2018.05.28 18:00| ・ お料理全般・食材
初めて買った紫キャベツ。ラベルには「レッドキャベツ」を書いてあったけど、黒に近いほど濃い紫。
緑キャベツよりも小さいのにずっしり重いのは、硬くて厚い葉がしっかり巻いている。葉を剥がすのく苦労する。
ほんとに厚くて硬い葉なので、サラダにするときは、細い千切りにしてから、レンジ加熱で少し軟らかくしている。あまり甘みがないので、オリーブオイルのドレッシングをかけないと味気ない。
普通のキャベツみたいに、加熱しても薄っぺらでクタクタにならないので、炒めものに向いている。煮込んでもボリューム感があるので、サラダよりも使いやすい。

紫キャベツ/赤きゃべつ/レッドキャベツ<キャベツの品種

加熱するとアントシアニンの紫色が水分と一緒に流れ出てくるので、キャベツの紫色がグレーぽくなる。ラタトゥイユかカレーに入れれば気にならないし、炒め物でもそれほど変色しない。和風(醤油味や塩味)の煮物や汁物にするとスープ自体が変色するので、使いにくい。

紫色の色素は抗酸化作用が強いアントシアニンは、酸性のものを加えると赤く色が変わり、アルカリ性のものを加えると緑色になるという。
ということは、酸性の酢を使った酢漬け・マリネにすれば、赤くなるのはすぐ思いつく。
でも、アルカリ性の食材というと、重曹かベーキングパウダーを使った蒸しパンくらいしか思いつかない。
調べてみると、緑色に変色させるのに一番簡単なのは、焼きそば。

紫キャベツの反応ですごい色に!緑色の焼きそばの作り方

☆緑の!?紫キャベツ焼きそば

キャベツ自体は紫色のままだけど、キャベツから流れ出した水分にアントシアニンが含まれているので、それと中華麺に含まれている「かん水」が反応したというわけ。
これは理科や自由研究の実験として有名らしく、紫キャベツの焼きそばの情報が山ほど出てくる。

他に緑色に変色する食材としては、卵の白身。普通の卵焼きとかスクランブルエッグだと、アルカリ度が弱くなって緑色にならない気がする。
こんにゃくもアルカリ性だけど、下茹でしてあく抜きしたら、アルカリ性が弱まるはずなので、あまり変色しないかも。


目玉焼きに紫キャベツを載せると白身部分が緑色になった
産卵直後の卵白のpHは約7.5とアルカリ性を示します。また、卵内の二酸化炭素量の減少に伴い pHは上昇し、産卵6日後にはpH約9.5付近に落ち着きます。

やってみよう!秋の実験「きれい!おいしい!カメレオン焼きそばをつくろう」


<おまけ>
☆赤い!?カレーソース焼きそば
2018.05.23 18:00| ♪ スティーヴン・ハフ
試聴した「モスクワの夜」と「もみの木」にいたく魅せられて予約したハフの新譜『Stephen Hough's Dream Album』が早速到着。
アルバムタイトル通り、本当に「夢のアルバム」。ハフのカラフルで煌くような音色が硬軟・緩急の多彩な変化で響きのヴァリエーションも豊か。クリスタルのようなクールでシャープな音から羽毛のように柔らかく優しい音まで曲想に沿って変幻自在に変わっていく。
ハフの切れ味鋭い精緻な技巧は一音一音クリアで音の切れが良く、さらにテンポやタッチの変化も細やかでフレージングも滑らか。清楚で品の良い美しいピアノの音が美しく、しつこくない繊細でロマンティックな叙情溢れるとても素敵な小品集。
試聴した時に好きな曲はもちろん、あまり気に止まらなかった曲でもCDでじっくり聴いてみると、心惹かれる曲がたくさん。ハフが書いた編曲とオリジナル曲も素敵。
爽やかな初夏に聴くよりも、クリスマスのような寒い冬の夜に聴くとほのぼのと暖かさに包まれるようなアルバム。

Debussy: Piano Music『Stephen Hough's Dream Album』
(2018/5/15)
スティーヴン・ハフ

試聴ファイル(hyperion)
※ピアノはYamaha。2016年9月、イギリス・モンマス/ワイアストン・コンサート・ホールでセッション録音。全ての曲にハフの短い数行のコメントがついている。(別人による曲目解説あり)

Stephen Hough's Dream Album - Stephen Hough


ハフ:ラデツキー・ワルツ/Radetzky Waltz(原曲:ヨハン・シュトラウス1世「ラデツキー行進曲」)
元気なマーチの原曲とは違って、軽やかで優雅なワルツがとてもお洒落。(このアルバムにワルツが多いのは、ハフがワルツ好きだから?)

