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『鎮魂のソナタ』
件の代作騒動もひとまずほとぼりが冷めてきたようではあるけれど、オンラインショップでCDが販売中止になっているのは相変わらず。
渦中の作品《交響曲第1番》はニコニコ動画サイトで全曲聴いたけれど、これはCD買うほど好きではなかったので、結局購入せず。(第3楽章の盛り上がり方とエンディングのコラールは良かったけれど)
室内楽曲の方は、試聴した限りでは、好きなタイプの曲がたくさんあったので、『シャコンヌ』とこの『鎮魂のソナタ』の両方をヤフオクで購入。(前者はほぼ定価、後者は定価よりも若干安かった)

佐村河内守/新垣隆『鎮魂のソナタ』佐村河内守/新垣隆『鎮魂のソナタ』
(2012/11/14)
ソン・ヨルム

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<収録曲>
ドレンテ~子どものために~
ピアノ・ソナタ第1番
ピアノ・ソナタ第2番

CDのブックレットの解説は、今になって読むと、表面上の作曲者S氏の言動を紹介しているところが、かなり笑える。
作品解説自体は、音楽評論家が曲のモチーフとか構成とかを書いているので、誰が作曲者であろうとそう変わるものではないだろうし、かなり詳しく書かれている。(でも、第2番の解説は表まで書いていて、そんなに詳しく解説せずとも良いのに..と思うけど)

ドレンテ ~子供のために~
作曲者の新垣隆氏は、前衛的・実験的な作風が本流と自ら語っている。
でも、書こうと思えば、ロマンティックな曲の書き方のツボを押さえたこんなに美しい曲も書けるくらいなので、かなり器用な人だと思えるくらい。

スタジオ録音の音源がないので、これは「chopinist100」というアカウントのピアノサークル団体さんが公開している動画。
演奏者はアマチュアの方だけれど、ミスタッチもなく、この曲の美しさを味わうには充分。

ドレンテ ~子供のために~



ピアノ・ソナタ第2番
このCDを聴く目的は、このソナタ。現代的なところはあっても、前衛性は希薄で聴きやすい曲。
40分近くある長大なソナタ。曲想がころころ変化しているので、この長さのわりに飽きずに聴ける。
私が感じた限りでは、第1楽章は後期ロマン派のような叙情性があり、技巧華やか。
ショパンの影響が濃厚なスクリャービン前期(ピアノ・ソナタ第3番あたりまで)、リスト的な華やかでダイナミックな超絶技巧、シマノフスキの幻想性、リゲティの(ジャジーな)エチュードなどの作風を融合させたような感じがする。
ところどころ、たぶんショパンの作品の旋律(プレリュードかエチュード?どの曲か思い出せない...)が使われているので、ショパンへのオマージュみたいなところもあるのも。

第2楽章は、音も随分少なくなって、モノローグのように内省的。これは第1楽章よりも現代風な曲想。
右手が単音で弾く星がまたたくようなパッセージとかを聴いていると、なぜか「宇宙戦艦ヤマト」で、宇宙や惑星の神秘を表現するときによく使われていた劇伴音楽を連想してしまう。
この不可思議な雰囲気は、内省的というよりも、瞑想的・神秘的といった方が良さそう。
終盤10分半以降は、再び第1楽章のような曲想に変わり、前期スクリャービン&ショパン風にパッショネイトな叙情感。
ラストは、冒頭のように静寂さが訪れ、再びショパンのモチーフが変形されて、フェードアウト。

第3楽章の冒頭は、リゲティのエチュード風。
時々、テンポを大きく落として緩急の変化をつけながら、細かいパッセージが速いテンポで縦横無尽に鍵盤上を走り回っている。
この楽章も、途中までは、叙情的というよりも、ダイナミックな疾走感に幻想的・神秘的な雰囲気が融合して、現代的。
9分あたりで、今までの緊張感から解放されたかのように、静かにショパン風の叙情的な旋律が流れる。
時々、それを霍乱するように、全く違うタイプの和音とかフレーズが、短く挿入されてながら、静かにエンディング。
第1楽章と第3楽章は、クラシック音楽とはいえど、現代的な”カッコよさ”みたいなものを感じるのは、交響曲やヴァイオリンソナタと同じように、この曲でも”ポピュラー音楽の要素”を入れ込んでいるせいかもしれない。

"パッチワーク的"と言われれば、そういう気がしないでもないけれど、面白く聴けるので私は全然かまわない。
名曲として残るかといえば?だけれど、それ以前に、著作権の帰属問題が解決しないと公開演奏することもできない。
それに、いわく付きの曲なら、よほどの名曲でなければ、演奏しようという人は少ないかも。


<参考サイト>
佐村河内守プロデュース新垣隆 ピアノ・ソナタ第1番を聴き込んでみて[信心の王者たれ!]



ピアノ・ソナタ第2番
《ピアノのためのレクイエム》を元に、ソナタ形式で拡大したという演奏時間40分あまりの曲。
第1番よりも、さらにショパン風な風合いが濃い感じ。
第1楽章は、冒頭の序奏に続いて、バッハ風(インベンションに似ている)の旋律が現れる。ここは《ドレンテ》風の叙情感が美しい。
第3楽章は、リストとショパンが融合したように、ピアニスティックで情熱的。(ここまで来ると、人工的に作り上げられた印象が強くなる)
結局、全楽章聴いても、私の好みのタイプの曲ではないのがわかったというところ。
特に、《シャコンヌ》と同じく、バッハ的なフレーズを使っているところに、居心地の悪いセンチメンタリズムを感じる。
同じ感傷的な旋律でも、《ドレンテ》のように、いかにもロマティックなポピュラー的な旋律の方が違和感なく聴ける。
それに、40分という演奏時間は長すぎるのではなかろうかと。
発注者であるかのプロデューサー氏の設計なので変えようがなかったのだろうけど、私には冗長に聴こえる。
20分くらいに凝縮されたピアノ・ソナタなら、少しは好きになれそうな気がする。
作曲上の信条が実験音楽である作曲家が、こういう長大な叙情的ソナタを書くというのは、第1番のような現代風ソナタよりも、ずっと苦労するのかも。


