーストラリアの臨床聴覚学者(clinical audiologist)であるDr.Paul Davis。
1990年代初期から広範な研究が行われている療法で、多施設臨床試験と開業医の両方の試験で、その効果が認められている。
2004年に療法が導入されて以降、最初はオーストラリアで、2005年後半に米国で実際に使われ始めた。
現在、米国、オーストラリア、ニュージーランド、アジアで、2,000人以上の患者が治療を受けている。

治療プロセスとステップ
専用機器Oasis™ deviceを使い、ヘッドホーンを通じて、精緻に設計されたバロックやニューエイジなどの音楽(心地良い音響神経刺激が埋め込まれている)を聴く。
これらの音は各ユーザーの聴覚特性に応じてカスタマイズされ、聴覚路を刺激して神経可塑的変化を促進する。
時間が経つと、この新しい神経結合により、脳が耳鳴りの騒音をfilter out(透過、除去)するようになり、長期間の症状緩和をもたらす。

Neuromonics treatmentは約6ヶ月を超えると治療効果が現れるが、多くのケースではすぐにいくらかの緩和効果が得られる。
治療開始前に、耳鳴りと聴力を評価し聴覚特性を診断した後に、最も適切な治療手段と、Neuromonics treatmentが役立つかどうかを、患者と医師が相談する。
両者がこの療法が役立ちうると合意すれば、Oasis™器で聴く音源が、患者ごとの聴覚特性に応じてカスタマイズされる。
治療は、約6ヶ月間にわたり、5つのステップで実施される。
治療中は、神経学的訓練を受けた専門の医療技術者が教育とサポートを行う。

ステップ1:患者の聴覚・耳鳴特性の評価、最適な療法の選択肢を提示
ステップ2:患者個人の聴覚・耳鳴の特性に応じたOasis™ 器のカスタマイズ

ステップ3:<Stage 1>症状の緩和(治療期間:約2ヶ月)
耳鳴り症状の緩和を促進する。
日常生活(読書、料理、職場など)のなかで、少なくとも毎日最低2時間はOasis™器を装着して、治療用音楽を聴く。
やがて治療中に耳鳴りをコントロールすることを経験し始める。

ステップ4:<Stage 2>サイクルの打破(典型的には約4ヶ月間)
脳が耳鳴り音をfilter outすることを可能にする神経結合の構築促進。
これが達成されると、Oasis™器を定期的に使わなくても、緩和効果が持続する。

当初ステップと異なる音響的刺激に変更する。
Oasis™使用は、最初は少なくとも1日につき2時間。耳鳴の緩和度に応じて使用時間を減らしていく。
やがて、Oasis™を使用しないときでも、耳鳴症状の緩和を経験するようになる。

ステップ5:<Maintenance Stage>
治療プログラムの成功後、Neuromonics社の聴覚訓練士が患者自身で耳鳴りをコントロールし続けることができるように、患者と協力して治療効果を維持するためのメンテナンスプログラムを構築する。
患者の多くは、治療後もOasis™器を使う必要性を感じない。
短期間だけ使う人もいるが、それは治療効果を維持しやすくするためである。


The Oasis™ device
- 専用治療機器(処方箋が必要)。サイズ・重量は携帯電話並。特許取得済み
- 2005年にFDA承認済み:510(K)summary(masker,tinnitus)。さらに、オーストラリアのTherapeutic Goods Administration (TGA)の承認済み。
- スペクトル的(spectrally)に加工され精緻に設計されたリラクゼーション音楽の中に、患者ごとにカスタマイズ化した音響刺激が埋め込まれている。高性能イヤフォーン付き。
- 治療機器の購入費用は米国内で5000ドル。治療費用はほとんど保険対象外。(ただし、米国の退役軍人の場合は無料となることが多い。)

他療法との比較表
TRT療法、マスカー療法などとの簡易な項目別比較表によれば、TRT療法と共通点は多いが、それよりも短期間で効果が得られることになる。


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臨床試験結果
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過去の臨床試験結果概要

第2フェーズ
"Treatment of tinnitus with a customized acoustic neural stimulus: A controlled clinical study."
Davis PB, Wilde RA, Steed LG, Hanley PJ./Ear Nose Throat J 2008;87:330-9.
- 小規模なフィージビリティスタディ。2つの対照群に対して無作為化。
- 治療期間6ヶ月経過後、Neuromonics treatmentの被験者の86%が臨床医学的成功として設定した最小基準(=耳鳴りの煩わしさ[Tinnitus Reaction Questionnaire score]を最小40%軽減)をクリア。
それに対して、2つの対照群は最小基準をクリアしたのは各々47%と23%の被験者。
- Neuromonics treatmentの被験者群の改善スコアの平均は66%、対照群は各々22%と15%。療法被験者群と対照群の結果の差異は統計的に有意であった。


第3フェーズ
"The neuromonics tinnitus treatment: third clinical trial."
Davis PB, Paki B, Hanley PJ. / Ear Hear 2007;28:242-59.
- Neuromonics treatmentプロトコルの短縮版と標準版の効力比較が目的。短縮版は統計的に有意な効力がみられず、標準版の方が優れていた。
- 療法実施から6ヶ月後、全被験者の91%で医学的に意味のある効果(耳鳴りの煩わしさを最小40%軽減)があり、前回の臨床試験(86%)と一貫性のある結果であった。
- 12ヵ月後のフォローチェックでは、効果が持続しており、86%の被験者で医学的に意味のある効果を示していた。
- 6ヶ月後時点でのTROの平均改善度は65%。前回の臨床試験(66%)と効果の度合いがかなり一貫している。

一般の開業医での治療結果
"Treatment of tinnitus with a customized, dynamic acoustic neural stimulus: clinical outcomes in general private practice."
Hanley PJ, Davis PB, Paki B, Quinn SA, Bellekom SR. / Ann Otol Rhinol Laryngol 2008;117:791-9.
- 過去2回の臨床試験は、この療法に適用しやすい患者を対象としていたが、今回の臨床試験はきわめて多様な患者にまたがった実際の診療所での大規模な試験。(被験者数470人)
- 最も適応度の高い患者層(Tier1/237人)では、医学的に成功した(効果があった)被験者は92%、平均改善度(スコア)は72%を示した。
- 適応度が劣る患者層(Tier2/223人)でも、同様に被験者の60%で効果があり、平均改善度(スコア)は49%。

第4フェーズ(直近の臨床試験)
<試験概要>
”Customized Acoustic Stimulation for Long Term Medical Benefit for the Relief of Tinnitus and Hyperacusis (CALM)(PhaseⅣ)”
- 2007年6月開始、2010年12月完了予定。
- 18歳以上の男女、53人。医学的にかなり重い耳鳴り。
- 50db以上の聴力損失、抑うつ・不安度に関するHADSスコアが11超ある人は除外。
- 多施設・非無作為化・非盲検試験
- FDA承認済みのNeuromonics treatmentを実施後、6,12,24,36ヶ月後にその長期的効力を測定。
- 第1評価指標:(事前・事後)Tinnitus reaction questionnaire[6,12,24,36ヶ月後]
- 第2評価指標:Tinnitus Handicap Inventory, Hospital Anxiety and Depression Scale[同上]

<試験結果>
Evaluation of a customized acoustical stimulus system in the treatment of chronic tinnitus.
Otol Neurotol. 2011 Jun;32(4):710-6.
Wazen JJ, Daugherty J, Pinsky K, Newman CW, Sandridge S, Battista R, Ramos P, Luxford W.(Silverstein Institute)
- 多施設前向き試験(米国内9ヶ所で実施)
- 被験者数:52人。慢性耳鳴り(最低でも6ヶ月間)、以前に行った(他の)治療で効果が僅か/無し、および、併行して受けている治療がないこと。
- 治療方法:2段階方式。(Stage1)患者ごとにカスタマイズした音楽トラックおよび耳鳴りマスキング用のホワイトノイズを2ヶ月間、毎日2~4時間聴き続ける。(Stage2)同じ音楽トラックを使うが、ホワイとノイズは使用せずに、さらに4ヶ月間リスニング。両段階とも、教育、認知療法、定期的フォローアップを実施。
- 主要評価方法:Tinnitus Reaction Questionnaire(TRQ)、Tinnitus Handicap Inventory(THI))。他に、Hospital Anxiety Depression Scale(HADS)、loudness discomfort levels(LDL).
- 評価結果が得られたのは、6ヶ月後38人、12ヵ月後28人、24ヵ月後12人。14人がフォローアップまでに辞退または所在不明、残り(26人)は12ヵ月後または24ヶ月後の試験に到達しなかった。
- 試験結果:TRQは12ヶ月後で74%の患者で、24ヵ月後で84%の患者で、有意に低下。THIも同じくそれぞれ77%、50%の患者で低下。


過去の臨床試験のサマリー
"Treatment of tinnitus with a customized, dynamic acoustic neural stimulus: underlying principles and clinical efficacy."
Hanley PJ, Davis PB. / Trends Amplif 2008;12:210-22.
過去の臨床試験(第2&第3フェーズ、開業医)の結果概説、総合的な考察あり。
この療法に適応可能な耳鳴りタイプは、"not reactive, pulsatile, or multi-tone in nature"(反応性、拍動性、複数音でない(耳鳴り)"と記載されている。

(注記)"reactive tinnitus"という用語は、ネット上のサポートボードで使われている用語であって、耳鳴り関係の論文では一般的ではない。その代りに、"kindling"または"winding up"が使われている。
大きな音を短時間聴いたり、低い音を長時間聴き続けると、耳鳴り(場合によっては聴覚過敏も)が悪化して音量が大きくなる状態を言う。(出典:Tinnitus Support Message Board


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関連情報
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Neuromonics Tinnitus Treatmentを紹介している記事・TV番組(リンク集)

Ear Ringing Relief Can Be Hard To Find(7/19/2011、CBS Boston)
Sound therapy for anxiety from tinnitus(5/11/2011、CNN)

”Turn Off the Ringing Sound/Researchers Explore New Treatments to Silence the Persistent Din of Tinnitus”(2010.12.12,Wall Street Journal)
音楽療法の"Neuromonics Tinnitus Treatment"のほか、効果が期待できる治療法として、rTMSと認知行動療法が紹介されている。
記事によれば、認知行動療法は、耳鳴りそのものではなく、耳鳴りに対する患者の感情的な反応を治療対象とするもの。
その目的は、”耳鳴りを靴下と靴のような存在(身につけていてもそれについてわざわざ考えることのない)にすること”。
耳鳴りに対して反射的に持っているネガティブな考えを患者が自覚することからスタート。
”これでもう私の人生は終った”という患者に対して、この認知行動療法では、耳鳴りが人生を台無しにしてしまうことはなく、単に人生の一部でしかないと理解するようにする。
実際、頭の中の耳鳴りを無視するようになることが、結局は最も効果的な方法だという患者たちもいる。


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進捗状況
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Neuromonics社は、米国陸軍とNeuromonics Tinnitus Treatmentに関する70万ドルの契約を締結。
アラバマ基地で、耳鳴りをもつ現役・退役軍人を被験者としたプラセボ対照比較試験を行い、 この療法の効果と使用法について米軍が研究する。
(出典:"Neuromonics Receives U.S. Army Grant, Studies Non-Invasive Tinnitus Treatment – Iraq, Afghanistan vets benefit from FDA-approved device to treat tinnitus"(Neuromonics社のNews Release,Oct.18,2011))


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備考
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記事は英文情報を要約抜粋したものです。正確な内容については、英文原文(ホームページ、論文など)をお読みください。


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更新履歴
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2012.3.15 「進捗状況」追加
2012.3.30 全面改訂

tag : 音響・音楽療法

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Tinnitus on "The Doctors" TV Show
米国のTV番組"The Doctors"で、耳鳴り特集が放送されていた。
「Tinnitus」というテーマで、その趣旨は、"Do you have a constant ringing in your ears? It may be tinnitus. Find out what it is, why it happens and what new treatment can help stop the unpleasant sounds."
(あなたの耳の中で、音がずっと鳴り続けていますか?それはたぶん耳鳴りでしょう。その音が何者で、原因は何なのか、その不快な音を止めることができる新しい治療法は何なのか、見つけましょう)



耳鳴り音のデモ、Dr.Andrew Ordonによる耳鳴りの原因や治療法の簡単な説明、耳鳴りに悩まされているイラク帰還兵の映像とスタジオでの紹介。
まだ若い帰還兵は、イラクで経験した近距離の爆発音による音響外傷が原因で耳鳴りが始まり、最近米国で注目されている(らしい)新しい音響・音楽療法"Neuromonics Tinnitus Treatment"により治療中。
番組途中で出てきたノイズジェネレーターに似た小型プレーヤは"Oasis™"という専用治療機器。これを使って、患者ごとにカスタマイズ化した治療用音楽を聴く。
スタジオで、帰還兵の横で治療法についてコメントしているのは、"Neuromonics Tinnitus Treatment"を開発したNeuromonics社の幹部。

「Tinnitus」のテーマは、以前にも別番組で放映されていた。番組のダイジェスト版はこちら。


"The Doctors" は、「米TVネットワークの日中や夜間の空いた時間を間借りして放送される、いわゆるシンジケーション番組と呼ばれる番組」。昼間なら日本のワイドショーの時間帯なのだろうか。
ブルーの手術着のような服を着ているので、初めは『ER』のようなTVドラマかと錯覚した。
中身を見ていると、実演とか実験はせず、取材したビデオ映像を見て、出演者が解説したり討論するトークショーのような番組。
Host役(司会者)と3人いるCo-host役(解説役)は現役の医師や医療の専門家。
英文Wikipediaに、「The Doctors (2008 TV series)」という項目で、解説あり。


きな粉に関するトピックス ~ 活用レシピ、イソフラボン&グルタミン酸
このごろなぜか「きな粉フリーク」。
多い日には50gくらい食べていた。これではあまりに膨満感があるので、今は25g以下に減量。
それに、きな粉は大豆製品なので、100gで約430kcal(小麦粉は約370kcal)と、カロリーがバカにならない。

炒った大豆を粉にしているきな粉はほんのり甘い。これは大豆に含まれている「大豆オリゴ糖」の甘み。
「大豆オリゴ糖」は腸内のビフィズス菌のエサとなり、整腸作用がある。
オリゴ糖のなかでは、低カロリーな部類。

きな粉は、大豆よりも消化吸収率は良いけれど、豆腐に比べると消化がやや悪くなる。
炒り大豆はついポリポリと食べ過ぎると、お腹がホクホクと膨張するので、かなり消化が悪いのは実感。
でも「うの花」が、炒り大豆並みに消化が悪いとは知らなかった。
煮豆も柔らかく煮ているのに、消化率はそれほど高くない。
スルスルといくらでも食べられるのは、やっぱりお豆腐。
お豆腐よりも多少消化は悪くても、食物繊維の多いきな粉は便秘解消に効果抜群。
おからも食物繊維は多いけれど、腸内にガスが溜まりやすいので、きな粉の方が食後も快適。

<大豆製品の消化率>(食品成分表)
醤油:98% 豆腐:95% 納豆:85% 味噌:85% きな粉:83% 煮豆:68% 炒り大豆:60% うの花:60%
(出典;お粥(おかゆ)生活)

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きなこ活用レシピ
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きな粉というと、おはぎ、あべ川餅、きなこ牛乳、きなこ飴、それにホットケーキやパウンドケーキに入れたりして、お菓子に使うことが多い。
それに、お豆腐はきな粉との相性が良い。
男前豆腐店のお豆腐にきな粉を(たまに黒蜜も一緒に)かけたり、フープロでお豆腐ときな粉を混ぜてクリーム状にしてから冷凍するとお豆腐アイスになったり。お豆腐が美味しいデザートに。

