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ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ集 BWV1014~1019(CD/DVD)
パーチェの《巡礼の年》を聴いていると、フランク・ペーター・ツィンマーマン(Zimmermann)と録音したバッハのヴァイオリンソナタ集を聴きたくなってきた。
ツィンマーマンとパーチェのどちらも、初めて聴いたのがこのバッハのヴァイオリンソナタ集。
曲自体はスーク&ルイジチコーヴァのモダンヴァイオリン&チェンバロ演奏で聴いたけれど、あまり印象に残っていなかった。なにしろテンポが全体的に遅かったし、モダン(改造型)チェンバロを弾いているらしく、金属音的な音が好きではなかったので。

ツィンマーマン&パーチェ盤は両方とも現代楽器による演奏なので、チェンバロ伴奏が多いこの曲集としては、珍しいフォーマット。
オーセンティシティに対する拘りを持っていないし、ピアノの方が声部が明瞭で対位法による旋律の絡みも良くわかるので、いつも聴くのはピアノバージョン。(あまり聴かないけれど、古楽器版ならクイケン&レオンハルト、ムローヴァ&ダントーネ)
他のピアノ伴奏版の録音は、抜粋したものがほとんど。グールド&メニューイン、グールド&ラレード(全曲盤)、シェリング&イサドーア(東京リサイタルのライブ録音)、ムローヴァ&カニーノなど、録音はあまり多くはない。

ツィンマーマン&パーチェの録音には、スタジオ録音(CD)とライブ録音(DVD)があり、テンポや細かい部分で微妙に違うところがある。
最初に買ったのはCDだったけれど、良く聴いた(観た)のは2008年5月にドイツのポリング修道院図書館のリサイタルを収録したDVDの方。
ここはドイツでも有数のバロックホールらしく、古典的な宗教絵画が天井に描かれた自然光の射し込む白壁のホールがとても美しくて、バッハの音楽を聴くには格好の場所。


[Euroarts 2057188] BACH, J.S.: Sonatas for Violin and Keyboard, BWV 1014-1019
DVDのプロモーション用映像。演奏しているのは、第1番第2楽章、第3番第3楽章、第6番第5楽章のフィナーレ。





バロックというよりも、現代的なセンスを感じるのは、第4番BWV1017の第4楽章。
Bach Sonata for Violin & Piano BWV 1017 C minor F P Zimmermann, E Pace 4 Allegro





緩徐楽章よりも急速系の楽章の方が、時代に関わらずどんな曲でも好きなので、バッハのヴァイオリンソナタでもAllegroやPrestoの明るく軽快な曲は聴いていて楽しい。

Bach Sonata for Violin & Piano BWV 1015 A major F P Zimmermann, E Pace 4 Presto



第3番BWV1016の最終楽章は、室内協奏曲を聴いているような気分。全6曲中一番好きなのがこの楽章。
Bach Sonata for Violin & Piano BWV 1016 E major F P Zimmermann, E Pace 4 Allegro



<関連記事>
 ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集
 ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集(ライブ録音/DVD)
 ムローヴァ&カニーノ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ集
 グールド&メニューイン ~ バッハ・ベートーヴェン・シェーンベルクのヴァイオリンとピアノのための作品集
 シェリング ~ バッハ・リサイタル(1976年東京ライブ)


tag : バッハ ツィンマーマン パーチェ

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佐藤健太郎著『医薬品クライシス―78兆円市場の激震』(新潮新書)
創薬関係の本を何冊か読んだなかで、一番よい勉強になったのが、佐藤健太郎氏の著書『医薬品クライシス―78兆円市場の激震』(新潮新書,2010年1月)。
医薬品に求められる科学的な要件・機能、創薬のプロセスとその難しさ、最近の医薬品研究・開発トレンド、2010年問題など、今まで知らなかったことが多い。
文体・内容ともわかりやすく、化学・医学の専門的知識がない門外漢でも理解しやすい。
多少は知っていた医薬品や業界の知識から、なるほどと思うこともいろいろあったし、創薬にまつわる基礎的な知識を得るには良い一冊だった。

医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)医薬品クライシス―78兆円市場の激震 (新潮新書)
(2010/01)
佐藤 健太郎

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 佐藤健太郎「ゼロリスク志向」と「2010年問題」(波 2010年2月号より)

製薬業界の「2010年問題」に関する資料はネット上に多数ある。
NHKのドキュメンタリー番組でもルポされていた。
「追跡!AtoZ:新薬が生まれない」(2010年3月13日放映、NHKのホームページでは番組の一部が視聴できる)

番組のなかで図示された売上構成グラフを見れば、日本の大手製薬企業の収益が少数の医薬品に依存しているのが一目瞭然。主力製品群の特許切れにより、ジェネリック医薬品に切り替えられてしまった場合、他産業では考えられないような売上激減が起こる。


<読書メモ>

1章 薬の効果は奇跡に近い
本書の対象医薬品は、病院で処方される「医療用医薬品」。
製薬会社の新薬開発投資は、軒のみ総売上の約20%。世界最大手・ファイザーの研究開発費は年間9000億円。(他の多くの製造業の研究開発費は、売上高のせいぜい2~6%前後)
世界の製薬業界全体の新製品は、年間たったの15~20製品(新規な構造を持った低分子医薬の製品のこと)
膨大な臨床データに基づいた厳しい審査があり、製品を作りだすこと自体が極端に難しい。臨床試験の壁は年々高くなっている。
新薬を出すのは恐ろしく難しいが、一発宛てれば大逆転---という、極めてギャンブル性の高い世界。

「医薬分子はターゲットたんぱく質への結合という面では、できるだけ大きい方が有利だ。しかし生体膜という障壁を突破するには、サイズは一定レベルより小さくなければならない。また胃液や消化酵素に耐えるために非常に丈夫な構造である必要があるから、医薬分子を構成するために利用できるパーツはかなり限られてくる。
また人体の6割が水である異常、医薬となる化合物はある程度水に溶けないと話しにならない。また肝臓、血中アルブミンといった防御システムをかいくぐるためには、脂溶性が低い方が基本的に有利となる。ところが生体膜を通過して医薬が患部に届くためには、ある程度の脂溶性が必要だ。
医薬研究者は、これだけ矛盾した条件を満たしつつ、無数のタンパク質の中から標的だけを正確に捉える分子を設計しなければならない。」


2章 創薬というギャンブル
医薬品業界における「研究」と「開発」の違い;
「研究」-臨床試験以前の段階、つまり動物実験で有効性と安全性を確かめる段階。
研究段階(動物レベルで充分や薬効と安全性を示す化合物が手に入るまで)で5年ほどかかるのが普通。

「開発」-臨床でヒトに対する試験を行う段階。
時間と膨大な費用がかかる。数百~数万人に医薬候補化合物を投与し、効果と安全性を綿密に検証する。
化合物が医薬品として認可されるまでには、百億円単位の費用と10年以上の歳月を必要とする。
研究段階で数千もの化合物から絞り込まれた医薬候補品のうち、臨床試験の関門を突破した「医薬」となるのは、わずか数%。

臨床試験に入る化合物は、2種類以上の動物での毒性試験をクリアしている必要がある。
臨床試験は第Ⅰ~第Ⅲ相の三段階。有効性が確認できないか、その薬を服用することによる利益を上回る害があると判断されれば、その段階で試験は停止(ドロップ)。第Ⅱ相は最もドロップする化合物が多い。
第三相試験(多数の患者が対象。比較対照の医薬品との効果の違い、副作用の有無などを確認)の結果、十分な安全性と効力があると判断した場合、厚生労働省に新薬承認を申請し、審査が行われる。
長期にわたる安定供給力も審査対象。新薬が承認されていなくとも、製造工場を建設しなければならない場合もある。
審査には、最低でも1年(※)、最近では3~4年。結局、プロジェクト開始~新薬承認・発売まで通算15年ほど。
※特別な医薬品、緊急を要する医薬品の場合。

3章 全ての医薬品は欠陥品である
※この章では、一般の人が抱いている医薬品(に限ったことではないが)への期待と、実際の医薬品の役割・機能とのギャップがいろいろ書かれている。

「医薬というものは病気の原因を直接叩き、根治させるものではない。
その調整能力によって決定的な破綻を防ぎ、自然治癒能力による回復を待つのが医薬の本質だ。医薬は基本的に対症療法であり、根治を目指すものではない。抗生物質や抗ガン剤は、病原菌やガン細胞といった病気の原因を直接叩くタイプの医薬だが、これらはあくまで例外に属する。」

「医薬とは、病気によるリスクをゼロにするものではない。薬を投与せず、自然治癒力だけに任せるリスクよりも、薬を投与した方が総合的に見てリスクが少なくなると見込まれたときに使われるものだ。重篤な疾患に対してはそれなりのリスクを伴う医薬を処方しなければならないこともある。」

毒と薬は紙一重。抗ガン剤の多くは、DNAの破壊等によりガン細胞の増殖を抑えるが、同時に正常細胞にもダメージを与え、強い副作用を弾き起こす。免疫抑制剤の副作用もこれと同じタイプ。

医薬品の効力には個人差がある。肝臓にある代謝酵素の量・組成は個人だけでなく、人種間でも大きな差があるため、他国で行った臨床試験データがそのまま利用できない。(ex.抗がん剤イレッサの副作用)

臨床試験のデータで有効率が半分以下という薬は珍しくなく、25%という薬もある。医薬品の場合は服用者の四分の一が病苦を免れれば、立派な効能と考えられている。


4章 常識の通用しない78兆円市場
アメリカの薬価は約42兆円と世界一で、世界の製薬企業の主戦場。2位の日本市場の約6倍という巨大市場。
医薬広告も盛大、薬価も各社が自由に設定可能。
ex.特殊な白血病の画期的治療薬ノヴァルティス社のグリベックは、月当りの薬価が2200ドル。

2010年問題:特許切れの恐怖
医薬品は特許権存続期間は特許出願から20年間(申請により5年まで延長可能)。
先発品は研究段階や臨床試験に膨大な費用を投入。ジェネリック医薬は簡単な試験を通過するだけで販売許可。先発品の1/3~1/5という低価格。

アメリカには強力なジェネリックメーカーが存在。患者負担がもともと大きいため、先発品からの切り替えが早く、ジェネリックは数量ベースで市場の50%超。(日本では2012年に30%まで引き上げる厚生労働省の計画)
先発品の売上げは、特許が切れた瞬間に急落し、2年でシェアは1/10に落ち込むと言われる。(日本はジェネリックメーカーの力が弱く、今のところそれほど急減することはない)

高収益で不安定な業界構造:「新製品を創りにくいが、一つ一つの製品は巨大な利益を生む。しかしその売上げは、ある日を境に急落する」。医薬品業界では、一つの製品が失われただけで経営に大打撃。
ex.世界最大手ファイザーの売上約4兆5000億円のうち、リピトール(高脂血治療薬)の売上が2007年では全体の1/3)

1990~2000年代初頭には、大型製品(1剤で年商10億ドルを超える新薬。ブロックバスター)が相次いで誕生。2010年前後に一斉に特許が切れるため、利益は激減する。
同時に、医薬品開発費用の急増(一説には5-6倍)、特許切れのリスク分散のため、買収・合併による製薬企業の急速な巨大化=メガファーマの誕生。

5章 迫りくる「2010年問題」
問題の本質は2010年前後に多くの医薬の特許が失効することではなく、それをカバーする新薬が出てこないこと。
FDAの新薬承認件数:1998年53品目、2002年以降年間30品目以下、2007年18品目。
ex.ファイザーが総力を挙げて開発していた化合物、トルセトラピブの臨床試験の中止。(他社でも同様の事例が頻発)
世界の製薬企業は2007年頃から大規模なリストラを実施。

HTS(high-throughput screening)、SBDD(Structure Based Drug Design)、Combinatorial Chemistryや、ゲノム解読・創薬など、新しい創薬技術への資拡大が研究開発費肥大化の一因。
新技術にも複雑な反応・化合物には使えないなどの限界がある。ゲノム解読も創薬には至らず。

創薬技術自体は、20-30年前から飛躍的に進歩したにも関わらず、新薬が生まれない理由:
-作用機序のはっきりした「わかりやすい」疾患(高血圧、胃潰瘍、細菌感染症など)には、すでに完成度の高い薬が多数あり。残っているのは、「薬を創りやすい」病気ではなく、ガン、リウマチ、アルツハイマー症などの難病。
-医薬のターゲットとなるタンパク質で有力と見られる標的が少ない。
-「モデル動物の不備」による動物実験の難しさ。高血圧や高脂血症などは、症状の改善が数値化しやすい優れたモデル動物がある。中枢系に問題があるアルツハイマー病などをモデル動物でシミュレートするのは難しい。

メルク社のバイオックスによる副作用問題が発覚後、FDAでは審査化が厳格化し、新薬の承認確率が大幅減。
2005年頃から臨床試験長期化の傾向が顕著。研究段階では、危険のありそうな化合物を創薬段階の早いうちからふるい落とす試験法が発達。

大合併が招いた保守化。会社の規模が大きくなれば、市場・売上の大きな大型製品の開発を狙うようになる。失敗すれば大型リストラ。

6章 製薬会社の終わらない使命
研究機関に新薬は創れない。大学や公的機関でも優れた研究は数多く行われているが、彼らに実用的な新薬を創り出すことはできない。

現在では、大企業による新興ベンチャー買収や提携がトレンド。買収価格が数百億円から数千億円というベンチャーバブルも。資金力のないベンチャーは、良い化合物を創ってその権利(または会社ごと)大企業に売る。ベンチャーはハイリスクで多産多死。成功したのはごく一部の例外。

多くのバイオベンチャーの切り札は、抗体医薬(現在主流なのは低分子医薬)。
ex.画期的な抗体医薬はリウマチ治療薬「レミケード」。
切れ味鋭い効き目と高い安全性をもつ抗体医薬の承認が進む。(古典的な低分子医薬の臨床試験通過率が5%前後、抗体医薬の成功率は約30%)。
サイズが大きい抗体は相手方のタンパク質をしっかり認識して結合でき、副作用の原因となる他のタンパク質に作用を及ぼさない。
抗体医薬は、製造に高度なバイオテクノロジーが必要で、品質保証が難しい。抗体医薬の「ジェネリック」に相当するバイオミュラーは、先発品とほぼ同様の臨床試験を要求され、高い技術力と資金力が必要。参入障壁が高く、先発品の市場が奪われる恐れが少ない。

抗体医薬は万能な救世主ではない。大きなタンパク質であるため細胞、中枢系には入り込めないため、対象疾患は特殊なガンやリウマチ、一部の感染症のみ。
高コスト構造:遺伝子組み換え技術や完全無菌状態での細胞培養など製造コスト、抗体作成技術等への特許ライセンス料負担など。

「核酸医薬」:RNAを医薬として用いた治療薬。
「iPS細胞」:医薬のような対症療法ではなく根治が可能。他者の臓器移植のような拒絶反応もない。課題はiPS細胞はガン化しやすい、細胞を再生できても臓器を作るのは別技術が必要。コストと生命倫理の問題なども不可避。


<関連情報>
新薬の研究開発環境と製薬業界の課題について-いわゆる2010年問題を中心に-(中央社会保険医療協議会薬価専門部会、2010年6月23日)
医薬品業界の現状とジェネリック医薬品市場(日本政策投資銀行、2010年3月24日)
2012/01/17 エーザイ 欧米で抗てんかん薬来年度発売2012/02/17 武田薬品、5新薬投入 収益源多様化(インターネレッジパートナーズ/Biz Blog)


エンリコ・パーチェ ~ リスト/巡礼の年 第1年「スイス」より "Orage" 
いつかはソロ・レコーディングするのではないかと長らく待っていたエンリコ・パーチェの新譜は『リスト:巡礼の年 スイス&イタリア』。
2枚組なので、第1年「スイス」と第2年「イタリア」のみ。せっかくなら、第3年も録音してくれたら良かったのに。
マーケティングの関係で2枚組でリリースすることにしたのかも。3年分全巻を録音したCDは3枚組が多い。ときどき2枚組になっているものもあって、ブレンデル&コチシュのPhilips盤は2枚組。

『巡礼の年』を聴いたのは、最初がラザール・ベルマン。それから、ブレンデル(第1年と第2年)、アラウ(一部)、ハフ(一部)。ベルマンは特に好きではないけれど、ヴィルトオーソのピアニスト自体は好きだし、他の3人はもともと好きなピアニストなので、それぞれ違ったリスト聴けるところが楽しい。
パーチェの《巡礼の年》も、彼らしいリスト。
第1集「スイス」のなかで特に良かったのは、最もピアニスティックで激しい嵐が吹き寄せるような"Orage(夕立または嵐)"、心理小説のように深い感情が込められた"Vallee d'Obermann(オーベルマンの谷)"、それに繊細な詩情漂う"Les cloches de Geneve(ジュネーヴの鐘)"。
これ以外の曲は、自然描写的で音色の多彩さが映える曲なので、ブレンデルの音色と響きの美しさが際立って美しく思える。

Annees De PelerinageAnnees De Pelerinage
(2011/12/13)
Enrico Pace

視聴する(仏amazon)


《Orage》は、耳で聞いていてもわかるくらいに、曲集のなかでも最も技巧的な曲。
最近の若手ピアニストは技巧優れた人が多いけれど、跳躍するところでテンポが落ちたり、速いテンポだと一本調子でオクターブ移動したりと、そう簡単に最後まで完璧に弾きとおせる曲ではないらしい。
パーチェはテンポはかなり安定して、パッセージが滑らかに連なり、左手低音のオクターブの移動でも、クリアな音で切れも良い。
クレッシェンドとデクレッシェンドが滑らか変化していくので、一本調子な単調さもなくて、ダイナミックな波のうねりのよう。
彼は最初は"リスト弾き"としてデビューしたので、今でも《Orage》はリサイタルで時々弾いている。


