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ポール・ルイス ~ シューベルト/ピアノ・ソナタ第20番D959
シューベルトのピアノ・ソナタの中では、昔から好きなのが第19番D958と第20番D959。
初めて聴いた録音は、第19番がエゴロフのライブ録音(これは今でも一番好きな録音)、第20番がアラウのスタジオ録音。
アラウの第20番は1982年の録音。やや指回りが悪くなっている晩年のもので、テンポは遅めでアラウ独特の重たさはあるけれど、長調の明るい色調の曲想がアラウに良く似合っている気がした。
好きな曲といっても、もともとシューベルトはほとんど聴かなったので、ベートーヴェンのピアノ・ソナタのようにはしっかり聴いてはいなかったけれど。

第20番はマイベスト盤と思えるCDを持っていなかったので、いろいろ試聴してみると、どうやら"若手のシューベルト弾きでは最高"と評判のポール・ルイスが一番合いそうだった。
ルイスよりもドラマティックで濃厚な叙情表現のソコロフのライブ録音もかなり好きだけれど、これはCD化されていない。

Piano Sonatas D 959 & 960Piano Sonatas D 959 & 960
(2003/06/10)
Pual Lewis

試聴する(仏amazon)


ルイスの第20番は、彼のピアノ・ソナタ録音を集めたサンプラー盤のような『Sonatas』に第19番と一緒に収録されている。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ2曲も入ったお得な2枚セット。(結局、第21番も聴きたくなる気がしたので、こちらは買わず)

INITIALES - ポール・ルイス (Sonata / Paul Lewis) [2CD]INITIALES - ポール・ルイス (Sonata / Paul Lewis) [2CD]
(2011/11/10)
ポール・ルイス

試聴する(独amazon)



ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959 [ピティナ作品解説]

ずっと昔にアラウの録音を聴いて以来、第1楽章と第4楽章の長調の和やかな主題旋律がとても印象的だったので、最後のピアノ・ソナタ3曲の中でも、一番明るい雰囲気の曲...と思い込んでいた。
最近ソコロフとルイスの録音を立て続けに聴いて、実は明るいどころではなく、ベートーヴェン的な疾風怒濤の第19番よりもさらに悲愴で暗澹として劇的、運命を受け入れたような第21番の境地に至るまでの苦しさや哀しさが全編に流れているように思えてきた。

ルイスのシューベルとは、弱音がとても柔らかく微妙なニュアンスが交錯する繊細さがとても印象的。
神経質的な繊細さは全くなく、内面から滲みでてくるような自然な趣きは、いつも夢を見ているようで、ひとり心の中で呟いているような気がするシューベルトには良く似合う。
ことさら陰翳を強調した情緒過剰さはなく、その逆の理性的なクールさが強いわけでもなく、"等身大のシューベルト"のように感じるせいか、そのまますっと音楽に入っていける。

第1楽章 Allegro
ブレンデルは『対話録「さすらい人」ブレンデル』で、「ベートーヴェンは夢を見ているときでも建物を造っている人で、シューベルトはたまに働いているときでも夢を見ています」と語っていた。
この楽章を聴いていると、この言葉が実感として納得できてしまう。

冒頭の力強い和音は、現実を肯定するようにポジティブで堂々とした安定感。
弱音で弾く長調の主題は、幸せな夢想に耽っているように優しいけれど、その中に時折現われる短調の旋律は、現実世界に暗雲が垂れ込める予感のような不安感を帯びている。
テンポも曲想に応じて頻繁に変化し、短調でフォルテになると加速して切迫感が強まり、長調の幸福感に満ちた旋律になるとゆったりとしたテンポに戻る。
まるで季節の移ろいを見ているようにテンポの移り変わる流れが自然。
明暗・緩急が絶えず交錯し、長調と短調の間を頻繁に転調し、いくつもの主題のモチーフが次から次へと現われては消えていくのは、いろんな感情が交錯し葛藤している内面のドラマを見ているような気がする。

ルイスのシューベルトを聴いていると、シューベルト特有の冗長さを感じることもなく、どの旋律も湧き出てくる清流のように滑らかで、歌を歌っているような自然な抑揚がとてもしっくりと馴染んでくる。
曲の構造を考えながら聴いていると段々迷路に迷いこんで行くので、ピアノが弾く旋律の流れのままにシンクロして聴くのが、一番無理なく聴けるとようやくわかってきた。

第2楽章 Andantino
"哀しい"という気持ちを音楽にすれば、こういう曲になるような冒頭の儚げな主題。
深刻で苦痛に満ちたように弾くピアニストとは違って、ルイスは表面上は静かで淡々としているので、透明感のあるさらさらとした哀感が美しい。
やがて、霧が垂れ込めるような経過的なアルペジオから、激しく渦巻くようなパッセージがフォルテで現われる。
嵐が吹きすさんで、世界がぐるぐると急回転している感覚。まるで"運命の一撃"が襲ってきたかのような衝撃。
その後に凪のような旋律が訪れるけれど、呟いているような叙情的な単旋律が、感情を叩きつけるような激しい和音で時々遮られる。
主題再現部は、冒頭の主題よりも、左手低音部のトリルや他にも断片的な旋律が挿入されて、はるかに重苦しく、不安感と悲愴感が増幅されている。

第2楽章は感情的な動揺の激しい楽章なので、どっぷり情緒と感情に浸って演奏する人も少なくない気がする。
ルイスの場合は、どちらかというと、強弱のコントラストは強くつけても、深刻・大仰な表現で情念過剰になることがなく、理性的に抑えた慎み深さを感じる。

Franz Schubert - Piano Sonata In A, D 959 (piano:Paul Lewis)



第3楽章 Scherzo: Allegro vivace
第2楽章の悲愴感から一転して、スタッカートのフレーズは、軽やかでスキップしているように楽しげで、全体的に明るいスケルツォ...のはずだけれど、なぜかもの哀しい気がしてくる。
この楽章の陽気な雰囲気に、無理やり心を浮き立たせている印象を受けるのは、第2楽章があまりに重くてそれを引きずっているように感じるせい?
途中で弱音の緩徐部分が何度か挿入されている。ここを聴いていると、ふと我に返って、やっぱり哀しい...と、ひとりぽつんと呟いているような気がする。

第4楽章 Rondo: Allegretto
伸びやかで開放感のある冒頭主題で、第2楽章の余韻も消えてしまったような清々しさと明るさ。
ルイスが弾く旋律は、柔らかく優しいタッチ。力強さは全くなく、(D960に繋がるような)透明感のあるさばさばとした明るさがある。
短調に転調した部分は、他の楽章と違って不安感や哀感を感じさせるというよりも、避け得ない運命は受け入れるしかないと悟ったような力強さ。

もう一度アラウの弾くD959を聴けば、今ならどう感じるんだろうか...と気になってきた。昔は全然聴き取れなかったものが何か聴こえてくるかもしれない。

tag : シューベルト ルイス

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耳鳴り治療のための認知行動療法(3) Multidisciplinary Management
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Multidisciplinary Managementによる耳鳴治療法の概要
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"Multidisciplinary Management"(MDM)は、多くの分野の専門医が緊密な連絡のもとに治療を行うチームアプローチ。

 "New effective treatment for tinnitus"
(オランダ・マーストリヒト大学のニュースリリース、2012年5月25日)(以下、要約)

Rilana Cimaの研究チーム(マーストリヒト大、ルーヴェン大、ブリストル大、ケンブリッジ大の研究者で構成)は、ランセット誌上で、新しい耳鳴治療法の臨床試験結果を発表し、認知行動療法が耳鳴患者の日常生活行動を改善しうることを示した。
臨床試験では、耳鳴にまつわるネガティブ思考・感情と耳鳴リ症状を低減させることを目的とし、492人の耳鳴り症被験者を12ヶ月間フォロー。
革新的な耳鳴治療のプロトコルは、認知行動療法で構成される段階的な治療であり、心理学・聴覚学の要素を統合したもの。exposure techniques、運動&リラクゼーション療法、マインドフルネスベースのアプローチも取り入れ、さらに音響知覚レベルの問題に対処するTRT療法の要素も加えて補完している。
この新しい治療法は、聴覚学者・聴覚訓練士(audiologist)、心理学者、言語療法士、作業療法士、理学療法士、ソーシャル・ワーカーなど、multidisciplinary(多面的な、多角的な、多くの専門分野にわたる)治療チームが行う。
研究プロジェクトは、Netherlands Organisation for Health Research and Development (ZonMW)が助成。研究責任者は、Johan Vlaeyen教授(behavioural medicine at KU Leuven and Maastricht University)。

試験結果は、この革新的で専門化された(specialized)耳鳴り治療法が、既存療法よりも効果的であるという説得力のある証拠を提示している。
治療後、被験者の全般的な健康、症状の重篤度、障害度について改善が見られた。さらに、ネガティブな気分、機能的な障害があるという思いこみ(dysfunctional beliefs)、耳鳴りが引起す不安感についても、既存療法より改善効果が高かった。
耳鳴りの重さが比較的軽い、または重い患者の両方に対して、治療効果があり、研究者たちは、この新しい治療プロトコルを幅広く導入するよう提言している。

<関連記事>
「海外論文ピックアップ Lancet誌より ~ 耳鳴りには順応療法を取り入れた専門的ケアが有効」(日経メディカルオンライン 2012/6/8)
オランダで一般的な標準ケア(Usual Care)に関する記述があり、「ステップ1では、聴覚検査の後に、耳鳴り治療のためのマスカー機器(大きめの雑音を発することにより耳鳴りを消す)または聴力を高める補聴器(聴力の低下が大きい場合)を処方し、それらの調整を行いながら耳鳴りの評価を行う。ステップ2ではソーシャルワーカーが患者に接触して、カウンセリングなどを継続的に行う」というもの。

"耳鳴りの苦痛を緩和する新治療、オランダ大研究"(AFPBB News 2012年05月29日)



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臨床試験
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 "Cost-effectiveness of Multidisciplinary Management of Tinnitus"
Maastricht University Medical Center

実施機関:オランダ・マーストリヒト大学メディカルセンター
研究開始:2007年9月
研究完了(予定):2011年3月
予定被験者数:198人
手法:ランダム化、Parallel Assignment(並行群間比較)、二重盲検
登録NO:NCT00733044

試験方法:
(A)新療法群:Specialized Care(Multidisciplinary care) - 総合的耳鳴りマネジメントによる段階的治療(2段階)
<第1段階>
- 耳鳴りの苦痛がマイルドな(軽度な)患者は、第1段階の治療のみで満足感が得られると期待できる。
- 聴覚的診断・処置、耳鳴り教育のグループセッションおよび臨床心理学者との個人カウンセリング。
<第2段階>
- 耳鳴りの苦痛が中度~重度の患者には、第2段階の治療を実施。
- 認知行動療法(CBT)、Attention Diversion(AD)(注意分散、気を逸らすこと)、exposure techniques、リラクゼーションセラピー(RT)を組み合わせた統合的治療。

(B)対照群:Usual Care - 標準的耳鳴治療
- オランダ国内の各地域に存在するaudiological centresで実施されている治療法
- 電話調査による現行治療法の調査結果に基づき、本臨床試験で実施する通常治療プロトコルを決定。
- 治療法:聴覚的な診断・処置。必要な場合は、ソーシャルワーカーとの1回以上のカウンセリング(1時間のセッションを最大10回実施)

評価方法:
1)全般的な生活の質:Health Utilities Index Mark IIIによる。
2)耳鳴りの重篤度、全般的な苦痛、耳鳴りの認識、耳鳴り特有の不安感、治療コスト

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臨床試験結果
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 "Specialised treatment based on cognitive behaviour therapy versus usual care for tinnitus: a randomised controlled trial."
Lancet. 2012 May 26;379(9830):1951-9.
Cima RF, Maes IH, Joore MA, Scheyen DJ, El Refaie A, Baguley DM, Anteunis LJ, van Breukelen GJ, Vlaeyen JW.
Clinical Psychological Science, Maastricht University, Maastricht, Netherlands.

試験期間:2007年9月~2011年1月。
実施場所:Adelante Department of Audiology and Communication (Hoensbroek, Netherlands)
被験者:耳鳴治療を行った経験のないオランダ人。スクリーニングした被験者741人のうち、492人(66%)が治療対象。
グループ分け:ランダム化抽出。specialised care(専門的治療)群247人、usual care(通常治療)群245人。治療を受けるブロックサイズは1グループあたり4人。
試験方法:specialised careは、認知行動療法およびsound-focused(音響面に焦点をあてた)TRT療法。
評価指標:
- 主要評価指標:health-related quality of life (health utilities index scoreで評価)
- 二次評価指標:tinnitus severity (tinnitus questionnaire score), tinnitus impairment (tinnitus handicap inventory score) (以上、治療前およびランダム化抽出後3ヶ月・8ヶ月・12ヶ月の時点で評価)

試験結果:
専門治療群は、12ヶ月間の生活の質(quality of life)が改善、耳鳴苦痛度(tinnitus severity)と耳鳴障害度(tinnitus impairment)も低減した。(臨床試験では副作用も見られなかった)
認知行動療法に基づいた専門的治療(specialised care)は、耳鳴りの重篤度の異なる患者に対して幅広く適用しうる法である。

(ClinicalTrials.govの登録number:NCT00733044)

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注記
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Lancetに掲載された臨床試験結果論文の抄録では、新治療法は認知行動療法に基づいた療法とTRT療法..としか記述されていない。
認知行動療法とTRT療法を組み合わせた治療法は従来から行われており、それだけでは特に新規性があるとは思えない。
マーストリヒト大学のニュースリリースおよび米国の臨床試験データベースの情報では、心理療法として、認知行動療法に加えて、運動療法(作業療法)、リラクゼーション療法、マインドフルネスベースの療法などの専門的治療が総合的に行われている。
この療法の新規性は、耳鳴り治療に関連する多数の専門分野の医師・医療技術者が連携して、多面的・総合的に治療を行う"Multidisciplinary Management"(集学的治療マネジメント)にあるということだと思う。


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備考
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記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
正確な内容については、英文原文をお読みください。

tag : 認知 認知行動療法

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ピエール=ロラン・エマール 『カーネギー・ホール・ライヴ』
ピエール=ロラン・エマールのライブ録音『Pierre-Laurent Aimard At Carnegie Hall』。
試聴した時にかなり良い感触だったし、選曲にバラエティがあって、好きな曲も多いので、米国のamazonで購入。
このライブ録音がわずか4ドル台で、海外送料込みでも1000円以下。
米国amazonでは、音楽配信の影響からか、異常に安いCDが結構多い。(マイナーレーベルやリリース年の古いもの、現代音楽など)

カーネギー・ホール・ライヴカーネギー・ホール・ライヴ
(2002/06/26)
エマール(ピエール=ロラン)

試聴する
原盤はTeldec。これはワーナーの国内盤。

6月20日に発売予定の『ワーナー録音集』は6CDのBOXセット。
ドビュッシー(映像、練習曲集)、アイヴズ、リゲティのエチュード(6曲抜粋)、メシアンの《幼子イエスにそそぐ20のまなざし》(全曲)、ラヴェル、カーター、ブーレーズ、それにこのカーネギーリサイタル(全曲)を収録。
ピエール=ローラン・エマール、ワーナー録音集(6CD)ピエール=ローラン・エマール、ワーナー録音集(6CD)
(2002/06/26)
ピエール=ローラン・エマール

試聴ファイルなし


カーネギーのライブ録音は、試聴した時に感じた通り、音の美しさ、弱音のニュアンスや色彩感の豊かさなど、ソノリティと音響が素晴らしく、特に現代物はどれを聴いても楽しめた。
残念だったのは、期待していたベートーヴェンとリスト。試聴では良い感触だったんだけど。
今は《熱情ソナタ》はレーゼル、《伝説》のパウラはケンプの演奏が刷り込み状態になっているので、それと比較してしまうのがいけないに違いない。
それでなくとも古典・ロマン派音楽に優れたピアニストもその録音もたくさんあるので、やはりエマールを聴くなら現代ものが一番得るものが多い。

ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1
柔らかい色彩感豊かな音で音響豊かなベルク。
ベルク特有の濃密な叙情感が稀薄だったけれど、やたらベタベタウェットなベルクを聴くよりは、ずっといい。

