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ソコロフ ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第2番
スティーブン・ハフの最新アルバムのブラームスを聴いていて、ソコロフのライブ録音の音源がYoutubeにあるのを思い出した。
あのソコロフなら、このピアノ協奏曲第2番をどう弾くのだろう?

Brahms Piano Concerto#2 1st Mvt (1) Grigorij Sokolov, Hungarian National Symphony Orchestra, Lu Jia


Youtubeにあったのは、2種類。サロネン指揮フィンランド響とのライブ音源の方は、外見から判断すると、このハンガリー国立響との演奏よりも、もっと若い頃のもの。
さっと聴いた限り、どちらも解釈に大きな違いはないみたい。

ソコロフのエネルギッシュで気合と感情を込めてピアノを弾く姿はかなりの迫力。
思わずじ~っと画面を凝視してしまう。
指は鋼のように強靭なタッチで、フラットな形の指は、飛び跳ねるように鍵盤から離れる動きがとても俊敏。
鍵盤を打鍵する位置もかなり高いし、そのわりにミスタッチはそれほど多くは無く、鞭のようにしなやかにしなる指のタッチは多彩で色彩感が豊か。
ソコロフの音は線は太い方ではないけれど、シャープで研ぎ澄まされた鋭角的なところがあるので、フォルテやスフォルツァンドは芯のしっかりした力感があり、線の細さは感じない。
この技巧的難曲でも、色彩感の多彩な音色がとても綺麗。
強奏部分のタッチはかなり強いけれど、バンバンと鍵盤を叩く人とは違って音が濁らず、デリカシーに欠けないのが良いところ。
引き締まって張りのある響きは美しく、音のもつ力に引き寄せられてしまう。

ハフの録音でもかなり緩急の変化が大きいと思ったけれど、ソコロフはさらにそれに輪をかけたように、緩徐部分はとても遅いテンポで、緩急の変化が柔軟でメリハリがよくつき、たっぷりと細かな起伏をつけた濃密な表現。
ここまで極端(?)というか、ねっとりと弾く人はいないのではないかと思うくらい。
他のピアニストが同じような弾き方をすれば、極めて情緒的で感情移入過剰に聴こえるところが、ソコロフが弾くと、淀まず粘らず重たくならず、(少なくとも私には)さほど不自然に感じずに、すっと聴けてしまう。

スケール感のある大きな音楽の流れの一部として聴くことができるからか、強奏部の鋭く力強い打鍵とのコントラストがとても強いので極端なくらいの表現でも違和感がなくなるからか、それともソコロフの演奏に対してはかなりプラスのバイアスがかかっているからか、その全部なのか自分でもよくわからないけど..。
理由はともかく、ソコロフの演奏なら、たいていの曲は、自分の好みとかオーソドックスな解釈との違いも気にせずに、その個性的な演奏解釈に惹き込まれてしまう。

若い頃からソコロフのピアニズムはしっかり確立されているように思える。
急速部の力強い急迫感、波がうねるように立ち上がっていくクレッシェンド、きらきらと煌きのある高音、キビキビとした軽快なリズム感、しっとりと水気を帯びた流麗な叙情感。
個性的なアーティキュレーションで、繊細さとダイナミックさを兼ね備えたスケール感のある演奏は、昔もいまもソコロフならでは。

ソコロフの極めて大胆で個性的な演奏を聴いてしまうと、他のピアニストの演奏が個性的なものであっても、それほど抵抗なく普通に聴けるようになってくるのが、思わぬ効用だった。

tag : ブラームス ソコロフ

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クリスマスアルバム
クリスマスに聴く音楽というと、私の定番になってしまったのが次の3枚。

『A Steinway Christmas Album』は、有名なクリスマス曲をピアノソロ編曲したもの。この編曲がとっても素敵。
ポピュラーなクリスマス曲を聴きたいなら、これが一番。

《クリスマス変奏曲~クリスマス・キャロルによる即興変奏曲》は、現代音楽作曲家プラッゲが書いたとてもほのぼのとした変奏曲。
現代音楽風では全然なくて、心洗われるような美しい音と音楽にうっとりするくらい。