他に使い方がないかと探してみたら、NHKの「ためしてガッテン」で、『知らなかった!きな粉 劇的活用術』という番組を過去に放送していた。
お味噌汁やおからに入れると、一層味が良くなるらしい。
カルボナーラに入れるとチーズ風。チーズがないときは便利かも。

一風変わったところでは、「きなこご飯」というのがあるらしい。
単にきなこをご飯にかけるだけ。砂糖も一緒にかけると、「おはぎ」風。
砂糖はできるだけ使わないようにしているし、普通のご飯にかけずとも、やっぱり手間暇かけて作るおはぎの方が美味しそう。
「きなこご飯」(Cookpad)

郷土料理の「ほおば飯」。これはシンプルにきな粉だけまぶして、「ほう葉」で巻いたもの。
田植えが終わるとそのお祝いのごちそうだったという。
「ほおば飯」(自然人.net)

きなこのお菓子で一番好きなのは、「すはまだんご」
京都にある「豆政」が昔から作っているお団子で、色合いも綺麗だけれど、あのねちゃっとしたきな粉のお団子の味がやみつき。
水飴で練り上げてみるので、きな粉のカロリーに加算されて、これはかなりの高カロリー食品。
京都に行った時や、駅の売店・百貨店とかで見かけると、つい買って帰ってしまう。

「すはまだんご」(ベターホーム)
よく見かけるタイプのレシピ。きな粉と砂糖が同量。きな粉と同量の水や長いもで練り上げるのが多い。
火力は使わないのでとっても手軽。

「黄奈粉(きなこ)すはま」(本高砂屋)
つなぎが寒梅粉。甘みには、水あめと砂糖の両方を使っているので、これは甘そう。

「きなこ棒」(フードソムリエ)
「すはまだんご」に良く似ている。長いもを使わずに、水飴だけで練っている。

「生きなこ」(Cookpad)
「きなこ飴」は水あめを使うけれど、普通の砂糖を使って牛乳か豆乳でまとめれば、生チョコならぬ「生きなこ」。

意外なおやつ(?)は、大根のきなこまぶし。これが結構美味しい。
「きな粉が美味し~!!衝撃的㊙おやつ♪」

面白いのは、奈良で食されている「きな粉雑煮」。白みそ仕立てのお雑煮の中からお餅だけを取り出して、安倍川餅のようにきな粉をつけて食べるのだそう。(同じ関西でも、大阪ではそんな食べ方はしない)


私が好きな料理研究家の濱田美里さんが最近出したきな粉のレシピブック。
意外な活用法とか、これは作ってみたいというものは少ない。
ドレッシングとか、お酢とかに入れるのは、味がまろやかになって良さそう。
きなこが決め手の絶品レシピきなこが決め手の絶品レシピ
(2011/06/25)
濱田 美里

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きな粉とイソフラボン
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イソフラボンの摂取上限値は、1日70~75mg。
厚生労働省の食品安全委員会が発表した数値で、「イソフラボンの1日上限摂取量を70~75mgとし、食事に上乗せして摂取する特定保健用食品は1日摂取目安量をアグリコンで30mgとする。」
普通の大豆加工食品で摂るイソフラボンには上限値はないが、イソフラボン全体としては70~75mg/日が上限値の目安。
このうち、サプリメントや健康補助食品のイソフラボン(アグリコン)摂取量の上限値は30mg。
この「70~75 ㎎/日は、この量を毎日欠かさず長期間摂取する場合の平均値としての上限値であること、また、大豆食品からの摂取量がこの上限値を超えることにより、直ちに、健康被害に結びつくというものではない」ので、普通の食品だけでイソフラボンを摂るなら、暴食しない限り摂取量の上限を気にする必要はなさそう。
内閣府食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」

元々大豆製品が好きなので、お豆腐、おから(卯の花)、大豆のしょうゆ漬け、厚揚げ、がんもどき、お味噌汁など、毎日、合計で3~4種類は食べている。
サプリメントに頼らずとも、イソフラボンはかなり摂っているはず。
大豆製品中のイソフラボンの含有量を調べてみると、
 きなこ:約19mg(大さじ2杯12g)
 木綿豆腐:約42mg(1/2丁150g) or がんもどき:約34mg(1コ80g) or 厚揚げ:約37mg(1/2枚100g)
 お味噌汁:約6mg(1杯20g)
これで合計60~70mg。

このうちどれか抜けたとしても、他に、水煮大豆/しょうゆ豆、うすあげ、納豆のどれかを食べているので、多少カバーできる。
70~75mgには若干足らない日があるとはいえ、日本人の半数は18mg以下しか摂っていないそうなので、今の食生活だとかなり満足できるレベル。
イソフラボン含有量・何にどれだけ?[フジッコ]

"植物性エストロゲン"の働きをするイソフラボンは、骨粗しょう症、更年期の不定愁訴などの抑制効果があると言われている。
肉類を食べなくなってからは、大豆製品は大事なたんぱく源。
そういえば、大豆製品をコンスタントに数種類食べる食生活に変えてから、厄介な婦人病が治ってしまったのは、大豆のイソフラボンのおかげかも。

[2014.4.21 追記]
「大豆イソフラボン」の過剰摂取に警鐘 (NIKKEI BP NET,06/02/16)
大豆製品別の大豆イソフラボンの含有量表が記載されている。100gあたりでは、きなこと炒り大豆が突出して多い。(でも、フジッコのデータ(↑)と大分違うんだけど)

知っておきたい子宮筋腫の正しい知識と最新情報[子宮筋腫は自宅で治療できる!今日から始める改善法[@woman]]
-子宮筋腫の原因として、「女性ホルモンの1つのエストロゲン影響説」が一番有力。
-エストロゲンと同じような働きをする大豆イソフラボンが子宮筋腫に与える影響は、研究者の間でも意見が分かれている。

個人的な経験から言えば、”きな粉”が大好き(依存症に近いかも?)なので、数日続けて、または隔日で、1日あたり100g~200gくらい食べた後には、長らく治まっていた子宮筋腫の痛みが再発する。
明らかに大豆イソフラボンの含有量が多いきなこ(100gあたり266mg。大豆製品のなかで最多)の過剰摂取が原因だと思う。
きな粉より含有量のずっと少ない豆腐・納豆・おからをまとめて食べていても、豆腐半丁にお味噌汁、厚揚げ半切れ・おからサラダ少々くらいなら、全く影響はない。

[2014.11.6]
お腹にかなり大きな(こぶし大)硬いシコリがあるのが、自分で触ってもよくわかるようになってきた。
昔から子宮筋腫があるので、これが肥大しているに違いない。
明らかにイソフラボンの過剰摂取の影響。サプリメントは一切使っていないけれど、普通の食品から摂るイソフラボンだけでも、日常的に大量摂取すれば、副作用が顕著に現われる。
「過ぎたるは及ばざるが如し」というけれど、”及ばない”以上に悪影響がある。
きな粉を食べ過ぎる人はほとんどいないだろうけれど、豆乳を毎日しっかり飲んでいて調子が悪くなったという話はよくきくので、女性の場合はイソフラボンの摂り過ぎに注意しましょう。


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きな粉とグルタミン酸
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きなこは「グルタミン酸」が豊富。同じ重量で比較すると、おしょうゆやお味噌よりもずっと多い。
「しょうゆ・みそ・きな粉のグルタミン酸量」(『知らなかった!きな粉 劇的活用術』-発見!アジアの味な使い方)

食品から摂取したグルタミン酸は、殆ど全てが腸で使われている。
脳に最も多く存在するアミノ酸はグルタミン酸。脳内では、グルタミン酸からGABAが合成されるので、グルタミン酸が多い食品を食べたら良さそう...と思ったら、グルタミン酸は血液脳関門を通過できないので、食事で摂取したグルタミン酸は脳内には入らない。
グルタミン酸は脳内でグルコースから生合成されているという。
「うま味の成分-うま味の生理学」(日本うま味調味料協会)


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きな粉に関する一般的知識
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きな粉(知って得する商品に関するQ&A)[前原製粉]
モッチとキナーコ美味しいひそひそ話
「義士」ブランドできな粉製品を販売している前原製粉のホームページ。
全国きな粉工業会、「7月5日はきな粉の日」制定[日本食糧新聞,2012/11/30]


<関連記事>
大豆製品摂取による甲状腺機能への影響

カッチェン ~ メンデルスゾーン/ロンド・カプリチオーソ、歌の翼に(リスト編曲版)
メンデルスゾーンのピアノ作品といえば、一番有名なのが《無言歌集》。
他にも名曲はいろいろあり、良く知られているのは《ロンド・カプリチオーソ》。それから、《前奏曲とフーガ》、《厳格な変奏曲》、《スコットランド・ソナタ(幻想曲》、それにピアノ協奏曲など、性格の違った曲がいろいろあるので、『無言歌集』とはまた違った顔のメンデルスゾーンが聴ける。
ロマン派で好きな作曲家といえば、ブラームス、リストの次に、メンデルスゾーン...と思うくらいに、端正で情緒過剰でない均整のとれた叙情感が好きなところ。

カッチェンが録音したメンデルスゾーンのピアノ曲は4曲。
- Prelude and fugue in e minor, op.35-1
- Scherzo in e minor, op.16-2
- Rondo Capriccioso, op.14
- Auf Flügeln des Gesanges, op.34-2(arr. Liszt; S.547-1)

1953年のモノラル録音は4曲。全て『Julius Katchen:Decca Recordings 1949-1698』に収録。
1961年のステレオ録音で再録音したのは、《ロンド・カプリチオーソ》、リスト編曲版《歌の翼に》。
ステレオ録音の方は、収録しているオーストリア・デッカの"Art of Julius Katchen Vol.8"と、日本国内盤がいずれも廃盤。
オムニバスの名曲集に収録されているのは、《歌の翼に》の方だけなので、《ロンド・カプリチオーソ》は稀少な録音。
やはりステレオ録音は音質がずっと良いし、モノラル録音よりもタッチが柔らかく、表現が幅広くふくよかになって、叙情深くてドラマティックな雰囲気が増している。
カッチェンのメンデルスゾーンは、しなしなと線の細い優しく優雅な"女性的"なメンデルスゾーンではなく、線の太い力強いタッチでとっても"男性的"。
特に、《ロンドカプリチオーソ》は、若い頃のブラームスの曲を弾いているかのように、力強くて勢いが良いのがカッチェンらしい。

"On Wings of Song" Op.34 No.2 (arr. Liszt)
《歌の翼に》は、リストが歌曲を編曲したピアノ独奏版が有名。
原曲の旋律と伴奏のシンプルさを生かしつつ、低音~高音まで広い音域を使っているので、色彩感もあり華やか。
特に、高音域のアルペジオの最後の音が、きらきらと鐘の音のように響くところがとても綺麗。
カッチェンは、細かくテンポを変えて、ルパートをかけながら、まるで歌を歌うように主旋律をよく歌わせているので、とってもロマンティック。
アルペジオも"翼"の上にふんわり乗っているように軽やか。

聴いている分にはそれほど凝って難しそうには聴こえなかったけれど、楽譜をみるとそんなものではないのがよくわかる。
3段楽譜になっていて、右手と左手で振り分けたり、交差させたり、中段にある主旋律をくっきりと浮かび上がらせて歌わせながら、伴奏のアルペジオもバタつかずにふんわり柔らかく弾かないといけない。これを弾くのは頭と指がこんがらがるに違いないので、聴くだけにした方が良さそう。
最初、カッチェンにしてはさほど速くもないテンポかも..と思っていたら、他のピアニストの演奏を聴くともっと遅くてどんより重たかったりする。
カッチェンより随分速い演奏もあったけれど、高音部のアルペジオの響きがクリアでなく、旋律の歌い回しが単調になる。
この楽譜を見てからは、旋律を歌わせてながら、速いテンポで弾ける曲ではないのだと思い直してしまった。

Julius Katchen plays Mendelssohn (arr. Liszt) "On Wings of Song" Op.34 No.2

編曲版の楽譜:Auf Flügeln des Gesanges (S.547/1)(ダウンロード)


Rondo Capriccioso Op.14
1828年の作品《ホ短調のエチュード》に、ホ長調の導入部が追加されたのが《ロンド・カプリチオーソ》(《ロンド・カプリチョーソ》という表記もある)。
導入部はメンデルスゾーンらしいとても優雅な雰囲気。
アンダンテからプレストのロンドに入ると、カッチェンの指回りの良さが発揮されて勢いの良いこと。
2:55から《ピアノ協奏曲第1番》を思い出すようなフレーズが時々出てくる。
ラストは、片手が一音遅れて入るユニゾンのスケール。テンポが速い上に、カッチェンの音の線が太くて力感・量感があるので、ここはかなりの迫力。
快活さやパッショネイトな激しさも入り混じったところが素敵な曲。

Julius Katchen plays Mendelssohn Rondo Capriccioso Op.14



                          


『Julius Katchen:Decca Recordings 1949 - 1698』
1940-50年代に録音したモノラル録音のピアノ独奏曲を多数収録。
Decca Recordings 1949 - 1698Decca Recordings 1949 - 1698
(2006/01/02)
London Symphony Orchestra、Suisse Romande Orchestra 他

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『エリーゼのために~決定盤!珠玉のピアノ名曲集』
オムニバスのピアノ名曲集。カッチェンの録音は、ブラームス3曲以外に、バッハ《主よ,人の望みの喜びよ》、メンデルスゾーン=リスト編曲《歌の翼に》、ドビュッシー《月の光》。
エリーゼのために~決定盤!珠玉のピアノ名曲集エリーゼのために~決定盤!珠玉のピアノ名曲集
(1997/11/06)
オムニバス(クラシック)

商品詳細を見る



『Ultimate Classical Piano』
DECCAのピアニストの録音を集めた5枚組のピアノ名曲集。
カッチェンのブラームス以外の録音は、上のCDと同じく《主よ、人の望みの喜びよ》、《歌の翼に》。それにファリャの《火祭りの踊り》(バレエ音楽「恋は魔術師」より)。
Ultimate Piano Classics (Slip)Ultimate Piano Classics (Slip)
(2006/11/14)
Franz Liszt、 他

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tag : メンデルスゾーン カッチェン フランツ・リスト

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マーラー/交響曲第5番第4楽章アダージェット(管弦楽曲版&ピアノ編曲版)
マーラーの《交響曲第5番》第4楽章「アダージェット」の珍しいピアノ編曲版をイリーナ・メジューエワが録音している。
「アダージェット」は、映画『ヴェニスに死す』で使われていたので有名。
マーラー自身の編曲版はなかったはずなので、調べてみると編曲者は大輪公壱氏。

オーケストラの流麗で濃密な旋律と響きが記憶に刷り込まれていたので、ピアノ編曲版を初めて聴いたときは、響きも叙情感もあっさりしていて、ちょっと物足りない感じ。
中間部はピアノの響きだとすっきりし過ぎて、マーラーらしい和声の響きが薄くて、もう一つ。
聴き慣れると、最初の主題提示部の静謐で清楚な雰囲気は、そう悪くない気がする。

マーラー アダージェット(ピアノ編) 交響曲 第5番から (ピアノ:イリーナ・メジューエワ)




これはシノーポリ&フィルハーモニア管弦楽団(たぶん)の原曲版。
マーラーの流麗で濃密な音のタペストリーはオーケストラで聴くのが一番。

Adagietto from Symphony no.5 ( Mahler )



[追記]
カツァリスもピアノ編曲版をコンサートで弾いていた...と、コメント欄でchokujinさんに教えていただいので、探してみると彼のプライベートレーベル<Pisano21>のCD『Piano Rarities Vol.1/Transcriptions』に収録されている。
こちらの「アダージェット」の編曲者はKarol A.Penson。

