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米国Amazonの最先端物流センター
いつもは市川の配送センターから発送されるamazonの注文品が、今回は堺からの発送。
堺に配送センターがあるのは知らなかったので、他にどこにあるのか調べていたら、米国Amazonの最先端物流センターの映像を見つけた。
2014年12月にamazonが公開した映像で、ロボットを導入して自動化が進んだ「第8世代」の物流センター。
まるで近未来SF映画を見ているみたい。
人間が全然いないな~と思ったら、ロボットたちが注文された商品が格納されている棚を人間のいるところまで運んでくれる。
ロボットが導入されていないamazonの従来型物流センターでは、人間が広い倉庫を駆けずり回って、目的の品をピックアップするので、それと比べると労働量(1日に歩く距離)は激減しているに違いない。

Amazon Unveils its Eighth Generation Fulfillment Center [via BusinessWire]


この動画が載っていた記事。
Amazonの配送センターが凄いことになっている[2014年12月4日,FUTURUS(フトゥールス) ]

この最先端物流センターに関する詳しい記事。
アマゾン「ロボット化された最新発送センター」の内部を公開(動画あり)
最新型発送センターに導入されているのは、「自律型ネットワーク・ロボット」。
米国国内に50カ所ある発送センターのうち、10カ所のセンターでKivaロボットを採用、合計15,000台が稼働中。

米GAP社や米Staples社でも、製品を棚から引き出して発送する作業に採用している。
巨大倉庫で働く「自律型ネットワーク・ロボット」(動画)


発刊当時に読んだ『アマゾン・ドット・コムの光と影』は、amazonの物流センターに採用された著者の潜入ルポ。
細部はよく覚えていないけれど、注文された商品をできるだけ短時間に人間がピッキングしていく労働集約型作業風景が興味深くもあり、注文した本やCDがあれだけ速く発送されるシステムがよくわかった。
日本ではまだロボットが導入されていないのだろうけど、人件費削減と作業効率化のために、人間に代わってロボットたちが働くようになる日も遠くない?

アマゾン・ドット・コムの光と影アマゾン・ドット・コムの光と影
(2005/4/19)
横田増生



文庫版になって、タイトルが『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』に変わり、「第二部 その後のアマゾン・ドット・コム」が追加されている。
潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫) 潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)
(2010/12/7)
横田増生



センターの中を1日に約24km歩くこともあると言われている既存の労働集約型物流センターの作業風景は、英国でもそう変わらない。
「アマゾン物流センターの過酷な労働」BBCが潜入取材(2013年11月26日)

Amazonの配送センターにある「10か条の鉄の掟」。
Amazonの倉庫で働くときの知られざるルール10か条(GigaGINE,2011年11月29日)
1.口紅は使用禁止
2.原則としてガムは禁止
3.飲み物は水のみ許可
4.包装紙やテープを使いすぎないこと
5.のろのろと働かないこと(従業員のワークフローが追跡されているので、どこで(誰で)作業遅延が発生するかすぐチェックできる)
6.病気にかからないこと
7.出勤・退勤の猶予は7分
8.私語は慎むこと
9.時計着用は禁止
10.遅刻厳禁

メンデルスゾーンのピアノ独奏曲
メンデルスゾーンが残したピアノ独奏曲は約200曲。そのなかでは、《無言歌集》が飛びぬけてポピュラー。
昔から《無言歌集》は弾いても聴いても好きになれなかったけれど、他の曲は、ピアノ協奏曲と独奏曲に加えて、ピアノ三重奏曲、交響曲、ヴァイオリン協奏曲、《フィンガルの洞窟》、など、好きな曲が多い。
ピアノ作品で《無言歌集》のほかに比較的有名な曲がいくつか。

ロンド・カプリチオーソ Op.14(1824年)
メンデルスゾーンのピアノ独奏曲のなかでは、《無言歌集》を別にすれば、一番有名。
6分ほどの短い曲のわりに、美しくドラマティックで、かなり弾き映えする。
メンデルスゾーンの曲は、序奏と主要部の2部構成の曲が多い。
ホ長調の序奏は、ゆったりしたテンポで優美なアンダンテ。
続いてのロ短調の主要部は急速なエチュード風。歌うような旋律の長調に頻繁に転調するので、どちらかというと色調は明るい。

シフラの《ロンド・カプリチオーソ》は、とても端正で優美なメンデルスゾーン。
特にロ短調のprestoは速めのテンポながら軽やかなタッチで、ばたばたと騒がしくなることなく、旋律を綺麗に歌わせている。
シフラはもっと派手に弾く人だと思っていたので、ちょっと意外だった。

CZIFFRA Plays Mendelssohn Rondo Capriccioso




厳格な変奏曲 Op.54(1841年)(ピティナの作品解説)
ボンに建立するベートーヴェン記念像の資金調達を目的とする楽譜出版のために書かれた曲。
1835年にフランツ・リストなどが中心となって、ベートーヴェン記念銅像を経てる計画を立てたが、建設資金が不足していたらしく、リストが多額の寄付をしたり、発起人の一人だったシューマンは寄附集めを目的に1838年に《幻想曲》を作曲していた。
1841年にウィーンの出版社メケッティも建設資金調達のため、楽譜集「ベートーヴェン・アルバム」製作を企画。
当時の人気作曲家10人(メンデルスゾーン、ショパン、チェルニー、リストなど)に、アルバムへの作品提供を依頼。
シューマンは『幻想曲』、ショパンは依頼直前に完成していた《前奏曲嬰ハ短調作品45》(24の前奏曲とは別の作品)を提供。
メンデルスゾーンは、新たに《厳格な変奏曲》を書いた。主題、17の変奏、コーダで構成。
変奏曲はほとんど書かなかったメンデルスゾーンが、変奏曲を作曲したのは、変奏曲の名手だったベートーヴェンへのオマージュなのかも。
タイトルどおり陰翳が濃く張り詰めたものが漂うシリアスなところは、ベートーヴェンの『自作主題による32の変奏曲』を連想する。

この曲を初めて聴いたのは、スティーヴン・ハフのコンセプトアルバム『In Recital』
アルバムには、2007~2008年にかけて、実際のリサイタルで弾いた曲目がスタジオ録音として収録されている。
このライブ音源2008年のリサイタルのもの。

Stephen Hough plays Mendelssohn - LIVE (live recital at the Louvre in 2008)



幻想曲 嬰ヘ短調「スコットランド・ソナタ Op.28(1833年)(ピティナの作品解説)
原題は、 ”Fantasie (Sonate écossaise)”。”écossaisein”とは、フランス語で「Scottish/スコットランドの」という意味。
スコットランド旅行の印象をもとに帰国後まもなく完成。旅行中には交響曲第3番「スコットランド」も着想している。
陰影に富んだロマンティックな曲で、メロディアスな旋律と(特にアルペジオの)ファンタジックな響きが美しい。
第1楽章の叙情的で幻想的な曲想は、スコットランドの陰鬱な気候のように物寂しい。対照的に第2楽章は楽しい旅のスケッチみたいに快活。
第3楽章はフィナーレらしく、荒い波が打ち寄せるように力強く、技巧華やかでとてもピアニスティック。

Murray Perahia - Felix Mendelssohn, Fantasy in F#- ("Scottish Sonata") Op.28




6つの前奏曲とフーガOp.35(1827-1837年)(ピティナの作品解説)
バッハの作品に習って書かれたという6曲の「前奏曲とフーガ」。
短調と長調を交互にして6曲を配置しているので、明暗のコントラストが鮮やか。
《6つの前奏曲とフーガ》のなかで、演奏機会が一番多いのは第1番。(第5番も比較的よく弾かれるらしい。)
ホ短調の第1番のプレリュードは、波が打ち寄せるようなアルペジオに乗せて歌う主旋律が力強く叙情的。
プレリュードはペライアの方がアルペジオが美しく響くけれど、フーガはゼルキンの方が響きが重なり合って荘重でバッハに近い感じがする。