<参考音源>
✕ 佐村河内守 → ◯ 新垣隆 - ピアノ・ソナタ第2番 (excerpt) [ニコニコ動画]


<参考情報>
【連載】「どこまでがドビュッシー?(十七)」(岩波図書 2014年4月号)[青柳いづみこオフィシャルウェブサイト]
新垣氏の作風について、なるほどと思ったのが、ピアニスト&文筆家の青柳いづみこさんの分析。
新垣氏の”本流”である現代音楽作品は、「時代・ジャンルともに雑多な音楽のコラージュにテキストやパフォーマンスを組み合わせたもので、全体として浮かびあがってくるのは、わざわざ陶酔からよびさますような「天の邪鬼」の精神。」
「新垣氏は、佐村河内名義作品では聴衆を泣かせ、本人名義では人を笑わせるのである。演劇でも、泣かせるより笑わせるほうがむずかしいときくし、それを両方こなせる役者は数少ない。これはすごいことではないだろうか。」

tag : 新垣隆

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古澤巌&高橋悠治 ~ ブラームス/ヴァイオリンソナタ全集
コンポーザーピアニストの高橋悠治のCDを集めているときに見つけたのが、珍しくもブラームスのヴァイオリンソナタ全集。
バッハ・ベートーヴェン・現代音楽(バルトーク、サティ、メシアン、クセナキスなど)の録音なら違和感はないけれど、ロマン派のブラームスというのは、彼のピアニズムを思い浮かべると、ちょっと意外な気がする。
(聴いたことはないけれど評判だけは知っている)ヴァイオリニストの古澤巌とのデュオというのも、興味を魅かれる。
少し調べてみると、この2人のデュオコンサートでは、ブラームスのヴァイオリンソナタの他に、シューマン、フランク、それにベートーヴェン(5,9,10番)を演奏していた。

amazonに載っていたCDレビューを読むと、一風変わったブラームスらしい。
実際CDで聴いてみると、たしかにレビューの通り、今まで聴いてきたいろんな録音とはかなり異なるブラームス。
といっても、”三途の川の淵に佇むブラームス”みたいなクレーメル&アファナシエフの録音のような奇抜さも陰鬱さはなくて、むしろロマン派よりもずっと古典派よりの構築性を感じさせるところがある。

2006年録音ということは、当時高橋悠治68歳、古澤巌47歳の頃の録音。
ピアノのテンポがベースになって、その上をヴァイオリンが流れて、まるでピアノに寄り添うように、ヴァイオリンが”伴奏”しているようにも聴こえてくる。
それに、低音がずしっと重く、量感のある和声のピアノの響きがシンフォニックなせいか、ヴァイオリンソナタというよりは、ピアノとヴァイオリンの協奏ソナタのような趣き。

ブラームス ヴァイオリン ソナタ全集ブラームス ヴァイオリン ソナタ全集
(2005/08/24)
古澤厳×高橋悠治

試聴ファイル
「確かにブラームスの響きは聴こえているのだが、どこか何かが違う。仕掛けはどうやら高橋悠治のピアノである。物理的に“遅い”というよりは、差し迫らないテンポ。低域に重心を置きながら、分厚さの中に響きを畳み掛けるのではなく、むしろ意図的にぶつりと響きを切って、ステディなベースの動きを際立たせるアーティキュレーション。それでいて一音一音に深く蒼く量感をたたえてあくまで豊かに美しい音色。熱く昂ぶって白熱しないのである。丁々発止ヴァイオリンとせめぎ合わないのである。お馴染みの身振りをほとんど削ぎ落としてしまっている。古澤もタップリと歌いながら“節回し”にはオチない。にもかかわらず、何やら素朴な抒情が聴こえる、物思いに耽る孤独が聴こえる、不思議に耳が吸い寄せられるのである。おそらく、彼らはブラームスが書いた音を一旦素裸にすることで、その根っこの抒情を聴き取ろうとしているのだ。その企みが快感に触れている。清新と言おう。 (中野和雄)」(CDジャーナル・レビュー,2005年09月号)

古澤巌のヴァイオリンの音色は、やや線が細い気はするけれど、芯がしっかりしていて華奢な感じはしない。
それに、音質が中性的というかくぐもった色合いがするというか(歌曲で言えば、ソプラノではなく、メゾソプラノを聴いているみたいな)、(スーク・ツィンマーマン・カヴァコスのような)明晰な美音とは違うタイプの音なので、私の好みとは少し違う。
でも、聴きなれると、穏やかな色彩感にしっとりとした落ち着きがあって、こういうまったりした音色はとても心地良い。
ヴァイオリンの歌いまわしは、しなやかでありつつ、弱音でもしなしなせず、ベタベタ情緒過剰になることがない。
ややさっぱりとした叙情感が、私にはちょうど良い。
息の長いレガートで流麗に流れるところは、ゴツゴツとしたタッチのピアノと対照的。(このアンバランス(?)なところが良いのかも)
思いがけないくらいに、聴けば聴くほど、このヴァイオリンのブラームスがしっくりと染み込んできて、とても素敵。

高橋悠治のピアノは、やっぱり個性的。
聴きどころがいろいろあって、何度聴いても楽しめる。(もっと若いピアニストの技巧達者な録音と比べると、いささか指回りの悪さは感じるけれど、そういうことは気にならない)
ピアノ伴奏という役割を超えて、独立独歩というか、ソリストみたいな存在感がある。
線の太いゴツゴツとした量感のある音で、特に低音がズシっと響いて揺るぎなく、それに比べると、滑らかで穏やかな音色のヴァイオリンの存在感がいくぶん弱く感じることも。
フォルテでもむやみに強打しないので騒々しさはなく堂々とした落ち着きがあり、重層感のある和声がシンフォニックで力強い。