Gustav Mahler:Adagietto (from Symphony no.5) - 試聴ファイル(曲目リストの6曲目)[Cyprien Katsaris homepage]


Piano Rarities Vol 1Piano Rarities Vol 1
(2009/10/13)
Cyprien Katsaris

試聴する(MP3ダウンロード)


カツァリスのホームページで試聴して最後まで聴きたくなるくらい良い感触だったので、amazonでMP3ファイルをダウンロード。
試聴したときの印象どおり、カツァリスのアダージェットは、柔らかい響きで包み込むような温もりがあって、とてもロマンティック。
ゆったりとしたテンポは悠然とした河の流れのようで、ときに低音の重層感のある響きがドラマティック。
ゆうゆうとした深みのある叙情感が、ピアノソロとはいえ、マーラーの「アダージェット」のもつ独特の雰囲気を醸し出している気がする。

tag : マーラー カツァリス

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耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (4) Acoustic CR® Neuromodulation (アップデート版)
[過去に公開した記事に、2012年3月13日に公開された臨床試験報告の論文概要を追加したものです]

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Acoustic CR® Neuromodulation (CR® = Coordinated Reset) の概要
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ANM Adaptive Neuromodulation GmbHが開発した療法。
同社は、2005年12月設立のドイツの医療技術企業で、Jülich Research Centre (Forschungszentrum Jülich)からのスピンオフ。

適用対象とする耳鳴症
①音型耳鳴(tonal)
   tonal:whistling, ringing or humming sound(複数音でも対応可)
  (※非tonal:hissing, fizzing, clanging)
 
 不適な耳鳴タイプ:拍動性, 他覚的耳鳴、somatosensory tinnitus(SST)

②慢性耳鳴(6ヶ月超)
③自覚的耳鳴
④耳鳴周波数:200Hz~10,000Hz
⑤メニエール病患者、補聴器装着者など除外条件あり。

耳鳴りが発生するメカニズム:耳鳴りは、聴覚皮質の神経細胞の同期的で過剰な活動
耳で知覚されたあらゆる刺激は、聴覚皮質へ送られ、処理される。
聴覚皮質の特定領域に集中している神経細胞が、ある周波数に"tuned"される。(ピアノの鍵盤の配列に似ている)
雑音、薬、ストレスなどは、耳から聴覚皮質への信号送信を妨害する。(例:神経細胞集合のなかには、信号を受信しなくなる)

ピアノの鍵盤に喩えると、鍵盤のいくつかが動かなくなり、ピアニストが打鍵できなくなる。
しかし、その神経細胞集合は刺激の欠如に対して、単に沈黙したまま無反応でいるわけではない。
全く逆に、神経細胞は自発的に"chatter"(おしゃべり)し始め(いわゆる、自発的活動)、同期的に互いに敏感になる。
そうなってしまうと、神経細胞は脳が聴いた音をシミュレートする。それが”耳鳴音”。
言ってみれば、ピアニストが打鍵せずとも、壊れた鍵盤が勝手に自分たちで継続的に音を出している状態。

過剰で高度に同期化した神経細胞ネットワークの形成は、病的に強化された神経結合を持っているため、耳鳴りは永続的に固定化される。脳が”phantom sound”を生成する方法を覚えてしまったということ。

Acoustic CR® neuromodulation 療法の原理
複雑な数学的アルゴリズムに基づいた穏やかな音響刺激が、神経細胞に対して、同期的病理的状態に戻る方法を"長期にわたって”unlearn”(記憶から消す、忘れる)するようにし、病的同期性を妨害する。
この療法は脳全体を刺激することはなく、音響刺激が患者個人の耳鳴周波数にチューニングされて、病的に同期化された聴覚皮質の神経細胞結合へ耳から送信される。

治療ステップ
目立たないスティミュレーターを装着。毎日4~6時間。聴覚閾値よりわずかに高くする。
徐々に、必要なときだけ装着するようにする。
多くのケースでは、耳鳴りのピッチが変化し静かになる。この時点でスティミュレーターの再調整が必要要。

ノイズジェネレーターの場合は、"counter-noise"(通常は帯域雑音など)を使って、患者の耳鳴りをカモフラージュする。
おそらく脳のある領域における神経細胞活動を部分的に抑制しているが、 効果は短期間で、装置の電源オフすると一緒に効果も消滅する。
一般的に言えば、ノイズジェレネーターは馴化させる他の療法と特に組み合わせて使用する。

ノイズジェネレーターと対照的に、”acoustic CR® neuromodulation”は神経細胞の活動を短期間抑制するなどの馴化を目的にしていない。
聴覚皮質内の病的に活動過剰で同期的な神経細胞集合が対象。例えば、関連する神経細胞をアクティブ状態のまま、非同期化し、抑制しないこと。
脳の可塑性的性質により、高度に同期化した病理的に拡張された神経ネットワークをブレークダウンし、 ”phantom sound”を”unlearn”するようになる。

患者に使われるCR® stimulation tonesが同一のものではあることはなく、患者個人の耳鳴り周波数に正確に調節される。
神経変調療法(neuromodulation)のため、特定の音のシークエンスが聴覚閾値よりわずかに高めに設定される。
”Neurostimulator”には、患者ごとに適した神経的刺激シークエンスがプログラムされている。小さなマッチ箱サイズの音響ジェネレーターと医療用イヤフォーン付き。


参考文献
External trial deep brain stimulation device for the application of desynchronizing stimulation techniques
C. Hauptmann, J-C. Roulet, J. J. Niederhauser, W. Döll, M. E. Kirlangic, B. Lysyansky, V. Krachkovskyi, M. A. Bhatti, U. B. Barnikol, L. Sasse, C. P. Bührle, E-J. Speckmann, M. Götz, V. Sturm, H-J. Freund, U. Schnell and P. A. Tass
JOURNAL OF NEURAL ENGINEERING (2009)

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臨床試験:The RESET study
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臨床試験概要[第1&第2フェーズ](ClinicalTrials.govサイト)
Clinical Investigation on the Acoustic Stimulation in the Treatment of Chronic Tinnitus
試験実施機関:ANM Adaptive Neuromodulation GmbH
試験場所:ドイツのInstitute for Neurosciences and Medicine,Research Center Jülich
被験者数:63名、18歳以上の男女
試験方法:
CR療法群 G1 : 療法刺激音を4~6時間/日、4音のシークエンス
CR療法群 G2 : 療法刺激音を4~6時間/日 12音のシークエンス
CR療法群 G3 : 療法刺激音を4~6時間/日、4音のシークエンス(EEG測定値で信号を制御)
CR療法群 G4 : 療法刺激音を1時間/日、4音のシークエンス
プラセボ群 G5 : プラセボ音による刺激

臨床試験結果概要(ANM Adaptive Neuromodulation GmbHサイト)
Randomized Evaluation of Sound Evoked treatment of Tinnitus

試験結果報告論文(全文)(IOS Pressサイト)
Counteracting tinnitus by acoustic coordinated reset neuromodulation
Restor Neurol Neurosci. 2012 Mar 13. [Epub ahead of print]
Tass PA, Adamchic I, Freund HJ, von Stackelberg T, Hauptmann C.
-プロスペクティブ・無作為化単盲検プラセボ対照試験試験
-被験者数:63名(慢性トーナル(tonal)耳鳴り、最大50dBの聴力損失)
-効果測定方法:visual analogue scale(VAS),tinnitus questionnaire (TQ) scores、spontaneous EEG.
-耳鳴りの音量・症状が有意に緩和。プラセボは有意な改善なし。CR療法は安全で充分受け入れられる。
-12週間の療法実施中に現れた治療効果は、あらかじめ計画していた4週間の療法中断中も持続。さらに、療法実施から10ヶ月後も長期的に効果が持続。
-反応(例):少なくとも、被験者の75%で 7 TQポイントの低下。反応があった被験者中、TQの低下は平均で50%。
-CR療法は、耳鳴り周波数を有意に低下させ、耳鳴りに関連したEEGの変化を反転させた。
-CRによって引起された耳鳴りと根底にある神経的特徴(neuronal characteristics)の緩和は、他の神経的過同期状態にも適用できるかもしれない新非侵襲的療法であることを示した。

臨床試験概要[第4フェーズ](実施中)(ClinicalTrials.govサイト)
Acoustic Coordinated Reset (CR®) Neuromodulation for the Treatment of Chronic Tonal Tinnitus ("RESET Real Life") (RRL)
公式研究名:Prospective Clinical Study for Confirmation of Efficacy and Safety of Acoustic CR®-Neuromodulation by CE Marked ANM T30 CR®-System in a "Real Life" Patient Population With Chronic Tonal Tinnitus
被験者:約200人,ドイツ国内約20数ヶ所の医療機関が拠点
目的:慢性耳鳴り患者の実生活において、"ANM T30 CR®-System"を使った"Acoustic CR®-Neuromodulation"療法を行い、有効性および安全性を確認する。
手法:プロスペクティブ、無作為化、非盲検、非対照
医療機器:ANM T30 CR®-System(CE認証機器)、1日4~6時間の音響刺激を1年間与える。
研究期間:2011年11月~2013年7月(予定)
試験実施機関:ANM Adaptive Neuromodulation GmbH
協力機関:Ceres GmbH evaluation & research

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研究の進捗状況
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2010年2月
 CEマーキング取得、TÜV認証取得および欧州登録
   [acoustic CR® neurostimulator](慢性耳鳴りの治療法として]
 臨床試験によるRESETデータを国際的な科学分野の会議で発表。
 現在、RESET studyが順調に完了。分析も終了。
 国際的学術雑誌に論文掲載のため、完全なデータを提出済み。

2011年11月 ドイツ国内で臨床試験(第4フェーズ)開始(実生活で12ヶ月間の治療,被験者約200人)
2011年第4Q 多施設無作為二重盲検試験、ランダム化比較試験による長期間の研究を開始予定。(英国内の患者約100名が被験者)
2012年3月  RESET studyの試験結果報告論文をRestorative neurology and neuroscience誌に発表

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備考
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専門的な内容のため、訳文は厳密な正確さを期したものではありません。正確な内容は、出典原文(ホームページ、論文など)で直接確認して下さい。

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更新履歴
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2011.11.20 「研究の進捗状況」を追加
2012.3.22  「臨床試験結果論文」(2012年3月公開)を追記
2012.4.23  「臨床試験情報(第4フェーズ)」追加、進捗状況修正

tag : 音響・音楽療法

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耳鳴り治療薬情報(2)アカンプロセート(Acamprosate)[アップデート版]
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Acamprosate(アカンプロセート)
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Acamprosate(アカンプロセート)は、日本新薬(株)が、2003年メルクサンテ社(仏)から導入したアルコール依存症治療剤。 (資料によっては、メルクセローノ社(スイス)から導入という記述もある)
欧州約30ヵ国で発売済み。米国では、フォレスト社が2005年1月から発売。商品名「Campral」。
日本国内では、第3フェーズの臨床試験段階。
アカンプロセートの特徴は、脳内グルタミン酸の機能調節に関与することにより、アルコール依存に伴う飲酒欲求を抑制し、断酒維持を補助。
(出典:日本新薬資料『研究開発品目の進捗状況 2010年11月12日』 スライドNo.28、他

[参考資料]アルコール依存症治療剤としてのアカンプロセートに関する評価情報:
『医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議』「医療上の必要性に係る基準」への該当性の評価(厚生労働省/医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議)

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耳鳴り治療薬としてのAcamprosate(アカンプロセート)の臨床試験動向(ブラジル、米国)
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アカンプロセートはグルタミン遮断薬(glutamate antagonists)であり、神経システムの活動性を抑制するギャバ(GABA)の活動を刺激することにより、耳鳴りを緩和する効果があるのではないかと考えられた。
耳鳴り治療薬としての効力を調べるため、アカンプロセートの臨床試験が行われたのは、最初がブラジル、次に米国。
現時点で確認できた臨床試験はこの2件のみ。

2003~2004年にブラジルのSão Camilo病院で実施された臨床研究では、 耳鳴り治療薬としての効果があるという試験報告が公開されている。
この臨床試験は、米国政府の治験データベースには未登録。

その後、2008年以降、米国オレゴン健康科学大学で行われた治験では、第1フェーズの段階で、耳鳴りの改善効果が全く認められなかった模様。
第1フェーズの治験計画概要以外に、治験に関する公式の研究報告は入手できなかった。

<治験概要>
  2008年1月 オレゴン健康科学大学で治験開始。
  第1フェーズ:2010年12月に完了予定。現在の進捗状況は不明。結果論文も未公表。
  第2フェーズ:着手済。詳しい情報がなく、治験データベースにも未登録。
  大学ホームページには、2008年2月28日付けの治験開始告知以降、治験に関する情報はない。

オレゴン健康科学大学の治験結果については、公式の研究報告論文が見当たらないが、インターネット上の複数の情報ソースで、治験ではアカンプロセートに耳鳴り改善効果はなかった、という記述がある。

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ブラジル São Camilo病院における臨床試験結果
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(1-1)研究報告論文(抄録)
Tinnitus treatment with acamprosate: double-blind study.
Braz J Otorhinolaryngol. 2005 Sep-Oct;71(5):618-23. Epub 2006 Mar 31.
Azevedo AA, Figueiredo RR.,, OTOSUL, Otorrinolaringologia Sul-Fluminense, Hospital São Camilo, Volta Redonda
- 感音性耳鳴患者50名(試験薬とプラセボ投与は各25名) 。プロスペクティブ二重盲検試験。
- 試験薬は333mgを1日3回投与。試験期間90日。
- 被験者の自覚的スコア(1~10)で耳鳴りの度合いを評価する。
- 結果:86.9%の被験者で耳鳴りが緩和、47.8%の被験者で50%以上の耳鳴り緩和。
- 副作用の発生は12%と低く、症状は軽度。

(1-2)研究報告論文(全文)
Tinnitus treatment with acamprosate: double-blind study[HTML]
Tinnitus treatment with acamprosate: double-blind study[PDF]

(1-3)研究報告書[スライド
Treatment of tinnitus with acamprosate

(2)関連論文(抄録)
Treatment of tinnitus with acamprosate.
Prog Brain Res. 2007;166:273-7.
Azevedo AA, Figueiredo RR.