Serkin plays Mendelssohn Prelude & Fugue in E minor, op.35 no.1



私が一番好きなのは、メンデルスゾーンらしい幸福感溢れる変イ長調の第4番。
折り重なっていく響きが、ハープのようでもあり、フォルテピアノのレトロの響きのようにも聴こえて、とても美しい。
曲想と和声の響きが、シューマンの《ペダルフリューゲルのためのカノン形式の練習曲》によく似ている。

Mendelssohn / Annie D'Arco, 1960: Six Preludes and Fugues - Op. 35, No. 4 in A-flat
(動画の英文曲名「No. 5 in F minor」は間違い。正しくは、「No.4 in A-flat」)


tag : メンデルスゾーン シフラ ハフ ペライア ゼルキン

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食事摂取基準(2015年版) ~ コレステロールは摂取目標量を撤廃、たんぱく質は新設
栄養学は、「今日の非常識は明日の常識」の世界。
この言葉の元になったかどうかは定かではないけれど、日清食品の創業者である安藤百福は、「明日になれば、今日の非常識は常識になっている」と言ったという。
それを実証する例は多数あり、最近の一番良い実例が「コレステロール」。

脂質の一種であるコレステロールは、人間のあらゆる細胞を構成する物質で、特に、肝臓、脊髄、脳などに多数含まれている。
血中コレステロールの7~8割は体内で作られるので、食事の影響はもともと少ない。
それに、食事からの摂取量に応じて、体内で作られるコレステロール量が増減して、血液中の量をコントロールする調整機能が人間には備わっているという。

今までは、”脂質の一種であるコレステロールの過剰摂取は動脈硬化を引き起こす”などとして、厚生労働省は食事におけるコレステロールの摂取基準を設定していた。
しかし、今年4月、5年ぶりに改訂した「食事摂取基準」(2015年版)で、実はその基準設定には科学的根拠がなかったとして、規準を撤廃。
5月には、”血中の「悪玉」のコレステロールは心筋梗塞の引き起こす要因”と警告していた動脈硬化学会も、食事で体内のコレステロール値は大きく変わらないと表明。
(日本脂質栄養学会の方は、従来から「数値が高い人はむしろ長生き」と主張している。)

食物由来コレステロールのほとんどは動物性食品に含まれている。
1日食べる卵は1個だけと言われていたり、”低コレステロール”、”コレステロールゼロ”をうたった食品がいろいろ出ていたりするけれど、実際は、食事から摂取するコレステロールは健康には(悪い)影響がないというオチ。


「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書(ファイルリスト)
「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書(概要版)
「各論:脂質」
- 脂質、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸について基準を設定。
- コレステロールの摂取量は低めに抑えることが好ましいものと考えられるものの、目標量を算定するのに十分な科学的根拠が得られなかったため、目標量の算定は控えた。
- ただし、コレステロールは動物性たんぱく質が多く含まれる食品に含まれるため、コレステロール摂取量を制限するとたんぱく質不足を生じ、特に高齢者において低栄養を生じる可能性があるので注意が必要である。


毎日のクリニック:コレステロール値、食事では変わらず 厚労省見解、学会が容認(毎日新聞、2015年05月02日)

「コレステロールの摂り過ぎは悪い」はウソ?市場規模2700億円の治療薬に影響はあるか(東洋経済オンライン、2015年04月23日)
- 日本動脈硬化学会の基準を元に推定すると、49~79歳の男性の約3分の1、女性では約半数もの人が脂質異常症ということになる。(⇒基準がおかしいのでは?)
- LDLコレステロールを下げるために、世界で最も広く使われている薬がスタチン(LDLコレステロール合成阻害剤:クレストール、メバロチン、リピトールなど)。2014年の国内市場規模(推定)で約2700億円。
- スタチンは、世界売上高ランキングで長年にわたってトップを占めていた超大型医薬品。

コレステロール値」の嘘 第1部 理事長を直撃! 「食事制限」はまったく無意味だった(Yahoo!ニュース、週刊現代)
コレステロール値」の嘘 第2部 健康診断の「コレステロール基準値」はこんなにいい加減。 血圧、血糖値に続いて、ここでも(同上)
「コレステロール値」の嘘 第3部 意味のない「コレステロール値」で儲けている人たち 利権になっていた(同上)
- 日本健康・栄養食品協会によると、特定保健用食品の市場規模は約6000億円。そのうちコレステロール値を下げると謳う食品の市場規模は約220億円。製品は、茶、青汁、豆乳、シリアル、マヨネーズ、etc.。


No.072  日本人の食事摂取基準(2015年版)について(田中消化器科クリニック)
2015年版での「耐容上限量」と「目標量」において大きく変更点がまとめられているので、わかりやすい。
- コレステロール:2010年版 750mg(30~49歳男性の値) ⇒ 2015年版 基準値設定なし
- タンパク質:基準を新設。当面目標とすべき摂取量は、摂取エネルギーに対して13~20%。

筋肉を育てるのに必要なエネルギーとタンパク質量は?[岩沢クリニック]
- 日本人の食事摂取基準(2015年版):たんぱく質の目標量は、1日のエネルギー量の13~20%。
- 日本糖尿病学会:標準体重(BMIが22の時の体重)1㎏あたりたんぱく質1.0~1.2gが妥当。

脂肪分は元々摂取量が少なく、コレステロール値も低いので、コレステロールの摂取基準は気にしていないけれど、タンパク質に摂取量の目標値(上限)が新設されたのは、今初めて知った。
報告書では「現時点では、たんぱく質の耐容上限量を設定し得る明確な根拠となる報告は十分には見当たらない。そこで、耐容上限量は設定しないこととした。」と記載されている一方で、「日本人を含む調査によれば、たんぱく質の過剰摂取が糖尿病や心血管疾患の発症リスク増加につながる可能性がある」とも書かれている。

摂取カロリーが1400kcal/日とすれば、タンパク質の目標摂取量は182kcal(約45g)~280kcal(約70g)。
今の食生活では、肉・卵・乳製品はあまり食べなくとも、大豆製品・ナッツ・魚のタンパク質を合わせれば、70gは軽く超えている。
かといって、たんぱく質を減らすとなると、炭水化物か脂肪を増やす必要があり、炭水化物はほどほど・MEC食(肉、卵、チーズ)はわずかという私の食生活では難しい。
今のところ、耐容上限量は設定されていないし、腎臓系の検査値に異常もなく、多量にとっているたんぱく質のおかげで筋肉質になって疲れにくくなったので、無理にたんぱく質を減らすつもりは全然ないのだけど。


<過去記事>:脂肪(コレステロール)は悪くない?

スティーヴン・ハフ ~ グリーグ/抒情小曲集
ハフが《ピアノ協奏曲》に次に録音したグリーグ作品は、ちょっと予想外だった《叙情小曲集》。
ハフの演奏は、全体的にテンポが速めで、タッチは軽やか。
高音はきらきらとオルゴールみたいな煌きと可愛らしさが綺麗。
優しく触れるように(しつこくない)繊細さと硬質の透き通った音色で、さっぱりした叙情感とロマンティシズムが清々しい。

グリーグ:抒情小曲集 スティーヴン・ハフグリーグ:抒情小曲集 スティーヴン・ハフ
(2015年04月10日)
スティーヴン・ハフ

試聴ファイル(hyperion)

<収録曲>
Arietta / アリエッタ Op.12-1
Vuggevise / 子守歌 Op.38-1
Elegi / エレジー Op.38-6
Sommerfugl / 蝶々 Op.43-1
Ensom vandrer / 孤独なさすらい人 Op.43-2
I hjemmet / 故郷で Op.43-3
Småfugl / 小鳥 Op.43-4
Erotikk / 愛の歌 Op.43-5
Til våren / 春に寄す Op.43-6
Valse-impromptu / 即興的なワルツ Op.47-1
Melodi / メロディ Op.47-3
Elegi / エレジー Op.47-7
Trolltog / こびとの行進 Op.54-3
Notturno / 夜想曲 Op.54-4
Klokkeklang / 鐘の音 Op.54-6
Hjemve / 郷愁 Op.57-6
Sylfide / 風の精 Op.62-1
Hjemad / 家路 Op.62-6
Fra ungdomsdagene / 青春の日々から Op.65-1
Salong / サロン Op.65-4
Bryllupsdag på Troldhaugen / トロルドハウゲンの婚礼の日 Op.65-6
Bestemors menuett / おばあさんのメヌエット Op.68-2
For dine fötter / あなたのそばに Op.68-3
Bådnlåt / ゆりかごの歌 Op.68-5
Sommeraften / 夏の夕べ Op.71-2
Småtroll / パック Op.71-3
Efterklang / 回想 Op.71-7
(全27曲、曲順は作品番号順)