ピアノのアーティキュレーションも面白い。
一音一音をマルカート的にしっかり打鍵し、強いアクセント/スフォルツァンドを使うので、フレージングがゴツゴツとして、滑らかではなく、その飾り気のなさは無骨というべきか..。(ちょっとゼルキンに似ているかも)
フレーズの終わりで途切れるようにスパっと切っていることがあり、さらに骨っぽさを増している。
あまりタッチを磨きぬいたような響きの繊細さとか美しさに拘っていないようだけれど、そのわりに明晰なソノリティと、骨格がくっきりと浮かびあがるアーティキュレーションで、太く量感のある音なのに、清々しさを感じる。

あまり速いとは言えないテンポに加えて、ルバートも多用せずほぼインテンポで、アッチェレランドする場面でも、テンポがほとんど走らない。
時を刻むようなピアノの打鍵には疾走感が無く、一歩一方着実に踏みしめていくように進んでいく。
このピアノの歩調に合わせている単音の旋律を弾くヴァイオリンは、息がかなり長く感じる。
緩徐楽章になると、さらにまったりと穏やかになり、叙情的というよりも、一人物思いにふけるように内省的な雰囲気も漂う。

ロマン派激情に溺れることのない落ち着きと(時として)静けさが漂っているけれど、ブラームス的な陰翳と圧迫感のある重厚さはない。
逆に、(まるでベートーヴェンのような)堂々として、大らかな開放感があり、室内楽ではなく協奏曲のような空間的な広がりを感じさせる。

第1番《雨の歌》は、ロマン派的甘さは少なく、大らかでのびのびとして爽やか。
第2楽章はかなりゆったりしたテンポで穏やかではあるけれど、どこか沈み込むように内省的でもあり、ときに運命が忍び寄ってくるように劇的。
第3楽章は、ピアノパートの響きが厚くなり、かなりシンフォニックに聴こえる。

第3番とFAEソナタは、ピアノパートは厚みのある和音が多く、強調された低音の響きに重みがあり、第1番と第2番よりもピアノの存在感がずっと大きく、協奏曲のようにシンフォニック。
FAEソナタになると、テンポは遅いけれど、時に弾丸のように力強いタッチのピアノがカッコ良くて。
第3番でも、やはりテンポはゆったりとして、盛り上がるところでも、走らない。
第1楽章では、ピアノが低音で鳴らし続けるオスティナートが、通奏低音のようにくっきりと深く響いて、とても印象的。
第3楽章も軽やかさはなく、ズシっズシっと杭を打ち込むようなピアノの打鍵が、くぐもった問いのようなこの楽章の雰囲気に妙に合ってたりする。
さすがにテンポが速くなった(それでも若干遅めだけど)第4楽章は、ピアノの重厚で力強い響きが、雄渾でシンフォニック。この楽章はピアノがとりわけ目立っている。
ロマン派的な感情が横溢するような白熱感はないとしても、曲が曲だけに、ゆっくりと湧き上がるような高揚感と白熱感があり、意外なくらいにカッコ良くてゾクゾクしてくる。

試聴したときは、もう一つわからないところがあったけれど、CDで全曲聴いてみると、期待以上に私が好きなブラームス。
ヴァイオリンソナタとは言え、やはりこのCDはピアニストで選んだのが正解だった。


tag : ブラームス 高橋悠治 古澤巌

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「音楽メディアユーザー実態調査 2013年度」(日本レコード協会)
一般社団法人日本レコード協会が、音楽視聴に関する調査結果「2013年度音楽メディアユーザー実態調査報告書」を公開。

「2013年度音楽メディアユーザー実態調査報告書-公表版-」(2014年3月、一般社団法人 日本レコード協会)

<解説記事>
新曲に金は出さない、持っている曲で満足……音楽の“有料聴取層”減少続く(3/18 internet.watch)

この調査報告では、音楽のジャンル別のデータがないので、ポップス・ロック、ジャズ、クラシックのリスナーの特性はわからない。
“有料聴取層”の購入減少理由は、
 1位:現在保有している音楽で満足している(45.9%)
 2位:金銭的な余裕がなくなった(39.4%)

大幅に増加しているのが
 8位:パソコン・スマートフォン等で視聴・利用できる無料の動画配信サイト(YouTube等)やアプリで満足している(14.6%)

音楽に費やす金額が減っているのは、携帯端末の利用料金の支払のために、他の趣味ものに使う費用が減っていることもあるのかも。


米国で行われた調査では、アップルのiTunes RadioとSpotifyよりも、ネットラジオPandoraを利用する人が多いという。
「アメリカ人の若者は音楽ストリーミング世代」という調査結果[2014年03月24日、Musicman-NET ]

『未来は音楽が連れてくる』〜日本が気づかないソーシャルミュージックの大席巻
連載第24回 Pandoraが切り拓く 音楽産業のブルーオーシャン

この記事によると、日本ではレコード産業がラジオ産業の2.6倍。世界では逆にラジオ産業の方がレコード産業の2倍近い。
そのなかでも、Pandoraはこの世界で寡占率70%。アメリカでは規模的に、Pandoraひとつで米三大メジャーレーベルを超える。
どうしてPandoraにそんなに人気があるのかというと、「100人以上のプロミュージシャンたちが集まって創り上げたPandoraの楽曲レコメンデーション・エンジン、「ミュージックゲノム」は、一人一人のこころの琴線に触れる形で、絶妙なDJをする音楽放送を実現した」ことにあるらしい。
Pandoraを試聴してみようとしたら、日本からは聴けないことになっていた。