リスト国際コンクールのオープニングコンサートで弾いていた《Orage》のライブ映像。
パーチェは第2回コンクールの優勝者なので、リストコンクールにもよく招待されている。
オランダでの演奏会も多く、歴代の優勝者のなかでは、プロのピアニスト(ソリスト&室内楽奏者の両方で)として、最も順調に演奏活動している人だと思う。

Opening Liszt Concours
演奏曲目は、リストの《オーベルマンの谷》とラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》。



CDレビュー
2012-03-04 Enrico PaceのLiszt巡礼の年 第1&2年[Piano e forte]

演奏会予定
今年から来年にかけて、カヴァコスと演奏するベートーヴェンのヴァイオリンソナタ・ツィクルスの演奏会予定が詰まっている。
カヴァコスがDECCAと専属契約、室内楽の演奏会も目白押しなので、ピアノ伴奏者のパーチェも忙しそう。
さすがに、日本では人気がないらしいけれど、世界のヴァイオリニストのトップ10に入ると言われるカヴァコスは、欧米では凄い人気があるらしい。
伴奏者としてのパーチェの評価も非常に良いので、そのうち、オランダやイタリア以外でピアノソロ・リサイタルを開く機会がでてくるかも。

東京/トッパンホール 2012年11月14日(水) 19:00 [プログラム概要(PDF)]
レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン),エンリコ・パーチェ(ピアノ)
今回はフランク・ペーター・ツィンマーマンではなくて、カヴァコスのピアノ伴奏者としての来日。
ツィンマーマンは最近アンデルジェフスキとリサイタルで弾いていることが多い。
一体どうしたのかなあと思って、最近のコンサート情報を調べてみると、パーチェは、ツィンマーマンの息子で若手ヴァイオリニストのセルゲ・ツィンマーマンのピアノ伴奏者をつとめていた。ハイデルベルクの春音楽祭やシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭、アムステルダム・コンセルトヘボウで、セルゲ君と一緒に演奏している。
ヴァイオリニスト父子2代のピアノ伴奏者になるなんて、珍しいかも。
※後で調べてみると、ツィンマーマンとパーチェは、2011年10月、NYでバッハのヴァイオリンソナタ全曲演奏会をしていた。2011年はカヴァコスのデュオ演奏会がかなり多かったので、ツィンマーマンと演奏するスケジュールが組みにくかったのかも。
(演奏会評はこちら)

ザルツブルク音楽祭 Mozarteum (2012年8月22-23,25日)
<Kavakos & Pace, Beethoven Cycle>
- Beethoven-Zyklus No.1(8/22)
- Beethoven-Zyklus No.2(8/23)
- Beethoven-Zyklus No.3(8/25)
(情報出所)"Kavakos & Pace, Beethoven Cycle: Salzburg Festival"[CLASSICTIC.com]
※このベートーヴェンツィクルスは、コンセルトヘボウでも2012-13年にかけて、3回の演奏会が予定されている。

録音予定
室内楽リサイタルのパートナーであるヴァイオリニスト、レオニダス・カヴァコスがDeccaと2012年4月23日に専属契約締結。
Deccaで最初の録音予定は、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集。ピアノ伴奏者はパーチェ。
今年夏のザルツブルク音楽祭リサイタル(Beethoven cycle)に向けて間に合うよう録音開始の予定。
(情報出所)"Leonidas Kavakos signs exclusive contract with Decca"[intermusica]

コンサートレビュー
Leonidas Kavakos, Enrico Pace, Wigmore Hall:A revelatory duo partnership excels in Prokofiev and Schubert(2011.1.16)
-Prokofiev:Violin Sonata No.1 in F minor Op. 80
-Auerbach:24 Preludes for violin and piano Op. 46 (a selection)
-Korngold:Suite ‘Much Ado about Nothing’ Op.11
-Schubert:Fantasy in C D934

フランク・ペーター・ツィンマーマン&エンリコ・パーチェ オール・バッハ・リサイタル~ヴァイオリンとピアノでたどるバッハの対位法(アラン・コージン,ニューヨーク・タイムズ 2011年10月13日)


クロイチェルソナタのライブ映像
ザルツブルク音楽祭の後、イタリアで開催されていた室内音楽の国際的音楽祭”45thフェスティバル・デッレ・ナッツィオーニ(FESTIVAL DELLE NAZIONI)”のライブ映像。(場所:チッタ・ディ・カステッロ,8/25~9/7開催)
教会らしき建物でのコンサートなので残響過多で音は悪いけれど、テンション高く迫力のある《クロイチェルソナタ》第1楽章。ピアノはファツィオリ(FAZIOLI)らしい。
ぴったり呼吸の合った2人のライブ映像を見ていると、スタジオ録音のCDを聴くのが楽しみ。

FESTIVAL DELLE NAZIONI 2012 - Leonidas Kavakos - Enrico Pace



tag : パーチェ フランツ・リスト カヴァコス ベートーヴェン

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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 2 』 ~ ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 Op.57
ペーター・レーゼルが録音した「熱情ソナタ」は2種類。
最初の録音は、旧東ドイツ時代の1980年にドレスデンのルカ教会で録音したスタジオ録音(ドイツ・シャルプラッテン。今はキングレコード国内盤で入手可能)。
2回目の録音は、2008年10月、東京・紀尾井ホールでのライブ録音(キングレコード)。
この演奏を収録したCDは、ライブ録音とセッション録音が混在しているらしいので、音源がどちらかわからない。(ライブ特有の熱気というか臨場感があるので、ライブ録音ではないかと思うけれど)

ベートーヴェン:三大ピアノ・ソナタ「月光」「悲愴」「熱情」ベートーヴェン:三大ピアノ・ソナタ「月光」「悲愴」「熱情」
(2008/01/09)
レーゼル(ペーター)

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ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集2ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集2
(2008/12/25)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調 「熱情」 Op.57[作品解説/ピティナ]

熱情ソナタはCDで20枚近く持っているけれど、ぴったりくる演奏がなかなか見つからない。
それでも、昔はゼルキンと、FMか何かで聴いたポリーニ(1986年くらいの東京リサイタル)の熱情ソナタは好きだった記憶がある。
同じく苦手な月光ソナタは、第3楽章をレーゼルのライブ録音で聴いてから、すっかり好きな曲に変わってしまったので、もしかしたら、この熱情ソナタも同じかも...と思って聴いてみたら、やっぱり正解。

レーゼルが東独時代にスタジオ録音した熱情ソナタと比べると、それから30年近く経ったライブ録音では、音楽の深みがずっと増しているのがはっきりと聴き取れる。
旧盤は澄んだ音色が清々しく、新盤よりもストレートな表現が若々しい。ピアノの違いか、録音音質のせいか、ライブ録音に比べて音が少し軽い感じがする。
ライブ録音の方は、音に深みと重層感があって、特に低音のフォルティッシモの響きが重厚で磐石。
両盤とも、硬質で精密な打鍵で音もクリアなのは変わらないけれど、ライブ録音の方が音に尖りが少なく、弾力があってまろやか。
昔も今も、急速部分ではアッチェレランドしていることはあっても、前のめりになることは決してなく、テンポがよくコントロールされている。
芯がしっかりした澄んだ響きが瑞々しく、ペダリングも巧みなので、密度の高い和音や連続するアルペジオでも、濁りなく重層感のある響きが豊かで美しい。
何よりもライブ録音の両端楽章で感じるのは、ヒートアップした熱気が噴出する赤い炎のようなパッションではなく、あからさまな派手さはなくても、じりじりと底から燃え立ってくるような青白いパッション。
端正でありながら、クールな情熱がほとばしるような凝縮された美しさと緊張感がある。


第1楽章 Allegro assai
比較的遅めのテンポで、じっくりと一音一音を丁寧に弾きこんでいく。
旧盤、新盤とも同じくらいのテンポなので、30年間経っても、テンポ設定は変わっていない。

(録音時間)旧盤・スタジオ録音 10:19/新盤・ライブ録音 10:24
        グルダ 7:35/ポリーニ 9:21/ゼルキン 9:16/アラウ 11:18/
        ブレンデル 10:06。
9分くらいだとちょっと速く、アラウは遅すぎてややもたっとした感じ。グルダはあまりに速すぎてせかせか慌しい。
演奏時間が10分くらいの速さが私のテンポ感覚にぴったり。

第1楽章はシンプルな構成と旋律なので、強弱のコントラストをつけるために、強奏部分をガンガンバンバンと叩きつけるように弾く演奏が多い気がする。これが耳に痛く響きがち。
レーゼルのタッチは強奏部分でも丁寧で、音が割れることもなく、芯のしっかりとした深みのある響きが美しく、左手バスの和音の響きが力強く重厚。

レーゼルは元々打鍵が精密で力感もしっかりあるので、音が一粒一粒クリア。
音に圧力・力感がしっかり篭もって、じわじわとした底から立ち上がってくるような力強さと緊張感がある。
遅いテンポの方が、緩徐・弱音部分での静けさが深くなり、その直後に現われる急速でf/ffで弾くパッセージとの対比が鮮やか。
美しい陰翳のある彫の深さがあり、引き締まったフォルムと淀みない流れが瑞々しくて端正。
旧録よりも、ライブ録音の方が弱音部分の静寂さが深くなっている。

どのパッセージも和音も、全ての音が充実した響きで鳴り、濁りもせずに澄んでいる。
高音部はしっとりと潤いのある響きには、品の良い叙情感があってとても美しい。
速いパッセージで弾く高音の粒立ちのよい音は、優雅に蝶がパタパタと羽ばたいているようなイメージが浮かぶ。
右手高音が数度開いた音でカスケードのように徐々に下がってくるパッセージは、水滴がコロコロと転がり降りてくるように淀みなく滑らか。
ゆったりと立ち上がっていくクレッシェンドになると、力感と弾力のある音でじりじりと盛り上がっていく感覚がする。

Piu Allegroに入る直前、218小節から出てくる両手で受け渡しする分散和音、その後の右手のアルペジオのパッセージが素晴らしく綺麗。
力感のこもったシャープな輪郭の粒立ちよい音で、音色も研ぎ澄まされ、それが鍵盤上を淀みなく上下行し、緊張感とダイナミズムで張り詰めた美しさがある。

第2楽章 Andante con moto
第2楽章の緩徐楽章は、束の間の安息...のような穏やかで安らぎに満ちた曲。
変奏曲形式なので、冒頭はゆっくりしたテンポの主題が低音~中音部で弾かれて、パストラル的なのどかさ。
次に第1変奏に入り、右手の高音部に主旋律が移ると、ずっと明るく伸びやかに。
第2変奏から第3変奏へ進むにつれて、 16分音符から32分音符へと音価が短くなって、パッセージも細かく、曲想が軽快で動的になっていく。
レーゼルは落ち着いたタッチで音楽の流れが滑らか。
低音~中音域はまろやかな響きで、高音のパッセージの澄んだ響きがとても綺麗。
特に最後に右手の32分音符のパッセージに変わると、蝶が舞うように軽やかで優雅。
余計な飾りのないシンプルでありつつ、自然で豊かな情感が流れている。


第3楽章 Allegro ma non troppo
この楽章は8分台前半くらいの速さで弾かれることが多い。
レーゼルは8分弱と速い方。インテンポで打鍵は精密、音の輪郭も明瞭。特に弾力と重層感のある左手の低音の響きが力強く、堅牢・磐石な安定感がある。
1拍目におかれた両手で弾くfの和音は、岩のような鋭く重みのあるタッチ。全ての音を鳴らしきったような重厚で、濁りのない響きの迫力にはゾクゾクっとする。

アルペジオの重なる響きに膨らみがあって、和声がとても綺麗に響く。
54小節のような低音部から立ち上がってくる連続するアルペジオには推進力と立体感があり、クレッシェンドとデクレッシェンドの変化も波のうねりのように淀みなく自然。
184-200小節の弱音のアルペジオは、柔らかく霧に包まれたような響きがファンタスティック。(旧盤よりもずっと幻想的な雰囲気が漂っている。)
Prestoのコーダの速いテンポでも、弾力のある力強い明瞭な打鍵と引き締まった響きで、集中力と緊張感に満ちたエンディング。


この東京でのリサイタルについては、ブログ記事のレビューがいくつか。
"10・2(木)ペーター・レーゼル ベートーヴェン・リサイタル"[東条碩夫のコンサート日記]のレビューは、CDを聴いても、全くその通り。
レーゼルの「自然でありながら、強い説得力をもった」熱情ソナタは、何度聴いても全く疲れません。


tag : ベートーヴェン レーゼル

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クセナキス/Herma,Evryali,Mists
ギリシャの現代音楽作曲家クセナキスは、建築家としてル・コルビュジエに協力して、斬新な設計手法を考案したという、極めて珍しい経歴を持っている。
大学で数学と物理学を学んだので、それを建築に生かすことができたし、また、メシアンに数学を作曲に応用するようにアドバイスされて、数学の論理を援用した作曲技法と作品を生み出した。

クセナキスは「音楽を物理的音響現象として数学的に捉える立場に立ち、コンピュータを駆使する独自の創作技法を用いて活動を続け、20世紀音楽史の中にあって独自の世界を開示した作曲家」として、稲盛財団の第13回「京都賞」を1997年に受賞。
受賞記念講演は「我が道」。(イアニス・クセナキス 記念講演会講演録(日本語) [PDFダウンロード])
クセナキスがフランスへ渡るまでの人生について語っている。
数学と物理の勉強がしたかったため、アテネ工科大学へ入学。初めから建築家を志していたわけではなかったらしい。音楽が好きで、それも演奏ではなく、作曲を学びたいことが自分でもわかってきたという。
第2次大戦中、ギリシャで戦闘中に負傷後、フランスへ渡り、そこで建築家ル・コルビュジェの事務所に就職。
彼は技師として計算ができるので、建築と音楽の二つの分野に従事するという類稀な人生が始まった。
講演では、この後で、彼の音楽理論・作曲手法が年代に沿って紹介されている。


<クセナキス関連情報>
Iannis Xenakis(Friends of Xenakis Associationの英文サイト)
ヤニス・クセナキス(Wikipedia)
前衛爆裂現代音楽 ヤニス・クセナキス
◎IANIS XENAKIS(イアニス・クセナキス)の音楽について(ごく簡単な概要)
「ヤニス・クセナキス研究 建築と音楽をつなぐパラメータ設定についての考察」加藤伸昭[PDF]

                      

クセナキスのピアノ作品で有名なのは、《Herma》と《Evryali》。
彼のピアノ作品を聴いていると、数学的というか、幾何学的な音の配列やパターンを視覚的に連想してしまうようなところがある。
管弦楽曲だと、その色彩感と音響の多様さがピアノ作品よりもよくわかるはず。


 《Evryali》(1973年)
私が聴いた3曲のピアノ独奏曲のうち、一番聴きやすいのが、《Evryali》。
ジャワ島のガムラン音楽を取り入れた作品。
初めはミニマル的な主題が登場するけれど、これがかなり多彩に変形・展開していく。
抽象的な音のパタ-ンで様々に組み合わされていくので、ロマン派音楽のような歌謡性はないけれど、抽象的な世界独特の歌謡性(らしきもの)が感じられる。
それに、色彩感もリズムも豊かで、和声の響きも歪みが少なくて綺麗。まるで、音符たちが自由におしゃべりしたり、ダンスしているようで、とても面白い。
ある種の現代音楽に感じられるような曖昧さや混沌としたつかみどころの無さは感じない。
逆に、どこまでも明晰で、幾何学的な線・図形が組み合わされているようなイメージが浮かぶ。
これもクレナキス特有の数学的な作曲技法のせいだろうか。
それに、ジャズのインプロヴィゼーションを現代音楽風に演奏したら、こういう音楽になってもおかしくない気もしてくる。

Iannis Xenakis - Evryali, for solo piano (Claude Helffer)




 《Herma》(1962年)
数学の集合論を応用した作品。
《Evryali》とは違って、非パターン的。硬くてキラキラと煌くガラスの破片があちこちに飛び交っているようで、まさしく「音の蜘蛛」のよう。
一般的に、現代音楽を演奏する場合は楽譜を置いていることが多い。
さすがにこの曲は暗譜しないと弾けないと高橋さんは言っているし、演奏風景をみると本当にその通り。

Yuji Takahashi_Herma(Iannis Xenakis)



<参考記事>
Xenakis "Herma"の解説と演奏後記(楽譜の風景)
高橋悠治という知性①‐悠治/ヘルマ(ヤニス・クセナキス)(酔夢亭通信・awamusica53)




 《Mist》(1981年)
曲名どおり、霧のもやもやした塊りが変幻自在に動き回っているイメージ。
硬質の高音は、まるで霧の結晶のような鋭い粒子が煌きながら舞っているような響きと動き。
《Herma》よりは視覚喚起的。《Evryali》のようなカラフルな色彩感やリズムのバリエーションが少ないので、少しパタ-ンが単調に聴こえる。

Iannis Xenakis- Mists (1/2) (Aki Takahashi) 



耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (7) Serenity System™ therapy (アップデート版)
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Serenity System™ therapy
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米国テキサス大学のDr Michael Kilgardが提唱した治療法で、高周波の音と迷走神経への電気的刺激を併用し、聴覚皮質を耳鳴発生以前の正常な状態に戻すもの。

療法名の"Serenity System™ therapy"(正式にはSerenity Neurostimulation System therapy)は、専用デバイスを開発したmicrotransponder社が2012年3月に名づけたもの。

