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マーティン・ロスコー ~ シマノフスキ/4つのエチュード Op.4
シマノフスキのピアノ作品のなかで、特に有名なのは、初期の《4つのエチュードOp.4》の第3番変ロ短調。
この曲はパデレフスキが絶賛したという。

初期の頃のシマノフスキは、ショパンとスクリャービンの影響が濃く、この《4つのエチュード》や《ピアノ・ソナタOp.8》も、後年の作品とは随分作風が違って、難解さは全くなくてロマンティック。

《4つのエチュード》第3番は、ショパンの影響を強く受けた初期のスクリャービン風。
スクリャービンが書いた曲...と言われても、それほど違和感がないくらい。
この第3番だけでなく、第1番もとっても素敵。色彩感豊かで和声も華麗で、パッショネイトな叙情美しい曲。

第2番は旋律に歌謡性が少なく、同じ音型が絶えず移調して浮遊するような、メカニカルでありつつファンタジックな一風変わった曲。
第4番も旋律自体は単純でメカニカル的なのに、なぜか幻想的。ふわふわとした和声の響きが独特。
両方とも、和声と弱音のニュアンスに独特の微妙なものがあるせいか、幻想的に感じるみたい。
4曲全部聴くと、やっぱり第3番が一番叙情的で美くて、この曲が有名なのも納得。

Karol Szymanowski - 4 Studies Op. 4 (Martin Roscoe, piano)
(No.2)3:27~ (No.3)5:21~ (No.4)9:49~




今はhyperionの看板ピアニストの一人ロスコーが、NAXOSに録音したシマノフスキ全集(全4巻)。《4つのエチュード》は第1集に収録。
ジョーンズの全集(Nimbus盤)よりも技巧確かで演奏も良い。特に、練習曲的な曲や、ピアノ・ソナタ第2番とかは、技巧が冴えて良さそう。
叙情表現がやや直線的なところがあり、幾分あっさりした叙情感。幻想性・神秘性は薄め。曲によっては、アンデルジェフスキやブレハッチ、ルディの方を聴きたくなる。

シマノフスキ:ピアノ曲集 第1集シマノフスキ:ピアノ曲集 第1集
(1995/07/01)
Martin Roscoe

試聴する




あまりにも美しい曲だったせいか、シマノフスキの友人フィテルベルグが管弦楽用に編曲。
弦楽の流麗な響きがとても綺麗。静けさと親密感のあるピアノ曲とはまた違った趣きで、この編曲版も素敵。

Szymanowski - Etude no. 3, op. 4 for string orchestra


tag : シマノフスキ ロスコー

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【新譜情報】ソコロフ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲(ライブ録音)
突然というか、思いがけないことに、ソコロフの新譜が11月にリリースされる。
毎日HMVの新譜情報はチェックしているけれど、この新譜情報が「古楽」に載っていたので、うっかり見落としていた。コメントでその情報を教えていただいたので、助かりました。

発売予定の新譜は、バッハ《ゴルトベルク変奏曲》の1982年ライブ録音。レーベルはMelodiya。この録音は、昔LPでリリースされていた。
カップリングは、《イギリス組曲第2番》(1988年)と《パルティータ第2番》(1982年)。CD2枚組と豪華。
この2曲はライブかスタジオ録音か情報はないけれど、少なくとも《イギリス組曲第2番》は1988年録音なので、LP/CDとも初出音源のはず。
《パルティータ第2番》は、1982年のスタジオ録音(naive盤)が出ている。新譜も1982年録音なので、もしかして同一音源? 今わかる情報では確認できず。
naiveがMelodiyaにライセンスするとはあまり思えないので、CD化されていないライブ録音じゃないかと期待しているのだけれど...。

録音嫌いのソコロフが、CDリリースを許可するというのは全く予想していなかったので、これはほんとにサプライズ。
心境が変わったのか、それとも何か他に理由があるのか、よくはわからない。
いずれにしても、ソコロフの演奏を愛するリスナーにとっては、正規版のCDで彼の演奏が聴けるというのは喜ばしい限り。これは一足早いクリスマスプレゼントになるでしょう。

現時点では、オンラインショップでは、HMVのリリース予定日が一番早く11月10日(⇒11/24に変更)。TowerRecordが11月末。
日米のamazonでは今のところ情報なし。英仏独のamazonサイトには新譜情報があり、フランスのサイトでは11/21発売予定。
amazonの日米サイトは、Melodiya盤などロシアのレーベルの取り扱いが少なく、情報も遅いことが多いので、この新譜が販売されるのかどうかもよくわからない。(一応、メールで問い合わせているところ)

ゴルトベルク変奏曲、パルティータ第2番、イギリス組曲第2番 ソコロフ(2CD) (HMV)


tag : バッハ ソコロフ

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秋の夜長に聴きたい曲 (1)
すっかり夜も冷え込んできたので、寒く静かな夜には、暖かい紅茶やココアを飲みながら音楽を聴きたくなる。
こういう時に聴く音楽はだいたい決まっている。今回は短調の曲をいくつか。

秋と言えばブラームス。ブラームスといえば、最初に選ぶのも、最後に戻っていくのもカッチェン。
ルバートが多く起伏も大小とりまぜて表情豊かなのに、感傷的・情緒的になることなく、自然に湧き出てくるような叙情感と寄り添うような親密感がカッチェンらしいところ。

ブラームス晩年のピアノ作品集《3つの間奏曲Op.117 第2番》
Op.117は、ブラームスの小品集の中でも最も陰翳が濃く、この第2番は第3番とあわせてとりわけ寂寥感が強い。
主題部は、右手が下降するアルペジオを繰り返し、そのなかからくっきりと浮かび上がってくる”ため息音型”(2音からなる下降音型)の旋律がもの哀しいし、中間部も陰鬱な気分。時に一瞬明るさや激情のほとばしりを見せつつも、浮揚することなく最後は深く沈みこんで行く。

Julius Katchen''Brahms three intermezzos op.117''. intermezzo 2



同じくブラームスの《4つの小品Op.119 第1番》
この曲も主題の最初の部分は”ため息音型”の入った下降型のアルペジオ。
Adagioなので、かなり遅いテンポで一音一音を長めに、鬱々と淋しげに弾く人が多い。
カッチェンのテンポは、Adagioにしてはちょっと速い。悲愴感と陰鬱な雰囲気に耽溺することなく、それでいて、しっとりとした情感が音の間から溺れ落ちてくるような叙情感が何とも言えません。
※演奏時間は、3分半ば~4分台前半が多い。カッチェン2:50,ルプー3:17,レーゼル3:27,アックス4:16,ゼルキン4:48。グールドはかなり速く2:26。

続く第2番も短調の曲。第1番で抑えていた感情がほとばしり出るようなパッションと、中間部(ブラームスらしい子守歌風の旋律)の束の間の安らかさに、切々とした情感が篭もっている。特に好きなのは4:57~5:07で弾かれる旋律。

Brahms - Julius Katchen - Klavierstücke op 119 (全4曲)




ビル・エヴァンスの最後のスタジオ録音となったアルバム『We Will Meet Again』から、標題曲”We Will Meet Again”
自ら命を絶った兄へ捧げたレクイエム。トリオバージョンもあるけれど、この曲はピアノソロで聴きたい。

Bill Evans - We Will Meet Again




リッチー・バイラークがECM時代に録音したピアノソロ・アルバムの一曲”Leaving”。。
鋭く研ぎ澄まされた叙情感は冷たい清流のように美しく、全編を凛として張り詰めた緊張感が流れている。
短調の旋律の哀感のなかに、透き通るような明るさがさしこみ、旅立ちのように爽やか。

Leaving Richie Bairach



<関連記事>
カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (7)3つの間奏曲 Op.117
カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (9)4つの小品 Op.119
ビル・エヴァンス 『You Must Believe in Spring』,『I Will Say Goodbye』


tag : ブラームス カッチェン ビル・エヴァンス リッチー・バイラーク

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アルフレッド・パール ~ シマノフスキ/交響曲第4番 ”協奏交響曲”
アルフレッド・パールのディスコグラフィのなかで、一番珍しいカップリングのアルバムがグリーグとシマノフスキのピアノ協奏曲。
グリーグとくれば、カップリングはたいていシューマンのピアノ協奏曲。
なぜかあまり有名ではないシマノフスキのコンチェルトを選曲したところが、月並みでなくて良い。

パールのCDは、1996年1~2月にかけて録音したArteNova盤。
グリーグのピアノ協奏曲は似たような旋律が延々と繰り返されるので、好きなのは速いテンポで、緩急のメリハリがあって、力感・量感・スピード感のあるカッチェンの演奏。
パールのグリーグはゆったりしたテンポ(これが普通なのかも)。音響的に美しく、素直でクセがなく、明朗で潤いのある瑞々しさのあるところが、パールらしい演奏。
第1楽章はカッチェンよりも2分近く演奏時間が長くて(14分弱)、こうテンポが遅いと集中力が続かない。
緩徐的な曲を聴くのはあまり得意ではないので、速いテンポの第3楽章が一番聴きやすい。(それでもカッチェンより1分以上も演奏時間が長い)

シマノフスキのピアノ協奏曲は、実際の曲名は『交響曲第4番Op.60』。ピアノソロが協奏曲並みに組み込まれていて『協奏交響曲』という副題がついている。
この曲は録音があまりないかも...と思って探してみると意外に多い。
なぜかアンスネスが1996年に、ハワード・シェリーが1995年に録音している。その頃、イギリスでは、この交響曲を録音するのが流行っていたんだろうか?
他には、ポーランド出身でシマノフスキがこの曲を献呈したルービンシュタイン、ポーランド人の指揮者・ピアニスト・オケによるNAXOS盤など、録音がいくつか。

元々はグリーグを聴くのが目的だったけれど、CDを買った甲斐があったと思えたのは、シマノフスキ。
フォーマットが交響曲のせいか、ピアノ独奏曲の《メトープ》や《仮面劇》とは違って、古典的な構成感があり、曲の展開はずっとわかりやすい。
試聴した時は、あまりピンとこなかったけれど(独奏曲と違って協奏曲は試聴では判断しにくいので)、CDで全楽章聴いてみると、思いがけない面白さ。
色彩感豊かな音響と、現代的な叙情感・ファンタジー・舞曲という異なる曲想が盛り込まれ、難解なところは全くなくて、とっても魅力的。
シマノフスキのピアノ独奏曲よりも好きなくらいに、私の好みにぴったり。今まで聴いた現代のピアノ協奏曲のなかでも、好きな順番から言えばかなり上の方になる。


Music of Grieg & SzymanowskiMusic of Grieg & Szymanowski
(2007/04/10)
Perl (Piano), Leaper(Condutor),Gran Canaria Philharmonic Orchestra

試聴する(allmusic.com)
録音データでは、ピアノはSteinway。使用楽譜はグリーグ"Edition Eulenburg"、シマノフスキ"Editions Max Eschig。

交響曲第4番「協奏交響曲」Op.60(1932年) [作品解説(Wikipedia)]

ピティナの解説によると、シマノフスキの作風は3期に分けられていて
 -第一期(~1908年頃。ベルリン時代)は、ショパン、ショパン、ブラームス、レーガー、リヒャルト・シュトラウス等の中後期ロマン派風の作風
 -第二期は、地中海地方やパリ、ロンドンへ旅行した経験から、オリエンタリズムとストラヴィンスキーやドビュッシー等の影響が混在した個性的な作風。交響曲第3番「夜の歌」が代表作。
 -第三期(1918年ポーランド独立後帰郷)は、民俗音楽の研究に傾倒した影響が顕著

この交響曲第4番は第3期の作品。


Szymanowski - Symphony No. 4 "Symphonie concertante", Op. 60 (1932)
Karol Stryja(Condutor),Polish State Philharmonic Orchestra,Katowic / Tadeusz Żmudziński(Piano).


第1楽章 Moderato - tempo commodo
聴き始めてすぐに、この曲はどこかで聴いたようなデジャヴを感じる。
作品解説を調べてみると、バルトークのピアノ協奏曲第3番との関連性が書かれていた。
本当にその通り。旋律、和声、フレージングや雰囲気がバルトークの最後のコンチェルトの第1楽章によく似ている。
バルトークよりも、音響的に厚みがあり色彩感もカラフルで、少し不協和的な調性感があるけれど、それにしてもバルトークのコンチェルトと時々錯覚しそうになる。
両方とも、主題の旋律や和声が、”好奇心に満ちた眼差し”で、目の前に広がった新しい世界を見ているような感覚。
バルトークのピアノ協奏曲のなかで第3番が一番好きなので、当然ながら、シマノフスキのこのコンチェルトも好きにならないわけがない。

シマノフスキの独奏曲(中期~晩年)に比べて、旋律が明瞭で叙情的。難解さは全くなく、全体に軽妙な躍動感と清々しさに溢れた叙情美しい曲。
ピアノパートがくっきりと浮き上がってかなり目立っているし、華やかなカデンツァも入っているので、”協奏交響曲”というよりは、現代的なピアノ協奏曲。


第2楽章 Andante molto sostenuto
バルトーク風の世界から離れて、ファンタスティックな雰囲気に。
神秘的・印象主義的な《メトープ》や《仮面劇》のような神秘性・幻想性ではなく、夢想的。
人間の感情や内面の世界ではなく、人間のいない自然の世界の情景を描いたように描写的。
ひとの気配のない森や湖で、蝶や昆虫が飛び交い植物がざわめき生長していく様子を映像でクローズアップして見ているような感じがする。

第1楽章や第3楽章のように明瞭な主題旋律ではなく、方向性がなく流れにまかせて緩々とたゆたうように、叙情的で美しい旋律が現れては、消えていく。
ピアノパートは、高音のアルペジオやトレモロを弾いて、オケを伴奏している部分が多く、煌きのある澄んだ響きがとても綺麗でファンタスティック。厚みのあるオケの響きに埋没することはないけれど、第1楽章よりは協奏的。

終盤へむかってオケとピアノが掛け合いながら、徐々にクレッシェンドして、壮大な雰囲気に盛り上がってから、再び静寂に。
最後には、第1楽章の主題が弱音で静かに回想されて、カデンツァでピアノのトレモロが音程を変えて何度も現れて、最後はアルペジオで一気に低音部まで下行してエンディング。
それをそのまま受け継ぐように、アタッカで繋がれた第3楽章冒頭で、オケが低音部で演奏し始める。