Stephen Hough plays his own "Radetzky Waltz"



ヘンリー・ラヴ=ハフ編曲:古い歌/Das Alte Lied
ユリウス・イッサーリス「イン・ザ・ステップス/In The Steppes」(《子供の頃の思い出 Op.11》より)
この2曲は、曲名は知らなくても、どこかで聴いた気がする。
ユリウス・イッサーリスは、スクリャービンやラフマニノフを輩出したサフォノフ門下のピアニスト・作曲家。イッサーリスが録音したスクリャービン「24の前奏曲集」は作家コリン・ウィルソンの愛聴盤として有名だという。

ルートヴィヒ・ミンクス=ハフ編曲:バレエ音楽《ドン・キホーテ》~キトリの変奏曲/Kitri's Variation」、ドルシネアの変奏曲/Dulcinea's Variation
いかにも劇伴音楽らしい楽しい曲。軽やかなタッチでキラキラ輝く高音が綺麗で愛らしい。

ヴァシリー・ソロヴィヨフ=セドイ=ハフ編曲:モスクワの夜/Moscow Nights
このアルバムのなかで一番心惹かれるくらいに濃厚なロマンティシズム。ハフは最初と最後に、ラフマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》第1楽章の冒頭に出てくる旋律を付け加えている。

Stephen Hough plays "Moscow Nights"



リスト:《:超絶技巧練習曲集》~第11番「夕べの調べ/Harmonies Du Soir」、第10番ヘ短調
ハフのコメントでは、技巧的な練習曲のなかから(out of their technical demands)、ショパンは「詩」を創り、リストは「ミニ・オペラ」を書いた。
厚みのある響きがゴージャズ。「夕べの調べ」は旋律や終盤の盛り上がる展開とかが「オーベルマンの谷」にちょっと似ている。

アルベニス=ハフ編曲:組曲 《スペイン》~第5番「カタルーニャ奇想曲/Capricho Catalan」
アルベニスの「イベリア組曲」みたいに、海辺の爽やかな朝のような薫りが湧き立ってくる。

マヌエル・ポンセ:間奏曲/Ponce: Intermezzo 第1番
ほろ苦く甘美な思い出を回想するようなロマンティックな曲。

エルネー・ドホナーニ:狂詩曲ハ長調 第3番//Rhapsody In C, Op. 11/3
華やかで管弦楽曲みたいなスケール感に加えて、少し不協和的な和声に諧謔な旋律もあって面白い。時々どこかで聴いたような気がするのは、たぶん初期ドビュッシーに似た雰囲気があるからかも。
ドホナーニの曲で有名なのは、モーツァルトの《きらきら星変奏曲》の主題をモチーフにした《童謡の主題による変奏曲》(珍しくもカッチェンが録音している)。

Annie Fischer plays Dohnányi Rhapsody in C Op.11 No.3



シベリウス:《5つの小品 Op.75》~ 第5番「もみの木/Kuusi 'The spruce'」
シベリウスのピアノ曲のなかでもとりわけ有名な名曲。北欧の冬の寒さと寂寥感が静かに染みこんでくるような味わい。

Sibelius 'Valse Triste' PIANO SOLO - P. Barton



ヴィリアム・セイメル:《夏のスケッチ Op.11》~第3番「キンポウゲ/Solöga」

シャミナード:《バレエ「カリロエ」 の主題によるピアノ組曲》~「スカーフの踊り/Pas Des Écharpes」
冒頭の右手の重音のトレモロの旋律が柔らかくて可愛いらしくて、全体的にふんわり軽やかで夢見心地な愛らしいワルツ。(中間部は短調で少しパッショネイトな曲想に変わる)