『EVENING BELLS』は、クリスマスにちなんでいてもあまり聴く機会がない曲のオムニバスアルバム。珍しい現代曲もいくつか入っている。


『A Steinway Christmas Album』

Steinway Christmas AlbumSteinway Christmas Album
(2011/09/27)
Jeffrey Biegel(piano)

試聴する(米amazon)



プラッゲ《クリスマス変奏曲~クリスマス・キャロルによる即興変奏曲》

Julevariasjoner [Hybrid SACD]Julevariasjoner [Hybrid SACD]
January 1, 2005
Wolfgang Plagge (Piano)

試聴する



ペンティネンのクリスマスアルバム 『EVENING BELLS』 

Evening BellsEvening Bells
(2000/11/21)
Roland Pöntinen (Piano)

試聴する(BIS)



                                 

今年聴いた音楽の中から、クリスマスのためのコンピレーションアルバムを作ってみようかなと思いつき、自分の書いた記事を読み直して選んだ7曲。

1曲5分程度の短いもので(例外あり)、クリスマスらしい清々しく明るい曲と夜中に一人静かに聴きたくなる曲に加えて、クリスマスとは関係なく何度も聴いているロマンティックな曲。編曲版は全てピアノ独奏。
結局、クリスマスとは全然関係ない曲が半分以上あるけれど、そこは個人的趣味ということで。


バッハ《Jesu,joy of men's desiring/主よ、人の望みよ喜びよ》(マイラ=ヘス編曲)
クリスマスに必ず聴くのが《主よ、人の望みよ喜びよ》。
原曲は、カンタータ第147番《口と心と行いと生きざまもて》の第6曲&第10曲のコラール”Jesu,joy of men's desiring”。
ピアノ編曲版で有名なのはマイラ・へスとヴィルヘルム・ケンプ。ヘス編曲版の方がよく演奏されている。
有名なのはリパッティの録音。私はいつもカッチェンのピアノで。

Julius Katchen play Bach : Jesu,joy of men's desiring Cantata,BWV174 arrange by Myra Hess




ヘンデル《Dank sei dir, Herr/主よ、汝に感謝す》
歌詞も旋律もシンプルで感動的な曲。主への感謝の気持ちや喜びが、ノーマンの伸びやかな声と堂々とした歌から伝わってくる。

 <歌詞>
 主よ、汝に感謝す
 汝に感謝す
 汝は汝の民を汝とともに導き
 今は、約束の地にあり
 我らの前に敵が現れ我らを攻めても
 汝の手は我らを護り
 汝の慈悲により我らに
 救いをもたらさん

Dank sei dir, Herr




ドビュッシー《Arabesque No.1/アラベスク第1番》
柔らかく温もりのある明るい音色で夢見るようなアラベスク。砂糖菓子のようにとってもスウィート。

Claude Debussy - Arabesque No. 1 in E Major




ショパン《ワルツ変イ長調》
軽やかでさりげなく、ひとり静かにつぶやくようなハフのワルツがとても素敵。

Stephen Hough plays Chopin's waltz in A flat major




フォーレ《夢のあとに》(フィオレンティーノ編曲》
とろけそうなくらいに甘美でムーディ。こんなにロマンティックなフィオレンティーノの編曲が素晴らしく。

Fiorentino plays Fauré Après Un Rêve




R.シュトラウス《Morgen/あすの朝》
ピオーの美しい歌声で、しっとりした叙情感と透きとおるような清らかで静寂な”Morgen”。
Morgen!(from Vier Lieder)/詩:ジョン・ヘンリー・マッケイ (梅丘歌曲会館「詩と音楽」)


Sandrine Piau: "Morgen" by Richard Strauss




バッハ《前奏曲とフーガ イ短調BWV.543》(リスト編曲)
コロリオフの瑞々しい潤いのあるソノリティとやや抑制されたタッチから湧き出てくる端正で深い叙情感が美しく、教会建築のように荘重華麗なバッハ。

BWV543 Prelude & Fugue in a (F.Liszt) Evgeni Koroliov 2010


tag : バッハ ドビュッシー シュトラウス フォーレ ショパン ヘンデル カッチェン ノーマン ピオー

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ペーター・レーゼル&佐藤卓史による連弾ライブ映像(シューマンとブラームス)
2013年11月12日に行われた「ペーター・レーゼルのトーク&プレイ」第2部のレーゼル&佐藤卓史による公開演奏の模様が、「音楽の友」公式動画として公開中。