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番 Op.57 「熱情」
音は綺麗でも、フォルテの力感がちょっと弱い感じ。とても気になったのは、音が濁りがちなところ。(第2楽章の冒頭主題の和音移動など)
現代音楽だとエマールの多層的で豊かな響きが映えるのだろうけど、好みの問題として、古典派はもっとすっきりした音で聴きたい。

リスト/「伝説」第2曲 波の上を歩くパウラの聖フランチェスコ
音響的にはダイナミックで重層感があるし、弾き映えする曲なのは実感としてよくわかるけれど、もう一つ感情的にシンクロできない...。神々しさとか、精神的な高揚感というようなものがもう一つ感じられなかった。
実際にホールで聴いていれば、また違うのだろうし、実演はもともとCDで聴くものでもないので。

ドビュッシー/映像第1集:水の反映、映像第2集:金色の魚
多彩な音色の美しさと自由自在に動き回る躍動感で、音が生命力を持ったように生き生きとしている。
いつもは静謐な水面が、波打つクように揺れ動き、水しぶきが跳ね回ったりと、ダイナミック。
この2曲はあまり好きではなかったので、エマールの演奏で聴くと生気が溢れていて、こういう曲だったのかとようやくわかった気分。

プログラムの演奏時間が短い気がしたけれど、アンコール曲が5曲と多いので、トータルの演奏時間としては80分ほど。

リゲティ/練習曲集第1巻第2曲「開放弦」&第6曲「ワルシャワの秋」、練習曲集第2巻第10曲「魔法使いの弟子」
ベートーヴェンの時とは違って、エチュードということもあるのか、シャープでクリアな打鍵が冴え、練習曲とは思えない美しい音のタペストリー。
《開放弦(Cordes a vide)》は、くぐもった音色のなかから、ぽっかりと気泡のように浮き出てくるような音の感触が面白い。

Gyõrgy Ligeti by Pierre Laurent Aimard - Cordes à Vide (スタジオ録音)



《ワルシャワの秋(Automne à Varsovie)》は、下行を何度も繰り返す音の不安感と不安定感で眩暈がしてきそう。しとしと降る落ちるガラスのように冷たい雨粒のイメージが浮かぶ。

《魔法使いの弟子(Der Zauberlehrling)》というと、デュカスを思い出す。
"Der Zauberlehrling"は有名なゲーテの詩。この詩をもとにデュカスが交響詩《魔法使いの弟子》を書いた。
練習曲の楽譜を見ると"prestissimo,staccatissimo,leggierissimo"(プレストのスタッカートをレガートで)と指定があり、さすがに練習曲らしく簡単に弾けそうではない。音の塊りのなかから、アクセントのついた音が浮かび上がってきたり、高音からきらきらと結晶のように輝いて下行してくるところが綺麗。

メシアン/幼子イエスに注ぐ20のまなざし~「第11曲 聖母の最初の聖体拝領」
クリスタルように冷たく鋭いクリアな音のベロフに比べて、エマールは、特に緩徐系の曲の柔らかな弱音のニュアンスが多彩。
この曲(だけではなく他の曲でも)を聴くと、作曲時期が近いせいか、2台のピアノのための《アーメンの幻影》にとてもよく似た旋律や和声がよく出てくる。

Olivier Messiaen - Vingt Regards sur l'Enfant Jésus, XI-XII (スタジオ録音)
Pierre-Laurent Aimard, piano



ドビュッシー/12の練習曲:第6曲8本の指のための


<参考サイト>
エマールのリサイタル・レビュー(来日リサイタル) [楽譜の風景/雑記帳(2003/4)]
- 2003/4/28 ピエール=ロラン・エマール(2) 彩の国さいたま芸術劇場ピアノリサイタルに行ってきました
- 2003/4/26 ピエール=ロラン・エマール(1) 紀尾井ホールリサイタル行ってきました

リゲティ《練習曲集》の作品解説
- Ligeti Études pour piano ピアノのための練習曲集[楽譜の風景]
- リゲティ ピアノのための練習曲集 第1巻第2巻[ハインの好きなクラシック]

tag : ベルク リゲティ メシアン ドビュッシー エマール

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ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第6番,ロンド・ア・カプリッチョ 「なくした小銭への怒り」
あまり有名ではないベートーヴェン初期のピアノソナタ第6番ヘ長調 Op.10-2。[ピティナ作品解説]
Op.10の3曲の第2曲。ベートーヴェンらしい疾風怒涛風のハ短調第5番と、初期の作品としては規模が大きく演奏機会の多い第7番に挟まれているせいか、どうも地味な感じがする。

第6番の3つの楽章とも、冒頭主題を聴けばすぐにこの曲だとわかるけれど、自分で思い出そうとすると(弾いたことがないこともあって)、旋律がすぐには浮かんでこない。
それでも、第3楽章はとっても面白い。小さな白ねずみが運動会でもしているように、ちょこまかと走り回っているような曲想が可愛らしくてユーモラス。
こういうユーモア漂う曲も書くベートーヴェンって、やっぱり好き。
耳で聴いていると旋律はシンプルなので、かなり速く弾けそうな気もするけど、実際はそうでもないらしい。
いろいろ録音を聴いていると、グルダ(演奏時間3:30)がいつもながらかなりの猛スピード。時々指がもつれがちというか、音の粒立ちが悪く声部の分離が悪くなって、ごちゃごちゃっと雑然と聴こえる。でも、速いとコミカルさが強くなるので、これはこれで結構面白い。
演奏時間は、ケンプ(3:41)、ブレンデル(3:45)、ルイス(3:54)くらいがほどよい感じ。
レーゼルやアラウは4分少々。一音一音しっかり打鍵してかっちりした構築感が出るけれど、ちょっと重たい感じがするのと、スピード感がもう一つ。(スピード競争するような曲でもないだろうけど)
ポール・ルイスの演奏を聴くと、柔らかいタッチで軽やかな疾走感があって、とても可愛らしい感じ。

Beethoven Piano Sonata nº 6, Op. 10/2 (3rd mov.) Paul Lewis


Complete Piano SonatasComplete Piano Sonatas
(2009/11/10)
Beethoven、Lewis 他

試聴ファイル(英amazon、分売盤にリンク)



                              

この第3楽章とちょっとだけ雰囲気が似ている気がするのが、初期作品の中でも好きな曲の一つ《ロンド・ア・カプリッチョ ト長調》Op.129
「なくした小銭への怒り」という俗称の方が有名。聴けばわかるとおり、俗称のイメージにぴったりの曲。
作品番号こそ晩年のものだけれど、実際は1795~98年に書かれたとされている。
自筆譜は未完のままで(伴奏部分などが書かれていない)、ベートーヴェンの死後出版されたが、出版者のディアベッリが未完部分を補筆したと言われる。[ピティナ作品解説]

この曲と第3楽章の着想に少し似ているものを感じるのは、作曲時期がピアノ・ソナタ第6番(1796~97年)と重なっているせい?
《ロンド・ア・カプリッチョ》は、技巧的難易度がかなり高い(らしい)し、第6番の第3楽章よりもずっとコミカル。
演奏時間は、速い場合で5分台半ば。6分台の演奏も多いけれど、速く弾けば弾くほど、面白さが引き立ってくる。
演奏時間は、キーシン(5:24)、ソコロフ(5:36)、ウゴルスキ(5:41)。キーシンはさすがに速いけれど、跳躍部分で一瞬、間が開くことが多い。
もっとも鮮やかに弾き切っているのがソコロフ。あたふたと大慌てで、亡くなった小銭を家中探し回り、街中を駆けずり回っているようなシーンが浮かんで来る。
抜群のスピード感に加えて、テクニカルにも安定し、タッチの精密さ、美しい音の色彩感と表情づけも細やか。
これだけコミカルな面白さと、音の美しさ、表情の豊かさとが両立した演奏は、何度聴いても惚れぼれしてしまう。
ソコロフのスピード感が刷りこみ状態になっているので、6分台で弾いている演奏では遅すぎて、聴けなくなってしまった。

LV Beethoven Rondo alla ingharese quasi un capriccio Op 129 Grigory Sokolov


Complete Recordings-Bach/Beethoven/Schubert/BrahmsComplete Recordings-Bach/Beethoven/Schubert/Brahms
(2011/11/15)
Grigory Sokolov

試聴する(NAXOS/NML、分売盤にリンク)

tag : ベートーヴェン ルイス ソコロフ

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耳鳴り関連の臨床試験情報データベース(海外)(2) WHO:International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)
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登録臨床試験情報の概要
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"Clinical trial"の定義
WHOが運営する"International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)"は、国際的な臨床試験情報レジストリー。

登録されている臨床試験情報の定義は以下の通り。
-個人またはグループの人間の被験者が使い、1種類以上の健康に関連したintervention(介入、医学的処置)を行い、その効果を評価する。
-Interventionは、薬物に限定されるものではなく、細胞や生物学的生産物、外科手術、放射線照射、装置、各種行動療法、ケアプロセス、予防的措置などを含む。
-臨床試験の定義には、Phase I ~ Phase IV の治験も含む。

上記の定義に該当する臨床試験は、早期・後期試験、市場性および非市場性の製品対象、ランダム化および非ランダム化試験も含めて、全てが登録対象である。


米国NIH/Clincaltrial.Govの登録情報との関係
1)WHOのICTRPと米国NIH(国立衛生研究所)のClincaltrial.Govとでは、臨床試験情報が重複しているものがかなり多い。
ICTRPの登録情報で、「Main ID」または「Secondary ID」が "NCT○○○○○○"というコードの臨床試験は、米国/Clincaltrial.Govに登録している情報。
Clincaltrial.GovのDBにも「Other Study ID Numbers」という項目があり、ここに他DBの登録IDが記載されていることがある。

2)米国内で実施していない臨床試験には、WHO/ICTRPとClincaltraial.Govの両方に登録されている場合と、WHO/ICTRPのみ登録されている場合がある。
ex.日本国内で実施している臨床試験は、WHO/ICTRPにしか登録されていない。

3)米国Clinicaltrial.govと重複登録されている臨床試験のなかに、進捗状況情報が異なっているものがある。


Primary Registries in the WHO Registry Network(WHOレジストリーネットワークの主要レジストリー)
オーストラリア、ブラジル、中国、韓国、インド、キューバ、EU、ドイツ、イラン、ISRCTN.org、日本(UMIN、Japic、JMACCT)、オランダ、全アフリカ、スリランカ。
ウェブサイトに一覧リスト、概要、各レジストリーへのリンクが記載されている。


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臨床試験情報リスト
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リスト作成方法
検索サイト:WHO/International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP)の検索サイトSerach Potal
検索ターム:Tinnitus

抽出データ数
検索結果:臨床試験情報 121件(記録数は149件) (2012.5.12現在。スクリーニングなし)

リスト記載項目
Main ID,Public Title,Recruitment status,Date of Registration,URL

ファイル形式
検索結果を121件をXMLで出力し、それを元にExcelファイルでMain ID順の一覧リストを作成。最終的にPDFに変換。

リストのダウンロード
 WHO/ICTRP臨床試験情報リスト[2012年5月]
    ファイル名:WHO_ICTRP_2012.5.12.pdf



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リスト使用上の注意
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リスト上の記載データに誤りがある場合もありますので、正確・詳細な情報はICTRPサイトに登録されている各臨床試験情報を確認してください。

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改訂履歴
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耳鳴り関連の臨床試験情報データベース(海外)(1) 米国ClinicalTrials.gov [2012年5月改訂版]
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臨床試験情報リスト
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U.S. National Institutes of Health(アメリカ国立衛生研究所)が運営する治験(臨床試験)情報データベース”ClinicalTrials.gov Results Database”を利用して、米国内外の耳鳴関連の臨床試験情報リストを作成した。
2012年5月13日現在、ウェブサイト記載の公式説明では、179カ国の125,818件の臨床試験情報が登録されている。

リスト作成方法
<検索方法と抽出データ>
1)検索ターム:Tinnitus
2)検索結果:114件
3)スクリーニング後、90件を抽出。(うちネラメキサン関連5件)。
  ※被験者が耳鳴り患者以外の臨床試験などをノイズとして除外。

<リスト作成>
1)ネラメキサン関連情報5件は別段でリスト化。
2)データ記載順:各情報に付与されている"Identifier"でソート(降順)
3)リスト記載項目:
Study,Identifier,Status,Study Start Date,Study Completion date,Enrollment,Phase,
Sponsor/Collaborator,Condition,Intervention、日本語研究名(追記)

<ファイル形式>
Excelファイルでリスト化後、PDFファイルに変換。

<情報ソース>
2012年5月11日現在、"ClinicalTrials.gov"サイトに登録されていた情報。英文のまま転載しリスト化。
各治験情報の概要は、"ClinicalTrials.gov"サイトでリストに記載している「Identifier」の番号で検索すれば、該当情報が閲覧できる。

リストのダウンロード
海外臨床試験情報リスト[2012年5月改訂版]


ファイル名:Tinnitus Clinicaltrial list_20120511.pdf


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付録:Interventionの分類
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耳鳴関連治験情報リストに基づいて、Intervention記載の医薬・医療機器・療法等をカテゴリー別に整理した。

Drug
   AM-101
   OTO-104 (steroid)
   Acamprosate
   Caroverin
   AM-101
   BGG492A
   NST-001
   Vestipitant
   Paroxetine
   Deanxit
   piribedil
   Dexamethasone-dihydrogenphosphat
   Levitra (Vardenafil)
   gabapentin
   Sildenafil
   Modafinil
   Gabapentin (Neurontin)
   aspirin
   D-methionine
   Neramexane
   Cilostazol
   SPI-1005

Genetic
   vasopressin V2receptor

Dietary Supplement
   Micronutrient Supplement
   Zinc sulfate
   Magnesium

Device
   rTMS(Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation)
   TMS
   tVNS-Device
   vagus nerve stimulation(VNS)
   Acoustic CR-Stimulator ANM T30 //Technology: Acoustic coordinated reset
   Customized Acoustic Stimulation (※Neuromonics Tinnitus Treatment):Oasis™
   Nimbus Multifunctional Stimulator
   Antinitus patch
   Conventional sound generator(SG)
   Phase Out treatment (※Phase Shift Treatment)
   P-Stim(Somatosensory Based Treatments)(体性感覚ベースの治療法)
   BrainSTIM Transcranial Stimulator
   The Inhibitor™
   Nimbus Multifunctional Stimulator
   Akloma Tinnitus Patch(Antinitus®)
   Neuro-Music Therapy(Heiderberg Model)
   MRI
   significant chronic primary auditory cortex stimulation

Radiation
   Low dose laser
   Hearing Laser

Procedure
   Progressive Tinnitus Management
   Tinnitus Retraining Therapy (TRT)


Behavioral
   Cognitive Behavioral Therapy/Group therapy(認知行動療法)
   Biofeedback-based cognitive-behavioural intervention(バイオフィードバックベースの認識行動療法)
   Mindfulness Based Tinnitus Reduction(マインドフルネス認知療法:症状知覚シフトプログラム)
   Internet-based guided self-help
   Multimedia hearing loss prevention program
   Neurofeedback(ニューロフィードバック)
   Brain Fitness Program
   Music-therapeutical stress management coaching
   Task-Based Functional Magnetic Resonance Imaging (fMRI)


Other
   Internet discussion forum
   Directive Counseling
   Myofascial trigger point pressure release (deactivation)
   Integrated Medicine Therapies and Sound Based Education Therapie
   Telephone Tinnitus Education

[備考]
* rTMS、TMS:「Device」に統一
* Laser:「Radiation」に統一
* Stimulator:「Device」に統一
* TRT療法:「Procedure」に統一
* カウンセリング:「Other」に統一

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参考:治験申請対象試験に関する日米の違いについて
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米国
NCE(New Chemical Entity:新規化合物)の治験を行う場合、FDA(Foodand Drug Administration:食品医薬品局)から、IND(Investigational New Drug:治験許可申請)の許可を受けなければならない。
米国のIND申請は日本と異なり、臨床研究全般の実施承認に用いられる。そのため、製薬企業による新薬開発の為の臨床研究だけでなく、医師や大学の研究者による学術的な臨床研究であっても、IND の提出が義務づけられている。
出典:「H18年度 科学技術振興調整費「円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路調査」成果報告」

