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フィルクスニー ~ ヤナーチェク/ピアノ・ソナタ 「1905年10月1日街頭にて」
ファジル・サイの新譜情報をたまたま見ていたら、ヤナーチェクの《ピアノ・ソナタ「1905年10月1日街頭にて」》が収録されている。カップリングは、ムソルグスキーの《展覧会の絵》とプロコフィエフの《ピアノ・ソナタ第7番》とユニークな選曲。音響的な重量感があり、性格の違う曲ばかりで内容もヘビー。
試聴してみると、《展覧会の絵》は色彩感豊かでシンフォニックな演奏がとても良さそう。サイのピアニズムにぴったりの曲。リサイタルでも良く弾いていて、評判もとても良い。
ヤナーチェクの《ピアノ・ソナタ》の方は、米国NMLで全曲聴いたみたところ、テンポの伸縮が激しくリズムやアクセントに粘りがあり、結構センチメンタルでドラマティック。(個人的な好みとしては、元々叙情性が強い曲なので、もっとすっきりしたタッチで弾いて欲しい)
いつくかレビューを読むと、今回のアルバムは、極端に奇抜なところがない”まっとう”な演奏らしい。ヤナーチェクの演奏が好みと正反対だったので、どうしたものか...。(多分買わないと思うけど)

ヤナーチェクは好きな作曲家で、特にピアノ独奏曲は叙情豊かで美しい曲が多い。
初めてヤナーチェクを聴いたのは、映画『存在の耐えられない軽さ』を劇場で見た時。
映画自体も良かったし、音楽も聴いたことがない曲ばかりがほとんどだったけれど、一度聴いたら忘れれらないくらいに印象的な音楽だった。
すぐにサントラのカセットテープ(随分古い昔のことなのでCDが出ていなかった)を買って、何度も聴いたものだった。

ヤナーチェクのピアノ作品の録音といえば、若かりし頃のアンスネス(Virgin盤)とフィルクスニー(DG盤,RCA盤)が有名。
フィルスクニーはヤナーチェクの弟子で、子供の頃から師事していた。
1912年生まれのフィルスクニーが5歳の時、その演奏を初めて聴いたヤナーチェクは、「百年にひとり現れるかどうかわからない才能だ」と評したほどに、神童だったらしい。
息子を小さい時に亡くしたヤナーチェクにとって、父親を幼少期に失ったフィルクスニーにとって、お互い親子のように親密な師弟関係だったという。
フィルクスニーの演奏には、アンスネスの瑞々しく清冽なピアニズムにはない親密感がある。
昔の記事には、「フィルクスニーは柔らかさがあってしっとりとした情感と懐の深さを感じさせるし、若い頃に録音したアンスネスの方は硬質で透明感のある叙情感が美しい」と書いていた。今聴いてみてもこれは変わらない。


ヤナーチェク:ピアノ曲集ヤナーチェク:ピアノ曲集
(2008/05/21)
フィルクスニー(ルドルフ)

試聴する(米国amazonサイト)


ピアノ・ソナタ 変ホ短調 「1905年10月1日の街角で」/Sonatá pro klavírní "I.X. 1905, Z ulice"
[作品解説(ピティナ)][楽譜ダウンロード(IMSLP)]

ドイツ系市民と地元チェコ人との抗争を鎮圧するために出動した軍隊により、チェコ人の青年が射殺された事件が題材。
両方の楽章とも、ヤナーチェクらしいエキゾチック(でもと言うのか)な和声と濃密な叙情感にびっしりと覆われている。
テーマが重いだけに、標題も曲も暗澹としているけれど、突き刺さるような悲愴感が叙情的で美しくもある。


第1楽章 The Presentiment(予感)
冒頭から、明らかにヤナーチェクの作品だとわかる独特の旋律と和声が溢れ、これから訪れる悲劇を予感しているような不安げな哀感が流れている。
華麗な音のタペストリーの中にいろいろな表情がコラージュのように移り変わっていく。滴り落ちる水滴のようでも、波間にきらきらと反映する陽光のように煌いているようでもあり...。
時折、激しくドラマティックに鳴らされる和音は、”争い”なのかも。最後は全てが収束していくように安らかなエンディング。

Leoš Janáček - Piano Sonata 1. X. 1905 "From the Street" (1 of 2)


楽譜を見ていると、2連符、3連符、4連符がクロスリズムや変拍子的に入っているので、リズムのとり方が難しそう。左手アルペジオは中間2音の同音連打が効果的な音型で、アルペジオが水滴のように滴り落ちてくるような印象。


第2楽章 The Death(死)
鎮魂歌のように静寂さと哀惜の情が漂っている。
冒頭の静かでゆったりとした旋律は民謡風。”応えのない問い”のような割り切れなさや不可思議さも感じるところがあり、なぜか連想するのは、夜の森の中の”ふくろう”。(今は”招福”の象徴のふくろうも、昔の日本では”死の象徴”で、フクロウを見かけることは不吉だったという)
ピアノが音の滝のように打ち鳴らされるところは、徐々に気持ちが昂ぶって噴出する感情をぶつけるように激しい。最後は、”死”を受け入れたように静かにフェードアウト。

Leoš Janáček - Piano Sonata 1. X. 1905 "From the Street" (2 of 2)



<関連記事>
ヤナーチェク/ピアノ曲集
ミラン・クンデラ 『裏切られた遺言』より ~ ヤナーチェクについて(メモ)
「ヤナーチェクの作品 (2) ピアノ独奏曲、室内楽曲」
ヤナーチェクの作品 (3) 映画 『存在の耐えられない軽さ』、クンデラ 『裏切られた遺言』


tag : ヤナーチェク フィルクスニー

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ホームベーカリー機能付きオーブンレンジ
日立から11月10日に新発売されるのは、ホームベーカリー機能付きオーブンレンジ「ベーカリーレンジ ヘルシーシェフ」。
ニュースリリース製品カタログ(PDF)
日立、2時間でパンが焼けるホームベーカリー機能つきオーブンレンジ(家電Watch)
日立、ホームベーカリー機能付きのオーブンレンジ「ベーカリーレンジ」(yahooマイナビニュース)

レンジ内に「ねりモーター」をビルトインし、そこにパンケースをセットして、ねり・発酵から焼き上げまで全て庫内で自動化。食パンを練ってから焼き上げるまで、約2時間。天然酵母コースは5時間。(予約機能はなさそう?)

「ホームベーカリー機能付きオーブンレンジ」というコンセプトの製品は、すでに中国の家電メーカーSEKAIが開発して「mamilax」ブランドで中国で販売されている。
「アジア白物家電が進化! “日本でありえない多機能競争”とは?」(日経トレンディ/連載:違いがすぐ分かる!家電コンシェルジュ)では、”日本ではありえない”と書かれていたけれど、とうとう日本にも同じ機能の製品が登場した。

日本のホームベーカリーでは、ドライイーストなら通常の「食パンコース」で4時間かかって焼き上げる。
それを2時間という短時間で作っているので、「早焼きコース」で焼いているようなもの。
2時間で焼き上げるとなると、発酵時間は短くなるので、イーストは多めに投入するのが普通。「ベーカリーレンジ」では、焼成時は最初に温度設定を低めにして、「追加発酵」させているという。
発酵時間は長めにとった方がパンは美味しいと思うけれど、この機種は「熱風オーブン」で焼き上げるので、電気ヒーターで焼く普通のホームベーカリーよりも、焼き具合は良いのかも。
ホームベーカリーで焼いた普通の(または少ないイーストで長時間発酵させた)食パンと同じくらいに美味しいかどうか、実際焼き上がったパンを食べてみないことにはわからない。

「ベーカリーレンジ」の推定市場価格は、13万円前後になるらしい。
今、一番よく売れているホームベーカリーは、5000円台の超廉価なsiroca製品。天然酵母コースがないとはいえ、他の機能は充実しているので、さほど不満なく使えるらしい。
頻繁にパンを焼く人は、場所を余分にとっても、オーブンレンジとホームベーカリーは分離させた方が、使い勝手はずっと良い。
他の料理を作るときにホームベーカリーを並行して使えるし、どこかが故障した時に全ての機能が使えなくなることがなくて安心。
それに、一体型だとある部分が故障して修理不能になれば、1台丸ごと買い替えないといけない。
パンを捏ねる時の振動も激しいし、一つの製品にいろんな機能をビルトインしていると、故障しやすくなるような気がして、ホームベーカリー単体の方が耐久性も高そうに思える。
ほんの時たまにしかパンを焼かない人なら、(美味しいかどうかはともかくとして)、わざわざホームベーカリーを買わずとも、ホームベーカリーとしても使える一体型オープンレンジでも充分なのかもしれない。

「ベーカリーレンジ」の月間生産台数は5000台。
昔から、買ったけれど使っていない家電製品の上位に上がるのが、ホームベーカリー。(今は違うかもしれない)
こういう一体型製品の場合は、ホームベーカリーとして頻繁に使わない人が多いような気がする。

<関連記事>
ホームベーカリーに関するトピックス ~ 「siroca」、アジアのホームベーカリー

tag : ホームベーカリー

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渡辺あきこ 『旅して見つけて、我が家の定番になった 地方ごはん』
料理レシピを集めるのが好きなので、いつの間にか和・洋・アジアンにお菓子・パン作りと買ったレシピ本は50冊を超えていた。レシピ本は、実際に作らなくても、レシピを読んだり、出来上がった料理の写真を見たりするだけで楽しい。

ウェブのレシピサイトで一番重宝しているのは、「Cookpad」
自由投稿形式なので玉石混交。つくれぽの多い(=アクセス数の多い)レシピをチェックするのが、良いレシピを探すのには一番効率的。
ただし、レシピのアクセスランキングを見るのは、最近有料化されてしまったので、人気レシピだけチェックするのが難しくなったのが残念。
以前に見つけた人気レシピはプリントアウトしてファイリングずみ。それだけでも、ふだんのお料理にお菓子や手作りパンまで、レパートリーが随分増えて、充分役に立っている。

最近一番はまっているレシピは「マクロビレシピ!チーズ」
珍味といえば珍味。納豆&お豆腐だけで作るこのレシピが大豆製品大好きの私のツボにぴったりはまり、冬にこのレシピを見つけてからというもの、週に5日は食べている。
※レシピでは、お豆腐1丁に納豆2パック使用。私はお豆腐500gに対し、納豆は1パック弱。5分間茹でてさらに重石を載せてしっかり水切りした木綿豆腐を使用。お豆腐を細かくつぶして、かき混ぜてネバネバにした納豆を加えて、さらにかき混ぜている。毎日の夕食時によくかき混ぜているので、木綿豆腐使用でも、日が経つにつれクリーミーになる。冬は冷蔵庫保存で5日間は問題なく食べられたけれど、夏場は3日目くらいから酸っぱくなることがあるので要注意。味付けは、挽きたての黒胡椒とドライバジルをたっぷり混ぜている。


野菜を使った料理なら、”Farmer's KEIKO 農家の台所”のブログが一番役に立っている。
レシピの種類が豊富で、材料もすぐに手に入るし、作り方も簡単。
野菜の見分け方や保存法も載っているし、農家の人しか知らない知恵がいっぱい。

最近見つけたレシピ本のなかで面白かったのが、『旅して見つけて、我が家の定番になった 地方ごはん』。
”郷土料理”ではなく、”地方ごはん”というタイトル通り、郷土料理・名物料理本というよりは、各地方の一般家庭でよく作られるシンプルな料理レシピ集。
ありふれた(と思っていた)料理のルーツを発見したり、簡単に出来そうで作ってみたいなあと思う料理もいろいろあって、巷の料理研究家が考えたレシピ集とは違った良さがある。

旅して見つけて、我が家の定番になった 地方ごはん (講談社のお料理BOOK)旅して見つけて、我が家の定番になった 地方ごはん (講談社のお料理BOOK)
(2010/08/06)
渡辺 あきこ

商品詳細を見る
 掲載レシピは67品。


「思い立ったときにすぐ作る、一皿ごはん」
深川めし(東京): あさりのお味噌汁かけご飯
しらす丼(神奈川): 釜揚げしらすをのせたご飯
冷や汁(宮崎): 伝統的なレシピどおりに作るのは手間暇がかかるので、このレシピはかなり簡単なアレンジ。
だご汁(大分): 小麦粉を練った団子入り。”すいとん”みたい。
越前おそしそば(福井)
にゅうめん(龍野): 夏のそうめんが余っていたら、にゅうめんか、ソーミンチャンプルーに。
ソーミンチャンプルー(沖縄)
みそ煮込みうどん(名古屋): 八丁みそで煮込む。うどんはコシの強いもの(煮込み用か讃岐うどん)。
皿うどん(長崎): 油麺はいつも買っているけれど、このレシピは普通の中華麺を焼くだけなので簡単。

「名産地のおそうざいを、日々のごはんに」
鮭の焼き漬け(新潟)
さばの昆布巻き(鹿児島): にしんを使うと手間がかかるので、さばならどこでも売っているし、作り方も簡単。
なすとそうめんの煮物(富山): にゅうめん風。そうめんに煮汁がしみて美味しそう。
油麩の煮物(宮城): 油麩(仙台麩)は近隣のスーパーで見かけたことがない。デパ地下なら売っているかも。

「人が集まるときの、ごちそう&おつゆ」
だまっこ鍋(秋田): 焼いた”きりたんぽ”と違って、ご飯をつぶして丸めるだけで簡単。煮込み過ぎると煮崩れするかも。(片栗粉を使うレシピがcookpadにあったはず)
大村ずし(長崎): ちらし寿司が押し寿司に変身。
さばずし(京都): しめさばが手に入れば、お寿司にすると美味しい。
かきめし(広島)
納豆汁(秋田): 完全にすりつぶした納豆と味噌を混ぜてすり混ぜて、だし汁でのばす。里芋、なめこを具材につかえば、一層ねばねばする。
呉汁(熊本): ひと晩水に浸した大豆をすりつぶして、煮干だしで煮る。(大豆からも美味しいダシがとれる)

「素朴な味のおやつがおいしい」
ふな焼き(熊本): 小麦粉を水で溶いた生地を焼いて、黒砂糖をくるんでさらに焼く。
芋餅(北海道): 茹でてつぶしたジャガイモに片栗粉と塩を混ぜて、お餅の形にして焼いたもの。冷凍保存できる。さつまいもやかぼちゃでも作れそう。


<参考:郷土料理レシピに関する情報サイト>
 農山漁村の郷土料理百選:選定料理一覧(レシピあり)
農林水産省が認定した「郷土料理百選」。一応、ウェブアンケートの人気投票の結果も参考にしたらしい。
100件しか選定していないので、選定に漏れた郷土料理もかなり多いはず。

 ぴこねっと生粋市場郷土料理
自由投稿の郷土料理レシピ集。
”郷土料理”というほど、その地方特有の名物料理ばかりではなく、ご当地で日常的に食されている”普通の”料理のレシピも多い。カテゴリー別の一覧リストを見てだけで、食べたくなってくる。

『マリア・ユージナ名演集』 ~ ブラームス・シューベルトのピアノ作品
今年は残暑も短く涼しくなるのが早くて、もうすっかり秋の気配。
秋となると、聴きたくなるのはやっぱりブラームス。
夏の暑い最中に、ブラームスのピアノ協奏曲第2番ばかり聴いていたので、今はピアノソロを聴きたくなる。

ちょうどユージナの3枚組BOXセットにブラームスが数曲入っていた。《2つのラプソディ Op.79 第2番》と《後期ピアノ小品集》から9曲。
《ヘンデルバリエーション》と《ピアノ・ソナタ第3番》の録音もあるけれど、このBOXセットに収録されていないのが残念。(Youtubeと「ロシアのユージナのサイト」に音源がある)

ユージナのブラームスは、期待に違わずユージナらしくてとっても個性的。
ロマン派作品なので、ルバートを多用し、強弱・緩急のコントラストを明瞭につけた起伏の大きいダイナミックな演奏。
いつもなら、感情移入過多気味のブラームスはナルシスティックなので避けるけれど、ユージナのブラームスは、情緒過剰なセンチメンタリズムとは無縁。きりっとして、意志の強さを感じさせるところが魅力的。


『マリア・ユージナ名演集~バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト』(3枚組)
マリア・ユーディナ(pf)名演奏集マリア・ユーディナ(pf)名演奏集
(2012/10/10)
マリア・ユーディナ(pf)

商品詳細を見る
 9/24現在、日本amazon、HMVでは予約のみ。米国・英国amazonでは販売中。

リヒテルは、”ユージナのロマン派の演奏は印象的だが、楽譜通りに弾いていない。もはやショパンやシューベルトというよりも、ユージナそのもの”と評していた。(平均律の演奏については”彼女に比べれば、グールドなんてかわいいものだ”とも言っていた)
一体どんな演奏なんだろう?