公式映像にしては音質はあまり良くないけれど、レーゼルの連弾演奏というのはとても珍しい。
曲目は、シューマン《東洋の絵》(この曲は聴いたことがない)とブラームス《ハンガリー舞曲集》より抜粋。
演奏以外にも、レーゼルが佐藤卓史の演奏を初めて聴いたエリザベート国際コンクールの話や、シューマンの作品解説など、トーク部分も面白い。(「音楽の友」にもトーク部分が載っていた)
遠方なので行くことはできなかったけれど、珍しい連弾のライブ映像やレーゼルが語る姿を録画で見る(聴く)ことができるのはとても嬉しい。



シューマン/東洋の絵(Bilder aus Osten)Op.66(曲目解説)

tag : レーゼル シューマン ブラームス

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『TBS Vintage Classics/Julias Katchen』
発売予定が第1回発売分から第3回発売分へと変更になったけれど、無事にリリースされた”TBS Vintage Classics”シリーズの『Julias Katchen』。
ヨーロッパ以外のクラシック演奏家として、1954年に初来日したアメリカ人ピアニスト、ジュリアス・カッチェン(当時28歳)のリサイタルのライブ録音。

”TBS Vintage Classics”リリース一覧[UNIVERSAL MUSIC JAPAN](11/21現在、第1回~第3回まで発売)

OTTAVA Presents “TBS VINTAGE CLASSICS SPECIAL”(ラジオ番組)
9月15日(日)に放映された4時間の特別番組が聴ける。(番組概要(PDF))
”TBS Vintage Classics”シリーズに収録された演奏家と録音の紹介、ライブ録音の一部が放送されている。
このシリーズのCDを買うか検討中なら、参考になる音源がいろいろ。
カッチェンの場合は、ショパンの《バラード第3番》が全曲放送されている。

「Part2」でカッチェンのリサイタルにまつわるエピソードが紹介されていて、これが面白い。
ベートーヴェンとブラームスを弾く気満々で来日したカッチェン。
カッチェンを招聘したラジオ東京の音楽部長は、近代の技巧鮮やかな曲を弾いて欲しいと言う。(ケンプとバックハウスがベートーヴェンを演奏した後だったので)
このリサイタルのプログラムをめぐって、4時間近く、両者が喧々囂々とやりあったらしい。
来日前にプログラムをちゃんと決めていなかった..というのが可笑しい。

カッチェンは、当然ベートーヴェンとブラームスを弾くつもりで練習して、来日したに違いない。
それが、12月8日来日した後で、10日の演奏会のプログラムがショパン、ドビュッシー、リスト、バルトークになってしまってちょっと慌てたかも?
でも、カッチェンは、国内外の演奏旅行でも、楽譜を持ち歩かなかったという逸話の持ち主。
指先に楽譜が全て転写されているらしく、暗譜の不安は全くないので、1日練習すれば大丈夫だったのかもしれない。
カッチェンは、来日中何回かリサイタルを行ったらしく、最後はベートーヴェンとブラームスを弾いて帰ったという。
やっぱり、どうしても弾きたかったみたい。そのリサイタルのライブ録音があるのなら、それもぜひCD化して欲しいもの。


TBS Vintage Classsic  8 ジュリアス・カッチェン ショパン:幻想即興曲他TBS Vintage Classsic 8 ジュリアス・カッチェン ショパン:幻想即興曲他
(2013/11/13)
カッチェン(ジュリアス)

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ジャケットのカラーが黒とゴールドでシック。DECCAのCDでもよく使われているカッチェンの若い頃のポートレートがとても素敵。

ブックレットの解説も貴重な資料。今まで手に入れた資料には載っていなかったことも多い。
カッチェンの来日に合わせて、『レコード藝術』(1954年12月号)にはカッチェンの紹介記事、『音楽の友』(1955年3月号)には、カッチェンのインタビュー記事が掲載された。その一部がブックレットで紹介されている。