(3)特許出願
METHOD FOR THE TREATMENT OF TINNITUS
Inventors: Andreia Aparecida De Azevedo (Rio De Janeiro, BR) Ricardo Rodrigues Figueiredo (Rio De Janeiro, BR)

(4)臨床試験に関するレビュー
Excitotoxicity & New Drugs for Tinnitus(Arches Natural Products, Inc.)
'Ringing in the Ear' May Respond to Alcoholism Drug (HealingWell.com)
-ブラジルの小規模臨床試験の欠点:
1)被験者が極めて少数。
2)アカンプロセートの副作用である眠気のため、薬を飲んでいたと被験者が認識していた可能性はある。耳鳴患者の多くは睡眠障害があるため、眠気自体が耳鳴改善に寄与していたのかもしれない。
3)試験期間が90日という短期間のため、長期的な副作用が顕在化せず、確認できない。
4)耳鳴り改善度評価の測定基準が明確に記述されていない。
-他のグルタミン酸遮断薬は、耳鳴りには上手く作用しない。

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米国オレゴン健康科学大学(Oregon Health & Science University; OHSU)の治験情報
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(1)治験概要(clinicaltrials.gov)
Clinical Trial of Acamprosate for Tinnitus
治験段階:第1フェーズ(第3フェーズまで実施する計画)
スケジュール:2008年1月に開始、2010年12月に主要研究が完了予定。
最終情報更新日2010年2月12日の進捗状況:研究進行中、被験者募集終了
現在の進捗状況:不明、関連文献(研究報告論文等)へのリンクなし。
試験方法:ランダム化二重盲検試験
被験者数:300名(試験薬・プラセボの2群に分割)
試験薬:666mgを1日3回投与。期間は4ヶ月。

(2)大学ホームページの治験情報
OHSU Researchers to Study Whether Alcoholism Drug is Effective Tinnitus Treatment(02/28/08)
治験開始に関するニュースリリース。
American Tinnitus Association(米国耳鳴協会)とTinnitus Research Consortiumが研究助成。

(3)ATA(米国耳鳴協会)機関誌での治験紹介
Clinical Trial of Acamprosate for Tinnitus (『Tinnitus Today』 August 2009)
PhaseⅠの被験者募集中、PhaseⅡも同様に着手済み。
PhaseⅠ:非盲検試験。アカンプロセートを6週間服用し、薬にポジティブな反応を示した被験者のみ、次のPhaseⅡの試験に継続して参加する。

(4)治験結果に関する情報
1)耳鳴関連サイトの情報(beyondtinnitus.com)
Acamprosate for Tinnitus Treatment
"when a better study was performed in the U.S., it was found that it is not more effective than a sugar pill in tinnitus treatment."
- 「米国の研究では、砂糖の錠剤以上の効果はないと判明した」という記述がある。
- これは、OHSUの治験結果を指していると考えられる。(具体的な情報ソースは不明)

2)治験被験者の報告(DailyStrength.org/online forum)
OHSU Acamprosate Clinical Trial
[reply #10 - 05/12/11 12:49am]
- 第1フェーズの治験参加者のコメントによれば、大学の治験が終了後、大学側が被験者に送付したレターに、"The results of the study tell us that there were no significant differences between the effects of the placebo and the study drug, Acamprosate." (治験結果では、プラセボと 試験薬アカンプロセートの効果に大きな差異はなかった)と記載されており、大学はTMSの臨床研究を新たに検討中とのこと。


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インドGovernment Medical College,Amritsarの臨床試験結果
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インドで行われたアカンプロセートのプラセボ二重盲検比較結果では、アカンプロセートが耳鳴り緩和に効力があったという論文が2012年に発表されている。

Role of acamprosate in sensorineural tinnitus..
Indian J Pharmacol. 2012 Jan;44(1):93-6.
Sharma DK, Kaur S, Singh J, Kaur I.(Department of ENT, Government Medical College, Amritsar, Punjab, India)

- 18歳以上の男女40名の被験者。感音性耳鳴り患者。プラセボ二重盲検・クロスオーバー試験。
- 試験薬・偽薬とも、333mgを1日3回投与。
- 試験期間:試験薬またはプラセボを当初45日間投与。1週間のウォッシュアウト期間後、薬を代えて、再び45日間投与。
- 評価方法:visual analogue score (VAS) or QOL questionnaire score
- 結果:92.5%の被験者で耳鳴りスコアが低下し統計的に有意な改善が見られた。プラセボの場合は12.5%の被験者で改善が見られた。
- 深刻な副作用の発生はなかった。
- 耳鳴り音量の低減幅は、0~5デシベル。

[留意点]
評価データのグラフを見ると、GroupⅠでは、当初45日間の実薬投与により耳鳴り緩和効果があった。
ウォッシュアウト期間経過後、今度はプラセボ投与を開始する時にも、実薬投与による緩和効果が持続していた。(持ち越し効果あり?) 
プラセボを投与しても、さらに顕著に緩和することも悪化することもなく、スコアにほとんど変化はなかった。

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利用上の注意
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記事中の内容は、インターネット上で収集した情報について、個人的な判断基準に基づいて記載する情報を選択し、要約・まとめを作成したものです。
正確な情報については、記載した情報の原文をお読みください。また、製薬会社・治験を実施した大学等の関係機関に直接確認してください。

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更新履歴
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2011.12.4 初稿作成
2012.3.18 インドの臨床試験結果を追記。


クライスラー=マインダース編曲 ~ ブニャーニの様式による前奏曲とアレグロ(ピアノ独奏版)
マーラーの交響曲のピアノ編曲版を探していてたまたま見つけたのが、フレドリック・マインダース(Frederic Meinders)のピアノ編曲作品集。
シューベルト、シューマン、ブラームス、マーラーの歌曲をピアノ独奏版に編曲したアルバムで、これが思わぬ掘り出しもの。
苦手のシューベルト、シューマンの歌曲も、ピアノ編曲版で聴くと、滑らかな旋律がとてもロマンティックな編曲。
元々好きなブラームスやマーラーも、ピアノソロで聴くと、いつもとは違った趣きと良さがある。
偶然にもこういう作品に出会えるので、編曲ものを聴くのは楽しい。

Plays Schubert, Schumann, Brahms, Mahler Frederic Meinders Plays Songs By Schubert, Shumann, Brahms, Mahler
(2008/11/24)
Frederic Meinders

試聴する


フレデリク・マインダースは、初めて名前をきいた作曲家。
1946年生まれのオランダ人で、ニキータ・マガロフのお弟子さん。
彼は、オリジナル・編曲ものの両方を書いていて、作品数は合計で700曲以上。
公式ホームページのBIOGRAPHYを読むと、実はコンポーザー=ピアニストとしては、結構有名な人らしい。
同じコンポーザー=ピアニストのアムランやスティーブン・ハフの賛辞も載っている。

Frederic Meinders
マインダースの公式ホームページ(英文)。バイオグラフィーとディスコグラフィー、作品リスト、MP3音源あり。

Sound clip(Mp3 Download)
マインダース編曲によるピアノ独奏版3曲のダウンロード音源。
クライスラーの《Schön Rosmarin》、《Praeludium und Allegro》、《Springwaters opus 14 nr 11》。

Frederic Meinders [Database of Transcriptions, Paraphrases for piano solo and my commentary]
クライスラーの《美しきロスマリン》の編曲について詳しい日本語解説がある。

                      

マインダーズの編曲ものでとりわけ素敵なのが、クライスラーの《ブニャーニの様式による前奏曲とアレグロ》のピアノソロバージョン。
この曲はヴァイオリン独奏曲のなかでも一番好きな曲なので、いつもヴァイオリン&ピアノの演奏で聴いている。
マインダースはこれをピアノ独奏版に編曲しているけれど、このバージョン(もマインダース自身の演奏も)はほとんど知られていないはず。
編曲者の自作自演にしてはソノリティがとても美しく、さすがコンポーザー=ピアニスト。
ヴァイオリンよりも柔らかいピアノの音色と和声が美しく響き、淀みなく流れる旋律も品が良く、瑞々しい叙情感がとってもロマンティック。
前奏曲のしっとりとした潤いのある音色も、弱音部分の憂いをたたえた静けさも美しく、左手和音のアルペジオの響きが華やかでちょっとドラマティック。
アレグロに入ると、ややノンレガートな軽やかなタッチの右手旋律は、レガートのように滑らかに流れていく。強打しすぎることないフォルテも落ち着きがあってほどよい感じ。
煌くようなロマンティシズムと品の良さは、どこかしらフィオレンティーノと似ているかも。

Kreisler=Meinders 《Praeludium und Allegro》[MP3ダウンロード]※クリックすると曲がすぐに再生されます。


Youtubeでこの音源を探していて、これまた偶然見つけたのは、あのカツァリスが弾いているワネーエフ(Vaneyev)編曲のピアノ独奏版。
マインダースの編曲とは全く違って、ド派手というか、伴奏部分が懲りに凝っていて、伴奏だけでも両手で弾いているような気がするくらい。
複数の旋律と和音が錯綜しているので込み入っていて、なんとも騒々しい編曲と演奏。
リサイタルなら弾き映えするだろうし、連弾か2台のピアノで弾いているように絢爛豪華で面白くはある。
録音で聴くとほんとに賑やか。原曲の格調高く引き締まった雰囲気とは随分違う。

Praeludium and Allegro in the Style of Pugnani (Kreisler arr. Vaneyev)



tag : クライスラー マインダース カツァリス

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フィオレンティーノ ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第13番 D664
フィオレンティーノのBOXセットを手に入れたので、2枚のCDに入っている苦手のシューベルトもとりあえず聴いてみることに。
最後のピアノ・ソナタ第21番D960は、誰の演奏で聴いても好きになれないので、やっぱりフィオレンティーノでも同じ。
他に録音しているのは、第13番D664、第14番D537、即興曲D899/No.90の4曲。
どこかで何度か聴いた気はする第14番ももう一つよくわからないので、やっぱり相性が悪い。
と思いつつ聴き始めた第13番。

第1楽章 Allegro moderato
冒頭を少し聴いただけで耳が惹きつけられてしまったくらいに、あまりに愛らしく平和に満ちた曲。
何よりもフィオレンティーノのピアノの音が、まろやかで柔らかで軽やか。暖かみと甘~い可憐さもあって、本当にこの曲想にぴったり。
きらきらと宝石が瞬くように煌きのある音色と演奏は、なんて品が良いのでしょう。

第2楽章 Andante
とても内省的なタッチの緩徐楽章。
ひとり物思いに耽っているかのように、しっとり落ち着いた音色で、ゆっったりとやや沈み込んでいくような感覚がする。
眠りにつく前のくつろいだひとときのように穏やか。

第3楽章 Allegro
線のしっかりしたタッチに変わって、かなり快活な雰囲気に。
といっても元気すぎることなく、どこかしら淑やか。
フォルテの和音&アルペジオが交錯する部分は、重なりあう響きが重厚。低音から上っていくような力強さは、次から次へと激しく打ち寄せる波のよう。
それでいて品の良さは変わることなく、どの楽章を聴いてもとても素敵なシューベルト。

ケンプ、リヒテル、アラウ、ルプー、ヘブラー、ソロコフのD664の録音を聴いてみると、フィオレンティーノのピアノの音の美しさとタッチの繊細さがとりわけ素晴らしく思えるくらい。(ソコロフも同じくらいに好きだけど)
フィオレンティーノの演奏に、タッチ・音色と雰囲気が一番近いのはルプーかな?

『Sergio Fiorentino Edition Vol.1 :The Berlin Recordings 1994-97』
Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1
(2012/01/10)
Fiorentino

試聴ファイル(分売盤にリンク)(allmusic.com)


tag : シューベルト フィオレンティーノ ソコロフ

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カッチェン ~ ブラームス/6つの小品 Op.118
年度末の慌しい合間に聴いたのは、ブラームスの後期ピアノ曲集のなかでも、とりわけ人気のあるOp.118。
なかでも人気のあるのが第2曲。安らぎに満ちた主題は一度聴くと忘れられないくらいに印象的。
落ち着いて音楽を聴く時間がない時でも、この聴き慣れた小品集を聴くとほっとくつろげてしまう。

Op.118は全6曲。それぞれ曲想がはっきり違っているので、晩年の作品とはいっても、いろんな情感が篭もったブラームスが聴ける。
ブラームスの小品集は他にも、いくつかあるけれど、このOp.118が一番気に入っている。それに、Op.119とOp.117の第1曲も。この3つの曲集(とヘンデルバリエーション)は、自分で練習して何曲か弾いていたほどに好き。

Op.118のCDは、好きなピアニストの録音を集めていくと、いつの間にか溜まってしまう。
覚えているのは、カッチェン、レーゼル、ルプー、ケンプ、バックハウス、グールド、アックス、グリモー。抜粋なら、キーシンとかもあったはず。
ブラームスを聴くときは、カッチェンかレーゼルのどちらか。それに昔は良く聴いていたルプー(最近の写真をみると、白くぼさぼさと伸びたおひげとおぐしがブラームスにとてもよく似ている)、たまにケンプ。
でも、昔も今もこれからも私のベスト盤はカッチェン。『ブラームス/ピアノ作品全集』は、30歳代半ばのカッチェンのピアニズムがきらきらと煌いて、録音を残しておいてくれてほんとに良かった。
多用するルバートでテンポは激しく伸縮しているけれど、嫌味も淀みもなくて流れが自然なところがカッチェンらしいところ。
太目の力強いタッチで、重量感のある低音が支えのようにがっちりと響き、陰翳と情熱と繊細さが交錯し、堅牢な構造の間からこぼれおちてくる情感には独特のコクがあって、何とも言えません。

Brahms - Julius Katchen - Klavierstücke op. 118



No.1. Intermezzo in A minor. Allegro non assai, ma molto appassionato
いくぶん華やかな雰囲気があるところは、まるでこの曲集のプロローグ。
カッチェン(に限らないけれど)はかなりテンポを伸縮させていて、リズムもとりにくく、クレッシェンドとデクレッシェンドの移り変わりも急激なので、まるで息を吸ったり吐いたりしているような曲。

No.2. Intermezzo in A major. Andante teneramente(1:54~)
ラームスらしい子守歌風の主題が愛らしいけれど、中間部は今まで抑えていた強い感情が噴出してとってもパッショネイト。
カッチェンは、ルバートを多様して、テンポが激しく伸縮しているけれど、それでも淀むことなく流れていく。
丸みのあるやや篭もったような音に、どこかしら懐かしさのようなものを感じてしまう。

No.3. Ballade in G minor. Allegro energico(7:59~)
とても情熱的なバラード。カッチェンらしい速いテンポで、線のしっかりした重みのある和音が力強くて切れも良く、一気に駆け抜けていくような勢い。中間部は長調に転調して、颯爽としてとても爽やか。

No.4. Intermezzo in F minor. Allegretto un poco agitato(11:40~)
悲愴感か不安感か、落ち着かない心で胸さわぎがするようなインテルメッツォ。
中間部はほんのひと時気分が静まるけれど、その後の再現部は冒頭よりもさらに激しい感情が渦巻いている。

No.5. Romance in F major. Andante(13:37~)
有名なNo.2と以上に穏やかで安らぎに満ちたような夢想的なロマンス。
昔はNo.2ばかり聴いていたけれど、なぜかNo.5が同じくらい良く思えてきたのは、年のせいか、好みの変化か?よくわからないけど。
過去の幸福なひとときをしみじみと追憶するように、安らかで愛情に満ちたような主題がとても美しく。
中間部も短調に転調することなく、夢のなかで蝶が舞い上がっているように軽やか。
再現部は、過ぎ去っていく時間に哀惜の念を強く感じてるように盛り上がっていき、ゆっくりとフェードアウト。


残響が濁ることなく重なりあって美しいレーゼルのRomanceもとっても素敵。
Brahms - Peter Rösel - Klavierstücke op. 118- No. 5 'Romance' in F major



No.6. Intermezzo in E flat minor. Andante, largo e mesto(17:49~)
幸せなRomanceが過ぎ去った後のような寂寥感に満ちた主題が陰鬱。
中間部はそれを振り切ろうとするかのように力強いパッションが溢れ出ている。
再現部は振り絞った気力も萎えてしまったかのような陰鬱さ。
最後に鳴るフォルテの和音は、逆らえない運命の響きか、それとも、逆らおうとする決然とした意志なのか、どちらなのだろう。
この侘びしげなIntermezzoに続けて、Op.119の第1曲を聴くと、しっとりと水のような潤いのある哀感がさらに美しく聴こえてくる気がする。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

tag : ブラームス カッチェン レーゼル

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耳鳴り治療薬情報(4)イチョウ葉エキス
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◆イチョウ葉エキスの臨床試験報告の概要
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イチョウ葉エキスは、ドイツなどで耳鳴り治療用に医薬品として処方されていることで有名。
治療効果について研究論文を探してみたところ、その効果についてポジティブ・ネガティブの両方の臨床試験結果が発表されている。