ユージナのブラームスは、速めのテンポをとり、テンポの揺れと強弱のコントラストが激しく、表現がドラマティック。
でも、弱音や細部の繊細さに耽溺することはなく、ナルシスティックでウェットな情緒性・感傷性が全くないのが良いところ。

2つのラプソディ Op.79 第2番
暗い情熱が激しく渦巻くようなタッチで、とてもドラマティック。
この曲を遅いテンポで弾くと足を引きずるように重たくなりがち。ユージナは全体的に速いテンポで、音もリズムも歯切れ良い。
和音も力感のあるシャープなタッチで、スタッカートでも軽快。和音のスタッカートによる三連符(第10小節~)も切れが良い。
力感・量感のある低音の響きに重みがあり、軽快であっても重厚。音の詰まったパッセージでも、音がさほど混濁せずに音響的にはクリア。
ラプソディ第1番の方が疾風怒濤的だと思っていたけれど、ユージナが第2番を弾くと、第1番と同じくらいに勢いよく疾走している。

ユージナのテンポは、”ma non troppo Allegro”という速度指定にしては、かなり速い。
楽譜上の細かい指示を無視しているというわけでもなく、テヌートやスタッカート、アクセントは指示通りに弾いているし、ディナーミクもコントラストは明瞭。
極端なのはアゴーギク。テンポの伸縮がかなり大胆。楽譜ではリタルダンドだけがついているところ(第5小節など)を、あまりにもテンポを落とすので、フェルマータでもかかっているのかと...。それに、小節のなかでテンポが小刻みに変わったりする。
mezzo voce(第21小節~)のところは、テンポを上げずに足を踏みしめるようなタッチで始めて、徐々に盛り上げていく弾き方が多い。ユージナは相変わらず速いテンポで、”何かが迫りくるような予感”というものは稀薄。
とにかく、緩急の変化と強弱のコントラストが激しく、これ以上ないと言うくらいにメリハリはついている。
テンポが速いので、ややせわしなく感じるところもあり、味わい深さに欠けるようには思うけれど、面白いことは面白い。最初から最後まで一気に聴かせてくれる。(テンションが高いので、何度も聴くと精神的に疲れてくるけれど..)

Maria Yudina plays Brahms Rhapsody Op. 79 No. 2 in G minor




後期ピアノ小品集~Op.116、Op.117、Op.118、Op.119より数曲
後期ピアノ小品で収録されているのは、《7つの幻想曲Op.116》第2番、《3つの間奏曲Op.117》全曲、《6つの小品Op.118》の第1,2,4,6番、《4つの小品Op.119》第3番。
全体的にテンポ設定は速めで、それほど極端でもない。
穏やかな曲想のOp.117-1は、主題部はゆったりしたテンポと、軽やかで明るい音色で、さらりとした叙情感。
対照的に中間部ではユージナらしく量感・力感のある低音が良く響き、暗鬱とした雰囲気でコントラストが鮮やか。
Op.117-2は明暗が絶え間なく交錯する曲。冒頭のdolceは”溜め息”音型特有のそこはかとない哀感が綺麗。
曲想に応じて、テンポを頻繁に変えていくので、曲想が穏やかなときはだいたいテンポもゆったりして情感深く。
急に短調に変わる39小節からは、テンポが上がるしタッチもシャープで急迫感が出る。

Op.118-2の主題部はタッチもテンポも緩やかで穏やか。ここをゆったりしたテンポで思い入れたっぷりに弾く人は結構多いけれど、ユージナはあっさりしたタッチとやや速めのテンポでさっぱりした情感。

ブラームスの曲のなかでも、短調の曲で感情が揺れ動いて明暗・静動が絶えず交錯する曲になると、ユージナの演奏はテンポ・強弱の変化が激しく、表情豊かでドラマティック。
それに、後期ピアノ曲の特徴だとされる晩年の寂寥感のようなものは、どの曲でも稀薄。
逆に、時に優しげな表情を見せつつも、強い意志の力と激しい感情が溢れ出てくるような、ダイナミックでパッショネイトなブラームス。


Maria Yudina Brahms Intermezzo, Op. 117 n.2


Maria Yudina plays Brahms 4 Klavierstucke from Op. 118
8つのピアノ小品より4曲(第1・2・4・6番)



シューベルト《即興曲》D899、D935より3曲
収録曲3曲のうち、テンポの速いD.899の第2番はシャープなタッチで勢いも良く、力強くて明るい。
軽快なタッチの第4番は、中間部がほの暗い情熱が湧き上がってくるような雰囲気。
最もシューベルトらしく思えた叙情的な演奏は、D.935(Op.142)の第2番。(音は篭り気味で良くないけど)
激烈な演奏をするというユージナのイメージとは違って、落ち着いた曲想の曲になると、穏やかな表情としっとりとした叙情感のあるピアノを弾いている。

Maria Yudina plays Schubert Impromptu As-dur Op. 142 No. 2


tag : ユージナ ブラームス シューベルト

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アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第13番《幻想曲風》
ベートーヴェンの標題付きソナタの中で、珍しくもベートーヴェン自身が「幻想曲風ソナタ」と標題をつけたピアノ・ソナタ第13番。
Op.27は第13番と第14番の2曲。ファンタスティックな第1楽章をもつ第14番「月光ソナタ」(これはベートーヴェンがつけた標題ではない)が有名すぎて、この第13番の方はあまり聴かれていない気がする。
「月光ソナタ」の第1楽章よりも、第13番の第2楽章の方がなぜか好きなので、この曲もよく聴いている。

アラウはこの第13番が好きだったのか、リサイタルでもよく弾いていたらしい。
残っている録音は4種類。Philipsのスタジオ録音新・旧盤、ライブ録音はAura盤(1971年)、BBC盤(モノラル録音、1960年)。
アラウは太めの響きとしっかりした骨格でゴツゴツしたところがあり、感情移入も深くて(ウェットな情緒過剰なところはない)、重量感のある演奏。この独特のコクのあるところがアラウらしい。

アラウの録音で一番良いと思うのは、イタリアのアスコーナ音楽祭のライブ録音。
1971年のライブにしては音質がとても良くて、音がクリアで残響も豊かで美しい。
まだ60歳代後半の録音なので、技巧の大きな衰えもなく、テンションも高い。
美しいソノリティと深い感情移入が篭められた"ライブが本領"のアラウの演奏が聴ける。

このBOXセットは、1962年のスタジオ録音の全集盤(Philips旧盤)。
長らく廃盤状態で、ようやく最近リイシュー盤がリリースされた。
ピアノ・ソナタ全集と変奏曲集がまとめて聴ける。ディアベリ変奏曲は1952年の旧盤を収録。
残念なのは、ピアノ協奏曲全集(ハイティング指揮コンセルトヘボウ管)が収録されていないこと。
Complete Piano SonatasComplete Piano Sonatas
(2012/05/08)
Claudio Arrau

試聴する(米amazon)


同じく1962年のスタジオ録音の全集盤(Philips旧盤)。ピアノ・ソナタ全集、変奏曲集、ピアノ協奏曲全集(ハイティング指揮コンセルトヘボウ管)を収録。ディアベリ変奏曲は1983年の新盤。(廃盤。amazon.comでダウンロード販売中)
Complete Piano Sonatas & ConcertosComplete Piano Sonatas & Concertos
(1999/11/09)
Claudio Arrau

試聴する(米国amazon)



1971年、イタリア・アスコーナ音楽祭のライブ録音(Aura盤)
PLAYS BEETHOVEN, LISZT AND CHOPINPLAYS BEETHOVEN, LISZT AND CHOPIN
(1999/12/28)
Beethoven、Liszt 他

試聴ファイルなし



1960年の放送用録音(BBC Legends盤、モノラル)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番/シューマン:幻想曲 ハ長調/シェーンベルク:3つのピアノ小品 Op. 11 (アラウ)(1959, 1960)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番/シューマン:幻想曲 ハ長調/シェーンベルク:3つのピアノ小品 Op. 11 (アラウ)(1959, 1960)
(2010/11/16)
Arnold Schoenberg、 他

試聴する


                          

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第13番変ホ長調 "Sonata quasi una fantasia" Op.27-1 /作品解説[ピティナ]楽譜ダウンロード[IMSLP]

第1楽章 Adagio sostenuto
単純な和音と短いスケールのシンプルな主題は、とても優しげ。
アラウはゆったりとしたテンポで、まどろむような柔らかいタッチは、何の憂いもなく安心した気分に浸っているような雰囲気。
すっかり目覚めたように、中間部のallegroは一転してフォルテになり、練習曲風な細かいパッセージが上下行する。
再現部に入って、再びうとうとまどろむような主題に。まるでさっきの中間部は全くなかったかのように思えてくる。
夢のなかで遊んでいたのかも。

 HOMMAGE à CLAUDIO ARRAU - Beethoven Piano Sonata in E flat major Op.27 No.1 - Ascona 1971 - live (第1楽章~第2楽章) [Youtube]


第2楽章 Allegretto
憂鬱な気分の冒頭のアルペジオ。漠然とした不安が漂うモヤモヤとした響きで低音部から上行し、高音部では逆に哀しげな響きで下向きの分散和音。この響きがファンタスティック。
最後は、そういう思いを絶つかのように、突如フォルテに。
中間部は、馬がトロットするように行進曲風で力強く。(途中でてくるトリルは馬のいななきのように聴こえる)
再現部では、落ち着かなくざわめく心を表わしているかのように、主題が左右で1音ずらされている。

スタジオ録音よりもアスコーナのライブ録音は、ライブ特有の高いテンションのせいで力感が強め。
残響が長めで音色も綺麗で、旋律もずっと滑らかなレガート。
高音部はスタジオ録音の方がはっきり聴こえてくるので、哀感が強いように感じる。


第3楽章(第3楽章序奏) Adagio con espressione
平和的でのどかな安らぎに満ちた楽章。
アラウはゆったりしたテンポとややテヌート気味のタッチで、情感深く。

 HOMMAGE à CLAUDIO ARRAU - Beethoven Piano Sonata in E flat major Op.27 No.1 - Ascona 1971 - live (第3楽章~第4楽章) [Youtube]


第4楽章(第3楽章) Presto agitato
駆け回っているような軽快な躍動感と明るい開放感がとても気持ちよい。
スタジオ録音に比べて、アスコーナのライブ録音はタッチがシャープで音色も明るく輝き、とってもエネルギッシュ。
第2楽章の中間部とこの第4楽章を聴くと、第18番《狩》と間違ってしまいそうになる。
和音で繋がる旋律や左手のオスティナート的に続く伴奏とか、リズム感や曲の雰囲気が似ているせいかも。
151小節~164小節はちょっと雰囲気がかわって、格好良くてダンディ。これがなぜかジャズ風に聴こえる。
最後は、序章のテンポに戻って、第1楽章のAdagioの平和的な主題が意外にも再現される。
このまま静かにフェードアウト...と思ったら、Prestoのコーダで再び軽快な旋律が現われ、明るく快活にエンディング。

tag : ベートーヴェン アラウ

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耳鳴り治療のための音響・音楽療法(10) ハイデルベルクモデルの音楽療法 (アップデート版)
[ ”Long-term effects of the "Heidelberg Model of Music Therapy" in patients with chronic tinnitus.”の論文概要を追加]


"Heidelberg Model"(ハイデルベルクモデル)とは、German Center for Music Therapy Researchがハイデルベルク大学耳鼻咽喉科クリニックの協力を得て開発した革新的な音楽療法アプローチ。それは、音楽的にコントロール可能な聴覚プロセスの中に耳鳴音を統合する試みである。

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German Center for Music Therapy Research (DZM)
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German Center for Music Therapy Research(Viktor Dulger Institut, DZM e.V.)は、1995年に設立された欧州で最大の音楽療法研究機関。
当初の名称は"Heidelberg Institution of Music Therapy Research"。
2000年に現在の名称に変更し、設立を推進したハイデルベルクの企業グループ"ProMinent Group"の会長名をつけて、"Viktor Dulger Institute"とも呼ばれる。

DZMは、国内外の医療機関・医科大学と協力関係を結び、共同研究・開発を長年にわたり行っている。
現在の研究領域は、子供・大人に関する慢性的な苦痛、腎臓病患者の生活の方向づけ(existential orientation)、治療法改善のための医療ソフト開発全般、特定の音楽療法技術の評価。
音楽療法・心理療法・基礎研究以外にも、マネジメント・コンサルティング、環境経済など様々な領域の事業を行っている。

進行中のプロジェクト(耳鳴関係)
A study of the effectiveness of music therapy for patients with chronic tonal tinnitus.
A study of the effectiveness of music therapy for patients with chronic non-tonal tinnitus.
A study of the effect factors of music therapy for patients with chronic tonal tinnitus.