第3楽章 Allegro non troppo, ma agitato ed ansioso
冒頭は序奏的に、ラヴェルのボレロのような舞曲風の旋律が現れて、クレッシェンドしながら壮大に盛り上がっていく。
この楽章は諧謔でリズミカル。シンプルな音型とリズムが次々と変化して表れ、和音の連打も歯切れ良く、色彩感豊かで音響的にも華やか。
スタッカートの和音のオスティナートが入っている旋律も多いので、スピード感はそれほど強くないけれど、リズムが鋭く、躍動的。
ピアノパートや管楽パートに、滑るように短いグリッサンドやスケールが出てきたり、ピアノがスケール・アルペジオで鍵盤上を波がうねるように何度も上下行したり、音が詰まったパッセージで目まぐるしく動き回るので、遅さや重たさは全く感じさせない。
ラヴェルのピアノ協奏曲(第1楽章)やプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番(第3楽章)とかにちょっと似たところがある。

中間部は緩徐部となり、ピアノが主旋律を弾くところで民謡風の旋律が出てくる。(これがマズルカらしい)
再現部はクライマックスへ向けて、冒頭と同じく、主題の舞曲的なリズムの旋律をベースに、音の密度と色彩感と音量が増し、雪だるまのように膨らんでいき、最後は堂々たるエンディング。
(サーカスの曲芸のような)ちょっとクラクラと回転するような感覚が面白く、ひたひたと前進していく高揚感とスケール感が爽快。

tag : シマノフスキ パール

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北海道産小麦粉がセール中
たまたま楽天で見つけた「北海道からのめぐみ」(北海道産小麦粉・強力粉・中力粉・薄力粉・全粒粉・ライ麦粉の専門店)というショップで、北海道の小麦粉がとってもお安くなってます。セール期間は明日(25日)まで。

セール対象の北海道産強力粉は、「はるゆたかブレンド」、「香麦」、「キタノカオリロング」、薄力粉の「ドルチェ」。
通常価格自体も、私が知っているいくつかのお店よりも若干安い。
「はるゆたかブレンド」、「香麦」は、通常価格より2割くらい安くてお買い得。
例年「はるゆたか」の収穫量が少なくて、「はるゆたか」と「はるゆたかブレンド」は、購入量の制限があったり、すぐに品切れになってしまう。今年は珍しく収穫量が多かったそう。

購入したのは、「はるゆたかブレンド」、「キタノカオリロング」、「ドルチェ」。(はるばる室蘭からの配達になるので、到着するまで数日かかりそう)
セール対象外の粉では、最近新発売された「ゆめちからブレンド」を2.5kgを注文。
「ゆめちから」は新品種の超強力小麦粉。国産小麦の「超強力粉」は今までなかったので、どんな焼き上がりになるのか焼いてみるのが楽しみ。同じく新品種の薄中力粉「きたほなみ」をブレンドしているので、ふんわり感ともっちり感が出るらしい。

北海道産小麦は、この「ゆめちから」「きたほなみ」それに「はるきらり」と新品種が次々と開発されている。
もともと製パン用小麦を育てるのに向いていない日本の気候でも、品種改良で小麦粉の種類がずいぶん増えているのは嬉しい。
国産小麦粉は、輸入小麦粉よりも価格はかなり高いけれど、ポストハーベスト農薬が使われることもなく、特に小麦粉自体の味がしっかり味わえるので、国産小麦粉で焼いたパンはやっぱり美味しい。
それに、ふわふわしたソフトなパンは好きではないので、目の詰まったもちもちしたパンを焼きたいなら、国産小麦粉か製パン用米粉のどちらか使う、米粉を強力粉に混ぜる、それともご飯を混ぜてご飯パンを焼く、のどれか。
特に天然酵母を使って焼いた国産小麦パンはドライイーストパンよりも美味しい。独特の風味があり、油脂・乳製品不使用でもふっくら・しっとりと食感も良い。
味とは直接関係ないけれど、北海道産の小麦粉とお米(「きらら」「ゆめぴりか」「ななつぼし」)はネーミングセンスが良いので、名前に惹かれて買いたくなる。


<新品種小麦に関する情報>
道産子の小麦 パン業界の星 「ゆめちから」純国産パン (朝日新聞デジタル,2012年3月5日)
新品種"ゆめちから"の底力 (十勝・前田さんちの小麦日誌)

春まき小麦「はるきらり」(「あじ研北海道」/ 研究者×企業インタビュー“おいしい”舞台裏)
春蒔き小麦「はるきらり」パン素材適性評価結果(春播き小麦新品種「はるきらり」、ジャガイモ新品種「スノーマーチ」の料理適性試食・意見交換会実施報告書,平成24年3月、はまなす財団)


驚異の道産小麦 "きたほなみ"のすべて (北海道立総合研究機構,ランチタイムセミナー「おひるの科学」)
きたほなみ 世界一の「北海道小麦」をめざして (北海道立総合研究機構,食ものがたり)

涼しくなってまとめ買いできるときは、北海道産の「キタノカオリ」や「はるゆたかブレンド」を使っている。
以前、岩手産の「テリア特号(南部小麦粉)」「ゆきちから」を使ったことがあるけれど、北海道産小麦粉の方が扱いやすくて、粉の味もしっかりしている。
薄力粉のドルチェも、スーパーで売られている普通の小麦粉とは品質が違う。なめらか、しっとり、キメも細かくて、やっぱり製菓用の薄力粉だけのことはある。

お米や小麦粉は、気温が高いときは常温で長期間保存できないので、小麦粉は秋~冬の間だけまとめ買いしてストック。(お米は、室温が15度を超える季節には冷蔵庫で保存)
パン用の小麦粉は、1ヶ月にだいたい2~2.5kg使うので、半年くらいで使い切れる量だけ購入。

フランスパン用準強力粉は、「リスドォル」と「オーベルジュ」使用。
「オーベルジュ」の方がもちもち感があって、粉の味も強くて美味しい気がする。
「オーベルジュ」は扱っているお店が限られているので、いつも富澤商店のオンラインショップで購入。
東京に住んでいたときは、富澤商店の直営店が数店あったので、定期的にお店で買っていた。
大阪には最近までお店がなかった。ようやくJR大阪駅の三越伊勢丹に大阪店がオープンしたので、次回はお店で購入する予定。
アジアの乾麺 ~ 春雨、ビーフン、フォー、ミーゴレン
春雨
春雨の原料は、緑豆、じゃがいも、さつまいものどれか。
緑豆春雨は中国原産。龍口市が産地として有名らしい。(輸入品には漂白剤を使ったものがあるので、成分表示でチェックした方が良い)

日本の国産春雨は、馬鈴薯でん粉(じゃがいも)と甘藷でん粉(さつまいも)が原料。
外見は緑豆春雨と同じく白色で細い。

緑豆・じゃがいもが原料の春雨は、直ぐに戻るので便利。
こしがなくて荷崩れしやすいので、酢の物には使えても、炒め物にはちょっと使いにくい。

輸入食材店でたまたま見かけた「さつまいも春雨」
原料はさつまいものみ。灰色で普通の春雨よりも太い。
韓国でチャプチェなどによく使われる。中国産、日本産(この日本製品はなぜか色が白っぽい)のものもある。
お湯で茹でてから炒め物にしても、荷崩れしないし、もちもちと弾力のある食感で、糸こんにゃくにちょっと似ている。
春雨を茹でずに、調味料で味つけした出し汁・煮汁にそのまま投入して料理すると、味がしっかりついて美味しい。
春雨の中では、このさつまいも春雨の食感が好き。最近見つけた食材の中ではかなりのヒット。当分はまりそう。

唐麺(タンミョン)~韓国食材と調味料[ジョン・キョンファ スタジオ]


ビーフン、米麺(フォー)
ビーフン、フォーとも、うるち米を原料とする米麺。

輸入食材店で見かけるビーフンは、中国・台湾・タイからの輸入品。
焼きビーフンや汁ビーフンにして食べることが多い。
太さがいろいろあり、「タイ料理のタイ文字帳」にビーフンの特徴が載っている。
- センミー(1mm):細麺をベータ化させて春雨状にした極細麺。日本でビーフンと呼ばれているもの。
- センレク(2mm、4mm):平麺。タイの焼きそば「バッタイ」に使われている。
- センヤイ(10mm):太麺

「フォー」は、ベトナムの米粉乾麺。
平麺と丸麺(ブン)があり、日本では使われるのは平麺がほとんど。汁麺(フォー)にして食べるのが定番。
輸入品には、インスタントのカップ麺や袋麺、乾麺といろいろ。
フォー・ガー(鶏肉入りフォー)の専用スープもベトナムから輸入されている。


ミーゴレン
ミーゴレンは、中華麺を使ったインドネシアの焼きそば。
ミーは「麺」、ゴレンは「揚げる、炒める」。
麺の原料は小麦粉、食塩が原料。

ミーゴレン専用の乾麺(ミーゴレンヌードル)があり、着色料として「ターメリック」使用。「かんすい」の表示無し。
あちこち探したけれど、こちら(大阪)では、業務スーパーでしか売っていないみたい。
細い平麺で、焼きそば以外にも、汁麺、冷麺、サラダなどに使える。
中華麺とは違った食感と味。お店で食べるミーゴレン風になるので、自分で作るときはこの乾麺と輸入品のミーゴレン用ペーストを使っている。

ナシゴレンは、ナシは「ご飯」の意味なので、チャーハン。
ミーゴレンとナシゴレンでは、調味料が違い、ミーゴレンは甘く、ナシゴレンは辛い。



ついでに、そろそろ鍋物が美味しい季節なので、マロニーと葛きりについて。

マロニー
マロニーは、日本のマロニー㈱の独自開発製品。
会社名=製品名。「マロニー」は、食材名としてすっかり定着。
商標登録されているだろうから、「マロニー」といえば、この製品だけしか見たことがない。

原料はじゃがいもでんぷんとコーンスターチ。(増粘剤・増粘多糖類(グァーガム・キサンタンガム)も使用されている)
はるさめより煮くずれしにくいし、太いので、食感もしっかり。
生マロニーと乾燥マロニーがあり、乾燥マロニーの方が、長期保存(約3年)できるし、いつでも好きな量だけ使えるので便利。
マロニーを知る[マロニー㈱ホームページ]

葛切り
葛切り(くずきり)は、本来は葛粉が原料。
葛粉はとても高価なので、じゃがいも澱粉で代用されているものがほとんど。(数%程度の葛粉は入っているらしい)
生くずきりと乾燥くずきりがある。マロニーよりもお値段は若干高め。添加物が入っていないところは◎。(製品によっては、みょうばんが使われている場合がある)


[追記]

サリ麺
鍋物で思い出したのが、「サリ麺」
韓国の鍋物・煮込み用インスタント中華麺。
太麺でボリュームがあって、味のしっかりついたスープ(チゲ鍋とか)に入れると美味しい。
一見インスタントラーメン風。鍋物の具材として使う麺なので、スープはついていない。
「煮込んでも伸びにくい」とパッケージに書いているけれど、それでも煮込みすぎればすっかりスープを吸収して伸びてしまうので、煮込むのもほどほどに。

バケッティ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲
ピアノで弾いたゴルトベルク変奏曲のなかでも、装飾性の高さでは一番なのでは...と思ったのが、アンドレア・バケッティ(Andrea Bacchetti)。
バケッティは、1977年イタリア・ジェノヴァ生まれ。11歳でクラウディオ・シモーネ指揮イ・ソリスティ・ヴェネティと共演したという神童。バッハとベリオを得意とする知性派ピアニスト...という人らしい。

チェンバロ奏者でもここまでしないだろうと思うような装飾音の多さとバリエーションの豊富さは、今まで聴いたことのあるゴルトベルクの中でもピカ一。ピアノはファツィオリ。
才気煥発というか、才能に満ちたピアニストにしか弾けないようなゴルトベルク。
これだけ装飾音に凝って、山あり谷ありと起伏だらけで表情豊かな演奏なら飽きないだろうし(私は聴き疲れるけれど)、自由で感興に溢れている。
面白いことは面白いけれど、騒々しいというか、落ち着きがない感じがして、眠るどころか、ぼやけた頭も覚醒してしまいそう。
1度聴いたら、2度とは聴かないだろうと思ったので、これは試聴どまり。

J.S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲/アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳第2巻から5つの小品(バッケッティ)J.S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲/アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帳第2巻から5つの小品(バッケッティ)
(2012/04/01)
Andrea Bacchetti

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この路線のゴルトベルクなら、カニーノのライブ録音が自然な音楽の流れと即興的な自由さがあって、聴き疲れることがない。
バケッティほど凝った装飾を使わないので過剰な作為性を感じることがなく、軽やかさとしっとりした叙情感・親密感のバランスがほど良い感じ。
ピアノ盤ゴルトベルクで今のところ気にいっているのが、このカニーノとマルクス・ベッカー(CPO盤)、それにソロコフ(Youtubeのライブ音源のみ)。

過去記事: カニーノ ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲

tag : バッハ

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ミハイル・ルディ ~ シマノフスキ/仮面劇(マスク)
シマノフスキの作風は、時代によって変遷し、大きく3期に分けられている。
初期の第1期はショパン・スクリャービンなど(後期)ロマン派の影響が強く、第2期は印象主義・神秘主義的色彩が濃く、第3期はさらに民謡の素材を取り入れた民族色が加わる。

シマノフスキのピアノ曲《メトープ》は第2期の作品で、《Maski/仮面劇(マスク)Op.34》も同じ。
《仮面劇(マスク)》3曲の組曲形式で、それぞれ「シェエラザード」「道化のタントリス」「ドン・ファンのセレナード」という標題がついている。

この曲はアンデルジェフスキとルディが録音している。
ルディのシマノフスキは、クリスタルのような輝きと艶やかさで煌くような音色がとても綺麗。
アンデルジェフスキよりも、音の線がやや太く濃密な叙情感が篭もっていて、色彩感もより強い。
メリハリのあるディナーミクと、シャープなリズムで、緩急・静動のコントラストも明瞭で、その間を移行するときの音楽の流れが自然。