耳鳴り患者に朗報!? 脳をリブート(再起動)すると耳鳴りが解消する{日本語記事]
How high-pitched music could cure tinnitus by 're-booting' the brain[英語原文]
「足りない音信号を補完している脳の状態を、以前の耳鳴りのない正常な状態に戻すこと、つまり脳のリセットで耳鳴りの根本原因を取り除く」という治療法。
音響外傷により難聴となったラットの聴覚皮質を元の正常な状態に戻すという動物実験を実施。
無線の電極装置を首にある左側の迷走神経に外科手術でつなげ、迷走神経を電気的に刺激し、同時に高周波数の音を流す。

"Cure for Tinnitus Has a Nice Ring to It"[Washington Examinerの紹介記事]
記事中のほかの医師のコメントでは、"そもそもラットが耳鳴りを持っているかどうか自体が不明。人間の被験者に対する臨床試験の結果を見ないと何とも言えない、方向性は妥当"。

Dr Kilgardの論文"Externally Directed Neural Plasticity for the Treatment of Neurological Disease"
この療法の研究リーダーであるテキサス大学のDr Michael Kilgardの論文。
療法の原理とラットによる動物実験の結果などが記載されている。
-脳の奥深くに刺激を与える方法に代って、迷走神経を短時間刺激することにより、脳の可塑性を導き、聴覚皮質ニューロンの情報処理システムに信頼性の高い変化を引き起こすことができる。
-この変化の内容は、音刺激によって引き起こされる活動パターンに依存する。
-ラットを使った実験では、”Pairing rapid trains of sounds”が、耳鳴りとそれを引き起こしている病理学的可塑性を反転(reverse)させる効果があった。

microtransponder社のホームページ
米国のバイオテクノロジー企業microtransponder社(テキサス大学からのスピンアウト)は、この療法に使用する専用のスティミュレーターを開発。


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臨床試験
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臨床試験などの進捗状況は、microtransponder社CEO Will Rosellini氏のブログに掲載されている。

tinnitus-update 2011.9.19

sbirs-and-tinnitus 2011.11.8 
現在、ベルギーの臨床試験結果の要約作成中。
米国では最初の3ヶ所の臨床試験が完了。さらに次の臨床試験と器具の商業化プランを作成し、NIDCD(国立聴覚・伝達障害研究所)に助成金を申請予定。
9人の被験者の試験結果について、2012年に論文公表予定。

MicroTransponder’s Q1 2012 Newsletter 2012.3.29
臨床試験結果の一例が報告されている。
10人の被験者に対する臨床試験で、医学的観点から耳鳴が改善された。THQ(Tinnitus Handicap Questionnaire)による評価では、患者の70%が有意な耳鳴緩和を示した。
これは臨床試験のポジティブな結果の一つ。今年6月にベルギーで開催される"Tinnitus Research Initiative Conference"において、完全なデータをプレゼン予定。

MicroTransponder Presents Positive Tinnitus Clinical Trial Results at Tinnitus Research Institute Conference in Europe(Press Release,7/5/12)
Dr.Engineer が最近実施した調査では、耳鳴りが1/2に緩和するのであれば、調査対象患者のうち85%が永続的なインプラントが必要な侵襲性のある外科手術を希望すると回答した。

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進捗状況
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Tinnitus Awareness and Our $2M Investment Round 2011.12.1
microtransponder社は、同社が2012年に計画しているEUの臨床試験を実施するために、自ら資金調達する必要に迫られている。(NIHは、米国外での治験に対して助成は行わない。)
米国の臨床試験は、FDAの要求基準を同社が達成することが2012年中は不可能なため、2013年に願わくばNIHの助成を得て、実施することができる。
EUの臨床試験の結果により、ベンチャーキャピタル等が同社へ投資すると示唆しており、この投資が実現すれば、EUでの機器販売および米国でのより大規模な臨床試験実施が可能となる。
SECの規定により、資金調達のためには、10万ドルの投資家10人が必要である。

MicroTransponder’s Q1 2012 Newsletter 2012.3.29
- 今年6月にベルギーで開催される" Tinnitus Research Initiative Conference"において、臨床試験結果を報告予定。
- 昨年末から行っていた研究資金調達活動の終了も間近。これで臨床試験・商業化用に準備された完全なインプラント機器を使用して、臨床試験に集中できる見込み。


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備考
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医学的文献については、大意要約のため訳文の精度は高くはありません。
正確な内容については、英文原文で確認してください。

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更新履歴
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2012.4.20 改訂、臨床試験結果追加


tag : 音響・音楽療法

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歴史のなかの耳鳴りと治療法
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歴史的文献に記録されている耳鳴りと治療法
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Tinnitus(耳鳴り)という言葉は、ラテン語tinnre(=ring または tinkleの意味)が語源。
耳鳴は現代特有の問題ではなく、すでに古代から耳鳴に対する治療が行われていた。
治療の歴史は古代エジプトにまで遡る。
紀元前1550年頃に書かれたエジプト医学パピルスである"エーベルス・パピルス"に、「a bewitched ear」(呪文にかけられた耳)に関する治療法が詳しく載っている。(耳に薬を流し込んで治療する絵など)
エーベルス・パピルスは、さらに昔の紀元前3400年頃までの文章を転写したものだと考えられている。

メソポタミア文明アッシリアの楔形文字で書かれた粘土板(Assyrian clay tablets)にも、耳鳴りに関する記述がある。
耳鳴りは3つのタイプ(歌う、囁く、話す)に分類され、それぞれの治療法が書かれている。

その後の時代でも、古代ローマ、ブザンティン、中世、ルネッサンス期の文献に耳鳴りに関する記述が残っている。

難聴と耳鳴りとの関連は、アーユルヴェーダ科学において、古代インドで最初に報告されている。
ほぼ同時代の中国でも、耳鳴は陰(Yin)と陽(Yang)の混乱した相互作用の結果だと考えられていた。

耳鳴りの歴史的な記述を見ると、かなり文化的な要因に左右されている。
古代オリエントの神秘主義では、耳鳴りは"the divine"(神、神性)に対するsensitivity(感受性の強さ・鋭敏さ)だとみなされていた。
古代エジプト人は、耳鳴りは"壊れた耳"が原因で起こるものであり、治療として外耳道にオイルやハーブを注いでいた。
中世期の間でも、使う物質を変えて、この治療法が続けられていた。

古代ローマのプリニウス『博物誌』には、ザクロの皮をアーモンド油と煎じて、耳の中の虫を退治したり、難聴・耳鳴り・化膿などの耳の病気に効果があると記されている。

ギリシャ-ローマ期の古代では、哲学者のプラトンや数学者でもあるピタゴラスによれば、耳鳴りが聴こえる人は、神の音"cosmic music"が聞こえる能力があるとされており、高く評価されていた。
紀元前400年頃、異なるアプローチで症状の分類をしたのが古代ギリシアの医者ポクラテス。
彼の見解では、耳鳴りは頭蓋内の小血管が拍動して頭に反響するのが原因。
ヒポクラテスとアリストテレスは、耳鳴りを"マスキング"するというアイデアを紹介している。"人が音をたてると、耳の中の唸り声が止まるのはなぜか? 大きい音が小さい方の音を圧倒するからだろうか?"

バビロニア・タルムード(旧約聖書,ミシュナに次ぐユダヤ教の聖典)では、 "curse of Titus"(ローマ皇帝ティトゥスの呪い)として表わされ、耳のなかの唸り声はサウンドセラピーに反応し、その後慣れていく、とされている

ローマ期の医学では、耳鳴は鬱状態やてんかんなどの病気と関連しているとみなされ、この状態は共通する病態生理を持っていると推測されていた。(今日では、完全に異なった方法でこれらの病態の経路は説明されている。)

中世の錬金術師で医師でもあったスイス人のParacelsus(パラケルスス)が、15世紀初頭に耳鳴りの音源は過剰なノイズ音だと最初に指摘した。
フランス人医師のG.J.du Verneyは1963年に最初の包括的な耳の解剖学・生理学・病理学書を出版したが、その問題をさらに特定して内耳にあると場所を定め、聴覚神経の誤情報だと記述。

20世紀には、耳鼻咽喉科医のR.LWegelが1931年に、Arch. Otolaryngologyの記事でこう発表している。
"耳鳴りは病的な症状である。耳鳴りの存在が活動性/進行性の病変を徐々に示しており、耳鳴りが止まることは組織の変性や衰えが抑制された、という印象を持っている。"、"完全に耳鳴がない人というのは、たとえ存在したとしても、極めてまれである。"



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歴史上の人物と耳鳴り
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ジャンヌ・ダルク:耳鳴りに悩んでいたが、耳鳴りが彼女の死を引起したのではなく、他にも考慮すべき重大なストレッサーを持っていた。

ミケランジェロ:ルネサンス期の偉大な芸術家も耳鳴りがしていたことで有名。
"A spider’s web is hidden in one ear, and in the other, a cricket sings throughout the night."(片方の耳の中にくもの巣が隠されている。もう一方の耳では、コオロギが夜中ずっと鳴いている)と、難聴と耳鳴りについて書き残している。

ベートーヴェン:1801年に友人への手紙で、ベートーヴェンは自分の耳鳴りについて書いている。
"only my ears whistle and buzz continuously day and night. I can say I am living a wretched life"(私の耳は昼も夜も、 ヒューという笛の音やブンブンといううなり声が聴こえ続いている。私は苦難な人生を送っていると言えるよ)

スメタナ:《モルダウ》で知られるチェコの作曲家。失聴と耳鳴りに苦しんだ。耳鳴りを "high E"(高いE音[ミの音])と言っていた。
彼が作曲した《弦楽四重奏曲第1番「わが生涯より」》の最終楽章で、耳鳴りの音がヴァイオリンで表現されている。

Smetana String Quartet No. 1 in E Minor (IV)

※3:47あたりで、キーンというヴァイオリンの高音が聴こえる。その後、快活な曲想が一変して、陰鬱な表情に。


ダーウィン:耳鳴りの音量や周波数を毎日記録していた。

小林一茶:耳鳴り、めまい、難聴に悩まされていた。耳鳴りをうたった俳句を残している。

  夜の霜 耳はしんしん 蝉の声


石川啄木:1910年10月13日、耳鳴りを題材にした短歌を作っている。
当時、朝日新聞での週6日の勤務や夜勤、『一握の砂』の編集作業などで、睡眠もあまり取れず、心身の疲労はかなり酷かったらしい。(こつこつと空地に石をきざむ音その2[『一握の砂』を朝日文庫版で読む。近藤典彦])

  遠方に電話の鈴の鳴るごとく
  今日も耳鳴る
  かなしき日かな



倉田百三:「出家とその弟子」で知られる作家。強迫性障害と耳鳴りに悩まされていた。(不安の力(Ⅶ)―倉田百三の場合 [医療法人 和楽会])


<出典>
History of Tinnitus [European Federation of Tinnitus- Associations (EUTI)]
Tinnitus in history [Auris Medical]
Tinnitus Retraining Therapy [WorkSafeBC]
Noises No One Else Can Hear [Los Angeles Times]
古代ローマ プリニウスの『博物誌』とザクロ [ペルシャザクロ薬品]
耳鳴りの豆知識(1) [森耳鼻咽喉科医院]
耳鳴りの栞 [ゾンネボード製薬]


エレーヌ・グリモー/ワーナー・レコーディングスBOX
随分前に衝動買いしたのは、グリモーのワーナー録音集BOXセット。
グリモーのDG盤の《シャコンヌ》とブラームスの《2つのラプソディ》が、ルバートがたっぷりかかりベタベタ情緒的だったので、それ以来、新譜の試聴だけはしてもなかなかCDを買う気にはならない。
ワーナー時代の録音は、情緒過剰なところがまだしも薄めに思えるし、興味があったブラームスの後期ピアノ作品集とピアノ協奏曲が収録されていたので、珍しくも購入。

エレーヌ・グリモーの芸術~ワーナー・レコーディングス(6枚組)エレーヌ・グリモーの芸術~ワーナー・レコーディングス(6枚組)
(2008/01/01)
ベートーヴェン、 他

試聴する(英amazon)

このBOXセットが不親切なのは、録音年月と録音場所が記載されていないところ。廉価盤なのでブックレットがないのは理解できるとしても、最低限の録音情報くらいは書いておいて欲しいもの。


ブラームス(後期ピアノ作品集、ピアノ協奏曲第2番)

ピアノ協奏曲と後期ピアノ作品集が収録されているけれど、グリモー独特の響きに彩られている。
後期ピアノ作品は和声の響きが他のピアニストとはかなり違い、内声部もよく響いて、濃密でネットリまとわりつくような感覚。
"母性的な"雰囲気がするというか、男性ピアニストが弾いている感じはしない。

グリモーの音質は元々重くないので、力感・量感がやや弱い。それを響きの重層感でカバーしているので、華奢な感じは全くしない。
女性ピアニストにありがちな力を入れてバンバンと鍵盤を叩いてしまうところが無くて(ベートーヴェンでは違ったけれど)、しなやかでありつつ、しっかりした芯がある。
いくぶん情緒的なウェットさはあるけれど、このソノリティは他のピアニストでは聴いたことがない独特の美しさがある。

ブラームスのコンチェルトは楽章によって印象が違う。
第1楽章は、ブラームスはテンポを指定せずに、”Maestoso”とだけ楽譜には書かれている。
そのため、ピアニストによってテンポがかなり違ってくる。
グリモー&ザンデルリングは、テンポが非常に遅くて、緩急のメリハリも弱い。
重音が連続すると、テンポが遅いために、余計にピアノの切れが悪くて、重たい。
途中でテンポが速くなる強奏部分でも、あまりテンションが高くならずに、しなやかな雰囲気。
強奏部分では、テンポを上げて緩急のコントラストをつけた方が曲が引き締まって聴こえるだろうし、グリモーも弾きやすかったのではと思えてくる。
そういう部分では、ピアノが走ろうとしたけれど、オケ伴奏の遅いテンポのために走れず、和音のパッセージももたついた感じがする。

テンポが遅いのは良いとしても、メリハリが弱い演奏で長大な第1楽章を聴き続けるのは、かなり疲れるものがある。
この伴奏を”枯れた、老け込んだブラームス”という人もいて、確かに青年ブラームスらしい若々しさや瑞々しさはない気がする。
”Maestoso”であっても、青年ブラームスの激しい感情が横溢した疾風怒濤のような曲なので、重厚長大ではなく、パッショネイトなところが欲しくなる。
そういえば、定評のあるザンデルリンク&ベルリン交響楽団のブラームスは、ずいぶん遅いテンポでネットリとした響きがまとわりつくようで、ほんとうに黄昏ていた。
この響きがどうにも感覚的に合わなかったので、このコンチェルトの伴奏と相性が良くない理由の一つかも。

遅いことで有名な第1番の録音といえば、アラウ。
グリモーは、そのアラウと同じくらいの演奏時間をかけて第1楽章を弾いている。
アラウのEMI盤(ジュリーニ指揮)の場合は、曲想が変わってテンポを上げるところはかなり速くしているので、打鍵も切れ良くメリハリがよく付いている。

第2楽章はグリモーらしく叙情的。第3楽章はテンポも速くて軽快。第1楽章とは別人のように生き生きとした躍動感がある。


ブラームス以外
ラフマニノフは、テンポが速いところは、技巧的な切れが悪く、ちょっともたついた感じ。
音に力感があまりなく、指回りがもたっとした演奏はあまり好きではないので、たぶん聴き直すことはない気がする。

やたら元気なシューマンのピアノ協奏曲は、DG盤の方がはるかに叙情深くて、聴くならそっちの方。
ガーシュインのコンチェルトはジャジーな雰囲気も白熱感もないので、こういう弾き方もあるのかもしれないけれど、この曲自体を聴くのが目的なら他に良い録音がいくつもある。

ひそかに期待していたベートーヴェン。でも、私の好みとは全然違った演奏だった。
ピアノ協奏曲第4番では、ベートーヴェンは力強くあるべきだとでもグリモーは思ったのか、やや荒っぽいフォルテがバンバン響いていた。
粘り気のあるタッチで厚みのある響きが、やや濁り気味(ブラームスの響きを古典派で聴いているような感覚)、スケールのタッチもあまり洗練されているとはいえず、楽譜どおり音が並んで強弱もついているとはいえ、騒々しいベートーヴェンだった。
ベートーヴェンの後期ソナタ2曲も構成力が弱くて、とらえどころがないというか、曲が平板に流れていくような印象。
グリモーらしい厚みのある和声の響きで、しなやかなタッチと独特の叙情感が、面白いとは言えば面白いかもしれない。

youtubeでたまたま見つけた”Royal Albert Hall 2001”での第4番のライブ映像は、このスタジオ録音を比べると別人みたいに良くなっていた。昔のような気負いや力みがなくなっていて、やはり10年以上の年月がたつと、演奏スタイルも解釈も随分変わるものらしい。
この演奏なら、ソノリティもクリアで気品のある美しさがあり、何度聴いても大丈夫。

結局、グリモーファンでない私が、BOXセットの収録曲でまた聴いてもよいかも...と思えたのは、ブラームスのみ。BOXセットは内容がばらつき気味で外れることも多いので、このブラームスが聴けただけでも良かったのかもしれない。

tag : グリモー ブラームス ベートーヴェン

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ケン・ラッセル監督/映画『マーラー』
昨年11月に亡くなったケン・ラッセル監督の映画で、見たことがあるのが『マーラー』。
一度観たら、その強烈な映像イメージとメタファー、それとは場違いなくらいに美しい自然の風景描写が目に焼きついてしまう。