研究内容概要
抄録,scientific posters,プレゼンテーション(参加した科学関係会議で発表)の一部紹介


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ハイデルベルクモデルの音楽療法に関する論文
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"Music therapy for patients suffering from chronic pain – Evaluation of an interdisciplinary treatment approach"
10th World Congress of Music Therapy Oxford, 23rd to 28th July 2002
Thomas Hillecke, Anne Nickel, Hubert J. Bardenheuer,Hans Volker Bolay/German Center for Music Therapy Research, Pain Center of the University Hospital Heidelberg


"Music Therapy in Chronic Tinnitus - A Prospective Pilot Study"(2005)[独文]
H. Argstatter, A. Nickel, A. Rupp, S. Hoth, H. Bolay/Centre for Music Therapy Research, University of Heidelberg

-German Centre for Music Therapy Research(DZM)とハイデルベルク大学との共同研究で、慢性耳鳴患者への革新的音楽療法に関する臨床試験。
-療法コンセプト:耳鳴り音をコントロール可能な音楽的聴覚プロセスに組み入れることが目的。
-患者個々人の耳鳴音と同等の音を生成する。この音が能動的・受動的音楽療法の相互作用の基礎として作用する。
-目的変数(指標)は、試験前後にインタビュー、問診(TQ)で検査。さらに脳イメージング手法(MEG)も加えた。


"Music Therapy for Tinnitus Patients-A Prospective Pilot Study"(2005)
Heike Argstatter , Sebastian Hoth , Anne Kathrin Nickel ,Hans Volker Bolay, Gerhard Dyckhoff,Hagen Weidauer
Deutsches Zentrum fur Musiktherapieforschung (German Center for Music Therapy Research)
HNO Klinik, Universitat Heidelberg、Fachhochschule Heidelberg (University of Applied Sciences Heidelberg)
抄録(PDF)poster(PDF)

-被験者:慢性耳鳴り患者20人。無作為抽出により、音楽療法群と対照群の2グループ(各10人)に分ける。
-試験方法:全員が包括的な耳鳴カウンセリングを受ける。音楽療法群は50分間の音楽療法の個人セッションを12回実施。対照群は個人セッションなし。
-評価データ;tinnitus variables (TQ, Goebel & Hiller, 1998)、心理学的指標を試験前後と24週後のフォローアップ時に測定。
-結果:耳鳴症状は療法実施中に継続的に減少。音楽療法群でTQ-Scoresが53%低下。対照群で5%低下。
-被験者数は少ないが、医学的・統計的に有意な効果があった。
-脳イメージングなどによるさらなる研究が有益と思われる(計画中)。

[注記:被験者数が抄録(10人)とposter(20人)と異なるのは、抄録は対照群の被験者数を含めていないため。]

<この論文の紹介記事>
"A German neuroscientific study attested positive results with the implementation of sound therapy against Tinnitus"[Tinnitus Self-help,DisMark GmbH])
ドイツの大学病院とGerman centre for music therapyの研究グループは、医学的イメージング手法を使い、初めて慢性耳鳴り患者における音響セラピー療法の神経科学的な効果を立証した。
Dr. Krick とProf Dr. Bolayは、 脳内のミクロな自律的変化と医学的症状の緩和とは、決定的な関連があるという症例を証明した。
MRI画像は、音響セラピー療法は脳領域(医学的症状の増幅に関連していると疑われる)を活性化させることを示した。



"Music therapy for tinnitus patients: an interdisciplinary pilot study of the Heidelberg Model"
HNO. 2007 May;55(5):375-83.
Argstatter H, Plinkert P, Bolay HV./Deutsches Zentrum für Musiktherapieforschung (Viktor Dulger Institut) DZM e. V., Heidelberg.
[注記:2005年の論文と同じ臨床試験]


"Music therapy in chronic tonal tinnitus. Heidelberg model of evidence-based music therapy"
HNO. 2008 Jul;56(7):678-85.
H. Argstatter, H, Krick C, Bolay HV./Deutsches Zentrum für Musiktherapieforschung, Heidelberg.

-耳鳴治療を必要としているのは、ドイツ人で100万人以上。その約50%は、周波数がほぼ特定できるいわゆる"tonal"耳鳴り。
-新しい音楽療法のコンセプトは、診断・治療において、心理学的・聴覚的・機能イメージング的手法で評価され、科学的に検証もされている。
-この療法の利点は、充分な実証データのある既知の音響的手法と心理療法技術を統合している点。特別な音楽療法的手法に転換されている。(resonance training、聴覚神経皮質再プログラミング、耳鳴の脱感作)
-190人以上の慢性トーナル耳鳴患者で治療効果あり。治療期間、効果、フォーローアップ時の安定性の点で、通常の療法よりも優位。
-脳イメージングの成果は、耳鳴りの神経学的モデル調査や議論に有益。


"Music therapy for noisiform tinnitus. Concept development and evaluation"
HNO. 2010 Nov;58(11):1085-93.
H. Argstatter, H, Krick C, Plinkert P, Bolay HV./Deutsches Zentrum für Musiktherapieforschung (Viktor Dulger Institut), Heidelberg, Deutschland

-慢性トーナル耳鳴り患者に対する"Heidelberger model"音楽療法は効果的な治療法であり、神経科学および心理学的評価により検証されている。
-音楽療法アプローチに、音質と心血管系への影響を考慮した。
-評価基準:心理学的耳鳴り負荷(psychological tinnitus load), 精神生理的変数、脳イメージング手法
-心理学的結果:23人中21人(90%以上)が症状の安定的緩和が見られた。(TQ scores: pre: 40.1 ± 11.4; post: 27.9 ± 12.8; at 3ヶ月のfollow-up: 24.0 ± 12.2).
-イメージング検査結果;被殻とインスラ(島)で神経の可塑的変化あり。精神生理的検査では心血管系への影響あり。
-療法の成否は耳鳴の音質に左右されるため、これを考慮すべき。
-心拍数の能動的コントロールが長期治療成果の重要な予測変数である限りにおいて、心血管系への影響は重要。
-総合的には、脳イメージング情報は耳鳴生成のトップダウンモデルを裏付けている。

”Long-term effects of the "Heidelberg Model of Music Therapy" in patients with chronic tinnitus.”
Int J Clin Exp Med. 2012;5(4):273-88. Epub 2012 Aug 22.
Argstatter H, Grapp M, Hutter E, Plinkert P, Bolay HV./German Center for Music Therapy Research (Deutsches Zentrum fur Musiktherapieforschung (Viktor Dulger Institut) DZM e.V.) Heidelberg, Germany.

- 研究目的:慢性耳鳴患者におけるハイデルベルク式音楽療法の長期的効果(治療後、最長で5.4年間)を研究する。
- "Heidelberg Model of Music Therapy for Chronic Tinnitus"はマニュアル化された短期間治療 (5日連続して個人ごとにカスタマイズされた50分間の治療セッションを9回実施)
- 短期的な耳鳴緩和効果は証明済み。
- 対象とした被験者は過去にこの療法を行った206人。そのうちフォローアップ用アンケート回答107件を分析。フォローアップ時期は2.65 (標準偏差 1.1) 年。
- 耳鳴スコアでは確実に緩和効果があるのは被験者の76%。Mini-TQで測定された耳鳴苦痛度は11.9 (SD = 4.9)から7.4 (SD = 5.2)へ低減。
- 87%の患者が治療実施中の処置に満足している。71%の患者が、治療後は継続的に治療していない。治療法の要素(elements)に関する評価では、患者が”役立った(helpful)"と評価したのは音楽療法による特別治療のみ。
- 耳鳴りに関係する要素(耳鳴のピッチ、大きさ、持続時間)は治療効果に影響しない。女性、ポジティブな治療関係、当初のMini-TQ scoresがより高い..という条件は、より良い治療効果が得られる可能性が高い予測変数となることが明らかになった。
- ハイデルベルク式音楽療法は長期的な治療効果があると思われる。治療効果量(outcome effect size)(d' = 0.89)では、治療効果が大きく、他の治療法に比べてかなり上位の範囲にある。


Neurologic Music Therapyの定義[NEUROLOGIC MUSIC THERAPY TRAINING INSTITUTE]
人間の神経システムにおける神経学的疾患に対して、音楽療法を治療技術として認識・感覚・運動機能へ適用したもの。
Neurologic Music Therapyは研究ベースのもので、その治療手法は音楽の知覚と創造、非音楽的脳領域と行動機能面でそれがもたらす効果に関する科学的知識に基づいている。
対象とする治療分野は、脳卒中、外傷性脳損傷 パーキンソン病、ハンチントン氏病、脳性小児まひ、アルツハイマー病、 自閉症、その他の認知・行動・コミュニケーションに影響する神経学的疾患。

※ハイデルベルク大学による音楽療法関係の臨床試験例(うつ病治療)
Receptive Music Therapy for the Treatment of Depression(University of Heidelberg)

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臨床試験
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"Neuro-Music Therapy for Recent Onset Tinnitus: Evaluation of a Therapy Concept"
German Center for Music Therapy Research/University Hospital for Ear, Nose, and Throat, University of Heidelberg & Clinic of Diagnostic and Interventional Neuroradiology, Saarland University Clinic

被験者数:60名(予定)
研究開始;2012年1月
研究終了:2013年7月
データ収集完了予定:2012年12月

研究目的:"Heidelberg Model of Music Therapy"の有効性試験。急性耳鳴患者に対して、音楽療法が耳鳴の重度・苦痛度に及ぼす効果を評価する。
手法:ランダム化、並行群間比較 、オープン試験
研究概要:この療法は、マニュアル化された短期間の音楽療法で、50分間の個人治療セッションが連続9セッション続く。
心理学的状態をマネジメントし、基底にある神経生理学的な再構築状態を修復するという統合戦略。
この療法の基本となる概念は、音楽刺激同様、耳鳴も聴覚的な知覚表象としての経験であるということ。
本療法の傑出した特徴は、被験者が能動的に自らの症状に影響を与える方法である。これにより、自己効力感が改善され、症状に対してずっと異なった捉え方をするようになる。

被験者:最近耳鳴りを発症し、その症状が薬物療法後も持続している被験者群と耳鳴り症のない対照群。
試験方法:
(1)治療群:20人の被験者を無作為抽出し"Neuro-Music Therapy"をすぐに開始。
"Neuro-Music Therapy"は5日間で、50分間の個人治療セッションを連続9セッション行う。
治療直前および直後すぐに、広範な診断実施(心理学的評価、機能的神経イメージング、電気生理学的検査)

(2)待機リスト群:20人の被験者を無作為化抽出し、6週間を超えない待機期間終了後、療法実施。
待機期間内は、治療実施群と全く同じ検査・診断手順で検査。

(3)対照群:20人の耳鳴り症のない被験者に対し、音楽療法的ストレスコーチングプログラム実施。
急性耳鳴に対する"Neuro-Music Therapy"の主要な療法技術(耳鳴特有の要素は変更)に基づく。
5日間のコーチング実施前・実施後すぐに、対照群は療法群被験者と同じ診断手順で検査。

評価手法:
-心理テストと精神心理学的検査:Tinnitus Questionnaire (TQ, Goebel and Hiller 1998)、Tinnitus-Beeintrachtigungs-Fragebogen (TBF-12, Greimel et al. 2000))
-タスクベースfMRIの枠組み(Paradigm)使用:耳鳴り知覚と慢性化に関与していると思われる神経回路内の変化を調べる。
-耳鳴周波数および電気生理学的指標(皮膚温、ガルバニック皮膚反応レベル、脈拍、呼吸数)
-Attention and Performance Self Assessment Scale (APSA, Görtelmeyer et al. 2012)


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備考
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記事中の日本語訳文は、英文情報を抜粋要約したものです。
高い精度の訳文ではないため、正確な内容については、英文原文をお読みください。

tag : 音響・音楽療法

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グールド ~ ベートーヴェン=リスト編曲/交響曲第5番《運命》
リストの編曲もので有名な曲は多数あれど、規模の大きさと難易度の高さでは、ベートーヴェン交響曲全9曲のピアノ独奏版が筆頭にくるのでは。
昔から全集盤で知られているものは、カツァリスとシチェルバコフの録音。
かなりの難曲なので、5番や9番だけとか、抜粋し録音している人が多い。
なぜかグールドが、このリスト編曲版の第5番&第6番の2曲を録音している。

Glenn Gould Plays Beethoven & WagnerGlenn Gould Plays Beethoven & Wagner
(2012/08/28)
Glenn Gould

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収録されている《田園》は第1楽章のみ。全楽章版は別盤が出ているが、音源は別物。
セールス上の理由だと思うけれど、《運命》と《田園》全楽章を一緒に収録したCDがなぜか見当たらない。
今年はグールドのメモリアルイヤー(没後30年と生誕80年)なのに、SONYは”ベートーヴェン録音全曲BOX”は出してくれないのかな?