アンデルジェフスキが透明感がある水彩画だとすれば、ルディの方はカラフルで濃厚な色合いの油絵。
ルディの《メトーブ》は和声の響きがゴージャスすぎて、アンデルジェフスキの方が神秘的な雰囲気が強い。
逆に、《仮面劇》は絵画のような描写力で叙情感も濃厚なので、《メトープ》よりも曲想に合っている気がする。
アンデルジェフスキは、音自体で完結した世界。物語性が少なく、複数の旋律線のクリアな動き、音の色彩感、ソノリティの多彩さで構築されたような抽象的なものを感じる。こういう《仮面劇》は今まで聴いたことがない。



EMI盤のシマノフスキ作品集。ルディのピアノソロ録音と、ヘルシャー&ベロフによるヴァイオリンとピアノのための曲集を収録。
ルディのソロアルバムは廃盤だし、この2枚組廉価盤には、有名な《神話》が収録されている。
Piano Works / Works for Violin & PianoPiano Works / Works for Violin & Piano
(2005/08/30)
Szymanowski、Hoelscher 他

試聴する(米amazon)

ルディのピアノソロアルバム。(廃盤)
Szymanowski;Piano WorksSzymanowski;Piano Works
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Mikhail Rudy

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Maski/仮面劇(マスク)Op.34

シマノフスキのピアノ・ソナタは、”オカルティズムのないスクリャービン風”な気がするけれど、《メトーブ》や《仮面劇》は”神秘的なドビュッシー風”。
《仮面劇》は、《メトープ》よりも神秘的な幻想性はやや薄くなり、劇半音楽のように演劇のシーンが浮かんできそうな描写的なタッチ。
<ハインの好きなクラシック>の作品解説がとても詳しい。楽譜を見ながら聴けば、もっと面白く聴けそう。

第1曲:Shéhérazade/シェエラザーデ(シェエラザード)
『シェエラザード(シェヘラザード)』といえば、”シェエラザード”は、アラビアの代表的な説話文学「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」に登場する女性。
女性不信に陥ったアラビア国王シャリアール王は、若い女性に夜伽をさせては一夜限りで処刑していた。大臣の娘で才色兼備の聡明な女性シェエラザードは、自ら進んで”1001夜”に渡って面白い話を語り続けて、王もとうとう改心し、シェエラザードは王妃となった。
シェエラザードが語った有名なお話というと、「アラジンと魔法のランプ」、「アリババと40人の盗賊」、「シンドバッドの冒険」。子供の頃に読んだけれど、すっかり忘れてしまっていた。
アラビアンナイトにまつわるクラシック曲では、リムスキー・コルサコフの交響組曲《シェエラザード》が有名。

冒頭は、アラビアンナイトの始まりを告げるようなプロローグ風。
《メトーブ》の「セイレーンの島」のように、シマノフスキらしい神秘的で幻想的な和声と旋律。
続いて、シェエラザードが物語りを語り始めたかのように曲想が変わり、劇伴音楽のような描写的で動的なパッセージが次から次へと登場。

アンデルジェフスキやルディの音源がなかったので、これはアラウ晩年の弟子だったギャリック・オールソンの演奏。
(シマノフスキを聴くなら、やっぱりアンデルジェフスキかルディの録音の方が良いと思う)
Karol Szymanowski - Masques, Op. 34 [Garrick Ohlsson] (1/2)
Movement I: Shéhérazade



第2曲:Tantris le bouffon/道化のタントリス
冒頭から、”道化”らしく軽妙な行進曲風のリズム。サーカスの曲芸を見ているような旋律も出てくるけれど、シマノフスキの和声のもつ諧謔さは独特。途中で優雅なワルツが出てきたりする。
ドビュッシーの《風変わりなラヴィーヌ将軍》も滑稽な雰囲気の曲だったけれど、和声的にはなじみやすくて軽妙さがぴったり。
シマノフスキの独特の和声には、諧謔さはあっても、(ドビュッシーにはない)アラビアンナイト的な異国情緒がある。

第3曲:Sérénade de Don Juan
”ドンファン”の冒頭は、派手な和音のトレモロ。色男で軽佻浮薄?な素材のせいか、リズムのバリエーションが豊富。
《仮面劇》の3曲は、それぞれ似たような断片的な旋律や和声が出てくるので、部分的に聴くとどの曲なのかはっきりとはわからなくなってくる。
たまにドビュッシーの前奏曲で出てくるようなリズムや旋律が現れてくる。
シマノフスキに比べて、ドビュッシーは陽性というか、和声に透明感があり、神秘性・粘着性が薄くて、曲自体に開放感(”健康さ”)がある。
それに、断片的な旋律がコラージュのように現れて場面が次々に転換していくようなシマノフスキをずっと聴いていると、ときにつかみどころがない気がするドビュッシーの曲が、はるかにわかりやすく思えてくる。

Karol Szymanowski - Masques, Op. 34 [Garrick Ohlsson] (2/2)
Tantris le bouffon、(5:43~)Sérénade de Don Juan

tag : シマノフスキ ルディ

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ソコロフ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番《テンペスト》
最近、ソコロフのベートーヴェンのライブ録音が大量にYoutubeに登録されている。
ソコロフは、今は全くレコーディングしない主義。所属レーベルのnaiveは、それにも関わらずリサイタルを録音し続けている。
ソコロフの方は、自分が亡くなった後は(ライブ録音をCD化するのは)”お好きにどうぞ”というスタンスらしい。

ソコロフは随分長い間、欧州大陸でしかリサイタルをしていないらしい。(飛行機嫌いのせい?)
来日する可能性はほとんどないので、実演が聴けるYoutubeの音源は貴重。
ソコロフは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタは初期~後期の作品まで、大曲・名曲・小曲に関わらず多くの曲をリサイタルで弾いている。
いつかライブ録音のピアノ・ソナタ全集がリリースされる日が来るのかも。
現時点で、正規録音のCD/DVDでリリースされているのは、第4番と第28番がスタジオ録音のCD、第9番・第10番・第15番《田園》はライブ録音のDVD。(この他に海外レーベルの海賊盤も出ている)

Youtubeで見つけたソコロフのテンペストは、さすがにソコロフらしく個性的。
ソコロフが若い頃に弾いたショパンの《ピアノ協奏曲第1番》を思い出すような、瑞々しさと、品の良い叙情感がとても美しい。
一番好きな第3楽章は、AllegrettoをAllegroのように速く弾く人が多いし、耳もそれに慣れている。
ソコロフは、ややゆっくりしたテンポで、実際の演奏時間は8分20秒ほど。
今まで聴いたなかで一番テンポが遅かったアラウの7分43秒よりもさらに長い。
実感としても、テンポはとても遅い。でも、不思議とその遅さが気にならない。
逆にこれくらいで良いのかも...と思ってしまうほど。

ソコロフの瑞々しい音は色彩感が美しく、和声の響きのバリエーションも多彩。
この曲がこんなに音響的に美しい曲だったのだと、改めて気づかされてしまう。
ダイナミックレンジも広く、細やかなタッチで表情もコロコロと変化し、山と谷の起伏が大きいのでドラマティック。
”テンペスト”という標題のイメージとは違って、嵐が吹きすさぶ...という激しい勢いはないけれど、線が細く細部まで繊細な表現は、複雑でデリケートな内面の心理劇を音で表現しているように思えてくる。
そういう意味では、演奏の方向性がアラウに似ている。
アラウのテンペストは、アラウ自身の言葉どおり「内なるざわめきと不安の感情」が次から次へと形を変えて現れてくるようだった。

第3楽章は21:17~。
Beethoven: Piano Sonata n°17, op. 31 no.2 (G.Sokolov, piano) Moscow 1981 



<関連記事>
グレゴリー・ソコロフ 『ライブ・イン・パリ ~ シャンゼリゼ劇場リサイタル』
アラウ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第17番”テンペスト”

tag : ベートーヴェン ソコロフ

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ペーター・レーゼルの講演・公開レッスン (追加情報)
日本ピアノ教育連盟の第28回全国研究大会に関するレポート後半部分が、ホームページで公開中。
ペーター・レーゼルが行った講演と公開レッスンの内容(後半)が、PDFファイルで紹介されています。

「ブラームスのピアノ作品における様式と その変遷について〈後編〉」 [機関誌会報 2012年夏号 No.110](PDF)

ペーター・レーゼル 公開レッスン(B・C部門) [機関誌会報 2012年夏号 No.110](PDF)


前半部分は過去記事に記載ずみ。
ペーター・レーゼルの講演・インタビュー

tag : レーゼル ブラームス フランツ・リスト

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パンと添加物
いつもホームベーカリーで食パンを焼くのがすっかり習慣になってしまい、パンを買うことがほとんどない。
そもそも菓子パン・惣菜パンの類はめったに食べないので、食パンにベーグル、フランスパン、フォカッチャ、ナンが自分で作れれば、充分。
ほんのたまに、焼きたてパンを出すベーカリーショップでハード系のパンや菓子パンを買うこともあるけれど、その時に気になるのは、袋詰めしていないパンには成分表示がないので、原材料が確認できないこと。(未包装の食品や、焼きたてパンや食品の量り売りなど店頭で包装されるものなどは、法律で成分表示が免除されている)
食パンは、普通は袋詰めして販売しているので、成分表示を見ると、添加物がいろいろ入っている。
ベーカリーショップと言っても、シンプルな食パンでこの状態なら、菓子パン・惣菜パンの類も推して知るべし..という気がする。天然酵母を使ったりしている有名な高級ベーカリーショップとかだと違うのかもしれないけれど、近くにお店がないので未確認。

<ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)>というブログに、パンと添加物をめぐる詳しい解説記事があって、科学的な情報がかなり多い。
- 「ヤマザキパンはなぜカビないか」 ~FOOCOM.NET記事より
- 続「ヤマザキパンはなぜカビないか」
- 続々「ヤマザキパンはなぜカビないか」臭素酸カリウムについて
- 続×3 「ヤマザキパンはなぜカビないか」 ~食品に生えるカビとその毒性について

ヤマザキパンは添加物が多いと昔から言われているけれど、それは同社に限ったものではなく、袋物のパンメーカーはどこも似たようなもの。
スーパーの店頭にたくさん陳列されている大手・中小パンメーカーの袋入りパンの成分表示を見ていると、一部の食パンを除いて、複数の添加物を使っている製品がほとんど。
神戸屋、パスコ、フジパン、第一パンなどの大手から、最近よく見かけるオイシス、ニシカワ食品(それに、スーパーのPB)のパンも、菓子パン・惣菜パンには、ヤマザキパンと同等かそれ以上(数種類~10種類前後)の種類の添加物が表示されている。
”イーストフード・乳化剤無添加”の食パンを売り物にしているメーカーであっても、食パン以外は添加物を減らすのは難しいらしい。

添加物が比較的少ないのは、シンプルな食パン、フランスパン、昔ながらのアンパン、ドーナツなど。
菓子パン・惣菜パン・デニッシュパンなど、ホイップクリーム・カスタードクリーム・ソース・チーズ・ハム・ソーセージ・マヨネーズなどを使っているものは、特に添加物が多い。
フィリングに使われている材料自体に添加物が数種類使われているので、最終的に添加物の表示も増えてしまうのだろう。

ヤマザキパンの食パン(芳醇、超芳醇)に特徴的なのは、「臭素酸カリウム」が使われている点。
原則として使用が禁止されている「臭素酸カリウム」が、パンだけに使用許可された経緯には興味深いものがある。
「臭素酸カリウム」は、EUでは使用禁止、米国では使用OK(ただし、1991年にFDAは自主的に使用中止するよう求めているという)。日本では、パン以外は使用禁止。
なぜ、パンに使っても良くて、他の食品には使ってはいけないのか?
不思議なものがあるけれど、パンの場合は、焼成中に臭素酸カリウムが高温で分解し、「残存が検出されない」ため、使用が認められている。(分析機器の測定限界があるので、「残存ゼロ」とは言えない)
それなら、他の食品でも、焼成中に分解して(ほとんど)残存しないことが確実なら使えば良いのに、どうやら厚生労働省がパンへの使用を承認しているのは、業界の主張を認めたためらしい。(そもそも当初、厚生労働省は使用自粛するよう業界団体へ指導していた)

厚生労働省の指導により、「臭素酸カリウム」を使用したパンにはその旨が表示されている。
ヤマザキパンの角食では「超芳醇」「芳醇」には使用されているが、それ以外の食パンには表示はなし。
山食(イギリスパン、ダブルソフト)には使用されていない。(焼成時に型を密閉しないので、臭素酸カリウムの残留量が多くなる)

「臭素酸カリウム」を食パンに使っているのは、どうやらヤマザキパンのみ。
それほど「臭素酸カリウム」の使用に拘るのは、他社とは違った品質のパンを製造するために重要な添加物だからなのだろうと思う。他メーカーは、ビタミンC等を代用している。


ヤマザキパンのパッケージに印刷されているの「臭素酸カリウム」に関する表示は以下の通り。

「超芳醇(レーズンを含む)」「芳醇」は品質改善と風味の向上のため臭素酸カリウムを使用しております。
その使用量並びに残存に関しては厚生労働省の定める基準に合致しており、第三者機関(日本パン技術研究所)による製造所の確認と定期検査を行なっております。
((社)日本パン工業会 科学技術委員会小委員会)


同社ホームページに記載されている解説資料:
●臭素酸カリウムに関する解説:社)日本パン工業会科学技術委員会小委員会のホームページ
●論文:「パン用生地改良剤である臭素酸カリウムの安全使用について」(PDF)「パン用生地改良剤である臭素酸カリウムの安全使用について」(PDF)


                            

最近、「浅漬けによるO157集団食中毒」がニュースになっている。
今回の事件の原因は、通常の倍量の野菜を使ったため、消毒液の濃度が低下して、十分に消毒・殺菌ができなかったためらしい。
<時代おくれの漬物屋ブログ>に、「漬物と添加物」の情報が載っている。漬物を大量生産するメーカーでは、漬ける野菜を「次亜塩素酸ナトリウム」で消毒するという。