Edvard Grieg—Lyric Pieces—Stephen Hough (piano) (hyperion)
(アリエッタ、子守歌、エレジー、蝶々、孤独なさすらい人の冒頭の一部)


似たような曲想の曲が多くて、何度聴いてもどれがどの曲かこんがらがってきたので、曲順ではなくテーマの種類別にわけて聴いてみた。

(歌・メロディ)アリエッタ、エレジー、即興的なワルツ、メロディ、愛の歌、エレジー
(故郷、思い出)故郷で、郷愁、家路、青春の日々から、回想
(人々)孤独なさすらい人、おばあさんのメヌエット、あなたのそばに
(子守歌)子守歌、ゆりかごの歌
(情景)春に寄す、夜想曲、鐘の音、夏の夕べ、トロルドハウゲンの婚礼の日
(民話・妖精、小動物)こびとの行進、風の精、パック、蝶々、小鳥


曲を聴いて曲名がすぐわかるのは、冒頭の「アリエッタ」と最後の「回想」(こっちの方が好き)はもちろん、ノルウェーの情景、民話、妖精、小動物をモチーフにした曲。(「夏の夕べ」だけは全然覚えられない)
好きな曲の「夜想曲」、「あなたのそばに」も大丈夫。
それ以外の曲は、特に好きというわけではないせいか、長調の曲は似たような曲想なので、曲とタイトルを間違えそう。「子守歌」、「ゆりかごの歌」、「故郷で」、「愛の歌」(これも覚えられない曲)とか。
短調の曲なら、曲を聴けば、曲名はだいたいわかる。「孤独なさすらい人」、「エレジー」、「メロディ」、「即興的なワルツ」、「青春の日々」、「郷愁」とか。

冒頭の「アリエッタ」の旋律はとても印象的。完全終止ではなく、途中で途切れたように余韻を残しながら終わる。
最後の「回想」は、ワルツ風に変えたアリエッタの回想。過去の記憶の”回想”と掛け合わせているような。

「子守歌」は、子守歌というよりは、夢のなかの情景。オルゴールみたいにキラキラと輝く高音がとても綺麗。中間部は子守歌らしからぬ短調の旋律で、これも夢の出来事のよう。
「ゆりかごの歌」の方が、子守歌風の旋律。ゆりかごに揺られて、ぐっすり眠る赤ん坊の姿みたい。

とても描写的なのは、生き物や妖精をテーマにした曲。
「蝶々」は、ハフの演奏だと、優雅というよりは、華から華へと忙しそうに飛び移る蝶々のように快活で、躍動的。
「小鳥」も、トリルの音型や音域によって、小鳥が囀ったり、羽ばたくような様子が浮かんでくる。


「こびとの行進」の原題は「トロルの行進」。トロルは北欧の民話に出てくる妖精。
レーゼルはやや遅めのテンポで一歩一歩前進するような力強さがあるのに対して、ハフは速いテンポで切迫感があるので急ぎ足の行進風景みたいに聴こえる。これくらい速いテンポで弾く人が多い。

これはアンスネスのライブ演奏。速いテンポでハフよりもタッチが強め。駆け足で戦場に向かうような慌しさ。
Leif Ove Andsnes - March of the Trolls by Edvard Grieg


くるくると変化する風のごとく、軽妙なリズムが次々と移り変わる「風の精」
「こびとの行進」にちょっと似ている「パック(小妖精)」も、あちこち飛び回って、とっても急がしそう。


優しさに溢れた旋律の「故郷で」

Grieg Lyric Pieces Book III, Op.43 - 3. In my native country (piano:Håkon Austbø)


対照的に、異国で故郷を想う「郷愁」の冒頭旋律は、喪失感や寂しさが漂う。中間部は故郷での楽しい思い出を回想したように快活。
浮き浮きとした気分溢れる「家路」。学校や仕事を終えた帰り道というよりは、異国から帰郷する途上のはやる心と思い出の回想みたい。
「青春の日々から」の哀感と激しさのある短調の旋律は、ほろ苦い青春の思い出。こちれも中間部は長調に転調して、エネルギーに満ち溢れて快活。

どこかで聴いた気がする「エレジー」(Op.47-7)
記憶をたどると、ショパンの《幻想曲》の冒頭の旋律だった。
《幻想曲》のなかで、続いて出てくる旋律が《雪の降るまちを》(中田喜直作曲)の主題にそっくりなので、”雪の降る町を~”という歌詞が頭のなかでエコーしてしまう。

Grieg Lyric Pieces Book IV, Op.47 - 7. Elegie (piano:Håkon Austbø)



グリーグの作品のなかでも、特に有名らしき「春に寄す」
子供の頃に練習したピアノ名曲選に入っていたけれど、全然ピンとこない曲だった。今聴いてもやっぱり似たような印象。

ノクターンはあまり好きではないタイプの曲なのに、「夜想曲」は、なぜかとても気に入ってしまった。
ショパンの夜想曲がどちらかというと人間の感情を歌っているように感じるのと違って、この「夜想曲」は(ノルウェーの)少し温かい夜のしっとりした濃密な空気を感じる。

Edvard Grieg ~ Notturno (Lyric Pieces Op. 54 No. 4) (piano:Leif Ove Andsnes)


どこか遠くで鐘が鳴っているように、静かにリズムを刻む「鐘の音」
明るく希望に満ちた民謡風の楽しげな旋律の「トロルドハウゲンの婚礼の日」
とても可愛らしい「おばあさんのメヌエット」


安らぎと憧れに満ちて、うっとりするようにロマンティックな「あなたのそばに」。この曲はかなり好き。

音源はギレリスの《抒情小曲集》より。写真は(たぶん)ギレリス夫妻。(年恰好からいっても、ギレリスはかなり若いので、愛娘のエレーナではないはず)

Grieg At you Feet Gilels



グリーグの音楽を愛したリヒテルは、モンサンジョンによる伝記『リヒテル』のなかでこう語っている。

「ドヴォルザークの世代のほかの作曲家も、音楽家たちのあいだでもっとよい評判を得るに値するはずです。たとえば、私の格別に好きなグリーグのような人がそうです。グリーグは傑出した作曲家です。ほとんど天才です。アルフレート・ブレンデルはグリーグについて、「家政婦向きの音楽」と言っています。どうか彼に神の憐憫の下らんことを。それに何がグリーグの評価を下げているのか、私にはわかります。じつは美点なのです。それは演奏がとても易しいということです。」

tag : グリーグ スティーヴン・ハフ

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塩の製法とミネラル
<シニフィアン シニフィエ>の高加水パンのレシピでは、ミネラル分が多いと生地が引き締まるので、硬度1550mg/lレベルの「コントレックス」を冷水に混ぜ、マグネシウム・カルシウムの含有量が多い塩「シママース」が使われている。

たしかに、中硬水(硬度300mg/l前後)のエヴィアンを使って高加水パンを焼いてみると、生地がドロドロにならない。
塩の方は、ミネラル分が少ない湖塩を使っていたので、そろそろ塩もなくなりそうだし、ミネラルの多いも塩を買おうかと思い立って、塩について情報収集。
ネット上の情報をいろいろ読んでいると、これが結構面白い。
塩業界は、日本独自の製法であるイオン交換膜方式 vs それ以外の製法..という図式になっているらしい。
どの製法を支持するのかという立場の違いで、製法と製品に対する評価が180℃違う。


<塩の製造方法・製品に関する技術情報>

ミネラル含有量が少ないといわれるイオン膜交換法で製造した塩でも、その他の製法(日本の伝統的製法や海外の大規模な天日塩など)よりもミネラル分が多い製品もある。
※食用塩公正取引協議会で定めている工程用語を見ると、塩の工程と手法の特徴の簡単なポイントがわかる。