交響曲は《田園》よりも《運命》の方がはるかに好きなので、編曲版でも聴くのはもっぱら《運命》。
グールドには”ヴィルトオーゾ”のイメージはなかったけれど、編曲版ではテクニカルに怪しいところもなく、きっちり弾いている。
ピアノ・ソナタ録音は、グールド編曲版を弾いているのだろうかと思うような奇妙キテレツな演奏も少なくないけれど、このリスト編曲版にはそういうところは全くない。
リストらしい技巧華やかなところをアピールするわけでもなくて、原曲(と編曲)の良さを音楽的に聴かせてくれるので、グールドのベートーヴェンにしては自然に入っていける。
ヴィルトオーゾのシチェルバコフとは方向性が全然違うけれど、《運命》の演奏はグールドの方が魅力的に思えてくる。

テンポはシチェルバコフがどの楽章も速め。グールドは第2楽章が特にスロー。
 グールド (5:56/14:28/6:59/11:33) ※第1楽章はりピート省略。
 カツァリス (7:36/11:17/6:34/11:55)
 シチェルバコフ (7:16/10:15/5:35/11:07)


第1楽章 Allegro con brio
グールドにしては至極まともな演奏。(これだけ技巧的に難しいとあれこれ細工する余地も少ないだろうし)
色彩感のある音色も綺麗で、和音の連続するフレーズでも音の切れがよく、響きもクリアで濁らない。
フォルテで和音を連打するところでも、肩に余計な力が入らず打鍵に無理がないように聴こえる。
シチェルバコフは、シンフォニックな音響にするために、かなり肩に力が入っているような弾き方に時々聴こえるので、ちょっと聴き疲れするところはある。

不思議と威圧感がなく、歌心が感じられる旋律の歌いまわしがグールドらしい。
特に緩徐部の歌わせ方がメロディアスで叙情的。
それぞれの旋律をくっきりと浮かびあがらせて、しなやかに歌わせるところは、バッハの奏法と似ているのかも。

Glenn Gould - Beethoven Symphony No.5 in C minor, Op.67 1st movment



第2楽章 Andante con moto
緩徐楽章なので、グールドらしさが全開といったところ。
テンポがかなり遅く、呟くような旋律の歌いまわしや、弱音部の静けさが独特。
メロウな雰囲気が漂っているけれど、こんなに詩的で美しい第2楽章を弾ける人はそうそういない。

Glenn Gould - Beethoven Symphony No.5 in C minor, Op.67 2nd Movment ( part 1 )



第4楽章 Allegro. Presto
テンポがかなり速いシチェルバコフは、シャープなタッチでヴィルトオーソらしい技巧が冴えている。疾走感と躍動感があり、交響曲のようにシンフォニックで輝かしい。
それと比べると、グールドはテンポが遅く、マルカート的に一音一音しっかりと打鍵し、地面を踏みしめて着実に前進していくようなタッチ。威風堂々としていながら、歌うようにしなやかで美しい。

Glenn Gould - Beethoven Symphony No.5 in C minor, Op.67 4th Movment ( part 1 )




シチェルバコフの弾く第4楽章は、勇壮で輝かしいフィナーレ。原曲のようにカタルシスを感じさせてくれる。
Franz Liszt - Beethoven - Symphony No.5 in C minor, S464/R128 - IV. Allegro (transcription)



参考情報
「カツァリス10番勝負 交響曲第5番「運命」VS グールド By U-YAN」(Katsaris VS Famous Pianists)[VIVA PIANIZM <KATSARIS MANIAX>]
カツァリスとグールドの《運命》の演奏比較。実況放送的演奏解説。
楽譜に沿って、細かいところまで突っ込んでいる。これは結構面白い。

tag : ベートーヴェン フランツ・リスト グールド

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セルジオ・フィオレンティーノ 『The Berlin Recordings』 ~ ピアノ名曲集
フィオレンティーノのBOXセット『The Berlin Recordings 1994-97』に収録されている10枚目の最後のCDは、ピアノ名曲&小品集。

私がフィオレンティーノのことを知ったのは、たまたまYoutubeでフォーレの歌曲《夢のあとに》のピアノ編曲版を見つけたことがきっかけ。
フィオレンティーノ自身が編曲したこの《夢のあとに》を聴いた時、なんて叙情濃厚で”雰囲気”に満ちた編曲なんだろうと思ったけれど、これがとっても魅力的。

フィオレンティーノについて俄然興味が沸いてきたので、ディスコグラフィを探していて見つけた新譜が、『The Berlin Recordings 1994-97』。
試聴したバッハのパルティータ第1番がとても良い感触だったので、BOXセットを手に入れてCDで聴いてみると、期待に違わず素晴らしいバッハ。珍しい無伴奏バイオリンソナタ第1番のピアノ編曲版も同じくらいに素敵。
その他の曲も時代・様式の異なる選曲が多彩。ヴィルトオーソらしい切れ味の良い技巧と叙情豊かで品の良い演奏が楽しめる。

『Sergio Fiorentino Edition Vol.1 :The Berlin Recordings 1994-97』
Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1Berlin Recordings-Fiorentino Edition Vol. 1
(2012/01/10)
Fiorentino



BOXセットはCD10組。
バッハ、シューベルト、シューマン、ショパン、フランク、リスト、ドビュッシー、プロコフィエフ、スクリャービン、ラフマニノフなど、レパートリは多彩。特に得意なのはラフマニノフ。若い頃はラフマニノフが自身が弾いているようだと評されていた。

最後の「CD10」の収録曲は、モシュコフスキー以外はポピュラーな曲ばかり。

 ドビュッシー:ベルガマスク組曲、アラベスク第1番&第2番
 スカルラッティ:ソナタホ長調、ソナタニ短調
 モシュコフスキー:15の練習曲Op.72 第6番
 フォーレ:夢のあとに(編曲:フィオレンティーノ)
 シューマン:謝肉祭
 リスト:即興ワルツ,小人の踊り(2つの演奏会用エチュードS.145より)、忘れられたワルツ第1番


とても好きなフォーレの歌曲《夢のあとに》のピアノソロは、濃密な音と響きがびっしりと敷き詰められたタペストリーのよう。
クラシックのピアニストの編曲にしては、ムード音楽風な"雰囲気"に満ちて、とてもロマンティック。
古き良き時代へのノスタルジーが漂い、何度聴いてもうっとり。こんな曲を書く人はロマンティストに違いない。

Fiorentino plays Fauré Après Un Rêve




ドビュッシーの『ベルガマスク組曲』も素晴らしく良くて、印象派の描写的な音楽というよりも、ヒューマニスティックな暖かさと希望や約束に満ちた音楽。
明るい煌きと温もりのある甘い音色に柔らかく滑らかなフレージングは、優美で品良く親密感を感じさせる。
《プレリュード》は明るい未来を予感させるし、《メヌエット》と《パスピエ》は屈託なくて優雅で楽しそう。
ゆったりとしたテンポの《月の光》は、暖かい眼差しと優しい雰囲気が曲の隅ずみにまで浸透している。

Debussy - Sergio Fiorentino (1997) Suite bergamasque




スカルラッティのソナタはメカニカルなタッチではなく、レガートな歌いまわしとペダルを使った重なる和声の響きが美しい。
小鳥がさえずるようなトリルも可愛らしく、気品のある優美な叙情感が素敵。

Scarlatti - Sergio Fiorentino (1996) sonata kk 380 en ré majeur



tag : フィオレンティーノ フォーレ ドビュッシー スカルラッティ

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【新譜情報】 ポール・ルイス ~ シューベルト/ピアノ作品集
ポール・ルイスの新譜は、前回に続いてシューベルト/ピアノ作品集。うっかり見落としていたけれど、リリース予定は10月10日。
今回は、ピアノ・ソナタは第16番の一曲のみ。《さすらい人幻想曲》、《即興曲集 D935》、《楽興の時 D780》とポピュラーな曲が多い。

すでに試聴ファイルが公開されていたので、買うべきかどうか、早速試聴。
冒頭の《さすらい人幻想曲》の第1楽章を聴いただけで、ピアノの音の美しさに惹き寄せられてしまって、もうこれは買うしかないような....。

ルイスのピアノの音と演奏は、前回リリースされたピアノ・ソナタ集の時に、以前にも増して美しく豊饒になった気がする。
録音の残響もほどよく、響きが豊かでクリアな音質でとっても聴きやすい。
柔らかくふわっと膨らみのある音の浮遊感や、微妙な陰翳とニュアンスのある弱音とか、残響の余韻の中にも意味があるような、こんな多彩で綺麗な音を出せる人はほとんどいないのでは。
歌いまわしは、表情豊かで滑らか。歌曲のような歌いまわしでも、情緒過剰ではなく流れが自然。
”深遠/深刻/神経質な”シューベルトを聴くと疲れるものがあるけれど、ルイスのシューベルトは喜怒哀楽が内面から自然に湧き出ているような趣きがあって、疲れることがない。
”天性のシューベルト弾き”というのは、ルイスのような人のことを言うのでしょう。

シューベルト: ピアノ・ソナタ集 (Schubert : Piano Sonata D.845, ''Wandererfantasie'' D.760, 4 Impromtus D.935, Moments Musicaux D.780 / Paul Lewis) (2CD) [輸入盤]シューベルト: ピアノ・ソナタ集 (Schubert : Piano Sonata D.845, ''Wandererfantasie'' D.760, 4 Impromtus D.935, Moments Musicaux D.780 / Paul Lewis) (2CD) [輸入盤]
(2012/10/10)
ポール・ルイス

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tag : シューベルト ルイス

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巨大な大仏・大観音
いつも読んでいる<たかシェフのおうちごはん。>のブログ記事に、大きな大仏の写真が...。
大仏というと、奈良・東大寺にある大仏がすぐに思い浮かぶ。この写真の大仏は立像で、東大寺のものよりはるかに巨大。
コメント欄を見ると、この巨大大仏は茨城県牛久市にある「牛久大仏」。
他の地域にもこの種の巨大大仏が結構たくさんあるらしい。

ギネス認定!世界一の巨大大仏「牛久大仏」【茨城】[日本珍スポット100景]


そういえば、ずっと昔、京都の清水寺周辺の散策道を歩いていたら、突如、巨大な観音様の姿が目の前に...。
これにはびっくり。
この観音様は、京都東山にある「霊山観音」。白い観音様が山を背景にどっしりと座っている姿はかなりの迫力。写真と実物では、スケール感と量感が全然違う。

24メートルの大観音像「霊山観音」【京都】[日本珍スポット100景]


調べてみると、<大仏ジャパン Colossus in Japan>に”大仏・大観音一覧表”が載っていた。
こういう情報をまとめてくれている人がいるのは大助かり。インターネットの世界の情報はやっぱり面白い。
全高が50m以上のものは、「北海道大観音」(88m)、「仙台大観音」(100m)、「会津慈母大観音」(57m)、「加賀大観音」(73m)、「うさみ大観音」(50m)、「救世慈母大観音)(62m)、「世界平和大観音(淡路観音)」(100m)、「小豆島大観音」(68m)など。

淡路島には何度か行ったけれど、「世界平和大観音」(淡路観音)があるというのは知らなかった。
竣工は1982年。観音像は大昔に建立されたものばかりと思っていたら、これは企業グループの創業者が建立。
”大仏・大観音一覧表”で竣工年のデータを見ると、ざっと見ても半数以上(7~8割くらい?)は、20世紀中および21世紀に入って竣工していた。

お寺でも新しく建立されたものが、近くにいくつかある。
一つは、とある新興宗教の総本山として(これはかなり立派でお寺らしいお寺)、もう一つは菩提寺の本堂(こっちは小さいけれど)。
宗教建築専門の大工さんを「宮大工」というけれど、今では随分少なくなったらしい。
神社仏閣は木造建築だと思いこんでいたけれど、建築基準法や消防法の関係で、一定規模以上のものは鉄筋コンクリートにしないといけないらしい。

神社建築の様子を綴った「宮大工の仕事場」(讃岐舎倶楽部)を読むと、”組物"はいろいろな形に整形した木を嵌め合わせている。釘とかボルトは使っていないみたい。(”組物”の説明)

耳鳴り関連情報トピックス/音響外傷に関するレスター大学の研究 (アップデート版)
英国レスター大学は、音響外傷による耳鳴&難聴の発症メカニズムなどについて研究中。
最近発表された2件の研究結果は、米国・英国の耳鳴協会など海外の耳鳴り情報サイトでニュースになっている。

今回の最新情報は、8月下旬に発表された騒音外傷による難聴の発症メカニズムに関する大学のニュースリリース。

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レスター大学の最新研究では、イヤフォンはジェットエンジン騒音と同じくらい潜在的に危険
[University of Leicester press release/2012年8月29日](以下、要約)
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”Earphones 'potentially as dangerous as noise from jet engines,' according to new University of Leicester study.”

論文:”Mechanisms contributing to central excitability changes during hearing loss” [Proceedings of the National Academy of Sciences]

ヘッドフォンの音量を高く上げすぎると神経細胞の保護膜にダメージを与え、一時的な難聴につながることを、レスター大学の科学者が初めて明らかにした。
イヤフォンやヘッドフォンの音は、ジェットエンジンのノイズと同等レベルに達する、と言う。
音量が110デシベル以上のノイズが、一時的な難聴や耳鳴りのような聴覚的な問題を引起すことが知られている。
その根底にある細胞損傷が観察されたのは、今回のレスター大学の研究が初めて。

この研究を主導する同大学の研究者Dr Martine Hamann(Department of Cell Physiology and Pharmacology)の話。

"この研究により、大騒音に曝されてから聴力損失に至るまでの経路(pathway)を理解することができた。この状況の根底にある神経細胞メカニズムの分析(dissect)は、多くの人にヘルスヘア上の多大な恩恵をもたらすこともありそうだ。聴力損失に対する適切な治療法の発見を促進すると共に、予防にも役立つだろう。”

耳から脳へ電気的信号を伝達している神経細胞は”myelin sheath(ミエリン鞘)”という保護鞘に覆われており、電気的信号を細胞に沿って伝達するのに役立っている。

※ミエリン鞘:脳や脊髄内の神経線維(軸索)を覆うコレステロールでできた髄鞘。神経繊維が電線なら、ミエリン鞘は電線の絶縁体(ビニール部分)に相当しているところ。(資料:日本食肉消費総合センターホームページ)


騒音暴露(つまり110デシベル以上のノイズ)は、この保護鞘を細胞から引き剥がし、電気的信号を霍乱しうる。そうなると、神経細胞はもはや耳から脳へ情報を効果的に伝達できなくなるが、神経細胞を覆っているミエリン鞘は再生可能であり、神経細胞を再び正常に機能させる。
つまり、聴力損失は一時的で、聴力の完全回復は可能だと意味している。

Dr.Hamann の説明では、"特定のケースで聴力損失が回復可能なのはなぜか、ようやく理解できた。我々が観察した細胞の約半分で、聴覚神経の周囲にあるミエリン鞘が失われていた。これは、アンプからラウドスピーカーに接続している電気ケーブルが剥ぎ取られたようなもの。
この影響は可逆的であり、3ヵ月後に聴力損失が回復すると、聴覚神経の回りをミエリン鞘が覆っている。"

研究チームは、この領域の細胞が損傷すると耳鳴りを引起しうる、という研究結果を発表済み。
研究助成機関:Wellcome Trust, Medisearch, GlaxoSmithkline、Royal Society。



<発表済みの研究内容>
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レスター大学の研究チーム 耳鳴り発症の鍵となる細胞メカニズムを特定
[University of Leicester press release/2012年5月10日](以下、要約)
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”University of Leicester study identifies key cellular mechanisms behind the onset of tinnitus.”

