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吉村昭 『深海の使者』 と 「Uボート234号」の物語
吉村昭の『白い航跡』がとても面白かったので、ほかの作品も読んでみようと作品リストをチェックしていると、幕末・明治期や太平洋戦争を題材にしたノンフィクション小説がかなり多い。
その中で、特に興味をそそられたのが、太平洋戦争時の日本の潜水艦を題材にした『深海の使者』。

深海の使者 (文春文庫)深海の使者 (文春文庫)
(2011/03/10)
吉村 昭

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日本の海洋戦記だと吉田満『戦艦大和ノ最期』が真っ先に思い浮かぶ。吉村昭は、大和ではなく『戦艦武蔵』という小説を書いている。
外国の海戦ものでも、帆船、駆逐艦、輸送船団を題材にした小説・ノンフィクションは多いけれど、潜水艦ものはそう多くはない。
有名なところでは、ドイツの『Uボート』に関する小説や、Uボート艦長による伝記などが出ている。
映画の『Uボート』も、当時はドイツ軍=悪という観点ではなく、その実情をリアルに描いたので結構話題になっていた。

日本軍でも潜水艦隊があったことは知ってはいたが、詳しく調べたこともないので、インド洋を越えてドイツと日本の間を何隻もの潜水艦が往復していたというのは驚き。
『深海の使者』を読んでいると、戦闘条件の違うため、ドイツと日本の潜水艦とでは構造や性能で異なる点が多い。
ドイツは敵艦が多い狭い海域を航行し、通商航路の破壊が目的のため、小型で静音。
日本は、太平洋の広い海域で敵艦の密度も低く、艦隊に従って敵軍艦攻撃が目的のため、大型で長距離航行ができ、航行速度も速い。敵艦から探知されることにそれほど注意しなくて良いため、潜水艦のエンジン音など騒音がかなり大きい。

ドイツと日本を往復した日本の潜水艦5隻のうち、無事日本の港に帰りついたのは、第二次遣独艦の伊号第8のみ。
伊号第30と伊号第29は、無事ドイツに到着して日本へ帰投する途上、日本占領下の東南アジアの海域で自軍の機雷に接触して座礁・自沈(伊号第30)、米国海軍により撃沈(伊号第29)。
伊号第34と最後の第五次遣独艦伊号第52は、ドイツに向かう航海中に英国または米国海軍により撃沈。

「遣独潜水艦作戦」(Wikipedia)にドイツへ派遣された潜水艦の顛末が載っている。

日本からドイツだけでなく、ドイツから日本に派遣・譲渡されたUボートもある。
ドイツのUボートも、東南アジアの鉱物資源を輸送するため、アフリカ大陸を迂回して来ていた。
ドイツが降伏するまで、第二次大戦中はドイツと日本の間で、潜水艦の技術交流やUボートの供与が何度も行われていた。
日本の潜水艦は、電波探知機など多くの技術で英米独軍に遅れていたため、ドイツの潜水艦技術を早期に導入する必要があったが、それもすぐに陳腐化する。
空路はソ連の領空を飛ばねばならないが、日本とソ連は不可侵条約を締結しているために、ソ連領空を飛行すればソ連に参戦の口実を与える恐れがあるため、飛行は厳禁。
結局、航海日数が長くなろうが、敵艦や艦載機が頻繁に哨戒する危険な航路であろうが、潜水艦を使って、ドイツへ駐在する武官・技師や、重要な技術資料・装置などを輸送するしかなかった。

U180号はインド人の独立運動家チャンドラ・ボースをインド洋上まで運び、ボースは海上で会合した伊号第29にボートで乗り移って、日本へ向かい、その後にインドへ帰国した。
U511号は日本海軍に無償譲渡されたUボート。ペナン港経由で東京まで回航された。
U1224号(日本艦名は呂号第501)は、太平洋方面での連合国側の通商破壊活動と潜水艦技術供与を目的として無償譲渡された。キール軍港を出発したが、大西洋上で米国海軍に撃沈される。

最後に日本とドイツの間の派遣艦となったのは、U234号。
最新鋭のロケット戦闘機の部品・設計図、ウラニウム鉱石560キロなど、重要な軍事機密を積載。
さらに、同乗者が数名。ヒトラー暗殺事件に関与してゲシュタポの追及を逃れようとしていたケスラー空軍大将、東京に赴任するドイツ人法務官、対空射撃専門の技術士官、それに、ドイツに赴任していた技術士官の友永中佐・庄司中佐。
英国軍にほぼ制圧されている海路を潜り抜けて日本に向かうが、その途上でドイツが無条件降伏したため、米国海軍衛駆逐艦「サットン」に投降。投降前に、2人の日本人士官は睡眠薬を服毒して自決した。

潜水艦の探知機や建造技術はドイツの方が進んでいたが、日本の潜水艦技術でドイツ軍が驚いたのが、「自動懸吊装置」と「重油漏洩防止装置」。
「自動懸吊装置」は、潜航中にエンジンを作動させず、水中で一定の深度を保って静止する。
「重油漏洩防止装置」は、鋲構造による重ね合せ部分からの重油漏洩を防ぐもので、タンク低部に若干の海水を溜めて低圧に保つことで漏洩を防ぐ。
いずれの装置も潜水艦を敵艦に発見されにくくするためのもので、天才的な潜水艦技師といわれる友永技術中佐が開発。彼がドイツへ赴任した時にドイツ海軍にその装置を紹介し、大変有名になったという。

                           

この本を読んでいると、似たような話を映画かTVドラマで見た記憶がある。
随分昔の話なので、一体いつ頃のことだったかわからない。
検索してみると、どうやら、『ザ・ラストUボート』(原題:The last U-boat)という映画がそれらしい。
劇場未公開映画だったが、1993年にNHKが放映。
予告編を見てみると、小林薫や夏八木勲が出ているので、記憶が少し蘇ってきて、やっぱりこの映画に間違いない。

このUボート234号の話は、『深海の使者』でも出てくるし、主人公の友永技術中佐に焦点を当てたノンフィクション『深海からの声』も出版されている。
DVDを借りてきて再度見てみると、Uボートの出航直前から、ドイツ敗戦直後にアメリカ海軍の戦艦に投降するまでのお話。
当時は第二次大戦末期で、ドイツは敗色濃厚。制空権も連合国(英国軍)に握られ、海路もほとんど制圧されている状況で、極めて重要な軍事機密とドイツ・日本の軍人・技術者を同乗させて、日本へ向かう。

派手な戦闘シーンはなく、全体的に地味なつくりの映画ではあるけれど、大筋はだいたい実話どおり。
当時の戦況や英軍・米軍との駆け引き、潜水艦内の様子がよくわかる。
ただし、名前も含めて、『深海の使者』と『深海からの声』で書かれている話と違う部分もいろいろあり、映画用に挿入・変更したり、脚色している。

映画『ザ・ラストUボート』(原題:The last U-boat) 予告篇


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(2002/12/06)
ウルリヒ・ムーヘ、ウルリヒ・ツクール 他

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富永孝子著『深海からの声―Uボート234号と友永英夫海軍技術中佐』
構成は、最初にこの本を書くに至った経緯とインタビューした人たち(U234号乗組員、友永中佐の家族)の近況などが綴られている。
次に、U234号の出航前から出航~航海(友永中佐・庄司中佐の最期の様子)~米軍への投降の状況のドキュメント。
最後の章は、友永中佐の生い立ち、学生時代、海軍での仕事ぶり。
その後には、友永中佐と庄司中佐亡き後、家族の生き方や、戦争中の日本・ドイツの上司・同僚・U234の乗組員・同乗者の消息など。
U234号だけに焦点を絞っているだけに、友永中佐に関わりのあった人たち(家族や友人、上司、日本とドイツの潜水艦乗り)の回想談がとても詳しい。
英国・米国双方が重要な技術情報とウランを輸送しているU234を確保しようと競争していたこと、U234が英国海軍ではなく米国海軍へ投降したこと、捕虜となった乗組員たちの処遇など、降伏後のU234号の状況も詳しい。

ドイツでは、日本人士官2人のために記念の銘板が製作されていたり、毎年2人の命日にはドイツ大使館から花束とチョコレートが遺族の元へ届けられたりしている。
U234号の顛末はドイツ人にとってもかなり強いインパクトがあったのだろう。

深海からの声―Uボート234号と友永英夫海軍技術中佐深海からの声―Uボート234号と友永英夫海軍技術中佐
(2005/08)
富永 孝子

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tag : 吉村昭 伝記・評論

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ヴォーン・ウィリアムス/ピアノ協奏曲
ヴォーン・ウィリアムスのピアノ協奏曲(1926年[第1&第2楽章]~31年[第3楽章])は、作曲家バックスの恋人でピアニストのハリエット・コーエンを想定して作曲された作品。
初演は1933年2月にコーエンの独奏とボールト指揮BBC交響楽団の伴奏。
さほど評価されることもなかったので、今度は「2台のピアノのための協奏曲」に編曲したりしたけれど、やっぱりパッとせず。
結局、そのまま埋もれてしまったらしい。

ピアノ・ソロは、オケに負けずに厚みのある和声でシンフォニックな響きが美しく、ピアノパート自体はしっかりとした存在感がある。
それにしては、なぜか聴き終った後の印象が薄い。
ピアノコンチェルトとしては、旋律がそれほど印象的でもなくて、そのシンフォニックな響きがピアノ付き交響曲のように聴こえるせいかも。

特に第1楽章Toccataは、ピアノが歌謡性のあるメロディを弾くというわけでもなく、あくまで交響曲の和声の一つを受け持っているような構成。
彼のシンフォニーはいつも”大味”な感じがする(悪い意味ではなく)。
このコンチェルトも、雄大な自然をイメージされるような空間的な広がりと厚みのある響きで、壮大で堂々とした曲。
面白いのは、第1楽章で東洋風(中国風のような日本風のような)音階で書かれたような旋律と和声が頻繁に出てくるところ。

Ralph Vaughan Williams - Piano Concerto - I. Toccata
(Howard Shelley, piano,Vernon Handley/Royal Philharmonic Orchestra)



第2楽章Romanzaは、タイトルどおり、冒頭はピアノソロが弾くなど旋律と響きの重なりがとても美しく、静かでファンタスティック。
これもオケのトゥッティが入って徐々にクレッシェンドして高揚していく。
メロディアスな旋律は、管楽器(オーボエ(?))とピアノが交互に受け持っていて、オーボエの背後でペダルを響きを重ねたアルペジオでピアノが伴奏しているところが綺麗。

第3楽章は Fuga Chromatica con Finale alla Tedesca
半音階を使っているせいか、下降調が醸しだす不可思議さとシニカルな諧謔さ、それに物々しさが混在したような、面白い旋律と響き。(Liebermannの騒然とした雰囲気がするピアノ協奏曲第1番を連想するようなところがある)
ピアノが第1楽章よりもずっと目立っていて、ピアノはオケの響きに埋もれることなく、わりとオケと対等な形で対話している。
途中でジャ~ンとオケがトウッティに入ると、全く交響曲に変身したように威圧的、(ここでピアノは少し休憩)
その後にピアノが弾くカデンツァ。
これも、オケに負けずとばかりにかなり厚みのあるフォルテの和音が良く響く。
やがて弱音でモコモコと呟くようになり、またフォルテで盛り上がって、再びオケに交代して、それから協奏。
旋律自体はさほど印象的というわけでもなく、短い主題がいろいろな形のフレーズで変奏されて展開していく。
中間部はピアノソロが柔らかくゆっくりしたテンポで和音で旋律をつなげていき、徐々にクレッシェンド。

Ralph Vaughan Williams - Piano Concerto - III. Fuga Chromatica con Finale alla Tedesca



数年前に聴いた時の印象と同じように、やっぱり”大味”な感じがするピアノ協奏曲。
ピアノパートの厚みのある響きは美しいけれど、ヒンデミットのような乾いた叙情性というものはあまり感じることなく、はるかに客観的・描写的な感じを受けるのは、交響曲と同じ。
交響曲の方もさほど好きな作風ではないので、このコンチェルトもやっぱりもう一つ良くわからなかった。


Vaughan Williams: Symphony No. 9 in E minor; Piano ConcertoVaughan Williams: Symphony No. 9 in E minor; Piano Concerto
(1992/10/28)
Howard Shelley,Bryden Thomson,London Symphony Orchestra

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イザイ/悲劇的な詩、子供の夢
ツィンマーマンの『イザイ/無伴奏ヴァイオリンソナタ集』のCDにカップリングされていたのは、《悲劇的な詩》と《子供の夢》。
2曲ともピアノ伴奏によるヴァイオリンソロ。
無伴奏ソナタとは趣きもかなり違ってロマンティック。
現代音楽的な無伴奏ソナタのような意外な面白さはないけれど、フランス風の流麗なとても美しい曲。

悲劇的な詩/Poème élégiaque, op.12
《悲劇的な詩》は、元々はオーケストラとヴァイオリンのための作品。フォーレに献呈。
ピアノ伴奏版の編曲もあり、イザイ自身の録音も残っている。(ツィンマーマンはピアノ伴奏版を弾いている)
気品と悲愴感漂う流れるようなヴァイオリンの旋律がとても綺麗。
喩えて言えば、情緒過剰でないフランクのヴァイオリンソナタ風とでもいうか...。
終盤になると、力強いピアノ伴奏の和音が、悲劇的な運命の到来を告げるようでもあり、最後は凪のように静かにゆったりと漂っていく。


これはイザイの自作自演でピアノ伴奏版の音源。
Eugene Ysaye - Poeme elegiaque, Op. 12

Eugene Ysaye - violin, Camille De Creus - piano


こちらは管弦楽伴奏版。(ピアノ伴奏版よりも音源が少ない)
Ysaÿe, Eugène op.12(begin) Poème Élégiaque

Albrecht Breuninger(violin),Welisar Gentscheff(conductor),Northwest German Philharmonic Orchestra.