※上記の定義から判断すると、米国のClinicalTrials.govサイト内に蓄積されているClinical Trials のうち、日本の「治験」(新薬・医療機器の承認申請目的の臨床試験)以外の臨床試験も含まれていると考えられる。
※実際、フェーズ情報が収録されていない試験が3分の1を占める。(出典:「ClinicalTrials.govに登録された臨床試験の分析」中村文胤/情報管理Vol.52(2009), No.8 p.475-486)

日本
日本における「治験」とは、新しい医薬品・医療機器の承認申請を目的とする臨床試験のこと。
GCP省令(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)という薬事法の適用対象である。
医薬品等の承認申請を目的としない「臨床試験」は、「治験」には該当しない。
出典:「治験・臨床研究(自主研究)の違い」(佐賀大学付属病院治験センター)


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リスト使用上の注意
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リスト上の記載データに誤りがある場合もありますので、ClinicalTrials.govサイトの各治験情報を必ず確認して下さい。


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改訂履歴
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2011.05.19 リスト改訂
 - リストに日本語研究名を追加。(「治験情報リスト(ネラメキサン)」は耳鳴関連治験のみ)
 - 「治験情報リスト(耳鳴全般)」より、別疾患の治験情報など9件を除去

2011.05.20 記事掲載:米国治験情報リスト《付録:Interventionの分類》

2011.05.27 改訂版登録:「治験情報リスト(耳鳴全般)」(日本語タイトルの一部訂正)

2011.08.05 改訂版登録:「治験情報リスト(耳鳴全般)」(リスト作成方法を追記)

2012.05.26 2012年5月改訂版登録
 - 「海外臨床試験情報リスト[2012年5月改訂版]」(新規データ追加、フォーマット一部修正)
 - 「付録:Interventionの分類」に追記

エヴェリン・グレニー/Touch the Sound、TED talk"How to listen to music with your whole body"
『Touch the Sound』
『Touch the Sound』は、スコットランド出身のパーカッショニスト、エヴェリン・グレニー(Evelyn Glennie)の生い立ちとその音の世界を追うドキュメンタリー映画。2006年公開。
12歳の時に聴覚をほとんど失ったグレニーは、英国王立音楽院で学び、今ではプロのパーカッショニストとして有名。
この映画で登場するグレニーの演奏の舞台は、コンサートホールではなく、街の中 - 路上、駅、建物のアトリウム、日本の居酒屋、廃墟の工場、公園、etc.。
映画の中に出てくるシーンは、街のランドスケープと"生活騒音"、いろんな場所でドラムを叩く大道芸人のようなグレニー、自らの生い立ちを語るグレニーとそのゆかりの場所、ギタリストのフレッド・フリスと演奏する廃墟の工場など。時間の流れが断ち切られて、モザイクのように情景が組み合わされていく。
グレニーが来日した時に、日本の和太鼓を叩いたり、和太鼓に合わせてドラムを弾くくシーンも映っている。(Touch The Sound Part6)[Youtube]
映画の中では、普段聞き流している街の騒音がクローズアップされて、空気を伝わってくる振動とそのリズムが、一種の環境音楽のように聴こえてくるのが不思議な感覚。


グレニー自身のYoutubeチャンネル"DameEvelynGlennie"に投稿されている予告編。
Evelyn Glennie, Touch the Sound movie trailer



『Touch the Sound』の抜粋映像は、グレニーと英国のギタリスト、フレッド・フリスの演奏する《A Little Prayer》。
この映画のなかで最も美しい音楽。
廃墟の工場のなかから画面を通して伝わってくる音のバイブレーションは、映画「グラン・ブルー」の海の世界のように、静謐でどこかしら神秘的。
電気的なギターが弾いているのは、地上の世界とは異なるゆったりとした時間が流れている海中の音楽のようなメロディー。
それとは全く異質なマリンバの木質的な音の組み合わせが面白い。
グレニーの弾くマリンバは、硬くて丸みのあるフェルトのような感触。周期的で歌謡性のない音のオスティナートがアンビエント(環境音楽)的でとても心地良い。

Evelyn Glennie & Fred Frith, A Little Prayer from Touch the Sound



<関連情報>
『Touch the Sound』 エヴリン・グレニー記者会見

『Touch the Sound』 [ほぼ日刊イトイ新聞 - ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。vol.111]
福嶋真砂代さんによる映画紹介とグレニー来日時のインタビュー。


                                  

 TED talk "How to listen to music with your whole body"
2003年に開催された「TED talk」(TEDカンファレンス)で、"How to listen to music with your whole body"(全身で音楽を聴く方法)をレクチャーするグレニーの映像。
ドラムとマリンバを使って、「音楽を聴くことは単に鼓膜を振動させる以上に、いかに多くの機能を使うものであるか」を実演を交えてレクチャーしている。最後の5分間はグレニーの独奏。










打楽器には、グロッケン、ヴィブラフォン、マリンバなどの種類があるらしい。
マリンバとシロフォンは木琴、グロッケンは鉄琴の一種。ビブラフォンは鉄製で、ダンパーペダルによって余韻をコントロールしてロングトーンを演奏できる。これはマリンバや木琴と大きく異なる点。
いずれの楽器も、マレットという名のばちを2本~4本使って演奏する。


<TED(Technology Entertainment Design)>
TEDは、米国カリフォルニア州モントレーで年一回、講演会"TED Conference"を開催。芸術、学術、医療、環境、エンターテイメント等の幅広い分野の著名人がプレゼンテーションを行う。
"TED Talks"は、過去の講演会の動画無料配信プロジェクト。
一部の講演会は、日本語字幕付映像でも視聴出来る。["Translations Talks in 日本語" アーカイブサイト]

ポール・ルイス ~ シューベルト/3つのピアノ小品D946 第1番,第2番
ポール・ルイスのライブ映像は、シューベルトの《3つのピアノ小品/Drei Klavierstücke》D946の第1曲と第2曲。[ピティナ作品解説]

ルイスのお師匠さんのブレンデルのシューベルトは、色彩感が強く線が細いので、曖昧さのない明晰さを強く感じる。
音質のせいか、ルイスにはやや音に丸みがあって柔らかく、重層感もあり、聴き心地がとても良い。
シューベルトとなると、神経質なくらいの過敏な繊細さと慟哭するような激しさで弾く有名な"シューベルト弾き"もいるけれど、そういう方向性のシューベルトを聴くとどうも疲れてしまう。(その種の心象世界にはシンクロできないので)

ルイスのシューベルトは、そういうゴリゴリと抉っていくようなところがなく、音符の中や間に埋め込まれている諸々の感情が自然に湧き上がってくるよう。
歌うようなようなしなやかさと自然な情感の流れを感じることができるのが、私には合っているらしい。

昨日届いたD959とD950を録音を聴いたけれど、あのシューベルト独特の冗長さを全く感じないくらい。
D959は元々好きな曲なこともあって、これは繰り返し聴いても新鮮に思えるほどに飽きない。いろんな録音を聴いてももう一つ好きにはなれないD960までそう思えてきそうなくらい。
ピアノ・ソナタに関していえば、今まで聴いたピアニストのなかでは、ルイスの弾くシューベルトが(エゴロフのD958と並んで)、一番自然に受け入れられるみたい。


Paul Lewis‐Schubert:Klavierstücke in E flat minor D946 no.1



Paul Lewis‐Schubert:Klavierstücke in E flat Major D946 no.2



《3つのピアノ小品》のスタジオ録音の方は、シューベルト作品集の最新アルバムに収録されている。
シューベルト:ピアノ・ソナタ集 (Schubert : Piano Sonatas D. 840 850 & 894 / Paul Lewis) [2CD]シューベルト:ピアノ・ソナタ集 (Schubert : Piano Sonatas D. 840 850 & 894 / Paul Lewis) [2CD]
(2011/11/04)
ポール・ルイス

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tag : シューベルト ルイス

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
電気フライヤーとオイルポット
 電気フライヤー
せっかく買ったのにあまり使っていない調理家電の一つが、象印の電気フライヤー「あげあげ」。
買うときは、大は小を兼ねると思って、サイズの大きいこの機種にしたけれど、使ってみると、一人分の揚げ物をするには大きすぎる。
必要な油量が700mlと多いので、揚げ油の処理も面倒。
段々使うのがおっくうになって、キッチンの棚にしまいこんでしまった。
揚げ物は電気フライヤーしか使わないことにしているので、食べたい時には揚げた物を買ってくるか、ガスグリルやオーブンで"揚げない"フライとかドーナツを焼くことになる。

ZOJIRUSHI あげあげ 電気フライヤー メタリックカカオ EFK-A10-TJZOJIRUSHI あげあげ 電気フライヤー メタリックカカオ EFK-A10-TJ
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象印

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数ヶ月前、amazonでたまたま見つけて買った新しい電気フライヤーは、TWINBIRDのコンパクトフライヤー。
ユーザーレビューが良くて、名前のとおり、可愛らしいデザインのコンパクトサイズ。
標準油量は500ml。最低300mlでも大丈夫。
実際に使ってみると、ほんとに手軽で便利。小さなサイズなので、何回か小分けにして揚げないといけないけれど、少量の揚げ物にはとっても便利。
短所としては、火力が弱いらしく、揚げる時間が少し長くかかる。内径が15cmくらいなので、材料を小さく切っておかないと入らない。材料を一度に大量に入れると、油温が下がってなかなか揚がらないとか、いろいろあるけれど、急がずゆっくり揚げれば気になることでもない。
分離して洗えないので(気をつければ洗えないこともないけれど)、ペーパータオルできれいに油をふき取っておけば、お手入れは簡単。(洗剤で洗わないと気がすまない人には向いていない)

特に気に入っているのが、サーターアンダギー。
私の好きなお菓子は、このサーターアンダギーとかりんとう。365日毎日食べても飽きないくらい。
お店で買うと1個100円くらいするので、自分で作るとその1/10くらいのコスト。
小さな一口サイズで作れば、カロリーカットと食べ過ぎ防止にもなる。
野菜の素揚げや冷凍フライを揚げるのも簡単。
肉類は食べないので、高野豆腐に下味をつけて片栗粉に絡めて揚げれば、鳥のから揚げもどき。
あまりに手軽なので、揚げ物を作る機会が多くなったのが、短所かも。

TWINBIRD コンパクトフライヤー パールホワイト EP-4694PWTWINBIRD コンパクトフライヤー パールホワイト EP-4694PW
(2008/10/03)
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 オイルポット
厄介なのが、揚げ油の処理。濾過して繰り返し使う、油凝固材(テンプルなど)で固める、吸収材(シート、パッド)で吸わせる、処理剤で洗剤に変身させる、とか、いろんな方法がある。
濾過、油凝固材、吸収剤は試してみたけれど、今はpanasonicの天ぷら油クリーナー"レッツフライ"で濾過して、繰り返し使っている。使用後に毎回濾過すると、同じ油でも10回くらいは使えるらしい。
専用の濾過カートリッジは、1個につき10回(合計10リットル)の濾過能力があるので、1回あたり300ccの揚げ油を濾過するには充分。2ヶ月くらいで交換しないと、カートリッジ内の油が酸化して傷むらしい。(気温が高くなる季節は要注意)
同梱されているペーパーフィルターと合わせて使って、揚げかすを取り除く。
濾過した油は炒め物にも使っているので、油量を300mlにするために、毎回新しい油を注ぎ足している。こうすれば、油が酸化しにくいとどこかで読んだので。


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手軽にきれいに濾過できるのは良いけれど、難点はカートリッジのコスト。2個セット(フィルター20枚付き)が定価1000円くらい。
amazonだと定価の7割くらいで売っている。ストックできるものなので、5個セットの方が便利。
揚げ油や材料のコストを加えると、1人分の揚げ物を食べるなら、買った方が手軽で安上がりな気がしないでもない。
ドーナツなら、手作りの方がはるかにコストパフォーマンスが良い。
どちらかというと、ドーナツを食べたいがために、このコンパクトなフライヤーを買ったようなもの。
サーターアンダギー以外にも、お豆腐ドーナツやオールドファッション、イースト発酵させたドーナツとか、いろんな種類のドーナツが、食べたい時に簡単に作れる。手作りドーナツができるというだけで、満足感は充分。

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(2009/04/01)
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揚げ物に関する情報番組
「対決!ガッテンVSエコ 極ウマ!手抜き調理術」 ~ "油はどう捨てる"(2008年06月04日放送)

グールド&ラレード ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集 BWV1014~1016
久しぶりにバッハのヴァイオリンソナタの録音をいろいろ聴いていたら、以前はどうも居心地悪くてしようがなかったグールド&ラレード盤が、なぜか面白く感じられるようになっていた。
最近は、シューベルトもだいぶ普通に聴けるようになったし、年をとっていくと昔よりはこだわりがなくなってくるせいか、どうしてなんでしょう。

グールドが録音したバッハのヴァイオリンソナタは2種類。
全曲録音(1975年、1976年)のヴァイオリニストはハイメ・ラレード。第4番BWV1017は、メニューインとのテレビ録音(1965年10月)が残っている。
メニューインと録音した第4番はオーソドックスと言ってもよいくらいにまっとうなので、こちらは昔から普通に聴ける。

それとはかなり違うのがラレードとの録音。グールド独特のクリスピーなノンレガート、凝ったアーティキュレーション、超スローテンポなど、他のピアニストの演奏とは明らかに違っていて、極めて個性的。
レガートで弾いていることもかなり多く、音色はやや艶めかしさのある滑らかなベルベットのような肌触り。
緩徐楽章はテンポがスローなことと、小節やフレージングの区切りが感覚的にわかりにくく、拍節感が曖昧に感じるので、いつも聴いている曲とはかなり違った曲に聴こえてくることも多い。
急速楽章はテンポが速いせいか、そういう印象の曲は少なくて、タッチは全体的に軽やかで優しく、柔らかい響きには温もりがあって、とっても聴きやすい。ちょっと訥々としたタッチも可愛らしく聴こえる。

グールド&ラレードの演奏を聴くと、斬新というか何と言うか、今まで未発見のバッハのヴァイオリンソナタを聴いている気分がしてくる。
ヴァイオリンよりもピアノの存在感の方が強く感じるせいか、何度聴いても、ついピアノの方に耳が吸い寄せられてしまう。
ピアノが受け持つ2つの声部が、ヴァイオリンが弾く声部とそれぞれ同じくらいの音量で鮮明に聴こえてくるし、装飾されたフレージングが面白く、ヴァイオリンの旋律よりもはるかに情報量が多い。
もともとピアノパートだけ弾いていても、独立した曲に聴こえてくる部分が多い曲なので、ヴァイオリン独奏付きのピアノ・ソナタと言っても違和感がないくらい。
ピアノソロはどうもしっくりこないグールドのバッハが、このヴァイオリンソナタだけは、何回も聴いているとだんだん自然に思えてくるのが不思議。といっても、個性が強すぎるので、定番で聴くとなるとやっぱり聴き疲れしてしまう。

Bach: Six Sonatas for Violin & HarBach: Six Sonatas for Violin & Har
(2007/09/04)
Glenn Gould

試聴する(米amazon)[別盤の試聴ファイルにリンク]



最初の曲は、第6番BWV1019の第3楽章。珍しい鍵盤楽器の独奏楽章。
こんな風に弾くピアニストはいないと思うくらいに、グールドらしい演奏。
様々な装飾音を使っているだけでなく、フレージング自体を装飾して弾いたりして、アーティキュレーションが面白い。
それに、前半部分では最初はノンレガート主体、リピートのときはレガート主体と、弾き方を変えている。
チェンバロ演奏だと、リピートのときに装飾音をいろいろ使って弾くけれど、ピアノだとそれ以上に弾き方のバリエーションが豊富。
続く第4楽章もいつも聴いている曲とはかなり違って聴こえる。意外に曲想に似合っているので、こういう弾き方もありかなと思えてくる。

J. S. Bach - Sonata for Violin and Clavier in G Major BWV 1019 (2/2)



第4番BWV1017の第1楽章と第2楽章。
J. S. Bach - Sonata for Violin and Clavier in C Minor BWV 1017 (1/2)