レスター大学の細胞生理学・薬理学部の研究者たちは、騒音暴露後の耳鳴り発症の根底にある細胞メカニズムを特定した。新たな耳鳴り治療法につながる可能性があり、現在、耳鳴り予防のポテンシャルをもつ薬物調査が進行中。

同大学のハーマン博士の研究チームは、背側蝸牛神経核(音を知覚し意味をなすように信号を耳から脳へ伝達するリレー)と呼ばれる脳領域内細胞に注目した。
騒音暴露後、背側蝸牛神経核の神経細胞(ニューロン)の一部が不規則に発火を始め、その制御されていない活動が最後には耳鳴りとなる。
騒音暴露はその数日後に難聴を引起し、背側蝸牛神経核の神経細胞が不規則活動を始める引き金となる。これら全てが起こるのは極めて速く、数日以内の問題。

博士とスポンサー・GSKの共同研究におけるブレークスルーは、ニューロンの過剰活動につながる特定の細胞メカニズムを発見したこと。
神経細胞の電気的活動を規則化するのに有効な特定カリウムチャネルの機能不全は、神経細胞が平衡静止状態に復帰しないことを意味する。
通常、これらの細胞は規則的に発火・静止状態となる。しかし、カリウムチャネルが正常に機能しない場合、細胞は静止状態に戻ることができず、その代りに、実際には存在していないノイズを継続的に知覚し、不規則なバーストで発火し続けている。

耳鳴のメカニズムとして、細胞の発火活動の特徴を明らかにし、特定のカリウムチャネルに関連づけたのは今回が初めて。
耳鳴りの初期段階で関与するカリウムチャネルを特定することで、早期の薬物治療による耳鳴り予防の新しい可能性が生まれる。

ハーマン博士のチームは現在、損傷した細胞を規則化して不規則な発火を防止し、静止状態へ回復させるポテンシャルを持つ薬剤を調査中。現在はまだ予備段階にあり、新しい薬物による治療はさらに数年先になるだろう。

この研究はResearch Councils UK fellowshipの助成、フォローアップ研究はDeafness Research UKの3ヶ月間の助成による。
その後の薬剤研究は、Medical Research Council Case studentshipを通じて、Autifony Therapeutics Ltd との共同研究としてレスター大学が行う。2012年10月に開始予定。


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備考
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日本語訳文は、英文を抜粋要約したものです。
正確な内容については、英文原文をお読みください。

【新譜情報】 マリア・ユージナ名演集 (The Russian Archives)
『マリア・ユージナ・ロシアン・アーカイヴス』(8枚組)のうち、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト録音の一部を抜粋した『マリア・ユージナ名演集』(3枚組)がBrilliant Classicsからリリース予定。
抜粋盤はメジャーな作品が多いので、ユージナを初めて聴くには良いかも。
ただし、演奏は極めて個性的。好みに合うかというより、このピアニズムを受け入れられるかがはっきり分かれるので、まず試聴ファイルやYoutubeの音源で、ユージナの演奏を聞いてみた方が無難。
 ユージナのプロフィール:”マリア・ユーディナ 〜ソ連の女傑ピアニスト〜”[花の絵],”ユーディナ,マリア”[総合資料室/一世による歴史的ピアニスト紹介]


Brilliant Classicsのウェブサイトにある『マリア・ユージナ名演集』の紹介文が面白い。(以下要約)

マリア・ユージナは20世紀ロシアの偉大なピアニストの一人。妥協しない、時には荒々しい(ruthless)演奏が、ソヴィエト政権に苦しめられたこの謎めいた(enigmatic)ピアニストを特徴づけれている。

リヒテルがかつてユージナにこう訊ねた。
"Why do you play this Bach prelude so loud?"(バッハのプレリュードをそんなに声高に弾くのはどうして?)
ユージナが答えた言葉は、
"Because there is a war on!" (闘っているからよ!)


たしかにバッハの平均律の演奏は、音量も大きく力強いタッチだとは思うけれど、それ以上に、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番を聴いていると、第1楽章だけでなく第2楽章でさえも”there is a war on”なのだと思えてくる。
こんな風にこの最後のソナタを弾くピアニストは、ユージナしかいないに違いない。


『マリア・ユージナ名演集~バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、リスト』(3枚組)
マリア・ユーディナ(pf)名演奏集マリア・ユーディナ(pf)名演奏集
(2012/10/10)
マリア・ユーディナ(pf)

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 9/13現在、日本・米国amazon、HMVでは予約のみ。英国amazonでは販売中。

【収録曲】
 J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガBWV.903
 J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻より第19番~第24番
 J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ第3番BWV.1016(マリア・コゾルポヴァ:ヴァイオリン)
 J.S.バッハ=リスト編曲:プレリュードとフーガBWV.543
 リスト:バッハのカンタータ『泣き、歎き、憂い、怯え』の主題による変奏曲
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番
 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番
 ブラームス:ラプソディOp.79-2
 ブラームス:間奏曲Op.116-2
 ブラームス:3つの間奏曲Op.117
 ブラームス:6つの小品よりOp.118-1、Op.118-4、Op.118-6
 シューベルト:即興曲D.899-2、D.899-4、D.935-2


『マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス』(8枚組)
マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス(8枚組)マリア・ユージナ~ロシアン・アーカイヴス(8枚組)
(2009/02/10)
バッハ、 他

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amazon/MP3ダウンロードサイトにあるユージナの音源

                     

リストが編曲したバッハの《前奏曲とフーガBVW543》は、バッハの編曲ものでは特に好きな曲。
ユージナの1953年のライブ録音は、力強く切れ味の良いタッチと線のしっかりした骨太の演奏。決然とした雰囲気が漂い、特に厳粛で迫力のある低音の響きが圧倒的。
前奏曲は、力強くも叙情美しく、明るい輝きが差し込んでいる。
飾り気なく淡々と始まるフーガはほのかな哀感が漂い、重たく厳めしい低音が地鳴りのように鳴り響く終盤になると、息もつかせず荘重でドラマティック。
一心不乱に神にささげる祈りのように、ひたひたと核心に迫っていく。ストイックで求道的な雰囲気が漂い、このバッハには惹き込まれてしまう。
ユージナが最も愛したのはバッハ。敬虔な信仰の人でもあったユージナにとって、バッハのコラールは神へ通ずる道となる音楽だったのでしょう。

Maria Yudina plays Bach-Liszt Organ Prelude & Fugue, BWV 543
(Live recording, Moscow 1953)

この曲の録音はいくつかあり、BrilliantのBOXセットに収録されているのは1952年のスタジオ録音。
この1953年(54年かも)のライブ録音と比べると、音質がはるかに良く、ユージナの鮮やかな色彩感のある音色とペダリングによる多彩なソノリティの美しさが良くわかる。それに加えて、タッチも丁寧で表現にも繊細さがあり、力強くも端正なバッハ。(ライブ録音よりは、音の切れ味や凄みがやや弱くなっている気がしないでもないけれど)
多少荒々しいタッチで音質が悪くでも、集中力と求心力、教会建築の如き荘重さはライブ録音の方がはるかに強い。私はこの骨太な演奏の方により強く惹きつけられてしまう。
(このライブ録音の音源はおそらく、THE YUDINA LEGACY VOLUME XX:Solo recital at the Column Hall of Trade Unions,Moscow, October 20, 1954)

ベートーヴェンの最後のソナタ第32番は、第1楽章が圧倒的な迫力。
ユージナ独特の峻厳・激烈な演奏がこの楽章には相応しい。
第2楽章は主題と第5変奏への移行部、コーダなど緩徐部分は静寂な叙情感があるけれど、それ以外のところは一気に駆け抜けていく。ひたすら目的地へと、わき目も振らず突き進んでいくように。
演奏時間は14分ほど。速さという点ではバックハウス(13~14分の演奏が多い)と良い勝負。
第1変奏と特に第4変奏のテンポ・ディナーミクとシャープなタッチは、とてもありえない気がする..。
最後まで聴き終えると、しばし呆然...。
それでも3回も聴けば耳も慣れるし、なぜか違和感を感じなくなるところが不思議。
何より、自らが思うところのベートーヴェンを弾くのだという妥協のなさと潔さに、好みや解釈云々ということを超えて、こういうベートーヴェンもあるのだと納得するしかない。

Maria Yudina plays Beethoven Sonata No. 32, Op. 111 (1/3)(第1楽章)


第2楽章の音源:(2/3)(3/3)[Youtube]


ユージナは、いつもこんなに激しいベートーヴェンを弾いていたわけでもない。
《ピアノ協奏曲第4番》の第1楽章は、硬質で輪郭明瞭な音と歯切れ良いタッチ、フォルテはユージナにしては穏やか。かっちりした構成感とさっぱりした叙情感は調和がとれ、きりりとして爽やか。
カデンツァは聴いたことがないバージョン。形式的にかなり自由で叙情濃いロマンティックなカデンツァは、ユージナの自作かも?

Maria Yudina plays Beethoven Concerto No. 4 in G major (1/4)
(Conductor - Sanderling)




<参考情報>
ユージナ(ユーディナとも表記される)の録音は複数のレーベルから出ているが、曲名が一緒でも、音源が一緒かどうかはわからない。
シリーズものでは、上記のBrilliant盤以外に、Vista Vera盤『Legacy of Maria Yudina』、Entertainment Group International(MP3ダウンード/音質はわりと良さそう)、Venezia盤(大半が廃盤)など。

”Maria Yudina の CD” [Clear Sky Way]
この記事の情報では、「ロシアのユージナのサイト」というホームページから、ユージナのCD音源がダウンロードできる。(International Maria Yudina Foundationという団体が作った音源集らしい)
- ダウンロード音源リスト:ボリュームタイトルをクリックするとダウンロードサイトと音源ファイルが表示される。(全てロシア語)
”Maria Yudina その2”[Clear Sky Way]
ユージナの録音シリーズ(3種類)の簡単な紹介あり。(Brilliant盤については言及なし)


<関連する過去記事>
ソロモン・ヴォルコフ著 『ショスタコーヴィチの証言』
スターリンのためにLP1枚を急遽勢作して届けるために、モーツァルトのピアノ協奏曲を徹夜で録音した時のエピソードが面白い。
時間に間に合わなければ何が起こるかわからないという重圧下で、指揮者が次々と精神的に参って交代するなかで、ユージナは平然としてピアノを弾いていた。
この度胸の良さと彼女自身が作り出す音楽のおかげで、反体制的な言動にも関わらず、収容所送りになることもなく、ピアニストとして無事にスターリン時代を生き延びたのかもしれない。


<ユージナに関する記事>
 ”Great Pianists of The 20th Century Vol.99 マリア・ユージナ” [フランツ・リストに花束を]
 ”リヒテルは語る ~ユージナのバッハ変奏曲~”[フランツ・リストに花束を]

 ”Franz Schubert :Piano Sonata №21 B-flat majorD.960”(モンサンジョン著「リヒテル」に載っている批評) [Sviatoslav Richter(1915-1997)] 

 <書評> カレートニコフ著『モスクワの前衛音楽家』[宮澤淳一]


tag : ユージナ バッハ ベートーヴェン フランツ・リスト

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耳鳴り治療のための音響・音楽療法(13) SOMTUS™ Tinnitus Reduction Therapy
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SOMTUS™ Tinnitus Reduction Therapyの概要
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”SOMTUS™ Tinnitus Reduction Therapy”は、急性音響外傷による耳鳴り治療法。
インターネット上で1分間のオンライン治療により、耳鳴りを大幅に緩和または消滅させる効果がある。

”SOMTUS™ Therapy”の開発者は、当時Ursuline College Sligoの学生だったRhona Togher、Eimear O'Carroll、Niamh Chapmanの3人。
この治療法の研究・開発・市場化のため、教官Anthony CarolanとともにRestored Hearing社を2009年に設立。

原理
”SOMTUS™ Therapy”は、音波に関する理論(sound and wave theory)に基づいている。
騒音環境では、蝸牛細胞内にある sound receptor細胞が損傷する。
この細胞は、音波振動を電気的信号に変換する働きをするため、騒音暴露により曲がったり損傷すると、脳へ送られていた電気的信号が止まる。この結果、実際には存在しないノイズが聴こえ続けることになる。
大音量の騒音により損傷して折れ曲がった蝸牛有毛細胞に対して、低音のハム音(low hum)による物理的刺激を与え、本来の直立位置に復帰させる(=re-straightened)。(喩えて言えば、有毛細胞を”音の櫛”で梳いて、元通り真っ直ぐにするようなもの)

特徴
患者ごとにテーラーメイドされた治療パッケージ。(他人が使っても効果があるとは限らない)
治療音は低周波数の音を利用。
インターネットを利用した1分間のオンライン治療。(24時間いつでも治療可能)
パソコンを使わずとも屋内外で治療できるiPhone用アプリケーションを開発中。

使用機器
ヘッドフォン(outer ear headphone)が必要。
設定音量は”中レベル”を推奨。
補聴器使用者は、補聴器を外すこと。治療音が聴こえなくとも、治療は行われている。

利用者
慢性的耳鳴または永続的な難聴を患っている人が多い。

治療回数
急性耳鳴の場合は、発症後に1回1分間の治療を行うだけで効果がある。
慢性耳鳴に対しては、毎日、または1時間治療などよって、効果が現われることがあるのかもしれない。(慢性耳鳴の利用者は、毎日この治療を行っている)
症状のレベルが様々な聴力障害に対する効果については、予測不可能。

治療効果
急性音響外傷による耳鳴治療では成功率99%。
治療セッション後、急性の耳鳴が大幅に低減または消滅した。
慢性的耳鳴に対しては、治療効果は保証できない。

治療費用
SMS payment:1回あたり2.5ユーロ
クレジットカード支払:15ユーロで10バッチ分。
定期購入・支払システム:1ヶ月間の無制限利用で30ユーロ。4ヶ月間、1年間のコースもある。


Restored Hearing社ホームページ
- SOMTUS™ Tinnitus Reduction Therapy:騒音が有毛細胞を損傷する過程、SOMTUS Therapyの作用原理などを記載。
- FAQ:使用法などについて説明あり。
- 紹介記事リスト:記事の一部のみ閲覧可能
- Instant Free Trial:無料トライアル。(入力する個人情報などのセキュリティに関しては不明)


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開発・起業の経緯
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”Tinnitus therapy is music to the ears of student entrepreneurs” [The Irish Times - September 6, 2012]
”Restored Hearing Provides Online Therapy for World Cup Fans Suffering from the Effects of the Vuvuzela” [NovaUCD:University College Dublin's Innovation and Technology Transfer Centre,15 June 2010]
”Therapy for temporary tinnitus forms sound basis for company”[同上、14 January 2010]
”Innovation in challenging times:commercialisation goes from strength to strength”[University of Edinburgh Annual Review 2009/2010]


耳鳴りは、ナイトクラブやコンサート、MP3プレーヤー、稼動中の機械などの大音量の音に曝されることでよく起こる現象。
TogherとO’Carrollは、Ursuline College Sligoの同級生Niamh Chapmanと共に、2009年の”BT Young Scientist & Technology Exhibition”のコンペティション参加プロジェクトとして、耳鳴りを消滅させるための1分間オンライン治療法(one-minute web-based therapy)を開発した。
プロジェクトのタイトルは、“The Sound of Silence – An Investigation into Low Frequency Therapy for Tinnitus Sufferers”(沈黙の音-耳鳴患者のための低周波治療法に関する研究)。

もともと、O’Carrollたちは公立中等学校(secondary school)の学生だった時、どうやって人間は異なる場所と周波数の音の位置を特定する(locate)ことができるのかというプロジェクトに携わった。
これは音の物理の基礎的研究だったが、プロジェクト完了後、得た知識を現実の問題に応用したいと思い、それが耳鳴りと耳の解剖学・生物学への興味に繋がった。