<生協の宅配パルシステム>の製品例では、市販の浅漬けタイプの漬け物の賞味期限は、ほぼ1週間から2週間。
浅漬けの場合は塩が少ないので、日持ちも悪い。しっかり消毒しておかないと雑菌が繁殖して、今回のように食中毒を起すことになる。
家庭で作るお漬物は、消毒しないし、ソルビン酸カリウムなどの保存料も使っていないので、日持ちするのはせいぜい1週間。

市販の漬物は、じっくり"漬ける"というよりは、多種類の添加物混合液に浸しているようなもの。
成分表示に添加物がズラズラ並んでいるのを見ると、どうにも買う気がしなくなる。
自宅で食べるお漬物は全て自家製。たいてい2~3日で食べ切ってしまうし、塩や酢も入っているので、今までお腹を壊したことはないので安心。
自家製といっても、ぬか漬けは手間がかかるので、作るのは浅漬け・甘酢づけ・醤油づけ。材料が塩、お酢、砂糖、しょうゆ、こんぶくらい。作り方もいたって簡単。(ただし、市販の「浅漬けの素」は添加物が数種類入っているので使わない)
特に、今流行っている「塩こうじ」で野菜(大根、なす、きゅうり、白菜など)を漬けると、これがとても美味しい。好きだった甘酢漬けにかわって、今は塩こうじ漬けのお漬物がほとんど。
冬になると、酒粕の大パックを買うので、手づくりの酒粕づけの季節。みりんで酒粕をのばしてから野菜を漬けると、これも美味しい。

                            

『食品の裏側―みんな大好きな食品添加物』は、食品添加物を売る側・買う(使う)側のインサイドストーリー。
実話で面白いことに加えて、加工食品別に使われている添加物が書かれているので、商品を買う上でいろいろと役に立った。
科学的に間違った記述が多く"トンデモ本"と言われた『買ってはいけない』と違って、実際の食品添加物メーカーの営業マンが書いた話なので、実体験に裏付けられたリアリティと説得力がある。
添加物を使うのは造る側・売る側の都合なのだろうけれど、その添加物によって、加工食品が安く作れて、品質も安定し、長期保存もできるので、消費者にとっても便利な代物。
そういう意味で、製造メーカー、小売業者、消費者は、”互恵”関係にでもあるというところだろうか。

食品の裏側―みんな大好きな食品添加物食品の裏側―みんな大好きな食品添加物
(2005/10)
安部 司

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<過去記事>
安部 司 『食品の裏側 - みんな大好きな食品添加物』
無知というのはオソロシイ『食品の裏側』


amazonを探していると、無添加食品の危険性について書いた本がある。これは未読。発行が日経BPコンサルティング。
どんなことが書かれているのかちょっと興味があるので、参考までに読んでも良さそう。

無添加はかえって危ない ―誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない無添加はかえって危ない ―誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない
(2011/08/01)
有路昌彦

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フランク・リースナー 『私は東ドイツに生まれた - 壁の向こうの日常生活』
旧東ドイツに関する本は、東西ドイツ統一前後とその後の情勢に関するものが多く、旧東ドイツという国の社会システムに関するものは、意外に少ない。
探してみると、政治・経済体制に関する学術書や、東ドイツに在住・留学・訪問経験のある日本人によるルポルタージュが数冊。
興味を引かれたものを順番に読んでいるけれど、ルポは読みやすくて、知らない情報も多く、インフォマティブ。数冊読んでいると、それぞれのアプローチもスタイルの違っているので、同じ”現実”でも捉え方が異なることもあり、違った視点で見ることができる。

切り口の面白さという点では、伸井太一氏の”ニセドイツ”シリーズが一番。東ドイツ製の工業製品と生活用品を通して、東ドイツがどういう国だったのかよくわかる。
東ドイツに暮らしていた人たちの(ある程度)”本音”らしき話が読めるのが、インタビューが多い平野洋氏の『伝説となった国・東ドイツ』。
医学者の東ドイツ訪問記『ドレスデンの落日と復活 ~ 精神科医が見た東ドイツ終焉前夜』は、煉炭中毒の話とかアスベスト問題など、他の本では知ることのできない、医学者らしい視点での話が入っている。

意外にも、当の東ドイツ人が書いた本がなかなか見当たらない。
翻訳が少ないのか、元々そういう本自体、出版されていないのか、どちらかよくわからないけれど、
最近出版されたフランク・リースナー氏の著書『私は東ドイツ(DDR)に生まれた』は、東ドイツで生まれ育った東ドイツ人による、東ドイツの社会と日常生活を報告した珍しい本。
社会主義国家である東ドイツの社会制度から外交政策、”普通の”東ドイツ人の日常生活や社会体制に対する意識など、幅広いテーマを扱っている。
統一後の旧東ドイツ領域の現状と生活に関する話はわずか。(著者は、ドイツ統一後来日して、生活の拠点を日本に移している)
統一後のドイツに関しては、他の本や資料がいろいろ出ているので、特に本書で詳しく書かれていなくても全然かまわない。
著者の実体験がベースになっているため、特定の話題-国民車”トラバント”をめぐるカーライフや”国家人民軍(NVA)”-に関する部分は内容が詳細で分量も多く、かなり熱心に書いている。

個人的には、東ドイツに関してはクラシック音楽でしか接点がないので、その当たりの情報を期待していたけれど、言及はなし。
「東ドイツの有名人」では、筆頭がスポーツ選手がカタリーナ・ビットなど8人。
文化人で名前が上げられているのは、思想家マルクス、作家ブレヒトのみ。画家・音楽家など芸術家はゼロ。(国際的に知られた人を取り上げているせいなのか、分野が偏っている気がしないでもない)

情報量と詳細さではテーマによって違いはあるけれど、扱っている領域が政治・文化・日常生活まで幅広く、頁数にして300ページ以上と情報量も多い。
何より、東ドイツ社会の内側で生活していた人しかわからない情報が詰め込まれていて、これはとても貴重なドキュメント。

私は東ドイツに生まれた―壁の向こうの日常生活私は東ドイツに生まれた―壁の向こうの日常生活
(2012/03)
フランク リースナー

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 ※本書は、ドイツで出版された独文書籍を翻訳したものではなく、フランク・リースナー氏がドイツ語で書いた原文を日本人翻訳者が日本語に訳して、日本で始めて出版されたもの。

書評:”自由を手に入れ、過去を懐かしむ”(楊逸,2012年05月20日)[asahi.com]


著者リースナー氏の立場
リースナー氏は、東ドイツに関して書かれた西側の書籍について、「多くの場合、壁の向うの生活を完全に否定している。たいていは、シュタージやバナナ不足の描写に終始する。」と評している。
実際には、「ドイツ社会主義統一党(SED)やシュタージに加わることもなく、いわゆる「自由」を持たずとも東ドイツで幸せに生活していた人間がいた」。
彼は、「東ドイツが気に入っていた」し、「生まれてから24年間をそこで過ごし、幸せに暮らしていのだ。無償で質の高い職業教育を受けさえてもらった。家族の中には共産主義者なんてひとりもいなかったし、西側のテレビ番組だって視聴していた。クリスマスには西側の親戚から小包をもらい、週末はトラビに乗っていた。」
東ドイツの体制に対する批判めいた言葉を公けの場で漏らして、シュタージに目をつけられない限り(そうなると人生が狂わされることになる)、これが平均的な東ドイツ人の生活だったのかもしれない。

ベルリンとドレスデン
- 東ドイツ時代に政治的な機能を果たしたのは、2つの大都市-ドレスデンと首都ベルリン。
- ドレスデンとその東側地域は当時、「事情を知らぬ者たちの谷(Tal der Ahnungslosen)」と呼ばれていた。エルフ山脈によって電波が遮断され西側のテレビ番組が受信できなかったからである。国家人民軍NVA、東ドイツ国軍)の防衛大学校がここに置かれ、この谷に位置するゲルリッツなどの都市は、士官養成の中心地だった。
(注)『ニセドイツ1≒東ドイツ製工業品』によると、ドレスデン市では多数の団体の協力で、1987年にサテライト放送受信機が設置され、西側のテレビ番組が受信できるようになった。

- 東ドイツは国際的な承認を求めており、諸外国にプレゼンテーションを行う必要があり、貴重な広告費の投入は首都ベルリンに限定。レジャー施設、近代的な住居、美しい環境、他の都市よりはましな品揃え。ベルリンは共和国の「表看板」。
- ベルリンには、シュタージの役人、税関吏、国境警備隊の兵士が多数居住。
- ベルリンへの転居は非常に困難で、政府の許可が必要。ドイツ再統一の発端となる反政府デモを起したのは、地方都市ライプツィヒの市民たちで、特権階級にあったベルリンの市民たちではありえなかった。

東ドイツの政治家
- 東ドイツの歴代三人の政府首班は、ヴィルヘルム・ピーク、ヴァルター・ウルブリヒト、エーリヒ・ホーネッカー。
<ピーク>
- 1960年まで大統領を務めたが、謙虚なお人よしとみなされていた。

<ウルブリヒト>
- ピークよりも、実際に強大な権力を握っていたのは政権与党SEDの最高幹部ウルブリヒト。
- 戦時中にソヴィエトへ亡命した共産主義者のひとり。それほど好感の持たれるタイプではなかったが、それでも東ドイツの歴史の中では後任のホーネッカーよりもましな国家元首として捉えられている。世の中を現実的に判断できる徹底した政治家。学者や知識人にアドバイスを提供させ、自ら決定を下していった。
- 60年代にして極めて理性的な経済政策を打ち出していた。企業にそれまでより大きな自己裁量権を認め、SEDの幹部たちではなく、専門家たちに財政的に重要な判断をさせようとした。
- これらの政策のせいでSED内部に敵を作った。上昇志向のホーネッカーが、60年代末に事態をモスクワに密告。ウルブレヒトの政治手法はソヴィエトにとって資本主義的過ぎたため不興を買い、1971年に失脚。ホーネッカーにSED最高幹部の座を譲り渡した。

<ホーネッカー>
- ホーネッカーの政治的関心は、民衆を満足させるために労働と消費の均衡を保つこと。
- 彼は基本的な食料品の価格を低額に抑えるための助成金制度を堅持した。彼の政治は柔軟性に書けお粗末な内容だった。
- 彼にとってなにより重要だったのは、国際社会における東ドイツの評判。スポーツは資本主義と比較するための格好の物差しで、力を入れていた。一方、経済分野では西側に比べ数年分もの遅れをとっていた。

東ドイツの有名人
<ベルトルト・ブレヒト>
1953年後の労働者蜂起後、体制に順応した多くの芸術家らは国民を厳しく非難したが、劇作家ブレヒトは中立的な立場を取り続けた。東ドイツは彼の国際的評判と世界中を廻って身につけた豊かな経験を必要とした。余人をもって代えがたい天才だった。

<マンフレート・ファン・アルデンヌ>
偉大な物理学者であり、科学者。東ドイツが容認した数少ない貴族のひとり。ウルブリヒトにとって、彼は「模範的な貴族」だった。

<東ドイツにおける「貴族」の位置づけ>
- 二次大戦争後の農地改革によって、貴族たちは土地を没収され、支配者としての地位を失い、特権を奪われた元貴族達の大半は西側へ亡命。
- 貴族たちは、社会で重要な位置を占める一種のエリートだったので、東ドイツ国民からとても尊敬されていた
- 彼らは、教養、優雅さ、統率力、政治家としての立ち居振る舞いを兼ね備えていた。これらの特徴は、ほとんどが労働者階級出身である共産主義指導者にはない。アルデンヌが持つ科学分野に関する知識、シュニッツラーの話術、フェルディナント伯フォン・トゥーン=ホーエンシュタインの外交手腕など。

<ジグムント・イェーン>
軍事パイロット。1978年に宇宙に行った最初のドイツ人。東ドイツ中から拍手喝さいを浴びた。

シュタージ(国家公安局)
- 東ドイツで忌み嫌われていた秘密警察。俗称は「盗み聞きとのぞき見」。
- 正社員は「正式職員」、パートタイム労働者は「非公式協力員」と呼ばれていた。
- 正式職員は、大抵シュタージの協力者であることは周知の事実。国家公安局の職にあるか、企業・軍隊・新聞社・大学・県レベルのSED指導部で要職についていた。
- あるキャンプ場の責任者については、彼の国家の悪口を絶対に言うなと、知り合い全員が著者に忠告した。
- 非公式協力員だと見破るのは、正式職員より多少困難なぐらい。シュタージの長い触手は、どんな職場の作業チームにも、専門学校の学習班にも学校にも隙間なく張り巡らされていた。特に、軍需工場、兵舎、大学に対しては一層厳しく監視していた。
- 小さな町ではシュタージの協力者はすぐ目立つ。表立った理由がないのに、何らかの形で他の人よりも生活水準が高かったり、たいして優秀ではないのに出世が早かったりする人物は、シュタージの世話を受けている可能性があった。
- 特定の社会的地位(所長、指揮者、教授、局長)にある人々は、シュタージと協力関係にあるのではないかと疑われることが多かったが、確実にそうだと断言はできなかった。シュタージの協力者でなくとも、適格であれば責任ある役職につくこともある。
- 東ドイツ時代には、シュタージの活動内容について具体的なことはほとんど知られていなかった。著者が理解していたのはただ、言動には気をつけなけばならないということ、彼らがその気になれば自分の人生は狂わされてしまうだろうということだけだった。シュタージの拷問や拘留施設について詳細を耳にしたのは、壁の崩壊後。

ベルリンの壁
- 建国後の1953年に労働者が蜂起したが、駐留ソヴィエト軍により鎮圧。戦後数年間、ソヴィエトに支払う信じられないほどの高額な賠償金のため、労働階級は疲弊しきっていた。アメリカからの包括的な援助は西ドイツのみに施され、東ドイツに見切りをつけて西側へ逃亡する人々も後を絶たなかった。
- 1961年、これ以上の人材流出を防ぐためにベルリンの壁が建設された。その後、1960年代後半~70年代後半まで東ドイツは経済的繁栄を迎えた。
- 東西ドイツ統一後、「プロレタリアの独裁国家」から「金の独裁国家」へとたどり着いた。