これはメニューインと演奏した第4番BWV1017全曲。
録音方法の違いもあるのだろうけど、メニューインのヴァイオリンは、ピアノと対等かそれ以上にしっかりした存在感がある。
ラレード盤とは違って、ピアノパートはあまり装飾音を使わず、面白さはあまりないけれど、ノンレガートの独特なタッチでも至極まっとうな演奏に聴こえてくる。

Glenn Gould-Yehudi Menuhin-J.S. Bach-Violin Sonata No.4 (HD)



tag : バッハ グールド

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
耳鳴り治療のための認知行動療法(2) ニューロフィードバック療法
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ニューロフィードバック療法の概要
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ニューロフィードバックとは、バイオフィードバックの一形態。
EEG(Electroencephalogram:脳波)活動の周波数・場所・大きさなどを測定し、そのデータを元に、自分自身の脳活動を自発的に変更させるコンピューター化された学習戦略。
ニューロフィードバックは、神経療法(neurotherapy)、ニューロバイオフィードバック(neurobiofeedback)、EEGバイオフィードバック(EEGBF)とも言われる。
患者の頭皮につけたセンサーで脳波活動情報を計測し、ビデオ画面・音・振動などで、患者にリアルタイムにフィードバックする。


"Biofeedback & Neurofeedback: Tools to Reduce Tinnitus"
(耳鳴緩和手法としてのバイオフィードバックとニューロフィードバック)[Arches Natural Products,Inc](以下、要約)

ニューロフィードバックは、バイオフィードバックより新しく開発された手法で、基本原則は同じ。
バイオフィードバックが身体の生理学的特徴を検知・表示するのと異なり、ニューロフィードバックでは脳波をモニターする。患者の毛剃りしていない頭皮に複数の電極をはりつけ、EEG(脳波)を記録する。
脳は異なる周波数の電気信号を多数放出しているが、特定の障害・精神的状態に直接結びつけることができる信号はわずか数種類のみ。

脳波の主要分類;Beta/ベータ波(覚醒)、Alpha/アルファ波(静かなリラックス)、Thera/シータ波(軽い眠り)、Delta/デルタ波(深い眠り)

ニューロフィードバックはADHD治療に一般的に使われており、文献も多い。シータ波を減らし、アルファ波を増加させることで、この障害を持つ子供たちの注意力を高めることができる。
もう一つの適用症状は、てんかん。1999年4月にjournal Clinical Neurophysiologyで発表されたドイツの研究では、大脳皮質内のきわめて低い周波数の脳波をコントロールする方法を習得した結果、てんかん患者の2/3が発作の頻度を減らすことができた。

"医学の父"ヒポクラテスは、2500年前に"Tinnitus is the little brother of epilepsy."(耳鳴はてんかんの弟)と言っていたが、実際、てんかん患者に有用な薬や治療法の多くが、耳鳴り患者に対しても有益である。

近年のドイツの研究では、40人の耳鳴患者のうち24人に対し、1年間で15セッションのニューロフィードバック療法を行い、残り16人は対照群として治療を行わなかった。
療法群の24人は、筋肉をリラックスさせて音楽療法を行っている間、アルファ波活動の振幅を増大し、べータ波活動の振幅を低下させる訓練をうけた。この治療を受けた患者全てに、THI(Tinnitus Handicap Inventory)スコアの有意な減少があった。対照群のTHIスコアは不変。

米国の主要都市では、複数のバイオフィードバックセンターがあるが、ニューロフィードバックセンターはほとんどなく、地域病院の神経内科の紹介で見つけることができる。


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論文
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文献レビュー
"Bhramari Pranayama and Alternative Treatments of Tinnitus: In Pursuit of the Cure"(By Sidheshwar Pandey) (160頁、画面上は8/18頁)
この論文は、耳鳴り治療に応用したニューロフィードバックに関する既存文献をレビューしたもの。

耳鳴り患者の脳波
慢性耳鳴り患者は通常の聴覚を持つ人に比べて脳活動パターンが異なり、多くの患者で異常な振動(oscillatory)が見られる。この病理学的な活動は、ニューロフィードバック技術により、主にタウ律動の活動(8~12Hz)の拡張を通じて、正常化されうる。(Weisz et al., 2005)

[補足:後頭葉以外発生しているアルファ帯域(8~13Hz)の電気的振動のうち、側頭葉周辺のものはタウ(τ)律動と呼ばれることがある。タウ律動は聴覚処理などに関連があると言われている。]

耳鳴り症状のある脳は、アルファ・パワー(8~12Hz)が減少、デルタパワー(1.5~4Hz)とガンマパワー(>30Hz)の脳波範囲で増大がみられる。
この違いは、特に脳の側頭皮質領域で顕著。デルタ波の増大と、アルファ波の減少は、右側頭および左前頭部皮質を中心に耳鳴りが関係する苦痛度の変数(distress variables)と強い相関がある。
右側頭皮質および左前頭部皮質は耳鳴り関連の大脳皮質神経ネットワークに関与しているのかもしれない。右側頭領域の方が、音の知覚に関わる問題(音の特徴(トーナルorノイズ、大きさ)に関連する側面)との関連が強い。
一方、左前頭部皮質の方は、耳鳴りがもたらす感情的な苦痛と動機づけられた注意(motivational attention)に、関係が深い。(耳鳴りは重要度の高い信号になっているため、個人の注意を引く)(Weisz et al., 2005)

ニューロフィードバックによる耳鳴り緩和の効果
一時的に生成されたタウ律動(8-12Hz)とデルタ波範囲(3-4Hz)の叙波が、耳鳴り治療用のニューロフィードバックプロトコルとして使用される。
言い換えれば、ニューロフィードバックを使ってアルファ周波数を増幅し、デルタ波活動をカットすることは、耳鳴りを緩和するのにいくらかの効力がある。(Crocetti et al., 2011)
大脳皮質神経回路を操作するニューロフィードバック療法は、耳鳴りの大きさ・苦痛の緩和に役立ちうるということが報告されている。(Schlee et al., 2008)

(以上、要約。引用されている論文の一部は、後掲)


個別論文
Pubmedを使用した文献検索結果によれば、ニューロフィードバックを応用した耳鳴り治療に関する論文は多くはない。
「neurofeedback AND tinnitus」でキーワード検索した結果、1995年以降発表された論文17件が該当(ノイズ含む)。
発表論文が多いのは、ドイツ・コンスタンツ大学の研究グループ。
Pubmed検索結果一覧


(1)University of Konstanz, Department of Psychology (Weisz,et al.)
"Tinnitus Perception and Distress Is Related to Abnormal Spontaneous Brain Activity as Measured by Magnetoencephalography"
PLoS Med. 2005 June; 2(6): e153.
Nathan Weisz,Stephan Moratti,Marcus Meinzer,Katalin Dohrmann,and Thomas Elbert/Department of Psychology, University of Konstanz, Germany

-脳の継続・自発活動の異常性について、耳鳴りを自覚している人と耳鳴がない人とを比較した既存研究がなかった。
-耳鳴り症の被験者群(17人)の自発的神経活動の特徴:通常の聴覚能力を持つ被験者群(16人)と比べて、アルファ波(8–12 Hz)パワーでの際立った低下と、デルタ波(1.5–4 Hz)範囲での増大が顕著。
-この活動パターンは特に側頭領域で著しい。さらに、耳鳴に関連した苦痛との相関性は、特に右側頭と左前頭の領域において、異常な自発活動パターンと強い関連があることを示している。
-全体として、この療法は、デルタ波の周波数よりもアルファ波の周波数に対して効力が高い。
-安静時に全頭型neuromagnetometerで記録した5分間分のデータストリームがあれば、顕著な違いを引き出すのに充分。(剃髪していない頭皮に付けた電極を通じてデータを記録)
-当該領域内で発生している異常な自発活動パターンは、耳鳴りに関係した大脳皮質神経ネットワークを反映している。


Figure1:Power Spectra Averaged over All Sensors Show a Reduced Alpha Peak in Participants with Tinnitus and an Enhancement for Delta(耳鳴り症の被験者では、正常な聴覚をもつ対照群に比べて、アルファ波のピークが落ち込む一方、デルタ波が増大している)


[2012.5.24 追記]
"The neural code of auditory phantom perception."
J Neurosci. 2007 Feb 7;27(6):1479-84.
Weisz N, Müller S, Schlee W, Dohrmann K, Hartmann T, Elbert T./Department of Psychology, University of Konstanz
-耳鳴り症被験者26名、対照群21名。
-徐波活動が著しく増大した短期間のガンマ周波数活動を観察。対象データは静止時の自発的MEG活動(5分間)から抽出。
-結果:周波数範囲50-60Hzについて
(1)両群とも、徐波発生後、ガンマ周波数帯域で著しく増大。(Figure2)
(2)ガンマ波は耳鳴り症被験者でより顕著。
(3)約55Hzまでの周波数活動が耳鳴知覚の偏在性(laterality:片側優位性)を決定ずけている。右耳の耳鳴りは左脳で、逆の左耳の耳鳴りは右脳で、55Hzのガンマ波活動が優位。両耳性耳鳴の場合は、laterality indexはゼロに近く、55Hz波の活動の半球優位性は見られない。(Figure5)
"耳鳴りとオシレーション"[脳とネットワーク/The Swingy Brain]について、この論文の紹介・解説あり。


"Neurofeedback for treating tinnitus"
Progress in brain research 166 (2007), 554 pp. 473-485
Katalin Dohrmann, Nathan Weisz, Winfried Schlee, Thomas Hartmann and Thomas Elbert
University of Konstanz, Department of Psychology(Germany),Centre Hospitalier Le Vinatier France

-耳鳴り症の人の多くは、脳活動に異常な振動がある。ニューロフィードバック技術によってこの病理学的活動を正常化する方法を開発した。(Weisz et al.(2005). PLoS Med., 2: e153)(後掲論文)
-その方法は、主にタウ律動の活動を強化することによる。(例えば、アルファ波の周波数範囲内(8–12 Hz) でシルビウス裂周囲領域での振動活動を生成し、同時にデルタパワー範囲(0.5–4 Hz)の活動を低減させる)

-訓練方法
1)ニューロフィードバック訓練の間、被験者のモニター上に表示されているシンボル"schematic fish"(金魚の図形)を画面の上方・下方に動かす(ニューロフィードバックのプロトコルによって異なる)。"fish"の位置の高さは、特定周波数の大きさ・パワーを表わす。被験者は、4週間の間に10セッション(訓練時間(ネット)は1セッション当たり30分)実施。前頭-中心部につけられた4つの電極を通じてEEGが記録される。
2)課題:11人の被験者は、"tau-to-delta power(TDR)"比率を高める。5人はタウパワーを高める(デルタパワーフィードバックなし)、残り5人はデルタパワーを低下させる(タウパワーのフィードバックなし)ことを求められる。
3)フィードバックは、パソコン画面上を左右に移動するシンボルを使って行われる。シンボルの上昇はTDRとタウパワーの増大がそれぞれ成功したことを示す。デルタ・プロトコル群では、シンボルの下降がデルタパワー低下に成功したという意味。光り輝くシンボルは被験者が個人的に調節された閾値範囲に達したという意味。
4)被験者は、EEG活動で予期された変化を獲得する方法については特に指示は与えられない。被験者は期待された方向にスクリーン上のシンボルを動かすため、精神的活動を変化させなくてはならない。

-結果:TDR比率を修正することにより、耳鳴り強度の有意な低下が見られる。自らの振動パターンを修正することに成功した被験者は、耳鳴りを感じることが完全に無くなった。
-このニューロフィードバック療法は、耳鳴りによる苦痛を低減する点では、対照群の"frequency discrimination training"(周波数識別訓練)よりもはるかに優れている。


"Alpha Rhythms in Audition: Cognitive and Clinical Perspectives"
Front Psychol. 2011;2:73. Epub 2011 Apr 26.
Nathan Weisz,Thomas Hartmann,Nadia Muller,Isabel Lorenz,and Jonas Obleser/University of Konstanz(Department of Psychology, Zukunftskolleg),Max Planck Institute for Human Cognitive and Brain Sciences

MEG研究に基づき、主に聴覚皮質内における正常なアルファ波的(alpha-like)活動の再構築を目的として、2種類の異なるアプローチを行った。
1)第1のトレーニング手法
"Alpha-Delta Training"。アルファ波活動を増大し、デルタ波活動を低下させて、自発的EEG活動パターンを正常化するのが目的。被験者10人。
2007年の研究では、前頭中心部に4つのEEG電極をつけ、単純な比率計測(アルファ波/デルタ波;1次元のフィードバック)を行い、有望な成果(耳鳴苦痛度が最大20%低減)が得られた。
過去の"Alpha-Delta Training"の方法を修正(独自のオンラインEEGソフトウェアフレームワークの構築、ニ次元フィードバック)し、アルファ波とデルタ波のパワーが、パソコン画面の二本の異なる軸でそれぞれ示されている。
被験者のタスクは、"high alpha"と"low delta"を示しながら、ボールを出来る限り右側上方の角に移動させる。
電極(32チャンネル)とsource montageを使用して記録し、側頭脳領域の継続活動をモデリングする。

2)第2のトレーニング手法
"Desynchronization Suppression Training"(脱同期化抑制訓練)。被験者7名。
タスクの目標は、5秒間の音刺激(個々人の耳鳴スペクトラムの周波数を含むバンドパスノイズ)の間に、脱同期化の抑制を示しつつ、下方へ移動する"fish"を出来る限り上方へ動かすこと。アルファ波活動を増大させることにより、アルファ波脱同期化(Alpha Desynchronization)という"自然な"傾向を抑制する。
"Desynchronization Suppression Training"の目的は、自らの耳鳴周波数と似た音響に対する興奮性を抑制する方法を取得すること。

(訓練用画面は、全文中のFigure 4 | Demonstration of the feedback for the participants of our neurofeedback training.参照)

3)結果
"Alpha-Delta Training"でのアルファ波活動の増大はほぼ80%。"Desynchronization Suppression Training"では、刺激音の有無に関わらず50%。
2つの訓練方法による耳鳴苦痛度緩和の平均値は、最大27%の低下。過去に実施したshamrTMS群と1時間のrTMS群の試験結果と比べて、強い低減効果がある。


(2)rtfMRIを使ったニューロフィードバック手法
"Real-time fMRI feedback training may improve chronic tinnitus."
Eur Radiol. 2010 Mar;20(3):696-703. Epub 2009 Sep 16.
Haller S, Birbaumer N, Veit R./Institute of Radiology, Department of Neuroradiology, University Hospital Basel,Switzerland

-目的:rtfMRI(real-time functional magnetic resonance imaging)を活用したニューロフィードバック手法での自発的訓練により、特定の限局性神経活性を意識的に修正することができる。耳鳴り患者が1)rtfMRIを利用したニューロフィードバック手法により、自ら聴覚システムの活性化を低減させる方法を習得できるか、2)それが成功した場合、耳鳴リ症状の改善につながるか、調査した。
-方法:6人の慢性耳鳴症患者に対して、最初に個々人の聴覚皮質の場所を標準的なfMRI auditory block-design localizerで特定。次に、被験者は、今現在の聴覚活性状態を視覚的にバイオフィードバックされ、(rtfMRI上の)聴覚活性を意識的に低減させるように訓練を受ける。
-結果:rtfMRIニューロフィードバック手法で訓練した結果、聴覚活性が有意に低減し、6人のうち2人で自覚的な耳鳴り症状が緩和した。
-トレーニングプロトコル(周波数、期間など)の最適化により、耳鳴改善効果が高まるかもしれない。


(3)ニューロフィードバックによる耳鳴り治療効果が最初に報告された論文
"Neurofeedback in therapy of tinnitus"
HNO. 2001 Jan;49(1):29-35.
Gosepath K, Nafe B, Ziegler E, Mann WJ./Römerwallklinik, Klinik für Neurootologische Erkrankungen, Mainz.