コンペティションでは優勝を逃して2位となったが、それは起業へとつながる'blessing in disguise(つらいが後でためになる物事)','godsend(思いがけない幸運)'だった。
TogherとO’Carrollはこの治療法をさらに発展させたが、治療法を求めてコンタクトしてきた人が非常に多かったため、市民に対して無料提供を開始。
2009年5月、Sligo County Enterprise Boardが、会社を設立して治療法を有料で提供しないかと、提案してきた。
学生の2人はビジネス経験が乏しく起業ノウハウがなかったため、教官のAnthony Carolanと共同でRestored Hearing社を設立。

起業のコンセプトは”Restored Hearing”(聴力回復)。
2009年8月、公式に”SOMTUS™ Tinnitus Reduction Therapy”を提供するウェブサイトを開設。
初日だけで700人が購入し、それ以来、購入者は国内外で合計6500人。
宣伝予算はゼロ。クチコミに頼っているが、米国の放送局で紹介されるなど海外での関心も高く、今までの購入者は英国・アイルランド、欧州、北米、オーストラリアや中国など。
最近、オランダのTV放送番組で”SOMTUS™ Therapy”の実況テスト(live-test)をしたところ、オランダでの売上げが急増した。

”SOMTUS™ Therapy”は特許取得済み。(※アイルランドの特許公報で確認できたのは特許出願のみ)


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臨床試験
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医療機器としてFDAの承認を得るには臨床試験が必要なため、現在ウェブサイトで臨床試験を実施中。
米国内でFDA承認済みの耳鳴り治療機器は今のところ1件しかなく、慢性的耳鳴が治療対象。
急性耳鳴を対象とする”SOMTUS™ Therapy”と同等のものは存在していない。

英国耳鳴協会が臨床試験の被験者集めに協力している。
12月中に最初の結果をまとめる予定。


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備考
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この記事は、英文記事・ホームページの情報を要約したものです。
正確な内容は、英文原文にてご確認ください。

tag : 音響・音楽療法

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アルフレッド・パール ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集
米国amazonで注文したアルフレッド・パールの《ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ全集》が、2ヶ月近く経ってようやく到着。
早速好きな曲から数曲聴いてみると、試聴時よりもずっと良く思えた曲が多い。やっぱりこのBOXセットを買ったのは正解。

レーベルはドイツのOehms Classics。廉価盤レーベルArteNovaから独立したプロデューザーが立ち上げたレーベルで、20歳代後半の若手ピアニストだったパールがArteNovaに新規録音した全集のライセンス盤。
録音年と場所を見ると、1992~95年にかけて数曲ずつ録音しているので、曲によって録音音質が違うものがある。
1992年に録音した最初のCD1(Copyrights:Bayerischer Rundfunk)だけが、残響が少なく少しデッドな音質。それ以外のCD(同:Radio Bremen)は、おおむめ残響が長め。
好みとしては、残響が短く、音がクリアに聴こえる方が良いけれど、聴き慣れてしまうとさほど気にはならない。逆に、パールの柔らかい弱音は残響が多めの方が綺麗に聴こえる。

数曲聴いていると、線が太く量感のある低音と微かな響きの高音の弱音、それに強弱のコントラストが明瞭で、べたつかない若々しい叙情感があるところは、カッチェンの弾き方にちょっと似ている気がする。
音の美しさと変なクセのないオーソドックスな演奏という点では、レーゼルのベートーヴェンに似ている。(レーゼルの方がずっと音が硬質でタッチもシャープなので、音の感触はかなり違う)

Beethoven:Complete Piano Sonatas & Diabelli Variations (Box) Beethoven:Complete Piano Sonatas & Diabelli Variations (Box)
(2004/04/20)
Alfredo perl

試聴する(allmusic.com/ArteNova原盤(抜粋))
ワルトシュタインの第3楽章の後に、《Andante favori》が収録されているのが珍しい。ディアベリ変奏曲も収録。

<参考ブログ>
[CD]アルフレッド・パールのベートーヴェン:ピアノソナタ全集の巻[音楽図鑑:近況報告]
パールの全集に関するブログ記事はほんとに少ない。
こちらのブロガーはご自分でピアノを弾かれる方。パールの録音について、まだ若い(30歳前後)のに確信を持って弾いている、音色も演奏も瑞々しい、という感想には、本当に同感。
<音楽図鑑CLASSIC>サイトはラヴェル&ショパンの作品解説・CDレビューが充実している。

                          

パールの音色は、やや線が細めの柔らかくて丸みのある暖色系の音。レーゼルのような線がしっかりした硬質で透明感のある音ではない。
高音部も弱音は、優しく落ち着いた音色が綺麗。
左手低音部は、そんなにバンバンと鍵盤を叩かずとも、線が太く力強い量感のあるしっかりした音で、重みと安定感がある。
弱音の響きがかなり弱めで、強奏時になると力強く音量も大きいので、強弱のコントラストが明瞭。
単調で平板な演奏とは違って、歌わせるところは歌い、勇壮なところでは力強く、曲想や曲の流れに応じて、表現の変化もしっかりついている。
後期ソナタの第30番と第31番は、若いピアニストらしく爽やかでストレートな叙情感が素敵。
さすがに最後のソナタになると、すんなりと聴けないところがでてくるけれど、これはパールに限ったことではないので。

「ディナーミクの急激な変化がベートーヴェンの本質的特長で、これは最後のソナタまで一貫している」(バドゥーラ=スコダ)。

パールはディナーミクのコントラストが明瞭で、フレーズごとにディナーミクが急変しても、違和感なく移行する。
このディナーミクの推移や音量の加減がぴたっとはまり、音楽の流れに無理なくとても滑らか。
自然な趣きと納得感があるので安心して聴ける。
異聴盤を数多く聴いていると、このオーソドックスなタイプの演奏を物足りないと感じるか、それとも自然で正統派のベートーヴェンだと思うかは、好みの問題というところ。

第1番
第3楽章は、疾風怒濤的な不穏な陰翳と予感が漂っているような演奏。
第23~30小節はペダルをしっかり長めに入れて、重層的で渦巻くようなアルペジオがドラマティック。

第4番
第1楽章冒頭の和音の後に右手の主題(同音型を4回リピートするフレーズ)が音がとても綺麗で滑らかなレガート。和音以外の単音旋律が細かい起伏に富み、レガートもとても滑らかで優美。堂々としたタッチの和音と柔らかい優美さのある旋律が鮮やか。この曲ってこんな雰囲気に優しげな曲だった?と見直してしまった。
第111小節~の分散和音を背景に、sfがよく利いた左手の旋律もくっきり。
長調の第3楽章と第4楽章は、どちらもドラマティックな短調の中間部がとても印象的。第3楽章は何かがひたひたと迫ってきそうな波がうねるようなフレージング。
第4楽章も力強く重層感のあるアルペジオと和音の中間部の激しさと、前後の優しげな旋律とは曲想が一変する。
こういうディナーミクの急変がベートーヴェンらしいところ。

第8番《悲愴》
第1楽章はテンポも速く疾走感があって爽快。でも、悲愴感はやや薄いかも。修飾音のトリルが旋律と滑らかに繋がっているような弾き方。”修飾的”なトリルよりも、この弾き方の方が旋律がレガートで綺麗に聴こえる。
第2楽章は、パールの丸みのある篭もった音色がよく映えて、穏やかでとても平和的な雰囲気。
第3楽章は、どちらかというと優美に弾く人と、悲愴感を篭めて力強いタッチで弾く人と、2パターン。(アラウはこの楽章に流れているのは「不安」と言っていた。)
パールは後者の方に近い。リズムやフレージングを下手にいじらないので、テンペストの第3楽章と同じく、ピアノ練習のお手本にしても良いくらい。

第9番
第1楽章は柔らかくふんわり優しいタッチで優雅。第2楽章はタッチが硬く力強くなって悲愴感が強まり、第3楽章は速いテンポで勢いも良く、中間部のアルペジオのパッセージが勇壮。
この曲もピアノソナタアルバムに入っているので、ピアノのレッスンによく使われている。子供の頃に練習していたけれど、こういう風に弾けばよかったのかと今になってよくわかった。(もう遅いけど)

第11番
この曲はベートーヴェン自身がとりわけ好きだったという。(記憶違いかもしれないけど)
第1楽章はAllegro con brioなので明るく快活な。パールの弱音のパッセージは、柔らかい響きのレガートで滑らかで綺麗。強奏部とのタッチの違いが明瞭で、快活な雰囲気のなかでも、表情がコロコロと変化していく。
特に第23小節~28小節の左手16分音符のppのパッセージに、何とも言えないニュアンスがある。ピアニッシモでとても可愛らしくてどこかユーモラス。まるで小さなコマネズミがクルクル走り回っているみたい。このパッセージがリピートを含めて3回(最後は移調して)出てくるけれど、どれも聴いていて楽しい。
第3楽章は主題は軽やかでとても優美。続くトレモロで雰囲気がちょっと変わる。やや不協和音的で面白いトレモロ。
中間部は短調で決然とした雰囲気に変わり、マルカート気味の左手の主題旋律がとても雄弁。
第4楽章も速いテンポで軽快で愛らしい曲想。構成や雰囲気が第3楽章と似ている。
中間部の細かい音のパッセージはまるで何かに追い立てられいるようで、馬車が疾走するような慌しさ。続いて右手と左手が言い争うかのように、対位法的に掛け合っているところが面白い。

第12番《葬送》
第4楽章がとても音楽的。この曲をクラマーの練習曲風に歯切れよくメカニカルに弾く人が多い。
パールは柔らかい弱音で、練習曲風のパッセージであっても、優しく歌うような弾き方。

第13番
第2楽章の冒頭主題は、モコモコと篭もったような音のアルペジオにペダルがかかって、ファンタスティック。

第14番《月光》
第1楽章のピアノの音が特徴的。やや篭り気味で丸みと木質感があるので、霞に覆われた月明かりの夜みたい。
第2楽章の中間部の後半部分で、左手和音が古時計の鐘のように、ボーンボーンと持続音的にくっきりと浮かび上がっているのが面白い響き。
第3楽章はほぼインテンポの速いテンポで、アルペジオのフレーズ最後にくる和音が力強く、音も明瞭。(和音連打が、団子状になったり、2番目の和音が不明瞭に聴こえる録音も結構多いので)
タッチも音も綺麗だし、疾走感と量感・力感のバランスも良くて、レーゼルと同じくらいに好きな演奏。

第15番《田園》
ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも、最も美しい音と旋律に満ちている曲だと思うのが《田園》。
この曲は7大ソナタには入っていないので、意外と知られていない。

パールの録音は、この全集の中で最も音が綺麗な演奏だと思うくらいに、音色、ソノリティとも美しい。
特に第1楽章の高音は温もりのある音色が柔らかく響き、遠くで鳴る鐘の響きのように美しい。
微妙な強弱の膨らみのあるパッセージには、生き生きとした息遣いと言葉のような”ニュアンス”を感じさせる。
朝露が草木や花々が瑞々しく輝くような、田園風景の平和的でほっこりとした暖かみのある情景にぴったり。
テンポもゆったりして、タッチも優しく伸びやか。
高音の美しさに加えて、自然の力強さを感じさせる線の太い量感のあるフォルテに重みと安定感があって、音だけ聴いていてもうっとりする。
第4楽章も第1楽章に似た曲想で、とても綺麗で伸びやか。開放感に満ちている。弱音主体の冒頭主題の美しさと、その後に挿入されている強奏部分の力強さとのコントラストが鮮やか。

第17番《テンペスト》
特に好きなのは第3楽章。テンポやフレージングをあれこれ細工せずに、”楽譜どおりに”弾いているかのように思えるのは、レーゼルのテンペストに似ている。
嵐が打ち付けるような力強さと疾走感と、一瞬嵐が弱まり静けさが訪れる夜のような密やかさとが、明瞭なコントラストで交錯する。
強弱の推移も波がうねるような躍動感があって、推進力のあるダイナミックな演奏。

第18番《狩》
第1楽章は速いテンポで軽快。美しい高音と柔らかいレガートのせいか、しっとりと優美で品の良さがある。
第2楽章スケルツォは、弱音のスタッカートがそれほどシャープではなく響きも柔らかいので、浮き立つような躍動感よりも、少しおっとりした”狩”の風景。レーゼルの方がタッチが硬質でスタッカートも明瞭なので、野原を駆け回っているような力強くスポーティな躍動感がある。
第3楽章メヌエットは、パールの柔らかい響きがよく似合っていて、とても穏やかで安らか。
Presto con fuocoの第4楽章は、さすがに第2楽章よりも快活で躍動的。フォルテのタッチも骨っぽい力強さがあって、メリハリが利いている。

第20番
ピアノ練習用のソナタアルバムに入っていて、とても好きな曲だったので子供の頃によく弾いていた。
パールの演奏は、私が弾いていたのと同じような快活なタッチで、イメージにぴったり。こういう風にピシッと弾けたらよかったんだけど。

第21番《ワルトシュタイン》
第1楽章は演奏時間が11分弱なので、私にはほどよい速さ。滅法速いグルダやポリーニのような慌しさがないのが良い。遅いテンポならアラウがマイベスト。
打鍵も明瞭で力感も充分、ペダルと少し長めの残響で和声も重層的。
弱音のタッチは丁寧で響きも柔らかく、テンポを若干落として弾く第35小節以降はやわらかなレガートが優美。
終盤第270小節以降、左手が10度跳躍から下行スケールで徐々に競りあがっていくところは、sfが利き、打鍵も切れ良く、颯爽として良い感じ。
全体的に軽快なリズム感と疾走感があり、強弱のメリハリもよくきき、力強いけれど音は綺麗で、とても爽快。レーゼルと同じくらいにパールの演奏は好き。
第3楽章の冒頭は、月光ソナタの第1楽章のように、右手のアルペジオが篭もった響きで輪郭がぼやけてもやもやとちょっと幻想的。その後にクレッシェンドしていくと、目の前の霧がさっと晴れたように打鍵も力強く響きも明瞭に変わる。
ダイナミックレンジを広めにとり、強弱のコントラストを明瞭につけ、タッチと響きの違いも鮮やか。
終盤に出てくるグリッサンドは、柔らかいタッチのppで弾いているせいか、若干テンポを落としているし、少し音の輪郭がぼやけた感じ。
このグリッサンドのところは、速いテンポでフォルテに近い音量で弾くレーゼルとは、響きも旋律線の浮かび上がらせ方も全然違う。
レーゼルの解釈では、現代ピアノでppで弾くのは無理なので、mfで弾くのが良いと言っていたし、実際そうしていた。このグリッサンドは本当に切れよく鮮やかだった。