ハフ:ニコロのワルツ(原曲:ニコロ・パガニーニ)
有名なパガニーニの主題を使った曲のなかでは、珍しいスローなワルツ。
不協和的な響きとゆったりまったりしたフレージングが不安定感と不可思議さに不気味な妖艶さも醸し出している。ぼわ~と靄がかって夢の中でどこか遠くから聴こえてくるような感覚。

ハフ:オスマンサス・ロンプ/Osmanthus Romp
現代的な和声と跳びはねるようなリズムがジャズインプロヴィゼーション風で、旋律がとても印象的。
”Osmanthus Romp”と”Osmanthus Reverie”は、ハフのオリジナル曲”Suite Osmanthus”で使った素材を元に書いた曲。
”Romp”は、「はね回る子供、おてんば娘、遊び戯れる」の意味。

ハフ:オスマンサス・レヴリー/Osmanthus Reverie
民族色の薄いヤナーチェク風で、愛らしくてロマンティック。”Reverie”とは、「幻想,夢想」。

エリック・コーツ:バイ・ザ・スリーピー・ラグーン/By The Sleepy Lagoon
アーサー・F.テイト=ハフ編曲:どこかで呼ぶ声が/Somewhere A Voice Is Calling
この2曲も曲名は知らないけど、どこかで聴いたことはある。

ハフ編曲:伝承曲「マチルダのルンバ/Matilda's Rhumba」
ちょっと調子はずれで面白いルンバ。
数年前のオーストラリア・リサイタルツアーで、オーストリアの伝承曲"Waltzing Matilda"を編曲した”Matilda's Waltz”を弾いたハフは、その後のツアーでさらに編曲版を弾く誘惑に抗しがたく、このルンバを書いたという。

ハフ:アイヴァー・ソング「子守歌」/Iver-Song, "Lullaby"
友人の中国人と米国人夫婦に生まれた息子へのプレゼントとして書いた曲。2つの文化を音楽的に融合したという通り、旋律がどこか東洋風。

ハフ:子守歌/Lullaby
元々は依嘱されて作詞・作曲した歌曲から、歌と言葉を取り去って編曲したもの。

ドヴォルザーク:ユーモレスク 変ト長調 /Humoresque In G Flat, Op. 101/7
今まで聴いたユーモレスクの演奏の中でも、レーゼルと並んで一番好きな弾き方。
柔らかい響きが夢見心地のようにふんわり優しく綺麗で、細かく揺れるテンポと強弱で表情豊か。中間部も柔らかいフォルテでドラマティックになり過ぎなくてさりげなく。

ドヴォルザーク=ハフ編曲:《ジプシーの歌 Op.55》~第4番「わが母の教え給いし歌」/Songs My Mother Taught Me
ヴァイオリン小品集に入っているヴァイオリン編曲版はよく聴いたけど、ピアノ編曲版は少ないと思う。

エルガー:愛の挨拶/Salut D'Amour
元々つけた曲名”liebesgruss”ではほとんど注目されなかったので、出版社がお洒落なフランス語の曲名に変えたとたんに、ヒットしたという。
原曲はピアノ伴奏のヴァイオリン曲なので、ヴァイオリンの小品集によく入っている。軽やかで柔らかく優しいタッチのハフのピアノがとても素敵。

ハフ編曲:伝承曲「ブロウ・ザ・ウィンド・サザリー/Blow The Wind Southerly」
英国・ノーサンブリア地方の民謡。

モンポウ:《子供の情景/Scènes D'Enfants》~第5番「庭の乙女たち/Jeunes Filles Au Jardin」
ハフがピアノを習い始めた子供時代、最初に買ったレコードの最後に収録されていた曲で、40年間に渡る演奏活動のアンコール曲の定番。ピアニストとしてのキャリアを閉じる最後に弾きたいのも、この曲。
ハフはモンポウアルバムもリリースしているので、モンポウには強い愛着があるに違いない。