子供の夢/Rêve d'infant op.14
タイトルどおり、夢の世界の如く、穏やかでまどろんでいるような柔らかい旋律が綺麗。

(奏者不明)

tag : イザイ

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フランク・ペーター・ツィンマーマン ~ イザイ/無伴奏ヴァイオリンソナタ Op.27
フランク・ペーター・ツィンマーマンは、数少ない好きなヴァイオリニストの一人。
彼が録音したCDはかなり集めてきたけれど、このイザイの《無伴奏ヴァイオリンソナタ集》は長らく未聴のまま。無伴奏というジャンルは、バッハも含めてどうも苦手で、手が出なかったので。

たまたまカヴァコスのディスコグラフィを調べてみると、イザイの無伴奏の全曲録音がある。
ツィンマーマンもこのソナタ集を録音していたのを思い出して調べてみると、ツィンマーマンの録音が素晴らしいというレビューがいくつか。それを読むと聴いてみたくならないほうが不思議。
試聴すると、第1楽章がかなり前衛的な第1番と、<怒りの日>の旋律が全楽章にわたって繰り返される第2番が私には特に面白くて、すぐに購入。
CDで全曲聴いてみると第5番も好きな曲なのがわかって、このCDは意外なくらい面白くてとても満足できた。

ウジェーヌ=オーギュスト・イザイ(1858年-1931年)は、ベルギーのヴィルトオーゾ・ヴァイオリニスト。
作曲もする人で、<知られざる近代の名匠たち>のイザイ作品リストを見ると、ヴァイオリン曲中心に協奏曲や室内楽曲を数十曲残している。
大半の曲は演奏機会が少ないようで、唯一頻繁に演奏されているのが、難曲で有名な6曲の無伴奏ヴァイオリンソナタ。(ヴァイオリン曲は全然詳しくない私でも、名前くらいは知っているくらいに有名)
なぜか日本人ヴァイオリニストの録音も多いけれど、最も有名な全曲録音はクレーメルのVox盤(らしい)。ツィンマーマンの録音も評判がとても良い。

「イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 現代最高峰の奏者による名演 しかし…」[Yoshii9 を最高の音で聴こう!]
ツィンマーマンは、すでに10歳の頃からイザイの無伴奏を弾いているし、「イザイの無伴奏はバッハの無伴奏のためにも練習している」のだそう。

<音盤狂日録>(7月19日付け記事)(第3番のCD聴き比べ)


イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集
(2012/08/22)
ツィンマーマン(フランク・ペーター)

試聴する
ピアノは、エドアルド・マリア・ストラビオリ(全然知らないピアニスト)。1994年のデジタル録音。


<無伴奏ヴァイオリン・ソナタ op.27(全6曲)>作品解説[ClassicAir]

第1番 ト短調(ヨーゼフ・シゲティに献呈)
第1楽章: Grave (Lento assai)
第2楽章: Fugato (Molto moderato)
第3楽章: Allegretto poco scherzoso (Amabile)
第4楽章: Finale con brio (Allegro fermo)

6曲のなかでは最も前衛的と言われるらしき第1番。といっても難解さは稀薄で、旋律も結構メロディアス。
(この曲に限らずどの曲も)形式・曲想が自由で、使われている旋律もバリエーション豊富。
単調なところがなく、苦手な無伴奏といっても全く飽きずに聴けてしまう。
最も前衛的なのは第1楽章で、私にはこれが一番面白い。第4楽章も、時々急下降したりぐるぐる眩暈がしそうな回転感を覚える。
第2楽章はバロック風のフーガ、第3楽章はさらにバロック風が強まった優雅な旋律で叙情的。

Eugene Ysaye - Sonata No. 1 in G major



第2番 イ短調(ジャック・ティボーに献呈)
第1楽章:Obsession: Prelude (Poco vivace)
第2楽章:Malinconia(憂鬱) (Poco lento)
第3楽章:Danse des Ombres(亡霊たちの踊り): Sarabande (Lento)
第4楽章:Les Furies(復讐の女神達) (Allegro furioso)

第1楽章冒頭はバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番プレリュードの有名な旋律。
続いて、これも有名なグレゴリオ聖歌の<怒りの日>の旋律。この旋律を聴くといつもリストの《死の舞踏》(Totentanze)を思い出す。
バッハと<怒りの日>の旋律が断片的に繰り返し現れるところは、後年の現代音楽でよく使われるオスティナートやミニマル音楽の先駆けのようにも思える。
<怒りの日>の旋律は、第1楽章の<obsession(執念)>という副題どおり執拗に繰り返されるし、その後の全楽章でも、何度もいろんな形で織り込まれている。
それに、第2楽章以降の副題が、「憂鬱」、「亡霊」、「復讐の女神」ときているし、まるで<obisession>が全楽章に取り憑いているような気がしてくる。

第2楽章は「憂鬱」というよりは、静寂で哀感漂う旋律がとても美しい。最後に<怒りの日>の旋律が静かにゆっくりとフェードアウトするのが印象的。
第3楽章「亡霊たちの踊り」は変奏曲。<怒りの日>が最初はピチカートで現れ、続いてまったりと緩やかな舞曲風、さらにテンポや旋律がコロコロと変化していく。
終楽章は「復讐の女神達」という副題どおり、鋭く厳しい<怒りの日>の旋律で再現され、第1楽章に曲想が似ている。

Eugene Ysaye - Sonata No. 2 in A minor


youtubeで、ツィンマーマン、クレーメルカヴァコスの第2番第1楽章を聴いてみると、ツィンマーマンの音色が一番まろやかで綺麗に聴こえる。それに、バッハと<怒りの日>の旋律が交互に出てくるときの、間合い(休止)の取り方もちょうど良い感じ。


第3番 ニ短調(ジョルジュ・エネスコに献呈)
6曲中一番有名な曲"Ballade"。冒頭の半音階の旋律は、現代音楽的な妖しく不気味な雰囲気が漂っている。
冒頭から2分後くらいから、調性感も安定したパッショネイトな旋律が現れて、「バラード」らしくなる。
時々、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を連想するようなメロディが出てくる。(気のせいかも)


第4番 ホ短調(フリッツ・クライスラーに献呈)
第1楽章:Allemanda (Lento maestoso)
第2楽章:Sarabande (Quasi lento)
第3楽章: Finale (Presto ma non troppo)

バロック的な形式で、旋律もどことなく古典的で端正な雰囲気がする。
6曲のなかでは、現代音楽的なところが最も稀薄で、叙情的な音楽が好きな人なら聴きやすい曲。


第5番 ト長調(マティウ・クリックボームに献呈)
第1楽章: L'aurore (朝)(Lento assai)
第2楽章: Danse Rustique(民族舞踏)(Allegro giocoso molto moderato)

この曲だけかなり作風が違っている。第1楽章と第2楽章との関連性は薄いような気はするけれど、両方とも好きな曲想。
第1楽章は印象主義の標題音楽風。副題通り、爽やかな「朝」を連想するような曲。
第2楽章は、軽やかで穏やかで、優雅な雰囲気の舞曲。私の好きなブロッホの古典主義風な《コンチェルトグロッソ》に良く似た旋律が出てくる。




第6番 ホ長調(マヌエル・キロガに献呈)
第6番は調性も旋律も調和的で聴きやすいけれど、他の曲に比べると特徴がもう一つ強くないかも。
後半になると、(たぶん)「カルメン」に出てくるようなハバネラ風の旋律が出てくる。


<参考情報>
フランク・ペーター・ツィンマーマン(インタビュー)[日経新聞,2007年4月25日号)[伊熊よし子のブログ]
ツィンマーマンは、以前来日した時に、たしかトッパンホールで、クロイツェルソナタをエンリコ・パーチェのピアノ伴奏で弾いていたはず。
彼らのクロイチェルにはとても興味があって、いつか聴いてみたいと思っている。全集録音してくれたら良いのだけど。

tag : イザイ ツィンマーマン

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ローカーボ・レシピ情報
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代用食材
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糖質の低いローカーボなレシピには、米、小麦粉の代用となる材料が必須。
主食以外の食材では、砂糖・牛乳・チョコレートなども糖質の低いものに代用する。

ネット上に公開されているレシピを調べてみると、
お米 ⇒ こんにゃく、豆腐、おから。
小麦粉 ⇒ 小麦ふすま、大豆粉、おから、アーモンドプードル。
パンを焼くときは、小麦グルテンを使わないと膨らまない。この小麦グルテンが製品ごとにかなり癖があるらしい。
低GI値のお米(高アミロース米、大麦、白米をブレンド)も発売されている。生米で3kg3,600円で、100gあたり糖質72.1gとかなり多い。
これよりも、低GIで栄養豊富な発芽玄米(1kg・700円台)を食べれば良さそうな気がする。
玄米よりも発芽玄米はずっと炊きやすくて食べやすいし、白米に近い5分づきタイプとかもある。

麺類 ⇒ しらたき、糸こんにゃく)
カロリー・糖質がわずかで食物繊維が豊富なしらたき、糸こんにゃくはとても重宝。
「シラタキと糸コンニャク:雑学大全」によると、「しらたき」と「糸こんにゃく」は成型方法が異なる。「しらたき」は固める前に、「糸こんにゃく」は固めた後で、麺状に成型する。
しらたきは関東、糸こんにゃくは関西で好まれるらしい。しらたきは糸こんにゃくよりも細い。
いつも買うのは糸こんにゃく。店頭にあるしらたきは種類も数も少ない。
(代用せずに低GI値の麺を食べるなら、パスタのGI値が低い。十勝そばも良いらしいけれど、どこでも買えるパスタは価格も安くて手軽で便利)

砂糖類 ⇒ 人工甘味料(ラカントS使用のレシピが多い)
人工甘味料ではなく低GI値の糖類を選ぶのであれば、はちみつはGI値が高い。
メープルシロップはGI値が低いけれど、価格が結構高いので、精製度の低い黒砂糖か、ビートが原料の甜菜糖が良さそう。
精製度が最も高い上白糖は栄養分がほとんど残っていないし、三温糖は白砂糖をさらに煮詰めているので上白糖とほとんど変わらない精製糖。きび砂糖も精製糖になるけれど、上白糖よりは栄養分が残っている。
アスパルテームなど、総量規制のある人工甘味料もある。大量に摂取しなければ問題はないらしい。安全性に全く問題のないエリスリトールだけを使った人工甘味料の方が無難な気がする。

牛乳 ⇒ 無調整豆乳
調整豆乳は糖分がいろいろ添加されて、糖質が100mlあたり10gくらい。その他の添加物も多い。

チョコレート ⇒ 無糖ココア、ココアパウダー。(キャロブはココアの代用にはなるけれど、風味がかなり違う)