第3楽章の後に、優美で幸福感に満ちた《Andante favori》も収録されているのが良いところ。パールの明るい音色で柔らかい弱音がこの曲によく映えている。

第22番
「ワルトシュタイン」と「熱情」という大曲の間に挟まれた、とても可愛らしいソナタ。この曲は何度聴いても面白くて、なぜ人気がないんだろうかと不思議。
第1楽章冒頭は、ゆったりしたテンポと柔らかい弱音のレガートが、まったりとのどかで親密感漂う雰囲気。
第2楽章は、パッセージ自体は練習曲風のシンプルな音型で全然メロディアスではないのに、和声の響きと表情が多彩。主題のなかに埋もれている持続音がさりげなくポ~~ンと綺麗に響いている。
優美で可愛らしく、ときには勇壮になり、ときには奇妙な曖昧さがあったり。和声と表情がくるくると移り変わっていくところが面白く聴ける。

第23番《熱情》
速いテンポでハイテンションで激しく弾くタイプではなく、やや遅めのテンポでじっくりと弾きこんで、”情熱”が徐々に高まっていくようなタッチ。(これもレーゼルの弾き方と似ている)
特に、線が太くずっしり量感のある左手低音の和音が印象的。鍵盤を叩きつけるタッチでなくとも、音がよく鳴って音割れもしない。
念押しするように”ma non troppo”とベートーヴェンが指示している第3楽章は、ヒートアップして急ぎすぎることなく、一音一音しっかりしたタッチで力強く、厚みのある低音がずしんと響くのが爽快。

第30番
後期ソナタは、どの曲も楽章によって程度の違いはあるけれど、ルバートを多用している。(アラウは、後期ソナタはそれ以前の曲とは異なり、ルバートを使って弾くものだと言っていた。)
第1楽章は、"Vivace, ma non troppo"の指示通り、速めのテンポで強弱の変化も激しく、躍動的でダイナミックな感じ。
第2楽章はテンポがかなり速くて、タッチも鋭く強い。叙情的な両端楽章とのコントラストを強く出しているので、少し慌しく感じるけれど、慣れればさほど気にならない。
第3楽章のフーガによる変奏は、第31番のフーガと違って、ノンレガート気味なタッチ。音も声部の線も明瞭で力強い。最終変奏のトリルは他の旋律よりも少し弱く弾いている。

第31番
第1楽章はパール独特の高音の弱音の美しさが良く映えている。
第2楽章はタッチがシャープで明瞭。テンポも速めで軽快。曖昧さのないストレートな力強さがある。(アラウは漠然とした不安な予感が漂っていた)
展開部では、左手を右手に交差させて弾く旋律の最後の2音に強くアクセントをつけている。(好きな弾き方ではないけれど、こういう風に弾く人は多い)

最初のアリオーソ(嘆きの歌)は、ルバートがたっぷりかかって、右手の弱音がとても叙情的。
音自体にニュアンスがあるせいか、感傷的で弱々しく聴こえる。(こういう弾き方は好きではない)
最初のフーガは、ピアノの響きを生かした美しいフーガ。
柔らかいタッチで、ペダルを多用して残響が滲んだような響きを重ね、その中から、主旋律の音がふわっと浮かびあがってくる。
重なりあう響きがコラール的に美しく、ささやくように歌うような抑揚のある旋律も綺麗。
フレーズによって強弱のコントラストをかなり明瞭につけているので、メリハリはしっかり。
冒頭は弱音主体で”癒し”の音楽のようでもあり、途中で力強いフォルテのパッセージが度々挿入されて、徐々に生気が蘇って”回復”していくように音楽が流れていく。

2度目のアリオーソ。最初の時よりも右手の旋律がずっと弱々しい。
2度目のフーガは、冒頭の篭もった響きの弱音が静かで美しく、徐々に重なる響きはコーラルのよう。
やがて力強いフォルテで生気が吹き込まれた直後に、再び弱音に戻り、フーガが解体してモノフォニーへ変わっていく。
この移行するところで、フレーズのテンポや強弱を明瞭に変えているので、この音楽の流れの変化がはっきりと聴きとれる。
フィナーレは、かなり速いテンポになり、タッチが乱れることなく安定して、一気に弾き込んでいく(フレーズが切り替わるところで、時々テンポが落ちるけれど)。音がきらきらと輝いて、力強いエンディング。


第32番
第1楽章冒頭の和音は、短くシャープなタッチではないので歯切れ悪く、ちょっと間延びした感じがする。
序奏部分が終わってからは、力強さと勢いもあり、緩急・静動のコントラストもよくついて、わりと好きな弾き方。
第2楽章は、主題から第2変奏までは、ゆったりしたテンポで弱音が主体になり、変奏ごとの緩急・強弱の変化がやや緩い。
第3変奏はかなりテンポを上げているので、少し慌しい感じがしないでもない。(ここまではカッチェンの弾き方にちょっと似ている)
第4変奏以降もそれほどテンポを速めず、第5変奏への移行部直前のアルペジオや第5変奏へ入ると、ルバートを多用する。拍子がぴしっと揃わず、右手が左手よりも遅れて入ってくることが多い。
強弱の変化が細かいのはともかく、緩急の変化が頻繁なので流れがスムースではなくて、高揚感ももう一つ。
好みとしては、あまり細かく緩急の変化をつけずにほぼインテンポで、波がうねるように滑らかな強弱の変化をつけながら、一気に盛り上がっていく弾き方の方が聴きやすい。

tag : ベートーヴェン パール

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ブレハッチ,アラウ ~ ドビュッシー/月の光
ブレハッチの新譜『Szymanowski&Debussy』を注文したのは良いけれど、海外盤なので国内盤のボーナストラック《月の光》が入っていない。

ブレハッチが弾く《月の光》ってどんなのだろう?と興味があったので探してみた。
どちらかというと、ドビュッシーではなくて、ショパンを聴いている気分...。
いままで聴いた《月の光》というと、音響中心というか、和声が移り変わる響きの美しさや、幻想的なシーンを想像させるような視覚喚起力がある。いわゆる”印象派的な"ドビュッシー。
ブレハッチの強弱や緩急の変化の激しい弾き方は、そういう外的な世界の表現ではなくて、ロマン派音楽のような内面のドラマを聴いているような気がしてくる。

Prelude Clair de Lune - Claude Debussy (Piano: Rafał Blechacz)



最もオーソドックスさからかけ離れた《月の光》なら、アラウの晩年(88歳)の91年録音。
今まで聴いた(そしてこれから聴くことになるだろう)《月の光》のなかで一番好きなもの。
まるで異世界の夜の空から降り注ぐ《月の光》。
アラウ-それも最晩年のアラウ-でしか絶対に弾けない境地の演奏。
これを聴くと、映画『コンタクト』に出てくる、色とりどりの月や星々が天空に浮かぶ異世界の浜辺の幻想的な風景をいつも思い出す。

一音一音に意味が込められているような音と、静かに暖かく包み込むようなまったりとした響きに浸っている時の心地良いこと!
中間部のアルペジオはありえないようなゆったりと遅いテンポなのに、なぜか違和感を感じることもなく、《月の光》が意志と感情を持った生命体のように語りかけてくる。
最初から最後まで摩訶不思議な響きと雰囲気に満ちて、魔力のような輝きで人を虜にしてしまう。

(HD) Claude Debussy - Clair de Lune | Claudio Arrau, piano. From Suite Bergamasque



関連記事:アラウ~ドビュッシー/ベルガマスク組曲より《月の光》


tag : ドビュッシー アラウ ブレハッチ

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新譜情報:スティーヴン・ハフ 『French Album』
スティーヴン・ハフの新譜は、久しぶりにピアノ小品を集めたアルバム『French Album』。
最近のハフの新譜は、ショパン、リスト、グリーグなどの名曲の録音が多かったので、オムニバスの小品集を録音するのは止めたのかと思っていた。

今まで録音した小品集アルバムのテーマは、英国、スペイン、現代アメリカ(の変奏曲)だったので、今回はフランス。
フランス人作曲家のピアノ小品を集めたごく普通のオムニバスCDならパスするけれど、ハフが今まで録音した小品集はどれも選曲がユニークで珍しい曲も多いし、ハフの演奏も鮮やかで素敵。
この『French Album』は、バロックから20世紀の音楽に、オペラの編曲ものまで多彩で、意外な選曲が多い。

Stephen Hough's French AlbumStephen Hough's French Album
(2012/09/11)
Stephen Hough

試聴する(hyperionウェブサイト)

9/6現在、amazon.jpでは予約受付中。HMVやamazon.ukではすでにリリース済み。
プーランクの《Mélancolie》は、9月のサンプラーになっているので、hyperionサイトで無料ダウンロード可能。
※9月のサンプラーアルバム:『Hyperion monthly sampler – September 2012』


hyperionのウェブサイトで『French Album』を試聴。
第1曲は、なぜかバッハの有名な《トッカータとフーガニ短調 BWV565》のピアノ編曲版。
この曲をピアノソロは、ブゾーニ編曲版が使われることが多いけれど、このバージョンはスイス生まれのピアニスト、コルトーの編曲版をさらにハフが編曲したもの。(『French Album』にしては、ややこじつけ気味のような気がしないでもないけれど)
ハフはリサイタルでも《トッカータとフーガ》を弾いていたので、それと同じバージョンのはず。

第2曲は、バッハの《チェンバロ(ピアノ)協奏曲第5番》第2楽章Largo。
「Arioso」として有名な曲で、ケンプもピアノ編曲している。ハフが弾いているのは、コルトー編曲版。
優しく甘美なハフのピアノの音色がとっても綺麗。

ほとんど聴かないフォーレやシャブリエ、シャミナード、マスネは美しい曲が多い。(似たような雰囲気がするけど)
好きな作曲家のプーランクの作品は、曲想の違った3曲。選曲がとっても面白い。
《Mélancolie》は、メランコリーにしては明るく優しい雰囲気。《Nocturne No 4 'Bal fantôme'》(幽霊たちの舞踏会)は、密やかでゆらゆらと頼りなげ。《Improvisation No.8》はちょっとシニカルでユーモラス。
ラヴェルの《Alborada del gracioso》(道化師の朝の歌)は、ハフの技巧が冴えている。
変わったところでは、アルカンの《La chanson de la folle au bord de la mer》(海辺の狂女の歌)やレオ・ドリーブの《Pizzicat》。
ラストはとても華々しいリストのオペラ・パラフレーズ。アレヴィのオペラ《La Juive》(ユダヤの女)の素材を使った幻想曲《Réminiscences de La juive》(「ユダヤの女」の回想)。

ハフの鮮やかな技巧と美しい色彩感の繊細な音色がとてもよく映えるアルバム。
試聴した印象がとっても良かったので、これはすぐにオーダー。ハフが最近リリースしたアルバムのなかでは、一番楽しめそう。

tag : スティーヴン・ハフ

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’作曲家’ワイセンベルクとジャズ
ジャズの影響を感じるクラシックの曲というと、思い浮かぶのはラヴェルのピアノ協奏曲やリゲティの練習曲集など。
ほとんどジャズ(?)と思える曲なら、カプースチン。グルダもいくつかジャズをテーマにした作品を書いている。
現代音楽(20世紀の音楽)を探せば、他にもいろいろ見つかるのかもしれない。

ジャズとクラシック(の現代音楽)が融合したような曲といえば、珍しくもピアニストのワイセンベルクの作品。
ワイセンベルクは、”即物的”な演奏すると言われたりするけれど、とても色彩感豊かな音色と硬質で透明感のある音で、感傷性に溺れることないクールな演奏をする。
彼はジャズに興味があったせいか、小澤征爾とガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》、《ピアノ協奏曲》に、珍しくも《アイ・ガット・リズム変奏曲》まで録音している。

ワイセンベルクは、ルーマニア人作曲家ヴラディゲロフの元で幼少期から作曲も学んでいた人なので、ジャズの素材を使った作品をいくつか書いている。
カプースチンとは違った作風で、幾分リゲティの練習曲風を連想させるところがあったり、調性感があいまいな現代音楽風だったりする。
ワイセンベルクのピアノ演奏と同じく、彼の作曲も音色と色彩感が美しくウェットな感傷性のない”硬派”なものを感じる。

ワイセンベルクが作曲した《Sonata In a State of Jazz》は、アムランの録音が有名。
タンゴ、チャールストン、ブルース、サンバが現代音楽と融合したような、独特な面白さがある。
1. Evocation d'un tango
2. Réminiscences de charleston
3. Reflets d'un blues
4. Provocation de samba

In a State of JazzIn a State of Jazz
(2008/05/13)
Marc-André Hamelin

試聴する(hyperionウェブサイト)
ジャズをテーマにしたクラシック作曲家の作品集。アムランらしく、精密な技巧でシャープで切れ良く、拍子もきちっと崩すことなくカチッとした構成感がある。ジャズのようにはスウィングしない、生真面目なクラシックな演奏スタイル。
アルバムの収録曲自体は、ワイセンベルクが編曲した6曲も含めて、クラシックよりははるかにジャズの世界に近い。
なかでも、ワイセンベルクの《Sonate en état de jazz》は、現代音楽風で調性感が少し崩れて、他の曲とは違った作風なので、(私の好みから言えば)一番面白い。


Hamelin plays Weissenberg - Sonata in a state of jazz
(1st mvt)"Evocation d'un tango"


(2nd mvt)"Rminiscence d´un Charleston"


(3rd mvt) "Reflets d´un Blues


(4th mvt) "Provocation de samba"



 
                      


ワイセンベルクが作曲した作品を録音したとても珍しいアルバムが『The Piano Music of Alexis Weissenberg』(Nimbus)
演奏しているピアニストはサイモン・マリガン(Simon Mulligan)。
ブレンデル、ローゼン、ペライア、それにワイセンベルクのもとで学んだ人で、その経歴にしては珍しく、(プレヴィンのように)クラシックとジャズの両方の分野で活動をしている。
クラシックではソロと室内楽、ジャズピアニストとしては自身のカルテットでの演奏と作曲をしている。

マリガンのウェブサイトのディスコグラフィを見ると、ジャズとクラシックの両方の分野にまたがっている。
そのなかにネッド・ローレムの《ピアノ協奏曲第2番》(NAXOS盤)の録音があり、ローレムのピアノ作品が好きなのでこのCDは持っていた。(マリガンの名前はすっかり忘れていたけど)

アルバムの収録曲は、ワイセンベルクの作品が2曲-《Sonate en tat de Jazz》とスクリャービン風エチュード《Le regret》。
それに、ワイセンベルクが書いたコメディ'La Fugue'に出てくる歌曲を素材にして、マリガンが即興した《Improvisations on songs from 'La Fugue'》。