20年以上たった今でも、美しいマーラー邸の風景、軍隊調の衣装で鞭をもつワーグナ妻コジマ(オペラのパロディ場面)、映画のラストで駅のホームにいるマーラーの病弱そうな青白い顔...とかが浮かんで来る。
コラージュ風の映像がフラッシュバックのように多数挿入されていたので、詳しいストーリーは覚えていないし、その頃はマーラーはほとんど聴いていなかったので、映画でどの曲が使われていたのかも全然に記憶に残っていない。
この映画『マーラー』が廉価盤DVDとブルーレイの両方で6月にリリースされる。これはもう一度見たい気がしてきた。

ラッセル監督映画リスト(<映画でUK&Irelandをを感じよう>)を見ると、作曲家や作家を題材にした映画が多い。
芸術物以外で公開されていたのを知っているのは(観ていないけど)、『アルタード・ステーツ』、『逆転無罪』。
ラッセル作品は物議をかもし出すものが多いらしく、『マーラー』を観てもその鬼才ぶりがよくわかる。

彼の映画に関するレビューや解説を読めばわかるとおり、間違っても普通の伝記映画と思って観てはいけない。
『マーラー』以外には、『恋人たちの曲 悲愴』(チャイコフスキー)、『リスト・マニア』(フランツ・リスト)、『チャタレイ夫人の恋人』(D.H.ロレンス)、『サロメ』(オスカー・ワイルドの戯曲)、フランケンシュタイン物語『ゴシック』、BBC用のテレビ番組のために製作したエルガーやディーリアスの伝記映画もある。

『マーラー』の内容については、amazonのブルーレイ版に載っているユーザーレビューが詳しい。
ラッセルのファンも結構多いようで、『マーラー』は劇場公開されていたこともあり特に有名なので、ブログ記事も多い。
"ケン・ラッセル追悼「マーラー」"(「らりるれろ」通信 Remark On The MGS)のレビューを読むと、ずっと昔に見た映像を思い出させてくれたせいか、すっかりDVDを買う気になってしまった。


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ゴダール、ジャーマンなど10人の著名監督によるオペラ歌曲の映像化オムニバス映画。ラッセルの作品は『トゥーランドット』

tag : マーラー

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パーチェ&ローマ ~ メシアン/アーメンの幻影 (2台のピアノのための)
Youtubeで好きなピアニストのライブ録音がないかチェックしていると、思いもかけない音源に遭遇する。
今回は、メシアンの2台のピアノのための作品《Visions de l'Amen/アーメンの幻影》。
メシアンは、いろいろ聴いてきた中でも、好きな曲とどうにも苦手な曲がはっきり分かれる。
《アーメンの幻影》は、《みどり児イエスに注ぐ20のまなざし》の1年前に作曲したせいか、調性感もありテンポや強弱の変化もとりまぜて、とても聴きやすい。
個人的な好みからいうと、1950年くらいまでの作品(前奏曲集、4つのリズムのエチュード、トゥーランガリラ交響曲とか)なら、苦労せずに聴けるものが多い。

英文の作品解説を読むと、メシアンは情熱的・献身的なローマカトリック教徒。彼の作品は全てその信仰と関連している。
60年以上、パリの聖三位一体教会でオルガニストだったことに深い喜びを感じていた。
彼は痛みと苦しみに耽っていると感じられる音楽を嫌悪していた。
《アーメンの幻影》が書かれたのは1943年。当時、第二次大戦中でフランスがドイツ軍の占領下にあった。
メシアンは、ザクセン州ゲルリッツの収容所での8ヶ月間の捕虜生活から解放された後、初めて書いた作品が《アーメンの幻影》。
第2ピアノは巨大な音量で主題を弾く一方、第1ピアノ(初演者のロリオのために書いた)は輝くような超絶技巧。
"アーメン"はいろいろな意味を持っているが、共通する基本的な概念は、"Let it be(神のみ心のままに)"の概念、または、Affirmation(誓い、確約)。

《アーメンの幻影》は、キリスト教の世界を表現しているので、(さほど信心深くはない)仏教徒の私にはその精神は理解不能の領域。
それでも、宗教的な厳粛さ、畏敬の念、不可知性が篭められているのだろう...くらいはそこはかとなく感じるものがあり、何か現世や世俗の世界とは違う異世界を垣間見ている気がしてくる。近寄りがたい怖さ、超越的な存在を感じさせるものがある。

《アーメンの幻影》はイヴォンヌ・ロリオへ献呈され、初演はメシアンとロリオによる演奏。
この曲とコンセルヴァトワールの学生だったロリオとのつながりについては、"メシアンの生涯"(Regards sur OLIVIER MESSIAEN オリヴィエ・メシアンに注ぐまなざし)に書かれている。

《アーメンの幻影》は2台のピアノ曲のレパートリーとして有名らしく、現代音楽としてはかなり録音が多い。
聴いてみてもわかるとおり弾き映えのする曲で、実演で聴いてみたくなる。
有名な録音は3種類。演奏者は、メシアン&(後に夫人となる)イヴォンヌ・ロリオ、アルゲリッチ&ラビノヴィチ,P.ゼルキン&高橋悠治。
アルゲリッチは聴かないので、他の2組のCDレビューをいろいろ調べてみると、ロリオ盤はかなり濃厚な情感があるらしい。
自作自演盤のメシアン&ロリオ盤も聴いてみたい気はするけれど、廃盤で稀少CD。
現代音楽デュオのゼルキン&高橋盤が私の好みには合いそうな気がするので、このCDを早速オーダー。

Visions De L'Amen / La Rousserolle EffarvatteVisions De L'Amen / La Rousserolle Effarvatte
(1999/02/09)
Peter Serkin, Yuji Takahashi

試聴する(米amazon)


ナクソスのNMLにも、マイナーレーべルの録音が数種類ある。
Youtubeで見つけた音源は、リスト国際コンクールの優勝者だった2人が演奏している。
彼らは同じイタリア出身のせいか、時々デュオコンサートもしているエンリコ・パーチェとイゴール・ローマ。2005年のConcertgebow, grote zaalでのライブ録音。
異聴盤をまだ聴いていないので、彼らの演奏の特徴が今のところはっきりとはわからない。(そのうちゼルキン&高橋盤のCDが届くので、聴き比べてみないと)
少なくとも、技巧達者なデュオなので力感・量感は充分。テンポの速いフォルテの和音が連続するところでも、音の切れが良い。低音部の厳めしい旋律や、高音のキラキラと輝くシャープなタッチの旋律はクリアに聴こえるし、演奏を聴いていると曲ごとにつけられた標題のイメージが浮かび上がってくる。
たとえ宗教的メッセージが理解できなくても、この曲を聴けば聴くほど、この曲の強烈な個性に惹きつけられてしまう。


Visions de l'Amen /アーメンの幻影 (1943年) [作品解説(英文)[Duke Divinity School]

1. 創造のアーメン "Amen de la création"
[「創造の主題」が暗黒の深淵から、着実に厳粛に聖歌のように生起する。光が徐々に差し込んで広がっていき、鐘の音のような和音がクレッシェンドしながら鳴り響き、光の中で輝いている。]

冒頭で第2ピアノが弾いているのが「創造の主題」。
低音のゴーンというくぐもった響きは輪郭がぼやけたやや不気味な響き。
そこに中音域~高音域の音が徐々に加わって、和音の厚みを増しながら、クレッシェンドしていく。
どんよりと垂れ込めていた霧が晴れていくように、主題の輪郭が明瞭に。
最後は、厚みのある荘重な和音のフレーズが繰り返し演奏される。
第1ピアノの方は終始高音域にあり、同じパターンの旋律をリズムを変形しながら、オスティナート。徐々に音量を大きくしながら、最後まで繰り返される。
標題を知らずに聴いたとしても、何かが徐々にその姿を現わしてくる"創造"の音楽だと感じられる。
まるで分子か原子か何か原初的なものが絶え間なくブラウン運動のように細動し、宇宙のなかで星や銀河が生成するプロセスを音で聴いているような情景が浮かんで来る。

Messiaen - Visions de l'Amen I-II (Pace-Roma)



2. 星たちと環のある惑星のアーメン "Amen des étoiles, de la planète à l'anneau"
[止まることない宇宙の回転、猛烈なエネルギ-のダンス。複数の環を持つ土星、他の惑星、止まることなく回転している星星が、全て創造主に対して賛同のアーメンを叫んでいる。]

冒頭の第2ピアノが弾く主題は、恐ろしくて厳つい峻厳な旋律。
これは冷徹な宇宙がひたひたと無慈悲に迫ってくるような強いエネルギー。
やがて、第1ピアノが高音の和音で弾く旋律が加わる。このメシアン独特の音の配列とリズム、キラキラと輝く和声の響きが面白い。
低音部の厳めしい響きと旋律、高音部のガラスのようにシャープで、色彩感のある響きが対照的。
断片的なモチーフのフレーズとリズムが徐々に変形しつつ、右手と左手が休むことなく絡まりあっていく。
これは宇宙のなかで爆発を繰り返しながら回転を続ける星々のダンス。リズムも和声も何もかも面白い。


3. イエスの苦しみのアーメン "Amen de l'agonie de Jésus"
標題どおり、苦痛に満ちたような、突き刺さるような響きと旋律。
イエスの苦悩が様々な表現と主題で表わされる。悲哀、激しい緊張感のある溜め息と叫び、極端な不協和音など。
下降調に変形された「創造の主題」は不気味な雰囲気。
単音で繰り返されるバスは、イエスの血の混ざった汗のしたたりを表現している(らしい)。
終盤になると、突如、全てが突如沈黙に陥る。
最後は、人間性の再創造を意味する「創造の主題」がゆっくりと低音部に現われる。

Messiaen - Visions de l'Amen III (Pace-Roma)



4. 願望のアーメン "Amen du désir"
[神に捧げた愛が、魂から湧き起こるアーメンを喚起する。神との結合への欲望。調和的なパラダイスの深い優しさと静けさ、栄光に満ちた成就への激しく情熱的な人間の願望]

冒頭のパッセージは、夢のなかでまどろむような穏やかさと浮遊感があり、暖かく華やかな雰囲気も。
突如、第1ピアノが激しく訴えかけるように、高音部で和音の旋律を力強く弾き始める。
今までの旋律のなかでは、かなりメロディアス。これは、神との結合に対する激しい渇望(らしい)。
この高音部の和音の旋律が、叩きつけるように激しく2分くらい続いて、クライマックスに。

やがて高音部でまどろむような柔らかな響きの旋律に変わり、神秘的な雰囲気。
ここはちょっとsensualなところもあり、うっとりと耽溺しているような感覚。
その後で低音部に別の旋律が現われ、高音部は再び以前の強い和音の旋律になり、高音と低音の旋律が激しくぶつかり合っている。
やがて高音部と低音部が協調的な旋律を弾き始めて、第1ピアノが弾く高音の旋律が歓喜するように音が激しく飛び交っている。
最後は動きが収束していくようにテンポが落ちて、低音でボーンボーンとゆっくりと単音をオスティナート。
その上を第1ピアノが高音から低音へと徐々に下行していく旋律が何度も表れてエンディング。

Messiaen - Visions de l'Amen IV (Pace-Roma)



5. 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン "Amen des anges, des saints, du chant des oiseaux"
[透きとおるように、力むことなく、ピュアな歌によって、神への賞賛のアーメンを天使と聖人が唱える。ナイチンゲール、ブラックバードなど、鳥たちの愉悦的な歌声のコーラス]

最初は単旋律のユニゾンのチャント(聖歌)で始まり、「創造の主題」が現われる。
それから、力強く歌うような旋律は賛美歌(?)。次に、鳥たちの歌へと交代していく。
特に面白いのは、鳥たちの歌の部分。賑やかにおしゃべりしたり、飛び回ったり、高音部で次から次へいろんなパターンの旋律とリズムが表れ、色彩感豊かに目まぐるしく動き回っている。
それが収束すると、再び「創造の主題」が変形して表れ、行進するかのように堂々とした雰囲気。
天使と聖人、それに鳥たちが勢ぞろいしてアーメンを唱えているかのよう。
でも、最後はそれを打ち切るかのうように、一気に下降して、大きな不協和音で終わる。


6. 審判のアーメン "Amen du jugement"
[最も短い楽章。"Let it beは審判の形になる。神の愛を拒否したものに対するこの判決の厳しさは、リズミカルな厳格さ、透明性と全体的な明晰さをもって演奏される]

全楽章の不協和音を引きずったような重苦しい雰囲気の和音で始まる。
同じ音型の和音と旋律が変形されながら、何度もオスティナートされる。
高音部のフレーズ末尾には、有無を言わせないようなトーンの3つの和音が「ガン、ガン、ガン」。
その直後に低音が駄目押しのように、ガガ~ン。
まるで法廷で打ち鳴らされる槌のような無慈悲な響きの和音の繰り返しは、審判の峻厳さ。

Messiaen - Visions de l'Amen V-VI (Pace-Roma)



7. 成就のアーメン "Amen de la consommation"
[キリストにおいて約束された世界が成就した至福の時。神の最後の"Let it be"。「創造の主題」に回帰して、子供のような歓喜の波が次か次へと変形していく]

生気と輝きに満ちた「創造の主題」が一貫して演奏され、フィナーレらしく堂々として華やか。
いままで何度も出てきた「創造の主題」なのに、ここでは調性的に安定して、とってもメロディアス。
いろんなピッチで演奏されるところも、今までとはちょっと違う。
その主題と平行して、喜びを表わすように、高音部がいろいろなパターンの音型をキラキラと色彩豊かに、絶え間なく弾いている。歓喜の波のなかで、歌ったり踊ったりしているような情景が浮かぶ。
最後には、低音部の力強い和音の旋律も加わり、高音部のパッセージが細かく華やかなアルペジオや和音などで鍵盤上を動き回り、高揚感に満ちたエンディング。

Messiaen - Visions de l'Amen VII (Pace-Roma)



【参考サイト】
「Regards sur Olivier Messiaen オリヴィエ・メシアンに注ぐまなざし」
メシアンに関する情報サイト。伝記、ディスコグラフィ、音楽語法、年表、作品解説(一部の曲)など。
- Biography of Olivier Messiaen ~メシアンの生涯~
- メシアンの音楽語法
- Analysis of "Vingt Regards sur l'Enfant-Jésus"(「みどり児イエスに注ぐ二十のまなざし」の解析)


tag : メシアン パーチェ ローマ

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耳鳴り治療薬情報(5) 内耳ドラッグデリバリーシステム
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米国
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Draper Laboratory
3月下旬、米国国防総省が内耳ドラッグデリバリーシステム(DDS)に関する研究を独立系研究機関に委託したというニュースが報道されていた。以下は、ニュース記事の要旨。
"Buzz Kill: Self-Dissolving Tinnitus Treatment Gives New Hope"(自己溶解型耳鳴り治療法が新しい希望 ~ ペンタゴン(米国国防総省)の耳鳴り治療技術研究)(Scientific American,2012.3.23)
"Tiny in-ear drug vial could ease ringing noise"(耳の中の小さな薬瓶が耳鳴りを緩和できるかもしれない)(Boston Globe,2012.3.26)
※Buzzは、ハエの羽音のようなうるさいブンブン音を指すので、"煩い耳鳴り音を殺す"という意味だろうと思う。また、「Buzz Kill」(バズキル)という製品もあり、これはロードバイクのハンドルエンド部に差し込んで振動を減らすアイデア商品。

ペンタゴン(米国国防総省)が、Draper Laboratory(マサチューセッチュ州ケンブリッジ)に、耳鳴り緩和を可能とする薬剤放出装置のコンセプトを詳細に肉付けするように研究委託した。Draper Laboratoryは、1973年にMITからスピンアウトした独立系非営利の研究機関。
米国退役軍人省によると、中東(アフガニスタンとイラク)からの帰還兵の40%が耳鳴りを発症し、耳鳴りに対する高度障害給付支払予算は年間10億ドル。
医師たちが有効な耳鳴り治療ができないのは、内耳へ効果的に薬を投与するシステムがないからだ。
内耳へ薬剤を注入するインプラント可能なポリマーベースのマイクロスケール薬剤放出システムという手法により、耳鳴り治療をめぐる状況が数年以内に変わりうる。
このシステムは、内耳と中耳を隔てている膜に覆われた窓(直径3mm足らず)付近に挿入して、内耳へ薬剤を放出する。
装置の材質はポリマーカプセル。(Draper は内耳への注入薬は開発しない。)
計画では、患者や医師が投薬量をコントロールできるように、無線通信手段をカプセルに埋蔵する。
カプセルは、薬剤の放出を完了すると自己溶解する。
Draper's projectはまだほんの初期段階。臨床試験に至るまで数年はかかる。

すでに研究者のBorensteinは、難聴治療に的を絞ったDDSを開発しているが、それとは違った新しい技術的にも挑戦しようと決めている。それは最近新しく出てきたプラスチック性の電子機器分野のものであり、患者の必要に応じて投薬を制御する能力は、耳鳴りのコントロールや治療に新しい強力な手段を提供することができる。
1年間10万ドルの助成金で実験室内で使うプロトタイプの製作が可能であり、それが成功すれば動物実験、最後には人間で試験する必要がある、という。
使用する薬物は何か、その装置が機能する時間はどのくらいか、多くの疑問点は残っている。

ドラッグデリバリーシステム(DDS)は現在の一般的な耳鳴り治療法(深呼吸や、音を使ったマスキング・馴化訓練など)の多くのものよりは、はるかに期待できる。
鼓膜へのステロイド注入は、ある種の聴力障害・平衡障害には効果がある場合もあるが、患者の会話・呼吸や立ち上がったりすると、耳自体がこの薬剤を排出し始める。患者は複数回の薬剤注入に耐えなければならず、耳鳴りが緩和するまで注入後しばらく動けない状態が続く。
ジョン・ホプキンス大のLloyd Minor教授によれば、"概して耳鳴りに有効な治療法は多くはない。Draperの研究は、耳鳴り治療薬の注入方法としては斬新な方法となるポテンシャルがある。一般的には、内耳へ薬剤を効率的に注入するために使いたいと思うような種類のドラッグデリバリーシステムがない。"