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ローカーボなレシピリスト
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ミセスおおからのキッチン
低糖質*豆乳ベイクドケーキ :無調製豆乳を使ったとってもシンプルなレシピ。
低糖質*おからのガトーショコラ風
低糖質*高野豆腐のパンケーキ風
低糖質*ポリポリ高野豆腐

ノンシュガー・ジェイピー


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ローカーボ・パン(小麦ふすまパンと大豆粉パン)
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ホームベーカリーで、強力粉・米粉不使用の「小麦ふすまパン」や「大豆粉パン」を焼くのは、かなりハードルが高い。
まず、普通の家ではストックしていない小麦ふすま、大豆粉、アーモンド粉を使うレシピが大半。
そこらのお店にはほとんど置いていないので、オンラインショップか製パン・製菓材料専門店で買うしかない。
(アーモンドプードル、大豆粉は、大きなスーパー置いていることがある)
さらに、材料費が強力粉のパンの数倍。元々割高な全粒粉パンや天然酵母パンと比べても、はるかにコストがかかる。
配合が複雑、小麦グルテンが必要、卵やスキムミルクを使う(アレルギーの人はNG)、糖分は人工甘味料。
実際に作ってみても、膨らみが悪かったり、パサパサした食感だったりと、普通の強力粉パンのようには上手くできるとは限らないようなので、失敗しても材料や配合を改良しながら、気長に作っていかないようだ。

お砂糖のないスイーツ(糖質制限食を主軸に、 お砂糖を使わない自作スイーツ&パンの 模索の記録(・w・)ノ)
糖質制限パンやお菓子に関して、詳しいレシピが載っているサイト。
長年糖尿病を患っているブロガーさんが考案したレシピで、材料情報や材料・配合の違いによる比較・改良、作り方のコツなどが詳しく載っている。
- グルリッチAで低糖質食パンを作る

また、「糖質オフのおいしいお菓子とパン」に関する記事を読むと、この本では説明不足で上手く作れないらしい。どうも、この本を買うより、こちらのブログ記事を参考にした方が良さそう。


HBだけで低糖質パン(カテゴリ)[やさしい時間を]
- ホームベーカリーで低糖質パンを焼いてみる レシピ

小麦ふすまパン
小麦ふすまパン(改良版) [以上、Cookpad]
糖質を徹底的にカットしたいなら、強力粉を一切使わず、小麦ふすま、大豆粉、アーモンドパウダー、小麦グルテンを使う本格的なローカーボパンもあり。難点は材料費がかなり高額なこと。

HB 糖質オフ大豆粉パン(1.5斤)[Cookpad]


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糸こんにゃく/しらたき
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私は糖質制限はしていないけれど、肉類・油脂類はあまり取らないので、計算したら1日当たりの糖質は100~130gくらいしか摂っていなかった。
大豆製品と野菜が主体なので、いろいろ食材の料理法を工夫しないとメニューが限られてくるので、以前から作っているのが糸こんにゃくを使った焼そば風。

こんにゃくは、ゆでて使う方法と、冷凍してから使う方法がある。
冷凍したお豆腐を使うレシピは多いけれど、冷凍こんにゃくというのは、知らなかった。
普通、こんにゃく類は冷凍すると食感が全く変わってしまうので、冷凍してはいけないと言われている。

凍りしらたきでスープ@酸辛湯麺(風)
実際に冷凍したしらたきを解凍して、お鍋に入れてみたけれど、”戻し時間が短い春雨”みたいに固くてボソボソしていたので、これは失敗。冷凍しすぎたんだろうか??
冷凍せずに、そのまま茹でてアク抜きしてから麺代わりに食べた方が、食感・ボリュームともしっかりあって美味しい。

市販品でも、粒こんにゃく(米粒状にカットしたこんにゃく)や、乾燥こんにゃく米(こんにゃくにタピオカ澱粉
とかを混ぜたもの)が販売されている。
これは結構価格が高いので、普通のこんにゃくやしらたきを使って、お米と一緒に炊くレシピもあり。
ただし、お米と一緒に炊くので、それほどローカーボにはならない。
糸こんにゃくやしらたきを麺に代用した方が100%置き換え可能なので、糖質削減効果は高い。

ダイエットに!しらたきごはん
糸こんにゃくを使って実際に作ってみると、これはかなり美味しい。
水分が多かったせいか、炊き上がりはややベチャついてモチモチ感があるけれど、食べていてもしらたきが入っているとは全然わからない。(よく見れば、米粒とは違うのがわかる)

簡単!こんにゃくご飯♪ :しらたきではなく、板こんにゃくをミキサーやフープロで細かくカットして、ご飯と一緒に炊く。

米国で「しらたき」が大人気! パスタ代用品として暴走中!?[ミセス・マキのアメリカ消費生活,日経トレンディネット]
普通のしらたきに加えて、ハウスの「Tofu Shrataki(豆腐しらたき)」が第人気らしい。米国でしか売っていないらしく、日本でもダイエット食品として、かなり売れるのでは。

「おからこんにゃく」なら、以前から販売されている。

参考までに、昔に流行った(らしい)こんにゃくダイエット情報では、こんにゃくを大量に食べると腸閉塞になる恐れがあると書いていた。
元々健康な人は大丈夫らしいが、1日1kgとか大量に食べるのは避けた方が良く、腸の手術をした人などは、大量に食べなくても、しらたきや糸こんにゃくをよく噛まずにスルスル食べると腸閉塞の恐れがあるらしいので、要注意。


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おからと豆腐
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おからは、スーパーやお豆腐屋さんで売っている「生おから」と、「粉末おから」「おからパウダー」の2種類がある。
乾燥させたものは、製品によって粒子の大きさが異なるので、製菓用には粒子の細かい方が出来上がりが良いらしい。
「生おから」を保存する場合は、フライパンで炒って冷凍すれば長持ちする。手間を考えると「おからパウダー」を買ったほうが便利。
おからパウダーの賞味期限は製品によって違うが、だいたい(たぶん製造後)3ヶ月~6ヶ月くらい。

クックパッドには、おから・豆腐などをつかったレシピが多数。
普通のレシピだと砂糖を使っているので、気になる人は人工甘味料で。
■ダイエッターの主食■おからチャーハン■
レンジでクイック☆おから蒸しパン
ノンオイル☆ノン小麦粉☆おから林檎ケーキ
本当に簡単すぎます!ココアおからケーキ
ノンオイル☆ダイエット☆おから☆ショコラ
IKKOの絶対内緒おからクッキー完全版
100%おからチョコパウンドケーキ
レンジで簡単☆こうや豆腐☆スナック
砂糖不使用の「めんつゆバージョン」もあり。


マクロビレシピ!チーズが恋しくなったら。 [Cookpad]
豆腐レシピのなかでも、とりわけ独創的なレシピ。この食感と味が気に入れば、デザートがわりになる。
水切りした豆腐と納豆を混ぜ合わせてから、冷蔵庫で数晩ねかせておけば、滑らかなチーズ風デザート(?)に変身。そのままだと豆腐っぽい味が抜けないので、黒胡椒と乾燥バジルを混ぜると美味しい。
絹こし豆腐だととってもクリーミー、木綿豆腐だとネットリ粘り気が強くて味も濃厚。
木綿豆腐を使うときは、最初に茹でてからさらに重しを載せて水切りしているので、混ぜてから3日くらいしないとなかなかクリーミーにならない。

豆腐アイス
アイスクリームもお豆腐で簡単に作れる。
豆腐臭さが残るので、無糖ココア(ココアパウダー)やきなこ、完熟バナナを混ぜると豆腐の臭いがかなり消える。完熟バナナは糖質が多くて結構甘いので、砂糖は入れなくても良い。


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『糖質制限の「主食もどき」レシピ』
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糖質制限食に関するレシピブックはいろいろ出ているけれど、主食(米、パン、麺類)の代用レシピに絞ったのが『糖質制限の「主食もどき」レシピ』。
<主食もどき>になりそうなレシピと、単に主食に代えて食べる(主食に見立てただけ)ものがある。

炒り豆腐やしらたきを使うのは、普通の料理として、従来からよく見かけるレシピ。
<麺もどき>も、野菜を使ったものは、切り方をいろいろ工夫してはいるけれど、かなり苦しいアイデア。
えのきを麺代わりにするのは、庄司いずみさんのレシピにもあったし、カリフラワーやもやしとかの野菜類は、主食がわりになるのかなあ?と思わないでもない。
<お餅もどき>にいたっては、<もどき>というより、他の食材を”お餅”に見立てたもの。

パンやお菓子の場合は、大豆粉や小麦ふすま、アーモンド粉とか、普通は常備していない(それに割高な)材料が必要。
糖質の多い片栗粉や上新粉などは使っていない。
一番簡単そうなのが、豆腐とおからのパン。手軽に手に入る材料で作り方も簡単。これは朝食のパンがわりに食べれそう。
「おから蒸しパン」も簡単なのに、そのレシピがないのが残念。

糖質制限する必要がない私には、敢えて作ろうと思えるものが少ないけれど、手軽な材料で<もどき>になりそうに思えたのは、豆腐・おから・高野豆腐・糸こんにゃく/しらたき。
台湾の「素食」のようなもどき料理を期待していたけれど、このレシピ集はいつも作っている料理とかなり重なっていた。
材料・組み合わせ・加工方法を工夫して、もう一捻りしたアイデアがあれば良かったのだけど。
でも、レシピを探して作る習慣のない人にとっては、自分で考えるよりもいろんなアイデアが見つかるので、役に立つとは思う。


※台湾の素食料理:肉、魚、卵、動物性の脂、ネギ類を使わず、豆、キノコ、豆腐、海草、野菜などを使って肉や魚にそっくりの「もどき」料理がでてくる。[旅々台北 [眾流素食・衆流素食]]



糖質制限の「主食もどき」レシピ糖質制限の「主食もどき」レシピ
(2013/01/25)
江部 康二、検見崎 聡美 他

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<目次>
Part1 ご飯もどき←――豆腐、高野豆腐、水煮大豆、おから、糸こんにゃく、白菜、カリフラワー、もやし、えのきだけ、鶏ささみ、ゆで卵の白身
Part2 パンもどき←――油揚げ、高野豆腐、豆腐+おから、大豆粉、小麦ふすま粉
Part3 麺もどき←――油揚げ、ゆば、黒糸こんにゃく、白糸こんにゃく、大根、白菜、えのきだけ
Part4 餅もどき←――高野豆腐、豆腐、こんにゃく、白身魚、鶏ささ身
Part5 粉ものもどき←――小麦ふすま粉、おから、アーモンド粉、鶏ささ身、卵、ゆば
Part6 簡単ケーキ←――おから、小麦ふすま粉、大豆粉、木綿豆腐

牧田善二 『糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい』
本屋さんで新書コーナーの棚を眺めていたら、牧田善二医師の『糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい』という、人目を引く黄色い表紙の面白いタイトルの本が並んでいた。
最近多数出版されている「糖質制限食」に関する本の一つ。
同じ著者の『糖尿病専門医にまかせなさい』の方は読んだことがあり、それよりもわかりやすい。

糖質制限食に関しては、江部医師が解説書やレシピ集を多数出版しているが、それと異なる点は、(牧田医師によれば)糖尿病合併症の原因である「AGE」について詳しく説明しているところ。
- 「AGE」はタンパク質と糖質から最終的に生まれる物質の総称。20種類のアミノ酸で構成されているタンパク質と糖質を一緒に加熱すると褐色になる。この反応を、「メイラード反応」と呼び、AGEが大量に発生する。
- AGEは体内のタンパク質を攻撃し、その機能を低下させる働きがあり、加齢とともに増加するため、老化を進めて寿命を縮める原因になっている。
- 動脈硬化の多くは、厚くなった動脈の内部にアテロームという固まりが生じるのが特徴であり、AGEはそれを進行させる。

糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい (講談社プラスアルファ新書)糖尿病はご飯よりステーキを食べなさい (講談社プラスアルファ新書)
(2010/02/19)
牧田 善二

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糖尿病専門医にまかせなさい (文春文庫)糖尿病専門医にまかせなさい (文春文庫)
(2009/01/09)
牧田 善二

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牧田医師は東京都内にクリニックを開設しており、そのホームページで糖尿病の治療方針やAGEに関する解説もある。
また、日経BPのオンラインサイトにも記事を掲載しているので、それらを読めば牧田医師の著作の内容が大体わかる。