F. MOMPOU - Jeunes filles aux jardins. S. Hough, piano.



ピアノ小品集としてはとてもユニークな選曲で、夢見るようなファンタジーとロマンティシズム溢れるアルバム。
濃密なロマンティシズムの「モスクワの夜」、”悪夢的”な雰囲気がする「ニコロのワルツ」、現代的な「狂詩曲」や「オスマンサス・ロンプ」、ゴージャズな響きでミニチュアオペラみたいなリスト、北欧の冬のような寒さと侘しさ漂う「もみの木」、明るく愛らしい「愛のあいさつ」、メルヘンのような「ユモレスク」まで、いろんな夢へ誘ってくれる素敵なアルバム。

タグ:スティーヴン・ハフ

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《アフリカ幻想曲》は、サン=サーンスのピアノ&管弦楽向け作品のなかでも、特に人気があるらしい。
ピアノ&管弦楽版以外に、先に出版された2台のピアノ版とピアノ独奏版がある。
冒頭の黒光りするような厳めしくゾクゾクっとする主題はかなり好き。オリエンタルな”エジプト風”とちがって、ちょっと野生的な感じがする。
終始指が鍵盤上を激しく動き回って、幻想曲なので形式性は弱く、主題を織り込んで展開していったり、サバンナの様子みたいな爽やかで楽し気な旋律や、アラビア風の旋律がでてきたりして、いろいろなモチーフが次々とコラージュみたいに移り変わっていく。

アムランが弾いているピアノ&管弦楽版。
Saint-Saens - Africa (Hamelin)



ちょっと珍しいピアノ独奏版の演奏。この曲に限らず、サン=サーンスが作曲したピアノ独奏版は、オケが入っていなくても気にならないくらいに音色が多彩で響きも厚くてゴージャスに聴こえる。

SAINT-SAËNS Africa, fantaisie Op.89 | B.Ringeissen | vinyl 1975



サン=サーンスの作品リストを眺めていると、中東やアフリカをテーマにした曲がいくつも見つかる。(↓に作品リストの題名からリストアップしてみた)。

 歌曲集「ペルシャの歌」 Op.26(1870年)
 アルジェリア組曲 Op.60(1891年)
 幻想曲「アフリカ」 Op.89(1891年)
 アラビア綺想曲 Op.96(1894年)
 ピアノ協奏曲第5番ヘ長調 Op.103「エジプト風」(1896年)
 軍隊行進曲「ナイル川の岸辺で」 Op.125(1908年)
 アルジェの学生に捧げる行進曲 Op.163(1921年)

『音楽における「オリエンタリズム」』(ジョン・マッケンジー/Bulletin of Toyohashi Sozo College,2001, No. 5, 115–135)
サン・サーンスの保守主義は,恐らく彼の技法がその天分を越えているという事実に根ざしたものであろう.おもしろいことに,彼は「オリエンタリスト」的画家と親密であった.彼は最初は音楽家として修行させられていたアングルを知っていた.また画家のジョルジュ・クレーリン(George Clairin)と中近東を旅行した.27) 1873年には後に何度も旅をしたアルジェリアに初めて赴いて,そこで『サムソンとデリラ』の一部を含むいくつかの音楽を作曲した.またカナリーズ諸島,ロシア,エジプトを訪れ,さらにインド洋まで東進した.彼の「オリエンタリスト」的作品は,組曲『アルジェリア』と,たいそう激しいムードの変化を伴うピアノ幻想曲『アフリカ』,日本を舞台にした一幕もののオペラでピエール・ロティの小説を基にメサジェが『お菊さん』を作曲した際にそのエキゾチックなハーモニーが影響を与えたと言われる『東洋の姫君』,トルコのエジプト総督アバス・ヒルミに捧げた『ナイルの岸辺』,ピアノ協奏曲第5番『エジプト風』等がある.『エジプト風』はエジプトの朝の再現やナイルの谷でカエルが鳴く声,終楽章で重々しい蒸気船のプロペラの音を表現している.最も注目すべきは,その終楽章のト長調の小節が,恐らくサン・サーンスがアスワン付近で集めたヌビア人の曲であるということであろう.当地では今日に至るまで,ヌビア人の歌や婚礼の音楽がナイル河の様相を主に伝えていると言われている.