ネガティブな結果の臨床試験としては、英国で行われた大規模な臨床試験(2001年)があり、耳鳴り緩和効果はプラセボと大差なかったという結果だった。

最近、イチョウ葉エキス関連の文献を探してみると、ドイツの研究者による文献レビューが発表されていた。
このレビュー論文では、過去の臨床試験報告の方法論の妥当性を評価し、結果の信頼性についても言及している。
要点は以下の通り。
1)イチョウ葉エキス「EGb761®」(Dr. Willmar Schwabe GmbH&Co.KG)は、複数の臨床試験で耳鳴り治療用の効果が確認されている。
2)「EGb761」以外のイチョウ葉エキスを使った臨床試験では、その有効性が否定されているが、試験・統計手法に方法論上の欠陥があり、これが影響しているかもしれない。
3)イチョウ葉エキスの効力は製品によって異なり、成分・製法・製剤・服用量などに左右される。ある特定の製品の臨床試験結果を異なるイチョウ葉エキス製品全体に適用して一般化するのは非合理的である。

また、日本の国立健康・栄養研究所が「イチョウ葉エキスの有効性および安全性」という見解を公表している。要点は以下の通り。
1)欧米では医薬品とサプリメントという品質の異なるイチョウ葉エキスが使用されており、臨床試験でその効力が確認されているのは、医薬品グレードのもの。市場に存在するイチョウ葉エキス製品に医薬品と同等の効力があるとはいえない。
2)日本で使われている製品はイチョウ葉エキスの抽出方法が欧米と異なるため、抽出方法の異なる製品が同一品質であるかどうかは判断できない。


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◆英国の大規模臨床試験に関する報告
 Effectiveness of Ginkgo biloba in treating tinnitus: double blind, placebo controlled trial(BMJ,2001)
Author:Drew S, Davies E.(Pharmacology Department, Division of Neuroscience, University of Birmingham)
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この論文は、耳鳴り治療におけるイチョウ葉エキスの効力を調査するため、2001年に英国で実施された臨床試験の結果報告。

坪野吉孝氏(山形さくら町病院精神科・早稲田大学大学院客員教授)の旧ホームページ「Tsubono Report」で、「NEWS イチョウ葉エキス、耳鳴りに効果なし。」というタイトルの日本語解説が、2001年に掲載されている。
それによると、イチョウ葉エキスのサプリメントは、「ドイツでは医薬品として承認されており、同国で処方される薬剤の5位以内に名を連ねている」というくらいポピュラー。
英国バーミンガム大学の研究グループが、慢性耳鳴りをもつ18-70歳の英国人1,121人に、イチョウ葉エキスを12週間投与したところ、耳鳴りに対しても、脳血流の循環不全と関係するその他の症状に対しても、プラセボに勝る効果はなかったと結論している。
ただし、原文を読むと、使用したイチョウ葉エキスは「LI 1370」(Lichtwer Pharma)

臨床試験の概要:
- 二重盲検・プラセボ対照試験。メールと電話(問題解決や回答照会の場合のみ)により実施。
- 被験者数:慢性耳鳴り患者1121人。
- イチョウ葉エキス「LI 1370」を使用。
- 実薬・偽薬とも、50mg/回を1日3回(合計150mg)、12週間服用。
- 評価方法:質問表による主観的評価。被験者は試験開始前、開始後4週間、終了時(12週間)、終了後2週間後に、質問表を返送。(聴覚的検査は実施せず)

臨床試験に対する批判(von Boetticher"Ginkgo biloba extract in the treatment of tinnitus: a systematic review.")
- 医薬品臨床試験の実施基準(GCP:Good Clinical Practice)の最小レベルさえ満たしていない。
- 医師と被験者との個人的コンタクトを要求していないため、被験者の存在・身元も確認不能で、医学的検査も聴覚検査も行われていない。
- スクリーニングした1426人の被験者のうち、さらに除外・辞退(withdrawn)した305人の理由が不明。被験者を1組のペアにしてコード付与するルールが一環していない。


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◆過去の臨床試験報告に関する文献レビュー
 Ginkgo biloba extract in the treatment of tinnitus: a systematic review.
Neuropsychiatr Dis Treat. 2011;7:441-7. Epub 2011 Jul 28.
Author:von Boetticher A. Ear, Nose and Throat Surgery, Lueneburg, Germany.
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数種のイチョウ葉エキスを使用した無作為化プラセボ対照試験も、近年出版された複数の文献レビューも、それぞれ異なる結果を示している。
この論文は、以上の臨床試験やレビューについて、方法論の質的評価を行い、個々のイチョウ葉エキスに対する有効性のエビデンスの概略を提示することを目的とする。(以下は抜粋・要約)

(1)Pubmed検索による文献調査およびメーカーへの情報照会の結果、この論文のスクリーニング基準をクリアしたのは無作為化プラセボ対照試験8件。
いずれも全試験で規格品イチョウ葉エキス「EGb761」が使用されており、プラセボに対して統計的に有意な優越性を示していた。

(2)3件の無作為化プラセボ対照試験については、研究実施とレポーティングのいずれか、または両方の過程で、大きな欠陥があったため、レビューから除外した。
具体的には、イチョウ葉エキスの種類が不明、投薬量が過少、投薬期間が短かすぎる、被験者の面談による身元確認・医学的検査が実施されていない、統計データの取扱いに一貫性がない、被験者の合併症による主観的評価への影響、などの問題がある。

(3)イチョウ葉エキスの効力に関して近年公開された文献レビューでは、プラセボに優る効果がないと結論づけたものが数件ある。それらは、異種のイチョウ葉エキスを研究した論文を無批判に一まとめにして論じたり、研究方法の欠陥について言及していない。反対に、「EGb761」に関する研究結果のレビューでは、その有用性を認めているものがある。

(4)イチョウ葉エキスの効力は、成分(抽出プロセスで決まる)・有効成分の生物学的利用能(組成と生薬製剤で決まる)・服用量に依存する。同じ植物から異なる製造プロセスで製造されたイチョウ葉エキスは、生物学的同等性があると想定する(assume)ことはできない。
従って、異なる種類のイチョウ葉エキスを使った臨床試験結果をひとくくりにして、全体的な結論を導きだすのは非合理である。


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◆イチョウ葉エキス「EGb761」について
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「EGb761®」は、ドイツのDr Willmar Schwabe GmbH & Co KG Pharmaceuticals(Dr.W.シュュワーベ製薬)が製造するイチョウ葉エキス製品。(EGB:Extractum Ginkgo biloba)
海外で販売されている製品名は、「テボニン EGb761®(Tebonin EGb761®)」
「EGb 761®」はドイツを含む数カ国で認知症、耳鳴り・めまい・末梢動脈閉塞性疾患などの血管疾患治療薬として承認されている。複数段階の製造プロセスは特許取得ずみ。服用後の個々人の反応は予測できない。

"Review shows: EGb 761® optimizes standards of life for tinnitus patients!"
Dr.W.シュワーベ製薬サイトでも、上記のvon Boetticherの文献レビューが紹介されている。

Dr.W.シュワーベ製薬の日本法人、日本シュワーべ・グリーンウエーブ(株)は、2008年に国内販売権をアサヒアンドヘルスケア(株)へ譲渡。イチョウ葉エキスの名称を「シュワーベギンコ」に統一した。
「EGb761®」は「アセトン」でエキスを抽出しているが、「シュワーベギンコ」は、日本の食品衛生法の規定により、「エタノール(アルコール)」抽出している。


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◆イチョウ葉エキスの品質と使用上の注意について
 「イチョウ葉エキスの有効性および安全性」
  (独立行政法人国立健康・栄養研究所)

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耳鳴り治療に限定してはいないが、イチョウ葉エキス製品の品質・有効性の違いについて見解が公表されている。(以下は抜粋・要約)

-ヨーロッパで使用されているイチョウ葉エキスには、医薬品グレードと食品グレードがあり、品質面で異なる。
-ヒトの臨床試験を行っているのは医薬品グレードのもの。
-ドイツの植物由来の薬品を評価する委員会(通称Commission E)が承認しているイチョウ葉エキスは、製造法、フラボノイド・テルペノイド・ギンコール酸の量が規格に合致したもののみ。
-海外のイチョウ葉エキスの規格品基準で一般的なのは、「フラボノイド類を24%以上、テルペノイド6%以上を含有し、ギンコール酸の含有量が5ppm以下」。
-製造法は、欧米ではアセトン抽出、日本ではエタノール抽出(食品衛生法の関係でアセトンが利用できない)。アセトン抽出品とエタノール抽出品が同等かどうかの判断はできない。
-イチョウ葉エキスに関する有効性と安全性の研究は、医薬品グレードのイチョウ葉エキスを利用した研究結果であり、市場に存在するイチョウ葉エキス関連商品で同等の効果があるとは言えない。
-さらに、ある薬理作用があるということは、過剰に摂取すれば、別の望まない効果が発現することが予想できる。
-イチョウ葉エキスを適切に利用する上でのポイントは、1)規格基準があり、その製品の品質に問題がなく、安全性がある程度把握できるものを利用すること、2)効果をあまりにも期待して過剰に摂取しないこと、3)疾病があり、医薬品を用いた治療を行っている人は、医薬品を用いた治療を優先させ、また医師等の専門家の助言を受ける。

「健康食品」の素材情報データベース-イチョウ (国立健康・栄養研究所)
「イチョウ」の成分特性・品質、製剤の有効性・安全性に関する臨床試験結果概要、参考文献などが記載されている。

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◆参考情報
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イチョウ葉エキス情報
「Ginkgo Biloba leaf extract」(Herbal Medicine: Expanded Commission E Monographs)[American Botanical Council]
米国植物協議会(American Botanical Council:ABC)が出版しているドイツのコミッションEのメディカルハーブ情報。ABCのウェブサイトで閲覧できる。
イチョウ葉エキス情報は、コミッションEが1994年に出版し、新しい科学的研究に基づき修正されたものを、ABCが2000年に出版したデータ。
「コミッション E」は、ドイツで販売されるハーブの安全性と効能を審査するためにドイツ政府が設立した委員会。科学者、毒物学者、医師、薬剤師から構成。300種以上のハーブの使用法、副作用、薬物相互作用に関する情報を公開している。

イチョウ葉エキスについて(FAQ)[熊本県薬剤師会]
健康食品と医薬品の違い、成分、効能・効果、禁忌、相互作用、用法・用量等の情報。

日本国内のイチョウ葉エキスに関する規格基準
イチョウ葉エキス健康補助食品の規格基準((財)日本健康・栄養食品協会)
日本国内の規格基準。これを満たした食品には「JHFAマーク」がつけられている。

イチョウ葉に含まれるギンコール酸について
アレルギー物質であるギンコール酸がイチョウの葉と外種皮に多く含まれている。
ドイツのCommission Eによる医薬品規格では、イチョウ葉エキス中の含有量は5ppm以下。
イチョウ葉の有害成分ギンコール酸について [生薬、薬用植物(薬草)と身近な野生植物のページ]
参考:EGb761(イチョウ葉エキス)の薬理活性について [同]

イチョウ葉食品に関する製品テスト
イチョウ葉食品の安全性-アレルギー物質とその他の特有成分について考える-(サマリー、html)報告書全文(PDF)[2002年11月、国民生活センター]


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備 考
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日本語訳は厳密な精度を期したものではありません。
英文および日本語情報とも、個人的な視点によって抜粋・要約したものです。
正確な内容は、日本語および英語の原文をお読みください。
また、この記事は、本文中に記載している医薬品・サプリメントの摂取・購入を推奨するものではありません。


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更新履歴
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2012.2.5  初稿作成
2012.3.16 文献レビュー等の内容を追加し、全面的に加筆修正
2012.3.18 参考情報追加
2012.3.20 参考情報追加
インド人シェフのレシピ 「チャパティ」と「ナン」
"インド家庭料理ラニ"のオーナーシェフのブログ、「インド人シェフのブログ」は、インド料理のレシピや作り方の動画がいろいろ載っている。

インド料理と言えばカレー。いつもココナッツミルク入りのタイカレーを作っているので、一緒に食べるナンも手作り。
インドでもナンが日常食なのかと思っていたら、ナンは、レストランで食べるか、テイクアウトで買ってくるものなんだそう。
家庭で普段食べるのは、北インドではチャパティ、南インドではライスが多いという。
インドのパンはベーカリーショップで見かけないけど、他にもいろいろ。
菓子パンの類ではなく、カレーやスパイシーな料理に合いそうなシンプルなパンが多い。
 「インドのパン」

タイカレーと一緒に良く食べるナンは、いつもホームベーカリーで生地を作って、後は手で成型。
最後に、ガスコンロのグリルでささっと焼けば、出来上がり。
ラニで作っているナンのレシピを見ると、牛乳と卵を使っていて、かなりリッチな生地。
Cookpadとかで良く見かけるレシピには、牛乳と卵を使っていないものが多い。ヨーグルト入りはたまに見かける。
これがインドで標準的なもの..というわけではなくて、コックさんやレストランによって、いろいろ違うらしい。
  ナンの作り方

強力粉を使っているのに、ベーキングパウダーと重曹を入れて、発酵させている。
いつもは、ドライイースト使っているんだけど...。
イーストなしでも「発酵」というらしい。
それにしても、発酵時間が長い。イーストを使っていないので、時間がかかるのかも。

ナンの三角形の形は日本特有。インドでは普通の円形。
いつどこで、三角形に変形したんだろう?

タンドールはインドでも家庭にはないものなので、ナンを焼くのはオーブンで。
ガスグリルでも条件つきで、そこそこ上手く焼けるという。
実際、ガスグリルで焼いているけど、そんなに悪い出来ではない。
オーブンは予熱するのが面倒だし、時間がかかるので、ガスグリルなら、予熱2分後、数分で焼きあがる。
自分で食べる分には、ガスグリルでも充分。

フライパンやオーブントースターで焼く..という方法もあるけれど、それは焼き上がりが悪いそうなので、NG。
ポップアップトースターしか持っていないので、試したことはないけど、ガスグリルの方がトーストでも美味しく焼ける。
  トースターで焼いたナン

いつもはプレーンなナンしか作っていないけれど、「ガーリックナン」や「レーズンナン」というのもあるらしい。
「ガーリックナン」は、プレ-ンナンの生地の上にガーリックのみじん切りをのせて、タンドールで焼く。
「レーズンナン」は、ナンの生地にココナッツとレーズンを入れて、タンドールで焼いた甘いデザート。
ナンの生地を油で揚げると「バトゥラ」というパンになる。


こちらは、チャパティ。発酵なしで良いので、とっても簡単。
ただし、普通の小麦粉ではなくて、全粒粉を使う。
チャパティなら、油を引かずにフランパンで焼いて大丈夫。
  チャパティの作り方
  チャパティの作り方(動画)

シェリングとパールマン ~ クライスラー/プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ
ヴァイオリンの曲を聴くことは、ピアノに比べてはるかに少ないので、超有名曲以外はあまり知らない。
ヴァイオリンソナタや室内楽曲になると、ピアノが入っている曲は聴くことが多いので、独奏曲よりも知っている曲はずっと多くなる。

ヴァイオリンソロで一番好きな曲といえば、クライスラーの「プニャーニのスタイルによる前奏曲とアレグロ」。
力強く緊張感が張り詰めたような冒頭の旋律は、一度聴いたら忘れられないくらいに印象的。
これを聴くと、緩んでいた気分も一度に引き締まるような気がする。

これは、45歳頃のヘンリク・シェリングがチャールズ・ライナーのピアノ伴奏で弾いた1963年のステレオ録音。
線が細めで余計な枝葉はついていないけれど、背筋が真っ直ぐに伸びてきりりと端正なところが、格調高くて清々しい感じ。

Szeryng plays Pugnani-Kreisler




こちらはイツァーク・パールマンのヴァイオリン。ピアノはサミュエル・サンダース。
1972~1985年にリリースされた録音を集めたアンコール集が元の音源。
この年代の録音はパールマン全盛期にかかっているので、名盤が多い。
太く伸びやかで明るめの音色が艶やかで情感深く。