耳鳴り治療に対して、Otonomy,Incなどで先進的なアプローチが数年間研究されているが、多くはまだ市場化の段階にはない。
Otonomy,Incは、徐放性のあるデキサメタゾン(dexamethasone:ステロイドの一種)ジェルをテスト中。このジェルはゆっくりと自己溶解し、聴力障害・平衡障害治療薬を内耳へ注入する。

Massachusetts Eye and Earの聴覚・神経学専門家Dr.Michael McKennaの見解は、「神経刺激アプローチは、現時点では内耳へのドラッグデリバリー法をベースにしたアプローチよりも、大きな期待が持てる。薬物ターゲティング療法の効果は疑わしいところがある。耳鳴りの原因は多様で、加齢に加えて難聴や外傷、循環機能障害などがあり、症状の重度も異なる。」
※神経刺激アプローチの研究例:MicroTransponder(テキサス大学からスピンアウトした医薬機器開発企業)は、てんかん治療用で耳鳴り患者にも有効なインプラント方式の有線神経刺激システムの用途拡大を研究中。(「耳鳴り治療のための音響・音楽療法 (7) Serenity System™ therapy (アップデート版)」参照)

Minor教授は「様々な研究を組み合わせて、耳鳴り緩和を可能とする治療法が完成するだろう。万能薬はない。さらなる技術開発が必要。Draper社の技術が期待通りに機能すれば、この分野で大きな進展となるポテンシャルを持っている。」


Otonomy社の開発中製剤
Otonomy, Inc.(本社:米カリフォルニア州サンディエゴ)は、現在、複数回にわたる内耳注射を不要とする画期的製剤を開発中。幅広い治療に応用可能。
この製剤の重要な構成要素は感温性(熱応答性)ジェル。中耳内の滞留時間を増やすことで、内耳の薬物曝露時間をより高いレベルにすることが可能。
臨床前の研究では、drug delivery profileが保持されていること、solution-based製剤よりも利点があることを確認ずみ。

候補となる2つの製剤(OTO-104とOTO-201)の開発が進行中。
「OTO-104」は、ステロイドであるdexamethasone(デキサメタゾン)の徐放性製剤。
現在の難聴・平衡障害治療におけるステロイド経口/鼓膜内注入の実施状況から考えると、「OTO-104」がターゲットとする市場規模は、米国内だけ毎年患者数100万人以上。
メニエール病患者における臨床試験が始まっている。将来的な研究対象としては急性難聴が計画されている。

「OTO-201」は、徐放性抗生剤(antibiotic)で、tympanostomy tube(中耳腔換気用チューブ)の埋込手術をした中耳炎患者のために開発された。
Otonomyは、「OTO-201」の臨床試験実施申請資料(INDA:Investigational New Drug Application)提出を2011年半ばと予想している。
また、その他の耳疾患(加齢による難聴、耳硬化症、耳鳴りなど)に対する医薬品候補についても調査中。

参考:メニエール患者での臨床試験結果概要"Otonomy Presents Positive New Findings from Phase 1b Study of OTO-104 in Ménière’s Disease at International Conference"
多施設無作為化二重盲検対照試験(Phase 1b)を実施。めまいと耳鳴りについて医学的に有意な改善効果があった。

参考文献
デキサメタゾンの耳鳴り治療効果に関する論文""Cortisol suppression and hearing thresholds in tinnitus after low-dose dexamethasone challenge."(抄録)論文全文(PDF)
BMC Ear Nose Throat Disord. 2012 Mar 26;12(1):4. [Epub ahead of print]
Simoens VL, Hebert S.(Cognitive Brain Research Unit, Cognitive Science, Department of Behavioural Sciences, University of Helsink/BRAMS, International Laboratory for Brain, Music, and Sound research、Canada)
-耳鳴り症状のある患者と症状のない対照群各21名。デキサメタゾンゾ0.5 mgを初日23:00に投与。Cortisol levelsを翌朝、1時間ごとに測定。デキサメタゾン抑制試験前後に、聴覚の検出閾値・不快域値を測定。
-両群とも基礎コルチゾール値は似ている。デキサメタゾン投与後、耳鳴患者はより強く長く持続するコルチゾール抑制を示した。
-耳鳴り患者の耳でコルチゾール抑制が発生すると、不快閾値は低下した。


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日本
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日本では、京都大学などで内耳ドラッグデリバリーシステムの研究・開発が進められている。

京都大学の研究・開発情報
IGF-1ゲル内耳治療第Ⅰ-Ⅱ相臨床試験
試験完了。試験結果は以下のサイトに記載。
「急性高度難聴症例に対する生体吸収性徐放ゲルを用いたリコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1内耳投与による感音難聴治療の検討」

IGF-1ランダム化臨床試験
現在、試験実施中。試験概要は以下のサイトに記載。
「急性高度難聴患者に対する生体吸収性徐放ゲルを用いたリコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1の内耳投与による感音難聴治療のランダム化対照試験」
実施される治療法は2種類:
1)IGF1治療:リコンビナント・ヒト・インスリン様細胞成長因子1(IGF1:商品名ソマゾン)含有ゼラチンハイドロゲルの内耳への投与
2)対照治療:ステロイド(デキサメタゾン:商品名オルガドロン)の内耳への投与

ドラッグデリバリーシステムに関する参考論文
「内耳疾患の治療をめざして―基礎研究の最前線 薬物の経正円窓投与」
(中川隆之・京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科頭頸部外科、「第109回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム」、2008)
「徐放化ドラッグデリバリーシステム(DDS) 医薬品を用いた最先端治療法の開発」
(田畑泰彦京都大学再生医科学研究所生体材料学教授、「京都大学先端医療開発スーパー特区連携推進プログラム」)


参考情報(ドラッグデリバリーシステム全般)
「ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発動向」
(『科学技術動向』2002年12月号,丸山典夫・多田国之、文部科学省科学技術政策研究所)
ドラッグデリバリーシステム(DDS)[治験ナビ]

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備考
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この記事は、現在行われている研究・開発のうち一部について情報収集したものです。
記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
正確な内容については、英文原文(ホームページ、論文など)をお読みください。


レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8 』 ~ ピアノ・ソナタ第32番 Op.111
レーゼルのベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集全曲録音プロジェクトの最終回は、2011年10月12日に紀尾井ホールで行われたリサイタル。
プログラム最後の曲は、当然のことながら、ベートーヴェンが書いた最後のピアノ・ソナタである第32番ハ短調Op.111。
リサイタルを聴いたブロガーの人たちは、軒並み絶賛している。このCDの録音がリサイタル当日のライブ録音なのか、前日のセッション録音なのかどちらなんだろう。
ライブ録音でなくても、これだけ素晴らしい演奏がCDで聴くことができただけで充分満足。

ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 Op.111[ピティナ作品解説]

第1楽章 Maestoso-Allegro con brio ed appassionato
レーゼルにしては、大胆なくらいについた緩急・強弱のコントラスト。
"峻厳な運命に対する抵抗と闘争"と"束の間の安息"を表わしているかかのように、疾風怒濤のような急迫感、緊張感に厳しさ、それと対極にある瞑想するような静寂さとが、見事なくらい鮮やかに対比されている。
Allegroに入った時、これは凄い演奏かも..という予感。
導入部のMaestosoが終わって、Allegroに入ると、単旋律とユニゾンの主題が9小節にわたって提示される。
強いアクセントのついた3音(C-E♭-B)がオドロオドロしく、この楽章の至るところで、この音型がエコーする。「運命の動機」のように、これが頭にこびりついて離れなくなる。
ritenente から a tempo でテンポが戻ると、8分音符が連続する単旋律のユニゾンがアッチェレランド気味に一気呵成に鍵盤上を駆け上がっていく。シャープでクリアな打鍵でかなりの急迫感。
主題の応答部はホモフォニック。緩徐部分はかなりテンポを落とし、弱音の静寂さが立ち込めている。
再びa tempoで主題が提示されるところでは、静寂さを打ち破るように、鋭く力強く突き刺さるようなタッチで始まる。
この繰り返し交代する緩急・強弱のパッセージは、変拍子のようにテンポやリズム感が一変して、別々の世界。
第86小節から右手の厚みのある和音で弾く主題と、上行する左手アルペジオの響きが、クレッシェンドしながら豊かに重なっていき、この勢いはかなりの迫力。

レーゼルのタッチは、急速部分では鋭く峻厳な打鍵で、一音一音釘を打ち込むように、力感があり明瞭。(レーゼルが若い頃に録音したプロコフィエフの《ピアノ協奏曲第2番》第1楽章のカデンツァの冷徹峻厳な演奏を思い出した)
66歳という年齢でも、速いテンポの細かいパッセージは崩れることなく、精巧で力感のある打鍵のコントロール力が凄い。
密度の高い音が重なりあう和声の響きは豊かで重層感があり、ペダリングが巧みなせいか、テンポが速くても混濁することがなくて美しい。レーゼルの濁りのない音色と和声の響きの美しさは、どの曲の演奏でも印象的。
何度聴いても、この第1楽章は本当に素晴らしい演奏だと思う。


第2楽章 Arietta  Adagio molto semplice e cantabile
テンポ、ディナーミク、タッチ、音色の色彩感と和声の響き、それに音楽の流れが完璧に調和して、いままで聴いてみたいと思っていた理想の演奏。
冒頭の主題はややゆったりしたテンポでも、molto sempliceの指示があるので、弱音の繊細さに耽溺することはない。
弱音の音色がやや暗く、音が少し沈んでいくように感じるところは、横たわって疲れた身体と傷を癒やしているような寡黙なモノローグ。
第1変奏、第2変奏に入ると、テンポもかなり上がり音色も明るく輝き始めて暖かい。柔らかく重なりあう響きとレガートな旋律がメロディアス。
第1変奏から第3変奏まで、楽譜上の音価が半分ずつ短くなっていき、段階的に(倍速で)速度が上がっていく。
ピークに達した第3変奏は、一貫して符点のリズムで統一され、躍動的なエネルギーが溢れている。ここをジャズ的という人もときどきいる。
レーゼルのインテンポで崩れないリズムと淀みなく繋がる旋律は、舞い上がるように軽やか。開放感と力強い高揚感で輝かいている。
まるで内面的な感情の軌跡のように、瞑想的なモノローグが叙情的な歌から歓喜の舞踏へと変容していく。

第4変奏に入ると、両手とも低音部で演奏され、弱拍部分で繋がれたある右手の和音の旋律は、霞がかったようにぼわ~と響く。
その後、スケールで駆け上がって両手が高音部へ移り、右手の旋律と拍子を刻むような左手の旋律は、透き通るようにクリアな音色で温もりと煌きがあり、鐘の音のように綺麗。
終結部に近づくと左手伴奏が高音のオスティナートから低音のアルペジオに変わり、弱音の静けさから一気に解放されて、豊かで力強い。
最後にトリルが登場すると動的な動きが止まって、水面の波紋の広がりを見ているように、時間の流れが変わる。
連打される左手バスの鐘のような音が、三重トリルの響きのなかに溶け込んでいく。

第5変奏へ入る前の移行部はかなりゆったりと弾いている。主題が和音の中に織り込まれて、そのまま途切れることなく第5変奏に。
主題は数小節にまたがる息の長い旋律になり、対照的に伴奏部分は第3変奏のように32分音符で分散和音で音が様々に変わり、内声部は拍子を刻むよう。動的な流れのなかにも、規則的なリズムが鼓動している。
クレッシェンドとデクレッシェンドが繰り返され、sfが交代する様子は、まるで大きな波のうねりのようなゆったりとした躍動感。
インテンポで、終盤に向かって着実に前進していくように、大きなうなりの中で徐々にクレッシェンドし、力強いフォルテと、最後は少しアッチェレランドしてクライマックスに。
輝きのある音色と途切れることのないレガートな流れのなかで、じわじわと内面から高揚感と開放感が湧き出てくる。(もう少しパッショネイトな高揚感があっても良いかも)

フィナーレは言葉では表わせないような美しさ。
3つの声部がそれぞれくっきりと浮かびあがり、透明感のある響きの美しさは、魂が浄化された純粋な世界。
右手の高音部のトリルが天高くクリアに響き、主旋律の弱音は静かに、伴奏的なパッセージはリズミカルで時々オスティナートのように響く。
最後にやや螺旋気味に上行するユニゾンは、澄み切った高音が天上の調べのように清らかで美しく。
やがて地上に舞い降りてくるかのように、ユニゾンのスケールで一気に下行し、穏やかに静かにゆっくりとフェードアウト。

ピアニストが音楽のなかに溶け込んで、音楽自らが自然にその姿を現しているかのような最後のソナタだった。
レーゼルが演奏を終えると、聴衆の拍手が鳴り止まなかったという。
今までのリサイタルでは、アンコールとしてベートーヴェンのバガテル集から1曲だけ弾いているけれど、この最後のピアノ・ソナタの後にアンコールなんてありえない。
レーゼルが自らグランドピアノの蓋を静かに閉じた後も、聴衆のスタンディング・オベーションが続いていたそうです。

                            

CDのブックレットの最後2ページには、レーゼルからのメッセージの言葉が日本語・ドイツ語で書かれている。
レーゼルにとって、このベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会というツィクルスは、「挑戦を伴う仕事であり、私は勇気と情熱を持ってこの仕事に取り組みました。」
コンサートシリーズの主催者である新日鉄文化財団とCD製作者のキングレコードに対する謝辞も書かれている。
最後の言葉は「私の生涯の夢がかなったのですから。」

この全曲演奏会が始まるきっかけとなったのは、2007年4月29日東京・紀尾井ホールで行った30年ぶりの来日リサイタル。
ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ3曲というプログラムで、この時の演奏があまりに素晴らしかったため評判になったことから(「音楽の友」2007年ベストコンサートでピアノ部門1位)、このベートーヴェン全曲演奏会・録音プロジェクトが始まった。
それ以前の2005年ドレスデン音楽祭では、紀尾井シンフォニエッタ東京とベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を演奏している。このときのレーゼルの演奏が素晴らしかったため、紀尾井ホールでの来日リサイタルにつながったという。(ドレスデン音楽祭のレポート)

旧東独時代に国営レコード会社ドイツ・シャルプラッテン(VEB Deutsche Schallplatten)に録音したベートーヴェンのピアノ・ソナタは、今CDが入手できるものが7曲。全集録音はしていなかったらしい。
そのうち、ベルリンの壁の崩壊とともに、東ドイツの社会主義体制も崩壊。同時にドイツ・シャルプラッテンも消滅した。
東独時代に膨大なレコーディングを行っていたレーゼルも、90年以降は新譜が見当たらない。
西側のレーベルとは契約せず、新規の録音をすることがなかったらしい。("Answers"というウェブサイトのプロフィールでも、"the pianist's activity in the recording studio began to taper off in the latter twentieth and early twenty first centuries"と書かれている。一方、演奏会は欧州、米国、アジアで頻繁に行っている) ドイツ統一後、旧東独の音楽界の主要ポストに西側の音楽家などが就任し、レーゼルは長い不遇の時代を忍耐強く過ごしたという話もあるらしい。

30年ぶりの来日リサイタルをきっかけに、遠く離れた日本から、ベートーヴェンのピアノ・ソナタとピアノ協奏曲の全曲ツィクルス、それにピアノ・ソナタ全集録音のオファーがあるとは、レーゼルにとって思いがけないことだったはず。
多くのピアニストにとって、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音することは、"生涯の夢"に違いない。
レーゼルにとって、「ベートーベンは常に傍らにいてくれる最上の友人であり、生涯到達しえない謎の人でもある。」
全集録音を完結させるために毎年数曲ずつ演奏会で弾き、録音していった4年間の歳月は、25年間を費やして32曲のピアノ・ソナタを書き上げたベートーヴェンとじっくりと向き合うために必要な時間だったのでしょう。

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宮澤賢治 『春と修羅』
随分暖かくなって春らしくなってきたので、ふと思い出したのが宮沢賢治の詩集『春と修羅』。
この詩集は、今まで読んでいたどの詩集とも違った感覚の世界。
Kenさんのブログ<Kanazawa Jazz days>で以前に紹介されていた序文の冒頭の一文がとても印象的だった。
人間と物質と色彩のイメージが入り混じった独特の比喩で、幻想的でありつつリアリティを感じさせる不思議な世界。

  わたくしといふ現象は
  仮定された有機交流電燈の
  ひとつの青い照明です
  (あらゆる透明な幽霊の複合体)
  風景やみんなといつしよに
  せはしくせはしく明滅しながら
  いかにもたしかにともりつづける
  因果交流電燈の
  ひとつの青い照明です
  (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

 『春と修羅』(青空文庫)

『春と修羅』のおさめられている詩の文字から感じされる肌触りと色彩感は独特。
出てくる言葉は、詩的なイメージを喚起する言葉、心の動きを伝える言葉、いつもの生活で取り囲まれている馴染みのあるモノの名前、無機的な技術用語、自然界にある動植物や諸々の事象、宇宙空間に存在する天体、etc.
異質と思えるようなイメージや感覚を持つ言葉が連なっていくところは、感覚的にとても斬新で不思議な面白さ。