AGE牧田クリニックのホームページ
- AGEとは?
- 糖尿病治療

SAFETY JAPAN掲載記事(NIKKEI BPネット)
30代男性を襲う糖尿病(1)~「血糖値さえ下げれば治る」は危険な誤解~[SAFETY JAPAN/NIKKEI BP NET]
30代男性を襲う糖尿病(2)~合併症や老化の原因となる危険なAGE~[同上]
糖尿病の判定には、血糖値、ヘモグロビンA1c(1~2ヶ月間の血糖値の平均推移を反映)を測定する。糖尿病腎症の判定には「尿アルブミン検査」が必要。

【コンサート情報】ツィンマーマン&パーチェ ~ J.S.バッハ/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会
たまたま検索していて発見したのが、フランク・ペーター・ツィンマーマンの「J.S.バッハ/ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会」の情報。
開催日時:2013年10月4日(金)19:00開演
会場:青山音楽記念館・バロックザール(阪急嵐山線上桂駅下車)
チケット代金:5000円(全席指定)
コンサート情報(バロックザール)

調べてみると、このリサイタルの翌日(10月5日(土))には、大阪フィルの京都特別演奏会(京都コンサートホール)で、ツィンマーマンがブラームスのヴァイオリン協奏曲を演奏する予定。
東京でも10月に同じプログラムのリサイタル(都民劇場音楽サークル第611回定期公演)が開催される。

【2013.10.12 追記】
京都に鳴り響いた大阪フィルのブラームス![大阪フィルのブログ,2013.10.09]


【2013.11.6 追記】
F-P. ツィンマーマン/バッハ《ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ》全曲演奏会レポート[青山音楽記念館バロックザール,2013.10.6]



関西でツィンマーマンの演奏会が開催されるのは、とても珍しい。
過去の来日公演は、室内楽曲の場合は東京のトッパンホールが数回あったはず。
国内外の演奏会でツィンマーマンがバッハのヴァイオリンソナタを弾くときは、(必ずと言っていいくらい)ピアニストはエンリコ・パーチェ。
2人はSONYから全曲録音もリリースしているし、ドイツ有数のバロックホールのリサイタルを撮影したDVDも出ている。

彼らのバッハ演奏が実演で聴ける機会なんて、そう度々あるものでもない。
問題は平日の夕方に、かなり遠方で不便なバロックザールまで行けるかどうか...というところ。
いずみホールあたりだったら良かったのに..と思わないでもないけれど、とりあえずチケットだけは購入しておこうかと。

コンサート情報を見て思い出したので、久しぶりに聴いたツィンマーマンとパーチェのバッハ。もう何十回聴いたのか数えられないくらい。
ピアノとヴァイオリンという現代楽器による演奏は、チェンバロとは違った良さがある。
この曲集は昔から録音・実演ともチェンバロで弾かれることが多くて、最近では現代楽器だけで演奏するというのはとても珍しい。
チェンバロ盤もいくつか持っているけれど、いつも聴くのは、このライブ演奏。
それに、スタジオ録音よりも臨場感があるし、隅ずみまでぴったり呼吸があった完璧なデュオが素晴らしい。2人の表情や、目線でやりとりしている様子とかもよくわかるので、見ていてとっても面白い。


バッハのヴァイオリンソナタ6曲はどれも好きだけれど、とりわけ好きなのが第3番BWV1016のライブ演奏。
軽快で明るく伸びやかな第4楽章がとても素敵。
Bach Sonata for Violin & Piano BWV 1016 E major F P Zimmermann, E Pace



第4番BWV1017はさらりとした哀感が美しく、第4楽章のフーガは現代的にも思えるくらい。
Bach Sonata for Violin & Piano BWV 1017 C minor F P Zimmermann, E Pace



ツィンマーマンがコンチェルト演奏後のアンコールでいつも弾いている(らしい)のが、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番BMW1003の”Andante”。
もしかしたら、大フィルの京都公演の時にこの曲を弾いてくれるかも。
Frank Peter Zimmermann JOHANN SEBASTIAN BACH Sonata Für Violine



<演奏会レビュー>
ヴァイオリンとピアノでたどるバッハの対位法(ニューヨーク・タイムズ 2011年10月13日)


<関連記事>
 ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集
 ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集(ライブ録音/DVD)

tag : バッハ ツィンマーマン パーチェ

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芥川也寸志/ヴァイオリンとピアノのためのバラード 、ラ・ダンス
このところ芥川龍之介の小説や評伝などを立て続けに読んでいるせいか、龍之介の三男・芥川也寸志が作曲した音楽を聴きたくなってきた。

芥川也寸志のプロフィールを読むと、子供の頃から父・龍之介の遺品であるクラシックのレコードを蓄音機で聴いていたという。特に気にいっていたのが、リヒャルト・シュトラウスやストラヴィンスキー。すでに幼稚園の頃から、ストラヴィンスキーのバレエ音楽《火の鳥》の「子守唄」を口ずさんでいたというから、現代音楽作曲家となる将来を暗示していたのかも。
龍之介の文才も受け継いでいるようで、『音楽の基礎』、『私の音楽談義』、『音楽の旅-エッセイ集』、『音楽を愛する人に―私の名曲案内』など著作も多い。

芥川龍之介がクラシックに関して書き残したものといえば、『あの頃の自分の事』という随筆(というか回想というか)に、東大在学中にクラシック演奏会に行った時のことが書かれている。
それに、1925(大正14)年5月に「新小説」に掲載された短編『ピアノ』はとても素敵なお話。
2000字にも満たないけれど凝縮された文章が、色彩感鮮やかに、ピアノが藜のなかで静かに佇んでいる情景と白い鍵盤、その上に落ちている落ち栗などをくっきりと浮かびあがらせる。ピアノの音まで聴こえてきそうなくらい。
まるでピアノが意志を持っていて、「わたし」とピアノが心を通じ合っているかのように不思議な、それでいて、ほのぼのとしたものが伝わってくる。

数年前、芥川也寸志の書いた管弦楽曲を数曲聴いた時には、日本の現代音楽にしては、日本と西洋が融合したモダンで颯爽とした作風だったので、とても聴きやすく好きなタイプの音楽だった。
今度は管弦楽曲以外の録音を探してみたけれど、室内楽曲やピアノ曲は、管弦楽曲や映画音楽ほどには有名ではないらしく、録音がなかなか見つからない。

Youtubeで見つけた音源は《ヴァイオリンとピアノのためのバラード》(1951年)。
厳めしくも、エキゾチックな雰囲気が漂っていて、ゾクゾクっとする。
冒頭の伝統的な日本の音階で書かれたような旋律を聴くと、「五木の子守歌」の”おどま盆ぎり盆ぎり~”のメロディにそっくり。
この冒頭主題の演奏は短く、すぐに軽快なテンポに変わる。
ほの暗く叙情的なヴァイオリンの旋律と、それと対照的に、厳めしい雰囲気でオスティナートするピアノ伴奏とが融合し、急迫感がある。
中間部は緩徐的になり、冒頭主題の旋律が再び現れて、バラードらしい哀愁が漂う。
再現部の最後は、ヴァイオリンがねじれるような響きで上行して、エンディング。


芥川也寸志:ヴァイオリンとピアノのためのバラード




同じくYoutubeで見つけたのは、ピアノ独奏曲の《ラ・ダンス/La Danse》 (1948)
こちらは作曲ソフトで合成された演奏。音が金属的なところはあるけれど、合成音でもどういう曲かよくわかる。演奏機会が少ない曲が聴けるという点では、こういう音源もありがたいもの。

《ラ・ダンス》は、和風の音階・リズムの旋律を使って、西洋風ダンスを踊っているような、和洋融合したところが面白い。
旋律とリズムの違う4つのパートに分かれて、変奏曲というよりも組曲的。
とても美しいパートは、4:24~。リズムが滑らかになって、旋律も柔らかくそよ風のように優しく爽やか。

芥川也寸志「ラ・ダンス」La Danse (1948) by AKUTAGAWA Yasushi
(Performed by Ableton Live and Galaxy Vintage D.)



<参考情報>
芥川也寸志[クラシック名曲・名盤]:プロフィールと主要録音の紹介
芥川也寸志―その芸術と行動(東京新聞出版局,1990/06)(amazon)


<関連記事>
芥川也寸志の管弦楽作品 (1)オーケストラのためのラプソディ、弦楽のための三楽章「トリプティーク」
芥川也寸志の管弦楽作品 (2)エローラ交響曲

tag : 芥川也寸志 芥川龍之介

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【新譜情報】カッチェンのリイシュー盤(グリーグ、シューマン、ラフマニノフ、ブラームス)
カッチェンの既存録音のリイシュー盤(国内盤)3枚が5月15日に発売予定。
メモリアルイヤーでもないのに再販されるのはちょっと意外だったけれど、あまり知られていないグリーグのピアノ協奏曲の録音が入っているのが嬉しい。
そのうち、相変わらず価格の高いブラームスのピアノ作品全集の廉価盤も出してくれれば良いのだけど。

グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲
昔からグリーグとチャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴くときは、このカッチェンの録音がほとんど。
カッチェンのグリーグは、速めのテンポで、線が太く低音の響きも重みがあり、力強くてダイナミック。
極寒の地で暮らしたことは全くないので、北欧のイメージ~ノルウェーのフィヨルドや氷河とかの雄大で荒々しい自然の情景が浮かんでくる。


Grieg: Piano concerto op. 16 (Katchen - Kertesz - 1962 - Vinyl LP)


グリーグ&シューマン:ピアノ協奏曲/カッチェン、ケルテス、イスラエル・フィルハーモニー (2013/05/15)(amazon)


ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、パガニーニの主題による狂詩曲
ピアノ協奏曲第2番は、ショルティ指揮ロンドン響の伴奏による録音。特に第3楽章がスピーディで、虎のようにマニッシュなところもあって、一風変わった面白いラフマニノフ。
ロシア的憂愁漂うベタベタとした情緒的な演奏になっていないところが私の波長に合うらしい。
この方向性の演奏で好きなものといえば、カッチェン以外ではアール・ワイルド。

Julius Katchen Rachmaninov Piano Concerto n°2 SOLTI (LSO) 1958


ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番、パガニーニの主題による狂詩曲/カッチェン、ケルテス、ボールト、ロンドン響・ロンドンフィルハーモニー管(2013/05/15)(amazon)


ブラームス:ハンガリー舞曲、ワルツ集(ピアノ独奏版)
今まで聴いたブラームスのハンガリー舞曲のピアノ独奏版(第1番~第10番)のなかでは、このカッチェンとキーシン(抜粋)がベスト。
ブラームスの曲は、技巧的な難曲であっても、それほど難しそうには聴こえない...という人もいるくらい、耳で聴いてもテクニカルな難易度が高い曲には思えないかも。
ライブ映像か楽譜を見ればその辺が良くわかるし、いろいろ聴き比べると、ほとんどの録音は、難所にあわせてテンポが遅い。
カッチェンとキーシンはテンポが速く、難所でもそのままテンポを落とさずにもたつくことなく引いていく。
キーシンの方が細部のタッチは精密だけれど、カッチェンはリズミカルで勢いも良く、ほの暗くもパッショナイトなハンガリー風の哀愁も漂っている。

Hungarian Dances Nos. 4 & 5 (弾いているのは、第4番と第7番)


ブラームス:ハンガリー舞曲、ワルツ集/カッチェン (2013/05/15)(amazon)


<関連記事>
《The Art of Julius Katchen》より ~ グリーグ/ピアノ協奏曲
カッチェン ~ ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 (2)ショルティ指揮ロンドン響
カッチェン ~ ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲(1962年ステレオ録音)
カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (5)ハンガリー舞曲集
カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (10)ワルツ集 Op.39
『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』
ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

tag : グリーグ シューマン ラフマニノフ ブラームス カッチェン

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山田 悟 『糖質制限食のススメ その医学的根拠と指針』 
山田悟医師の著作『糖質制限食のススメ その医学的根拠と指針』は、”第一線の糖尿病専門医が書いた初めての糖質制限本”。
「糖質制限食」に関する書籍では、糖尿病専門医ではなく内科医で自身もⅡ型糖尿病を患う江部医師の著作が多数発刊されている。
糖尿病治療食としての「糖質制限食」に対しては、専門学会である糖尿病学会では公式には認められていない。
ただし、昨年5月に開催された第55回日本糖尿病学会年次学術集会では「緩やかな糖質制限療法(糖質130g/日程度、乃至は20~40g/食)をオプションの一つに追加する」がコンセンサスとなったようだ。(出典:「5/18 日本糖尿病学会が緩やかな糖質制限療法を認めた日」[目標・PinPinKorori。])
その後、7月27日付けの読売新聞では、同学会の門脇孝理事長が「炭水化物を総摂取カロリーの40%未満に抑える極端な糖質制限は、脂質やたんぱく質の過剰摂取につながることが多い。短期的にはケトン血症や脱水、長期的には腎症、心筋梗塞や脳卒中、発がんなどの危険性を高める恐れがある」と指摘。「現在一部で広まっている糖質制限は、糖尿病や合併症の重症度によっては生命の危険さえあり、勧められない」と批判しているので、学会の公式見解は結局どうなのかがよくわからない。