- 東西を分断する占領地区間の境界線は、まるで東ドイツが血を流している大きな傷口。何もしなければ東ドイツは失血死していただろう。教育を受けた優秀な若者たちはさらに西側へ流出し、人口は劇的に減少したに違いない。壁の建設は国民からどれだけ非難を浴びようと、国際政治上合理的な処置だった。
- 1961年7月の1ヶ月間で東ドイツから計3万人もの亡命者が出たが、大半はベルリン経由。その中には、医者や技師、学者などの専門技術者も多かった。

- 「国境突破の防止に関わる銃器使用は、個人に対する権力行使の最終手段である。」(1982年制定の国境法第27条)。兵士が民間人に対して発砲するなんてことが、国際都市ベルリンのイメージになってはならないので、東ドイツの上層部も、重要なイベントの前や、国賓来訪の際には国境警備隊に銃器の使用を禁止していた。
- 特定の場所で動き回る標的の足に銃弾を命中させて(射殺せずに)動きを封じる芸当は、なかなかできるものではない。
- ベルリンの壁では実弾を使った警備が行われていると全ての東ドイツ国民は理解していた。国境を越えることはいわば犯罪行為。リスクが高いことは周知の事実。西側のテレビは、亡命に失敗した人々の顛末を事細かに報道。
- 公的に定められた国境通過点を利用すれば安全に出国できたが、そこを通るには国からの許可が必要だった。ベルリンの壁で命を落としたのは138名。ベルリン以外の国境線では221名。ベルリンの壁で命をおとした亡命者は壁の建設から5年以内に行動を起した者たち。犠牲者の大半が、青年、あるいは30歳以下の男性だった。
- 公式発表によると、28名の東ドイツの国境警備隊員が命を落としている。加害者は、武装した亡命者、西ドイツ側の国境警備隊、西ドイツ側の亡命幇助者。
- 当初、亡命を手助けする「亡命幇助者」たちは、東ドイツ政府に一泡ふかせる一種の英雄のようにみなされていた。しかし、西での生活を実現させる見返りとして、亡命希望者に法外な報酬を吹っかけていたので、あこぎな商売人なのが明らかになっていった。
- 特に亡命幇助者が西ベルリン出身の場合、東ドイツ政府は、西ベルリン市民は人身売買を行っていると西側に対して非難した。それはあながち的外れでもない。亡命劇が東ドイツのプロパガンダに利用されたせいで、亡命幇助者は、関与した一連の活動で死傷者が出た場合には、西ドイツの裁判所で責任が問われることになった。

合法的な亡命(出国申請)
- 東ドイツを去る人の数は、80年代に入ってから再び急激に増加。壁の崩壊直前だけではなく、80年代を通じてずっと増え続けていた。彼らは堂々と亡命を国に申請したが、それは命知らずの賭けではなかった。
- 1984年には、約4万人が東ドイツを去る。国から合法的に脱出するチャンスがあるという噂が広まると、出国申請者はあとを絶たなくなっていった。東ドイツにおいて最も恵まれた環境にあった若い世代が、先を争って祖国を去っていった。無償の教育制度、若い家族への助成制度を享受し、他の世代から妬まれるほどに国からの恩恵に与ってきたというのに。
- 80年代になっても、壁を越えて亡命する人がいたのはなぜか? 大半は30歳以下の男性だった。
- 出国申請が通るまでは、大抵の場合長い時間がかかった。間違いなく、まず一度は却下される。その後はいつか願いが叶う日がくると信じて、ひたすら申請し続けるしかなかった。
- 出国申請者はそれまでの職を奪われ、墓場や教会での仕事や清掃作業へと回され、「国家の敵」の彼らはシュタージに監視される。彼らの子どもは大学進学ができなくなり、入学後であっても、除籍処分を受けることもあった。国からのあらゆる支援が取り上げられ、申請開始から許可が下りるまで、試練の日々が続く。
- しかし、大抵の場合(申請者が軍事・学問上の機密を知る人間や国際的に有名なスポーツ選手でなければ)、待っていればいつか「その日」はやって来た。

治安
- 東ドイツで市民コントロールがうまく機能していたのは、人々の生活がより緊密につながり会っていたため。職場では上司に、家では地区専属の警官や隣人、同僚によって、いつでも影響を受けかねない立場におかれていた。

国民的スポーツ「再配分」
- 東ドイツには、個人資産の他に、いわゆる「人民財産」というものが存在した。公園や、森林、公共施設、国営企業、学校などの全ての地所から、企業内で使われている工具、車の代替部品、木材、石炭などの原料や、建築材料など。
- 慢性的物不足に悩まされていた東ドイツにおいて、窃盗の誘惑ほど抗いがたいものはなかった。企業内での窃盗は厳しく罰せられていたが、誰が見咎めるというのだろうか?
- まだ使える部品を廃棄して新品を注文し、その古い部品は注文した人間が自宅で使う、運送途中に自宅に立ち寄っていくつかを荷卸して使うこともある。金属片や材木の残りを工場から家に持ち帰る行為も、本来なら立派な窃盗。会社側としてはゴミがどうなろうが知ったことではなかった。
- これらの窃盗行為には、「再配分」という一見無害な呼び名が与えられていた。人民財産の「再配分」は日常化。「再配分」に加わらない正直者こそ馬鹿を見たのだ。
- このセルフサービスが明るみに出るのは、大抵は周りの人間の告げ口。しかし、いつか報復があるという覚悟が必要。
- 企業内で連綿として続けられてきた「再配分」による備品の損失は、東ドイツの経済破綻に一役買っていたに違いない。


《目次》
はじめに

第一章 東ドイツとはどんな国だったのか?
 1 私たちはどんな国で生活していたのか?
   東ドイツ成立の国際的背景/東ドイツの区画と地名/東ドイツと私の歴史
 2 東ドイツの有名人
   スポーツ選手/政治家/思想家・作家・学者・宇宙飛行士など
 3 シュタージ(国家公安局)
   正式職員/非公式協力員
 4 ナチス時代からの脱却
   東ドイツの非ナチ化政策/反ファシズム委員会とは?/元ナチ党員の再就職先/ナチ戦犯たちの戦後
 5 ベルリンの壁
   危険な傷跡/「壁」に至る道のり/壁への風当たり/壁に走った亀裂

第二章 東ドイツの国内政策
 1 社会保障制度
   年金制度/医療体制/失業保険や生活保護はあったのか?
 2 人口政策
   子育て支援/若い家族への支援
 3 女性のための政策
   女性の地位向上/働く女性・産まない権利/東ドイツの性生活
 4 ユーゲントヴァイエ(成人式)/大衆組織
 5 雇用政策
   失業しない国/適材適所?

第三章 東ドイツと世界
 1 対外的アピール
   ひとつの国として/イメージ戦略
 2 東ドイツの経済
   社会主義経済/東ドイツマルク/外国人の受け入れ
 3 日本との関係
   経済/政治/文化と教育の交流/ゲルハルト・メーネルト教授とは?
 4 西ドイツと東ドイツ
   鉄のカーテン/越境者たち/水際の攻防/「向こう側」の虚像と実像/カーテンの隙間

第四章 東ドイツ的日常
 1 ファッション
   オッシーのファッションセンス/ジーンズ革命
 2 カーライフ
   トラバント/夢の外車/車を長生きさせるには
 3 セックスライフ
   セックスとお金/同性愛/裸体主義(FKK)
 4 治安
   低い犯罪率を誇った理由/外国人の犯罪/身近にある犯罪
 5 国家人民軍(NVA)
   私とNVA/NVAの歴史/NVAの戦力/NVA内の序列/NVA、その後

第五章 東西再統一、その後
 1 変わりゆく東ドイツ
   西ドイツ化/オスタルギー/二つの東ドイツ像
 2 東ドイツの忘れもの
   ムルティカー/赤信号での右折/アンペルメンヒェン

おわりに


《関連記事》
伸井太一 『ニセドイツ1≒東ドイツ製工業品』
伸井太一 『ニセドイツ2≒東ドイツ製生活用品』
舩津 邦比古 『ドレスデンの落日と復活 ~ 精神科医が見た東ドイツ終焉前夜』
ハンス・アイスラー/ピアノ作品集、子供の国歌


《東ドイツに関する本》(読んだ本のみ)
『ドレスデン逍遥―華麗な文化都市の破壊と再生の物語』(川口マーン惠美,草思社,2005/12)
最初はドレスデン爆撃に関する話が出てきて、体験者の話が載っている。ヴォネガットのドレスデン空爆に関する小説・ノンフィクションに載っていない話も多い。
そのドレスデン爆撃によって破壊された歴史的建物について、その歴史と再建への道のりを書いている。
現代史よりも、アウグスト強王など過去の歴史に関する話が多い。

『伝説となった国・東ドイツ』(平野洋,現代書館,2002/08)
ドイツ留学経験者である著者が、ライプチヒと東ベルリンで、統一後の東ドイツ人にインタビューした話が中心。
元シュタージ職員の話、旧西ドイツ人による土地返還訴訟、東側と西側のドイツ人の間にある差別意識など、統一前後の東ドイツの問題がいろいろわかる。気になったのは、ドイツ人(東だけでなく西側のドイツ人も含む)の他人種・民族に対する差別意識に関する内容がかなり多いこと。

tag : 東ドイツ

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アンデルシェフスキ ~ シマノフスキ/メトープ-3つの神話
ブレハッチの新譜はドビュッシーとシマノフスキ。
最初は少し意外な選曲だったけれど、ブレハッチだけでなく、ツィメルマン、アンデルシェフスキといったポーランド人のピアニストは、シマノフスキをリサイタルや録音で弾いている。

シマノフスキのピアノ曲を初めて聴いたのは、ロシア人のミハイル・ルディのシマノフスキ作品集。
10年以上も昔のことだったので、ドビュッシーやスクリャービンもほとんど聴いていないこともあって、どうも良くわからない音楽だった。
印象主義や現代音楽を聴き慣れた今となっては、シマノフスキも何の抵抗もなく普通に、それに、面白く聴ける。
シマノフスキは、ドビュッシーよりも和声は神秘的で、音楽はより描写的。同じく神秘的な作風だった後期スクリャービンとは違って、不気味なオカルティズムめいたところは全くない。

シマノフスキの作品のなかでは、ヴァイオリン協奏曲第1番と第2番は演奏会のプログラムで時々みかける。
ピアノ曲は、実演はともかく、録音は意外と多い。比較的よく知られているのは、《メトープ》、《12の練習曲》、《仮面劇(マスク)》、《マズルカ集》。他に、3曲のピアノ・ソナタ、《前奏曲とフーガ》、《変奏曲変ロ短調》、ピアノコンチェルト風の交響曲第4番(協奏交響曲)など。

ルディは、ウズベキスタン生まれで、ソ連とフランスでピアノ教育を受けたらしく、今はフランス国籍。スクリャービンのピアノ・ソナタ全集で定評があり、シマノフスキもレパートリーに入っているのも納得。
彼のシマノフスキアルバムは、《メトープ》、《12の練習曲》、《仮面劇(マスク)》、《マズルカ集》と定番の組曲集中心。
アンデルシェフスキのCDには、《メトープ》、《仮面劇(マスク)》に加えて、シマノフスキのピアノ作品のなかで最も前衛的で難解と言われる《ピアノ・ソナタ第3番》が入っている。
ブレハッチの録音は初期の作品のみ。《ピアノ・ソナタ第1番》《前奏曲とフーガ》(別盤で《変奏曲変ロ短調》)と、選曲がユニーク。
ツィメルマンのCDは、若い頃に録音したヴァイオリンとピアノのための詩曲《神話》のみ。リサイタルではピアノ独奏曲を時々弾いているけれど、録音は出していない。

アンデルシェフスキといえば、バッハやベートーヴェンのディアベリ変奏曲の録音で有名。
彼のシマノフスキアルバムはあまり聴かれていないだろうけれど、評価は高い。
実際、異聴盤を聴いていると、標題音楽的な曲であっても、物語性を強調したドラマティックな脚色は少なく、音自体で完結した世界。その音と響きの類稀なる美しさに幻惑されてしまいそう。
やはりアンデルシェフスキのシマノフスキは素晴らしい。

Szymanowski: Piano Sonata No 3Szymanowski: Piano Sonata No 3
(2008/08/12)
Piotr Anderszewski

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Meropy - 3 Poematy /メトープ-3つの詩 Op.29 [作品解説(ハインの好きなクラシック)]

シマノフスキのピアノ曲のなかで最も幻想的だと思うのは、《メトープ》。
《メトープ》はフランス語で、建築用語の浮彫石板のこと。ギリシアの神殿建築などの柱の上に置かれた物語性のある彫刻を施された部分をさす。
《メトープ》の3曲のタイトルは、いずれもギリシア神話に登場する女神/女性に由来。
メトープの実物:セリヌンテC神殿メトープ[パレルモの優雅な?生活]

どの曲も、楽譜を見て読解するのが大変だろうなあ..と思うような、独特の和声と複雑なパッセージが聴こえてくる。
音だけ聴いてもそう思うけれど、アンデルシェフスキのライブ映像を見ていると、一層そう思えてくる。
実際に楽譜を見ると、3段譜を使っている部分が多く、ドビュッシーの《前奏曲集》や《映像》よりもさらに音が過密で臨時記号も多く、音符が複雑に入り組んでいる。(単に音符を音に置き換えていくことだけでも、苦労しそうな気がする)
楽譜ダウンロード(IMSLP)


第1曲:Wyspa syren/セイレーンの島
”セイレーン”で連想するのは”セイレーンの魔女”。[セイレン(怪物森羅万象)]
美しい歌声で船乗りたちを惑わして船を沈没させる...という神話は、ギリシア神話以外にもある。

タイトルどおり、セイレーンの神秘的な歌声が全編に流れているような曲。
トレモロは水面の波動のように波打ち、高音部の右手旋律がセイレーンの歌声のように幻惑的。
波の音に紛れてどこからか歌声が漂ってくるようで、ドビュッシーの音楽よりもさらに神秘的。
いつのまにか心を惑わせて、麻痺させてしまうように美しい。
後半になると曲想が激しくなっていくところは、船乗りたちを襲っているセイレーンたちの恐ろしさ?