今日の日経デジタルで見たのは、スマホアプリ、日本が支出世界一 1本当たり540円というニュース。
「ゲームをはじめとするスマートフォン(スマホ)などのアプリ(応用ソフト)に日本の消費者が費やすお金が海外各国よりも多い」。
私は携帯にもスマホにも興味はないので、どんなアプリが人気があるのかよくわからないけれど、通信費用にアプリ購入費用が加わると、CDとか他の趣味ものに使う金額がだんだん減っていくんだろう。

【新譜情報】 スティーブン・ハフ 『In the Night』
スティーブン・ハフのリサイタル・アルバム(コンセプト・アルバム)シリーズの最新作は『In the Night』(夜に)。
Hyperionのウェブサイト情報では、2014年5月リリース予定。

<収録曲>
シューマン:幻想小曲集より『夜に』 Op.12-5
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2『月光』
ショパン:夜想曲第7番嬰ハ短調 Op.27-1
ショパン:夜想曲第8番変ニ長調 Op.27-2
ハフ:ピアノ・ソナタ第2番『夜の光』
シューマン:謝肉祭 Op.9
(2013年5月9,10日、セッション録音)


In the NightIn the Night
(2014/05)
Stephen Hough

試聴ファイル(Hyperion)
発売予定:HMVが3/31、Towerrecordが4/20。Hyperionの発売予定が5月なので、(いつものことながら)HMVは発売延期になると思う。
amazonはまだCD情報の記載がない(3/18現在)


このアルバムの選曲は、演奏時間の半分以上が(好きではない)シューマンとショパン。
前作『French Album』ほどには、魅かれる選曲ではなかったけれど、試聴してみると、意外なことに、シューマンの《夜に》《謝肉祭》がもたれずに自然に聴ける。(”夜”というコンセプトアルバムに《謝肉祭》が入っている理由ガわからないけど)
いつもは情念過剰気味で苦手なシューマンが、ハフの演奏では、独特の感情が激しく浮き沈みする情緒不安定さがかなり抑えられて、全体的にクールでさっぱりとした叙情感を感じる。
特に、誰の演奏を聴いても好きになれない《謝肉祭》が、全く抵抗なくすっと聴けてしまう。

これは、随分古い1988年の”Carnegie Hall Steinway Celebrations concert”のライブ映像。
Stephen Hough Plays Schumann (Replique from Carnaval, Op. 9 by Robert Schumann)


逆に、好きなベートーヴェンの《月光ソナタ》は、かなりクール&モダンな「月光」のように聴こえる。

珍しいのは、ハフの自作自演の《ピアノ・ソナタ第2番「夜の光」》
Youtubeのライブ音源を聴いてみると、私にはちょっとフリージャズ風に聴こえ、ブリテンのピアノ曲の持つ雰囲気に似たものも感じる。
それに、ずっ~と昔、ソニーのトリニトロンか何かのコマーシャルで使われていたCM曲をなぜか思い出した。
曲自体はわりと聴きやすい現代曲。
右手の高音が、夜にまたたく様々な光のように冷たく煌いて、滴り落ちる水滴や打ち寄せる波のような動きで交錯する。
かなり似たパッセージが何度も出てきて、構成が把握できていないせいか、最初聴いたときは16分あまりの演奏時間が少し長く感じたけれど、構成は気にせずに音の流れに沿って聴いていくと、これはかなり面白く聴ける。

Stephen Hough performs Sonata no. 2 (notturna luminoso)



収録曲名だけ見たときは、あまりCDを聴きたい気がしなかったけれど、いろいろ試聴してみるとかなり良い感触なので、結局、Towerrecordで予約注文しました。

tag : スティーヴン・ハフ シューマン ベートーヴェン ショパン

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リストの葬送曲
”葬送”が曲名になっているピアノ曲で一番ポピュラーなのは、たぶんショパンの「葬送行進曲」(《ピアノ・ソナタ第2番第3楽章》)。
次に、ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第12番》。第3楽章が「葬送行進曲」なので、別名《葬送ソナタ》。
それに、リストの《詩的で宗教的な調べ》の第7曲「葬送」。
すぐに思い浮かんでくるのはこの3曲。リストの「葬送」は、ショパンやベートーヴェンほどには有名ではないと思うけど。


《詩的で宗教的な調べ》第7曲「葬送/Funérailles」(S173/7)(1853年)
10曲で構成されている《詩的で宗教的な調べ》では、第3曲「孤独の中の神の祝福」とこの「葬送」が有名で、単独で録音されているのをよく見かける。
「孤独の中の神の祝福」はアラウの1969年録音を初めて聴いて以来、これが私の定番。
「葬送」を初めて聴いたのは、カッチェンのモノラル録音。
特に好きな曲というわけではなかったけれど、昨年末にカッチェンの来日ライブ録音を聴いていると、(好みが変わったせいか)私が好きなタイプの曲だった。


ピティナの作品解説によると、「1849年10月オーストリアのメッテルニヒによる反動政策に反抗して失敗し、処刑された祖国ハンガリーのリストの友人たち、リヒノフスキー侯、テレキー男爵、バッティヤニー伯爵に対する追悼の念がこめられた作品だとされる。(その月の17日に亡くなったショパンへの追悼の念がこめられている、とされる説もある。)」。

冒頭序奏部分は、葬列の行進のような冒頭がオドロオドロしい。
ここは弔いの鐘を模したらしく、かなり印象に強く残る旋律なので、頭のなかでリピートしてしまう。
徐々に上行していくところは、ちょっと回転性があって、くらくら眩暈するような感覚。
序奏部分が終わると、静かに回想するような沈痛で陰鬱な主題が現れ、さらに、哀切感で詩情豊かな旋律に変わる。
ここは「孤独の中の神の祝福」を連想させるように詩的で綺麗。