山田医師の「糖質制限食」は、江部医師とは糖質制限量が異なる。
糖尿病治療食として江部医師が推奨するのは「ス-パー糖質制限食」。1食あたり10g~20g、1日あたり30g~60g。それが無理な場合は、昼食のみ主食を摂る「スタンダード糖質制限食」。糖質量は1日70g~100g。
山田医師の場合は、米国のバーンスタイン医師の「低炭水化物食」の基準である1日130g以下がベース。1食あたり20g~40g、1日120g以下を糖質制限食の基準としている。

糖質制限食の医学的な根拠は、江部医師の説とほとんど変わらないように思う。
決定的に違うのは、糖質量が20g~40gと「ス-パー糖質制限食」倍量を摂取できるため、ご飯・パンなどの主食がある程度食べられること。
スーパーレベルの20g以下にしないのは、ケトアシドーシスのリスクがあるため。症例数は極めて少ないとしても、発症するケースの条件がまだ明確でない。

特に参考になったのは、「第4章バーンスタインの示す糖質制限食の効果」、「第7章糖質制限食批判への反論」。また、現在のカロリー制限食がなぜ長期的に継続するのが困難なのか、その問題点もよくわかる。
第7章では、糖質制限食に対する批判の論拠となっている海外の論文について、糖質制限食の定義・臨床試験の実施方法・分析&解釈上の問題を指摘し、糖質制限食に対する医学的妥当性のある批判になっていないと反論している
さらに、現在糖尿病学会が推奨しているカロリー制限食の炭水化物摂取比率(およびたんぱく質・脂肪の摂取比率)は、専門家の経験に基づいたコンセンサスでしかなく、科学的根拠がないこと、近年の米国糖尿病学会では「低炭水化物食」に対する評価が変化し治療食として公式に認めていることなど、米国では「糖質制限食」が糖尿病治療食としてのスタンダートの一つとなりつつあることを示している。

“糖質制限食 vs. カロリー制限食” 山田悟氏に聞く[2012/8/24,中島肇のブログ]を読むと、山田医師の基本的な考え方がわかる。

糖質制限食のススメ糖質制限食のススメ
(2012/09/01)
山田 悟

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<目次>
第1章 ゆるい糖質制限食は続けられる食事療法
第2章 糖尿病と治療食
第3章 カロリー制限食との棲み分け
第4章 バーンスタインの示す糖質制限食の効果
第5章 ゆるい糖質制限食のやり方
第6章 様々な糖質制限食と定義づけ
第7章 糖質制限食批判への反論
第8章 社会へのアピール

                            

カロリー制限食と糖質制限食の違い
カロリー制限食が続かない理由
- この食事を継続できない患者が非常に多い。計算が面倒、少ない食事で我慢、美味しい料理を我慢。
- 肥満解消のために摂取カロリーを抑える。空腹感が辛い。長期間にわたって実行できない。
- カロリー計算や栄養バランスの調整が面倒
- カロリーの上限、糖質・脂質・蛋白質の割合も決まっている。(糖質50-60%、脂質25%以内、たんぱく質15-25%)
- 食べられる量が少ない。
- 美味しいものを食べられる可能性が低い。脂質を控える設定なので、肉や魚など脂質の多い食品で食べられるものが少なくなる。

そこで糖質制限食に着目。食事に伴う血糖値やインスリンの増加を避けることが直接的な狙い。
- 血糖値が上がるのは糖質を食べたときだけ。脂質やたんぱく質を食事で摂っても、血糖値は上がらない。血糖値が下がればインスリンも少なくなり、肥満解消の効果もある。
- 計算の面倒さがない。糖質の多い一部の食品だけ注意していれば良く、大まかな目安さえ守れば計算は不要。
糖質を減らすことが目的なので、脂質やたんぱく質から取るカロリーの量は気にしなくて良い(よほど大食漢でなういかぎり、お腹いっぱい食べても治療効果がある)
- 脂質やたんぱく質に関して、食べられる種類の制限が少ないので、美味しく食べられる食品の種類が多い。(肉、魚、炒め物、揚げ物などの油料理もOK)
- カロリー制限食の弱点がカバーされて、比較的続けやすい。

糖尿病患者の家庭では、カロリー制限食を実践していると、かならず患者の食事を見張る人-「糖尿病警察」が出てくる。糖質制限食では、そういう人は必要なくなる。


糖質制限食の定義
糖質制限食のガイドラインが日本には存在しないし、明確な定義もない。
糖質を制限する治療食はアメリカ糖尿病学会のガイドラインでも公式に求められている。
日本ではカロリー制限食しか公式には認められていない。

糖質制限食の有効性を確認するには、どの程度まで糖質を減らせば糖質制限食なのかという定義がなければ、効果を確かめられない。
糖質制限食の効果を過信するケースもある。(Ⅰ型糖尿病で血糖値が下がったためインスリン注射を中止してしまい急速に病状が悪化した)
「糖質制限食をちゃんと評価するためにも、安全で有効な運用をするためにも、明確な定義が必要な状況になってきている」

現時点で最も有効な基本を与えてくれるのが、バーンスタインの定義「1日糖質量130g以内」

バーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイドバーンスタイン医師の糖尿病の解決―正常血糖値を得るための完全ガイド
(2009/12)
リチャード K.バーンスタイン

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Ⅰ型糖尿病患者だったバーンスタイン医師は、糖尿病の治療法として、食事の糖質を控えれば血糖のコントロールが良好になることを発見。その頃、米国でもカロリー制限が公式に認められ常識とされていたため、主治医は全く相手にしなかった。そこで、バーンスタイン医師は、仕事を辞めて医学部へ進学。医師となって糖質制限食による糖尿病治療を実践し、糖質制限食の有効性を証明していった。

バーンスタイン医師と同僚たちは、2008年に糖質制限食に関する考えをまとめた文章を発表し、「糖質制限食は1日の炭水化物量を130g以下とする」と定義した。
カロリー比率でいうと、1日の摂取カロリーが2000kcalの場合、炭水化物が26%、520kcal以下となる。
日本では、「炭水化物」よりも「糖質」が一般的。炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質。英語には「糖質」に当たる言葉がないため、「ロー・カーボ・ダイエット」という。


ゆるい糖質制限食
バーンスタインの基準糖質量1日130g以内を元に、「1食の糖質量を40g以内」をゆるい糖質制限食の基準と考える。
これはかなり緩い基準。調味料に関してはあまり気にしなくてもよくなり、主食であってもある程度食べられる。
ゆるい糖質制限食は主食を食べられる糖質制限。食事のスタイルを基本的に変えないで、家族や他の人と同じ食事を楽しめる。ゆるい糖質制限食は美味しいから続く。
摂取下限は「1食の糖質量を20g以上」とする。
糖質量を厳しく減らすと、ケトン体が増えて重症化し、稀に「ケトンアシドーシス」が起こることがあり、その頻度や患者特性が不明。「1食の糖質量が20g以上」なら、ケトン体の増加を心配する必要がない。
糖質制限食のメリットを生かすためには、あくまでも制限すべき糖質量の範囲だけを基準とすべき。総カロリーに対する糖質比率で表現すると、結局はカロリー計算が必要になる。


摂取カロリー基準の算定方法
算定方法には2通りあるが、その結果はあまりに隔たりが大きい。

厚生労働省「日本人の食事摂取量基準」:基礎代謝量から算定。男性2200~2700kacl、女性1700~2000kacl 1700~2700kcal。

糖尿病学会:標準体重から算定。1400~1680kcal(この算定方法はかなり特異)
実際の基礎代謝量測定から求めた値(実測値)よりも、標準体重を基に設定したカロリー(設定値)が大きく下回っている。
太ってる人ほどその差が大きい。低すぎるカロリー設定をしているために、食事療法を続けられない人が多い。

(参考)
江部医師も日本糖尿病学会のエネルギー量算定方法では、適正エネルギー量が少なすぎるという趣旨の記事を書いている。
「糖尿人の適正摂取エネルギー量はどのくらい?、2012年12月」


糖尿病の食事療法のガイドライン
糖尿病の食事療法について、糖尿病学会は2つのガイドラインを出している。
一般医師向け:糖質55~60%
糖尿病専門医向け:糖質50~60%。脂質比率は25%未満。
ガイドラインが異なっている理由は、カロリー制限食の科学的根拠のレベルが低い(専門家の合意のレベル)のため。

アメリカ心臓病学会の中性脂肪に関する科学的声明(2011年)には、脂質を中等量摂取したほうが、脂質を少なく摂取するよりも、Ⅱ型糖尿病患者の脂質管理に適していることが明記されている。

カロリー制限食の正しさに科学的根拠はないとはいえ、糖尿病の治療食、健康増進、アンチエイジングのための治療食としては有効。カロリー制限食の臨床的な有効性は経験的にわかっているので(血糖値は改善し、体重も減少する)、実際の治療の現場では、カロリー制限食から指導し、継続できる人はそのままにして、続けられなかった人には、糖質制限食を勧めるのが良い。


バーンスタインの示す糖質制限食の効果
1.栄養療法の主たる目的である血糖コントロールを改善し、インスリンの変動を抑制する。
2.低脂肪・カロリー制限食に比べ、少なくとも同等には減量効果がある。
根拠:ダイレクト試験(2008年,jmed,359,229)、低脂肪食・地中海食・糖質制限食の比較(jama,2007,297,979,ガードナー)
3.炭水化物を脂質に置換することは、一般に動脈硬化症に対して保護的である。(HDLコレステロールや中性脂肪の状況がよくなる)
4.メタボリック・シンドロームの構成要素を改善する。
5.糖質制限食の効果に減量は不可欠ではない。(体重減少が生じていなくても食後の血糖上昇は抑制される)


日本で根強いのは、糖質制限食は結果として脂質の摂取が増え、そのことで糖尿病や肥満が増えるという主張。
最近10年間では、脂質の摂取量は減っているのに、糖尿病と予備軍は増加している。アメリカでも同じ現象。

ゆるい糖質制限食の場合、食べ方は2パターン。
①ご飯なら半膳、パンなら半切れそ主食として、イモなどを抜いたおかずを多めに食べる。
②主食を抜いて、おかずをたくさん食べる。


糖質制限食に対する批判と反論
糖質制限食の批判の根拠となる論文には問題が多い。
●バーンスタイン医師の基準と比較して、糖質量がはるかに多いため、糖質制限食とはもはや言えない食事を対象にしている。
●元々糖質制限食に不利な条件設定や結果の解釈になっており、科学的に不平等
●非科学的な結論づけ

●高糖質を摂取しなければならない必要性には根拠がない
アメリカの食事摂取基準では、「炭水化物の必要最小量はゼロ」。
日本の食事基準でも、最低必要量は約100g/日と推定、と記載されているが、ただし書きがあり「これは真に必要な最低量を意味するものではない。肝臓は必要に応じて、筋肉から放出された乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールを利用して糖新生を行い、血中にぶどう糖を供給するからである」。
つまり、最低必要量は100g/日以下ということ。

食事で糖質を摂らないと脳が働かないというのは完全に誤り。
食事で糖質を摂らなくても、血糖値が0になることはない。
人間には糖新生という機能があり、たんぱく質などから人体が血糖を作りだすことができる。
食事に糖質が必要というのは、これまでの食習慣からくる思い込みにすぎない。

●極端な糖質制限食でケトアシドーシスがまれに発生するからといって、それ以外のゆるい糖質制限食まで問題視するのはおかしい。(極端なカロリー制限食があっても、それよりも緩いカロリー制限食まで問題視されてはいない)