- カッチェン自身は、ピアニストの母親、祖母(モスクワとワルシャワの音楽学校の先生)、祖父(音楽理論の教授)からピアノを習ったので、「アメリカ育ちですが、実は伝統的なロシアの音楽教育を受けたわけです」と自負していたこと。
- フランスのピアノ界に対するコメント。「フランスでは画一的な詰め込み主義が行われていて、精神的にもテクニックの上でも個性的な面が抑圧されている。一口にいって不自然なのです。」
- 「大きな強い音を出すときには上からばんと鍵盤に指を下ろす。それでは全然ダメです。ロシアのメトードは、体重をかける。その方が強烈な音がでる。コンサートが終わっても少しも疲労を感じない。...自然にやっているから疲れないのです。」
→いわゆる「重量奏法」なのかどうかよくわからないけれど、「アラウとの対話」でアラウが同じ趣旨のことを言っていた。


<収録曲>
ショパン:バラード第3番変イ長調 op.47
ショパン:ワルツ第1番変ホ長調 op.18『華麗なる大円舞曲』
ショパン:スケルツォ第3番嬰ハ短調 op.39
ショパン:子守歌 変ニ長調 op.5
ショパン:ポロネーズ第6番変イ長調 op.53『英雄』
リスト:『詩的で宗教的な調べ』より第7曲『葬送』
ショパン:練習曲 第7番嬰ハ短調 op.25-7
ショパン:練習曲 第11番イ短調 op.25-11『木枯らし』
ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
ドビュッシー:前奏曲集第1巻より『沈める寺』
バルトーク:『ミクロコスモス』第151番『ブルガリアのリズムによる舞曲 第4番』
バルトーク:『ミクロコスモス』第153番『ブルガリアのリズムによる舞曲 第6番』
ファリャ:バレエ音楽『恋は魔術師』より『火祭りの踊り』

                          

1954年のライブ録音なので、あまり良い音質は期待していなかったけれど、聴いてみるとかなり音がよくて、音色の色彩感も美しく、とても自然な音に聴こえる。
マスターテープの状態もリマスタリングも良かったのだろうし、SACDで聴けばさらに良くなりそう。(私のCDプレーヤーはSACD対応ではないのが残念)
スタジオ録音で聴いたことのある曲でも、ライブ独特の臨場感と自然に湧き上がる情感、カッチェン自身の息遣いが伝わってくる。


ショパン/バラード第3番変イ長調 op.47
ドラマティックなフォルテの響きには、19世紀のロマンティシズム風(?)のちょっと時代がかったもの(グランド・マナーというらしい)を感じないでもないけれど、ベタベタと粘着的なところは感じないし、弱音は優しく触れるように柔らかく可愛らしくて、このバラードは結構好きな弾き方。
スタジオ録音よりも演奏時間が短く、勢いの良さと臨場感はライブ録音ならでは。
聴衆の拍手にはとても熱が篭っていて、敗戦後ようやく社会が落ち着いた時代に音楽を渇望する熱気を感じる。


これは1950年代のスタジオ録音。この他には、1965年10月4日のロンドンでのライブ録音が残っている。



ショパン/ワルツ第1番変ホ長調 op.18「華麗なる大円舞曲」
子供の頃に練習して、すっかり嫌になってしまった思い出のあるワルツ。
ショパンのワルツをほとんど聴かなくなったのも、このワルツにまつわるトラウマのせい?
カッチェンの演奏は、優雅というよりは、結構元気で賑やか。
リタルダンドをたっぷりとってテンポの落差が大きいのが、ちょっと面白い感じはする。


ショパン/スケルツォ第3番嬰ハ短調 op.39
バラードと同じくスケルツォもとってもロマンティック。
繊細で優雅というよりは、太めでしっかりした線で力強いタッチでかなりパワフル。
テンポを落として弾くところはたっぷりとした情感がこもって、高音部はきらきらと星が振り落ちてくるような煌き。


ショパン/子守歌 変ニ長調 op.5
パワフルなショパンを聴いた後なので、意外なくらいに叙情豊かで優しい《子守歌》。
指まわりがよくて技巧鮮やかなわりに、こういう緩徐系の曲になるとタッチも随分変わって柔らかくなり、歌い回しもロマンティック。
こういうショパンだって弾けんだよ..とはっきりわかるような選曲にしたようにも思える。
この曲も高音部の音がきらきらと輝いて、こんなに色彩感豊かな音を持っていたとは思わなかったくらい。