中間部になると、左手がオクターブ伴奏になり、行進曲のような旋律。
まるで、ショパンの《英雄ポロネーズ》のようなヒロイックな雰囲気がする。(ショパンの追悼曲といわれても違和感がない)
再び、冒頭の主題が力強いフォルテで再現されて、痛惜さが一層強く。再び「孤独の中の神の祝福」のような旋律と英雄ポロネーズ風の旋律が順番に回想されて、エンディング。
曲想がかなり違う部分が次々に移り変わっていくところは、《死の舞踏》みたいに絵巻物を見ているよう。


カッチェンの録音は、Decca盤1953年モノラル録音と最近リリースされた『TBS Vintage Classics初来日公演ライヴ(1954年)』の2種類。

ムソルグスキー:展覧会の絵ムソルグスキー:展覧会の絵
(2004/10/27)
カッチェン(ジュリアス)

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輸入盤あり

TBS Vintage Classsic ショパン:幻想即興曲他TBS Vintage Classsic ショパン:幻想即興曲他
(2013/11/13)
カッチェン(ジュリアス)

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これはスタジオ録音の音源。左手のフォルテは量感・力感豊かで力強く、オドロオドロしさが増している。
モノラル録音のせいか、残響の少なめのゴツゴツとした音が、かえって葬送の厳粛さに合っているのかも。

Liszt - Funérailles (Julius Katchen)



リストの作品一覧を調べてみると、他にも”葬送曲”を数曲書いている。

《巡礼の年 第3年》第6曲「葬送行進曲/Marche funèbre」(S163/6)(1867年)。(ピティナの作品解説
1867年6月19 日に処刑されたメキシコ皇帝マクシミリアン1世の追悼曲。

《巡礼の年 第3年》の収録曲では、単独でよく演奏される「エステ荘の噴水」だけはよく聴くけれど、全巻通してしっかり聴いていないので、「葬送行進曲」の方は覚えていなかった。
晩年に書かれた曲なので、1853年の「葬送」のようなわかりやすさは少なく、陰鬱さが一層増しているし、中間部の緩徐部分は音が少なく、ぼそっと呟くような単線的な旋律がとても内省的。

Liszt - Années de pèlerinage - III - 6. Marche funèbre




《モショーニの葬送/Mosonyis Grabgeleit》(S.194)(1870年)
Youtubeの音源に記載されている作品解説によると、《モショーニの葬送》は、1870年に逝去したモショーニへの追悼曲。
モショーニ(Mihály Mosonyi) は、19世紀ハンガリーの著名な作曲家の一人で、リストに対して好意的だったらしい。
作曲から数年後、この曲は、《The final movement of the Hungarian Historical Portraits/ハンガリーの歴史的肖像》のなかの第7曲「Michael Mosonyi/モショーニ・ミハーイ」でも使われている。
2つの曲が唯一違う点は、短いコラール風のコーダの部分。結末を強調するために、《Portraits》ではいくつかの要素をリピートしている、とのこと。

《モショーニの葬送》でも、リストが書いた他の葬送曲を連想されるような旋律が出てくるし、構成も似ている。
厳しい主題と再現部とは対照的で、中間部の緩徐部分が詩的で美しい。
最後は、モショーニが安らかに眠りにつくのを祈るように、鐘の音を鳴らすような和音で美しく終わる。

Liszt - Mosonyi's Funeral Procession


《モショーニの葬送》は、リストの全集版以外で録音されることは少ないらしく、探してみるとブレンデルの『リスト後期ピアノ作品集』に録音あり。
「リスト:後期Pf作品集」巡礼の年第3年~2,4,5番,忘れられたワルツ1番,モショーニの葬送,他「リスト:後期Pf作品集」巡礼の年第3年~2,4,5番,忘れられたワルツ1番,モショーニの葬送,他
(1980/01/01)
A.ブレンデル(pf)

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《葬送前奏曲と葬送行進曲/Trauervorspiel und Trauermarsch》(S.206)(1886年)
この曲は、今まで曲名を見たことも聴いたこともなく。
音源を探してみると、Trauervorspiel(S.206/1)、Trauermarsch(S.206/2)は、続けて一緒に演奏されるものらしい。
リストの”葬送曲”のなかでは、最晩年に書かれた曲。
《葬送前奏曲》は、1853年に書かれた「葬送」(S173/7)の序奏部分を変形したような旋律で始まり、最後は鐘が打ち鳴らされるように低音部を連打。
続いて演奏される《葬送行進曲》部分は、最初はゆったりとした足取りで、何か(死神?)がヒタヒタと近づいてくるような不気味さ。
それから、アッチェレランドしてそのまま展開していくのかと思ったら、テンポが急変してスローダウンして、音がまばらで静寂なピアニッシモになったり。
最後は、左手低音部のオクターブが連打され、右手旋律は半休止したような中ずり状態で終わったかのよう。
他の曲とは違って、結局、救いが訪れたのかどうかわからないような感じ。

いくつか音源を聴いてみると、カツァリスのライブ録音はテンポ設定が絶妙で緩急のコントラストが強く、曲想の変化がくっきり鮮やかに浮かび上がってくる。

Liszt - Trauervorspiel - Cyprien Katsaris - Live in Vredenburg,Utrecht,Netherlands(+-1983)


Liszt - Trauermarsch - Cyprien Katsaris - Vredenburg live +- 1983


カツァリスの2011年スタジオ録音(↑のライブ録音とは異なる音源)
Katsaris Plays Liszt Vol. 1Katsaris Plays Liszt Vol. 1
(2011/01/10)
シプリアン・カツァリス