被験者:耳鳴歴のある療法群40名、耳鳴りのない対象群16名。
試験方法:耳鳴抑制のために、筋肉のリラックスと音・音楽による音響オリエンテーション(acoustic orientation)の間に、被験者は自分のアルファ波活動の振幅を増大させ、ベータ波活動の振幅を低下させる訓練を受ける。
結果:24人の被験者(耳鳴歴が平均1年)は15セッションのトレーニング後、アルファ波の振幅が有意に増加。16人の被験者(耳鳴歴が平均7年)はベータ波の振幅のみ低減し、アルファ波活動には変化はなし。
全被験者の訓練終了後、"tinnitusquestionaire of Gobel and Hiller"のスコアに有意な低減が見られた。
耳鳴りのない対照群では、同じ訓練を実施中に、アルファ波&ベータ波の振幅に変化はなかった。


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臨床試験
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"Countering Stimulus-Induced Alpha-Desynchronization to Treat Tinnitus"
治験依頼者(スポンサー): University of Konstanz
研究開始年月: 2008年9月
完了予定年月: 2009年5月 (primary)
予定被験者: 10名
研究設計:非ランダム化、単独グループ、非盲検


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参考:ニューロフィードバックの歴史
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ニューロフィードバックの歴史は1960年代に遡り、現在でも研究が続けられ、新しいプロトコルが開発されている。

<発端>
1875年 Richard Catonが、脳が電気的インパルスを持っていると発見。
1924年 ドイツ人神経学者Hans Bergerが脳の電気的活動を増幅し、グラフ紙に記録。脳波が個人の意識レベルによって変化することに気づいた。

<1960年代>
ニューロフィードバックを始めたのは、異なる種を研究していた2人:シカゴ大学で人間の脳波を研究中のDr.Joe Kamiyaと、カリフォルニア大学ロサンゼルス分校で猫の脳波を研究中のDr. Barry Sterman。
2人は、安静状態で生まれる脳波から、彼らの被験者(種に関わらず)が、単純な報償システムを通じて、安静時の脳波をコントロールできるようになったことを発見。

<1970年代>
Stermanは、ニューロフィードバックによる人間のてんかん発作緩和効果を記録した研究を多数発表。
内科医のDr.Joel Lubarは、Stermanの研究を元に、ADHD(注意欠陥多動性障害者)に有効ではないかと仮定。1976年に子供のADHD患者(当時の病名はhyperkinetic syndrome)におけるニューロフィードバックの効果(過剰反応を消滅・減少させた)に関して、最初の研究成果を発表。

<拡大期>
1989年4月 Drs.PenistonとDr.Kulkoskyが、ニューロフィードバックがアルコール中毒患者の退役軍人に効果があったと発表。
Margaret Ayersはニューロフィードバックを使った外傷性脳損傷治療の研究で知られている。ニューロフィードバック専門の最初の個人クリニックを開設し、リアルタイムのデジタルEEGニューロフィードバックを開発した。
全米応用精神生理学&バイオフィードバック学会(1969年設立)が、1993年にEEG部門を増設し、ニューロフィードバックが主流の一つになった。

fMRI(MRI装置を利用して脳の血流量の変化を測定・画像化する技術)の出現後、2006年にモントリオール大学のDrs. Johanne LevesqueとMario Beauregardは、選択的注意試験を行った子供のADHD患者でfMRIを活用。
"ニューロフィードバックは、ADHDの子供において、選択的注意や反応抑制を媒介する(mediate)脳システムを機能的に正常化させる能力がある。"とApplied Psychophysiology and Biofeedback上で発表。

<その後の展開>
2009年8月、8件の臨床試験(ADHD、うつ病、脊髄損傷、耳鳴、線維筋痛症、乳がん患者の認知的リハビリ訓練)の被験者募集開始。ニューロフィードバックの使用が増加する一方、効果をめぐって論争が続いている。

(出典:"History of Neurofeedback"[ehow.com]の記事を要約)


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参考情報
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- ニューロフィードバックの概要(英文Wikipedia)

- Association for Applied Psychophysiology and Biofeedback
  バイオフィードバック・ニューロフィードバックに関する非営利の科学的・専門的な国際学会

- International Society for Neurofeedback and Research (ISNR)
  ニューロフィードバックに関する非営利の科学的・専門的な国際団体

- ニューロフィードバック・ジャパン
  ニューロフィードバック・トレーナーの個人ブログ。ニューロフィードバック情報が豊富。

- 脳波を用いる脳機能の解明(Webセミナー Vol.8)[ミユキ技研]
neuroConn社製THERA PRAX®の紹介。ニューロフィードバックのプログラムを持っており、脳波を音や図形(飛行機・鳥・潜水艦など)に変えて被験者の訓練に使う。(Weiszたちの臨床試験(2007年)でも、同じ"fish"のシンボルを使って訓練が行われていた)。


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備考
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記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
高い精度の訳文ではないため、正確な内容については、英文原文をお読みください。

tag : 認知 認知行動療法

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耳鳴り治療のための認知行動療法(1) バイオフィードバック療法
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バイオフィードバックの定義
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バイオフィードバックは、健康やパフォーマンスを改善する目的で、個人が自らの生理学的活動を変化させる方法を習得できるようにする一つのプロセスである。
人間の体内活動(脳波、心臓の機能、呼吸、筋肉活動、皮膚温など)は、従来は制御することが不可能であると考えられてきた。
この生理学的活動を精密機器により測定し、その情報を画像や音の形で使用者が意識できるよう、迅速かつ正確に呈示(フィードバック)する。
この情報のフィードバックは、しばしば思考、感情、行動面の変化と結びついて、望ましい生理学的変化を起すことにつながり、最終的には、計測機器を継続的に使用しなくても、これらの変化が持続する。
バイオフィードバックは、医療面では、気管支喘息,高血圧,不整脈,頭痛,てんかん,手足の冷え,過敏性腸 症候群,円形脱毛症,自律神経失調状態など種々の病態の治療やその予防に活用されている。

<バイオフィードバックの定義>
日本バイオフィードバック学会|バイオフィードバックとは?
Association for Applied Psychophysiology and Biofeedback|About Biofeedback



<参考>バイオフィードバックで用いる指標
1) 筋電図 (EMG) <筋肉の緊張・弛緩をみる>
2) スキンコンダクタンス (SCL) <情動性発汗をみる>
3) 皮膚温 (TEMP) <皮膚の温度をみる>
4) 容積脈波 (BVP) <末梢血管の収縮拡張をみる>
5) 呼吸 (RESP) <呼吸のパターン・深さ・速さをみる>
6) 心電図 (EKG) <心臓の働きをみる> (バイオフィードバックでは主に心拍数と心拍変動)
7) 心拍変動 (HRV) <自律神経の機能の指標>
(出典:[COLUMN <MIND-BODY THINKING.COM-こころとからだの対話->])


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耳鳴り治療のためのバイオフィードバック療法概要
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"Biofeedback & Neurofeedback: Tools to Reduce Tinnitus"
(耳鳴緩和手法としてのバイオフィードバックとニューロフィードバック)[Arches Natural Products,Inc] (以下、要約)

バイオフィードバック療法の手順
バイオフィードバックとニューロフィードバックは、耳鳴緩和に役立ちうる相互に関連性のある療法。
両者が拠っている基本原則は、一旦技術的にトレーニングされれば、以前はコントロールできないと考えていた身体の自動的な機能に対し、影響を与える能力を持つようになる、ということ。
この2つの療法では、感知できる身体的信号をピックアップする多種類のセンサー機器を使用し、電極を患者に付けて、機器と接続する。
ピックアップされた信号はコンピューターに送られ、ストレス、皮膚温、血圧、脈拍、脳波のレベルを表わす視覚的または音声信号として、表示される。
患者は、思考や感情を変化させて、画面上の変化と関連づけるように促され、コンピューターは患者の思考・感情が変化した結果を"フィードバック"する。
数週間で、患者は意識的に身体的機能をコントロールする方法を習得する。

バイオフィードバック療法は、ニューロフィードバック療法よりも長期間にわたり実践されてきた療法であり、多くの症状に対してその有効性を示す40年間のデータの蓄積がある。
例えば、一方の手の温度を他方の手より5-10度(華氏?)上昇させるように訓練することができる。
動物でも訓練可能。ある実験では、食物報酬を得るために、実験用ラットが両耳の間で温度差を生み出すことができるように訓練した。

バイオフィードバックで訓練を受けた人は、自分の手を普通の時よりもすぐに温かくすることができるし、偏頭痛をショート(short-circuit)させるにも効果がある。


バイオフィードバック療法で使用される測定技術
バイオフィードバックで使われている測定技術は主に3種類:筋電図(EMG)、温度、電気皮膚反応(GSR)。それ以外に、脈拍や血圧モニターなど。

筋電図(EMG)
筋肉の緊張を測定する。
2つの電極をモニターする筋肉の上に付ける。最も一般的に使われる筋肉は額の前頭筋、そしゃく筋(顎の筋肉)、大菱形骨(ストレスと感じたときに曲げる(hunch)する肩の筋肉)。
電極が筋肉の緊張をピックアップすると、センサー装置がカラーのライトや音で信号を出すので、自分の筋肉活動を継続的に目や耳でモニターできる。
この身体内のプロセスにさらに気づくようになるにつれ、日常生活でいつ緊張が始まり増していくのかを認識し始める。
緊張が増して他の身体的問題を引起す以前に、緊張をコントロールするように、バイオフィードバック技術を使うことができる。
EMGが活用されているのは、緊張性頭痛、腰痛、頚部痛、耳鳴、ストレス関連病(ぜんそくや潰瘍など)。

温度
皮膚温をモニターすることで、ある種の循環障害に有効。
通常、センサーを足や利腕の中指・小指につける。
緊張・不安状態になると、血液が筋肉や内臓といった身体の内側に還流するため、皮膚温は低下する。
皮膚温測定はストレスマネジメントを学ぶために役立つ。

電気皮膚反応(GSR)
皮膚電気反射(EDR)としても知られている。
汗腺の活動と関連している皮膚内の伝導度を測定する。
感情的になればなるほど、汗腺はより活発化し、皮膚の伝導度が大きくなっていく。
GSRは恐怖症、不安症、過剰発汗、時に吃音の治療に有効。嘘発見器にも使用。

バイオフィードバック・セッションは、通常30~60分間。
治療期間は症状によって左右されるが、一般的には約15セッションが上限。
バイオフィードバックは、他のリラクゼーション技術、催眠療法、心理療法などと組み合わせて行うと、さらに効果的。


耳鳴り治療のためのバイオフィードバック療法
バイオフィードバック療法は、House Ear Institute in Los Angeles と Tinnitus Clinic at Oregon Health Sciences Universityで、耳鳴治療に使われている。

House Ear Institute:
耳鳴患者に対し、1時間のバイオフィードバックを10~12セッション実施。
セッションから6~12ヶ月後フォローしたところ、患者の半数以上が改善、悪化した患者はゼロ、数人の患者は劇的に改善した。

Cornell University:
中程度~重度の慢性耳鳴患者7人に、毎週バイオフィードバックを行う5ヶ月のプログラムを実施。
耳鳴りの大きさに変化はなかったが、患者たちは訓練に満足感を得ていた。3人は耳鳴に対処するうえで、実質的に心理学上の効果があり、2人は緩やかな改善、残る2人はmodest gains(穏やかな効果)。

Dr.Murray Grossan:
1970年代に耳鳴りマネジメントにおけるバイオフィードバックの効果を報告した最初の研究者の一人。
彼は、基本的なバイオフィードバック療法は、自宅で数分間で行うことができる、この療法を使った患者で良い成果が得られたと記している。
耳鳴患者は、鏡の前に立って自分の顔がリラックスする見ることで、リラックス状態と通常状態の違いがわかる。
4秒間息を吸い、6秒間息を吐き出す。息を吸うことよりも長く息を吐くことが重要で、タイミングはそれほど大事ではない。自分の顔が全体的にリラックスして顎が下がってきて口が開く(drop open)ようにする。この練習を10分間、週に2回行う。より深くリラックスしていると感じ、そうなることがずっと容易になるまで続ける。
最初の訓練期間後、2-4週間の間、1時間につき1分間、この訓練を行うと耳鳴が改善するはず。
この療法は顎関節(TMJ)患者にも良い効果があるという。


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バイオフィードバック療法による耳鳴り治療の論文
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文献レビュー
"Bhramari Pranayama and Alternative Treatments of Tinnitus: In Pursuit of the Cure"(By Sidheshwar Pandey)[159頁~。 画面上は7/18頁]

バイオフィードバックを耳鳴り治療に応用した報告例は、1977年のHouse他による。
Grossanの論文(1976年)では、身体機能情報を電子的に表示する装置を使って、バイオフィードバック療法により、患者は自分自身のある身体機能をコントロールすることを習得。
Shulmanの論文(1997年)では、患者が自分自身のストレスレベルや耳鳴りをコントロールするのに役立つリラクゼーション手法を使って、患者を訓練するよう設計されている。
Podoshin他の論文(1995年)では、リラクゼーション手法が筋肉の緊張緩和にどう影響しているか観察するために、EMGの活動データが使われている。
このような手法を使ったバイオフィードバックが、耳鳴りに効果があるというポジティブな報告は複数発表されている。


バイオフィードバック療法に関する論文検索
- Pubmed検索結果(英語論文)(検索語:biofeedback AND tinnitus )
- 国立情報学研究所(NII) CiNii検索結果(日本語論文)(検索語:バイオフィードバック AND 耳鳴)
※上記の検索結果はノイズを含む。ニューロフィードバックの文献の一部が含まれている。


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臨床試験
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臨床試験
"Psychophysiological Treatment of Chronic Tinnitus"
(公式研究名称:"Evaluation of Psychological and Psychophysiological Effects of a Biofeedback-Based Cognitive-Behavioral Psychotherapy for Chronic Tinnitus-Sufferers")
Philipps University Marburg Medical Center/German Research Foundation

研究期間:2005年3月~2008年3月
被験者数:130名
-耳鳴の重度、精神的沈滞、知覚された耳鳴りの大きさの計測、他の心理学的変数(抑うつ度や自己効力感)を療法グループと対照グループで比較。
-処置前後・待機中に、異なるストレス条件下での精神生理学的反応(頭と肩の筋肉活動(EMG)、皮膚温、ガルバニック皮膚反応)を計測する。
-耳鳴患者と健康な被験者との筋肉活動を比較。(耳鳴患者は、健康な人よりも頭や肩の筋肉活動がハイレベルかどうか、研究されていなかったため)
-療法の効果に対して、主観的な病気認識の影響度を評価。 (身体的な病気という認識をもつ患者は、心理的な病気という認識のある患者よりも、精神生理学的療法の方がより効果が高いという仮説がある)


臨床試験報告
"Biofeedback-based behavioral treatment for chronic tinnitus: results of a randomized controlled trial."
J Consult Clin Psychol. 2008 Dec;76(6):1046-57.
Weise C, Heinecke K, Rief W./Section for Clinical Psychology and Psychotherapy, Philipps University of Marburg,

-耳鳴り患者の多くは、耳鳴りが器質的要因によるものだと信じているため、心理療法よりも医学的療法を探し求めている。
-耳鳴はネガティブな評価, dysfunctional attention shift、精神生理学的活動の高まりに関連していることが明らかになっているため、認知行動療法やバイオフィードバックが治療法として一般的に提案されている。
-130人の耳鳴患者。ランダム化試験。療法群と待機リスト対照群。
-試験方法:3ヶ月にわたるバイオフィードバックベースの行動療法を12セッション実施。療法群が予定された治療を終了した後、待機リスト対照群が療法実施。
-結果:耳鳴りの煩わしさ、毎日の音量評価、「コントロールできる」という感覚について、明らかな改善。改善効果は6ヶ月間のフォローアップ期間中持続。効果規模は中~大。
-この療法は、精神身体的な相互関係を明示することにより、患者のもつ身体的な病気という認識を、より心身症的な視点へと変えることが可能。


関連する臨床試験報告
"Physiological and psychological stress reactivity in chronic tinnitus."
J Behav Med. 2008 Jun;31(3):179-88. Epub 2008 Jan 12.
Heinecke K, Weise C, Schwarz K, Rief W./Section Clinical Psychology and Psychotherapy, Philipps-University of Marburg,Germany