アンデルシェフスキのピアノの音は、柔らかくて透明感があり、漂うような軽やかさがあって、とってもファンタスティック。
声部ごとに色彩感やソノリティが違い、和声の響きも澄んで、声部の分離も明瞭。
幻想的な雰囲気を漂わせつつ、複雑に絡み合った各声部の動きが立体的で、よくわかる。
バッハ弾きのデルジェフスキらしい演奏。

Karol Szymanowski - Metopes, Op. 29 (1/2)



第2曲:Kalipso/カリュプソ
「カリュプソー」は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』に登場する海の女神。
トロイアから帰還する途中、船が難破してオーギュギア島に漂着したオデュッセウスを7年間引き留め、2人の息子も生まれた。
「海」の女神なので、これも波打つようなトレモロが入っていたりして、ところどころ「セイレーンの島」に似ている。
最初は姿を現さずに歌声だけが聴こえるセイレーンよりも、オデュッセウスと暮らしたこの女神の方が実在感が強いせいか、「セイレーンの島」よりは和声の響きに厚みがあり、幻想性がやや薄く、逆に粘着的な圧迫感を感じる。

Karol Szymanowski - Metopes, Op. 29 (2/2)



第3曲:Nausicaa/ナウシカア
”ナウシカ”というと、すぐに連想するのは宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」のヒロイン。
アニメの主人公ナウシカのモデルは、『堤中納言物語』の「虫愛づる姫君」。名前はギリシアの叙事詩『オデュッセイア』に登場する「王女ナウシカア」に由来する。
『オデュッセイア』では、ポセイドーンによっていかだを嵐で吹き飛ばされ、スケリア島の海岸に漂着したオデュッセウスを助けたのが、ナウシカア。

第1曲と第2曲とは違って、音がびっしり敷き詰められた濃密で妖しげな叙情感や幻想性はなく、具体的な情景が浮かんでくるような写実的なタッチ。
冒頭は、ゆったりとしたテンポでまどろむように優しく包み込むような旋律。しとやかで可愛らしい王女ナウシカアのイメージ?
やがて、軽やかでスキップして遊び回っているように楽しげな旋律に変わる。
徐々にテンポが上がり、音も増えて和音があちこち飛び跳ねて、気が動転して慌てふためいているかのような錯綜した雰囲気。
A tempo(Vivace)は、右手4度と左手5度のスケールから右手左手が交互に重音のffに変わりながら、一気に鍵盤を駆け下りる。締めくくりは、とうとう決着したような右手和音と左手トレモロ。音が水面で飽和して広がっていくような感覚。
ここは、お城の外で遊んでいるときに、海岸に倒れているオデュッセウスを発見して、走り回って大騒ぎしている情景のようにも思える。
最後は、波が引いて水面が静止していくように音がまばらになり、静かに密やかにフェードアウト。

「セイレーンの島」の夢の中のような神秘的な雰囲気とは違って、「ナウシカア」は現実世界の人間や情景を描いたような曲。
楽譜を見ても、幻想性の強いアルペジオが少なくなり、スタッカートの重音や規則性・運動性のあるパッセージが並んでいる。旋律もリズムもわかりやすく、躍動感の強いパッセージが多くて面白い。《メトープ》のなかでは一番好きな曲。

tag : シマノフスキ アンデルシェフスキ

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グリーグ/チェロソナタ
アルフレッド・パールのディスコグラフィをチェックしていてたまたま見つけたのが、グリーグの《チェロソナタイ短調 Op.36》。
カップリングは、ラフマニノフの《チェロソナタ》。
グリーグはピアノ協奏曲以外はほとんど聴かないので、ピアノ作品でさえどういう曲があるのか、《叙情小曲集》以外はわからない。

グリーグが書いたチェロソナタは1曲のみ。(ヴァイオリンソナタは数曲書いている)
グリーグとラフマニノフというのは、作風が全然違うというイメージがあるけれど、グリーグのチェロソナタを聴いてみると、第1楽章と第3楽章の急速部分はかなりラフマニノフ風。
ロシア音楽のような粘着性のあるパッションではなくて、もっとストレートで後味すっきり。(ラフマニノフもあまり聴かないので、この印象はもしかしたら違うかも..)
ピアノ伴奏のヴィルトオーソ的なパッセージがとても華やか。
疾風怒涛の如くテンションが高くて、激しさが静けさと頻繁に交代し、ほの暗い情熱が燃え立つようなロマンティシズム溢れる曲。

第1楽章Allegro agitato
主題部分でピアノが和音で弾いている旋律は、一度聴くと記憶にしっかり残るようなとってもパッショネイトな旋律。
まるでラフマニノフの曲のように思えてきて、ラフマニノフのチェロソナタとこんがらがってしまった。
突然静まりかえったアダージョ風な第2主題になると、これはラフマニノフの世界とは違って、北欧の明るく透明感のある清々しい叙情感が漂っている。

楽譜を見ないで聴いていたので、中間部に入るところが少しわかりにくい。
最初は比較的テンションを抑えてほの暗い叙情感のある旋律だったのに、徐々にパッショネイトになっては、テンションが再び下がって、また激しさを増していき、再現部へ。
緩急・静動の差が激しく、それがたびたび(ときに突如として)交代する。
動的な部分は情熱を叩きつけるように激しい曲だったのに、緩徐部分になると全く雰囲気が変わって、大らかで伸びやか。
曲のところどころでピアノ協奏曲に出てきたような旋律(ピアノのアルベジオ伴奏とか)が聴こえてくる。

Grieg Cello Sonata Opus 36 Rostropovich Richter 1. Movement



第2楽章 Andante molto tranquillo
冒頭主題は、北欧の寒い夜に、暖かい家のなかでゆったりとくつろいでいるようなのどかさと静けさがある。
窓の外ではしんしんと雪が降っているような旋律のピアノ伴奏。と思っていたら、途中で感情が昂ぶったように激しくなる。

Grieg Cello Sonata Opus 36 Rostropovich Richter 2. Movement



第3楽章Allegro
第3楽章は序奏付き。主題に入ると、第1楽章のようにテンション高く、疾走感のある舞曲的な旋律。
馬が疾走するようにリズミカルで躍動的。ラフマニノフの《チェロ・ソナタ》や《パガニーニ狂詩曲》を連想するような雰囲気がある。
Allegroの最終楽章にしては緩徐部分がかなり多く、そこでは穏やかに始まるけれど、徐々にパッショネイトになっていく。
旋律自体はあまりメロディアスではなく、一気に疾走するかと思うと、急にテンポが変わって穏やかになったりする。(このチェロソナタはどの楽章もそういうところがある)

Grieg Cello Sonata Opus 36 Rostropovich Richter 3. Movement


tag : グリーグ リヒテル

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ユージナ ~ ベルク/ピアノ・ソナタ
ベルクの《ピアノ・ソナタ Op.1》は、現代音楽の名曲とされるもののなかでも、特に好きな曲の一つ。
初めてグールドの録音でこの曲を聴いて以来、グールドの演奏がマイベストだった。
硬質で透明感のある音色とシャープなタッチで、ベルク特有のネットリした濃厚な叙情感とは違って、研ぎ澄まされたクールな叙情感が美しい。

ユージナは現代音楽(20世紀の音楽)の録音がかなり多いので、ベルクのピアノ・ソナタも録音していた。
共産主義体制下のソ連では、前衛的な現代音楽は”不健全で退廃的”な音楽とみなされていたので、この種の音楽を作曲・演奏すると当局の著しい不興を買うことになる。
ユージナは国外(西側だけでなく東側諸国でも)の演奏活動はほとんど許可されず、ソヴィエト国内での演奏・録音活動、それに教育活動も禁止されたことも度々。
それでも、”スターリンのお気に入り”のピアニストだったことが幸いしたのかどうかはわからないけれど、窮乏した生活を送りつつもピアニストとして生き延びた。
スタジオ録音やライブ録音が音質が悪いものが多いとはいえ、かなりの数が残っている。

1964年に録音したベルクの《ピアノ・ソナタ》は、ユージナらしいベルク。
激しいディナーミクの変化で大小さまざまな起伏のあるダイナミックな演奏。
音質は悪いけれど、声部もそれぞれくっきりと明瞭。弱音部のやや篭もった音色で色彩感や和声の響きが美しい。
フォルテのタッチは針のように鋭く尖っている。時折挟まれる柔らかく厚みのある弱音のパッセージでも、緊張感が緩むことがない。
ベルクらしい叙情感が、音の間から激しく湧き立ってくるけれど、ネットリとまとわりつくような粘着性は薄く、突き刺すような激しさがある。
グールド以外のベルクは、どちらかというと繊細な弱音で内省的・瞑想的な雰囲気の強い演奏が多い。
ユージナはそれとは逆方向。鋭角的なタッチで激情的でありながらも、透徹した美しさと厳しさがあり、明晰。
思考して組み立てた音楽というよりは、直感的なインスピレーションに満ちている。


Maria Yudina plays Alban Berg Piano Sonata Op. 1


tag : ベルク ユージナ

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日本うつ病学会が公表した国内初の「うつ病治療ガイドライン」
日本うつ病学会が国内初の「うつ病治療ガイドライン」を2012年7月26日に公表した。

『日本うつ病学会治療ガイドライン II.大うつ病性障害 2012 Ver.1』(2012.7.26作成) (PDFダウンロード)


<ガイドラインに関する解説記事>
”軽症うつ病への安易な薬物療法を避けるよう求める日本初のうつ病治療ガイドラインが公表”[日経メディカルオンライン 2012.7.31]
”日本うつ病学会が初のうつ病治療指針 軽症への安易な薬物療法に警鐘鳴らす”(日経メディカル2012年9月号「トレンドビュー」(転載),2012.9.26)

”うつ病学会が治療指針…薬偏重やめ面接基本に”(読売新聞yomiDr. 2012.9.8)
”抗不安・睡眠薬依存(9)うつ病学会も漫然処方批判”(読売新聞yomiDr. 2012.9.5)
- 日本うつ病学会の「大うつ病治療ガイドライン」でも、ベンゾジアゼピンの漫然投与を戒める記述が何か所も盛り込まれた。
-「大うつ病治療ガイドライン」の「中等症・重症うつ病」の章で、「抗うつ薬とBZDの併用は治療初期4週までは脱落率を低下させるなど有用性がある」(30頁)と記載されている。執筆者の一人の解説によると、「4週までは有用性があるというのは、それ以上は有用性がないということ。そう読んで欲しい」。


<関連記事>
冨高辰一郎 『なぜうつ病の人が増えたのか』 
『アシュトンマニュアル』日本語版、ウェブサイトで無料公開

冨高辰一郎 『なぜうつ病の人が増えたのか』 
『なぜうつ病の人が増えたのか』は、1999年~2005年の6年間にうつ病患者が2倍以上に増加した現象に関して、新世代の抗うつ剤SSRIの登場と製薬会社によるうつ病”普及啓発”&マーケティング活動の側面から、精神科医が分析したもの。

うつ病の増加というと、職場・学校・家庭での人間関係の複雑化や責任増大など、ストレスを増加させる環境要因がその原因とされることが多い。
本書は、それとは全く違う観点から分析したところが通説と決定的に違う。
筆者の主張の根拠とするデータや論文がいろいろと上げられているが、海外のニュースや他の文献でも事実として公開されているものも多く、穿った見方とは言えないように思える。

特に興味を引かれたのが第5章「抗うつ薬の有効性について」。
FDAの臨床試験データなどを分析してSSRIの有効性に疑問を提起する論文や、英米でのうつ病に対する薬物治療のガイドライン・方針が紹介されている。
巷に流布されているSSRIの効果や安全性に関する定説(や宣伝文句)を覆すような論文・TV報道番組が衝撃的だったため、社会的な論争を巻き起こして、SSRIの使用規制に至った複数の事例(なぜか日本では、大した話題にもならなかったようだけれど)、SSRIの比較対照試験におけるプラセボ(偽薬)選択に関する話など、門外漢にはとても勉強になる章だった。

なぜうつ病の人が増えたのか (幻冬舎ルネッサンス新書)なぜうつ病の人が増えたのか (幻冬舎ルネッサンス新書)
(2010/08/25)
冨高 辰一郎

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第1章 うつ病患者が増えている
- 日本の気分障害患者数(大半がうつ病):1996年43.3万人、99年44.1万人、2002年71万人、05年92.4万人。6年間で倍増。1999-2002年のどこかにターニングポイントがある。
- 多様化するうつ病:軽症うつ病の増加。中高年以外の各世代に広がり、若い世代ほどうつ病になる比率が高くなっている。
- 重症うつ病は外来ではなく病棟治療がメイン。最近の外来は重症から軽症まで幅広い。軽症よりもさらに軽いうつ病患者も増えている。
- 患者の受け皿となるメンタルクリニックや、交通至便の立地にあるサテライトクリニックも増加。
- うつ病患者数、メンタル休職者数、抗うつ薬の売上げは三位一体。99年から急上昇。

<参考>精神科・心療内科の診療所数
  診療所数:(1996年)精神科3198軒、心療内科662軒/(2008年)精神科5629軒、心療内科3775軒。
(出典)「新型うつ」を急増させた三大要因-約6倍に増えた心療内科[週刊文春 2012.06.15]


第2章 なぜ一九九九年からうつ病患者が増えたのか
- 先進国でSSRI導入後にうつ病患者が急増。(日本、スウェーデン、豪州、米国、カナダ、英国)
- ドイツとイタリアは、抗うつ薬の処方数があまり増えていない。ドイツはSSRIの普及に時間がかかったことで有名。従来の抗うつ薬TCAが主流、市販薬の比率が高い。うつ病でもセントジョーンズワートなどの伝統薬の使用が多い。MR(医師へ情報提供を行う製薬会社の営業職)は人口比で日本の1/4、米国・フランスの1/3。
- イタリアでは、98年までSSRIは健康保険対象外で自己負担だったため普及が遅れた。両国では他国ほどうつ病患者が増加していない。
- 米国では、SSRI導入後、薬物療法の比率が急増(87年37%⇒97年75%)。精神療法の比率が下がって(71%⇒60%)、薬物療法が精神療法を上回る。外来うつ病患者が87年から10年間で3倍増。