試聴ファイル


tag : フランツ・リスト カッチェン カツァリス

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大豆製品摂取による甲状腺機能への影響
ネット上の医療情報(医療専門家や個人)を探すと、”大豆製品を多量に長期間食べると、甲状腺機能低下や甲状腺腫を発症させる”と言う情報が結構多い。

”○○を摂取すれば、健康に良い/悪い”という情報はネット上には山ほどありが玉石混交。
そのなかで(動物実験ではなく)人間の臨床実験データで科学的に証明された信頼性の高いものは少ない。

文献を調べてみると、少なくとも、
1)大豆の中には抗甲状腺作用があるといわれている成分がある
2)甲状腺機能低下症患者については、大豆製品の大量摂取は避けるべき
という点は事実だと思える。

大豆の発酵食品(味噌、納豆、醤油)は、(少量であれば?)甲状腺機能低下をもたらすことはないという説もある。
健常者への影響については、「健常者甲状腺機能への大豆の効果 ―大豆投与実験―」という、1990年発表の古い医学論文で、1日30gの酢大豆を3ヶ月摂取した場合、甲状腺の腫大と甲状腺機能が軽度抑制が見られた..という臨床試験結果がある。

ということは、豆腐、厚揚げ、おから、豆乳、きな粉、大豆原料のお菓子などを長期的に大量摂取すると、甲状腺機能に深刻な問題が発生するのだろうか?
大豆30gは、それほど大量というわけではないので、普段豆腐を半丁くらい食べていれば、該当してしまいそう。
調べてみると、大豆30gというと、おおよそ豆腐100g相当。
※農水省のウェブサイト「大豆のまめ知識」によると、豆腐一丁を300gとすると、77~90gくらいの大豆が必要。

豆腐100gなら、毎日食べている人もいるだろうし、高野豆腐、大豆水煮、がんもどき、厚揚げ、納豆、味噌などの大豆製品を合わせれば、大豆製品好きの日本人なら軽くオーバーする。
でも、日本人に、甲状腺機能の低下や、甲状腺機能低下症が多いという話は聞いたことがない。(単に私が知らないだけ?)
日本人は昆布などヨウ素含有食品の摂取が多いので、大豆の悪影響を中和しているいう説もある。

糖質制限食で有名な江部江部康二医師のブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」の「甲状腺機能低下症などについて」という記事では、甲状腺機能低下症の原因を列挙した上で、「食事療法で甲状腺機能低下症を起こすことは、そもそもあり得ないのです。」と書かれている。この場合は、(ただし、「海草(ヨード)の取りすぎによる甲状腺機能低下症」はあり得る。)

私の場合は、毎日、未発酵の大豆製品を合わせて100g以上(豆腐、おから、きな粉(100g)、たまに豆乳)は確実に食べている。”大量摂取”に該当するのは間違いない。
健康診断では、甲状腺機能に異常があると言われたことはないけれど、普通の健康診断ではチェックできない機能なのかも。
甲状腺への影響について気になるところはあっても、”健康マニア”ではないので、大豆製品を食べるのを控えようとまでは思わない。

そういえば、最近TVの情報番組で”おからダイエット”が紹介されて、店頭やネットショップで生おから/乾燥おからを購入する人が急増して、ちょっと品薄気味。
大豆製品の継続的大量摂取(個人的には大豆30g相当が”大量”だとは思えないけど)が健康に悪い..という情報を見れば、にわか”おからダイエッター”は少なくなるのかな?


<参考文献・情報>
ダイズ - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
-ダイズを毎日摂取したときに甲状腺ホルモン治療効果が減弱する可能性が示唆されている。T4剤 甲状腺ホルモン、投与量100μg/日) と酢大豆 (10 g/日、2ヶ月以上) を併用した甲状腺機能低下症患者47名 (28~80歳) では、血中T4値、血中甲状腺ホルモンが低下し、甲状腺刺激ホルモンが増加したという報告がある (1992015264) 。
-大豆を長期間多量に摂取すると、甲状腺機能が低下する可能性が示唆されている。健常者37名 (22~76歳) を対象に、酢大豆 30 g/日を1ヶ月または3ヶ月摂取させたところ、いずれも甲状腺ホルモン値に変化はなかったが、甲状腺刺激ホルモンの増加は用量依存的で、甲状腺の腫大が見られ、甲状腺機能が軽度に抑制されたという報告がある (1993044553) 。

健常者甲状腺機能への大豆の効果 ―大豆投与実験―
健常者甲状腺機能への大豆の効果─大豆投与実験─
日本内分泌学会雑誌 67(5): 622 -629 1991/石突吉持他/石突甲状腺研究所(株),愛知医科大学第4内科, 名古屋大学環境医学研究所, SMIブリストル(株)北里バイオケミカルラボラトリー
※大豆が甲状腺に与える影響に関する国内論文で、ネット上の情報がよく引用している。

人間が食べる大豆は発酵したものに限る [Natural News Network]
「大豆には、ゴイトロゲンが豊富である。この物質は、甲状腺腫を形成するだけでなく、甲状腺ホルモンの生成を妨害することもありうる。」

大豆は本当に健康食?[kanaの栄養ノート]

<関連記事>
きな粉に関するトピックス ~ 活用レシピ、イソフラボン&グルタミン酸

クラシック音楽史に残る有名な詐欺事件
件の代作騒動で思い出した過去の詐欺事件は、「ジョイス・ハット事件」と「架空のピアニスト”ポール・プロコポリス”」。

「ジョイス・ハット事件」は、世界のクラシック音楽史のなかでもかなり有名な詐欺事件。(「ハットー」と記載されることもある)
亡くなった女流ピアニスト、ジョイス・ハットの夫が、他のピアニストたちの録音を無断で編集し、ジョイス・ハットの録音と称して、100枚以上のCDをリリース。
一連の録音を聴いた批評家などからハットは絶賛されたけれど、結局、他のピアニストの録音だとたまたま気がついたリスナーの指摘で、盗作であると発覚。
音源は有名なピアニストのものが多いので、演奏を絶賛した批評家の耳が確かだったとは言えるだろうけど、タッチも音質も演奏スタイルも違うピアニストたちの録音を使っていたので、一人のピアニストが弾いているにしては変だと思わなかったのかな?という気がしないでもない。
「現存する最高のピアニスト」という評価もあったそうなので、批評家やリスナーは、”様式や作風の違いに応じて奏法や表現を見事に変えられる素晴らしいピアニスト”だと思ったのではなかろうかと。