Itzhak Perlman-Pugnani Kreisler-Preludium and Allegro



tag : クライスラー シェリング パールマン

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フィオレンティーノとヴィアルド ~ フランク=バウアー編曲/プレリュード、フーガと変奏曲 ロ短調 Op.18
セザール・フランクのピアノ曲として有名なのは、《プレリュード、コラールとフーガ ロ短調》(Prelude, choral et fugue*)と《プレリュード、アリアと終曲》(Prelude, aria et final)の2曲。

フランク自身の作曲ではないけれど、ピアニストのハロルド・バウアー(最初は「天才ヴァイオリニスト」として知られていたらしい)が編曲した《プレリュード、フーガと変奏曲ロ短調》(Prelude, fugue et variations)Op.18という曲もある。
原曲は、『大オルガンのための6つの小品』の第3曲。
フランクはオルガニストとして、バッハの再来と言われたほど、即興演奏に優れていたという。当然、オルガン曲や教会音楽の作品が多い。
<Database of Transcriptions, Paraphrases for piano solo and my commentary>に、珍しくもバウアー編曲版の解説が載っている。


バウアーが編曲した《前奏曲、フーガと変奏曲》は、『セルジオ・フィオレンティーノ・エディション Vol.1:ベルリン・レコーディングス 1994-97』に収録されていて、初めて聴いた曲。
録音自体がそう多くはなく、Youtubeにもプロのピアニストの音源がほとんどない。

CDで聴いたフィオレンティーノの演奏は、かなりゆったりしたテンポ。
元々静寂・荘重で重苦しさが漂うところがある曲なので、「フーガ」と「変奏曲」部分は、第一印象はちょっと重たい感じ。
もう少し速いテンポの方が聴きやすい気がする。

Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1
(2012/01/10)
Fiorentino

試聴する(米amazon)[分売盤/apr]


Youtubeで見つけたのは、ロシア出身のウラディーミル・ヴィアルドの演奏。
名前も演奏も聴いたことがなかったピアニスト。
プロフィールを調べると、あのヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの1973年の優勝者。アメリカ・ノーステキサス大学音楽学部の教授でもある。
試しに聴いてみると、瑞々しいクリアな響きが綺麗で、しっとりした哀感と叙情感が流れていて、美しくも荘重でドラマティックな演奏。

2人の演奏を聴き比べてみると、いろいろ違いがあるのがよくわかる。
テンポはフィオレンティーノがかなりゆったり。フィオレンティーノのプレリュードは4分半、フーガと変奏曲は「前奏曲」は9分半くらい。
ディアルドは、フィオレンティーノよりもかなり速く、それぞれ3分半と7分くらい。
「フーガと変奏曲」のテンポが随分違うので曲の印象がかなり変わるのはもちろん、「プレリュード」はテンポの差はそれほど気にならないけれど、やっぱり印象が違う。
フィオレンティーノの「プレリュード」は、やや粘りのある抑えたタッチで、強弱のコントラストは緩めで弱音も少しこもり気味。叙情的というよりは、内省的。
「フーガと変奏曲」もテンポがゆったりしているので、ドラマティックな派手さはなくて、少し地味な感じ。淡々と思索にふけっているようなストイックなところがある。
ヴィアルドは、全編を通じて音がクリアで高音の響きが美しく、流麗なフレージングでとても叙情的。
強弱のコントラストが明瞭で、フォルテがかなり力強く、ドラマティックな印象。

聴きやすいのは、ヴィアルドの演奏。でも、聴き比べていると、初めはわからなかったフィオレンティーノの演奏の特徴とその良さがよくわかってきた。
フィオレンティーノは、地味ながらも落ち着きがあって、"渋み"のような味わいがある。



Cesar Frank, Prelude, Fugue and Variation in B minor, Op.18 (Vladimir Viardo)


これは、ディアルドの演奏を聴いたときの印象。

第1部:Prelude
どこかで聴いた気がするプレリュードの主題。感傷的なメロディなので、映画に使われていたのかもしれない。
この最初のフレーズがとても印象的。
最初は静かで鬱々として気分を感じるけれど、ときに長調に転調して明るさや力強さが差し込んでくる。
主題は感傷的ではあっても、線が細いセンチメンタルな曲ではなく、内面で静かに感情が葛藤しているようなドラマティックな曲。

第2部:Fugue (3:40~)
冒頭和音から力強く厳粛な雰囲気漂うフーガ。
やがて弱音部分に変わって、"Prelude"の雰囲気に似た叙情的な主題が現れる。
ときに入ってくる強奏部分は、右手の旋律の和音に加えて、低音の和音の響きが加わり、重厚で荘重。

第3部:Variations (7:15~)
フーガの終わりから経過節が序奏のように入り、やがて、左手のアルペジオ伴奏の上を、前奏曲の主題が流れ始める。
プレリュードよりも足速に流れ去っていくように流麗。
解説でも書いていたように、右手部分は主題とあまり変わらず(単音が和音になっている部分はあるようだけれど)、左手の伴奏がバリエーション的に変わっていく。
変奏の妙を聴くような曲ではないかもしれないけれど、溜め息がでるような美しい変奏曲。

                        

これは原曲のオルガン演奏。オルガン以外に、「ピアノ&ハーモニウム、または、ピアノ2台」でも演奏可能らしい。
演奏はOlena Yuryeva 。
ピアノ編曲版のディアルドと同じような速めのテンポ。
「プレリュード」はかなり淡々としてさっぱりした趣き。ピアノの響きの方が、叙情感・荘重感とも強くて、印象的。
「フーガ」はやはりオルガンらしい多彩な音色と重層的な響きで荘重華麗。これはピアノでは出せない雰囲気。
「変奏曲」はオルガンの音色の色彩感が面白い。左手の篭もったような響きはハーモニウム風?。どこか異世界の小宇宙にいるような感覚。

Cesar Franck, Prelude Fugue et Variation op.18 played by Olena Yuryeva


tag : フランク フィオレンティーノ

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耳鳴り治療薬情報(3)シクロベンザプリン
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シクロベンザプリン
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Department of Otolaryngoly and Head and Neck Surgery, University of Iowa(アイオワ大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学部)
 「Reduction of Tinnitus Severity by the Centrally Acting Muscle Relaxant Cyclobenzaprine: An Open-Label Pilot Study.」(Audiol Neurootol. 2012 Jan 31;17(3):179-188.)
情報元:耳鼻科医師のブログ「めまい診療」:<耳鳴り治療薬の論文>(2月17日付記事)

-オープン試験のパイロットスタディ。耳鳴り患者の中枢神経システムで筋弛緩を起した場合の影響を確認する。
-シクロベンザプリンを高容量(30mg)と低容量(10mg)、オルフェナドリン(100m)、チザニジン(24mg)、エペリゾン(50mg)を1グループにつき最大20人の患者に、12週間にわたって投与。
-高容量のシクロベンザプリンでは、intention-to-treat(ITT)に従って選択した被験者において、起点日~12週後の間でTHIスコアが大きく低減した。他の治療法では効果はなかった。

「シクロベンザプリン」は、日本では未承認の中枢性筋弛緩薬。米国では線維筋痛症や顎関節症に処方される。(出典:Pain Reliefー痛みと鎮痛の基礎知識
メルクマニュアル家庭版の「高齢者の服薬上の注意」の章で、「高齢者でリスクが高くなる主な薬」に上げられており、その他の筋弛緩薬とともに、「ほとんどの筋弛緩薬・抗けいれん薬は抗コリン作用があるため、眠気や脱力の原因となる。また高齢者に耐えられる程度の低用量では効果があるかどうか疑わしい」と記されている。
この情報以外にも、高齢者への使用について注意を喚起している薬情報サイトが多数ある。

論文抄録を読むと、この耳鳴り治療薬としての臨床試験はオープン試験によるパイロットスタディなので、プラセボ対照比較試験は行っていない。評価方法はTinnitus Handicap Inventory(THI)、Clinical Global Impression scoresによる。
結論は、「プラセボ対照二重盲検比較試験により薬の有効性が検証されなければならないが、オープン試験は耳鳴り治療用として有望な新薬を提示した」。

※全文を入手していないので、被験者の年齢や副作用に関する情報は未確認。

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備 考
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日本語訳は厳密な精度を期したものではありません。
正確な内容は英文原文をお読みください。
また、薬剤の適応・用法・副作用等の詳細については、専門家にご確認ください。

William Shatner Talks About His Tinnitus (ウィリアム・シャトナー、耳鳴りを語る)
ウィリアム・シャトナー(William Shatner)といえば、米国で人気のSFドラマ『Star Trek』シリーズの初代エンタープライズ号艦長キャプテン・ジェイムズ・カーク(Captain James Kirk)役で、米国では知らない人はいないほどの有名人。
(日本では、数十年前に関西TVで『宇宙大作戦』という番組名で深夜に放映されていて、いつも見ていた)

そのシャトナーが、長年耳鳴りを患っているのはよく知られている。
発症してから数年の間に徐々に耳鳴りが悪化したシャトナーは、最後にはジャストレボフ(Dr.Pawel Jastreboff)博士の元をおとずれて、TRT療法による耳鳴り治療を行い、今では生活や仕事に耳鳴りが影響することがないほどに改善した。
彼は、米国耳鳴協会(America Tinnitus Association:ATA)の支援者でもあり、現在、名誉理事(Honorary Director)となっている。
また、議会の公聴会での証言、ビデオを製作して広報・啓発活動、TV・ラジオ番組で自身の耳鳴り体験を語るなど、耳鳴りという症状や患者の心理・治療の現状に関する広報活動、さらには、研究資金の寄付や拡充を訴える活動に積極的に関わっている。

シャトナーが今月10日にブロードウェイで開催する90分のワンマンショー"Shatner's World: We Just Live in It."のプロモートのために、National Public Radio(NPR)の番組に出演してインタビューに答えている。
その中で、彼自身の耳鳴り経験について、2分間ほど語っている。

インタビュー番組の録音。"Tinnitus"(耳鳴り)の話は、3:54~5:45。
It's 'Shatner's World' And He Wants You To See It


 全文のトランスクリプト

以下は、トランスクリプトに載っている耳鳴り話の部分訳。

SIMON: 耳鳴りを持っていることを一般にオープンに語っておられると私は思うのですが。

SHATNER: その通り。私は耳鳴りもちだ。耳鳴が聞こえ出したのは15年前。そいつは私を狂わせた。もう正気を失うのではないかと思ったよ。

SIMON: それがどのような音なのか、どんな気持ちがするのか、私たちにも理解できるように話していただけますか?

SHATNER: 放送局に合わせずにテレビをつけてごらん。耳鳴もちは多いがその音は違っている。一番よく聞こえる音は、私もそうだが、ヒスノイズとスタティックノイズ(hiss static)。

SIMON: Mm-hmm.

SHATNER: 耳鳴りはそういう音なんだ。ドクターのところへ行っている間、ドクターたちは耳鳴り音の性質を突き止めようとした。あらゆる種類のヒスノイズなどを再生する装置をひねくり回して調整し、やっと私の耳鳴りを見つけたんだ。同じ音色とトーンになったときは涙が出てきたよ。誰かが木を切り払いながらこの音のジャングルを突破して、私がたった独りで苦しんでいた場所へとたどり着いたんだ。それに感動して泣けてしまった。

SIMON: お話しいただいて、どうもありがとう。

SHATNER: もし、誰かの助けになるなら...、耳鳴りをもっている人は多いし、戦場からの帰還兵も耳鳴りもちが多い。
耳鳴りはいろんな事が引き金になる。加齢もその一つ。それに、薬、多くは外傷性の音だ。サウンドエンジニアの多くも耳鳴りがする。
内耳にある繊毛のいくつかが死んでしまうと、生まれた時に持っていたこの沈黙の掟(code of silence)が破られてしまう。耳鳴りは脳の活動なんだ。

もしこれを聞いている人がいるなら、こう言うことが何か助けになるかもしれない。絶望してはいけない。本当に、ついには耳鳴りは聞こえなくなる。耳鳴りが消え去っていくことはない、でも、聞こえなくなるだろう。
"If one person is listening to this can be helped by [me] saying, don't despair. I promise you, eventually you won't hear it; it won't go away, but you won't hear it."


シャトナーの耳鳴り経験に関する記事はウェブ上にも多数ある。

 June 25: Easing the torment of tinnitus, The Seattle Times[Nose & Throat Associates. June 2007 News ArchivesEar]
 Sound of Silence By William Shatner:When All Else Was Still, the Noise in His Head Drove This Star to Despair(people.com,May 19, 1997) (この記事は、シャトナー自身の話が掲載されていて、かなり詳しい)

記事によると、60歳前半の頃に耳鳴りを発症したシャトナーは、原因ははっきりとはわからないが、レナード・ニモイも耳鳴が聴こえることから、2人が出演していた『Star Trek』映画撮影中に大きな爆発音があったことを思い出した。シャトナーは左耳、ニモイは右耳で耳鳴りが聴こえる。

シャトナーが怖れたのは、耳鳴りの音自体に対して、そして、それが悪化して、眠くことも集中することも再びできなくなるのではないかということだった。
「これから逃げ去らないといけない。」とすぐに直観した彼は、仕事に集中して耳鳴りから注意を逸らすように努力し、薬物・マスカー療法も行ったが、5~6年の間に悪化していった。
特に、耳鳴りを悪化させたと思われる酷く誤った行動は、TV番組で耳栓を差し出されたのに、それを断って爆発音にさらされたこと。その後、大きな音や加齢が耳鳴りの主要因のなかに含まれているのを知ったのだった。
レナード・ニモイも義理の息子も耳鳴りがあったが、シャトナーほど酷くはなく、すっかり慣れていた。
シャトナーは耳鳴りについては話さなかった。同じ病のコミュニティを見つけて話し合うことはできるが、耳鳴りについて話せば話すほど、ますます耳鳴りについて聞くことになる。

薬草療法、点耳薬を試したり、マスカー装置を買ったり、日本の音楽や水音などのレコード・テープを聴いたりした。
自宅には小さな滝があったので、その水音はとても安らぎになった。
夜が最悪の時で、寝付かれずに一晩中テレビをつけていることもあった。
耳鳴りが私生活にも影響し、かれにとっては必要なノイズが、他人にとっては神経に触るものになる。夫人とは別居し、その後、離婚裁判になる。
マスキング音がなければ眠ることができず、悪化する耳鳴りに絶望的な気持ちになった。

1996年に、義理の息子のすすめでメリーランド大学のジャストレボフ博士をたずねてTRT療法を開始。
バックグラウンドで雨音や車の行き交う音が聞こえるが、それを聴くことはないというのに似ていて、安らげるものがある。
3ヶ月くらいで耳鳴りが和らいでノイズ・ジェネレーターを外そうとしたが、「1~2年は続ける必要がある」という博士の言葉どおり、さらにジェネレーターを使い続けた。(7ヶ月間は、1日24時間装着していた)
シャトナーは、徐々に耳鳴りにも慣れてゆき、それにつれて不安感も去り、私生活も仕事も耳鳴りに影響されることは無くなった。
やがて、米国耳鳴協会、メリーランド大学とジャストレボフ博士のための研究資金調達を手助けすることを申し出た。
米国中の耳鳴りをもっている有名人たちに電話をかけて、研究資金の提供を頼んだと言う。

                    

シャトナーが耳鳴り経験とATAの活動を語る(American Tinnitus Association 広報用ビデオ)