ピティナに載っている”サン=サーンス研究者”中西充弥氏による人物・作品解説がわかりやすくて面白い。

《アフリカ幻想曲》の作品解説
「アフリカ(Africa)」というのはラテン語でカルタゴ地域(今の北アフリカ、チュニジアあたり)を指すという。
当時フランスは、マグリブ(リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど北西アフリカ諸国)を植民地化していたので、サン=サーンスはこの地域を頻繁に訪れていたという。
この曲には当時の(フランス保護領)フサイン朝チュニジアの国歌が埋め込まれている。

サン=サーンスが初めてアルジェリアを訪れたのが1873年。終焉の地もアルジェだった。
86歳のサン=サーンスは、1921年にアルジェリア旅行中に滞在していた「Hôtel de l’Oasis」で客死。冬のパリで罹った肺炎が悪化したらしい。同年に《アルジェの学生に捧げる行進曲》も作曲しているけど、旅行前か旅行中なのかわからない。

《動物の謝肉祭》の作品解説。当時の社会的背景やフランス人の価値観なども加えて、サン=サーンスの意図をユーモアを交えながら解きほぐした文章が秀逸。

サン=サーンスの人物解説
コルトーに向かって「君の楽器は」と尋ねたところ、コルトーが「ピアノです」と答えたので、一流のピアニストだったサン=サーンスが、「君、冗談言っちゃいかんよ」と言ったというのは有名な話。
技巧優れたピアニストのサン=サーンスにとっては、当時学生だったコルトーのピアノはさして上手いとは思えなかったみたい。

『ロマン・ロランとドイツ音楽』(岡田暁生)
代表作のオペラ「サムソンとデリダ」は、初演したフランスでは大して評価されず、くワイマールで初演した時に大成功。フランスでそれほど人気がなかった理由は、「〈動物の謝肉祭〉で有名なカミーユ・サン・サーンスを例にとりますと、彼は現在、軽薄なフランス音楽趣味の典型のように思われています。ところが実際は彼は、交響曲とかピアノ協奏曲とかソナタとかいった、本来はドイツ起源のジャンルを多く創ったせいで、フランスでは売国奴よばわりされて、ほとんどフランスに腰を落ち着けて住めないほど激しく非難されたんですね。実際、彼の多くの作品は、フランスでは演奏してもらえないので、ドイツで初演されています。我々の目からみると「十九世紀の軽薄なフランス音楽」の代表のようなサン・サーンスですら、「ドイツかぶれした難しい音楽を書きすぎる」と攻撃される、そんな時代にロマン・ロランは育ったわけです。」

作曲家ではなく、”演奏家”としてのサン=サーンスの伝記をまとめた記事。
演奏するサン=サーンス[Sibaccio Notes シバッチオ・ノート]

タグ:サン=サーンス

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ポール・ルイスが4年に渡って王子ホールで行うリサイタル『ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス プロジェクト(HBB project)』では、昨年11月のプログラムでベートーヴェン最後のピアノ作品となった《バガテルOp.126》を弾いていた。

レコ芸のインタビューで、ルイスはこのバガテル集についてこう言っている。
「これは驚くべき傑作です。異なる印象のコラージュで、最初と最後がシンメトリーになっていて、ベートーヴェンのクレイジネスと理解不能さが表れている。中間楽章には、作品111のような印象もあるし、ビーダーマイヤー風の舞曲の舞曲もあるし、どこか記憶のようでもある。最後のバガテルは、回想のようですし、彼の最後のピアノ作品でもあります。半ば意識的に、往年に過ぎ去ったことをみているのだと思いますし、その意味でなにか感動的なものがあります」


最初と最後がシンメトリーというのは、6曲の配置が曲想的にシンメトリーということ?。
「中間楽章には、作品111のような印象」というのは、第3曲(Andante Cantabile e Grazioso)のことで、「ビーダーマイヤー風の舞曲の舞曲」と言うのは、たぶん第4曲(Presto)を指していると思う。