無機的なモノの世界は、ざらざら、ゴツゴツ、クール。叙情を拒否するような触感がある一方で、色とりどりのモノの世界でもあって、とても色彩感豊か。

そこに人間の表情、動き、感情が入り混じっているところは、比喩というよりも、有機的な生命体と無機的な物質とが渾然一体となって、強い視覚的イメージを湧き起させる。

絵画というよりも、映画やドラマに出てくるようなリアリティのある情景がくっきりと目の前に現れて、ときどき、幻想的な世界を見ているような不思議な感覚。

それに、旧かなづかいの詩は、空気を含んだような柔らかさとレトロな時間感覚をかもし出して、現代の詩とはちがった味わい。
こういう詩は、ざらざらとした紙に印刷された縦書きの本で読みたい。その方がこの詩集にはふさわしい気がする。

文字を見てこんなに魅せられる詩はいままで出会ったことがないのに、とても親近感を感じてしまう。
それはたぶん、『銀河鉄道の夜』など賢治の作品のなかに、この詩の世界とどこか相通ずるような空気や肌触りを感じるから。

宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)宮沢賢治全集〈1〉 (ちくま文庫)
(1986/02)
宮沢 賢治

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『春と修羅』について検索していて、偶然見つけたのが、社会学者の野村一夫教授の「社会学感覚-自我論/アイデンティティ論」
『春と修羅』序詩を自我論という観点から解釈したもの。
賢治のこの序詩は、「「わたくし」=自我が流動的な現象であり、自然と他者の関数であり、それゆえ矛盾を内部にかかえこんだ複合体であるということ」を表わしているという。
ずいぶん昔に学んだ社会学と宮澤賢治の接点がこういうところにあったとは...。偶然の発見とはいえ、何かの縁があったのかも。


レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8 』 ~ ピアノ・ソナタ第1番 Op.2-1
レーゼルのベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集全曲録音プロジェクトの最終回は、2011年10月12日に紀尾井ホールで行われたリサイタル。
ベートーヴェンが初期と最後に書いたピアノ・ソナタ4曲を、第2番、第31番、第1番、第32番の順番で演奏している。
後半のプログラムは、最初と最後のピアノ・ソナタを2曲続けて演奏するというかなりユニークなプログラム。
レーゼル曰く、「私としては作曲時期こそ離れていますが、それほど大きな違いは感じていません。というのも、作品2-1の最終楽章と作品111の第1楽章は雰囲気が非常に似ていて、怒りや不屈といった気持ちを抱くものですから、弾き手としては自然に入っていけるのです。」(「レコード芸術 2012年3月号」掲載のインタビューより)

若きベートーヴェンの意欲に満ちた第1番は、疾風怒濤のような荒々しさがある。
レーゼルのピアノで聴いていると、強い意志と渦巻くような情熱が漲るなかにも、洗練された美しさと端正さがきらきらと輝いている気がしてくる。
ベートーヴェンはいつの時代でも、理性と感情の均整がとれた美しさがあると思う。

ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調Op.2-1 [ピティナ作品解説][楽譜ダウンロード(IMSLP)]


第一楽章の冒頭部分から、師ハイドンのピアノ曲とは違ったベートーヴェンらしさが刻印されている。
Op.1の3つのピアノ三重奏曲第3番ハ短調よりもさらにストレートに、暗く揺らめく情熱がほとばしるベートーヴェンの世界。

第1楽章 Allegro
ヘ短調で悲愴感のある冒頭スタッカートのアルペジオの主題がとても印象的。時々調性を変えながら繰り返しエコーする。
最初の2つの音を聴いただけで、この曲だとすぐわかってしまう。
第2主題は、左手か右手のどちらかが絶えず細かく動きまわり、立ち止まることなく走り続けているよう。
左手がオクターブ離れた音で急速移動する伴奏の音型は、ピアノ・ソナタ第7番や第8番《悲愴ソナタ》とかでもよく出てくる。
レーゼルの澄んだ響きと落ち着いたクールな音色が爽やか。張りのある音でひく滑らかなレガートも綺麗。
弾力のあるタッチで弾かれる左手の伴奏は、その音型のなかに埋め込まれている旋律がくっきりと浮き上がってくる。
時折挟まれる左手のシンコペーションのリズムは、ピンと張った弦をはじくように、強いアクセントになっている。

第2楽章 Adagio
ベートーヴェンは、andanteよりもadagioを指示していることが多いという。(中野達哉さんの『ブラームスの辞書』によれば、「Adagioのベートーヴェン、Andanteのブラームス」)
ベートーヴェンのadagioは、端正なロマンティシズム漂う美しい旋律と和声の曲が多い。
この楽章も、ゆったりと歌うようなレガートな旋律とシンプルな分散和音の伴奏に、牧歌的な穏やかさと優しさが満ちて、うっとり。レーゼルの透明感のある明るい響きがほんとによく映えている。

第3楽章 Menuetto,Allegro
メヌエットはヘ短調で漠然とした不安感と悲痛感が漂い、どこかしら落ち着かない雰囲気がする。
トリオはヘ長調に転調して明るく軽やか。主題が右手から左手へと順にあらわれ、その後で弾かれるユニゾンの主題の響きがとても綺麗。

第4楽章 Prestissimo
第1楽章よりも、さらにベートーヴェンらしい疾風怒濤の勢いのある楽章。
右手の和音が力強く連打されるところは吹き荒れる嵐のようで、左手の三連符の伴奏がアルペジオを交えながら鍵盤上を上行・下行し、絶えず疾走しているような雰囲気。

21小節目で高音部から一気に駆け下りてくる下行スケール。
右手の4分音符を浮き上がるように強く響かせる人が結構多い(これがわりと面白い響きに聴こえる)。レーゼルはこの音にアクセントはつけず、あえて強調することはしていない。
その直後にユニゾンで2回続けて弾く"A♭-G-F♯-G-A♭-G-F♯-G"の旋律は、不吉に忍び寄る足音のようでゾクゾクとする。
34小節目から右手オクターブの主題が繰り返し下行して行きつつ、左手の分散和音の伴奏がじわじわと上行していくところは、嵐に立ち向かおうとする静かな力強い意志のように聴こえる。
展開部は、ほっと一息つくような、伸びやかで愛らしい主題。高音の旋律の響きが、甘くきらきら煌いている。

最終楽章は疾風怒涛の如き曲想のせいか、嵐が叩きつけるようにフォルテを勢いよくバンバン弾く演奏が多いので、耳に痛い。たしかに迫力はあるけれど。
レーゼルのフォルテはタッチがシャープで力感はあっても、音が割れずにクリアで引き締まった綺麗な音で、耳に突き刺さるようなこともなく。
右手で弾く主題の3つの和音のうち、第1拍の強拍にくる最後の和音にアクセントをつけ、響きが長めで伸びやか。
速いテンポでも勢いにまかせることなく、鋭く精巧なタッチとクリアな響きで引き締まったフォルムは、激しい感情が噴出する情熱というよりは、きりりとした凛々しい覇気を感じさせる。


                       

ベートーヴェンの伝記を読んでいると、師ハイドンとのエピソードがいろいろ登場して、これが結構面白い。
師弟関係といっても、実質的には直接ハイドンから指導を受けたことは少なく、ベートーヴェンは他の作曲家に作曲技法を学んでいる。
すでに有名な大作曲家であったハイドンは、公私とも多忙で、イギリス渡航の時期とも重なって、ベートーヴェンに詳しく作曲に関して教えることは無理だったらしい。

ベートーヴェンは、一応ハイドンに対位法の指導を受けたが、これがかなりアバウトで、まともに対位法を使って作曲できるレベルの指導ではなかったという。
ベートーヴェンが他の作曲家に対位法を学びに行ったとき、対位法の基礎が習得できていないことに驚かれてしまったほど。
ベートーヴェンの最初の作品であるピアノ三重奏曲3曲を初演で聴いたハイドンは、3番目のハ短調は出版しない方が良いと忠告したが、ベートーヴェンはそれを受け入れずに、そのまま出版した。これも、2人の関係をややこしくした原因の一つ。

ベートーヴェンの作品番号1は、彼の得意なピアノ・ソナタでなく、なぜか、ピアノ三重奏曲。
『室内楽の歴史―音による対話の可能性を求めて』(中村孝義著)の分析では、すでにピアニストとして有名なベートーヴェンがピアノ・ソナタをデビュー作として発表すれば、作曲家としてのイメージがピアノ作品に限定されかねない。
当時、新人作曲家たちは、重要なジャンルの弦楽四重奏曲を作品番号1として発表し、デビューするというパターンが定石。
この弦楽四重奏曲はハイドンが完成された様式を確立しているため、ベートーヴェンがすぐには太刀打ちできない分野。
結局、当時さほど優れた作品がないピアノ三重奏曲なら、作曲家として認められやすいという判断によるもの。
それに、普通、作品番号1は師に献呈されるはずなのに、ベートーヴェンはそうしていない。
最初に師に献呈したのは、作品番号2のピアノ・ソナタ3曲。

ベートーヴェンの初期の作品を番号順に見てみると、最初の10曲はわりとマイナーな分野の室内楽が多く、そこに作曲家として名をなそうという野心的なベートーヴェンの戦略的な視点が見てとれるという。
 Op.1 ピアノ三重奏曲第1番~第3番
 Op.2 ピアノソナタ第1番~第3番
 Op.3 弦楽三重奏曲
 Op.4 弦楽五重奏曲
 Op.5 チェロソナタ第1番~第2番
 Op.6 四手のためのソナタ

当時、ピアノ三重奏曲は、家庭音楽的な娯楽的色彩を持っていたが、ベートーヴェンは、いわゆるウィーン古典派と言われる理想的スタイルからは逸脱した、新鮮な着想と清新の意気に満ちた作品を書いた。
第1番と第2番は長調で明るく軽快。第3番のハ短調になると、これはいかにもベートーヴェン的な世界。
第1楽章の主題の性格が、大きな感情の揺れをストレートにぶつけるようで、不安感を呼び起こす暗鬱な情熱と不気味な雰囲気。展開部もベートーヴェンらしく主題を徹底的に展開していくので、楽章全体の性格は重く、力強く激しい緊張感に満ちた性格。第3、第4楽章も同様。
作品番号1は好評で、ベートーヴェンの新人作曲家としてのデビューは成功だった。

<参考文献>
『ベートーヴェン〈上〉』(「ハイドンとベートーヴェン」),メイナード・ソロモン著,岩波書店,1992
『室内楽の歴史―音による対話の可能性を求めて』,中村孝義著,東京書籍,1994

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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8 』 ~ ピアノ・ソナタ第31番 Op.110
レーゼルのベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全曲集演奏会録音プロジェクトもとうとう完結。
最終回のリサイタルは、2011年10月12日、紀尾井ホールにて。
このCDは全てライブ録音だと思っていたけれど、セッション録音も交えて...とPR文に書いている。たしかに、リサイタルは1日だけなのに、シリーズのCDにはリサイタル前日も録音日として記載されている。
一部編集しているのか、それとも曲(または楽章)ごと、入れ替えているのか、どちらなんだろう。
でも、録音で聴いた演奏自体が良かったので、編集のことを気にする必要もないかと。

今回のリサイタルでは、ベートーヴェンが初期と最後に書いたピアノ・ソナタ4曲を、第2番、第31番、第1番、第32番の順番で演奏している。
第2番はそれほど好きな曲ではないけれど、第1番は結構好き、第31番と第32番はこの上なく好きという、またとないプログラム。
でも、全曲を一気に聴き通すのはかなりヘビー。これをライブで聴いた人はかなりの集中力が必要だったのでは。

ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 8
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

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ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110[ピティナ作品解説]

プログラム前半の2曲目が、ピアノ・ソナタ第31番Op.110。
レーゼルは予想通り、細部まで凝った感情表現や派手な緩急強弱のコントラストをつけるのではなく、精密で安定した切れの良い技巧と澄んだ豊かな和声の響きが美しく、淀みなく滑らかな音楽の流れと過剰な飾りのない表現。
聴けば聴くほど自然に身体のなかに浸みわたってくる。今まで聴いた31番ソナタのなかでも、とりわけ素晴らしくマイベストになりそう。
今まで一番良く聴いてきたアラウの新旧2つの録音に比べて、レーゼルは細かいディナーミクのコントラストが緩めで、ルパートも控えめなので比較的インテンポ。
タッチや表現が粘ることなく、淀みなく流れ、輪郭が明確ですっきりとしたフォルム。
特に、柔らかく温もりのある音色と澄んだ響きが美しく、厚く長めの残響の和声でも、濁りなく充実した響きに包まれるような感覚。落ち着いた音色は多彩に変化し、響きのバリエーションも豊か。
フォルテになると、レーゼルらしい左手の力強く弾力のあるタッチで、明確に打鍵していくので、ゆるぎない安定感がある。
レーゼルの31番ソナタは、内面の軌跡が描かれているような叙情美しいこのソナタのなかに、過去の感情が浄化され、強い意志の力が流れているように感じさせるものがある。


第1楽章 Moderato cantabile molto espressivo
柔らかく軽やかであっても、芯のしっかりした響きが伸びやか。音の輪郭も明瞭で、落ち着いた色彩感が綺麗。
濁りのない澄んだ響きには厚みと暖かみがあって、包みこまれるようなとても心地良い響き。
主題部分の左手伴奏和音や、続く右手のアルペジオは、アクセントがついた1拍目の音がよく響き、リズミカルに一つの旋律のように繋がっている。
弱音部分でも粘りのないタッチで、細部の繊細さに拘泥することなく、淀みないレガートが滑らか。
かなり細かくペダルを入れているのだろうか、残響が長めで、異なる和音が連続する低音部のパッセージでも音が濁らない。
この美しいソノリティと過剰さのない表現は、清々しく爽やかな叙情感。過去や雑念を洗い流したような、澄み切った心情を感じさせる。

第2楽章 Allegro molto
シンプルな和音とシンコペーションのリズムが面白いスケルツォ。
両端楽章とは全く異なる曲想と音の配列は、全く別世界で戯れているようにも聴こえる。
少しゆったりとしたテンポをとり、ややノンレガートなタッチと正確に刻んだリズムで、一音一音が明瞭でかっちりとしたフォルム。

展開部は、左手の飛び跳ねる音がリズミカルで、右手は一音一音明瞭に下行していく。音が無邪気に戯れているような雰囲気。ちょっとユーモラスな部分もあるかも。
ここは左右の手を交差して弾くところで、高音部のフレーズの最後の2音を強いスタッカートで弾く人が多い。
レーゼルのスタッカートは少しふんわりした柔らかいタッチなので、雰囲気的な統一感がある。(この弾き方はとても好き)
最後はもやもやとした曖昧さが立ち込めて、主題が再現される。
ユーモラスな雰囲気の中にも、主題部には漠然とした不安感や焦りなような何かが漂っているかのようにも感じる。
でも、休符の小節の直前、リタルダンドの後に突如現われるフォルティシモの和音は、突き刺さるように強くて切れが良い。
まるでそういう迷いを断ち切るかのように潔く響いている。

第3楽章 Adagio,ma non troppo - fugue,allegro ma non troppo
最初のアリオーソ。テンポや強弱をそれほど細かくは変化させず、左手がきちっとリズムを刻み、右手の旋律はクリアな響きで淀むことなく、やや淡々としたタッチ。
そのなかにも細部で小さな揺らぎが挟み込まれているので、単調さや素っ気なさはなく、レーゼルらしいストイックな叙情感が美しい。

続いて現われる最初のフーガ。各声部の旋律線がしっかりと分離されているけれど、レーゼルのフーガは何よりも旋律がからみあう和声の重なる響きに厚みがあって、豊かに響く。
左手低音部のフォルテも力強く立ち上り、崩れることのない構築物のような重層感があり、揺らぐことない力強さのある堂々としたフーガ。

2度目のアリオーソ。最初のアリオーソに比べて、全体的に弱音寄りになり、左手側の和音のタッチが柔らかく、右手側の旋律は少し弱々しげ。
静かに内面と対峙しているように、哀しみがほのかに漂うようなストイックな叙情感のなかにも、最初のアリオーソよりも強い感情が篭められているような気がする。

2度目のフーガは、最初のフーガとは逆に下降する。アリオーソの痛みをゆっくりと癒しているようにも聴こえる。
冒頭はuna cordaのはずだけど、それほど弱音化していないので、弱音ペダルを踏んでいないような感じがする(たぶん気のせい)。
最初からかなりクリアな響きで、比較的早く生気が蘇るように、輪郭もしっかりして、響きも明瞭。
左手のオクターブも弾力があって力強く、リズムと音色が多彩に変化し、動的になっていくフーガの絡み合う旋律の和声の響きが豊か。
やがてフーガが解体していくようにリズムが崩れて拡散しつつ、モノフォニックなコーダに入るところは、アッチェレランドしてかなり速いテンポ。

コーダに入ると、最初のフーガの主題が左手オクターブ、右手の単音の旋律から和音の旋律へと順番に現われ、輝かしい復活の喜びに溢れている。
左手オクターブの重音で弾くフーガの主題は、杭を打ち込むように弾力があって力強い。
この速さでも、打鍵もリズムも精密で少しも乱れるところがなく、このまま一気に駆け抜けていく。この力感と疾走感は圧巻。
特に、左手の力感のある明瞭な打鍵とシャープなリズム、分散和音でも重音でも音の粒立がちよく、濁りのなく充実した響きがレーゼルらしい。
最後に低音部から力強く立ち上ってくるアルペジオは、フィナーレに相応しい重層感のある堂々とした響き。
今まで比較的抑えた表現だったせいか、感情が解放されたような高揚感と、強くゆるぎないポジティブな意志が輝いているかのような、本当に素晴らしいエンディング。

tag : ベートーヴェン レーゼル

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耳鳴りと栄養・サプリメント(4)GABA、バレリアン
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GABA サプリメント 
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サプリメントのなかで、GABAやイチョウ葉エキスは耳鳴りに効くと言われている。
米国では、GABAやイチョウ葉などをミックスした耳鳴専用サプリメントが販売されている。