-目的:耳鳴りのない対照群と比べて、耳鳴患者は生理学的覚醒レベルを増加させ、より激しいストレス反応パターンを示しているかどうか、また、心理的緊張感を増大させているかどうか、研究する。
-耳鳴患者70人、対照群55人。数種類のストレステストを実施。
-筋肉活動、末梢の生理学的覚醒、緊張度を評価。
-結果:
1)ストレステスト中、対照群に比べて、有意な緊張感の高まりを示した耳鳴群の被験者はほとんどなし。生理学的反応パターンもグループ間で有意な差異はない。
2)生理学的データは、過剰反応仮説を部分的にしか支持していない。緊張感の報告と生理学的データとの関連性は極めて少ない。
3)耳鳴患者はストレスに曝されている間、不適応評価を進めていたが(maladaptive appraisal processes)、生理学反応は僅かに影響を受けたのみ。
-代償機能不全の耳鳴症状がある患者用治療プログラムは、ストレス状況下での評価プロセスと対処メカニズムを考慮するべき。


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備考
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記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
正確な内容については、英文原文をお読みください。

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カニーノ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲
ゴルトベルク変奏曲のピアノ録音は多数あるけれど、アーティキュレーションに凝った演奏のなかで好きなのはカニーノ。
カニーノはピアノ伴奏者として有名なので、室内楽の録音は多いけれど、ソロ録音はそれほど残っていない。
彼の有名なソロ録音というと、ゴルトベルクとドビュッシーらしい。

カニーノのゴルトベルクは、歯切れの良いインテンポのリズムで淀みなく、明るくクリアな音の開放感が爽やか。
きれいに分離した声部の線と輪郭もくっきりして立体的。
ややゆったりとしたテンポで、走らず、騒がず、粘らず。すっきりとした明晰さが気持ちよい。
タッチが繊細で洗練されているとか、弱音の微妙なニュアンスが多彩というわけではないけれど、少し甘くて明るい、煌びやかすぎない色彩感とクリアな音色が、自然に耳に馴染んでとても心地良く。
ピアノ演奏にしては、装飾音がいろいろ工夫されていて、遊び心がいっぱい。
装飾音はかなり凝っているけれど、不思議と作為的には感じられず、旋律の流れの中に違和感なく入っている。
興の向くままに弾いているようで(実際はよく練っているだろうけど)、即興的というか、自然体というか、飾っているのに飾り立てていないように聴こえてくるのが不思議。
聴けば聴くほど、思わず微笑みたくなるような愛らしさと和やかさが素敵なゴルトベルク。

Bruno Canino plays J.S.Bach Goldberg-Variation Aria~var1.2.3.4.wmv


Bruno Canino plays J.S.Bach Goldberg-Variation var,5.6.7.8.9.10.wmv



カニーノのゴルトベルクを録音したCDは数種類出ているけれど、原盤らしきAura盤は入手しにくい。
一番手に入りやすそうなのは、Membran(Document)の『Great Pianists』BOXセット(CD10枚組。有名なピアニストのライブ録音集)。カニーノのルガーノでのライブ録音が収録されている。
グルダ、バックハウス、ゼルキン、ギレリス、シフラなどのライブ録音もそれぞれ1枚のCDに収録されているお得なBOXセット。数年前に発売されたときは、かなり売れていたはず。
カニーノ以外では、ゼルキンのライブ録音が選曲・内容とも良くて、別盤でもリリースされている。

Great PianistsGreat Pianists
(2007/08/14)
Frederich Gulda、Wilhelm Backhaus 他

商品詳細を見る


カニーノのソロ録音では、他に有名なのはドビュッシーの《前奏曲集》らしい。
ユニークな録音は、現代音楽集『Clash』。(私は試聴のみ)
カニーノは現代音楽の演奏にも積極的なピアニストなので、著名な現代音楽作曲家(ベリオ、カーゲル、リーム、クセナキスなど)から作品を献呈されているという。
彼は作曲家でもあり、この現代音楽録音集には、カニーノの自作自演曲も収録されている。
いかにも現代音楽といった感じの曲が多いけれど、比較的聴きやすいのは、《In S (Matteo Yes)》(G.Sollima)、《5 Pezzi (Da "Come Io Passo L'estate")》(N.Castiglioni)。

Bruno Canino - ClashBruno Canino - Clash
(2009/06/22)
Bruno Canino

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tag : バッハ カニーノ

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レーゼル 『ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集 7 』 ~ ピアノ・ソナタ第25番「かっこう」 Op.79
レーゼルの『ベートーヴェンの真影』シリーズは、リサイタルの演奏が2011年10月に完結。CDもVol.7とVol.8が1月下旬にリリースされたので、全て完結。
Vol.7は、2011年10月2日の東京・紀尾井ホールでのリサイタルのライブ録音(と前日のセッション録音)を収録。
Vol.8(最終巻)には第1番、第2番、第31番、第32番の4つのピアノ・ソナタを収録。この4曲以外で未収録だった残りの5曲-第24番「テレーゼ」、第25番「かっこう」、第11番、第7番、第13番がVol.7に集められている。

テレーゼ、第7番、第13番はよく知っているし、第11番は誰の演奏で聴いても今のところ好きな曲とはいえない。
意外に面白かったのが第25番「かっこう」。もともとはソナチネなので、ベートーヴェン中期の曲のなかでは、技術的には易しいし、譜面をみても構成はシンプル。
初めて聴いたのは若い頃のポリーニのスタジオ録音。これがやたら元気で騒々しかったので、この曲に変なイメージを持ってしまった。そのせいか、その後まともに聴いたことがない。(聴き直してみたら、やっぱりポリーニで最初に聴いてはいけない...)

レーゼルが弾く第25番を聴くと、印象が一変。元気というよりも、快活でありつつしなやかで優美。
短い曲といっても3楽章あり、リズムや曲想がクルクル変わるので、意外に面白い。

ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集7ベートーヴェンの真影 ピアノ・ソナタ全集7
(2012/01/25)
レーゼル(ペーター)

試聴する



 ピアノ・ソナタ第25番ト長調 Op.79 「かっこう」 (1809年)[Wikipedia作品解説]

元々はソナタではなく、ソナチネ。演奏時間も10分未満と小規模の曲で弾くのも容易。
「かっこう」という副題が付いているけれど、これはベートーヴェンがつけたものではない。
ちなみに、「かっこう」は、英語Cuckoo、フランス語Coucou、ドイツ語Kuckuck、オランダ語Koekoek。
日本人には"かっこう"と聴こえるけれど、欧米人には"クークー"と聴こえるらしい。

第1楽章 Presto alla tedesca
"alla tedesca"とは、ドイツ風舞曲。
冒頭はオクターブで弾く3音(G,B,G)のモチーフ。これが第1楽章を通して、頻繁に現われる。
スタッカート気味に元気良く弾くので、明るく快活な曲...というイメージがしてくるけれど、この後の第12小節から始まるアルペジオの美しいこと。
ここは、ペダルを長く踏まずに弾いている演奏も多い。レーゼルはペダルをしっかりいれて、アルペジオの重なる和声の響きの美しさがはっきりわかるように弾いている。今まで気がつかなかったけれど、この部分はファンタスティック。

第2主題はニ長調の速いテンポのスケールとアルペジオのパッセージで、とても優雅。
レーゼルはここでもペダルをかなり入れているので、柔らかいタッチの和声の響きが美しい。
第59小節以降、左手を右手に交差させて弾く重音。スタッカートで弾くフレーズは、まるで"かっこう"の鳴き声のよう。
第67小節は"dolce"の指示通り、で優しくさえずっている。
レーゼルの演奏は、歯切れ良いノンレガートやスタッカート、柔らかいレガートのタッチをとりまぜ、ペダルを使いながら和声の響きも硬軟・長短と対照的に変化するので、コントラストがとても鮮やか。
以前はやや一本調子で単調な気がしたこの楽章に、本当はいろんな表情があるのだと聴かせてくれる。
表情づけが多彩で細やかだけれど、流れが滑らかなので表情の変化がとても自然。快活でありつつ優美さが漂っていて、とても品の良い「かっこう」。

第2楽章 Andante
ト短調の冒頭主題は8/9拍子(ベートーヴェンにしては珍しい拍子らしい)で弾かれる哀感のある旋律。
途中で長調の明るく優しい第2主題が挟まれ、すぐに冒頭主題に戻っていく。
左手の伴奏は、初めは規則的な雨音のようで、それから長調になるとアルペジオに変わり、寄せては引いて行く波のようにうねっていく。
この楽章を聴いていると、メンデルスゾーンの『ヴェニスの舟歌』よりも、チャイコフスキーの《四季》の「舟歌」のメロディが浮かんで来る。

第3楽章 Vivace
3つの楽章とも全然違った曲想で、第3楽章は軽快でユーモラスなタッチ。
両手ユニゾンで弾く単音の旋律が特に諧謔めいていて面白い。
旋律や伴奏の音型自体は単純。リズムや調性がコロコロ変わり、主旋律が右手と左手で交代で現われたり、クロスリズムも入ったりして、展開が目まぐるい。あっという間にエンディング。


レーゼルの音源がないので、バレンボイムのライブ映像で。
バレンボイムの演奏はベートーヴェンに限らず、かなり個性的なものが多いので、いつもは聴かない。
でも、この「かっこう」はタッチの使い分けが細かく、表情の変化も多彩。残響も豊かで聴きやすい。

Barenboim plays Beethoven Sonata No. 25 in G Major, Op. 79, 1st, 2nd and 3rd Mov.



tag : ベートーヴェン レーゼル

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ポール・ルイス ~ シューベルト/即興曲集 D935 第2番
若手ピアニストの中では"最高のシューベルト弾き"と評されているイギリス人ピアニストのポール・ルイス。
彼が今まで録音した曲の多くは、シューベルトとベートーヴェン。
ベートーヴェンはピアノ・ソナタ全集とピアノ協奏曲全集のCDをすでにリリースしている。
どちらかというと彼の弾く、時にしなやかなベートーヴェンよりは、シューベルトの方が私にはしっくりくる。

シューベルトの即興曲集はD899とD935の2つ。
D899は4曲とも好きだけど、D935で好きなのは第1番と第2番。
特に第2番を聴くとほのぼのとしたものがあって、これを聴くととても心穏やかな気分。

ルイスの即興曲集の録音はD899のみ。D935はまだ録音がないらしい。
彼の《3つのピアノ小品》D946の録音を聴いていると、変ホ短調で急速系の第1曲よりも、変ホ長調のゆったりとした叙情的な第2曲の方が私にはずっと良い感じ。これは即興曲D935でも同じで、第1番よりは第2番の方が好きだった。

この映像はルイスが弾く即興曲集D935の第2番。
この曲は、D899第3番に相当するような曲想で、両方とも好きな曲。
最初はゆったりと甘くレトロな雰囲気の旋律で始まるけれど、中間部で短調に転調して感情的な激しさを垣間見て、再び元通りの穏やかな冒頭主題に戻っていく。

Paul Lewis - Franz Schubert/ Impromptu no. 2 D935



《楽興の時》D780の第4番。
Paul Lewis - Franz Schubert/ Moments musicaux no. 4 D780



この2曲の演奏は、オランダのテレビ局VPROのTV番組"Vrije Geluiden (Free Sounds)"で弾いていたもの。
場所は現代的なガラスウォール・ビルディングは、アムステルダムで有名なジャズのライブハウス"Bimhuis"。(建物全景写真
ガラス越しに見える都市風景をバックにシューベルトを弾く...という珍しいセッティング。
人工的な照明のコンサートホールで弾くよりも、明るい自然光が差し込む空間で弾く方が自然な感じがする。


同時に収録した"Vrije Geluiden"のインタビュー映像もある。
このインタビューを見ていると、ルイスはやや控え目で真面目な思慮深い人...なのかなという印象。やっぱり好感度が高い。

Paul Lewis - Interview


インタビュー内容は、子供時代の音楽的環境、ブレンデルのLPを聴いて感じとったもの、一連のシューベルト録音、シューベルトとベートーヴェンの音楽の違いなど。(子供時代の音楽的環境については、後掲の王子ホールでのインタビューの内容と重なる)
彼のお気に入りだった録音はブレンデルの初期のLP。彼はずっと後にブレンデルに師事することになる。

ルイスがシューベルトの最後のピアノ・ソナタD960に対して感じるのは"Acceptance of something"。
それ以前の晩年数年間に書かれた作品では、多くの"struggle"(苦悶、葛藤)があったが、B flatソナタになると、もはやそれはなくなり、"Acceptance of fate"(運命を受け入れること)のようなものが現われている。
シューベルト晩年の作品に流れているのは、ノスタルジーやもはや手にすることはできないであろう希み(Longing)。

ルイスは、ベートーヴェンとシューベルトは似ているものもあるが、違いの方がはるかに大きく、それを次のように表現している。
ベートーヴェンは、作品のなかである問いを投げかけては、その答えを見つけ出す。最後には探していたものを勝ち取る(win)。
しかし、シューベルトの場合は、同じ様に問いかけはしても、答えを見つけることなく、時にはその問いが増えていき、結局、未解決のまま。


<参考情報>
 インタビュー ポール・ルイス(王子ホールマガジン Vol.31)
コンサートピアニストとしては、ピアノを本格的に練習し始めたのが、珍しくも12歳の時とかなり遅い。
それに、両親とも音楽家ではないし、クラシック音楽愛好者でもない非音楽家の家系。
いわゆる神童タイプの人でも、超絶技巧派でもないのも、人気のある若手ピアニストたちのなかでは珍しい。
彼が最も得意とするレパートリーがシューベルトとベートーヴェン(他にもいろいろ弾けるのだろうけど)というのも、納得してしまう。

tag : シューベルト ルイス

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
FDA(米国食品医薬品局)の”Medical Devices Databases” ~ 耳鳴マスカー機器、インプラント聴覚器(人工内耳・人工中耳・骨導補聴器)
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Medical Devices Databases
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米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)の医療機器(Medical Devices)に関する規制情報サイトには、19の医療機器データベース(Medical Device Databases)が公開されている。

米国内及び諸外国の製造業者と最初の販売業者(輸入業者)は事業所登録を、製造業者は製品リストをFDAへ登録することが義務付けられている。
登録情報は毎年更新する必要があるので、米国内で販売されている耳鳴治療関係の製品と製造・販売している企業・医療機器の最新情報を調べる時に使うと便利。
また、製造・販売・輸入事業から撤退した場合は、データベースの登録情報が抹消されている。

販売されている医療機器を調べるときは、"Product Classification"(製品分類DB)と"Establishment Registration & Device Listing"(事業所登録&機器リストDB)を検索する。

耳鳴治療機器
(1)Product Classification DB:"tinnitus"(耳鳴り)を含む製品コードは「KLW」のみ。
- masker, tinnitus :KLW,2

(2)Establishment Registration & Device Listing DB:製品分類コード「KLW」の登録情報(定期的に更新されている)
登録情報:AUDIFON、BELTONE、GN RESOUND、Siemens、WIDEX、NEUROMONICS等が販売している耳鳴マスカー用の装置(補聴器併用型も含む)、音楽プログラム(WIDEX社のZen)、NEUROMONICS療法専用機器(NEUROMONICS社)など。

<登録情報(一部抜粋)>
AUDIFON - GMBH & CO.KG(GERMANY) :jump C TRT; jump CIC TRT; jump S TRT; jump S+ TRT ;switch 8 TRT; switch TRT
BELTONE ELECTRONICS CORP.(IL/USA) :Option for BTE and ITE models; Tinnitus Sound Generator Module
GN RESOUND(MN/USA) :Option for BTE and ITE models; Tinnitus Sound Generator Modul
NEUROMONICS INC.(PA/USA) :NEUROMONICS TINNITUS TREATMENT
Siemens Audiologische Technik GmbH(GERMANY) :Life x00; Life x01
WIDEX A/S(DENMARK) :Mind Series + Zen program,IE-ZEN
SOUNDCURE INC.(CA/USA) :SoundCure Serenade Tinnitus Treatment System

(注)リンク情報はこちらで付与したもの。FDAのデータベースには記載されていない。

<関連記事>
耳鳴り治療のための音響・音楽療法(9)サウンドジェネレーター付き補聴器(2012.2.18)

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聴覚関連の医療機器
(1)Product Classification DB;"hearing"(聴覚、聴力)を含む製品分類コードは、補聴器(埋め込み型を含む)、人工内耳、聴力計などに関するもの。 (下記リストは「名称:コード,クラス」を順に記載)