塩に関する情報はネット上で多数あるけれど、そのなかで技術情報が豊富なサイトは2つ。
「塩の情報室」
日本塩工業会技術部長で工学博士の尾方昇氏が情報提供者。
日本塩工業会は「イオン交換膜電気透析方式」の塩製造業者団体なので、製品・製法に対する優劣の評価は割り引いて考えるとしても、科学的な客観的事実と技術情報は詳細なので、参考になる情報も多く、読み物としても面白い。

「橋本壽夫のホームページ」
(財)ソルト・サイエンス研究財団専務理事だった橋本壽夫氏が新聞・雑誌などに投稿した記事が多数載っている。
この財団も、塩を専売していた日本たばこ産業が中心となって設立されたので、イオン交換膜製法を支持する立場。
面白かった記事は、東京の消費者生活センターの実験の紹介。(元々の実験データを探したけれど、ネット上では確認できなかった。)
ミネラル含有量が異なる塩を使って食味検査したところ、塩の違いがわからなかったり、ミネラルの少ない塩でも美味しいと思う人が少なくはないこと。
一方で、塩の違いを区別できる人もかなりいるのだから、個人の味覚の感受性や好みの問題がかなりあるのだと思う。
塩の違いによる味への影響は?!
市販塩のキャッチフレーズと成分組成との相関関係は?!-東京都消費生活総合センターの調査結果から-

コンパクトにまとまった塩・にがりの製法と品質に関する論文。
塩の作り方と製品の品質((有)サンエス研究所 代表取締役 工学博士 杉田静雄)[「そるえんす」2004年12月号No.63,公益財団法人ソルト・サイエンス]
塩の作り方とにがりの品質(日本塩工業会理事 緒方昇技術部長)[同上]




<塩の製品表示>

市販されている塩製品の表示は業界自主基準が定められている。

食用塩の表示ルールの改定ポイント解説[食用塩公正取引協議会]
以前から業界内で製法を巡って対立していたらしく、イオン交換膜法で作った塩は極度に精製しているので、ミネラルが少なく品質が悪いとか、身体に良くないとか批判をしていた業者も結構多かった模様。
イオン交換膜法で作っていない塩は、ミネラルたっぷり、自然塩、天然塩...など健康に良い、自然でオーガニックみたいなイメージをアピールした製品が多く、製法の表記もばらばらだったらしい。
平成16年に、公正取引委員会が食塩の表示に関し9社に警告し、その後、業界で製品表示に関する自主ルールを制定。

公正競争規約
1)店頭販売される塩には原材料名と製造方法が表示されます。
2)「自然塩」、「天然塩」という言葉は使えません。
3)ミネラルたっぷり、健康・美容に良いなどの表示は使えません。
4)地名の付いた商品名の場合、その地名以外の場所の原材料を使用したり、違う場所で製造している場合は、「他の場所で原材料が作られている」または「違うところで作られている」旨を商品名と同一視野内に記載しなければなりません。国内の原料(海水)を使用し国内で製造されている製品は「国産塩」と表示できます。
海外の原料(輸入塩)を使用し、国内で製造(原料を一旦溶かして再結晶させた)した商品は、「国内製造」と表示することにしました。
5)6)(省略)
7)この規約を満たした適正表示の会員の商品には「しお公正マーク」が付けられ、消費者をごまかすものではないことを示しています。しかし、食品としての安全性や虚偽表示がないことを保証するものではありません。

東京都でも、「食塩の表示に関する業界自主基準策定に向けた指針」を公表。
- 「自然」「天然」の表示は使用しないこと
- ミネラルによる品質等の優良性を表示しないこと(「ミネラルたっぷり」「ミネラルいっぱい」「ミネラル豊富」「ミネラル
バランスが良い」など)
- 「最高」「究極」などの最上級を示す表示は客観的根拠がなければ使用しないこと
- 無意味な無添加表示はしないこと
- 一括表記枠外に原材料、製法を表記すること
「各業界における表示に関する自主基準の現状と問題点に関する調査報告書」(77~79頁)[東京都生活局]



<塩製品と成分>

塩 各社成分比較表(能登製塩)
日本のメーカー製品は少ないが、輸入塩のデータは多い。

市販食塩の品質(日本調理科学合誌 Vol.32 No.2,1999)
国内で市販されている家庭用の塩67種類の成分比較。

自然塩の研究
市販されている天然塩のリスト。メジャーな製品以外の塩もある。
製品パッケージの画像入りが親切。ミネラル含有量が%表示なので、mg表示に比べて、直感的にわかりにくい。

お塩の選び方[kanaの栄養ノート]
製品数は少ないが、市販の塩のミネラル成分と価格の比較表(単価あり)がわかりやすい。


【カリウム含有量が多い塩】
味の素が販売している「瀬戸のほんじお」(製造:ナイカイ塩業)と、セブンアイプレミアム「にがり塩」は、イオン交換膜で製造した塩なのに、カリウムが異常に多い。
「瀬戸のほんじお」が800mg/100g、「にがり塩」が1000mg/100g。
それ以上にカリウムが多いのは、減塩タイプの塩。味の素「やさしお」、トップバリュ「塩分50%カット 減塩しお」は、100g当たりナトリウム18gくらいと通常のほぼ半分、カリウムは約27~28g(27000~28000mg)。
カリウムが多いのは、減塩目的で添加されているため。

59 食塩の代替として塩化カリウムの利用(広島県ホームページ)
- 食塩と健康との関係は食塩そのものではなくナトリウム(Na)の過剰摂取が問題
- 食塩の一部を塩化カリウムに置き換え,Naの摂取量を少なくする食品がある
- 腎臓が悪くて血圧があがっている人には,カリウムの摂取が制限されている

「塩の情報室」/ユーザーのための塩学入門より)
- カリウムをにがりとして添加した場合は0.3%程度が限界。これ以上のカリウムは固形塩の形で塩化カリウムとして添加することが多い。
- 瀬戸のほんじお、低納塩の場合は、製塩でにがりから副成する塩類を含有させている。

低ナトリウム塩で減塩生活[塩なび.com]
7種類の低ナトリウム塩の試食調査結果が掲載されている。
被験者が6人と少なすぎるのはともかく、塩っ辛いのが好きな人なら、辛味の強いところが美味しく感じるかも。
普通の塩との違いがわからない人もいたので、やっぱり人間の舌はあまり当てにならない。



<パンづくりに使う塩>

パン作りの材料と選び方[allabout]
- パン作りに人気の塩は、「ゲランドの塩(あら塩)」と「シママース」。粉の2%までが使用量の目安。

塩による酵素の影響について(塩のミネラルと硬度と酵素)[アルーチパン教室]
塩の話だけでなく、「製パンの教科書」のカテゴリーに、パン作りに関する知識や理論がたくさん載っている。
知識を増やすだけでなく、実際にパンを作るときに役立つことも多そうだし、読み物としても面白い。

パン製造における優位性[パラダイスプラン]
- パン作りにおけるミネラルの主な働きとして「生地を引き締める」作用をするのは、主にマグネシウム。
- 「雪塩」は結晶中に多くのマグネシウムを含む。 グルテンを引き締め、たんぱく質の分解酵素に作用し、伸展性に富んだ生地になるため、弾力のある焼きあがり。