イチョウ葉エキスについては、ドイツで使われている医薬品「GEb751」(Dr.Schwabe製薬)の効力が複数の臨床試験で確認されているが、サプリメントについてはデータがない。
医薬品とサプリメントでは品質が異なるため、医薬品で効力が確認されていたとしても、サプリメントが同じ効力を持っていることにはならない。

国立健康・栄養研究所のデータベース情報によれば、サプリメントで摂取するGABAにおける耳鳴り治療効果の有無について、信頼性の高い臨床試験データ・科学的論文が今のところ発表されていない。
 「健康食品」の安全性・有効性情報:γ-アミノ酪酸(ギャバ)(「健康食品」の素材情報データベース)[(独)国立健康・栄養研究所]

GABAは、「血液脳関門を通らないため、食べ物で摂取しても脳には到達しない」と言われている。
「血液脳関門」の用語解説 :日本薬学会)
従って、体外からサプリメントとしてGABAを摂取しても、それが脳内に取り込まれることはない。
しかし、一方では、GABAを摂取すると、血圧やコレステロール値が低下したり、ストレスマーカーであるクロモグラニンAやコルチゾールの増加が抑制されたり、低下するというストレス抑制効果を示すデータが実際に存在している。

この矛盾に対する説明として諸説あるらしく、高田明和浜松医大名誉教授の解説では、「血液中に溶け出したGABAは腸管などに作用し、腸管から脳中枢に行く迷走神経系を刺激することで、リラックスなどの効果をもたらしている」と説明している。(前編の1ページ目)
 「GABA成分が働くメカニズムとは(前編) 高田明和浜松医大名誉教授に聞く」[日経ビジネス]

また、横越英彦静岡県立大学教授の説明では、”GABAを与えると成長ホルモンが増加ため、GABAの投与量に比例して大脳皮質や小脳のたんぱく質の合成速度が上がることが、脳機能に与える影響の原因ではないか"としている。
 「脳機能に影響を与える食品成分」 [社団法人全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会]

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参考情報:バレリアン
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(1)バレリアンに関する情報データベース
ドイツの薬用植物の評価委員会ミッションEは、バレリアンの「不眠症」、「精神不安」などに対する使用を承認している。
耳鳴りに効くというわけではないが、いろいろ情報を調べると、GABA受容体と関係があるらしい。
バレリアンに関する詳しい情報が記載されているのは、日本語サイトでは国立健康・栄養研究所、海外の英文サイトでは米国国立衛生研究所のデータベース。

「健康食品」の素材情報データベース:セイヨウカノコソウ(俗名:バレリアン)[独立行政法人国立健康・栄養研究所]
「Dietary Supplement Fact Sheet-valerian」(National Institutes of Health:アメリカ国立衛生研究所)
バレリアンの成分とGABAとの関連性に関して、過去の複数の研究結果が紹介されている。

(2)バレリアンの成分と作用、有効性、安全性
バレリアンの成分と作用
-バレリアンに含有されている多くの化学的成分が特定されてるが、催眠効果をもたらしているのがどれなのかは、動物実験でもin vitro試験でも解明できていない。
-単一の有効成分ではなくて、複数の成分が独立して、または相乗的に作用した結果ということがありえる。

-バレリアンの催眠効果をもたらしている主要な成分は2つのカテゴリーだと提示されてきた。最初のカテゴリーは、バ​レ​レ​ン​酸​と​そ​の​誘​導​体を含む精油の主要成分を構成しているもの。動物実験で確認されているが、これらをほとんど含まないバレリアン抽出物も催眠効果があるため、他の成分が催眠効果をもたらしてい可能性がある。
-2つめのカテゴリーは、イリドイド由来のvalepotriatesを含むもの。valepotriatesとその誘導体は、in vivo試験で催眠作用は確認されたが、貯蔵や水溶液環境では不安定で崩壊するため、その作用を評価するのが困難。
-バレリアン抽出液がもたらしているかもしれない催眠効果のメカニズムは、シナプス間隙中のGABAを増加させるというもの。
-シナプトソームを使ったin vitro試験の結果、バレリアン抽出物は脳の神経終末からGABAを放出し、GABAを神経細胞内に再取り込みされるのをブロックする。さらに、GABAを破壊する酵素をバレレン酸が阻害する。
-バレリアン抽出物は量的には催眠効果を引起すに充分な量のGABAを含有しているが、GABAが血流脳関門を越えて催眠効果をもたらしているのかはどうか不明。
-グルタミン酸が水溶液中に存在するが、アルコール抽出物中には存在せず、血流脳関門を越えてGABAに変換されるのかもしれない。
-以上の成分が植物中に含まれるレベルは、植物が収穫される時期に左右されており、バレリアン製剤の含有量は一定していない。

バレリアンの有効性に関する臨床試験結果
異なる臨床試験研究結果が公表されており、その解釈を複雑なものにしているのは、臨床試験の被験者が少なく、使用したバレリアンの種類や投薬量が異なるため、試験結果がそれぞれ違っていること、または、被験者の高い脱落率がもたらす潜在的なバイアスを考慮していなかったである。
全体的に言えば、バレリアンの催眠効果について過去の臨床試験のエビデンスは決定的なものではない。

(以上、出典:「Dietary Supplement Fact Sheet-valerian」(National Institutes of Healthを要約)


バレリアンの安全性
カナダ保健省から出されたナチュラルヘルス製品に関する注意喚起情報(090116)によれば、バレリアン含有製品について、1990年1月1日~2008年5月31日までに31件の有害事象の報告があり、そのうち15件が幻覚や悪夢など精神的なもの。

(3)バレリアンに関する臨床試験報告と論文レビュー
バレリアンに関しては、かなり多くの臨床試験報告とレビューが公開されている。
いくつかピックアップしてみると、2002年のドイツの臨床試験では、不眠症やその他の睡眠障害に対してバレリアンの有効性が示されている。
しかし、その他の臨床試験では、主観的指標(睡眠の質)の改善には効果があるが、客観的指標では効果が確認できない、または、プラセボと効力では大差がない、などバレリアンの有効性を否定する研究も多い。
この臨床試験結果のばらつきについては、使用したバレリアンの品質の相異、試験方法の違い(用量や服用期間など)、有効性を判断する指標の測定方法の違い、プラセボの不使用などが原因として考えられるという分析がある。

Efficacy and tolerability of valerian extract LI 156 compared with oxazepam in the treatment of non-organic insomnia--a randomized, double-blind, comparative clinical study.
Eur J Med Res. 2002 Nov 25;7(11):480-6.
Ziegler G, Ploch M, Miettinen-Baumann A, Collet W.(Institute fur Psychomatische Forschung,Germany.)
被験者:18-73歳、202名。不眠症の期間は平均3.5ヶ月間。
試験方法:マルチセンター、二重盲検、無作為化、並行群間比較試験。
用量:バレリアン抽出物「LI 156」(商品名:Sedonium)を600 mg、または、oxazepamを10 mg。
投薬期間:6週間
試験結果:バレリアン投与群は、睡眠の質(Sleep quality(SQ)が向上し、oxazepam投与群と少なくとも同等の効力を示した。他の指標(覚醒時のfeeling of refreshment(GES),夜間の精神的安定度および疲労度、夢の記憶,睡眠の持続時間など)でも、両方とも類似の効果が確認された。

Effectiveness of Valerian on insomnia: a meta-analysis of randomized placebo-controlled trials.(meta-analysis)
Sleep Med. 2010 Jun;11(6):505-11. Epub 2010 Mar 26.
Fernandez-San-Martin MI, Masa-Font R, Palacios-Soler L, Sancho-Gomez P, Calbo-Caldentey C, Flores-Mateo G.(Servicio de Atencion Primaria Litoral, Institut Catala de Salut, Barcelona, Spain.)
過去のバレリアン製剤の無作為化プラセボ比較試験(RCTs)を検索・スクリーニングし、18件を抽出。
量的または客観的測定データでは、バレリアンは睡眠改善効果を示していなかったが、質的なニ者択一の(qualitative dichotomous)結果では、バレリアンが不眠症の主観的改善に効果がありうることを示している。
研究グループは、より効果が期待できる他の治療法を調査することを推奨。

Complimentary and Alternative Medicine for Sleep Disturbances in Older Adults(Review)
Clin Geriatr Med. 2008 February; 24(1): 121–viii.
doi: 10.1016/j.cger.2007.08.002
Nalaka S. Gooneratne(Division of Geriatric Medicine, Center for Sleep and Respiratory Neurobiology, University of Pennsylvania School of Medicine)
臨床試験上の論点は、使用しているバレリアンの成分が違う点。複数の無作為化プラセボ対照試験で、400~900mgのバレリアンが使用されている。
結果にばらつきあり。主観的評価では改善効果があっても、客観的評価では効果が高くない。プラセボ効果が高すぎてバレリアンとの主観的改善度に有意が差がなかった試験もあり。
過去の文献サーベイの結論として、バレリアンは複数の無作為化プラセボ対照試験で、特に2週間以上服用した時に、主観的評価では穏やかな睡眠改善のエビデンスがあるように思える。客観的試験では結果に一貫性がなく、効果はほとんどないか、または皆無。いくつかの報告では徐波睡眠が増えている。
既存文献では、方法論の制約、非標準化製剤の使用、小規模試験のため、良質で規格化されたバレリアンが開発されれば、さらに大規模な研究が必要である。

A systematic review of valerian as a sleep aid: safe but not effective.(Review)
Sleep Med Rev. 2007 Jun;11(3):209-30.
Taibi DM, Landis CA, Petry H, Vitiello MV.
Women's Health Nursing Research Training Grant, Department of Family and Child Nursing, University of Washington
バレリアンの有効性に関する診療試験結果をデータベース検索で調査したところ、36論文(37試験)が抽出された。
うち29件が有効性と安全性のための比較対照試験、8件が安全性のみを評価した非盲検試験。
大半の研究でバレリアンとプラセボでは、睡眠障害または不眠症患者でも、健康な被験者でも、その効力に有意な差が見られなかった。
近年の研究は、方法論上非常に厳格であり、バレリアンが副作用がまれな薬草であるという説は支持しているが、不眠症患者ための睡眠補助として、バレリアンの医学的有効性は支持していない。

Treating primary insomnia - the efficacy of valerian and hops.(Review)
Salter S, Brownie S.Aust Fam Physician. 2010 Jun;39(6):433-7.
過去のバレリアンに関する臨床試験報告の簡易な一覧リストあり。試験概要と結果が比較できる。
 試験概要の比較項目:試験実施年、被験者数、年齢(中間値)、投薬量・期間
 試験結果の比較項目:合計睡眠時間、入眠までの時間、徐波、中途覚醒、睡眠の質
研究成果にばらつきが多いため、研究結果の比較と解釈が難しい。
各研究設計の相違点は、睡眠障害の定義と測定方法、被験者のスクリーニング基準、投薬量・期間。
さらに、エキス抽出方法によって、異種のハーブに含まれる有効成分の組成・凝縮度が異なることも、試験結果の相異をもたらしているかもしれない。植物の組成は、栽培方法、種、気候と季節、地理上のロケーション、抽出技術によって変化する。
多くの研究の制約条件は、投薬期間の短さ(例:1日のみ)、被験者数の少なさ、クロスオーバー試験でのウォッシュアウト期間が不十分、薬草、ハーブエキス製剤方法の違い(例;エタノール抽出vs水溶液)、投薬量の違い、睡眠パラメータを測定するためのツールの違い、プラセボの不使用。

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備 考
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入手した情報を読んだ個人的な印象としては、GABAのサプリメントを摂取しても、GABAが脳内にそのまま取り込まれて神経伝達物質として使われることはないため、耳鳴りを引起している脳内の神経活動を抑制する働きはないように思える。
迷走神経などの別の神経系統を通じて、精神安定効果はあるようなので、耳鳴りの聞こえ方や感じ方が変化し、耳鳴りが緩和されたと感じることは、ありうるのかもしれない。
信頼性の高い臨床報告が見当たらないので、GABAのサプリメントやGABA含有食品を摂取しても、耳鳴り緩和効果があるかどうか、かなり疑わしい気はする。

バレリアンは、臨床試験結果のばらつきが大きく、臨床試験で効力が確認された特定の医薬品を除いて、品質が異なるサプリメントを摂取しても、安定した催眠効果が得られるのかどうか、わからない。

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利用上の注意
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日本語訳は厳密な精度を期したものではありません。
正確な内容は英文原文をお読みください。

ホームベーカリーに関するトピックス ~ 「siroca」、アジアのホームベーカリー
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超低価格ホームベーカリー 「siroca」
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今、日本で売れている一番大人気のホームベーカリーは、あの「GOPAN」ではなくて、「siroca」
私が使っているのはちょうど4年前に購入したPanasonic製のホームベーカリー。
当分買い替える予定はなく新製品の情報には疎かったので、「siroca」のホームベーカリーが売れているのを知ったのは最近。

たまたま、日経トレンディの記事「連載:おうちで検証 家電のそれホント?5980円のホームベーカリー! おいしくパンが焼けるってホント?(前編)」を見つけて読んでみると、「siroca」には興味深々。

調べてみると、「今売れている5000円台の激安ホームベーカリーは使えるのか」(森本毅郎・スタンバイ/トークパレット水曜日「ものめぐり」,2012年03月14日)という記事で、その人気のほどが良くわかる。

- 「オークセール」というメーカーが製造・販売
- 2010年夏の発売以来、1年半ちょっとでシリーズの出荷累計が40万台を超えた。(追記:2013年には累計70万台に)
- 「GOPAN」は発売1年で16万台、数年前まではホームベーカリー市場規模は年間50万台程度。

というわけで、「siroca」はホームベーカリーの大ヒット商品。
記事を読んでも、低価格にしては充分なくらいの機能と焼き上がり。
この安さなら一度は使ってみてもよいかも...と思いたくなる。
もし、選択が失敗だとしても、この価格ならさほど大きな後悔はせずにすむ。

オークセール社は聞いたことがない会社。[ホームページ,スタッフブログ「チームsirocaのブログ
こんなに安いホームベーカリーが作れるのは、中国か韓国のメーカーかと思ったけれど、会社概要を読むと、日本のベンチャー企業らしい。
ジャフコ、日本アジア投資、三菱UFJキャピタルといったベンチャーキャピタルが株主に名を連ねている。

amazonや価格comの購入者レビューを見ても、評価は高い。
購入者はホームベーカリーを初めて買う人が多いらしく、Panasonicなど有名メーカーの機種との比較した情報は多くはない。
それでも、いくつか比較情報があるので読んでみると、やはり焼きあがったパンの質が若干落ちるらしく、キメが粗い、耳が硬い、時間が経つと硬くなりやすい、という。
ブラインドで食べ比べしてみないとバイアスがかかっている可能性はあるし、トーストして食べれば質の違いはそれほど気にならないかもしれない。

機能的には、具材の自動投入機能がない、焼きあがるまでのトータル時間が食パンコースで4時間35分とpanasonic製より30分以上長いとか、騒音が煩い(「GOPAN」のミル音よりはマシだろうけど)と、機能・性能で劣るところはある。(3機種目の新製品も発売されていて、機能が向上しているらしい)
といっても、そもそも6000円を切る製品とその3倍近い2万円前後の製品を比較して、機能や焼きあがったパンの質が落ちると言っても、仕方がない。

それより、これほどの低価格商品でも、そこそこ美味しいパンが焼ける上に、パンメニューが豊富。
食パン、早焼きパン、ソフトパン、スウィートパン、フランスパン風、全粒粉パンに米粉パン(グルテン入り/グルテンなし)、パン生地、ピザ生地。
でも、天然酵母コースがない!天然酵母を使わない人なら問題ないけど。
パン以外のメニューも、機種によって違いは多少あるけれど、もち、ジャム、最新機種は、さらに、うどん・パスタ、ケーキ、ヨーグルトも(価格は若干上がっている)。ジャム、ヨーグルト、ケーキコースは、あれば便利かもしれないけれど、なくても困らない。
これは一度使ってみて、Panasonicとの違いを確認したい気がする。
天然酵母コースがないのはかなり痛いけれど、そのうち新機種で搭載するのではないかと。
価格的に少し高くなるかもしれないけれど、今度買い替えるときに、候補の一つに入れても良さそう。

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ホームベーカリー市場規模と普及率
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ホームベーカリーの市場規模
ネット上で入手した市場規模データは以下の通り。

 2001年度 10万3,000台
 2008年度 35万2,000台
 2009年度 45万4,000台
(社団法人日本電機業会自主統計。販社出荷ベース)

 2010年度 63万台
 2011年度 80万台(見通し)
 2012年度 100万台(予測)
(Panasonic調べ 2011.10)

2009年度時点で、Panasonicのホームベーカリー市場シェアは8割くらい。
旧三洋電機製「GOPAN」は2010年11月販売開始。現在はPanasonic製品なので、同社の市場シェア獲得にかなり貢献しているだろうし、製品単価が高いので利益率も高そう。
Panasonicは、2009年度~2010年度にかけて市場規模の伸びを3割前後、2010年度の市場規模は60万台と推定していた。
実際の2010年の出荷台数は、約63万台。
「siroca」や「GOPAN」の登場で、想定よりもホームベーカリーが良く売れたようだ。
「siroca」の販売台数は、2010年8月~2012年1月で32万台。3月14日の放送番組では、1年半ちょっとで累計40万台を超えたと紹介している。これは凄い。利益率は低いだろうけど。