「ジョイス・ハット事件」の詳しい顛末はこちらのブログで。
ジョイス・ハットー事件続報[書き散らしの日々]
ジョイス・ハットーのCD録音はニセモノ!?[「おかか1968」ダイアリー~いっそブルレスケ~]


「ポール・プロコポリス」は、サーガレーベルがでっちあげた幽霊ピアニスト。
サーガレーベルが保有している音源をピアニストに無断で使って、架空のピアニスト「ポール・プロコポリス」の録音として発売したもの。
ミッチさんのブログ<フランツ・リストに花束を>の記事「セルジオ・フィオレンティーノのサーガ録音」で紹介されていたので知りました。

当時サーガレーベルに在籍し、ポール・プロコポリスの録音を捏造したRobin O'Connorという人がその経緯を語っている。
SAGA REMEMBERED by Robin O'Connor[musicweb-international.com]

この記事によると、サーガのManaging DirectorであるMarcel Roddが、コンピレーションのピアノ曲集を制作するという企画を思いつき、'Best Loved Gems of Piano Music'というアルバムを制作。
同社の保有音源からショパン、リスト、ラフマニノフなど目ぼしい曲をピックアップ。
マーケティング上の観点から、一人のピアニストが弾いたことにするため、”ポール・プロコポリス”という(架空の)ピアニストが誕生。プロフィールも捏造。
若い頃のセルジオ・フィオレンティーノの録音も無断で使われている。
(注)プロコポリスのファースト・ネームは、日本語Wikipediaでは「マルセル」とあるのは誤り。英文記事と英文Wikipediaでは「ポール」となっている。

松村禎三/ギリシヤに寄せる二つの子守唄,巡礼
もともと寡作な松村禎三の作品のなかでも、ピアノ独奏曲は数少なく、録音が残っているのは、《ギリシヤに寄せる二つの子守唄》と《巡礼 I、II ~ ピアノのための ~》。

1969年の若い頃に書かれた《ギリシヤに寄せる二つの子守唄》は、交響曲やピアノ協奏曲を書いた人と思えない透明感のある美しい作品。
まるでギリシャ彫刻のように端正で気品がある。

『松村禎三 作曲家の言葉』の作曲者自身の解説では、Ⅰの冒頭で使われている旋律は、古代ギリシャの旋律。
それに触発されて、行ったことのないエーゲ海の、風光豊かであろう午後を夢見ながら書き、2曲目はギリシャの旋律とは関係ない。
この曲は、在来の日本にある子守りが唄う唄といった発想ではなく、作曲者なりの”揺籃歌”。


Teizo Matsumura: Deux Berceuses à la grèce (1969)



晩年の1999年の作品《巡礼 I、II ~ ピアノのための ~》は、《ギリシヤに寄せる二つの子守唄》とは随分作風が変わっている。
『作曲家の言葉』の解説では、「一曲目はレント・アッサイ。ところどころ停滞する不規則な拍節で始まる。”雪の峡 初心の日輪 顕ちにけり”という上田五千石の句がイメージとしてあった。二曲目は短い導入部のあと、和賛の音階によるモティーフを繰り返し、その上に即興的な変奏がなされている。最後に一極目の冒頭を回想して終わる」。

冒頭の左手のオスティナートで伴奏されている主題は、どこかで聴いたことがあるような旋律。(何の曲だったか思い出せない)
《巡礼》というタイトルのごとく、冒頭の静寂な雰囲気はとても内省的。(最初はキリスト教的なものをイメージしたのかと思ったけれど、作曲者の解説を読むと、そうではなかった)
ゆったりとしたテンポでも、張りつめた緊張感が漂っている。
問いや不安といったもやもやしたものが、徐々に大きくなって葛藤が激しくなり、曲の終盤へ向けて徐々に盛り上がって、フォルテで激しく揺れ動くところがドラマティック。
「問い」に対する「答え」を見つけたときの高揚や浄化された精神的なものなのかも。
最後は、激しい荒波が引いて、凪のように冒頭の静寂さと旋律へと回帰。
この曲は意外と私が好きなタイプの曲。調性や雰囲気が違うのに、左手のオクターブのオスティナートとか、高揚する終盤とかを聴いていると、なぜかリストの《伝説》第2曲「波を渡るパオラの聖フランチェスコ」を思い出した。


MATSUMURA Teizo : Pilgrimage for piano I, II (1999)





《ギリシヤに寄せる二つの子守唄》の収録CDは数種類。
松村禎三作品集『松村禎三の世界』は、録音の少ない作品もいろいろ収録されていて価格も手頃。これはそのうち聴きたいな。

松村禎三の世界松村禎三の世界
(2007/09/05)
オムニバス

商品詳細を見る


《巡礼》の収録CDは1種類のみ。
松村禎三~巡礼~松村禎三~巡礼~
(2003/10/03)
渡邉康雄

商品詳細を見る




『松村禎三 作曲家の言葉』に、松村禎三が発表した文章が纏められている。
松村自身の作曲理論・作曲論と作品解説、音楽論、知己の作曲者・演奏者、趣味の俳句、映画などに関する小論・随筆が、7つのテーマに分けて掲載されている。