「最後のバガテルが、回想のように、半ば意識的に、往年に過ぎ去ったことをみている」というのは、実感として全くその通り。
短い序奏から、過去を回想するようなノスタルジックな主題から甘美な旋律や幸福な過去の追憶に浸っているような旋律が次々と現れて、この曲もコラージュ風。
エンディングは、突然、冒頭の序奏と同じ旋律に立ち返って、もう回想はお終い!と言っているように聴こえる。終止符を打ったのは、この曲だけではなく、ピアノ曲の作曲も一緒だった。

初めてこのバガテルを聴いたのはブレンデルのバガテル集。まるで無駄なく凝縮された小宇宙みたいな曲だと思う。
いつも聴いているのはカッチェンの録音だけど、面白いのは第5曲のテンポ設定と解釈。
ベートーヴェンが指定した”Quasi Allegretto”にしては、ブレンデル(や他のピアニストの多く)は、ちょっと遅めのテンポ(モデラートかアンダンテくらいに感じる)で、穏やかでちょっと内省的。
カッチェンはかなり速いテンポで、ブレンデルが3分近いのに対して、2分足らずで弾いている。(私には”Quasi Allegretto”に相応しいテンポ設定だと思える)
ブレンデルは穏やかでしっとりと潤いがあってとても優美。カッチェンは軽やかな叙情感が爽やかで、この速めのテンポだと、中間部がとても軽快でリズミカル。

Alfred Brendel plays Beethoven: 6 Bagatelles, Op. 126



ついでに、有名な「エリーゼのために」は、元々作品番号がついていないバガテル(Bagatelle 'Für Elise' a-moll WoO.59)。
この曲で好きなのは、しなしなすることなくクールで軽やかで激しいデュシャーブルの録音。(こんなエリーゼを弾く人は珍しいと思う)

Francois Rene Duchable – Für Elise ♫ Best Instrumental Love Songs Of All Time


タグ:ベートーヴェン ブレンデル デュシャーブル

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ピアノを使ったサン=サーンス作品のなかで一番ポピュラーなのは、2台のピアノとオケ(または室内楽)による《動物の謝肉祭》。
技巧華やかなピアノを楽しむなら、ピアノ協奏曲。特に有名なのは第2番と第2楽章がオリエンタル風の第5番”エジプト風”。
《ピアノ協奏曲全集》で昔からの定番は、パスカル・ロジェだと思う。それ以降の録音の中では、スピード感と切れ味鋭い技巧で颯爽としたスティーヴン・ハフの演奏(2008年のグロモフォン「ゴールドディスク」に選定された録音)が好評。
第2番は技巧華やかで、楽章ごとに異なる情趣も豊かで、どの楽章を聴いても楽しい。ロマン派のピアノ協奏曲のなかでも特に好きな曲。

Saint-Saëns - Piano Concerto n2 - Pascal Rogé



あまり知られていない技巧的難曲が《6つの練習曲》(Op.52&Op.111)。
数少ない録音のなかで、技巧的に安心して聴けるのはデュシャーブル。
旋律自体はシンプルに聴こえるけど、楽譜を見ながら聴けば、速いテンポで滑らかに弾くのはそう容易ではないのはわかる。(練習したことがないのでどれくらい難しいのかレベルがよくわからない...)
デュシャーブルは、軽やかなタッチで音の輪郭は明瞭で細部まで精密、一点の曇りもないような明晰な演奏。技巧的にまだ余裕があると思ってしまうくらいにスラスラ弾いている(ように聴こえる)。

Camille Saint Saëns - 6 Études, Op. 52 (1877)



《6つの練習曲Op.111》の第6曲は、「第5協奏曲のフィナーレによるトッカータ」。(↓の音源では14:57~)
第3楽章のピアノ独奏曲版、音が多く響きにかなり厚みがあるので、ピアノ1台でも原曲の華やかさとダイナミックさが味わえる。