<参考データ>
「ホームベーカリーが生む「パン」以外の価値とは」 (1999~2009年度までの出荷台数グラフあり)
「売れ筋探偵団 誰でも手軽にパン作り 「巣ごもり消費」で膨らむ需要」
「GfK Japan調べ:2010年 調理家電市場販売動向」
ネットショップの商品情報:siroca ホームベーカリー/SHB-315(「siroca」の販売台数記載)
Panasonicプレスリリース:ライスブレッドクッカー「GOPAN(ゴパン)」SD-RBM1000を発売(2009年~2012年の市場規模記載)



ホームベーカリーの普及率
どうやら第3次(か第4次?)のホームベーカリーブームらしい。
普及率(世帯普及率)もかなり上がっているに違いない。
ホームベーカリーの所有状況・購入希望に関するアンケート結果やメーカーの調査データがいくつか出ている。

(1)ドゥ・ハウスが行った「調理器具に関するアンケート」(2010年3月実施、対象は20-50代までの既婚女性532人)では、ホームベーカリーの保有者は27.8%、今後欲しい人は13.2%。

(2)「家電に関する定期調査 第8回」(インターネットコム&gooリサーチ調査,2011/2/22~2/25実施)では、ドゥ・ハウスの調査結果とは、調査対象者の特性が大きく異なるため、全く異なるデータが出ている。
アンケート回答者は、全国10代~60代以上のインターネットユーザー1,066人。男性52.7%、女性47.3%。
年齢層は、10代16.0%、20代18.4%、30代21.7%、40代16.3%、50代15.7%、60代以上11.9%。

「ホームベーカリーの年内購入予定の有無」について
 予定あり      6.2%(66人)
 予定なし     55.7%(594人)
 わからない    26.9%(287人)
 すでに購入した 11.2%(119人)

(3)日経デザイン(2011/11号)の記事「特集 新市場を開く「これが欲しかった!の作り方 パナソニック/自動ホームベーカリー」によると、首都圏1都3県在住20歳~39歳女性に行ったアンケート(「日経ウーマンオンライン」とYahoo!リサーチが800人に2010年6月実施)では、「いま一番欲しい家電」の1位は「ホームベーカリー」。
それに、パナソニックの調査では、ホームベーカリーの普及率は2005年に9.3%、2010年に19.7%くらいになっているらしい。(記事全文を確認していないので、正確な記事内容はわからない)

(1)の調査結果を考えると、子供のいる既婚世帯の普及率は3割近くか、それ以上..という感触はする。
それに、(3)のデータの通り、ホームベーカリーは独身女性と主婦には大人気。子供のいる家庭では、いろんな菓子・惣菜パンやピザなどが、低コストで余計な添加物もなく作れるのが良いらしい。
(2)は10代の若者が含まれているので、ホームベーカリーの調査としてはあまり適切ではないサンプルが混じっている。
ホームベーカリーなどの調理家電の売れ行きを知るには、独身女性や主婦を対象にしたアンケートの方が参考になる。

世帯普及率が20%(前後)という情報は、ネットでよく見かけるがどうも高すぎる気がする。
単身世帯(特に男性)やあまりパンを食べない世帯(高齢者世帯に多いはず)の保有率はかなり低い。
世帯普及率を算定するときの世帯の基準によって、普及率は変わる。
内閣府「消費動向調査」の耐久消費財普及率では、総世帯(一般世帯と単身世帯の合計)、一般世帯(3,440万世帯)、単身世帯(1,340万世帯)の3種類のデータを算出している。
厨房設備・調理家電だと、総世帯と一般世帯の普及率では、設備・機器によって差があり(数ポイント~10ポイント近く)、総世帯の方が普及率は低くなる。
「消費動向調査」ではホームベーカリーは調査対象外。食器洗い機の普及率は、2011年3月末現在で、一般世帯29.4%、総世帯24.7%。
長期時系列表では一般世帯の普及率を使用しているので、普及率の推移は一般世帯に限定したデータを見ていることになる。
ホームベーカリーの普及率も、単身世帯以外の一般世帯が対象として考えると、(メーカーの算定した)20%前後の普及率は意外でもない。
今の好調な売れ行きが当分続くとすると、2012年に普及率が20%を超えるというのも納得できる。


ホームベーカリーを買ったけれど、ほとんど使っていない..という人も、結構多いかもしれない。
NPO法人「ハウスキーピング協会」が2011年12月にインターネット調査したデータによると、20~50歳代の既婚女性約4千人を対象に「期待ほど活用できていない家電」を質問したところ、自動食器洗い乾燥機、衣類乾燥機に次いで、第3位がホームベーカリーだった。(出典:朝日新聞デジタル 2012年2月14日)
ホームベーカリーの保有者数と「活用できていない」と回答した人数が載っていないので、活用率は不明。


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アジアのホームベーカリー
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15年前に買ったホームベーカリーはアメリカのリーガル社製。
「通販生活」のカタログに載っていた機種で価格は2万円以上。
冷えやすいため冬場の温度管理が難しく、寒いと膨らみが著しく悪くなるので、結局panasonic製のホームベーカリーに買い替えた。
panasonic製は細かいところで工夫がいろいろされていて、4年くらい使っているけれど故障もせず、焼き上がりにも不満なし。
今まで買った調理家電の中では一番のヒットで、おもちもうどんも作れるし、とっても重宝している。

アジアでもホームベーカリー(向うでは「ブレッドメーカー」という)は使われている。
「アジア白物家電が進化! “日本でありえない多機能競争”とは?」(日経トレンディ/連載:違いがすぐ分かる!家電コンシェルジュ)を読むと、日本製品とは違うコンセプトで、やっぱりお国柄の違いが出ていて面白い。

アジア(といっても、中国や香港)のホームベーカリーに求められるのは、「ベーカリー+炊飯+煮込み調理」の多機能性。
「1台でごはんもおかずもできるかどうか」が調理家電のポイントになるという。
日本人はご飯の質にはうるさいので、炊飯釜や炊き方に凝った数万円の専用炊飯器を使う人が結構多いと思う。
ホームベーカリーでご飯を炊いても、あまり美味しくなさそうな気がする。
それに、多機能化するとご飯とパンを焼くスケジュールを考えないといけないので、結局、ご飯とパンは別の調理家電(や炊飯用のお鍋)で作った方が便利。

変わったところでは、中国の家電メーカーSEKAIが開発した「ベーカリー機能付きオーブン」。
レンジ底部にモーター組み込んだ電気オーブンの中に、羽根付きパンケースをセットすれば、捏ね~焼きまでオーブンでできるというもの。焼くときは蓋をするので、てっぺんが四角い角食タイプのパンになる。
こういうのが向こうでは受けるのだろうかよくわからない。
しっかりした棚に備え付けないと、振動でぐらぐらしそう。日本の住宅事情だと集合住宅などでは騒音対策が必要になるので、オーブンに固定されてしまうと置き場所を選びたくても選べない。
それに、発酵時にはオーブンが密閉状態でないと、庫内温度が下がっていく。電子レンジ機能を使って30-40℃で短時間に発酵させるのだろうか?
捏ね~焼き上がりまで数時間はかかるパンケースが庫内を占有すると、オーブンを使いたいときに困るし..。
どうも私にはあまり魅力的な製品ではない気がする。



【追記 2014.5.5】
ホームベーカリーの流行で、街のパン屋が苦戦!?

おいしく糖質オフ!まめ部と一緒にホームベーカリーで大豆粉のソイスコーンを作ってみよう!
【大豆粉でソイスコーン】[ビスケット生活]

tag : ホームベーカリー

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ハンス・アイスラー/ピアノ作品集、子供の国歌
今年が没後50年にあたるドイツの作曲家ハンス・アイスラー。
彼は東ドイツ国歌を作曲したことで知られている。
アイスラー作品の録音は、Berlin Classicsから多数リリースされているので、NAXOSのNMLで会員なら全曲聴くことができる。
ピアノ作品を聴いてみると、シェーンベルクとベルクが融合したような作風。
わかりやすく親しみやすいシェーンベルクというか、やや理性的で感情過多でないベルクというか...。
シェーンベルクの高弟の一人だから、シェーンベルク的な作風を感じさせるのも当然かと思うけれど、管弦楽曲は映画音楽風な曲も結構多くて、現代音楽風ではあっても、かなり聴きやすい。
アイスラーは意外と面白そうな作曲家なので、少し調べてみた。

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アイスラー関連サイト
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The North American Hanns Eisler Forum
アイスラーのミニ伝記や時代別作品解説、ディスコグラフィー、レビューなどがが揃っている。
A Virtual Tourでは、ハイスラーの生涯を次の5区分に分けて解説;ベルリンのROaring20年代、ブレヒトとの創造的パートナーシップ、ナチスによる追放、ハリウッドでのInterlude、廃墟から立ち上がって。
各時代のアイスラーの行動や作風の特徴が載っており、代表作の録音の一部が試聴できる。

Internationale Hanns Eisler Gesellschaft[ドイツ語サイト]
「Noten」(楽譜)で、ジャンル別にアイスラーの作品紹介があり、曲によってはリンク先の楽譜サイトリンク先のサイトで2分程度試聴できる。

「CDs」(ディスコグラフィ)では、ジャンル別にリリースされたCDが列記されており、各CDはamazonサイト(曲によっては試聴ファイルあり)にリンクしている。
例;ピアノ・ソナタ第1番

以下は日本語サイト。
ハンス・アイスラー:プロフィールと作品リスト[知られざる近代の名匠たち]
ハンス・アイスラーと旧東独国歌[コンスタンツ通信]
アドルノ、ベンヤミン、アイスラー~30年代の「引き裂かれた半身」をめぐって~ (細見和之)[カールスプラッツのポプラの木]
『ブレヒトと私/会話と歌のなかのハンス・アイスラー』(BERLIN Classics, 2006)|竹峰義和 2007年01月29日[SITE ZERO Review]
この記事中に書かれていた《子供の国歌/Kinderhymne-"Anmut sparet nicht noch Mühe"》とは、ブレヒトがドイツ再生の願いを子供達に託した詩に、アイスラーが曲をつけた有名な歌。
この歌の解説が、<ハンス・アイスラーとベルトルト・ブレヒト>(木工房ろくたる)というブログ記事に載っている。
アイスラー自身が歌っている録音が残っている。作曲者の自作自演の歌が聴けるというのは珍しいかも。

Hanns Eisler - Kinderhymne - Bertolt Brecht


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アイスラー:ピアノ作品集
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現在入手できるアイスラーのピアノ作品集のCDは、Berlin Classics盤『ハンス・アイスラー:ピアノ作品集』(Hanns Eisler - Klaviermusik,1996)。ピアニストは、エルバー、オルベルツ、シュテッキクトの3人。

『アイスラー;器楽作品集』(Hanns Eisler – Instrumentalmusik,2008)には、4手のためのピアノ作品である序曲「ノー・モア・ピース」、序曲「母」の2曲が収録されている。

Eisler-Edition Vol. 7Eisler-Edition Vol. 7
(2008/07/08)
Siegfried Stockigt, Gerhard Erber, Walter Olbertz

試聴する


年代によって作風が変遷しているので、冒頭4曲は他の曲とは随分作風が違う。

1. Allegro moderato and Walzer (1922)
2. Allegretto and Andante: Allegretto(1922)
3. Moderato

調子ハズレのワルツ、優雅というより騒々しいパロディのような曲。

4. Allegretto and Andante: Andante(1922)
この曲はいくぶんシェーンベルク風なところを感じるけれど、まだまだパロディ風?


ピアノ・ソナタの第1番と第2番》、《4つの小品》、《8つの小品》は、どれも似たような音の動きの旋律なので、1度聴いたくらいでは、どれがどの曲かよくわからない。
いずれもベルクのピアノ・ソナタやシェーンベルクのピアノ小品を連想させる部分が多い。
アイスラーの曲はシェーンベルクよりも、旋律の歌謡性があるせいか、ずっと叙情性が強いので聴きやすい。
重音が多く使われているので、和声の響きが豊か。
ピアノ・ソナタは、他の小品に比べると、特に突発的なフォルテが頻出する。
どの曲も"andante"はテンポはややゆったりしているが、落ち着きのないというか、いつも動き回っているような動的な印象。
allegroやallegrettoになると、目まぐるしく音が移動したり、突発的なフォルテが頻発して、とにかく騒々しい。
旋律はロマン派のような歌謡性はないけれど、とっても饒舌で表情豊か。
和声も歪みや濁りのある不協和音ではなくて、調性感を感じるので、耳障りはそんなに悪くはない。

 Piano Sonata No.1, Op.1(1923)
ベルクのピアノ・ソナタとシェーンベルクのピアノ小品を合体したような曲に聴こえる。
両端楽章のAllegroでは、叙情的な旋律はベルク風。
その前後にシェーンベルク作品に似て音があちこちに散乱し、突発的に急き込むようなフォルテが挟まれ、強弱のメリハリが過剰なくらいに強調されている。
フォルテの間に静謐な弱音部が挟まれたようで、叙情と喧騒が頻繁に交代する。
音の並びはベルク風でも、ディナーミクが全く違うので、同じような旋律の断片が聴こえてくるのに、曲想が全く違う。
中間のIntermezzoは、重苦しい行進曲風。第1楽章よりもゆったりと静かな部分は多いけれど、やっぱり基本的に騒々しい。

Eisler - Piano Sonata Op.1 (I)



 4 Piano Pieces, Op.3(1923)
I. Andante con moto
II. Allegro molto
III. Andante
IV. Allegretto

 Piano Sonata No.2, Op.6(1924)

《8つのピアノ小品》は、《4つのピアノ小品》よりもリズム、旋律、テンポなど音の配置がずっと多様化しているので、こっちの方が面白い。
 8 Piano Pieces, Op.8(1925)
No. 1. Allegretto
No. 2. Kraftig, energisch
No. 3. Theme and variations - Gemtlich
No. 4. Allegro con fuoco
No. 5. Poco allegretto grazioso
No. 6. Hastig, aufgeregt
No. 7. Andante
No. 8. Allegro

プロフィールを読むと、この頃に師のシェーンベルクと袂を分かち、独自の作風をつくり上げていく。
たしかにこの後、作風が変わっているのがわかる。

たぶんアルバム中、最も聴きやすいのがこの《子供のためのピアノ小品》。
タイトルどおり子供にもわかりやすいように、他の曲集よりも旋律の歌謡性・叙情性も強くて、調性感もある。
短調で哀感を帯びた曲想の曲が多く、全体的にフォルテも控えめなので、今までとはかなり違った作風。
 9. Klavierstucke fur Kinder, Op.31:Theme and Variations(1932)
主題と10と変奏。無声映画の劇伴を聴いている気がする。

同じ曲集中の《主題と変奏》よりは、この《7つの小品》ちらの方がより古典性が強い感じ。
 Klavierstucke fur Kinder, Op.31:7 Piano pieces(1932)
No. 1. Allegretto
No. 2. March (Kleiner Kanon in der Oktav
No. 3. Andantino
No. 4. Praeludium I
No. 5. Praeludium II
No. 6. Fughetta
No. 7. Scherzo

Hanns Eisler - Op. 31 (Theme and Variations, 7 piano pieces)



《7つのピアノ小品》Op.32では作風がかなり変化し、古典的な趣きのある端正な曲集。
曲名には「Invention」、「Chaconne」という、バロック音楽のような題名がついている。
No.2はモーツァルトの曲に使われているような旋律が主題。曲名はわからないけど、『アマデウス』を見て覚えた旋律なので、かなり有名はなず。
以前の12音技法的な曲とは音の配列が全く違っているし、旋律自体が断片的なものから、より息の長いまとまりのある旋律になって、メロディアスに。
1925年までに書かれたピアノ作品(ピアノソナタ第1番&第2番、4つとピアノ小品、8つのピアノ小品)が、至るところでベルクやシェーンベルクを連想させるような曲だったのに比べると、これはそういうところがかなり少なくなっている。
特に第7曲「Rondo」は現代的なフーガ風で面白い曲。

 7 Klavierstucke, Op. 32(1932)
No. 1. Invention
No. 2. Allegrett
No. 3. Allegro moderato
No. 4. Chaconne - Andante con moto
No. 5. Allegretto scherzando
No. 6. Andante con moto
No. 7. Rondo - Allegretto


《ソナチネ》になると、古典性が稀薄になり、2年前に書かれた《7つのピアノ小品》よりも、旋律が断片的でいくぶん前衛的?。
やや陰鬱とした内省的な雰囲気が強い。
 Piano Sonatine, Op.44, "Gradus ad Parnassum"(1934)

 Overture

1938~47年は、米国亡命時代。
《変奏曲》も《ピアノ・ソナタ第3番》もベルクのピアノ・ソナタのような旋律がたびたび出てくる。
古典的な趣きはなく、再び前衛的な作風に戻ったような曲。
 Variations(1941)
Themeと11の変奏、Codaと3つのフィナーレで構成。

 Piano Sonata No. 3(1943)
I Viertel/ⅡAdagio/Ⅲ Allegro con spirito

Eisler - Piano Sonata No.3; I Viertel


 3 Fugues(抜粋)(1946)
最初の”G minor”は、厳粛で息が詰まるような圧迫感のあるフーガ。最後はなぜか長調に転調して終わっている。


アイスラーは、1947年に悪名高いマッカーシーによる「赤狩り」で共産主義支持者の疑いをかけられ、1948年に米国出国を余儀なくされる。その後、東ドイツへ渡り、東ベルリンで暮らす。
東ドイツ国歌《廃墟から甦り》を作曲したのは有名。商業音楽(劇・映画・テレビ向けの音楽)を書いたりしていたという。
1955年には、アラン・レネ監督による有名なドキュメンタリー映画『夜と霧 Nuit et brouillard』の音楽を作曲している。


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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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