松村禎三 作曲家の言葉松村禎三 作曲家の言葉
(2012/07/27)
アプサラス

商品詳細を見る


tag : 松村禎三

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【新譜情報】ジュリアス・カッチェン/ベルリン録音集(1962年、1964年)
このCDに関する最近記事:『ジュリアス・カッチェン ベルリン録音集1962年&1964年』(audite盤)[2014/4/15]
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昨年12月にリリースされた1954年の来日公演ライブ録音に続いて、ジュリアス・カッチェンの初出音源が4月20日に発売予定。
ここ数年、カッチェンのライブ録音や既存録音の再発売が次々と出ているけれど、今回の音源はベルリンで録音した放送用セッション録音。録音時間が110分あまりの2枚組。
ライブ録音を除ければ、カッチェンのセッション録音は専属契約していたDecca録音しかなかったはずなので、これは珍しくて貴重。

この新譜のジャケット写真は、今まで見たことがないポートレート。
カッチェンのCDジャケットは、斜め後姿や青年時代の写真の使い回しが多かったので、この写真はちょっと厳しい顔つきが精悍。

ジュリアス・カッチェン/ベルリンでの放送用セッション録音集1962、64~リスト、ブラームス、ベートーヴェン、シューマン、ショパン(2CD)ジュリアス・カッチェン/ベルリンでの放送用セッション録音集1962、64~リスト、ブラームス、ベートーヴェン、シューマン、ショパン(2CD)
(2014年4月20日)
Julius Katchen

試聴ファイル(試聴可能。MP3ダウンロードは3/14発売開始)

3/5日現在、HMV,Towerrecordでは予約受付中。
AmazonではMP3ダウンロードが3/14発売予定。CD情報はないけれど、そのうち出て来るはず。
HMVの紹介文に一部間違いあり。ショパンの《バラード第3番》と《子守歌》について、「ディスコグラフィ初となる」と記載しているけれど、実際はスタジオ/ライブ録音がある。

収録曲もバラエティ豊か。
ブラームス作品は、昔から定番のDecca盤「ブラームス作品全集」のスタジオ録音がある。
ショパンの《バラード第3番》も1950年代のDecca録音あり。
それ以外は、スタジオ・ライブとも初録音、または、ライブ録音はあってもスタジオ録音としては初録音。
Audite盤は1960年代前半の録音で、放送用音源をリマスタリングしたもの。

ブラームスは初期の《スケルツォ》と後期小品集から数曲。(先頭番号は収録曲の順番)
2. ブラームス:幻想曲集 Op.116(奇想曲二短調/間奏曲イ短調/奇想曲ト短調/間奏曲ホ長調/間奏曲ホ短調/間奏曲ホ長調/奇想曲二短調)
3. ブラームス:6つの小品 Op.118より(間奏曲イ長調/ロマンス ヘ長調)
4. ブラームス:スケルツォ 変ホ短調 Op.4


初録音は3曲。
1. リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
6. ベートーヴェン:ロンド・ア・カプリッチョ ト長調 Op.129『失くした小銭への怒り』
8. ショパン:夜想曲第2番変ホ長調 Op.9-2、第8番変ニ長調 Op.27-2

既存のライブ録音/スタジオ録音がある曲。
5. ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲ハ短調 WoO.80 → ライブ録音(1962年,DOREMI盤)
7. シューマン:森の情景 Op.82より『予言の鳥』→ ライブ録音(1958年,ICA盤)
9. ショパン:バラード第3番変イ長調 Op.47 →スタジオ録音(1954年?,Decca盤)、ライブ録音(1965年,ICA盤)、来日公演ライブ録音(1954年,ユニバーサル盤)
11. ショパン:子守歌 変ニ長調 Op.57 → 来日公演ライブ録音(同上)


試聴ファイルで聴くと、ちょっとマットで若干金属的なエコーがかかったような音がするけれど、音が細部までくっきりと明瞭なので、モノラル録音にしては聴きやすい。
冒頭部分だけしか聴けないので、早く全曲聴きたくなってしまう。
時間があれば、Decca盤のスタジオ録音と聴き比べてみよう。

ブラームスのピアノ小品Op.118-2の冒頭部分を聴いてみると、スタジオ録音よりもルバートやテンポの揺れがやや緩やかで少し落ち着いた感じ。この演奏もいいなあ~。
ベートーヴェンの《Rondo a capriccio》も速いテンポでちょっと可愛らしくて面白いし、《32の変奏曲》はライブ録音よりも音質がずっと良くて、臨場感充分。
俗っぽい気がしてあまり好きではないショパンの《Nocturne, Op.9-2》でも、やっぱり甘~いのは甘いのだけど、感傷的なもたれを感じなくて、素敵な曲に聴こえる。


tag : カッチェン

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徳山美奈子/ムジカ・ナラ -ピアノのために-
徳山美奈子作曲《ムジカ・ナラ -ピアノのために-》は、第6回&第7回の浜松国際ピアノコンクールで、2次予選の課題曲となった曲。
第2次予選と予選に進めなかった参加者の合計80名近くが演奏したという。
演奏者の感想は、楽しんで弾けた、レパートリーにしたい、など好評だったそうで、実際、国外でも演奏されることがあるらしい。

作曲者自身は、「私は若いからこそ弾けるリズムや疾走感、ユーモア、ロックやジャズなどの要素もとり入れました。」とコメントしている。
奈良出身の作曲家らしく、世界的に有名な”奈良”をテーマに、前半は西洋の調性音楽をベースに、筝曲の和風情緒豊かな旋律(外国人にはエキゾティズムなのだろうけど)、曲後半はジャズ風に変わって、聴きやすくて、楽しんで弾ける曲。


M.Tokuyama Musica Nara for Piano (Misuzu Fujita,pf)


作曲家・徳山美奈子ホームページ(プロフィール)

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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