ショパン/ポロネーズ第6番変イ長調 op.53「英雄」
スタジオ録音でも骨太いタッチで勇猛果敢なポロネーズだったけれど、ライブ録音ではそれを上回るくらい。
展開部は、猛スピードと低音が地鳴りのように鳴り響き、黒光りする重戦車が爆走しているように迫力満点。
ペダル踏みっぱなしなので、左手のオクターブで移動する低音が、幾層にも重なって混濁しているのが逆に迫力を増しているような...。
カッチェンが弾くショパンの中では、面白さではこの《英雄ポロネーズ》が私には一番。何度聴いても楽しくて好き。


リスト/『詩的で宗教的な調べ』より第7曲「葬送」
リストの『葬送』は、曲想がころころ変わって、厳しく、静かで内省的で、ヒロイックで、とってもドラマティック。
冒頭からカッチェンの太くて力感・量感のある低音が厳しく響いて、まるで死刑囚が断頭台へ向かうようなオドロオドロしい雰囲気満点。
この曲は、ショパンの「英雄ポロネーズ」に似たような旋律が出てくるところが面白い。ここは、カッチェンらしく勇猛でヒロイックな雰囲気。
ときどきカッチェンも感情が嵩っているのか、なんだか唸るようなはもるような声が聴こえる。
演奏が終わった後に、カッチェン自身が聴衆へ向かって、”Etude by Chopin”と、次に弾く曲名を告げている。


これはスタジオ録音。ライブ録音の方がややテンポが速く、音質が良いので低音の響きも厳めしく、冒頭部分はじりじりと迫ってくるような怖さが強く出ている。
Liszt - Funérailles (Julius Katchen)



ショパン/練習曲 第7番嬰ハ短調 op.25-7
深い呼吸でとても叙情的なエチュード。明るい《子守歌》と同じく、こういう緩徐系の曲はとても美しい。
このトラックの最後でも、カッチェンが”○○○...(意味が聞き取れなかった)Etude by Chopin”が告げている。
リストとショパン2曲はアンコールだったのかも。


ショパン/練習曲 第11番イ短調 op.25-11「木枯らし」
力強いタッチでダイナミックなところは、木の葉が舞う『木枯らし』というよりは、風がビュンビュン吹きすさんでいるような...。


ショパン/幻想即興曲 嬰ハ短調 op.66
やたらに速い幻想即興曲。ライブになると、勢いあまってしまうのか、もともとこういう弾き方なのか(たぶんそうだと思う)、左手のアルペジオが(団子みたいに)音がまとまって聴こえるのが何とも言えない。
展開部はさすがにタッチもまろやかになるけれど。
「幻想」というには、ファンタジックな雰囲気にやや欠けるような気がしないでもないけれど、男性的でダイナミックなところが面白い。


ドビュッシー/前奏曲集第1巻より『沈める寺』
カッチェンのドビュッシー録音は、《月の光》しかなかったので、これはとても珍しい録音。
標題の寺院のイメージ-神秘性、荘厳、華麗、静寂など-がくっきり。
カッチェンのピアノの音色・ソノリティの美しさと多彩なところを聴くなら、この曲が一番良いかもしれない。


バルトーク/ミクロコスモスより
第151番「ブルガリアのリズムによる舞曲 第4番」
第153番「ブルガリアのリズムによる舞曲 第6番」

両曲ともとてもジャジーな練習曲。カッチェンのスタジオ録音も聴いたはずなのに、全然覚えていなかった。
そちらを聴き直してみると、このライブ録音の方が生き生きとしてリズミカルで躍動的。
第4番はジャズピアニストのオリジナル曲と言われても、違和感がない。可愛らしくも不協和的な響きがとてもモダン。
第6番の方は、リゲティのエチュードを少し連想するような曲。


ファリャ/バレエ音楽『恋は魔術師』より「火祭りの踊り」
この曲は、演奏会のアンコールでよく弾いていたらしい。
一番最後の録音は、1969年12月にローリングストーンズのサーカスのDVDに収録されたライブ映像。
結局、このライブ録画がカッチェン最後の録音になった。