志賀勝栄『パンの世界 基本から最前線まで』 <第5章 水と塩の役割> 塩は発酵を遅らせる
- 塩はグルテンの網目構造を強化する。塩を入れることで炭酸ガスやアルコールを逃さない強いグルテンになる。
- さらに塩はパンに味をつける。どのパンでも2%程度しか入れない。塩そのものの味にこだわったとしても、パンにいれてしまうと、その影響は微小では。味の面よりミネラルのバランスのほうが重要な気がする。
- 使っているのはベトナムのカンホアの塩。天日製法で作られた塩で、ミネラルが豊富。粒子が粗く、なかなか溶けないという意味では、フランスのブルターニュの塩によく似ている。
- すべてのパンにミネラルが求められているわけではない。ミネラルが入りすぎてもおいしくない。
- 宮古島の雪塩は、18種類のミネラルを含み、含有ミネラルの種類の多さでギネスの認定を受けたという塩。ミネラル分が豊富ですごく体にいい塩。それでパゲットを作ると、ニガリを食べているような味。塩としておいしいかどうかと、パンにしたときにおいしかどうかは、全く別の問題。
- 硬水が発酵を促進するのと同じ理由で、ミネラル入りの塩は発酵を助ける。しかし、その一方で、塩には殺菌作用があるし、水を引き寄せる声質があるので、酵母から水を奪ってしまう。トータルで考えると、発酵を抑制する面の方が強いように思う。
- 中種法では2回目のミキシングまで塩を入れない。最初から塩を入れるストレート法に比べて、発酵がかなり早くなる。
- 塩を入れたパン生地は発酵が進みにくいため、糖分の消費が少ない。生地には糖分が多く残ることになる。皮に焦げ目をつけるのは糖分。きれいな焦げ目をつけるためにも塩は有効。

tag : ホームベーカリー 志賀勝栄

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レーゼル ~ メンデルスゾーン/ピアノ協奏曲第1番
とても珍しいレーゼルのライブ映像を見ることができるのは、ライプチヒのゲヴァンハウスで行った1997年の演奏会。
伴奏はマズア指揮ライプチヒゲヴァントハウス管。旧東ドイツ時代には、この顔合わせで国内外の演奏会でよく協奏曲を演奏していたという。
(ベルリンの壁崩壊後、マズアは1991年から2002年までニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督・指揮者に就任している。)

ロマン派のなかでは、もう一つ有名ではない(と思う)ピアノ協奏曲第1番は、ルドルフ・ゼルキンが得意としていたレパートリー。
レーゼルは、スタジオ録音もライブ録音も残していないので、このライブ映像は貴重。
残念ながら、とても好きな両端楽章のうち、第1楽章だけは演奏せず。
夢見るようなアンダンテの第2楽章は安息感に満ちて美しく、第3楽章は軽快なリズムと流麗な旋律で鍵盤上を駆け回って、とても華やか。
ピアニスティックで躍動的でパッショネイトな第3楽章。
力強いタッチでばたばたと賑やかに弾く人が結構多いけれど、レーゼルはばたつくことなく、粒立ちの良い軽やかなタッチと滑らかなフレージングで品良く爽やか。緩徐部分でも逸ることなく、透明感のある響きと落ち着いた歌い回しが綺麗。
久しぶりに聴いたメンデルスゾーンは、音楽もレーゼルの演奏もとても素敵。

ピアノ協奏曲は、第2楽章(20:37~)と第3楽章(26:34~)のみ。

MENDELSSOHN-MATINEE des Gewandhausorchesters Leipzig, 1997 (0:57 HD)



レーゼルは、急送楽章でも(跳躍の多いパッセージでも)非常に動きの少ない安定した姿勢。
上半身の動きが少なく、スタッカートでもレガートでも、手の甲が低い位置で安定していて、指先の動きも全く無駄なく滑らか。
フォルテでも跳躍でも、肘の位置はほとんど変わらず、手の甲がちょっと上がるくらいで、それでも、芯のある粒立ち良い音で、音量も力感もしっかりあるので、指のコントロール力が凄い。
手指の動きに全く無駄がないので、ミスタッチがほとんどないし、低い位置から打鍵するので上部雑音も少ない。
レーゼルの精密なメカニックと澄んだ音色は、この姿勢と奏法から生まれるのだと映像を見て納得。
6年くらい前の来日リサイタルでワルトシュタインソナタを弾いているライブ映像を見たことがあり、演奏する姿はこの映像と同じだった。たぶん若い頃からこういう姿勢だったに違いない。
奏法は変わっていなくても、新譜の『楽興の時~ピアノ小品集』を聴くと、昔の録音と比べて音の柔らかさや響きの美しさにさらに磨きがかかって、うっとりと聴き惚れるくらいに綺麗。

tag : メンデルスゾーン レーゼル

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メンデルスゾーン/春の歌 (《無言歌集》Op.62 No.6)
メンデルスゾーンの作品は、ロマン派のなかではシューマンやシューベルトよりも好きな曲がずっと多い。
でも、なぜか《無言歌集》は好きになれず、子供時代に何曲もピアノで練習しても(あまり身が入っていなかったけど)、CDを聴いても、それは変わらない。
特に苦手なのが《春の歌》。CDに入っていても、スルーするか、少し聴いてスキップするかなので、最後までしっかり聴いた覚えがない。

ところが、レーゼルの弾くメンデルスゾーンの《春の歌》は、意外にも冒頭から惹きこまれて、すっかり気に入ってしまった。
どうして今までこの曲が好きではなかったんだろう?と思って、久しぶりに他のピアニストの録音をいくつか聴いてみた。

私が持っている《無言歌集》のCDはバレンボイムの録音。今聴き直してみても、(好みの問題として)やはり私には全然合わない。
ピアノで練習するのも嫌だったのに加えて、この《春の歌》が記憶に刷り込まれて、印象が悪かったのかも...。

Barenboim plays Mendelssohn Songs Without Words Op.62 no.6 in A Major - Spring Song



シフはテンポがゆったり(ちょっと重い)。残響がかなり多くて、アルペジオは優雅。(試聴ファイル)


エッシェンバッハのアルペジオの弾き方は、レーゼルにちょっと似ていて品が好くて好きなんだけど、いつものとおり音が沈み込んで行くので、どこか物寂しげ。音が篭っているし、春にしては、暗い...。

Mendelssohn Lieder ohne Worte 無言歌集より (ピアノ:クリストフ.エッシェンバッハ)



田部京子の《春の歌》も優雅。レーゼルに比べると、タッチが強めでちょっと快活。音がクリアでアルペジオの残響が長め。

無言歌 作品62-6 春の歌  メンデルスゾーン.wmv (ピアノ:田部京子)




演奏者が誰かわからない音源。レーゼルよりもテンポが遅く、主旋律のタッチがちょっと硬い。アルペジオは柔らかくて綺麗だけど、音が篭っているし重たい。(一体弾いているのは誰なんだろう?)

Felix Mendelssohn - Song without words, Op. 62 No. 6 "Spring Song" [Complete] (Piano Solo)



聴き比べてみると、軽やかでとろけるように甘く優美なレーゼルのアルペジオは本当に絶品。ピアノというよりは、ハープのような響き。
タッチが脱力しているように柔らかく軽やかで、一つ一つの音がアルペジオの中に溶け込むように積み重なっていく。
曲半ば(1:45~)でアルペジオが連続するところは、花があちこちで咲き乱れているよう。
どんな手指の動きとペダリングをしているだろう? 
(試聴ファイル:6曲目の無言歌集 作品62-6「春の歌」

tag : メンデルスゾーン レーゼル エッシェンバッハ 田部京子 バレンボイム

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ペーター・レーゼル『楽興の時~ピアノ小品集』
予定よりもずっと早く届いたレーゼルの『楽興の時~ピアノ小品集』。
新譜情報が公開されてから、収録曲リストや試聴ファイルを見つけるたびに記事していたので、4回目にしてようやく最後の記事。

選曲と曲順はレーゼル。最初はバロック、次に古典派、最後は現代、それに挟まれているのがロマン派音楽。
いかにも技巧華やかでピアニスティックなのは、レクオーナの《スペイン組曲》くらいという、シンプルな曲が並んでいる。
この選曲でちょっと妙なのは、ロマン派のなかでブラームスの曲が全然入っていないこと。
ブラームスの後期ピアノ曲Op.117-1は、レーゼルのアンコール曲の定番なのに。
もしかして、ブラームスのピアノ作品集の録音計画があるので、この小品集には入れなかったとか?(と勝手に想像して期待している。)