●理想的とされている3大栄養素のバランスには根拠がない
食事コンサルテーション国際グループ、アメリカの医学アカデミー、厚生労働省とも、糖質摂取量が全体の50%以上でなければならないなどとは主張していない。
ゼロで良い、100g以下(1日2000kcal摂取しているなら20%に相当)と言っている。

一般に糖質は50~60%が良いと考えられている。
これは、1日に必要なエネルギーから、たんぱく質あるいは脂肪で最少限摂らねばならない量にプラスアルファしたエネルギーを差し引くと、糖質でとらざるを得ないエネルギー量が求まるという考え方をした場合、糖質が50~60%になると書かれている。
元来のエネルギー摂取量が糖尿病治療のために低く設定された場合、同じ考え方をして算出した糖質が50~60%になるわけがない。糖質の比率は低くなるはず。

アメリカ医学アカデミーはたんぱく質、脂肪のいずれも最大耐用量(これ以上摂取してはいけないという量)は設定できないと明記している。
そもそも、たんぱく質や脂肪を最小限に抑制しなければならない理由は全くない。現在の理想的とされている三大栄養比率の概念には根拠がない。

アメリカ糖尿病学会の見解では、血糖コントロールに関して糖質制限食の有効性を事実上認めており、一方カロリー制限食は生涯の治療法として実践的とは扱っていない。
ガイドラインでは、カロリー制限について記載がない。血糖コントロールに関して、炭水化物に注目することは重要だ、と書いている。炭水化物量を管理するのもいいし、炭水化物を他の栄養に交換するのもいい。
糖質制限食は体重減少について、少なくとも2年間は有効であり、明確な科学的な根拠がある...という認識で正式に認めている。


糖質制限食を適応してはいけないケース
安全性が確認されていないケースに糖質制限を用いない。
1.薬剤使用:SU剤やインスリン注射を行っていると、低血糖を起こす可能性がある。
2.たんぱく質の割合が高くなるので、腎症のある人は実行しない。
3.Ⅰ型糖尿病の人は慎重に。インスリン注射を中止してはいけない。
4.子供や妊婦の場合も慎重に。長期にわたって実行した場合の子供の成長に問題がないかどうかは、安全性が確認されていない。妊婦では、少数例では安全に、血糖コントロールの改善に有効であった報告がある。


<参考情報>
注目される糖質制限食 食事療法の新たな潮流か[2013/3/11、糖尿病ネットワーク]
「インスリンフォーラム 2013」における山田悟医師の講演要旨。
糖尿病と白米食の関連性に関する論文(メモ)
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白米と糖尿病の関連性に関する論文
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”White rice consumption and risk of type 2 diabetes: meta-analysis and systematic review”
BMJ 2012; 344 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.e1454 (Published 15 March 2012)
Emily A Hu, An Pan,Vasanti Malik,Qi Sun/Department of Nutrition, Harvard School of Public Health,Channing Laboratory, Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School

<解説記事>
白米を多く食べるアジア人、糖尿病リスク55%増 米研究[2012年03月16日,AFPBB News]
- 日中で実施された過去の調査では1人あたり1日平均3~4杯の米を食べていたが、米を多く食べた人では2型糖尿病リスクが55%高くなる。
- 1週間に平均1~2杯と米の消費量が圧倒的に少ない米豪では、リスク上昇率は12%。
- 分析によれば、日中で実施された過去の調査では1人あたり1日平均3~4杯の米を食べていたが、米を多く食べた人では2型糖尿病リスクが55%高まった。一方、1週間に平均1~2杯と米の消費量が圧倒的に少ない米豪では、リスク上昇率は12%にとどまった。

白米の摂取量が多いと2型糖尿病リスクが上昇-摂取量が多い東洋人ではより顕著、メタ分析の結果[日経メディカル、2012/3/26]
「その「おかわり」が危険です-白米食べるほど、2型糖尿病に!? 」[週刊ダイヤモンド,2012年8月20日]
白米とII型糖尿病の関係について:専門家コメント[SMC発サイエンス・アラート/サイエンス・メディア・センター]


"White Rice, Brown Rice, and Risk of Type 2 Diabetes in US Men and Women"
Dr. Qi Sun,Dr. Donna Spiegelman,Dr. Rob M. van Dam,Dr. Michelle D. Holmes,, DrPH, Ms. Vasanti S. Malik,Dr. Walter C. Willett,, DrPH, and Dr. Frank B. Hu,
Departments of Nutrition, Epidemiology and Biostatistics , Harvard School of Public Health; the Channing Laboratory, Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School

<報道記事>
 白米は糖尿病リスクを上げる、米研究[2010年06月15日,AFPBB News]
- 白米の摂取は2型糖尿病の発症リスクを高める。
- 米国に住む成人19万7000人を22年間、追跡調査。
- 週に5回以上の白米摂取群:月1回以下の白米摂取群よりも、2型糖尿病発症リスクが17%高い。
- 週に2回以上玄米摂取群:月1回以下の白米摂取群よりも、発症リスクが11%低い。
- 白米は成分のほとんどがでんぷん。精白前の玄米は繊維やマグネシウム、ビタミンを多く含み、血糖値の上昇しやすさを示す「グリセミック指数(GI値)」も白米と比べて低い。



米飯摂取と糖尿病との関連について -「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-[がん予防・検診研究センター研究部,2010/12]
英語論文:”Rice intake and type 2 diabetes in Japanese men and women: the Japan Public Health Center–based Prospective Study1,2,3”(全文)[Am J Clin Nutr. 2010 Dec;92(6):1468-77. doi: 10.3945/ajcn.2010.29512.]
- 日本人を対象としたコーホート研究。研究開始から5年後にアンケート調査実施。
- 米飯の摂取量により4つのグループに分類。5年間の糖尿病発症(男性625人、女性478人)との関連性を調査。
- 女性では米飯摂取が多くなるほど糖尿病発症のリスクが上昇傾向。米飯にあわ・ひえ・麦を混ぜない場合は、より強い関連あり。
- パンやめん類では糖尿病リスクとの関連はなし。
- 筋肉労働や激しいスポーツを1日1時間以上しない人は、米飯摂取による糖尿病リスクが上昇傾向。
- 結論:女性及び筋肉労働をしていない男性において、米飯摂取により糖尿病発症のリスクが上昇する。
- 理由:白米は、精白の過程で糖尿病に予防的に働く食物繊維やマグネシウムが失われる、食後の血糖上昇の指標であるグリセミックインデックス(GI値)が高い。
- 糖尿病予防には、日常の身体活動量を増やし、雑穀入り白米食を摂るなど、米飯摂取後の血糖上昇を抑える工夫も大切。


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参考:地中海食
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低炭水化物高蛋白食や高炭水化物低蛋白食と比較されている「地中海食」の食事内容。

糖尿病食としての地中海食(糖尿病の食 ”テーラーメード食事療法” のすすめ)[元国立循環器病研究センター動脈硬化・代謝内科
部長 吉政康直,国立循環器病研究センターホームページ]
- 「地中海食」は南イタリアの風土食。
- 主食はパスタ(低GI食の代表)。多量のオリーブオイル、油の少ない子羊の肉や背の青い魚が副食、豆をたっぷり取り、キノコ類も摂取、チーズはナチュラルチーズ、赤ワインをたっぷり。(オリーブオイルや背の青い魚の脂は動脈硬化を防ぐ働きがある)
- 肉の摂取量が少なく、パスタや野菜などをたくさん食べる。

オリーブ油タップリ、最強の“地中海食”[日経メディカル,04/12/02]
- 地中海食の食材の中でも、特に「オリーブ油」と「パスタ」、「トマト」は、地中海地域の長寿を支える食の3大要素
- オリーブ油に含まれる脂肪酸の多くは、「オレイン酸」。オレイン酸は酸化されにくい脂肪酸のため、食用油の代わりにオリーブ油を使うと、脂肪酸の酸化が引き金になる動脈硬化にもなりにくい。
- オレイン酸には、インスリンを効きやすくして、血液中のインスリン濃度を低くする働きもある。そのため、オリーブ油をたくさん取っても太りにくい。
- エクストラバージンオリーブオイルには、天然の抗酸化成分もたくさん含まれている。(ピュアオイルは抗酸化物質は少ない)

シチェルバコフ,グランテ ~ バッハ=ゴドフスキー編曲/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番~第3番(ピアノ独奏版)
バッハのピアノ編曲作品で有名な人といえば、作曲家のブゾーニ、リスト、ピアニストのケンプ。

バッハのピアノ作品および編曲に関して、恐ろしいほど詳しいブログは<Bach with Piano>
そのなかに、”バッハの音楽の編曲曲目データベース”というコンテンツがある。
これを見ると、バッハの作品は編曲意欲を刺激するせいか、編曲した作曲家・演奏家はかなりの数。
リストを眺めていると、意外な名前もいろいろ出てきて、結構面白い。
BWV1001~1006は、無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータ。
そのピアノ編曲版ならブゾーニのピアノ編曲版『シャコンヌ』が一番有名。
ブラームスの『左手のためのシャコンヌ』は、ウゴルスキーの演奏が際立って印象的。
編曲物で有名なゴドフスキーのバッハ編曲も、ブゾーニ以上に音が多くて混み入っている。逆にシンプルな編曲ならラフマニノフ。
ほとんど知られていないに違いないピアニストのフィオレンティーノが編曲した《無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番》も、素晴らしい編曲。

ラフマニノフは、無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番の「前奏曲」「ガヴォット」「ジーグ」。
ゴドフスキーに比べると音がはるかに少なく響きも綺麗で、バッハの鍵盤楽器曲に近いイメージ。
ゴドフスキーの方は、重厚な和音を多用するレーガー風。
音が多すぎて対位法もごちゃごちゃした感じはするけれど、緩徐楽章になると長く柔らかな残響がコラールのように響いて美しい。

ゴドフスキが編曲したのは、無伴奏ヴァイオリンソナタの第1番・第2番、同じくパルティータ第1番。さらに、無伴奏チェロ組曲の第2番、第3番、第5番。
無伴奏ヴァイオリンの編曲版は、ピアノ・ソナタとしてタイトルが付けられている。
 ピアノ・ソナタ第1番(無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番)
 ピアノ・ソナタ第2番(無伴奏ヴァイオリンパルティータ第1番)
 ピアノ・ソナタ第3番(無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番)
ゴドフスキにはオリジナルのピアノ・ソナタもあって、これは通番なしのタイトルで《ピアノ・ソナタホ短調》。

ゴドフスキの編曲は、ブゾーニ以上に和音の厚みで荘重な響きのする編曲。
確かに旋律はバッハの原曲のものだろうけれど、聴いているとバッハの世界から遠く離れたロマン派のように思える。
ゴドフスキ自身は、無伴奏ヴァイオリンの編曲版楽譜に寄せた序文では、「私が追加した音・メロディーすべてがバッハの原曲から導き出される音だ」と言っている。
原曲の楽譜自体にはなくてもそれは論理的に”導き出される”ものだそうなので、そういう点ではゴドフスキなりにバッハに対する敬意をもって、編曲している。

                                 

シチェルバコフが、NAXOSではなく、Marco Poloに録音したゴドフスキー作品集の第2巻。
ゴドフスキの無伴奏ヴァイオリンのソナタとパルティータの3曲が収録されている。
タッチは硬質でクリアで、シチェルバコフにしては残響が長めで憂いのあるしっとりとした響き。
透明感のある濁りが少ない音で、ペダリングでもうまく調整しているらしく、混み入った和音多く響きの厚みのわりには、すっきりクリアに聴こえる。
楽章ごとの静動の対比が鮮やかで、強弱の起伏を明瞭につけて(特にフォルテが力強い)、とてもドラマティックな演奏。
シチェルバコフならもっと静かな透明感のある弾き方をすると思っていたので、こういう弾き方はちょっと意外。
切々と訴えかけてくるようで、厳しさと悲愴感が漂い、緩徐楽章になると抑制された感情が静かに流れるような叙情感が美しい。

Godowsky: Piano Music, Vol. 2Godowsky: Piano Music, Vol. 2 Transcriptions of Violin Sonatas by J.S.Bach
(1997/08/05)
Konstantin Scherbakov

試聴する




ゴドフスキー全集をM&Aに録音しているカルロ・グランテもこの3曲を録音している。
こちらは柔らかいタッチで滑らかな流れの演奏で、しっとりと静かな雰囲気でとてもロマンティック。
残響がやや短めで丸みがあって、全体的に穏やかな雰囲気が心地よい。