好きな演奏を数えていたら、ショパンの「バラード第3番、スケルツォ第3番、子守歌、練習曲第7番、英雄ポロネーズ」、リストの「葬送」、ドビュッシーの「沈める寺」バルトークの「ミクロコスモス」の2曲と随分多かった。
ショパン、リスト、バルトークの演奏は、スタジオ録音では特に好きというほどではなかったけれど、このライブ楼音で聴くと印象が随分変わって、とても気に入ってしまったのが思わぬ収穫。
ショパンはオーソドックスな弾き方ではないのかもしれないけれど、カッチェンのライブ録音を聴いていると、28歳に初めて日本で演奏するカッチェンの若々しさと意気込みが伝わってくる。
今年のクリスマスは、このカッチェンのライブ演奏とハフのブラームス&ショパンを聴いて、とっても楽しく過ごせそう。


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【新譜情報】 ジュリアス・カッチェン /初来日公演ライヴ(1954年)
ジュリアス・カッチェンにまつわるお話

tag : ショパン ドビュッシー バルトーク ファリャ カッチェン フランツ・リスト

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Moscow Nights (モスクワ郊外の夕べ)
スティーヴン・ハフが編曲したVasily Soloviev-Sedoi作曲《Moscow Nights/モスクワ郊外の夕べ》。
2012年にヘルシンキで行ったコンサートでハフが弾いていたらしい。
CDには未収録の曲なので、これが本当にハフの編曲と演奏なのかわからなかった。
でも、ラフマニノフ風の旋律が出てくるので、クラシック音楽畑の人が編曲したのは間違いなさそう。
念のため、ハフのコンサートスケジュールをチェックしてみると、確かに2012年5月11日にヘルシンキのMusic Centreで、ラフマニノフの《パガニーニ狂詩曲》を演奏している。
それに、同じ場所でハフが弾いた”Moscow Nights”が、American Public Mediaのウェブ放送番組表にも載っていた。
ということは、”Moscow Nights”は《パガニーニ狂詩曲》の後のアンコール曲らしい。


Stephen Hough plays "Moscow Nights"


冒頭とラストで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番冒頭のピアノソロの旋律ととってもよく似たフレーズが出てくる。これですっかりロシア音楽の世界に。
ハフのピアノソロ編曲は、ほろ苦い甘さのあるメロウなところが素敵。この曲ならジャズバージョンも似合いそう。


探してみるとやっぱりあったジャズバージョン。
Jan Johansson - Kvällar i Moskvas förstäder ( Moscow Nights)




モスクワ郊外の夕べ/Moscow Nights(解説と原曲の音源)
この曲を有名にしたクライバーンが弾く"Moscow Nights"
Подмосковные вечера_-_Van Cliburn


tag : スティーヴン・ハフ

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スティーヴン・ハフ ~ ルトスワフスキ/パガニーニの主題による変奏曲(ピアノ協奏曲版)
ルトスワフスキの《パガニーニ変奏曲》には、ピアノ協奏曲版と2台のピアノ曲版があり、後者の方は難曲で演奏効果も高いせいか、実演・録音ともピアノ協奏曲版よりは多い。
あまり聴いたことがないピアノ協奏曲版をスティーブン・ハフが今年(2013年)のBBC Promsで弾いていたのを発見。 Promsでこのピアノ協奏曲が演奏されるのは、これが初めてなのだそう。

このライブ映像は、ルトスワフスキの生誕100年を祝した演奏会のプログラムの一つ。
最近のハフのステージ姿を見るのは久しぶり。
もう50歳になったけれど、精緻でシャープなタッチは相変わらず健在。渾身の力を込めて打鍵するフォルテもいつのも通り。
真っ黒い衣装に身を包んで謹厳で生真面目な表情はまるで修行僧みたい。
日本とは違ってイギリスでは人気も評価も高いピアニストのハフの演奏が終わると、演奏が終わると会場から大きな拍手と歓声。

Lutoslawski: Variations on a Theme of Paganini - BBC Proms 2013 (Stephen Hough : Piano )