- aids, speech training for the hearing impaired (ac-powered and patient-contact) LEZ,U(=Unclassified)
- aids, speech training for the hearing impaired (battery-operated or non-patient) :LFA,U
- audiometer:EWO,2
- calibrator, hearing aid / earphone and analysis systems:ETW,2
- chamber, acoustic (for audiometric testing):EWC,1
- face plate hearing aid :LRB,1
- hearing aid, air conduction :ESD,2
- hearing aid, air conduction, transcutaneous system :NIX,2
- hearing aid, bone conduction :LXB,2
- hearing aid, bone conduction, implanted :MAH,2
- hearing aid, group and auditory trainer :EPF,2
- hearing aid, master :KHL,2
- hearing aid, tactile :LRA ,U
- implant, hearing, active, middle ear, partially implanted :MPV,3
- protector, hearing (circumaural) :EWE,U
- protector, hearing (insert) :EWD,U

<上記以外の聴覚関連のインプラント機器>
- implant, hearing, active, middle ear, totally implanted :OAF,3 (検索漏れの理由は不明)
- implant, cochlear :MCM,3

(2)Establishment Registration & Device Listing DB:人工内耳・埋め込み型補聴器などのインプラント型機器の登録データ (一部抜粋)
hearing aid, bone conduction :LXB,2
COCHLEAR BONE ANCHORED SOLUTIONS AB(SWEDEN):BAHA IMPLANT SYSTEM
Oticon Medical AB(SWEDEN):Head band; Implant system: Ponto
SOPHONO CO/USA:Alpha 1; Alpha 1 (M); Otomag Alpha 1 Audio Processor; Otomag Osseointegrated Magnetic Implant

hearing aid, bone conduction, implanted :MAH ,2
COCHLEAR BONE ANCHORED SOLUTIONS AB(SWEDEN):Cordelle II 65dB
Oticon Medical AB(SWEDEN):

implant, hearing, active, middle ear, partially implanted :MPV,3
OTOTRONIX, LLC(TX/USA):MAXUM BTE/ECA; MAXUM IPC-A
VIBRANT MED-EL HEARING TECHNOLOGY GMBH(AUSTRIA):Vibrant Soundbridge

implant, hearing, active, middle ear, totally implanted :OAF,3
ENVOY MEDICAL CORPORATION(MN/USA):Esteem(すぐに音声付動画が始まります)

implant, cochlear :MCM,3
Cochlear Limited - Brisbane(AUSTRALIA):N22、N24 COCHLEAR IMPLANT SYSTEM(nucleus5の製品情報へリンク)
Advanced Bionics LLC(CA/USA):CLARION CII BIONIC EAR; HIRESOULTION BIONIC EAR SYSTEM
MED-EL ELEKTROMEDIZINISCHE GERAETE, GMBH(AUSTRIA):COMBI 40+ Cochlear Implant System; Maestro Cochlear Implant System
※MED-EL社は、部分難聴者用の「EAS™ Hearing Implant System」も製品化している。

(注)製品情報サイトへのリンクは、参考情報として付与したものです。FDAのデータベースにはリンクはついていません。


<関連記事>
インプラント型聴覚器の概要(メモ)(2012.5.12)


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参考情報:医療機器の"Class"について
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各製品カテゴリーは、患者や使用者に影響を及ぼす可能性のあるリスクのレベルに応じて、3つのクラス(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)に分類されている。
FDAの承認には、"Approval"と"Clearance"の2種類があり、PMA(Premarket Approval:市販前承認)の場合は"Approval"、市販前届(Premarket Notification 510(k))の場合は、"Clearance"を取得しなければならない。
510(k)が適用されるのは、既存の医療機器と同等の構造、機能を有する医療機器。
臨床試験データが要求されるのは、510(k)の一部、PMAの大部分。

ClassⅠ:一部の製品は除いて510(k)が必要。
大部分(例えば、包帯、手袋のような一般的なもの)は、リスクが低いので「市販前届出」。
PMA、510(k)は不要

ClassⅡ:510(k)の手続きが必要。
 大部分(例えば、電動式車椅子、輸液ポンプ等)は510(k)が必要。

ClassⅢ:PMAの手続きが必要。ただし一部の製品は510(k)の手続きでよい場合がある。
体内に埋め込まれる人工心臓用バルブ等のように、生命上や人体損傷、健康面などのリスクが大きく、高度管理を要するので、「市販前承認」(Premarket Approval、PMA)を受けることが要求される。


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参考情報:米国で医療機器を製造・販売・輸入する場合の規制情報
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米国向けに医療機器を輸出する際の現地輸入規制および留意点[日本貿易振興機構(JETRO)]
米国の医療機器規制の概要[オフィス サン・メディシス]


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備考
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FDAの検索データは、耳鳴りや聴覚関係の医療機器全てを網羅したものではありません。
文中に記載した製品分類以外にも、該当する分類・医療機器がみつかる可能性があります。

データベースの登録情報に関する正確な内容は、データベース検索を行って確認してください。
登録情報は定期的に更新されているため、記事中に記載した分類コード、登録企業・医療機器について、各情報が変更・削除・追加されていることがあります。
また、リンク先の製品情報についても、URLの変更・ページの削除により、リンクが切れている場合があります。


インプラント型聴覚器の概要(メモ)
"人工聴覚臓器による難聴治療" [虎の門病院 耳鼻咽喉科 聴覚センター]によると、中耳・内耳・聴神経ごとに、インプラント機器が開発・導入されている。

 中耳 - 埋め込み型骨伝導補聴器
 内耳 - 人工内耳
 聴神経 - 聴性脳幹インプラント


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人工内耳
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現在、日本で使われている人工内耳は、コクレア、アドバンスト・バイオニクス、メドエルの3社の製品。

日本コクレア
Nucleus 5 人工内耳システム
参考映像:映画『Sound and Fury 音のない世界で』
聾唖者のために生まれた最新技術、コクリア・インプラントが起こす波紋をとらえるドキュメンタリー。

株式会社 日本バイオニクス (米国アドバンスト・バイオニクス社の日本法人)
バイオニックイヤー 人工内耳システム

メドエル社
MAESTRO™人工内耳システム(メドエルジャパン ホームページ)
人工内耳とは(日本光電ホームページ)
日本光電、人工内耳システム「メドエル人工内耳PULSAR FLEXSOFT 電極・FLEX24 電極」」を発売[日経プレスリリース 2012/02/27]
「人工内耳友の会東海」勉強会でのメドエル社のプレゼンテーション内容[「きこえとことばの発達情報室」 by Dr.Toshihiro Kuroishi]


<関連情報>
高度難聴と人工内耳[京都大学]
新しい聴覚器機開発に関する研究[京都大学]
外部電源を要しない新しいタイプの人工聴覚器機(人工聴覚上皮)を開発。
新しく開発された人工聴覚上皮は、振動刺激を電気信号に変換できる薄い膜からなり、自然に耳から入った音響刺激が内耳に挿入された人工聴覚上皮を振動させ、電圧を発生させ、聴覚が再生する仕組み。

特集:失われた音を取り戻す~人工内耳25周年[時事ドットコム]

<参考サイト>
振り出し 難聴、そして人工内耳へ[ブログ]
-埋め込み型機器の種類・特徴に関する記事(1)(2)

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残存聴力活用型人工内耳
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残存聴力活用型人工内耳(EAS: Electric Acoustic Stimulation);人工内耳と補聴器の両方を同側で装着することにより、聞こえを改善していく新しい補聴システム。
米国ではハイブリット型人工内耳、欧州等ではEAS人工内耳と言われている。

侵襲の少ない人工内耳手術(信州大学医学部耳鼻咽喉科)
高度医療承認で人工内耳挿入術の自己負担を軽減:信州大学 [2010/08/13]

<関連論文>
 残存聴力活用型人工内耳(EAS:electric acoustic stimulation)を使用した一症例:人工内耳手術における残存聴力保存の試み(Otology Japan
Vol.20(2010) No.3 P151-155 )
(宇佐美 真一, 工 穣, 鈴木 伸嘉, 茂木 英明, 宮川 麻衣子, 西尾 信哉/信州大学医学部耳鼻咽喉科)
 人工聴覚器の将来 人工内耳~低侵襲, 残存聴力温存へ向けた新たな取り組み(日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 114 (2011) No. 10 P 801-806 )
(岩崎 聡 , 茂木 英明 , 工 穣 , 宇佐美 真一/信州大学医学部附属病院、信州大学医学部耳鼻咽喉科)

<関連情報>
「残存聴力活用型人工内耳挿入術(高度医療整理番号007)」の有効性・安全性にかかる評価について(平成22年6月24 日、高度医療評価会議)

<各メーカーの製品紹介>
Electric Acoustic Stimulation in the 2nd Generation(メドエル社)
Cochlear Hybrid system(コクレア社)


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人工内耳に関する情報・ウェブサイト
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- 人工内耳の情報[「きこえとことばの発達情報室」 by Dr.Toshihiro Kuroishi]
- 人工内耳の歴史[arsvi.com]
- 人工内耳の歴史・関連資料[日本バイオニクス]
- 人工内耳友の会[ACITA]
- 自立支援法と健康保険適応について


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骨伝導補聴器(埋込型)
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骨伝導補聴器は、ヘッドバンド型と埋込型の2種類。
埋込型は、従来はコクレア社の「BAHA」しかなかったが、最近スウェーデンのOticon社も「The Ponto System」を開発・販売している。

BAHA
コクレア社のBAHA情報[米国ウェブサイト]
BAHA Network:BAHAユーザーのホームページ。BAHA関連情報が豊富。
「薬事承認」の情報:2011年3月に厚生労働省がBAHA補聴器を薬事承認(製造認可)。片耳難聴は適応対象外。健康保険は適用外。手術費用等で約90万円ほどかかる。

Ponto System
Oticon社のPonto System情報(英文ウェブサイト)
Oticon社が骨伝導補聴器「The Ponto System」を販売[BAHA Networkのニュース]


<関連情報>
埋め込み型の骨導補聴器 目立たず音質よく (北海道新聞、2011年5月18日)
最新の補聴器とその価格 補聴器相談医委嘱のための講習会(平成18年1月15日) (岡山)

<参考情報>
骨導補聴器に関する国内論文リスト[CiNii,国立情報学研究所(NII)] (45件、2012年5月3日検索)


[2012.6.11 追記:参考情報]
軟骨伝導補聴器
リオン(株)の5/31付けプレスリリースによれば、耳漏や外耳道閉鎖症の難聴者でも使用できる軟骨伝導補聴器の開発に成功した。
耳漏がある難聴者や外耳道閉鎖症の難聴者は、通常の気導補聴器を使用できないため、骨導補聴器やBAHAを使用しているが、使用上問題があるため、その代替品となる軟骨伝導補聴器を開発したもの。
共同研究者は、奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科の細井裕司教授。
薬事未承認品のため、販売・授与は行っていない。


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人工中耳
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Envoy Medical 「Esteem」
中耳機能を代替する人工中耳(インプラント型補聴器)は現在、Envoy Medical社の「Esteem」のみ。

この人工中耳をインプラントした聴覚障害者の動画が紹介されている。
聴覚障害の女性、インプラントで初めて自分の声を聞く[ITmedia]

VSB(Vibrant Sound Bridge)
「VSB」は、欧州を中心に臨床応用が進められている新しい埋込型人工中耳。人工内耳と同様、体内部と体外部からなり、アブミ骨あるいは蝸牛窓に固定した振動子が振動することにより、内耳に直接振動を伝えることが可能。伝音難聴、混合難聴(感音難聴も含む)に適用可。(耳鼻咽喉科学会資料)

メドエル社のVSB広報用映像(Youtube)
VIBRANT SOUNDBRIDGE Middle Ear Implant System for Hearing Loss Video | MED-EL


<関連情報>
リオネット補聴器・人工中耳の解説<植込型補聴器>
   (リオン社の人工中耳は販売中止になっている)
人工中耳(植込型補聴器)[技術報告(リオン株式会社) 小林理研ニュースNo40_4]
人工中耳 (植込型補聴器) に関するアンケート調査(日本人工臓器学会会誌「人工臓器」第30巻別27冊)


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聴性脳幹インプラント
---------------------------------------------------------------------------------
聴性脳幹インプラント(PDF)[日本人工臓器学会]

<参考情報>
聴性脳幹インプラントに関する国内論文リスト[CiNii,国立情報学研究所(NII)](16件、2012年5月3日検索)

<参考サイト>
聴性脳幹インプラントの現状[ブログ:お散歩日和]


『レーゼルの芸術 ピアノ独奏曲編』 ~ シューベルト/幻想曲ハ長調(グラーツの幻想曲),アレグレット ハ短調,etc.
なぜか今は珍しくもシューベルトモード。未聴のままで長らくラックの奥深くに眠っていたシューベルトのCDを探し出して聴いている。
ピアノ・ソナタと即興曲集は何枚も持っているけれど、あまり有名でない小品主体の選曲がユニークなのは、レーゼルの独奏曲BOXセットのなかの1枚。1974-75年の録音なので、レーゼルが30歳くらいの演奏。

収録曲中、1820年以前に作曲された作品は似たような旋律や曲想が多い。
一番有名な曲は、たぶん《3つのピアノ小品 D945》(「即興曲」と副題がつけられていることも多い)。
初めて聴いた《アレグレットハ短調》はとても美しい曲。《幻想曲ハ長調(グラーツの幻想曲)》は次から次へと旋律が変わっていき、長いわりに冗長さを感じさせない。

Works for PianoWorks for Piano
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴ファイルなし


 幻想曲ハ長調(グラーツの幻想曲)/Fantasie(Grazer Fantasie) D605A (1818年作と推定) [楽譜ダウンロード(IMSLP)]
1962年に発見され、71年に出版された作品。録音はあまり多くはないらしい。
レーゼルの明るく暖かい音色と丸みのある響きが優美な曲想によく似合っている。
主題部分は古きよき時代のレトロな雰囲気。途中で短調が入り混じってファンタスティックに。
その後にはポロネーズ風舞曲の躍動的な曲想に変わり、また主題が登場しては、全く別の旋律が現われたりと、次から次へと調性や旋律・リズムがいろいろ変化していく。"Fantasie"というタイトルどおり。
演奏時間は13分前後と長くても、珍しくも冗長に思えない。多彩な変化があるので、聴いていても面白い。曲の構造はつかみにくいけれど、そういうことは全く気にならず。

レーゼルの音源がないので、ピティナ・ピアノ曲事典の登録音源で。
シューベルト/幻想曲 ハ長調(グラーツの幻想曲),D605A/演奏:今井顕



 メヌエットとトリオイ長調 Menuett mit Trio D334(1815秋以前年)
優しげな冒頭主題が、ピアノ・ソナタ第13番の第1楽章に雰囲気が少し似ている。
音源がYoutubeにほとんどないので、有名な曲では全然ないらしい。


 アレグレット ハ短調(1827年) Allegretto in C minor, D.915 [楽譜ダウンロード(IMSLP)]
これはとても美しくて、アンコールピースには絶好の曲。時々ピアノ・ソナタとカップリングされているCDも見かける。
ソナタ形式みたいに同じような旋律が両端に出てくるけど、演奏時間は5分少々とシューベルトにしては短い。
楽譜を見ると音を押さえるのはやさしそう。自分でも弾きたくなってくる。

冒頭は弱音で始まり、短調から長調にすぐに移る主題を2回繰り返し、その後で出てくる短調のフォルテの旋律で悲愴感が強まっていく。ここの旋律がとても綺麗。
レーゼルは音色に透明感があり、クレッシェンドするフォルテも滑らかに盛り上がっていくので、それほど強弱のコントラストがきつくない。さらさらとした叙情感で静けさを湛えた哀感が綺麗。

レーゼルの音源がないので、ポール・ルイスのライブ録画で。
レーゼルよりも、細かなテンポの揺れと強弱の変化が多くて、やや表現が濃いめ。(レーゼルの弾き方の方が好きだけど)
今、ルイスのシューベルト録音を集め始めたところなので、ルイスの演奏は好感度大。
数枚リリースされているルイスのシューベルトのCDに、この曲は収録されていない。