SACDモードで聴かなくても、(録音場所の)ルカ教会のほどよい残響とレーゼルの柔らかなピアノの音色がとても美しい。SACDだともっと綺麗なのかも。
いつものレーゼルと同じように、特別変わった解釈をしたようなところはないのに、今まで何度も聴いてきた曲でも、磨き直してきらきらと輝いた宝石のように、とても新鮮。
AKGのモニター用ヘッドフォンで聴くと、柔らかなタッチで微妙なニュアンスをかもし出す音色と表現の繊細さがよくわかる。
揺るぎ無く精密な打鍵と透明感のある伸びやかな音は、明晰なのに温かく心地良い。
肩の力をすっかり抜いた自然体のような演奏のなかに深みと豊かさを感じるせいか、聴き終わってみると、ピアノ小品集といえども、ベートーヴェンのピアノソナタ集を聴いたときと同じように、ずっしりと心に残る。
不思議なことに、短い曲なのに聴き返すたびに新しく気がついたり、印象がちょっと変わったりする。
何よりも、柔らかい音の響きと自然な流れの音楽に包まれるのがとても心地良くて、いつまでも、何度でも繰り返し聴いてしまう。


楽興の時~ピアノ小品集楽興の時~ピアノ小品集
(2015年06月03日)
ペーター・レーゼル

試聴ファイル(e-onkyo.music)


冒頭のバッハの「ガボット」は、小さなリボンをつけた女の子が踊っているみたいにとっても愛らしい。最初の部分を少し聴いただけで、やっぱりCDを買おう!と直したのだった。

聴くのも練習するのも昔から嫌だったモーツァルトの「トルコ行進曲」
やっぱり最初はとっつき悪かった。でも、第6~8小節1拍目のの複前打音や、第45小節冒頭の2つの8分音符(アクセントとスラーがついている音符)の弾き方がとってもカッコ良かったりして、細かい部分に注意して何度か聴いていたら、結構楽しめてしまった。

大人の深い憂いに満ちたベートーヴェンの「エリーゼのために」
対照的に、軽やかで優しげなタッチで明るく愛らしい「ロンド」
「ロンド」は5分半の曲とはいえ、展開もそれほど単純ではなくて、ベートーヴェンらしいモチーフが次から次へと現われて、まるで凝縮されたソナチネみたい。
レーゼルが弾くベートーヴェンは、ピアノ・ソナタでなくても素晴らしく思うけれど、私の好みから言えば、「エリーゼのために」(もともとあまり好きではないし)よりは、「ロンド」の方がベートーヴェンらしくてレーゼルには似合っているような気がする。

リサイタルではショパンを弾いているのかもしれないけれど、録音は全くない(はず)なので、この「ワルツイ短調」(Op.34-2)が初めてのショパン録音。
レーゼルが弾くと、メロウなショパンとは違い、緩いルバートで微妙にテンポが揺れてももたれることはなく、タッチも明瞭で力強くて、感傷的なところは感じない。ショパンらしいワルツとは違うのかもしれないけれど、明晰でさっぱりした叙情感が爽やか。
レーゼルのショパンなら私にはとっても合いそう。もっといろいろ聴きたいから、いつか録音してくれないかな?


全然好きな曲ではない(なかった)メンデルスゾーンの「春の歌」が、レーゼルが弾くと、蝶が舞うように軽やかで優雅で、とても素敵。
粒立ちが良いのに淀みなく流麗で、(ピラミッドみたいに)積み重なっていくアルペジオの柔らかくてふんわりした響きが、とても優美で品が良い。

グリーグの《抒情小品集》から2曲。
「小人の行進」の原曲名は「トロルの行進」。トロルとは、北欧の伝承に登場する妖精。
Wikipediaの解説によると、「当初は悪意に満ちた毛むくじゃらの巨人として描かれ、それがやがて小さい身長として描かれている。変身能力があるのでどんな姿でも変身できる。どのような存在であるかについては様々な描写があり、一定しない。ただし、鼻や耳が大きく醜いものとして描かれることが多い。」
あのムーミンの本名は、「ムーミントロール」なのだそう。
オバケ?それとも愛の専門家?怖くてかわいい北欧の妖精「トロール」 | キナリノ

ノルウェー人ピアニストのアンスネスやアウストボと比べて、レーゼルはかなり遅めのテンポの「小人の行進」。
冒頭は、一歩一歩踏みしめて行進していくような力強いタッチとリズム感で、かっちりとした揺るぎない構築感がレーゼルらしい。(好みから言えば、もっと速いテンポの方が面白いとは思うけど)
1拍目の装飾音の弾き方が洒落ているというか、ダンディというか、とってもかっこいい。
軍隊みたいにちょっといかつい感じがするので、日本語の曲名だと”トロル”のイメージが違ってくる。
とても優しげな中間部は、ちょっと休憩中?それとも、可愛い妖精に変身したトロル?


《夜想曲》の方は、夜の闇がたちこめて、北欧にしては生暖かい濃密な空気がしっとりと流れているような感覚がする。
ハフの新譜『グリーグ:叙情小曲集』にも収録されている《夜想曲》と比べると、レーゼルの方がゆったりとしたテンポで線のしっかりした響きなので、叙情感が濃厚。総じてハフの演奏の方がロマンティックだと思っているので、これはかなり意外だった。

シューマン『子供の情景』の「トロイメライ」はどこかちょっぴり淋しそうで、「見知らぬ国と人びとから」は少し不安そうに、(私には)感じられるので、内気でおとなしくてこわがりやさんの子供の心象風景みたい。この淋しさと不安さがずっと強いのが、若い頃のエッシェンバッハの『子供の情景』。

レーゼルの《舟歌》には、ロシアの憂愁みたいなねっとりした叙情感がないので、チャイコフスキーが超苦手な私でも、さらりとした哀感が美しく聴こえる。
突如華やかに高揚する中間部は、線香花火のように瞬く間に消えてしまう。再び冒頭の憂いに満ちた旋律が戻ってくるのが、儚い夢のよう。

シューベルトの《即興曲 D935-2》の主題旋律は、別れを告げているかのようにしみじみ。
中間部は、幸福な思い出を万感の思いを込めて回想するように明るく輝やいている。

レーゼルは、旧東ドイツ時代にウェーバーのピアノ協奏曲集を録音している。
どうしてウェーバーを録音したのか不思議だったので調べてみると、ウェーバーは、ザクセンの宮廷楽長に任命されてドレスデン歌劇場でドイツ・オペラの上演を成功させた人。ドレスデンを拠点に作曲家・指揮者・ピアニストとして活躍した。
それに、レーゼルが教授職にあるドレスデン音楽大学の正式名称は、”Hochschule für Musik Carl Maria von Weber Dresden”。
ドレスデンで生まれ育ったレーゼルにとって、ウェーバーは深いゆかりのある作曲家なので、このアルバムでもウェーバーの「舞踏への勧誘」が入っている。
冒頭は「奥様、お手をどうぞ」という如く、ダンスに誘うような雰囲気たっぷりの旋律。
舞曲に入ると、舞踏会でくるくると優雅に舞っているように楽しそうで、高音がきらきら輝いている。
ショパンの「華麗なる大円舞曲」よりも、ずっとしとやかで品が良い。ワルツ自体があまり好きではないのに、このワルツはとっても楽しく聴ける。

初めて聴いたラフマニノフの「楽興の時第5番」
川がゆるやかに流れているように旋律も和声もシンプルで穏やか。(私が聴いたことのあるラフマニノフの音楽とは随分違っている。)

最後の3曲は、普通のピアノ小品集では聴けないちょっとユニークな選曲。
レクオーナのスペイン組曲『アンダルシア』(全6曲)からの2曲。
アルバムの他の曲とは趣きが違って、スペインの異国情緒豊か。(と思ったら、レクオーナはキューバの作曲家だった)
お弟子さんのピアニスト高橋望さんのブログ記事によると、「マラゲーニャ」は、協奏曲の演奏後、レーゼルが弾く定番のアンコール曲。
レクオーナも『アンダルシア』も全然知らなかったのに、「コルドバ」の旋律はなぜか聴き覚えがある。
レクオーナは、ショーや映画のためのポピュラー音楽も多数書いていたので、どこかで似たような曲を聴いたのかも。
2曲ともパッショネイトでダイナミック。どちらかというと、フラメンコみたいな舞曲風の「マラゲーニャ」よりも、主題旋律が駆け抜けるように颯爽としている「コルドバ」の方が私好みかも。