第3章 なぜ「SSRI現象」は起きるのか
- SSRIの薬価は既存薬の数倍高い。一般商品と異なり、処方薬の場合は薬価が高いほどよく売れる。健康保険制度で一部自己負担するだけでよい、人命に関わる、製薬会社が薬価の高い新薬を積極的に営業し販売活動費をつぎ込む。薬価が高く、多くの人がかかる慢性的な病気の治療薬は、製薬会社にとって魅力的な新薬。
- うつ病の罹患率:欧米ではSSRI発売前と比べて上昇。日本人はうつ病になっても、その1/5の人しか受診していなかった。
- 受診促進のための「病気の啓発活動」(awareness campaign):製薬会社が、マスメディア、インターネット、学会活動、講演会などを通じて、人々の病気への意識を変えていく活動。
- 病気の押し売り(disease mongering):病気の啓発活動を過剰に行うことによって、必要以上に薬の売上げを伸ばしているという批判。代表的な疾患は、小児の躁うつ病、男性型脱毛、性機能障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、軽い高コレステロール血栓など。
- 新薬開発の難しさ、ジェネリック薬発売後の薬価引き下げなど、研究開発投資の回収が難しくなっている業界構造。マーケティング、販売促進活動に資金・人材を投入して、新薬発売直後からマーケットを拡大する必要。
- 日本のUTU-NETのスポンサーは製薬会社。スポンサーの見えない啓発活動。
(注)現在は、JCPTD(一般社団法人うつ病の予防・治療日本委員会)が運営している。
- 日本では、SSRI発売前は精神科薬は薬価が低く、製薬会社には魅力がない市場。MRも病院にたまにしか現われず。SSRI発売後、僅か数年で日本の抗うつ薬市場は約5倍に膨張。パキシルは年間売り上げ500億円を超え、日本市場売上げランキング上位20位に入る薬もでてきた。MRが精神科医局に押し寄せ、SSRIのメリットが並ぶパンフや学会でのランチョンセミナーなど販促活動も活発化。

<参考>日本のうつ理解促進・啓発活動の例と批判記事
”眠れてますか?~うつの早期発見と自殺予防~:睡眠キャンペーン”(内閣府)

”「新型うつ」を急増させた三大要因”[週刊文春 2012.06.15]
”抗不安・睡眠薬依存(5)薬ばらまき睡眠キャンペーン?”[読売新聞yomiDr. 2012.7.10]


第4章 「SSRI現象」によるうつ病診療への影響
- SSRI現象の本質:うつ病患者の受診率の向上。日本の受診率は20%。今後は欧米並みの40-50%へと増えていくだろう。
- うつ病治療開始後、3ヶ月以内に5割の人が回復。6ヵ月後には8割近くが回復。1年経っても回復しない患者は15%。その大部分は2年経っても回復していない。

<参考>大うつ病になった人が再発する割合のデータ([うつ・変わる常識](2)「心のかぜ」生じた誤解,読売新聞yomiDr,2007.8.29)

- 治療を受けないうつ病患者は、経過のよい患者が多い。一般的な医学常識として、どんな病気でも経過のよい患者は、医療機関を受診しない傾向がある。
- うつ病の長期経過は多様。一生に一度しか経験しない人もいれば、毎年繰り返す人も1~2割いる。
- SSRI現象が起きると受診者が増える、経過の良い軽症うつ病受診者が増加するということ。
- 抗うつ薬の普及が進んだ米仏ではうつ病が多い。逆に普及が遅れた国の方がうつ病が少ない。SSRIが普及する前の80年代では、米仏のうつ病はそれほど多くなく、当時の西ドイツよりも少なかった。
- 啓発活動が人々を抑うつ的にさせる効果があるのではなく、うつ病への意識が高まり、自分をうつ病だと考える人が増える、と考えた方が合理的。
- 啓発活動がうつ病患者をそのものを増やし、さらに受診率も増やす相乗効果がある。

「認知療法と自己治癒力」
- 認知療法が全てのうつ病患者に適応できるというわけではない。不思議なのは、認知が柔軟で、認知療法の必要性が少ない人の方が認知療法を希望する人が多く、認知が悲観的で、認知療法を試みた方がよいかもしれない人の方が認知療法を希望しない。後者は、認知療法を受けても自分の病状が改善するとは想像できないのだと思う。


第5章 抗うつ薬の有効性について
「抗うつ薬と偽薬の差はどれだけあるか」
《キルシュ教授たちの論文(2008年)》
- ”Initial severity and antidepressant benefits: a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration.”で、抗うつ薬の有効性を疑問視。
- この論文は、欧米の主要メディアが衝撃的なトップニュースとして報道。
- 概要:FDAに米国内の全てのSSRI臨床試験情報の開示を要求。そのデータを分析した結果、SSRIとプラセボ(偽薬)ではそれほど大きな効果の違いはない。製薬会社が不都合な臨床データを公表していなかった。
- キルシュ教授の批判:うつ病が回復するのは患者本人の自己回復力のおかげであり、抗うつ薬による薬理作用の部分は20%以下。製薬会社は自分らに不都合なデータを隠蔽することによって、抗うつ薬の有効性を実体以上に強調してきた。その弱い抗うつ薬の効果も、重症うつ病においては比較的認めやすいが、軽症うつ病の場合(キルシュ教授の論文ではHRDSで23点以下)、抗うつ薬とプラセボの差はほとんどない。軽いうつ病にまで抗うつ薬による治療を勧めることはおかしい。

《ターナー教授たちの論文(2008年)》
- ”Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy.”は、出版バイアスについて批判。
- 出版バイアス:FDAのデータで抗うつ薬がプラセボよりも優勢だった臨床試験は、ほぼ全てが論文となっていた。抗うつ薬がプレセボより優勢でなかった場合、大半が論文となっていなかった。
- 公表された論文では、94%の試験で抗うつ薬の優勢が認められたが、FDAが保有していた試験では51%の試験でしか、抗うつ薬の優勢が認められなかった。
- うつ病は治るのだが、抗うつ薬の効果の果たす役割はそれほど大きくない、ということ。

「うつ病の重症度と抗うつ薬の効果」
- 英米では、抗うつ薬の使用は重症度によって違う。エビデンスに厳しい英国の国立医療技術評価機構(NICE)「うつ病診療ガイドライン」では、軽症うつ病の最初の治療には、リスクと利益の比率を考えると、抗うつ薬の有効性が認められないので、抗うつ薬を勧めていない。
- 英国では、2004年に国の治療方針が転換し、薬物療法を見直して、特に軽症うつ病に対してセルフケアや認知療法を推奨する方針へと変更。自分でできるうつ病回復プログラム、軽い睡眠薬や軽いエクセサイズやカウンセリング、休息を勧めている。
- 米国精神医学会の治療方針:軽症うつ病に対しては、患者が希望した場合は、抗うつ薬を最初から投与してもよい。(積極的には抗うつ薬の使用を勧めていない)
- 日本では厚生労働省と日本精神神経学会の公的な治療方針が作られていない。日本では、ほとんどの精神科医は軽いうつ病患者にも、例外なく薬物療法から始めている。

(注)日本うつ病学会が2012年7月26日に国内初の「うつ病治療ガイドライン」を公表している。
<関連記事>日本うつ病学会が公表した国内初の「うつ病治療ガイドライン」

- SSRI現象が起きる前は、軽症うつ病の人が受診することは稀だったので、うつ病治療=抗うつ薬、という治療方針でもあまり問題にならなかった。
- 抗うつ薬のうつ病に対する効果としてエビデンスがしっかりしているのは、中等度以上のうつ病の急性期治療と再発予防効果。
- キルシュ教授らは、再発予防効果についても、抗うつ薬を中止する試験方法に問題があり、その効果は疑わしいとしている。しかし、公表された論文では、再発予防試験に関しては、抗うつ薬がプラセボに優位性を示せなかった論文はない。

「抗うつ薬と自殺との因果関係」
- 抗うつ薬が自殺衝動を引起すリスク:情報が錯綜して、結論がでていない。
- 精神科医のヒーリーはSSRIの副作用による自殺衝動の危険性を指摘。しかし、英米当局がブロザックと自殺衝動との因果関係を否定し、90年代にSSRIの新薬が相次いで認可されブームに。
- カーンらがFDAのデータを分析した論文(2000年)で、抗うつ薬服用群がプラセボ投与群よりも自殺者の比率が1.8倍と高かった(統計的な有意差はなかった)。
- 2002年10月の英国BBC「パキシルの秘密(英題「The Secrets of Seroxat)」という番組で、18歳未満のうつ病に対してパキシルは有効性がなく、しかもプラセボ群と比較してパキシル服用群に自殺関連事象が数倍多いと調査報道。英国当局が調査したところ、パキシルは未成年者のうつ病に対して有効性がなく、プラセボ投与群よりもパキシル投与群に自殺衝動を呈した患者が多いことが判明。
- 英・米・日本で、未成年者のうつ病に対するパキシル等の投与に注意・警告が出されるようになった。

<参考>
- BBCのTV放送のダイジェスト版:"Panorama: The Secrets of Seroxat was first broadcast on 13 October 2002"概要&トランスクリプト
- パキシル(英国の商品名は「Seroxat」)とBBCの番組"Panorama"に関するニュース一覧


「抗うつ薬比較臨床試験の詳しい事情」
- 一般的に、SSRIはTCA(三環系抗うつ薬)に比べて抗うつ効果は同じで、副作用プロフィールが違う薬といわれている。脱落率はSSRIが数パーセント低い。大量服用した時に危険な不整脈を起こしにくい。
- 英国(NICE)では、中等度以上のうつ病に関しては、SSRIをファーストチョイスに推奨。米国精神医学会は、SSRIを特にファーストチョイスに推奨していない。TCAやSSRIの中から選択する。
- SSRIとTCAの臨床試験では、TCAの中でも最も口渇や便秘といった副作用が顕著なアミトリプチリンを対象とした試験が大半。副作用がアミトリプチリンよりも少なく、日本で一番良く使われているアモキサンやプロチアデンを対象とした臨床試験は行われていない。
- 日本の臨床試験でいつもSSRIの対照薬として選ばれるのは、アミトリプチリンとトラゾドン。トラゾドンは睡眠薬の代用に処方されるぐらい眠気と口渇の強い抗うつ薬。アミトリプチリンとトラゾドンは、比較対照試験では、新規抗うつ薬臨床試験の「かませ犬」の役割。
- SSRIでもTCAでも個々の薬の特徴がある。大量服薬の既往があるケースにTCAは避けた方が良い。パキシルは離脱症状が起き易く、急に中止するのが難しい。それぞれの薬の長所、短所を理解した上で選択することが大切。

「日本における薬物治療の問題点」
- 日本の精神医療の悪習と言われてきたのが、「多剤併用療法」。
- 同じ作用の薬を何種類も併用する。しかも、抗うつ薬だけでなく、抗不安薬、睡眠薬、抗精神薬、気分安定薬と多岐にわたって、それぞれ複数処方されるケースが多い。
- 抗うつ薬1種類、睡眠薬1種類のシンプルな処方をする精神科医は少数派。
- 患者が調子が悪いと言えば、また患者が増薬を希望すれば、その度に何か薬を増やし、薬の種類が増えていく。それが続くと、うつ病のせいで調子が悪いのか、薬の過剰投与で調子が悪いのか、わからなくなってくる患者も現われる。また、抗不安薬や睡眠薬、一部の抗うつ薬は、一度増やすとなかなか減らしにくい、減薬すると退薬症候群がでることもある。

第6章 増え続けるメンタル休職への取り組み


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関連書籍・論文
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”Initial severity and antidepressant benefits: a meta-analysis of data submitted to the Food and Drug Administration.”
PLoS Med. 2008 Feb;5(2):e45.
Kirsch I, Deacon BJ, Huedo-Medina TB, Scoboria A, Moore TJ, Johnson BT./Department of Psychology, University of Hull, United Kingdom.

”Selective publication of antidepressant trials and its influence on apparent efficacy.”
N Engl J Med. 2008 Jan 17;358(3):252-60.
Turner EH, Matthews AM, Linardatos E, Tell RA, Rosenthal R./Department of Psychiatry, Oregon Health and Science University

デヴィッド・ヒーリー『抗うつ薬の功罪 SSRI論争と訴訟』(みすず書房)
抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟
(2005/08/01)
デイヴィッド ヒーリー

商品詳細を見る
目次と書評(みすず書房のウェブサイト)

『生活習慣病としてのうつ病』 井原裕氏インタビュー/うつ病の怪 「悩める健康人」が薬漬けになった理由[WEDGE INFINITY.2013年08月29日]


<関連記事>
抗うつ薬等の薬物関連訴訟、規制動向、事件(メモ)
日本うつ病学会が公表した国内初の「うつ病治療ガイドライン」
『アシュトンマニュアル』日本語版、ウェブサイトで無料公開

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備考
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「関連書籍・論文」 :本書で引用されていた書籍・論文の一部です。
<参考>、(注):管理人が付加した情報です。
<関連記事>:本ブログ内の過去記事です。

SSRI等の薬物関連訴訟、規制動向、事件(メモ)
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製薬業界に関わる訴訟、規制動向
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Side Effects May Include Lawsuits"(副作用には訴訟も含まれるのかも) By DUFF WILSON[NEW YORK TIMES Online,October 2, 2010」
- 日本語訳文(「米ニューヨークタイムズ紙に学ぶ「こころの薬」の裏事情」[光の旅人])

「製薬会社と医師の関係、透明性を求める動きが加速」(Pharma PL Quarterly、米国医薬品PLトピックス、2009年7月、銀泉リスクソリューションズ)

Physician Payment Sunshine Act
医薬品および医療機器メーカーに対し、100ドルを超える医師への支払を開示し、ホームページ上に公開することを義務付ける法案。ただし、州法の方が広い範囲の情報公開を要求している場合、当法案より州法の規定を優先する。2013年施行予定。報告事項:支払い先の氏名・住所・支払金額・支払日、支払内容。(合計$100以下の支払などは対象外)