Paul Lewis‐Schubert:Allegretto in C minor D915



 2つのスケルツォ 2 Scherzi D593(1817年)
変ロ長調と変ニ長調の2曲。


 3つの小品 Klavierstücke D946(1828年) [ピティナ作品解説] [楽譜ダウンロード(IMSLP)]
これは有名な曲集なので、録音は多数。緩徐系の第2曲(変ホ長調)が人気があるようだけれど、私は急速系で変ホ短調の第1番の方が好き。
ポリーニが1986年東京公演のアンコールで弾いていたのを聴いて、シューベルトにもこういうハイテンションの曲があるんだと思ったもの。
第1番は、解説にあるとおり、「ABACAのロンド形式」が初稿で、結局、最後のCA部分をシューベルトが削除。その最終版を弾く人が多い。
レーゼルの演奏は、最後のCA部分を加えたバージョン。主題が再現された後の7:50から、聴き慣れない旋律を弾いている。再び、9:20から主題が再現されてエンディングへ。(演奏時間は11分。最終版の演奏だと8~9分台)
レーゼルにしては、主題部でかなり強いアクセントをつけている。右手高音部はやや線が細くて、音が軽い感じ。いつもながら両手で弾く和音の響きは充実している。
展開部はテンポもかなり落として、とてものどかで安らか。ペダルの入った高音部の甘く煌く音色がとても綺麗。
ブラームスのインテルメッツォOp.118-2と同様に、こういう雰囲気の曲を弾く若かりし頃のレーゼルのピアノは、透みきった美しさと自然な情感が流れている。
削除された部分は2種類のモチーフが使われいるけれど、最初の展開部ほどに旋律は美しくもなく、曲の流れもあまりスムーズではなさそうな..。両方聴き比べると、最終版の方が音楽の流れが良く、全体的に曲が引き締まった印象。

変ホ長調の第2番も久しぶりに聴くと、第1番よりも緩急・明暗のコントラストが強く、記憶の中にある曲よりもずっと好きなタイプの曲だった。
これもロンド形式で短調部分の旋律が印象的。特に、最初の主題再現部の後に出てくる変イ短調の旋律は、哀感を帯びて、駆け抜けていくような流麗さがとても綺麗。レーゼルの澄んだ高音の響きとさらさらとした叙情感がよく映えている。
シューベルトはこういう明暗・緩急や短調・長調の対照的な曲想が頻繁に交錯する。
美しく平和的な旋律が流れていると思っていたら、突如暗雲が立ち込めては強い通り雨が吹きつけて、その後でまるで何事もなかったかのようにまた優美な旋律に戻っていく。
こういう形式に慣れていくと、シューベルトを聴いているとよく感じる冗長さも、だんだん気にならなくなるのかも。


 アダージョ ホ長調/Adagio D612 (1818年)
ハ長調ピアノ・ソナタD613(未完)の緩徐楽章(らしい)。
これもやや懐古調の優美な曲。高音の甘い音色が夢見るようにロマンティック。

Schubert - Adagio E major D612(Piano:??)



<関連記事>
 ポリーニの東京リサイタル(1986年) ~ シューベルト/3つのピアノ小品第1番,ベートーヴェン/熱情ソナタ


tag : シューベルト レーゼル

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ポリーニの東京リサイタル(1986年) ~ シューベルト/3つのピアノ小品第1番,ベートーヴェン/熱情ソナタ
シューベルトの《3つのピアノ小品》の音源を探していて、偶然みつけたのが、第1番を弾いているポリーニのライブ映像。
字幕には1986年と書いてある。たぶんNHKの中継か録画だろうし、客席を見ると黒髪ばかり。
あの東京リサイタルのライブ映像に違いない。昔、このNHKの放送を見ていて、いつかCDで聴きたいとずっと思っていた。結局CDはリリースされていないけど。

記憶に残っているのは、熱情ソナタとシューベルトのピアノ小品の2曲。
1986年当時のプログラムを調べてみると、5回の演奏会のうち、熱情ソナタを弾いたのは、5月16日NHKホールのリサイタル「青少年のためのコンサート」のみ。
全てベートーヴェンのピアノ・ソナタで、「葬送」、「告別」、「テレーゼ」、「熱情」という充実したプログラム。
最後の曲は当然ながら熱情ソナタ。クールで熱い情熱が凝縮され自己完結しているような熱情ソナタ。

アンコールは、ベートーヴェンの《バガテルOp.126》第3番とシューベルトの《3つのピアノ小品》第1番。(バガテルはなぜか記憶にない)
熱情ソナタの余韻をそのまま引きずったように、シューベルトもテンションが高く、躍動感があり、ひたすら前へ前へと突き進んでいく。なによりも情熱がほとばしるような演奏は、スタジオ録音とは全く別人のよう。
当時はクラシックを本格的に聴き始めた頃で、他の誰の演奏を聴いてももう一つと思えるくらいに、ポリーニのベートーヴェンが好きだった。
それから随分多くの演奏を聴いてきたので、(残念なことに)昔とは好みも変わってしまったけれど、この25年前のリサイタルで弾いているポリーニが好きなのは、今でも変わらない。

1990年代前半くらいまでのポリーニの演奏が好きだったので、CDはほとんど持っている。(最近のCDは買っていないけれど)
1980年代途中から徐々にピアニズムが変わっていったようで、1990年代に入ると打鍵が微妙にぶれるし、過剰に思えるペダリング(と編集で?)で音が混濁しているので、昔のような堅牢な造形力が弱くなっていったように感じる。
2000年代の熱情ソナタと悲愴ソナタのスタジオ録音(とライブ録音)を聴くと、やっぱり昔はよかった...みたいな感想になってしまう。
この東京リサイタルは、好きだったポリーニのピアニズムが終わりに近づいていた頃なのかもしれない。

Pollini, Schubert, 3 Piano Pieces, D946-1



これは1985年のスタジオ録音。エコーがかかったような音が好きではないし、リサイタルの演奏のようなテンションの高さは感じない。
Schubert / Pollini, 1985: Drei Klavierstücke, D.946



東京リサイタルで弾いていた熱情ソナタ第3楽章のライブ映像。
第3楽章を7分半くらいで弾いているので、限界ぎりぎりくらいの速さ。(それより速いのはグルダの7分10秒。ここまでくるとセカセカと落ち着きなく聴こえる)
昔からポリーニのベートーヴェンには賛否両論激しいけれど、この圧倒的な技巧で一分の隙もなく一直線に突き進んでいく揺るぎない演奏は、何度聴いても胸がすくような気持ち良さ。
2002年のライブ映像(Cité de la musique)もあるので、両方聴くとその違いがよくわかる。

Pollini Beethoven Appassionata 3 (1986)



tag : シューベルト ベートーヴェン ポリーニ

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レーゼル ~ シューベルト/さすらい人幻想曲、即興曲集D899
レーゼルのピアノ独奏曲BOXには、なぜか収録されていなかったシューベルトの《さすらい人幻想曲》と《即興曲集D899》。
あまり有名でなさそうな小品数曲がBOXセットに入っていたけれど、シューベルト苦手な私にしては、意外にも気に入った曲が多かったので、それはそれで良かった。
このごろはシューベルトの曲を聴くことがなぜか多い。ようやく耳が慣れてきたのか、好みが多少変わったのか、それとも演奏が好み似合うのか、まあ以前とは違って抵抗感なく聴けるようになったのが嬉しい。

《さすらい人幻想曲》の録音はいくつか持っているけれど、今までまともに聴いたことがない。
レーゼルの《さすらい人幻想曲》と《即興曲集》(いずれも1971年録音)は、Berlin Classicsの分売盤がでている。
Capriccioレーベルにも、1984~89年にかけて、《さすらい人幻想曲》とピアノ・ソナタ4曲(第4,6,9,21番)を録音している。《さすらい人幻想曲》は89年の録音。
結局、2枚ともオーダーして、先に届いたのがBerlin Classics盤。
試聴した時から良い感じだったけれど、CDをステレオで聴いてみると、1971年の録音にしては音質がかなり良い。
特に《さすらい人幻想曲》の方は、当時26歳という若々しいレーゼルのピアノの音が明るく輝いて、演奏も力強く堂々とした雰囲気で、とってもいい感じ。

18年後の44歳のときに再録音したCapriccio盤《さすらい人幻想曲》も、相変わらず技巧の切れがよくて爽快。
緩徐部や弱音部、緩徐楽章の第2楽章は、旧盤よりも表現の起伏が細やかで、より叙情豊かな歌い回しになっているような気がする。
両盤を聴いてみると、Berlin Classics盤の方が、音がかなり前方から聴こえ、音が太めで力強い。特に低音の圧力感が強くて、ピアノ線が振動しているのが空気振動で伝わってくるようにボンボン響いている。
全楽章通しで聴いていると、この音だと第3楽章から第4楽章に進むにつれて、ちょっと聴き疲れてしまう。
Capriccio盤の方が、やや音が柔らかくて軽やかな歯切れよさがある。圧迫感が少ない音なので、こちらの方が聴きやすい。


Berlin Classicsの分売盤は、ジャケット写真が異なる2種類。私はジャケットが好きな上の方のCDを買ったけど。
トラックが1つにまとめられてしまっているのがちょっと不便。
Wanderer Fantasy & ImpromptusWanderer Fantasy & Impromptus
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴する(独amazon)
※試聴ファイルは別の分売盤のもの。

Wanderer-Fantasy/ImpromptusWanderer-Fantasy/Impromptus
(2008/07/08)
Peter Rosel

試聴する(独amazon)



Capriccio盤は、トラックが楽章ごとに4つに分けられている。MP3ダウンロードもあり。
Piano SonatasPiano Sonatas
(2001/04/24)
Peter Rosel

試聴する



さすらい人幻想曲 Wanderer Fantasy, D.760 (Op.15) [ピティナ作品解説][楽譜ダウンロード]

Schubert - Peter Rösel (1987-88) - Wanderer Fantaisie D 760
この音源は演奏時間から判断して、Capriccio盤。Berlin Classics盤よりも数十秒ほど長い。




《さすらい人幻想曲》は、シューベルトにしては、技巧的な難所が多い。楽譜をみるとシンプルに見えるけれど、シューベルト作品の中では一番の難曲。他の作曲家の作品も含めて、数あるピアノ独奏曲全体の中でもかなり難易度の高い曲らしい。
CDのブックレットの解説を読むと、ピアノリサイタルで弾く人は少ないという。その理由は、”難しすぎるから”というわけではなく(プロのピアニストの能力なら十分弾ける範囲)、その難しさが目に見えて明らかではないから。
これは後期のベートーヴェンやブラームス作品にも言えることで、ブリリアントに聴こえず、弾き甲斐がない(報われない)..と解説に書いてあった。

レーゼルはテンポも速めでタッチも切れが良く、輪郭のはっきりした音と濁りなく引き締まった響きがとっても気持ちよい。
ルバートやタメを入れることはほとんどなく、基本的にインテンポ。全ての音が明瞭に打鍵され、粒立ちよくて、力強くてきりっとした弾き方。若々しい爽快さがとっても気持ち良い。
レーゼルらしい生真面目で楷書的な演奏スタイルが、幻想曲とはいえ、基本的には古典的な端正さとがっちりとした構成感のあるこの曲には良く似合っている。
フォルテの和音で弾く部分が頻出していても、レーゼルのタッチは力感がありつつもバンバンと騒々しくなることもなく、全ての音が充実したクリアな響きで鳴っている。
和音・重音・アルペジオだらけの曲は、技巧確かなピアニストなら、速いテンポで一気に弾ききっていく方が重たくならないし、鮮やかに聴こえる。(技巧優れたポリーニの若い頃の録音では、珍しいことに遅いテンポで弾いているけど)

第1楽章 Allegro con fuoco, ma non troppo
冒頭のフレーズがシンプルだけど、とても印象的。
さわりを聴けば、すぐにこの曲だとわかるトレードマークみたいな主題。
途中に弱音主体の優美な旋律に何回か交代。ここは、柔らかいタッチとペダルを使った柔らかい響きが綺麗。
緩急・強弱がすぱっと明瞭に交代していくので、まるで全力疾走しては、少し歩いて休憩して、また全力で駆け出していく長距離走みたい。

第1楽章の有名な難所は、終盤近くに出てくる十六分音符のオクターブに開いた和音連打の部分。フォルツァンドで弾かないといけない。
譜面自体は入り組むこともなくてシンプルだけれど、自分で弾いてみればすぐわかるとおり、ここは本当に力技。
レーゼルは、新盤でも旧盤でも、その少し前の小節から徐々にテンポを落としている。新盤の方が少しテンポが遅い感じする。
ここはテンポを落として弾くピアニストがほとんど。テンポを落とさないと正確に打鍵できないので。
カッチェンやリヒテルのライブ映像を見ると、テンポを落とさずに弾いているけれど、きちんと打鍵できていないのがはっきりわかる。こういうところで、ピアニストの性格が現われてくるみたい。


第2楽章 Adagio (Der Wanderer)
この楽章は、他の3つの楽章とはテンポも曲想も違って、美しく叙情豊かな楽章。
主題は歌曲《さすらい人》D649。
旧盤はテンポをそれほど揺らさず、強弱も大仰にはつけていないので、淡くさらさらとした静かに流れる叙情感が清々しくてとても綺麗。新盤の方が、少し細かなテンポの揺れや微妙な起伏のある表現になっているので、より情感深い感じがする。
他の楽章がフォルテの重音が多くて似たようなテクスチュアなので、この第2楽章の美しさが引き立ってくる。
特に終盤近くで、右手高音部で64分音符の単音で弾くスケールのような旋律は、カスケードのように下行しては上行していき、高音が煌くように輝いて華麗でロマンティック。

第3楽章Prestoの冒頭は、第1楽章の主題の反行形にしたような旋律。3/4拍子で符点のリズムも多いので、第1楽章よりは少し優雅で軽快な印象。
第4楽章Allegroになると、第1楽章と同じ4/4拍子と調性に戻っている。フィナーレらしく、冒頭からオクターブの連打が力強く華やか。

シューベルトには珍しいベートーヴェン風の構築感と力強さがあるので、ベートーヴェン好きな私にはとても聴きやすい。
でも、第2楽章以外は、第1楽章の主題やその変形が多いので、どれも似たようなテクスチュアに聴こえる。
自分で楽譜を読み込んで練習しないと、どの旋律がどの楽章のものだったか混乱してきそう。
変奏曲が得意なベートーヴェンなら、第3楽章と第4楽章は変奏曲風に主題も伴奏もいろいろ展開していくのでは..とか思ってしまった。
それでも全体的にスピード感と勢いの良さがあるので、(新盤の聴き疲れしない音だと)何度でも全楽章通しで聴ける。
特に第2楽章の流麗で美しい旋律はシューベルトならでは。



即興曲集 Impromptus (D899/Op.90)  [ピティナ作品解説]

旧盤にカップリングされていた《即興曲集D899》。
この曲集は何度聴いても全然飽きないので、たぶんシューベルト作品の中では一番良く聴いている。
レーゼルは全体的にテンポが速く、どちらかというとやや強弱のコントラストを抑えた感じで、あっさりとした叙情感。
第1番はさっぱりとした叙情感で聴きやすい。もう少し旋律を歌わせて欲しい気はするけど。
第2番はテンポが速くてタッチが強く鋭いので、勢いが良いけれど、一本調子的なところがあるので、好みに合わず。
第4番は、右手が落ち葉のようにハラハラと高音部から下降するフレーズが、粒立ち良く滑らかでここはとても綺麗。
その後の短調部分はあまりフォルテを利かしていないので、感情的な盛り上がりがもう一つ。ちょっと不完全燃焼的な気分になる。

結局、この4曲の即興曲のなかで一番好きな演奏が、第3番。
右手主旋律はやや丸みをおびた落ち着いた響きがまろやか。左手伴奏はレーゼルらしく線が太めのしっかりとした力強さと安定感がある。
包み込むような暖かさのある明るい音色と安定したテンポで、表現も粘りがなくてさっぱりしているので、流麗な叙情感というよりは、ほのぼのとした穏やかさと安らかさ。ゆらゆらと波間に漂う小舟でまどろんでいるように心地良い。

シューベルト 即興曲 作品90の3 演奏:ペーター・レーゼル




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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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