最後に収録されたシチェドリンの《ユーモレスク》
喩えて言えば、ドビュッシー《子供の領分》のスローテンポな「象の子守歌」に、「ゴリウォークのケークウォーク」のユーモラスさを加えて、いくぶん間が抜けた調子。変てこなところが面白い。


最初、収録曲リストをみたときは購買意欲があまり湧かなかったけれど、試聴ファイルを聴いたとたんに気持ちが180度コロッと変わって全曲聴きたくなり、実際にCDで聴くと期待以上に素晴らしい。
このアルバムのなかで、(曲というよりは)演奏として一番惹かれたのは、なぜか予想外のメンデルスゾーン《春の歌》。
この曲は昔から全然好きではないのに(ピアノで練習するのも嫌だった...)、レーゼルの軽やかで柔らかく優美なアルペジオの響きが、妙に私の波長に合ってしまったみたい。
「春の歌」に次いで、グリーグ「小人の行進」、レクオーナ「コルドバ」は、曲自体が私の好みにぴったり。
苦手のチャイコフスキー「舟歌」とショパン「ワルツ」も、意外なことにかなり好き。
いつも長くて最後まで聴けない「舞踏への勧誘」でも、舞踏会の情景が浮かんでくるように華やかで楽しい。
「ガボット」、「ロンド」、「夜想曲」、「即興曲」、「マラゲーニャ」は、何度でも聴ける。
国内盤のSACD(ハイブリッド)仕様なので、少々お高いけれど、ピアノ名曲集を聴くなら、とてもお勧めのアルバム。

<コンサート情報>
N響オーチャード定期 2015-2016シリーズ/第89回「巨匠レーゼルのピアノで聴くベートーヴェンの真髄」
  指揮:ロベルト・トレヴィーノ
  ピアノ:ペーター・レーゼル
  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 op.37
  ブラームス:交響曲第2番ニ長調 op.73
  日時:2016/5/8(日)15:30開演、Bunkamuraオーチャードホールにて。

ピアノ協奏曲の演奏会があるなら、来日中にリサイタルも開く可能性もかなりありそう。
レーゼルの公式ホームページにあるスケジュールには、2016年の予定は未掲載。
2015年は、今のところ来日予定は載っていない。(アジアでは、台北でリサイタル予定)
今年のリサイタルプログラムの一つが、ハイドン(Hob. XVI, 52)、シューベルト(D960)、ベートーヴェン(Op.111)の最後のソナタ3曲というかなりヘビーなプログラム。
そういえば、2007年に30年ぶりに行った来日リサイタルもこの3曲だった。そのリサイタルの演奏があまりに素晴らしかったので、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の演奏会と録音が決まったのだった。

tag : レーゼル メンデルスゾーン シューベルト グリーグ レクオーナ チャイコフスキー

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ハンネス・ミンナール『Bach Inspirations』(2)
CDを見つけてたからすぐに注文したのに、最初の注文は在庫切れ、次の注文は配達までに3週間。結局、1ヶ月待ってようやく届いたミンナールの『Bach Inspirations』。
それだけ待った甲斐もあるくらい、今まで聴いたバッハ編曲集のなかでも、とりわけ素晴らしく思えたものの一つ。

Bach InspirationsBach Inspirations
(2014/02/11)
Hannes Minnaar

試聴ファイル

<収録曲>
J.S.バッハ(リスト編): 前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543
J.S.バッハ(ブゾーニ編): コラール 《目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声》 BWV.645、コラール 《いざ来ませ、異邦人の救い主よ》 BWV.659、コラール 《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》 BWV.734
フランク: 前奏曲, コラールとフーガ M.21
J.S.バッハ(ラフマニノフ編): 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ短調 BWV.1006より
J.S.バッハ(バウアー編): カンタータ第127番 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ》 BWV.127
J.S.バッハ(ヴォーン・ウィリアムズ編): コラール 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.253、コラール前奏曲 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.649
リスト: BACHの主題による幻想曲とフーガ S.529(第2版)
グレインジャー: 陽気な鐘の音 after BWV.208
録音:2013年6月 Westvest90(スキーダム/オランダ)

Gramophone MagazineのEditor's Choiceで、”The recorded piano sound is a real pleasure to hear; the programme is artfully conceived...lastly, every single performance by this 28-year-old Dutch pianist is out of the top drawer.”とコメントされていた。CDを聴けば、それも納得。

Youtubeのライブ演奏やCDの試聴ファイルで聴くよりも、CDの音質が良く、ほどよい残響で柔らかみがあり、透明感と伸びやかさのあるピアノの音がとても綺麗。
一音一音が特に繊細で美しいというのではなく、声部ごとに変えている音色・ソノリティ・強弱の違いがコントラストになって、色彩感豊か。
旋律の横の流れが明瞭で、歌い回しがさりげなく語るような抑揚があり、音楽が立体的に聴こえてくる。
特に鮮やかなのは、対位法を駆使したフーガの演奏。アンデルシェフスキやコロリオフの演奏に劣らないくらい(と私には思える)。
それに、持続音やアクセントをつけた時に、打鍵後の音が混濁することなく綺麗に鳴り続けるのも、とても印象的。
細部の微妙な繊細さに拘ったり情感過剰なところがなく、深遠さや厳粛さとかは少し薄いかも。そこが私には重たくなりすぎなくて、ほどよく抑えられた澄んだ叙情感が爽やか。
演奏としては、やや淡々とした表現がいくぶん地味な気はするけれど、聴けば聴くほど自然で身体に浸み込んでくるような感覚が心地よい。

リスト編曲/前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543
「前奏曲」よりも、清々しく細やかな情感漂う「フーガ」がとても美しい。
ほぼインテンポで複数の声部がさらさらと淀みなく流れて、さっぱりとした叙情感。
劇的に盛り上がるというよりは淡々とした印象なので、最初は(いつも聴いているコロリオフの演奏のように)もう少し重みとコクが欲しく感じたけれど、聴き慣れてしまうと全然気にならない。
逆に、清流のように清々しい叙情感と繊細さがとても爽やかでほどよく思えてくる。
ミンナールの後でコロリオフの演奏を聴くと、いつもとは違って、重厚で情感濃厚に聴こえてきてしまった。

Hannes Minnaar - Bach/Liszt - Prelude and fuga in a



ブゾーニ編曲/《目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声》 BWV.645、《いざ来ませ、異邦人の救い主よ》 BWV.659、《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》 BWV.734
最初の2曲はゆったりしたテンポでも重たくなりすぎずに、落ち着いたトーン。
《いざ来ませ、異邦人の救い主よ BWV.659》は、この曲にしては悲愴感を強く出すという感じではなく、色調もやや明るめで穏やかな印象。

Hannes Minnaar plays Bach-Busoni: Nun komm' der Heiden Heiland, BWV 659


ブゾーニ編曲のコラール前奏曲3曲のなかでは、《いざ喜べ、尊きキリストのともがらよ》の演奏が一番鮮やかで見事。
速いテンポの軽快なタッチでも、3つの声部の色彩感・ソノリティが異なっていて、(1人ではなく、2人が3本の手で弾いているみたいに)それぞれがくっきり独立して立体的。


フランク/前奏曲, コラールとフーガ M.21
高い密度の音がタペストリーのように織り込まれて、深い陰翳と濃厚な情感と神秘的な雰囲気が漂い、ロマンティックというよりも、ずっしりと息詰まるような圧迫感を感じる。フーガの終盤だけ、長調に転調して明るい開放感で終わる。
聴き応えはあるけれど、このアルバムのなかでは、リストと並んで一番重たい曲。
ミンナールのタッチは明瞭な打鍵で音の粒立ちもよく、これだけ多数の音に加えてペダルを使っていても、音がごちゃごちゃと混濁せずに、旋律や和声がくっきりと鮮やかに聴こえてくる。

リヒテルが言うには、最も宗教的な作曲家は、バッハではなくてフランク。「自分の内面に宿る神だ。すべてが主観的であり、かつ他者から隠されている。自分自身がイコン(偶像)なのだ。」(『リヒテルは語る』より)

フランクには、《前奏曲、フーガと変奏曲》(Prélude, Fugue et Variation、Op.18)というオルガン曲集があり、ピアノ編曲版では、バウアー編曲の第3曲ロ短調が有名。《前奏曲, コラールとフーガ》と同様、濃密な叙情感が美しい曲。