William Shatner speaks about his tinnitus


最初はシャトナー自身の耳鳴り経験の話が少し。その後はATAの活動内容の概要と、ATAへの参加・寄付の呼びかけ。


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備考
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日本語訳文については、厳密に正確な翻訳ではありません。
正確な内容については、英文原文をお読みください。

tag : 音響・音楽療法

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バッハ=フィオレンティーノ編曲/無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 BWV1001(ピアノ独奏版)
バッハの《無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番ト短調,BWV1001》の珍しいピアノ独奏版。
この曲の編曲はいくつかあり、ゴドフスキーの編曲版が一番有名。(と言っても、聴いたことがある人は少ないはず)
ブラームスも<J.S.バッハによるプレスト ト短調>という編曲版を書いている。
これはBWV1001のフィナーレを編曲したもので、《ピアノのための5つの練習曲Anh.Ia-1》に収録されている。
フィオレンティーノの編曲も有名とは言い難く、本人の自作自演の編曲版録音くらいでしか聴けないであろう極めてレアな曲と音源。


これはフィオレンティーノの自作自演。
この曲の雰囲気にぴったりなしっとりとした潤いと瑞々しい叙情感を帯びた音色がとても綺麗。
フーガの疾走感と躍動感も爽快。

Bach - Violin sonata no. 1 in G minor BWV 1001, piano transcription (Sergio Fiorentino) [1/2]



ゴドフスキーのピアノ編曲版は、シチェルバコフの録音がある。
フィオレンティーノの編曲版よりも、音がごちゃごちゃしていて、ロマン派の曲を聴いている気分がする。(試聴ファイル:Godowsky: Piano Music, Vol. 2
フィオレンティーノの編曲版は、シンプルな旋律と和声で、バッハのクラヴィーア曲のような趣きがあって、ゴドフスキーの編曲よりもずっと自然に聴こえてくる。


原曲の無伴奏ヴァイオリンソナタの演奏は、スークの音源がなかったので、イツァーク・パールマンで。
若かりし頃に録音したパールマンの無伴奏は深く伸びやかで線のしっかりした豊麗な響きが美しい。

Itzhak Perlman Bach Violin Sonata No.1 BWV 1001



原曲を聴くと、"adagio"はヴァイオリンが奏でる音色と凛とした緊張感がこの曲の深みと気高さを伝えて、やはり原曲のヴァイオリンソロは素晴らしい。
原曲と比べる、ピアノ編曲版は叙情性の方が強く出ていて、これはこれでとても美しい曲。
全体的に高音側の主旋律が明瞭で、研ぎ澄まされた響きと憂いをおびてしっとりとした叙情感が瑞々しくて綺麗。

"Fuga"は、ピアノ編曲版の方が声部が増えて音色も多彩。
フィオレンティーノの編曲は、ゴドフスキーのように和音が過密でないので、旋律線と和声がすっきりしている。
かなり速いテンポなので、パールマンの演奏よりもずっと疾走感が強い。それでいて、旋律線と声部の多彩なからみも和声も、両方ともクリアに聴こえる。
まるでバッハが書いた曲を聴いているような錯覚をするくらい、このフーガはとても素敵。フーガの面白さがよくわかる気がする。

"Siciliana"は、ピアノの柔らかい音と、低音と高音の響きが交じり合って、のどかな雰囲気。
最後の"Presto"は、第2曲のFuga同様、速いテンポで旋律線が明瞭。フーガらしい声部のからみ合いがよくわかる。


フィオレンティーノ編曲版については、田中博幸さんのホームページ<Bach With Piano>で紹介されてます。
「(ゴドフスキー編曲版よりも)少ない音で原曲に近い雰囲気を伝えてくれます。まるでバッハオリジナルのクラヴィーア曲であるかのように。 原曲のヴァイオリンの音の他に、必要最小限の効果的な音を追加しています。」という。

<Bach With Piano>は、バッハのピアノ編曲に関する日本語サイトとして、全く素晴らしいホームページ。
特に「バッハの音楽の編曲曲目データベース」は、バッハ編曲版の網羅的(だと思う)リストが載っている大変な労作。
思わぬ作曲家やピアニストが編曲していたりして、いろんな発見があります。

                       

これはフィオレンティーノの録音セッションの映像。1996年10月19日のベルリンにて。
音質は悪いけれど、CDと同じ演奏。2回弾いていたというので、どちらかはわからないけど。

録音の時に楽譜を見るピアニストは多く、このセッションでは譜メクリスト(譜めくりする人。もしかしてルンペさん?)がいる。
録画したのは、フィオレンティーノの録音コレクターで、ドイツ国内での演奏活動をいろんな形で支援していたドイツ人エルンスト・ルンペ氏。





このフィオレンティーノの録音セッションが収録されているBOXセット。
元々はapr盤で分売されていたシリーズをPiano Classicsがセットにしたもの。
その録音風景について、BOXセットのブックレットにルンペ氏の回想が載っている。
Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1
(2012/01/10)
Fiorentino

試聴する(米amazon)[分売盤/apr]


原盤は分売盤としてリリースされているので、BOXセットの曲は、1994~97年にかけて毎年1回、1日のセッションを2日続けて、レコーディング。
ルンペ氏の休日にあたる秋(10月頃)の土・日曜日の2日間に、ベルリンのSiemenvillaで録音。金曜日にベルリン入り、土曜日の朝9時から録音開始。

録音エンジニアのSiegfried Schubert-Weber氏(ヴァーグナーとシューベルトとウェーバーをつなぎ合わせた芸名みたいな?名前。実在のピアニストです)が録音機材をセッティングしている間、フィオレンティーノはホールの会場でお気に入りのイタリアブランドの煙草「STOP」を吸っていた。
セッティングが終わると、フィオレンティーノは、スケール、三度、六度、それに、これから録音する曲とは関係のないいろんなタイプの曲を弾いてウォーミングアップ。
レコーディングは中断なしに、1曲を2回ずつ弾き、めったにPatch(修正用の部分的な録音のこと?)は録音しなかった。
おかげで、合計10枚分のCDを録音するのに、概ね9時間のセッションが4つ、各セッションは2日間と、とても経済的な録音だった。

1998年も、10月に5回目のセッション録音を行う予定にしていた。
曲目は、フィオレンティーノの大好きなブラームス作品。《4つのバラード Op.10》、ピアノ曲集Op.116,117,118。
さらに、ドビュッシーの《映像》、《前奏曲》から数曲。(ドビュッシー作品集としてCD1枚分)
その年の初夏にルンペ氏がレコーディングに向けて準備をしていたところ、8月23日の日曜日にイタリアから電話がかかってきた。
フィオレンティーノが脳卒中で前日亡くなったという。彼がとても心待ちにしていた録音セッションは実現しなかった...。
フィオレンティーノのブラームスとドビュッシーが聴けなかったのは、本当に残念。どちらも好きな作曲家なのに。

tag : バッハ フィオレンティーノ

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チャールズ・ローゼン著 『ピアノ・ノート』 (2)
チャールズ・ローゼン著 『ピアノ・ノート』 (1) の続き]

(以下は、印象に残った部分の抜粋です。また、文中で言及されていた曲やピアニストの録音に関する参考音源をあげておきました。)



第7章 演奏スタイルと音楽様式
超絶技巧の理想は実際よりむずかしく聞こえることである。(実際の演奏よりむずかしく聞こえない作品を書いたのはおそらくブラームスだけだろう。連弾曲として書かれた『ハンガリー舞曲集』の独奏用アレンジがその典型だが、ピアニストとしては努力した分報われたいと考えるから、リサイタルではこの曲をまず演奏しない。


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参考音源
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これはピアノ独奏版《ハンガリー舞曲》第4番&第7番のジュリアス・カッチェンの演奏映像。放送用録音らしい。
実際、ピアノ独奏版はリサイタルで演奏されないだけでなく、録音も僅かで、映像資料が残っているのはさらに珍しい。
今まで聴いたなかでは、カッチェンとキーシンがテンポも速く技術的にも安定している。
カッチェンの《ハンガリー舞曲》はブラームスらしい陰翳とパッションがあって、独特のコクのある演奏はいつ聴いても楽しい。
連弾版は全部で20曲あるけれど、ブラームスがピアノ編曲版を書いたのは第1~第10番のみ。
カッチェンの《ブラームス:ピアノ作品全集》には、その10曲が録音されている。(過去記事:カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (5)ハンガリー舞曲集

Hungarian Dances Nos. 7 & 4 (Julius Katchen)


ピアノ独奏版の楽譜を見ると、一見、音はそれほど込み入ってなさそうに見える。
でも、左手の跳躍幅がかなり広いし、重音や和音で低音域から中音域へ跳躍することも多い。さらに、右手はほとんど重音なので、両手とも速いテンポで、音を歯切れ良くバタつかずに、しかも音楽的に弾くとなると、かなり至難の技。
ローゼンの言う通り、「実際の演奏よりむずかしく聞こえない曲」というのも納得。
Hungarian Dances (Piano Solo) [楽譜ダウンロード;IMSLP]

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現在、ピアノによるバッハの演奏習慣は混乱している。
50年前には現代楽器でバッハを弾く標準的な奏法があったが、その長所や欠点は別として、これはもはや通用しない。そもそもバッハをピアノで弾くこと自体が誤りとされたため、おそらくこのころから問題が起きたのだろう。

1940年代、50年代には、ハープシコード信仰のプロパガンダにめげずにピアノによるバッハ演奏を守り通した学究派が、抑制の効いた醒めた演奏アプローチこそ正しいと考えた。このアプローチは音楽学校で教えられるようによって、市民権を得た。フーガの演奏では、テーマが現れるときは他の声部を従属的なダイナミック・レベルに抑えることが重要だとつねに考えられてきたが、こういう弾き方だと、フーガは絶えずメゾフォルテで登場するテーマの連続として聞こえる。だが、これはバッハのフーガの正しい奏法とは言えない。バッハのフーガの興味の中心はメインテーマではなく、テーマが他の声部の興味深いモチーフといかに絡み合うかだからである。

1950年代にパリで聴いたイギリス人ピアニスト、ソロモンのフーガは、ほとんど啓示に近かった。第2巻のハ短調フーガは、ソロモンの弾き方はどの声部からも何物も浮き立たせてこないが、にもかかわらず、各声部の音すべてが聞こえてくるのだった。音質は当時バッハ演奏にふさわしいとされていた、シンプルな統一されたカンタービレで、テンポは穏やか、動きは内省的で、響きのバランスが素晴らしく、奏法が正しかろうとまちがっていようと、その演奏は深く心を動かすものだった。

バッハを現代楽器で演奏することに関して、混乱した考え方が端的に現れたのが、ラルフ・カークパトリック編纂の優れた楽譜『ゴルトベルク変奏曲』への序文だった。このなかでカークパトリックは断固とした調子で、ペダルは響きの特殊効果のためにのみ、使うべきで、レガート効果を得るために使ってはならない、レガートは指使いでのみで達成すべきだと述べている。ここでカークパトリックは明らかに、レガートを弾くためのペダルはごまかしだと感じている。だが奇妙なことに、彼は音色効果のためのペダルに疑問を抱いていないようだ-この効果は作曲者のバッハには思いもよらないもので、奏法としては時代錯誤なのに。カークパトリックはまた、ピアノとハープシコードの指使いが当然違うことに思い至っていない。ピアノでは指使いが音色に影響するが、ハープシコードではどんな指使いをしようが音色は単一だ。・・・・・カークパトリックのこの理屈に合わない指摘は、鍵盤奏者が鍵盤を押す、という純粋に身体的・筋肉的経験に支配されていて、それが音楽の見方や解釈にどう影響するかを端的に物語っている。

現代のピアノによるバッハ演奏に普遍的に通用する標準奏法がなく、本物の響きも、学究的な醒めたカンタービレも忠実さや説得力を欠く今日、バッハ演奏は感性のずば抜けたピアニストにのみ可能な、きわめて特異な成功例から、電話機の保留音のようなコンピューター音楽もどきの、全曲通してドライブ感のない欲求不満のものまで、多岐にわたる。

20世紀初頭のモダニズムの巨匠たちはピアノ技法の変革という点ではほとんど貢献していない。ピアノ音楽は彼らの最高傑作にとっての媒体ではなかったが、ストラヴィンスキーは作曲にピアノを使い、シェーンベルクとベルクは新しいスタイルの実験にピアノを使った。シェーンベルクのピアノ曲の手法は、自分でもそう言っているように、本質的にブラームスから発したものだが、作品にはドビュッシーの影響がありありとしている。ベルクのピアノ音楽は19世紀後半のスタイルから派生している。この二人の作品がしばしば誤った演奏によって損なわれるのは、前衛音楽なのだから一点の曇りもない演奏によって、細部にいたるまで全て聞きとれねばならないという偏見のせいである。

ベルクの方が和声の一貫性がある。シェーンベルクは和声構築よりも、表情豊かなモチーフに優れていた。

1920年代、30年代の若い作曲家たちは、1830年代から1850年代に発展したピアノ奏法になんら改変を加えなかったが、例外としてセルゲイ・プロコフィエフがいる。彼はロシア人作曲家のつねとしてフランスの伝統に影響されたが、ピアノの乾いたパーカッシブな響きを、かつて誰も試みたことのない方法で用いた。

今日の職業ピアニストの多くが(そしてむろんアマチュア・ピアニストの大多数が)こういう音楽(前衛モダニズム)と折り合えずにいる。たとえばクラウディオ・アラウはこの世代でもモダニズムの重要作品を弾くことのできる、おそらく唯一の重要ピアニストだろう。


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参考音源
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アラウの珍しいシェーンベルク録音。曲目は《3つのピアノ曲Op.11》
1959年3月ロンドンにて、ラジオ放送用に録音したもの。
吉田秀和氏の著書『世界のピアニスト』(新潮文庫版)によれば、60歳過ぎに来日したアラウは記者会見で、シュトックハウゼンの選択自由(チャンス・オペレーション)の手法をとりいれた『20のグループ』も彼の好む曲だと話していたという。

Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-2

第2曲を聴いていると、ときどき、シェーンベルクの弟子だったアルバン・ベルクの《ピアノ・ソナタ》を連想するような旋律が出てくる。
アラウが弾くシェーンベルクには、濃密な叙情感を感じさせるものがあって、ドビュッシー録音と同じように、作品に内在する感情的な何かを浮き彫りにしようとしているように思えてくる。
当時56歳くらいのアラウが、1959年にこういうシェーンベルクを弾いていたというのはちょっと驚き。ローゼンの言葉にまた納得。

Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-1 [Youtube]
Claudio Arrau plays Schoenberg 3 Piano Pieces op.11-3 [Youtube]

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多くの音楽家が20世紀の難解な音楽スタイルから遠ざかろうとしている。だがこういう音楽家はすばらしい喜びを取り逃がしている。全ての芸術分野に言えることだが、困難を克服して得られたものは、簡単なものをこなして得る平板な経験よりもはるかに意味がある。

ベートーヴェンになってピアノ音楽の音色は大幅に拡大したが、対比効果のために、あるいは単にその本来的おもしろさのために、彼がときおりモーツァルト的な質感や音響技法を使いつづけたことは忘れがちである。ベートーヴェンはモーツァルトよりもレガートを多用したが、スタッカート気味で昔風のノン・レガートなタッチをもちいることもよくあった。

モーツァルトのピアノ音楽で、ピアニッシモがフォルティッシモと隣接するのはただ1箇所しかないが、ベートーヴェンはその初期作品からすでにこういう強い対比がしばしば登場する。ベートーヴェンのテンポ記号はハイドンやモーツァルトと非常に似通っているが、もっとニュアンスに富み、テンポについてももっと柔軟な解釈を要求している。
また、「エスプレッシーヴォ(表情豊かに)」と指定されたパッセージが頻出するが、明らかに、自由なテンポ解釈でという意味だった。
ベートーヴェンのスタイルは幅が広く、モーツァルトほどの優雅さに欠けることもあるが、テンポにそれほど厳格でない場合が多いばかりか、手の位置もずっと多様で、新しい音色を出すために必要な、異なるタッチを弾き分けることを可能にしている。