《Sonate en tat de Jazz》とは全く違って、《Improvisations on songs from 'La Fugue'》はモダン・ジャズだと言われても、それほど違和感がない。
"Spirale"、"Mon destin"、"C´est si facile"、"Nostalgie"という4曲から構成。
"Mon destin"では、マリガンが得意とするカルテットでサックスも入っていて、旋律も馴染みやすくてとてもムーディ。
"C´est si facile"、"Nostalgie"では、現代音楽風に少し捻ったロマンティシズムがあるので、センチメンタルな雰囲気は少ない。

Piano MusicPiano Music
(2001/10/02)
Weissenberg、Mulligan 他

試聴する


アルバムの作品解説
ジャズとヨーロッパのクラシック音楽が結びつくのは、目新しいものではない。
Duke Ellington, James P.Johnson, Louis Armstrong は、1920年代にクラシック音楽から影響を受け、1950年代の”third stream movement”はジャズとクラシックのフュージョン。
それにも関わらず、依然としてジャズ/クラシックの癒合は、21世紀においても多くの可能性を秘めており、サイモン・マリガンは、2001年に録音したアルバム『The Piano Music of Alexis Weissenberg』のなかでそれを探っている。
ワイセンベルクは1929年、ミリガンは1980年代に生まれたという全く異なる世代。
このアルバムのスタジオ録音にワイセンベルク自身も立ち会っていた。
マリガンは明らかにワイセンベルクの音楽( "Le Regret"と"Sonate en Etat de Jazz")に強い感情を持って演奏している。
純粋なジャズまたはクラシックのピアニストとしての演奏を目指したものではなく、むしろジャズとヨーロッパのクラシックにそれぞれ片足をかけた音楽的ハイブリッド。
ジャズとクラシックを同等に”valid”(正当)だと理解できる許容性の持ち主なら、聴いて得るものがある。
モダンジャズのカルテットやガンサー・シュラー(Gunther Schuller)の実験音楽をかなり聴いている人なら、難なくこのアルバムの音楽を受け入れられるだろう。
Alex Hendersonのプロダクションノートを要約)

アルバムレビュー
”Simon Mulligan:The Piano Music of Alexis Weissenberg” [JazzTimes]


tag : ワイセンベルク アムラン

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ヴラディゲロフ/インプロヴィゼーション,ピアノ協奏曲第3番
ワイセンベルクの音源をYoutubeで探していて、偶然見つけたのがPancho Vladigerov(パンチョ・ヴラディゲロフ)の《Improvisation(インプロヴィゼーション)》。

ヴラディゲロフの名前は初めて聴いたけれど、ブルガリアでは著名な作曲家。ピアニストでもあり、同じくブルガリア人のワイセンベルクの恩師だった。
ワイセンベルクは、幼少期からウラディゲロフに作曲とピアノを学んでいたので、ピアニストの彼がジャズを素材にした曲を作曲していたことも納得。

ワイセンベルクは、恩師の作品《Improvisation》を1978年に録音している。
バルトークが書いた民謡(《シク地方の3つのハンガリー民謡》とか)や、ジャズのバラードを連想するくらいに、叙情豊かなとても美しい曲。
ワイセンベルクの演奏は、カラフルな色彩感とシャープな切れの良いタッチで、華麗な音のタペストリーが美しい。彼の持ち味の硬質の瑞々しい叙情感がこの曲にとても似合っている。

Weissenberg plays Vladigerov.wmv



ヴラディゲロフの曲をいくつか聞いてみると、前衛的な現代音楽とは異なり、調性が安定した、色彩感豊かで煌くような輝きと華やかさがあって、普通に聴ける。
輝くような音色と豊かな色彩感は、ワイセンベルクのピアニズムにも通じるものがあり、これは師ヴラディゲロフの教育が影響しているのかもしれない。

ヴラディゲロフはフランス印象派音楽の影響を受けていると言われる。
たしかに《ピアノのための変奏曲「ディルマノ・ディルベロ」》や《ピアノ協奏曲第3番》を聴いていると、東欧の民謡に加えて、ラヴェルのピアノ協奏曲(それにバルトークのピアノ協奏曲第3番)に思い出させるところがある。

Vladigerov - Piano Concerto No.3 Op.31 (I)
B.Nedeltchev / Bulgarian SO / Vasil Kazanjiev



tag : ワイセンベルク

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耳鳴り治療のための音響・音楽療法(12) Serenade Tinnitus Treatment System
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Serenade Tinnitus Treatment Sysytem の概要
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”Serenade system”はFDAの承認を得た携帯型サウンドジェネレーター。
開発企業はシリコンバレーのベンチャー起業SoundCure社。

”S-Tones”と呼ばれる低周波で変調(modulate)されたカスタマイズ音源を組み込んでおり、イヤフォンを通じて治療音を聴く。
治療音は3種類のカスタマイズ音(S-toneが2種類、狭帯域音)、広帯域音(ブロードバンド音)。
耳鳴りから注意を逸らす目的の耳鳴マスキングとは異なり、耳鳴りの基底にある神経学的な原因を治療し、耳鳴りの抑制と知覚低減を目的とする。
一般的な治療に使われている無変調音や高周波数のホワイトノイズよりも、耳鳴り緩和に効果がある。

”Serenade system”は、2011年8月にFDAの承認を得て(510(k) summary)、2011年9月に“Serenade® Tinnitus Treatment System”として、耳鼻科医に総合的なトレーニング(耳鳴りの評価法&治療法)付きで試験的に提供開始。

医療機器の"Serenade"は、耳鼻科専門家のいる医療機関で処方されるが、治療音は患者の耳鳴特性・症状に応じて、カスタマイズされる。
耳鳴緩和は一時的なもので”Serenade system”を利用している間だけ効力がある。長期的な耳鳴緩和プログラムの一部として、Serenade system”利用することも可能。

”Serenade system”の特徴
- 個々の患者の耳鳴特性に応じてカスタマイズされた音響療法
- 3種類の治療音
- データロギングで患者の利用状態を記録
- SleepAssist technology:リラックスして睡眠するための60分の自動オン・オフタイマー
- 独立した左右の音量コントロール

一つの端末のなかに複数の音響療法が組み込まれた新しいツール。
耳鼻科専門家が患者を検査して個々人に応じた治療法を決定し、治療用パラメーターを"Serenade device"にダウンロード。
カスタマイズシステムに関して、Soundcure社がトレーニングとサポートを行う。
短期的緩和、および、長期的緩和のためのアプローチがあり、 トレーニングで"standard habituation model"(患者の"habituation"(馴化)をどうやって達成するかというガイドライン付き)を提供している。

”S-Tones”の特徴
医療機器"Serenade"に収録されているのは、複数のソフトな治療音"S-Tones"。
"S-Tones"は時間的パターンをもつ、患者ごとにカスタマイズされた新しい治療音。(主に変調されたパルスレートのシグナル)
”S-Tones”のユニークな点は、音量レベルが耳鳴りと同等かそれ以上に設定されるマスキング手法と異なり、耳鳴りよりも低い音量レベルで耳鳴緩和が得られること。
音響療法プログラムの一部として、即時または長期間の耳鳴り緩和を可能にする。
元々はUniversity of California, Irvine (UCI)の研究者の研究によって開発された技術。

"S-Tones"は、聴覚皮質内に同期した健全な神経活動を生み出すように設計されている。
過度に遅く,または速くパターン化された音は効果がなく、適切なレートでパターン化された音が、ニューロンを音響刺激に対して同期発火させる。
研究者たちの複数の研究により、"S-Tones"を使うことで耳鳴抑制を促進する役割があるのではないかと示唆された。
UCIの研究者によると、"S-Tones"が耳鳴抑制をもたらすメカニズムは耳鳴マスキングのメカニズムとは異なる。マスキングは患者の注意を耳鳴から逸らすことである。耳鳴抑制は生理的プロセスであり、音(この場合はパターン化された音)が聴覚皮質の活動を調整(modulating)し、耳鳴の発生を妨げているのかもしれない。

神経活動の同期化については、ある研究論文で、“被験者は、30秒以内に耳鳴りが抑制され始め、2分後までに耳鳴りが聴こえなくなったと報告している。これは100%抑制の例である”という症例がある。


開発経緯
"S-Tones"に関する研究は、2006年に始まった。
突発性難聴と耳鳴りを発症したミュージシャンで音響エンジニアのMichael(仮名)は、様々な治療を試みた末に、最後の手段として人工内耳を移植したが、耳鳴りは消えなかった。
移植手術を担当した医師から、University of California, Irvine (UCI)のFan-Gang Zeng医師(Anatomy and Neurobiology学部の教授)を紹介されて、音響療法を開始。
Zeng医師は耳鳴治療の専門家ではなかったが、彼の医療チームは医学文献を調査し、ほとんどあらゆる音響刺激を試してみた。
しかし、従来の治療法では耳鳴りが緩和されることはなく、人工内耳に穏やかで心地良く聴こえる低周波音(40 ~ 100 Hz)をある電極上で使用したところ、劇的な緩和効果があった。
今でも、Michaelの耳鳴りは音量が非常に大きく煩わしいため、治療継続中。耳鳴り緩和のために"Serenade"を時々使っている。
Michaelは耳鳴りがさらに改善すると信じているし、もはや薬は全く必要なく、ミュージシャンとして活動している。

この技術を人工内耳で聴いた音から、誰でも聴き取ることができる音へと変換して、"S-Tones"が生まれた。
"最初の150秒間、この低周波刺激を与えても患者は刺激音と耳鳴りの療法が聴こえるだけで何も起こらなかった。180秒後、患者はこの2年間で初めて、高周波の耳鳴りが聴こえなくなった。彼に聴こえているのは、低周波刺激が生み出す穏やかで心地良い音だった。"
多くの研究者は、高周波の刺激(3000~8000 Hz)が耳鳴治療に有効であるかもしれないと理論づけていたため、これは予期しない結果だった。

Johns Hopkinの研究者の論文(2001年、および2002年のフォローアップ) で、"哺乳類の脳活動と低レート刺激"を扱った研究があった。耳鳴りに特化したものではないが、40~120 Hzの低レートパルス変調により、持続的で同期化された健全な脳神経活動が生まれるが、その範囲外の周波数では(高くても低くても)、脳は反応しない。
科学的研究という点では、数タイプの被験者でこのアプローチを検証する必要があるため、米国耳鳴協会(ATA)へ研究助成を申請し、20人の慢性耳鳴患者を対象とした研究に対して、助成金が2年間支給された。(試験結果は後掲)
現在、この療法の研究が進行中で、治療音の研究が続けられている。米国耳鳴協会(ATA)は、この研究に対して、2012年6月に$138,000の助成を決定。

SoundCure Serenade Tinnitus Treatment System.wmv (SoundCure社の提供動画)




<出典>
- Soundcure社ホームページ(専門家向け):<our solution><the science>
- "Novel Sound Therapy: SoundCure Harnesses Research on Brain Science in Fighting Tinnitus"
[Hearing Review,Issue Stories, August 2012]
- "Quieting the ringing in the ears"  [University of California Reserch Explore stories,Tuesday 26 June 2012]
- "Michael's Story"[American Tinnitus Association,June 20, 2012]


<SoundCure, Inc.の企業情報>
耳鳴治療法に革命をもたらすことをミッションとした医療機器会社。
投資会社 Allied MindsがUCIの研究を知り、技術ライセンスを受けて、SoundCure社を2009年に設立した。
Allied Minds社は、米国の大学と政府系研究機関から生まれた初期段階の科学技術を元に新しい事業(startups)を開始し、資金援助・マネジメント・企業設立を行っており、多数の子会社(subsidiaries)を保有している。
- Allied Minds社ホームページ
- Allied Mindsのsubsidiaries


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論文
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"Research Article: Temporary Suppression of Tinnitus by Modulated Sounds"
Reavis KM, Rothholtz VS, Tang O, Carroll JA, Djalilian H, Zeng FG.
Journal of the Association for Research in Otolaryngology (JARO), 2012;13(4):561-571

ATA(米国耳鳴協会)の助成うけた研究論文が、Journal of the Association for Research in Otolaryngology(JARO)より出版された。

<試験目的・方法>
- 増幅・周波数変調された音が一時的に耳鳴を抑制する、という効果的な方法を報告。
- 被験者は慢性耳鳴患者20人。17種類の外部音と主観的耳鳴りとの相互作用を調べた。
- 変調していない従来型の音響刺激(純音、ホワイトノイズ)と、中枢聴覚経路内で持続的な神経活動の同期を生み出すことで知られている動的に変調された複数の音響刺激を使用。
- 外部音は全被験者に対して、ランダムに提示。音量レベルは耳鳴りの音よりも低く設定。
- 合計340試行。試験音を聴く前、聴いている最中、聴いた後の3ポイントで、被験者が耳鳴りの症状を主観的に評価する。

<試験結果>
- 少なくとも被験者の90%で、17刺激のうちのどれか一つで、音量的な耳鳴抑制効果があった。
- 比較的ノーマルなloudness growthを持つ被験者では、音量と周波数を変調させた刺激音(耳鳴りピッチに近いキャリア周波数を持っている)を使った場合、大幅な耳鳴抑制効果があった。
- 耳鳴りに関係する神経活動の過剰反応を低減させるのに、変調音は従来型マスキング手法(無変調な純音とホワイトノイズ使用)よりもさらに有効でありうるかもしれない。
- 「変調音がもたらす長期的な耳鳴緩和効果と根底にあるメカニズム」が調査されるべき。


"SoundCure Announces Publication of Clinical Tinnitus Study Results" [Press Release May 15, 2012]
- "S-Tones"による耳鳴緩和効果は、ホワイトノイズ使用の場合の4倍となりうる。
- 低減効果は、70%以上のケースが被験者の35%、30~50%のケースが被験者の35%、30%未満の場合は被験者の30%。副作用は報告されていない。


"Patterned sound therapy for the treatment of tinnitus"
By Kelly M. Reavis, Janice E. Chang, and Fan-Gang Zeng
August 2011,soundcure.com


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進捗状況
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"American Tinnitus Association Launches June 16 Walkathon, Recognizes Gains in Sound Therapy with Novel Approach from SoundCure" [Press Release June 11, 2012]
治療法のさらなる研究・開発に対して、American Tinnitus Association (ATA)が$138,000の助成決定。

"Veterans Affairs Department Awards Contract to Provide SoundCure Serenade to Treat Tinnitus" [Press Release,August 10, 2012]
アメリカ合衆国退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs:VA)は、耳鳴治療にSoundCure社の医療機器"Serenade"を導入する契約締結を決定。
同省は、170以上のメディカルセンターと350のローカルクリニック、さらに海外にも医療施設を擁している。
記録に耳鳴症が記載されている退役軍人は、2011年時点で80万人。
VAの聴覚専門家により、検査・プログラミング後、患者向けにカスタマイズされる。


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備考
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記事中の日本語訳は、英文原文を要約したものです。
正確な内容については、英文原文でご確認ください。


tag : 音響・音楽療法

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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