2台のピアノ版と、ピアノ協奏曲版とでは、演奏姿を見ていて面白いのは2台のピアノ版の方。
あんなに難しい曲を2台のピアノでピシっと合わせて間違いなく弾いているのを見ると凄いな~と思ってしまう。
ピアノ協奏曲の方は、そういう感動はなかったせいか、全然記憶に残っていなかったけれど、今聴くと2台のピアノ版とは違った面白さ。(ハフがピアノを弾いているので、聴くときの集中度が全然違っているのかも...)
ピアノ協奏曲版では、オケの楽器の響きが軽妙というよりも奇妙。
サーカスのピエロのようにちょっと人を食ったような屈折した可笑しさや、皮肉に満ちた(トランプやタロットの)ブラックジョーカーのような刺々しい笑いが聴こえてきそうな気がしてくる。
ハフのシャープできりっと引き締まったピアノの音もガラスのように冷たく輝いて、曲想によく合っている。

時々ラフマニノフの《パガニーニ狂詩曲》を連想するようなロマンティックなフレーズも出てきたりして、ルトスワフスキにしては、とっても聴きやすい。
それに、ラフマニノフよりも、オケ伴奏の色彩感がずっとカラフルで、現代的なシニカルさや切っ先の尖ったナイフのような鋭さが感じられて、オケ伴奏はルトスワフスキの方が私にはとっても面白い。
演奏時間もピアノ2台版の倍くらいあるので、オケのトウッティが楽しめるのも良いところ。
両曲とも好きだけれど、今聴くと、音色と表情がずっと多彩でダイナミックなピアノ協奏曲版の方が気に入ってしまったくらい。


こちらは2台のピアノ版。ピアニストは、エンリコ・パーチェとイゴール・ローマ。
オケのような多種多彩な音色と響きは表現できないせいか、ピアノ協奏曲版よりもずっとシリアスに聴こえる。
Lutoslawski - Paganini variations

tag : ルトスワフスキ スティーヴン・ハフ

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スティーヴン・ハフ ~ ショパン/ワルツ集
ゲザ・アンダのワルツ集を数年前に買って以来、久しぶりに聴いたワルツ集はスティーブン・ハフの2010年録音。
ショパンのワルツ集(というかワルツという曲自体)が聴くのが得意な曲ではなく、アンダのほかにはアラウとキーシンのCDくらいしか持っていないかったはず。

ハフのブラームスのコンチェルトの新譜を聴いてから、急にハフ・モードに入ってしまったせいか、めったに聴かないショパンのCD3枚を試聴。その中の1枚がワルツ集。
いくら好きなハフの録音とはいえ、今までワルツ集には全然関心がなくて試聴したこともなかったのに、Youtubeの映像をたまたま見て(聴いて)、すっかり気が変わってしまった。

Stephen Hough plays Chopin's waltz in A flat major


ハンフリー・ボガート風(?)のダンディな扮装で、目深に帽子をかぶったハフが、暗がりのなかで小さなスポットライトの光に照らされながら、ワルツ(A flat major)を弾いている。
(このハフの姿が、「スター・トレック・ネクストジェネレーション」のピカード艦長に見えてしまうのは気のせい?)

このモノトーン映像も面白いけれど、それ以上にさりげないウィットを効かせたお洒落なワルツがとっても素敵。
コロコロと硬め音と柔らかい音色に軽やかなタッチ、ちょっとクセのあるリズムとアーティキュレーションが、妙に私の波長にぴったり。
他のワルツの演奏はどうなんだろう?と思って、ハフのCDを試聴してみると、A flat majorだけでなく、他の曲もとてもしっくりと自然に耳に入ってくる。
まるで昔から聴き親しんできた曲に再会したような懐かしさ。
ハフの弾くワルツは、情感の濃いロマンティックなワルツではなく、心のうちをさりげなくつぶやいているような穏やかさで落ち着いたワルツ。
それに、どこか醒めたようなクールさのなかに、淡い儚なげな哀感がふんわりと漂っているような..。
《夜想曲変ホ長調Op.9-2》が最後に聴こえてきても全然違和感がないくらい、全てが寝静まった夜更けに一人静かに聴いたくなるワルツ。
ハフのピアノの音色と色彩感、ソノリティの美しさも素晴らしくて、このCDも買ってしまいそう。