(終)

tag : シェーンベルク ブラームス カッチェン アラウ 伝記・評論

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チャールズ・ローゼン著 『ピアノ・ノート』 (1)
ピアニスト内藤晃さんのブログで、最近出版されたチャールズ・ローゼンの著書『ベートーヴェンを"読む"-32のピアノソナタ』が紹介されていた。内藤さんが監修者として、訳出に協力されている。
大久保賢さんのブログ<Le plaisir de la musique 音楽の歓び>でも、ローゼン『ベートーヴェンを”読む”――32のピアノソナタ』 という記事で紹介されている。(著者のローゼンは2012年12月9日に亡くなった)

チャールズ・ローゼンは、米国のピアニストで音楽学者・評論家でもあり、著書『ピアノ・ノート 演奏家と聴き手のために』は、ベスト・セラーになっている。
ということで、2冊とも読んでみた。

『ベートーヴェンを読む-32のピアノソナタ』は極めて専門的な作品解説・譜面の読解・演奏解釈の話なので、素人で趣味程度に弾く私には、"猫に小判"のような本。
パウル・バドゥーラ=スコダの著書『ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈』とは違って、ベートーヴェンの演奏法全般(時代背景をもとに、ソナタ形式、フレージング、テンポ、ペダルやトリルの使用法など)の話と、32のピアノ・ソナタについて、作品解説・演奏解釈の両方が書かれている。ピアノ・ソナタの解説は、当然のことながら作品の重要度によって内容の濃淡がある。
300頁とかなりのボリューム。ベートーヴェン演奏に取り組みたい人にはとても勉強になるに違いない。
それに、録音を聴くときでも、ローゼンの解釈している部分が、他のピアニストの演奏ではどう表現されているのか、注意して聴いみれば、いろいろ発見がありそう。

『ピアノ・ノート 演奏家と聴き手のために』の方は、評論集というか、理論的なエッセイというか、ピアニスト心理から、ピアノの楽器特性と奏法の特徴、コンクールの本質やエピソード、演奏様式の歴史的変遷まで、話題は幅広い。
文体は理屈っぽいところもあって、やや硬派な筆致。でも、ピアニストならではの視点と経験をもとに書かれていて、話題も豊富なので、とても面白くてインフォマティブ。
ブレンデルの作品解説・評論集『音の中の言葉』が苦労せずに読める人なら、ローゼンの本も筋の通った文章なのでかなり読みやすいはず。
ピアニストでこういう文章をかける人はそう多くはないのでは。

ピアノ・ノートピアノ・ノート
(2009/09/19)
チャールズ・ローゼン

商品詳細を見る

 『ピアノ・ノート 演奏家と聴き手のために』の紹介(みすず書房のウェブサイト)

                          

以下は読書メモ。特に興味のある部分だけ抜粋してきたもの。

第1章 身体と心
弟子によれば、リパッティは「最後に親指を中指の下にくぐらせてから10年以上は経つ」ともらしたことがあるそうだ。

ピアノ教師の思うほど、この基礎練習[ハ長調のスケール]がすべてのピアニストに向いているわけではない。
[ハ長調のスケールで親指を中指の下にくぐらせるという]基礎的な指使いをひどく居心地悪く感じていた。
ピアニストにとって理想的な手というものは存在しない。さらに言えば、手のポジションについても定説はない。
これほどの違いがあるのだから、おおかたのピアノ教則本はばかげているし、独創的な教授法はどんなものでも有害だ。
(現に多くのピアニストが思春期後期になると、子どものころ習ったことをある程度捨てて、自分に合う独自の奏法を編み出さなければならない。)

手の形ばかりか、体格にも個人差がある。だから、多くの教育者が思うのとは違って、ピアノの座り方にはこれが最適というルールはない。グールドは床すれすれの深座りだし、ルービンシュタインはほとんど立ち上がって弾く。
椅子の高さは演奏スタイルに影響する。座位が低いと、嵐のような超絶オクターブをフォルティッシモで弾くのはむずかしい。グールドがリスト編曲のベートーヴェン『交響曲第5番』を録音したとき、彼はまず右手の超絶オクターブを両手で弾いて、左手部分は後から録音したそうだ。この低い座位ゆえにグールドは速いパッセージをさまざまなタッチで弾き分けてみごとにコントロールする技法を身につけることができた。

座り方は演奏ばかりでなく作曲そのものにも影響する。たとえばラヴェルも低く座る人だったが、彼の作品には両手で弾くフォルテティッシモのオクターブ・ユニゾンがいっさいない。これは(とくにリスト派が多様する)19世紀特有の超絶技巧で、チャイコフスキーやラフマニノフのピアノ協奏曲のハイライトだった。
このリスト派の名高いオクターブ・パッセージから、ある重要なことがわかる。つまり音楽の演奏は芸術である以外にスポーツの一形態という側面を持ち、むしろテニスやフェンシングに似ている。

真の発明品としてオクターブが現れた-少なくとも両手のユニゾン・オクターブが容赦のないフォルティシモで長く続くページがはじめて登場した-のは、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第5番《皇帝》』第一楽章の一節だった。

鍵盤楽器演奏のスポーツ的要素は、すでに18世紀前半のドメニコ・スカルラッティの初期ソナタに登場していたが、ここで主役をつとめるのは身体的持続力や体力というより、むしろ運動神経だ。たとえば両手を交差させて引く、信じられないような跳躍や、ギターの奏法に似た急速な音の反復などが、スカルラッティの特色だった。

技術的なむずかしさとは本質的に表現を豊かにするものだ。むずかしいという感覚は緊張を高める。

ピアニストは音楽を愛しているという理由だけで生涯をピアノに捧げたりしない。・・・・・ピアノという楽器のメカニズムと演奏のむずかしさそのものに対する純粋な愛、そして鍵盤に触れていたいという身体的な必要性がなければならない。・・・・ピアノという楽器、もはや恐竜と化したコンサート・グランドという楽器に身体的に触れていたいという、この説明しがたい、ほとんど物神愛的とも言える欲求(必要性)こそが聴衆に伝わり、音楽に不可欠な一部になるのである。

身体的ジェスチャーが音楽の意味にとって重要だと認識させてくれる例は、ベートーヴェンの『ハンマークラヴィーアソナタ』冒頭の跳躍音である。これも片手で視覚に弾くのがむずかしく、ほぼ全てのピアニオトがしくじるのではないかとびくびくする箇所だ。両手で弾くピアニストも多いが、それではベートーヴェンの狙った効果が半減してしまう。この跳躍はたいへん危険で速度も速い。この音程とフォルティッシモにより、素晴らしい響きが得られる。作曲家の書いたとおりに弾けば、これは耳で聞いても見た目にも壮大で大胆な跳躍で、勇気と興奮とが聴覚的・視覚的に伝わってくる。これを両手で弾いていしまえば見た目には簡単だし、実際弾くのも簡単だ-だから簡単そうに聞こえる。

ピアノの美しさは本質的に響きのバランスから生まれる。このバランスには垂直方向と水平方向がある。垂直方向のバランスの説明として一番簡単なのは、和音のなかのひとつひとつの構成音の音量だ。
和音の構成音のバランスをとるには、構成音を弾いている各指の強さを自由に変えられる能力が必要だ。腕の力をぬかなければ、各指の筋肉は完全な演奏ができず、腕から力が抜けていれば、腕が各指の独立を妨げることはない。

ピアノは、響きのバランスをさまざまな方法であやつることによって、和声や倍音の効果を意のままに大きく変えることができる唯一の鍵盤楽器である。

水平方向をたどるには、メロディやフレーズに隠された表現を探りたてる感覚を-そしてバス声部や内声に対する感覚も-必要とする。大切なのは、メロディやそれが織り成すアラベスクの曲線に内在する和声的意味を認識するところから生まれる響きの美しさだ。

クラウディオ・アラウは情感のこもる長い音符にビブラートをかける仕草をするくせがあった。楽器内部のメカニズムには何の影響もないが、これは演奏上の心理的補助手段で、この音には特別大切な響きがあるのだということを聴衆にわからせるのに役立ったはずだ。


第2章 ピアノの音を聴く
自分の演奏が実際にどんな音をだしているか-指揮者を除き-ピアニストほどわかっていない音楽家はおそらくいないだろう。
20世紀半ばごろテープレコーダーが安価で手に入るようになると、多くのピアニストが自分の音を聴くために録音しはじめた。私としてはこの習慣は最悪に思える。ほんとうは演奏しているその瞬間に何がおきているか意識する態度を育てるべきときに、機械に頼るようになるからだ。


第3章 ピアノという楽器と、その欠陥
自分の望むようなピアノでなくてもいい演奏はできる。
ブゾーニはかつてこう言った。「悪いピアノなど存在しない。下手なピアニストがいるだけだ。」確かにそのとおりだ。しかし、欠陥のあるピアノは演奏の喜びを著しく奪ってしまう。

ピアニストにとってさらに問題なのは、わたしたちを悩ませるいろいろな変則事態が、聴衆にはほどんと聞き取れないという事実である。聴衆にはある音がブリリアンスに欠けていて、別の音はきつすぎるのがわからない。そのうえ、弦の一本が少し狂っていて、不快な音がするとき、聴衆はユニゾンのひとつがフラットしていることを理解せずに、むしろピアニストが音質に鈍感だと考えがちだ。


第4章 音楽学校とコンクール
ピアニストはなにがどう転ぼうと、自分の好きな音楽だけを弾くべきだ。そして同時にそれと同じくらい重きを置くべきは、自分だけの独自の解釈ができると考えるものだけを弾くことである。


第5章 コンサート
演奏中のさまざまな身振りは聴衆に劇的な印象を与えるほか、自分自身の緊張をほぐすのにも役立つ。演奏中にあたかもそれが霊感の導きであるかのように、声を出して歌うピアニストや指揮者がいる。だが、過剰な身振りや螺旋運動が技術効率を損なうこともある。

カッチェンはステージに上がると聴衆のなかの任意の一人に目標を定め、その人のために弾いたと言われる。これは心理的刺激にすぎず、美的陶酔と性的興奮とを混同している。もしこの選ばれた一人が他の聴衆よりも演奏を堪能したとしたら、カッチェンは狼狽したにちがいない。(脚注に記載)

人の耳に聞こえてくるのは、大半が期待している音である。皮肉っぽく聞こえるかもしれないが、これは皮肉でもなんでもない。作品の感覚とパワーの大部分は演奏が不十分でもきちんと伝わるし、辛口の批評家ですら、自分が聴くはずだと思っていたものを聴いたと感じている。

優れたピアニストがその日調子が悪くて、それが演奏に出てしまったとしても、音楽の偉大さが(もしそれが慣れ親しんだ様式ならば)、パッとしない演奏を包む霧をも貫いて輝くことの方が大切なのである。これこそ音楽のあるべき姿だろう。


第6章 レコーディング
レコーディングという身体経験は、ある重要な一点でリサイタルと異なる。コンサートは、始まったとたん、舞台恐怖症から発するアドレナリンが全身の血管を駆けめぐるが、やがて演奏行為に没入するにつれ、少しずつ消えていく。レコーディングはこれとは逆に、はじめは自信満々で臨む。なにしろ演奏するのは自分がするのは自分が知り尽くし、マスターした曲だし、自分の解釈が作曲家の音楽も自分自身のスタイル感覚も裏切っていないと確信しているからだ。・・・レコーディングでは、度忘れやちょっとした弾き間違えがやたら気になる。こうして、自意識を捨てて音楽に身をまかせることができなくなる。
今日のレコーディングの世界では、全てを修正しようというたいへんな圧力がかかる。だれかに「あいつはスプライスしてもちゃんと弾けていない」といわれるのではないかという恐怖がつねにあるからだ。

レコードの曲はほとんどの場合、(コンサートの場合よりも)もっと小さな場所で、私的に、一人か二人の人の楽しみとして聴くものだ。したがって、レコードの音響はつねに錯覚である。これはほとんどつねに、ふつうの居間より大きな空間で鳴っているという印象をあたえる音作りに決着する。

異なる様式の音楽には異なるたぐいの共鳴が必要だという偏見がかつて存在した-ジャンルの違いだけでなく、たとえば現代音楽にはロマン派の音楽より乾いた、きつい音響が必要という考え方だ。これがどれほど荒唐無稽な見解であるかを、私はフランスのラジオ放送のために行った2日間の録音で経験したことがある。シェーンベルクの作品19と25の録音で、音響のひどさに驚いた。技術者は「現代音楽用のマイク配置です」と言ったが、私は前日の[シューマン録音のときの]配置に戻すよう要求した。そしてシェーンベルクの「わたしの音楽はモダンなのではない。演奏がひどいだけだ」という言葉を思い出した。これは録音のまずさも関係している。数年前、エドワード・シュトイアーマンによるシェーンベルクのピアノ曲のすばらしい演奏がレコードになったとき、それは小さな浴室のような閉鎖空間で演奏したかのごとき音響だった。

現代の編集慣行に戸惑いを覚えるのがわからないではない。だが、つまるところ、私は間違った音をスプライスで消すのと、納得のいくまで全曲とおして16回弾くことのあいだに大した差があるとは思えない。ルドルフ・ゼルキンはレコーディングを始めた頃、非常に禁欲的な態度を貫いていた。最終楽章で弾きまちがえると、彼は第一楽章から全部弾きなおすのだった。しかしその結果、彼のレコードは最良の状態にあるときの活力や大胆さにくらべて、いくらかおとなしいものになってしまった。ゼルキンは、その後、宗旨変えをしたに違いない。レコーディングした作品の製作用ワークシートには、二つの都市で録音されたことが記載されていた。

完全な信頼性と率直さのためには最初のテイクだけをリリースするしかないのだろう。

作品の現実化、すなわち演奏は部分的な創造でしかない。と同時に体育的な偉業でもあり、つねに失敗と紙一重の危険をはらむ試みだ。これは演奏という概念に固有のもので、だからこそスプライシングを使うことが今日なお、悪人のように思えるのである。しかし、レコーディングが西洋音楽の伝統を根源的にゆがめるとしたら、それはレコーディングが原典と演奏の関係をかえてしまうからだ。かつて、譜面は相対的に永続するもの、演奏ははかないものだった。

レコーディングの目的は技量の優越性を誇示することではなく、最良の一枚をつくることである。コンサートでは一音のまちがい、度忘れ、ぎこちないフレージング、ちょっとしたリズムの計算違いはさして重要ではないが、なんども聴きなおすレコードでは、それがつまづきの石になる。レコードを聴くたびに、まちがいの箇所を待ち構えることになるからだ。

聴衆に対し、音楽に対し、自分に対し、真に無責任なのは、二流のレコードをつくることだ。スプライシングに真の倫理的問題があるとすれば、それは統一のない演奏をつくったときである。

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参考音源
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文中で紹介されていたシュトイアーマンのシェーンベルク録音(1957年のモノラル録音)。
たしかに、ローゼンの言うとおり、「小さな浴室のような閉鎖空間」で演奏しているような奇妙な響き。
音質はともかく(本当は大事だけど)、シェーンベルクは無機的な音楽では全くなくて、現代的な旋律の歌謡性と叙情感をもつ音楽だと私には感じられる。
このシュトイアーマンの録音について、CDの紹介文によると、「シェーンベルクのピアノ作品解釈に対する古典的モデル」だとブレンデルが評している。
"How wonderful that Steuermann’s recording of piano pieces by Schoenberg is at last available again; it is the classic model for the interpretation of these works."

Schoenberg: Five Piano Pieces Op 23 -- Eduard Steuermann, piano


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チャールズ・ローゼン著 『ピアノ・ノート』 (2) へ続く]


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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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