Physician Payment Sunshine Act: Physician Congressman Ask CMS for Changes to Proposed Regulations
医師の議員がMedicare and Medicaid Services (CMS) に対して”Physician Payment Sunshine Act”の修正を要求。

2012年5月4日、CMSは製薬企業・共同調達組織(group purchasing organizations:GPOs)にPhysician Payment Sunshine Act ("Act" or "Sunshine Act")が定める関連支出データ収集を2013年1月1日まで求めないと表明。当初は2012年1月1日から実施される予定だった。(情報出所)

「日本初のうつ病治療ガイドラインが公表,軽症うつ病への安易な薬物療法を避けるよう求める」[2012.7.31 日経メディカル オンライン]


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訴訟・事件(薬別)
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Paxil(パキシル)関係
「英グラクソ、医薬品の不正販売巡り30億ドルの支払いへ」[CNN.co.jp 2012.07.03]
米司法省によると、英製薬大手グラクソ・スミスクラインは、
- 成人用の抗うつ剤「パキシル」を子ども向けに販売
- 抗うつ剤の「ウェルバトリン」を減量の補助薬として販売
- 2001-2007年の間、糖尿病治療薬「アバンディア」の安全性データを米食品医薬品局(FDA)に未提出
30億ドルの内訳:刑事上の罰金10億ドル、民事関連の支払い20億ドル。

Glaxo Said to Have Paid $1 Billion Over Paxil Suits[Bloomberg,Jul 21, 2010]
英グラクソ・スミスクラインは、抗うつ薬「パキシル」に関する800件以上にのぼる出産異常訴訟の和解費用として、10億ドル以上を支払うことに合意。出産異常で生まれた子供の家族に平均120万ドルを支払う。
出生異常訴訟の和解条項では、パキシルに関わる一連の訴訟(自殺や自殺未遂を引起すという訴訟も含む)解決のために、20億ドル以上の支払いを定めている。
同社は、パキシルと糖尿病治療薬「アバンディア」に関する訴訟解決のために24億ドルを確保している。

Seroquel(セロクエル)関係
Astrazeneca Said to Pay $2 Million in First Settlements of Seroquel Suits [Bloomberg,Jul 23,2010]
アストロゼネカは、抗精神薬セロクエルに関する200件以上の訴訟(セロクエルが糖尿病を引起す)の和解のため、200万ドルを支払う。
訴訟1件に対する支払金額は平均1万ドル以上。この和解は、26000件のセロクエル訴訟を抱えるアストロゼネカに対して、米国の裁判所がその調停を命じたことによる。
4月には、セロクエルの違法な未承認用途のマーケティング(販促活動)に対して、アストロゼネカは520万ドルの支払いに米国規制当局と合意。

Luvox(ルボックス)関係
マイケル・ムーアの映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」。
犯人がSSRI(ルボックス)を長期服用していたため、被害者の家族が犯行と薬の服用の因果関係があるとして製薬会社ソルベイ社に対して訴訟。
裁判の結果、ソルベイ社は2002年にルボックスの米国内での販売を中止。
日本では、アステラル製薬が「ルボックス」を販売継続(2012年4月よりアボットジャパンへ販売移管)、Meiji Seika ファルマ(旧明治製菓)が「デプロメール」名で発売中。


Xanax(ザナックス)関係
XANAX FACTS AND WHITNEY HOUSTON(Xanaxに関する事実とホイットニー・ヒューストン) by Dr Peter Breggin [The Huffington Post February 22, 2012]
Deadly Duo: Mixing Alcohol and Prescription Drugs Can Result in Addiction or Accidental Death  [Scientific American,February 24, 2012]
(情報出所)「ホイットニー・ヒューストンの死因はアルコールと処方箋薬(Xanax)の相互作用の可能性が高い」 [タングステン雪洞]

薬害肝炎問題に思う/和田秀樹(スーパードクターズエッセイ「7人の名医たち」)[e-Resient2013]
Consumer Reports Magazine : High Anxiety  (January 1993, 58(1): 19-24)
Xanaxが米国で販売不振となる原因となった雑誌『ConsumerReports』の評価記事。
小見出しは、”The most widely used tranquilizer in America is more addictive than Valium - and is often less effective than nondrug treatments for anxiety."(米国で最も使われている精神安定剤はValium(ジアゼパム)よりも常習性が強く、不安症に対する非薬物治療よりも効果が低いことも多い)

その他の訴訟
ジョンソン&ジョンソンが抗精神病薬「リスパダール」を未承認の使用目的で不適切に販売したとされる訴訟で、同社の敗訴が相次ぐ。(アーカンソー州の裁判所は2012年4月、Johnson & Johnson社とその子会社Janssen Pharmaceuticals社に対し、12億ドルを超える罰金を支払いを命じる判決を下した)

イーライリリーは、抗精神病薬「ジプレキサ」に関して、糖尿病を引起す副作用に関する3万件以上の訴訟、および、同社が承認外用途のマーケティング(販促活動)を行い、副作用を過少に報告してきたという政府の申立てに対し、解決費用として今までに29億ドル以上を支払っている。



<参考データ>
”America's Most Popular Drugs”( Forbes.com,4/19/2011): 米国で処方数が多い薬のランキング。
”The Best-Selling Drugs In America”( Forbes.com,4/19/2011): 米国で売上高が多い薬のランキング。
いずれも元データはIMS Health。

<関連記事>
冨高辰一郎 『なぜうつ病の人が増えたのか』 
日本うつ病学会が公表した国内初の「うつ病治療ガイドライン」
『アシュトンマニュアル』日本語版、ウェブサイトで無料公開

ゼルキン ~ ベートーヴェン/幻想曲 Op.77
ベートーヴェンは、ピアノ・ソナタや変奏曲以外にバガテルなどのピアノ小品を数多く書いている。
ブッフビンダーが若い頃に録音したベートーヴェンのピアノ小品集のCDを試聴していたら、冒頭の《幻想曲ロ長調 Op.77》がとっても面白い。
1809年の作品。この年は、《テレーゼ》や《告別》など第24-26番のソナタを書いている。
録音も演奏も聴いた覚えがない曲だったのでYoutubeを探してみると、私が知っているピアニストで見つけた音源はフィッシャー、ゼルキン、チアーニ。他に、ブレンデルやヤンドーなども録音しているらしい。

ゼルキンが録音していた? 調べてみると、《ディアベリ変奏曲》のスタジオ録音の輸入盤にカップリングされていた。このCDは持っているけれど、《幻想曲》も入っていたのは全然覚えていなかった。

Rudolf Serkin plays Beethoven Fantasy Op. 77


”幻想曲”にしては、旋律自体はあまり幻想的ではないけれど、冒頭のallegro右手から左手へと引き継がれる下降スケールは奇想天外な感じ。 
(これと似て、それまでの雰囲気を一掃するようなスケールが突如登場する曲があったはず...。記憶をたどって録音を聴いてみたら、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番第4楽章のコーダに入るところだった。)
このスケールに続いて現われるadagioの旋律は、同じくベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番第2楽章の主題の断片のよう。
他の旋律も、どこかで聴いたことがあるようなベートーヴェンらしい旋律がたくさん。

冒頭の下降スケールの使い方が面白い。冒頭では意表をつくように劇的に現われ、別の旋律が演奏されている途中に、その流れを断ち切るように突如挿入されていることもあれば、変形されて伴奏に組み込まれ主題旋律と絡み合っていることもある。

他にも、練習曲のように片手やユニゾンのアルベジオが続いたり、prestoadagioが突然交代したり、疾風怒濤の如く激情的な曲想になったり、緩急・明暗の変化が急激。
旋律は断片的なものが多く、歌謡性があまり強くない指の練習みたいな旋律から、叙情性が強い旋律までいろいろ。
adagioで提示される単純な音型が、急速部分で様々に変形されていき、タッチとソノリティ、スピード感の変化も目まぐるしい。ソノリティ自体は時々かなりファンタスティック。
音楽的な実験でもしているのかな?と思えてくる。

中盤のAllegrettoになると、変奏曲風に展開される輝きのある堂々とした曲想がベートーヴェンらしい。
ここには冒頭の下降スケールの音型がリズムや旋律の長さを変え、上行下行しつつ伴奏部分に組み込まれているけれど、これが意外と違和感がない。

個々の旋律はかっちりとした構成感があっても、違ったタイプの音型と曲想の旋律がコラージュのように現われては消えていくので、曲全体としては統一感があるようで、無いような...。”幻想的”といえばそうかも。


《幻想曲》を収録しているゼルキンのCD。今は廃盤になっているらしい。
Diabelli Variations Bagatelles Op.119Diabelli Variations Bagatelles Op.119
(2003/09/01)
Rudolf Serkin

試聴する(仏amazon)



ブッフギンダーのベートーヴェン/ピアノ小品集(TELDEC)には、超有名な《エリーゼのために》、元々はワルトシュタインソナタの緩徐楽章として作曲された《アンダンテ・フィヴォリ》から、キーシンやソコロフが録音していた《カプリッチョ「失われた小銭への怒り」》やあまり知られていない《2つのロンド》《ポロネーズ》《アレグレット》なども収録。
原盤のCDは廃盤になっているが、最近、再リリースされた旧盤の『ピアノ・ソナタ&変奏曲&バガテル全集』にも収録されている。
小品集の曲は、英国amazonでMP3ダウンロードの試聴ファイルあり。

tag : ベートーヴェン ゼルキン

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アラウ ~ ショパン/幻想即興曲
たまたまYoutubeで見つけたアラウの《幻想即興曲》。
《幻想即興曲》を聴いたのは数年ぶり。子供の頃にこの曲を弾きたくて、一生懸命ピアノの練習をしたのに、今ではあまりにポピュラーすぎて俗っぽい感じがするせいか、今ではほとんど聴かなくなってしまった。

そういえば、ほとんど聴いていなかったアラウのCDがあったなあ...とラックから探し出して聴いてみると、これがとっても新鮮。
こんなに良い曲だったっけ?と思い直してしまったのは、長い間聴かなかったから...というよりも、アラウが弾く《幻想即興曲》だからに違いない。

即興曲集は1980年、アラウが77歳の時の録音。指回りもそれほど俊敏ではないし、スラスラと流麗なパッセージワークとは言い難い。でも、(あまり好きではない)普通のショパン演奏とは違っているところが私にはとっても魅力的。
アラウは、通常使われているフォンタナ版の楽譜ではなく、録音時にはほとんど知られていなかった”ルービンシュタイン版”(1962年にルービンシュタインが発見・出版したショパン自筆資料)で弾いている。
(「80歳近くなって新しい楽譜に取り組もうとする精神は賞賛に値すると思います。」と<音楽図鑑CLASSIC>に書かれていた。本当に同感)

アラウの演奏は、音が綺麗に並んだ華やかなショパンではなくて、ドイツ音楽風(とでも言えば良いのか)。
華奢な繊細さは全くなく、やや遅めのテンポでゴツゴツとした(ときにマルカート気味の)タッチが骨太で重みがあり、独特のコクがある。
主題部の終わりにはたっぷりリタルダンドして強いアクセントをつけたり、旋律を歌わせるときは、はっきりと声に出して語りかけてくるように大きな抑揚で雄弁だったり。太筆書きのような力強さ。
中間部は訥々とした語り口が大らかで包み込むような温もりがあるし、冒頭主題も最後の再現部も意外なくらいにパッショネイト。
アラウの《幻想即興曲》を聴いていると、内面の感情が自然に湧き出ているような”人間的”な息遣いを感じてくる。
そういえば、好きとは言えないショパンの曲でも、アラウが弾く《バラード》《スケルツォ》《ピアノ協奏曲》は、昔からずっと好きだった。やっぱりアラウのショパンとは相性が良いらしい。

Claudio Arrau - Chopin Fantasie Impromptu opus 66

アラウが弾いているルービンシュタイン版は、耳で聴いているだけでも、昔練習で弾いていた曲の記憶とところどころ音が違っている。
普通使われているフォンタナ版を見ながら聴くと、明らかにすぐわかる違いは、
- 第25小節:右手第1音は16分休符ではなく、G#が聴こえる。
- 第35小節:左手の和音は3拍目ではなくて、2拍目に入る。
- 第36小節:4拍目に左手の和音が追加されている。
- 第40小節:4拍目に左手オクターブが入っている。
他にも細かいところで、音価やリズムが違っていたり、和音が重音になっているのでは?と思うようなところなど、違う点はいろいろ。
ルービンシュタイン版の楽譜を見れば違いがはっきりわかるのだけど...。(ウイーン原典版(音楽之友社刊)の付録に、”「幻想即興曲」(遺作)初校”として、ルービンシュタインが発見した自筆資料がついている)

ルービンシュタインの弾く《幻想即興曲》。真珠の粒のように鍵盤上を転がる柔らかいタッチのレガートが軽やかで儚くて瀟洒な雰囲気。ホロヴィッツとユンディ・リも聴いてみたけれど、やっぱりアラウとは随分違う。
Chopin - Fantaisie Impromptu, Op. 66 (Rubinstein)

画面上に表示されている楽譜は、ルービンシュタイン版ではなくて、フォンタナ版。楽譜を見ながら聴けば、ルービンシュタインがフォンタナ版で弾いていないのが明らかにわかる。


アラウのショパンBOX。Philipsに録音したピアノソロとピアノ協奏曲を収録。
Claudio Arrau plays ChopinClaudio Arrau plays Chopin
(2012/09/25)
Claudio Arrau

試聴する(別盤にリンク)

このほかに、アラウのEMI録音BOX 『Icon: Claudio Arrau』にもショパン録音がいくつか。50歳代に録音したピアノ・ソナタ第3番(1960年)、練習曲全曲(1956年)など。
クレンペラー指揮で弾いたピアノ協奏曲第1番のライブ録音(1957年)は、ベートーヴェンかブラームスのコンチェルトのような骨太で力強いタッチの演奏が面白い。


【参考サイト】ショパン/即興曲集のCDレビュー
<ショピニストへの道~ショパンを極めよう~> ショパン・即興曲 CD聴き比べ
<音楽図鑑CLASSIC> ショパン即興曲 CD聴きくらべ

tag : ショパン アラウ

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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