Complete WaltzesComplete Waltzes
(2011/08/08)
Stephen Hough

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tag : ショパン スティーヴン・ハフ

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リスト/ヘクサメロン変奏曲(ベッリーニの「清教徒」の行進曲による華麗な大変奏曲)
ミッチさんのブログ<フランツ・リストに花束を>で紹介されていたハワードの『リスト ピアノ作品全集 Disc.96:ピアノと管弦楽のための作品2』のなかで、とても面白そうな曲が《へクサメロン - 演奏会用小品 "ベルリーニの《清教徒》の行進曲による華麗なる大変奏曲"》。

《へクサメロン変奏曲》は、複数作曲家の合作という珍しい作品。
合作曲で今でもよく演奏されている曲で私が知っているのは、ブラームスの《F.A.E.ソナタ》くらい。
”へクサメロン”とは、ギリシャ語で6編の詩という意味。
同一主題に基づいて、複数の作曲家が変奏曲を書いているという点では、ディアベリ変奏曲と発想は同じ。
《へクサメロン変奏曲》の場合は、6人の作曲家が書いた曲をまとめて1つの変奏曲にしている。
主題や変奏曲のつなぎにあたる間奏曲とフィナーレは、監修役(らしい)リストが作曲。

《へクサメロン変奏曲》を書いた作曲家は、リスト、タールベルク、ピクシス、ヘルツ、チェルニー、そしてショパン。(ピクシスとヘルツは私は知らなかった)

楽章構成は以下の通り。
Introduction: Extremement lent (Liszt)
Tema: Allegro marziale (transcribed by Liszt)
Variation I: Ben marcato (Thalberg)
Variation II: Moderato (Liszt)
Variation III: di bravura (Pixis) - Ritornello (Liszt)
Variation IV: Legato e grazioso (Herz)
Variation V: Vivo e brillante (Czerny) - Fuocoso molto energico; Lento quasi recitativo (Liszt) 10:15
Variation VI: Largo (Chopin) - (coda) (Liszt)
Finale: Molto vivace quasi prestissimo (Liszt)

行進曲が主題なので、変奏はいかにも行進曲風なものが多いけれど、モデラートの第2変奏(リスト作)と、ラルゴの第6変奏(ショパン作)は、少し曲想が違っていて、とてもロマンティック。
ヘルツの第4変奏は、蝶が舞うようないかにも変奏らしいパッセージが続く。
第5変奏⇒第6変奏へと移行する部分はリストが書いている。テンポと曲想の違う2つの変奏が、自然に繋がっていく。
第6変奏も最後にリストによるコーダ部分がつき、最後のフィナーレにつながる。さすがにリストが作曲したこのフィナーレはとっても華やか。


《へクサメロン変奏曲》は、ピアノ独奏、2台ピアノ、6台ピアノ、管弦楽曲&ピアノとバージョンがいろいろ。特に録音が多いのは、ピアノ独奏版。

Hamelin plays Liszt - Hexameron
ショパンが作曲した曲は、13:19~。



独奏曲版以外は音源が少ない。
このピアノ協奏曲版の音源はVOXレーベルの『Eugene List-the Great Piano Concerti』というCDに収録されている。
Eugene List Plays "Hexameron" (Liszt & others... version for Piano and Orchestre 1/2)


※ピアノ協奏曲版の楽譜については、<フランツ・リストに花束を>の記事のコメント欄で、ミッチさんが説明されています。



面白いのは、オケと6台のピアノによるライブ演奏の映像。
これだけ多くのコンサートグランドが並んでいるのは、壮観。
独奏または複数のピアノで合奏。複数で弾く場合は、同じ旋律を合奏したり、違う旋律を弾いている。

6台ピアノ版を録音したCD『6人の作曲家による『ヘクサメロン変奏曲』全曲』の紹介文を読むと、もともとは6人のピアニストの演奏で初演される予定だったらしい。(実際に初演したのは、リスト自身がソリストをつとめたピアノ協奏曲)。


hexameron 01.wmv


hexameron 02.wmv


tag : ショパン フランツ・リスト

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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好きな写真家:アーウィット

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