Bach: Three Sonatas for Solo ViolinBach: Three Sonatas for Solo Violin
(1999/02/09)
Carlo Grante

試聴する



無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番のライブ録音。ピアニストはグランテ。
Grante at Teatro Ghione - Bach-Godowsky GMinor Sonata Adagio


Grante at Teatro Ghione - Bach-Godowsky G Minor Sonata Fugue


Grante at Ghione - Bach-Godowsky G Minor Sonata Siciliano


Grante at Teatro Ghione - Bach-Godowsky GMinor Sonata Presto



<関連記事>
バッハ=フィオレンティーノ編曲/無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 BWV1001(ピアノ独奏版)
バッハ=ラフマニノフ編曲/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番

tag : バッハ シチェルバコフ

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グレツキ/ハープシコード協奏曲
グレツキといえば、交響曲第3番《悲歌のシンフォニー》。
ドーン・アップショウのソプラノの歌声がとても美しく、20年近く前に流行ったときは、CDショップのクラシックコーナーに行くと、いつもこの曲が流れていた。
この曲以外はほとんど知られていないような気がする。

《悲歌のシンフォニー》とは全く異なる作風でとても面白いのが、《ハープシコード協奏曲Op.40》。
現代音楽にしては珍しいハープシコード(チェンバロ)のコンチェルト。”Concerto for Piano/Harpsichord and Strings”というのが正式な曲名らしく、ハープシコード盤とピアノ盤の録音がある。
この曲は、ハープシコードの音色の方が、張り詰めた緊張感と尖ったところがあり、曲想にもぴったり合っているので、ピアノで聴くよりもずっと面白い。

ハープシコードによる有名な録音は、たぶんNAXOS盤(Catherin Perrin)とChandos盤(Elisabeth Chojnacka)の2種類。
NAXOS盤はテンポが速くて疾走感が強い。Chandos盤はテンポはやや遅いけれど、焦燥感がじわじわと滲みでてくるように感じるので、こちらの方が好みに合っている。


グレツキ:クライネス・レクイエムグレツキ:クライネス・レクイエム
(1995/07/25)
アップショウ(soprano),ホイナツカ(cembaro), ジンマン(conductor), ステンズ(conductor),ロンドン・シンフォニエッタ

試聴ファイル(仏amazon)


Harpsichord Cto / Tabula Rasa / Cto Grosso 1Harpsichord Cto / Tabula Rasa / Cto Grosso 1
(1998/01/20)
Musici de Montreal,Natalya Turovsky, Eleonora Turovsky,Catherine Perrin,Yuli Turovsky

試聴ファイル



2つの楽章ともミニマル的。それにしてはわりと飽きずに聴ける。(それでも繰り返し聴きたいという曲ではないけれど)
第1楽章 Allegro molto
強い焦燥感と切迫感のあるドラマティックな雰囲気。
映画のサントラにも使えそうなくらいわかりやすい。
最後は長調に転調してアタッカで第2楽章へ。

第2楽章 Vivace marcatissimo(4:43~)
コロっと曲想が変わって、ちょっとユーモラスな雰囲気。
面白いのは、テンポが微妙に変化して行き、まるで蒸気機関車が到着駅を目指して一生懸命にレールの上をひた走る様子を音にしたようなところ。
冒頭のハープシコードは、ガス欠気味(?)のようにだんだんテンポが遅くなっていき、トゥッティ(5:24~)が気を取り直したように少しテンポを上げ、終盤(6:45~)になるとラストスパートのようにさらに速くなっていく。最後は、第1楽章の主題が一瞬回想されてエンディング。

Henryk Mikołaj Górecki - Koncert na Klawesyn i Orkiestrę smyczkową Op.40 - Elżbieta Chojnacka



<過去記事>
グレツキ/クライネス・レクイエム、チェンバロ協奏曲

tag : グレツキ

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吉村昭 『白い航跡』
最近話題になっている食事療法「糖質制限食」が、既存の栄養学的常識を否定するところに興味を惹かれて、文献をいろいろ調べていると、明治期の日本海軍が、当時陸海軍(や日本全国)で蔓延していた原因不明の病「脚気」の原因が白米食だ...という仮説を大規模な試験航海で実証したという話につきあたった。
その顛末を小説化したのが吉村昭の『白い航跡』。

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脚気という言葉は知っていたけれど、その原因が白米を食べることあるのだと知ったのは、もう10年以上も前に読んだ『食う寝る坐る永平寺修行記』 (新潮文庫)というノンフィクション。
永平寺で修行する雲水の食事は、誠に質素なもので、おかずの品数や量が少なく、空腹を満たすためにはおかわりが許されている白米のご飯を大量に食べるしかない。
それは脚気にかかるリスクがあるとわかっていても、空腹に耐えられずに白米のご飯ばかりたくさん食べるので、脚気で入院する雲水が続出。
この本のおかげで、粗食で白米ばかり食べていたら、脚気になるんだというのが、記憶にしっかり残ってしまった。

脚気は、明治期の陸軍・海軍の存亡に関わるくらい深刻な病だった。
『白い航跡』は、その脚気を海軍医高木兼寛が兵食改善によって撲滅していく過程を中心に描いた歴史小説・伝記と医学ノンフィクションを合体したような小説。
この小説の見せ場は、イギリス医学を学んだ兼寛が、海軍に蔓延する脚気の原因を白米食にあると確信し、脚気撲滅のために試行錯誤と実地試験を重ねていくプロセス。大規模臨床実験の計画・実施・検証と新しい食事療法の開発・導入と言えるような一大プロジェクト。
そこに最新のドイツ医学に基づく細菌説を信奉する陸軍医学部門と東京大学医学部を中心とする医学界との軋轢が加わり、当時の脚気をめぐる医学の世界の様子がリアルに伝わってくる。
それに、ドイツの細菌学者コッホの下で学んだ陸軍軍医森林太郎(森鴎外)の脚気栄養説に対する徹底的な批判と脚気細菌説への固執という頑迷さは、作家とは別の医学者としての顔を知ることになる。陸軍内部での麦飯導入により脚気がほぼ消滅したという現実があっても、以前として白米食至上主義を採り続け、その結果、日清・日露戦争で脚気による膨大な死者を出すことに繋がった。

小説は兼寛の生涯をほぼ時系列的に追っているが、冒頭の戊辰戦争の話から、脚気論争へと繋がるストーリーの伏線が張り巡らされている。
よく読んでいた司馬遼太郎の歴史小説と比べると、吉村昭の方が文体が客観的・記述的で、語り口もそれほど物語的なところが少ないので、ノンフィクション好きの私にはとても読みやすく、筋立てもよくわかる。

西洋医学の師
兼寛は能力・人格とも優れた師に恵まれていた。
蘭方・方法医学の師である石神良策は、海軍医となるよう東京へ兼寛を呼び寄せ、妻になる富との縁談の世話をやき、公私両面で兼寛を導いた医師。
鹿児島で兼寛にイギリス医学を教えた英国人医師ウイリスの生涯は、時代の流れに翻弄されたような人生だった。
東京の海軍病院に招聘された英国人医師アンダーソンもウイリスと同じように紳士的で優れた教師だった。
一方、脚気論争で兼寛を徹底して批判する医学界と陸軍の人物は多数いたが、なかでも陸軍医学部門の上層部にいる石黒忠悳と森林太郎(作家の森鴎外)はその急先鋒だった。
医学の世界では、その主張も成果も認められず、叙勲も兼寛ではなく後輩の海軍医に与えられるなど、四面楚歌状態の兼寛の心の支えとなったのは、「麦飯食」の話を熱心に聴きその功績に感心する明治天皇。

英国留学時の成績
英国留学で兼寛が納めた成績の優秀さは、当時の日本人のなかでも驚異的だったのでは。
セント・トーマス病院付属医学校と病院で、医学理論と実技を学び、医学校の試験でもイギリス人の学生を抑えて上位や首席になり、外科・産科・内科学の医師資格取得し、医学校では数々の賞を受賞して、最優秀の医学生となる。さらに外科のフェローシップ免状(学位)を授与されたことで、医学校の教授資格も得る。


本書と高木兼寛の生涯については、ネット上に情報が多数あるので、それを読めば内容がよくわかる。
ビタミンの父 高木兼寛[宮崎県郷土先覚者]
日本の脚気史[Wikipedia]
日本人なら麦を喰え!  ~ 陸海軍と脚気 (陸海軍兵食論争)
麦と水兵[海陽雑記,第2429号,2001年3月19日]
幕末維新を駆け抜けた英国人医師ウイリアム・ウィリス[岡部陽二のホームページ]


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脚気論争
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脚気の研究
脚気の原因は、すでに漢方医の脚気専門の第一人者である遠田澄庵が、インド:日本で脚気が多いのは「脚気ハ其原米ニ在リ」と主張していた。
兼寛の脚気研究は、軍の統計や艦船の航海記録をもとに脚気の発生状況を調査分析し、食事が原因ではないかと推定。
イギリスで学んだ実用栄養学を元に食事内容を分析した結果、脚気にかかる軍人の食事は蛋白質が極めて少なく、含水炭素がはるかに多い。
ここから、白米食が脚気の原因だという仮説を立て、「洋食兵食」による脚気改善効果の航海実験を計画。
試験航海には、海軍予算が年間300万円だった時代に、その1/60(1.67%)に当る5万円が費やされている。
天皇・大蔵大臣など政府高官を説得し巨額の試験費用を費やしたこの試験航海で、脚気患者が続出すれば深刻な問題になるのは必至。兼寛は試験航海中、大変な精神的重圧のために、「筑波」で脚気患者や死者が続出する悪夢に悩まされ、食欲減退し気鬱になり抑うつ的な状態になり、周囲の人々も心配する。それだけに「ビョウシャ 1ニンモナシ アンシンアレ」という電報電報を見たときの喜びと安堵がどれだけ大きかったか想像できる。

試験航海と並行して改善兵食の試験的導入による検証、洋食兵食の実現可能性の検討、白米麦混合食への全面切り替えを勧めていく。
兼寛は当初、洋食導入を主張していたが、洋食には多額の費用がかかること、英国海軍が航海中はパンではなくビスケットを支給していたことを知る。
麦飯でさえ抵抗があるのに、パンやビスケットなら水兵たちが受け入れることは難しいと判断し、白米と麦の混合食にすることに方針転換。
「パン食が理想ではあるが、経費の増額と兵の食習慣の二点で実現は不可能と考えたのである。...どのような改定をしても、水兵がそれを口にしなければなんの意味もないことをはっきりと感じたのである。」


医学界・陸軍による批判
陸軍・医学界はドイツのべルツが主張する細菌説を信奉して、脚気白米食原因説(洋食・麦飯食による脚気対策)には、学問の理論的裏づけがないとして、理論的な批判・実験を行い、陸軍の白米食至上主義(1日に白米食支給が6合)を改めようとはしなかった。
東京大学生理学教室教授大澤による論文「麦飯ノ説」:米と麦の蛋白質と人体への吸収量を比較し、米の方が優れているため、麦飯食は意味がない。鴎外も比較研究で白米食が洋食に優れているという試験結果を発表する(後述)。
鷗外の論文と実験(後述)


陸軍と海軍の脚気対策の違い
海軍と陸軍では、中枢の医学部門と現場の部隊との関係の違いがよくわかる。
海軍の場合は、軍の上層部も現場の部隊・艦船も一体となって、医療部門の仮説・検証・食事改善に対して取り組んでいた。
最終的に、洋食ではなく、白米麦混合食を兵食と定め、全ての艦船・部隊が平時・戦時においても、上層部の兵食に関する指示を厳守し、脚気が再び蔓延することを防いだ。