ラフマニノフ編曲/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番ホ短調 BWV.1006
軽快が明るい《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番》の3曲(Preludio、Gavotte en Rondeau、Gigue)。
バッハのコラール前奏曲と同じく、多彩なソノリティと声部が立体的に絡みあって、室内楽曲のアンサンブルを聴いているような気がする。


バウアー編曲/カンタータ第127番 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ》 BWV.127
ヴォーン・ウィリアムズ編曲/コラール 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.253、コラール前奏曲 《ああ、われらと共に留まりたまえ、主イエス・キリストよ》 BWV.649

バウアーとヴォーン・ウィリアムズのピアノ編曲版はどれも初めて聴く曲ばかり。
特にバウアーの 《主イエス・キリスト、真の人にして神よ BWV.127》 は、哀感流れるとてもロマンティックな編曲で、とても素敵な曲。
(Youtubeの音源)Bach - Bauer piano scores BWV 127 Die Seele Ruht in Jesu Händen b-flat minor



リスト/BACHの主題による幻想曲とフーガ S.529(第2版)
これも初めて聴いたリストの『BACHの主題による幻想曲とフーガ』。
ワイマール時代に書いたオルガン曲《バッハの名による前奏曲とフーガ》(1955年)を1971年にピアノ用に編曲したもの。
リストらしい華やかな技巧と、陰鬱で厳粛な曲想が融合して、ピアニスティックで荘重華麗な曲。

グレインジャー/陽気な鐘の音 after BWV.208
最後に収録されているのは、『羊は安らかに草をはむ BWV 208』の珍しいグレインジャーによるピアノ編曲版。
有名なのはペトリの編曲で、他にもいくつか編曲版がある。
(ピアノ編曲版の作品解説)BWV 208 カンタータ 第208番 楽しき狩こそわが悦び(狩のカンタータ)[バッハの音楽の曲目データベース]


複数の編曲者による編曲版に、フランクとリストのオリジナル曲が加わって、多彩な選曲。
中盤のフランク《前奏曲とフーガ》、終盤のリスト《BACHの主題による幻想曲とフーガ》は、濃密な音と陰翳で息詰まるような曲なので、集中して聴くには結構気力がいる。
どうやら両曲とも息を詰めて聴いていたらしく、フランクの後のラフマニノフ編曲《無伴奏ヴァイオリンパルティータ》、リストの後のグレインジャー編曲《陽気な鐘の音》は。両曲とも霧が晴れたように明るくて、身体から緊張感が抜けて、ほっと一息。
アルバムの録音時間は75分くらいなのに、CD2枚分くらい聴いた気がする。

tag : バッハ フランク ミンナール リスト ブゾーニ ラフマニノフ グレインジャー バウアー

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ペーター・レーゼル『楽興の時~ピアノ小品集』(試聴ファイルあり)
最新記事:ペーター・レーゼル『楽興の時~ピアノ小品集』(2015.06.09)

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レーゼルの新譜『楽興の時~ピアノ小品集』の試聴ファイルがようやく公開されたので、早速試聴。
収録曲の最後に、聴いたことがないシチェドリンの《ユーモレスク》がなぜか追加されていた。(ボーナストラック代わり?)
ドビュッシーの《子供の領分》みたいにユーモラスなんだけど、ちょっと間抜けなところがヒョウキンというか何と言うか...。

今まで収録曲リストだけ見ていると、あまり買う気が起こらなかったのに、試聴ファイルの最初の1曲を聴いただけで、購買意欲がいたく刺激されてしまった。
レーゼルらしい濁りのないクリアな音は、ほんのりと温かみがあって、柔らかくて優しい。
短調でも、陰翳が暗く深くはないので、抑制のきいた哀感がさらさらと流れる。
甘すぎず・重たすぎず・淡白すぎず、足さない・引かない・余計なことはしないという自然体の如く。
繊細さに耽溺せず明晰でありつつ、ほどよい叙情感と気品が漂っている。
今まで何度も聴いている曲がほとんどだし、ピアニスティックで技巧華やかな曲もあまりないし、特に好きな曲も少ないのに、レーゼルのピアノの音と演奏があまりに魅惑的すぎて、まるで磁石のように音の世界に引き込まれてしまう。
名曲とはいえ技巧華やかなりしところもないシンプルな小品をこれほど聴かせてくれるのは凄い。やはりレーゼルの音と演奏の魔力は恐るべし。
気の変わりやすい私は、もうほとんどCD買う気になっている...。(と書いている間に、さっき注文してしまいました)


楽興の時~ピアノ小品集楽興の時~ピアノ小品集
(2015年06月03日)
ペーター・レーゼル

試聴ファイル(e-onkyo.music)

<収録曲>
● フランス組曲第5番~ガボット ト長調(J.S.バッハ)
● ピアノ・ソナタ K.331~トルコ行進曲(モーツァルト)
● ロンド op.51-1(ベートーヴェン)
● エリーゼのために(ベートーヴェン)
● ワルツ イ短調 op.34-2(ショパン)
● 無言歌集 op.62-6『春の歌』(メンデルスゾーン)
● 抒情小品集 第5集~小人の行進(グリーグ)
● 抒情小品集 第5集~夜想曲(グリーグ)
● 子供の情景 op.15~トロイメライ(シューマン)
● 子供の情景 op.15~見知らぬ国と人びとから(シューマン)
● 四季 op.37a~舟歌(チャイコフスキー)
● ユーモレスクop.10-2(チャイコフスキー)
● 即興曲 変イ長調 D.935-2(シューベルト)
● 楽興の時 ヘ短調 D.780-3(シューベルト)
● 舞踏への勧誘 op.65(ウェーバー)
● 楽興の時 op.16-5(ラフマニノフ)
● スペイン組曲『アンダルシア』~コルドバ(レクオーナ)
● スペイン組曲『アンダルシア』~マラゲーニャ(レクオーナ)
● ユーモレスク(シチェドリン)

<CD紹介文>
「凛と美しい円熟のきわみ
立ち姿の美しい──しかし、穏やかな微笑みにもウィットのひらめく語り口。自然に聴き手を惹きこんでやまない音楽だ。聴いていると身体がふわっとリラックスしながら、耳は心地良く澄んでゆくような‥‥。
ペーター・レーゼルの音楽は、飾らない。しかしそれでいて、なんと豊かな時間が生まれることだろう。凛と美しい円熟のきわみにある芸術家だからこそ可能な、絶妙なシンプル。この透明感とあたたかみは、深い知性と情感のバランスに優れた名匠ならではだ。」


試聴しただけでも、本当にこの紹介文どおりの演奏。(的を射た録音評に妙に感心してしまった)
冒頭を聴いて気に入ったのは、
バッハ「ガボット」 : 短調の曲の方が好きなフランス組曲。レーゼルの演奏ならどの曲でも聴けそう。
ベートーヴェン「ロンド」 : ベートーヴェンの小品は、優しさがぽろぽろと零れ落ちてくる。
ショパン「ワルツ」 : 珍しいレーゼルのショパン。ワルツ集は演奏者(アンダとハフ)によっては好き。
グリーグ「小人の行進、夜想曲」 : ハフのスタイリッシュで現代的な演奏とはちょっと違った味わい。
メンデルスゾーン「春の歌」 : バタバタして落ち着きなく聴こえるのでいつもは聴かない。レーゼルの優雅な演奏だと雰囲気が違って、これは素敵。
チャイコフスキー「舟歌」 : チャイコフスキーはどんよりした憂愁漂うのでほとんど合わない。レーゼルの演奏なら聴けそう。
シューベルト「即興曲」 : このアルバムのなかで一番心魅かれる演奏。曲としては、D899-3と同じくらいに好き。
レクオーナ「スペイン組曲」 : パッショネイトな曲自体が好き。珍しい曲だけど、レーゼルの選曲が良かった。
シチェドリン「ユーモレスク」 : なんだか間が抜けている(ように聴こえる)ところが面白い。これを最後に持ってきたのが、レーゼルのユーモア。

tag : レーゼル

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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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