一方、陸軍では、医学部門の上層部では細菌説に基づいて、現場の衛生状態の改善を指示していたが、脚気患者が一向に減らず。
中枢の医療部門の脚気細菌説・白米食至上主義に反して、脚気に悩むを現場の部隊は独自の判断で麦飯、白米と麦の混合食に替えて言った。
例えば、大阪陸軍病院長一等軍医正堀内利国は、麦飯を食べている監獄の囚人に脚気患者が極めて少ないことから、大阪鎮台の部隊でも一年間麦飯を支給したところ、脚気患者が激減した。行軍時に白米と白米麦混合食を食べさせて、健康状態を比較する実験をする部隊もあった。
各地方部隊の陸軍医たちが独自に白米麦飯混合食を導入していったが、上層部はこの措置を快く思わず、麦飯を導入した陸軍医が批判・解雇される事態にもなる。しかし、結局は、陸軍のほとんどの部隊が独自の判断で麦飯混合食を導入し、平時には脚気患者がほぼ消滅する。
白米食が脚気の原因であるというのは、結果を見ると明らかであるのに、脚気消滅は「兵舎の衛生状態が改善された結果」だとして、依然として陸軍医学部門の上層部はや、東京大学を中心とする医学界は細菌説に固執し続けた。
彼らにとって、学理的に説明のできない脚気栄養説は、単なる思いつきと偶然の産物にすぎなかった。さらに、彼らの学んできた基礎医学と学理探求を特徴とするドイツ医学が最も優れていると自負しているため、実証・臨床重視のイギリス医学を学んだ兼寛を見下していたことも大きく影響していた。

日清戦争、日露戦争での陸軍と海軍の兵食の対応も対照的。
海軍では、戦時中は臨時に白米の支給を増やしたが、1日1人100匁を超えないことを厳守し、脚気患者はわずか(日露戦争では100名余り)
陸軍では、陸軍の兵食規定に従って、麦飯ではなく、戦地に1日6合の白米を支給し、脚気患者と死亡者が続出。日清戦争では戦死者453名に対して、脚気による死者4064名、日露戦争にはさらに酷く、傷病者352,700名のうち脚気患者が211,600名。傷病者による死者37,200名のうち、脚気による死者27,800名。


ビタミンの発見
クリスティアーン・エイクマン:1896年に、滞在先のインドネシアで米ヌカの中に脚気に効く有効成分があると考えた。
鈴木梅太郎:物質としてビタミンを初めて抽出、発見。1910年、米の糠からオリザニン(ビタミン)を抽出し論文(日本語)を発表。農芸化学者である鈴木梅太郎は脚気予防に効果があると発表しても、細菌説をとる医学界はこの世界的な発見を無視した。
カジミール・フンク:1911年に米ヌカの有効成分を抽出することに成功。1912年にビタミン(ビタミンB1・チアミン)を発見。

脚気ビタミンB欠乏説の実験
大正8年に欧米各国からビタミンBが脚気に有効であると伝えられ、それを聴いた大森憲太慶応大学教授がビタミンBが脚気に有効であることを証明。軽症の脚気患者6名と健康人6名にビタミンBの欠けた食事のみを摂らせたところ、軽症者は重症になり、健康者は脚気にかかる。次に被験者にビタミンBを与えたところ12人全員が完治。白米食ではなく、玄米、分つき米を推奨。
欧米からも裏付けとなる報告が相次いだことから、細菌説に固執していた医学界もビタミンBが脚気に有効であるということを認めた。

兼寛の世界的評価
兼寛はコロンビア大学を始め、英米の大学で栄養バランスを改善した食事が脚気を予防することを講演し、学位を次々と授与され、ランセットにもその講演が掲載されるなど、海外の評価の高さは国内とは正反対。
小説の最後に、南極大陸のグレアムランド西岸のルルー湾北東部に、"Takaki Promontory"と命名された岬の話が出てくる。
この岬は、英国の南極地名委員会によって、昭和34年に高木兼寛に因んで命名されたという。その説明に「日本帝国海軍の軍医総監、1882年、食事改善により脚気予防に初めて成功した人」。
周辺には、「エイクマン岬」「フンク氷河」「ホプキンス氷河」「マッカラム峰」と著名なビタミン学者に因んだ岬がある。
日本ではビタミン学者と言えば、鈴木梅太郎など数名が知られているが、南極大陸の岬として名づけられたのは、高木兼寛のみ。日本では評価されていなくとも、「ビタミン研究の開拓者」として、海外でどれだけ高く評価されているのかよくわかるエピソード。


[2013.3.14 追記]
森鴎外は「脚気細菌説」の誤りを認めることは、終生しなかったらしい。
日露戦争後に発表された『妄想』(1911(明治44)年3月・4月)に、この脚気論争に関連する記述がある。

「食物改良の議論もあつた。米を食ふことを廃(や)めて、沢山牛肉を食はせたいと云ふのであつた。その時自分は「米も魚もひどく消化の好いものだから、日本人の食物は昔の儘が好からう、尤も牧畜を盛んにして、牛肉も食べるやうにするのは勝手だ」と云つた。」

「自然科学を修(をさ)めて帰つた当座、食物の議論が出たので、当時の権威者たる Voit(フオイト) の標準で駁撃(はくげき)した時も、或る先輩が「そんならフォイトを信仰してゐるか」と云ふと、自分はそれに答へて、「必ずしもさうでは無い、姑(しばら)くフォイトの塁(るゐ)に拠(よ)つて敵に当るのだ」と云つて、ひどく先輩に冷かされた。自分は一時の権威者としてフォイトに脱帽したに過ぎないのである。」


※Voitは著名な栄養学者。鷗外が師事した Pettenkoferの弟子の一人。


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「How to make クリニカル・エビデンス -その仮説をいかに証明できるか?-」
浦島充佳(東京慈恵会医科大学 薬物治療学研究室)

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数ある脚気論争に関する解説のなかで、他のものとは違った独自の切り口が面白く、とても勉強になったのが、「How to make クリニカル・エビデンス -その仮説をいかに証明できるか?-」。
白米食が脚気の原因だと実証していく過程を医学的なアプローチから考察した解説で、2001年に医学書院の週刊医学界新聞の連載記事。
解説は、兼寛が設立した東京慈恵会医科大学薬物治療学研究室の浦島充佳医師。
さすがに医学者の解説だけのことはあって、医師の兼寛と鴎外の試験方法を現代の臨床試験・薬物治験の手法の観点から、分析しているところがユニーク。
特に、脚気論争で鴎外の言動を疑問視する解説は多いけれど、鴎外が白米食原因説を批判した論文や実験について医学的な観点から考察したものは、珍しい。(詳しく探せば、他にもあるのかもしれないけれど)
高木兼寛「脚気病栄養説」(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7) 


兼寛の研究
臨床試験において、評価に値する最良の方法が「ランダム化二重盲検試験」
理想的には戦艦「筑波」の船員をランダムに2群に分け、片方には従来の食事、他方には高蛋白低炭水化物の食事を与える。船員を診察する医師にはどちらの食事を摂ったか知らせない。

現代では、比較治療の優劣がついている場合、ランダム化試験は倫理的に不可。
兼寛はすでに新しい食事と従来の食事を10人に与えて、従来の食事が脚気の原因であると確信しているので、白米食を使うことは不要であるし、心情的にも船員を脚気の危険にさらすことはできない。

今回の実験のコントロール(対照群)となるのは、脚気が大量発生した「龍驤」。
試験艦「筑波」は、食事以外の試験条件を出来る限り「龍驤」と同一にするために、「龍驤」と同じ航路と期間で試験する必要があった。
航海期間は1年近くと非常に長くなってしまうが、実際、「龍驤」での脚気発生は帰路後半で多くなっているので、同じ航路を辿る必要があった。

東京帝国大学医学部-陸軍医療部門:基礎研究に優れ、コッホが破傷風菌・結核菌・コレラ菌を発見するなど世界の医学界が注目するドイツ医学を採用。ドイツ医学は、実験研究を重視した「病気を観る学問」
日本海軍:イギリス海軍の軍制を導入していたため、イギリス医学を採用。イギリス医学は、実験による医学的裏づけがなくても実際のエビデンスを重視した「病人を診る学問」


兼寛の「脚気白米食原因説」に対する批判・反論
<緒方正規博士の論文>
脚気患者からある細菌を分離し、これを動物に接種したところ脚気様症状がみられた=脚気は細菌が原因と結論
緒方論文の問題点:脚気患者全員からこの菌を特異的に分離し、この菌がどのように心臓、および神経病理を発生せしめたかについてまで示す必要がある。
※北里柴三郎が、明治43年にこの細菌説を否定した。


<鴎外の批判と実験>
「もしも正確な実験をするのなら1つの集団を2分して、一方に白米を与え、一方に洋食あるいは麦飯食を与え、しかも同一の地に居住させ生活条件も同じにさせる。このようにしても、米食のみが脚気に罹り他方が罹らなかったならば、米食が脚気を誘発するものと考えられるであろう」
鷗外の批判どおり、兼寛の学説は、エビデンスに基づいているが、実験的検証が弱点。

(鴎外の実験)
-陸軍第1師団の若い兵6名(すべて健常者)を対象
-白米のみ、麦飯。パンと肉、の3種類に分けてそれらを8日間ずつ食べさせる。
-ドイツ最新の方法に基づき検査。(各食事のカロリー、蛋白質、脂肪も計算している)
-結論:白米が最も優れ、パンと肉は最も劣る。

(鷗外の実験・結論の問題点)
-被験者が6人と少数。検査結果上有意差があっても、結論を導くのには不十分。
-試験が不十分:現代治験の「第Ⅰ相試験」(薬剤の安全性を試験するために健常者に薬剤を投与)に相当する試験のみ実施。発症している患者に試験薬(食)を投与して、その有効性を評価する第Ⅱ相・第Ⅲ相試験は実施せずに、脚気病食の効果がないと結論づけている。
-試験期間が8日間と短すぎる。(短期間では、脚気の発生には影響しない)


兼寛の研究に対する評価
当時、病原微生物を同定することが医学の主流。
兼寛の脚気病栄養学説は、生活習慣病の病因論を考える上でのエポックメイキングな出来事であり、まさにパラダイムシフトともとれる。


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参考情報
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海軍カレー
有名な「海軍カレー」も、この脚気対策のために誕生した。
明治期のイギリス海軍は、シチューに使う牛乳が日持ちしないため、牛乳の代わりに日持ちのよいインド起源の香辛料であるカレーパウダーを入れたビーフシチューとパンを糧食にしていた。
脚気予防のため洋食を導入しようとした高木兼寛は洋食・パン食を導入しようとしたが、農家出身の水兵たちには馴染めなかったために、カレー味のシチューに小麦粉でとろみ付けし、ライスにかけてカレーライスが誕生した。

南日本放送開局50周年記念番組「大いなる航海 軍医高木兼寛の280日」
第44回科学技術映像祭 医学部門最優秀作品/文部科学大臣賞受賞
ライフサイエンス出版/日本科学映像協会(TVドキュメント 45分)


胚芽米と麦
『香川綾物語』[女子栄養大学]
「胚芽米」も脚気予防のために開発されたお米。
白米が脚気の原因というのが突き止められても、昭和初期になってもビタミンB1の不足による脚気が慢性的に広まっていた。
脚気予防のため、玄米の栄養が多い胚芽部分だけを残した「胚芽米」を発明したのが女子栄養大学を創設した「香川綾」。
香川綾は、胚芽米にビタミンB1が多く含まれることを証明し、胚芽米普及による脚気予防を提唱し、胚芽を残して精米する方法も発明したという。

胚芽米のすべて[女子栄養大学教授,五明紀春]
お米の栄養価の比較表を見ると、たしかに精米した白米は、栄養分がごそっと落ちてしまっている。

<ビタミンB1含有量(100gあたり)>(食品成分データベースの成分表示)
(生米) 玄米:0.41mg 胚芽米:0.23mg 精白米:0.08mg
(ご飯) 玄米ご飯:0.16mg 胚芽米ご飯:0.08mg 精白米ご飯:0.02mg
(大麦) 7分づき:0.22mg、押麦:0.06mg、米粒麦:0.19mg


厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2010年版)』では、ビタミンB1の摂取推奨量は、成人男子で1.4mg、成人女子で1.1mg。
ごはん茶碗1杯150gとすると、白米ご飯を1日4杯(600g)食べても摂取できるビタミンB1は、0.12mgにしかならない。
副食をしっかり食べないと、白米ご飯ばかりではビタミンB1不足が著しく、胚芽米ご飯でもやや不足気味になりそう。

調理しやすく加工された押麦はビタミンB1がかなり少ない。
ビタミンB1を強化した押麦「ビタバァレー」は、精麦100g当たりのビタミンB1含有量は1.8mg。
脚気論争の時にはもちろん「ビタバァレー」はなかったため(世界的にも、ビタミンの存在は知られていなかった)、7分づき麦を混ぜていたようだ。精製すればするほど栄養価が低くなるのは、米と同じ。


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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

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