Camille Saint Saëns - 6 Études, Op. 111



同じくあまり有名ではないと思う《ヴァイオリンソナタ第1番》は技巧華やかで叙情深く、有名なフランクのヴァイオリンソナタよりも好きかも。
ツィンマーマン&パーチェの音源で初めて聴いて好きになったので、録音していないのが残念。

Saint-Saens, Violin Sonata No. 1 Zimmermann - Pace (1/3)



<関連記事>
スティーヴン・ハフ ~ サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番
デュシャーブル ~ サン=サーンス/ピアノ作品集(6つの練習曲Op.52,Op.111、他)
ツィンマーマン&パーチェ ~ サン=サーンス/ヴァイオリンソナタ第1番

タグ:サン=サーンス

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2018.05.03 10:00| ♪ ポール・ルイス
『レコード芸術5月号』に載っていたルイスのインタビューを読んで、ますます聴きたくなった『ハイドン/ピアノ・ソナタ集』。
タワーレコードの発売日が1週間ほど繰り上がって5月1日に到着。CDで聴くと、試聴した時よりもはるかにルイスのハイドンが好きになってしまった。
芯のしっかりしたまろやかな音と多彩なソノリティがとても綺麗で心地よく響く。伸びやかで豊かな響きにスケール感と開放感があるのは、”温和で明るいベートーヴェン”みたいな感じがするし、滑らかな起伏のあるしなやかなフレージングと過剰にならない繊細さで、ルイスらしい自然な語り口は、まさに私の聴きたかったハイドン。

Haydn: Piano Sonatas 32, 40, 49, 50 Haydn: Piano Sonatas 32, 40, 49, 50
(2018/5/4)
Paul Lewis

試聴ファイル

<収録曲>
ピアノ・ソナタ第59番 Hob.XVI:49 変ホ長調
ピアノ・ソナタ第60番 Hob.XVI:50 ハ長調
ピアノ・ソナタ第47番 Hob.XVI:32 ロ短調
ピアノ・ソナタ第54番 Hob.XVI:40 ト長調
※トラック間の余白時間が長くて、次の楽章がなかなか始まらない。この半分くらいの余白時間なら音楽の流れが途切れなくて良い気がする。

ルイスのハイドンは色彩感豊かで丸みのある伸びやかな響きがとても綺麗。
速いパッセージでもタッチが綺麗で、音が尖ることが全然ない。丁寧なタッチで音がもともと綺麗な上に、タッチの変化と細かいペダリングで響きのバリエーションが多彩。
さらに、強弱の細かい起伏が滑らかだし、フレージングも曲線のように柔らかくしなやかで、シンプルな旋律でも表情豊かで自然に聴こえる。ルイスらしい快活でも品の良い優美さが素敵。
繊細な弱音も美しく、第60番(Hob.XVI:50)の第1楽章では、ペダルを踏んだ時の高音の弱音が天上の調べみたいに柔らかく煌いて、愛らしく夢想的な美しさにため息がでそうなくらい。

テンポは速すぎず遅すぎず、私のテンポ感にぴったり。速いパッセージでも忙しなかったりコミカル過ぎたりすることがなく、安定感があるので、ちょっと生真面目なユーモアが微笑ましい。
ルイスのハイドンには、広がりを感じさせるスケール感と開放感があるせいか、シンプルな音楽だけど奥行きがあって、今まで聴いたことのある曲でも一味違った新鮮さと発見があったりする。

アルバムの中で特に好きなのは、第59番(Hob.XVI:49)。短調の第47番(Hob.XVI:32)よりも、明るく伸びやかなルイスの音色が良く映える。
面白いのは、第54番(Hob.XVI:40)のプレスト。左手バスの”ドン”というタッチや、高音のアクセントとか、フレージング末尾や装飾音でスラリと滑るように切るところとか、面白い。速いパッセージの指回りも良く勢いもあって颯爽としているし、タッチが尖ることなくフレージングも滑らかなので、ユーモラスでも優美さがあって品が良い。
この曲を聴いていてすぐに連想したのは、ベートーヴェンの《ロンド・カプリッチョ ト長調「失われた小銭への怒り」 Op.129》。速いテンポでコミカルなところがよく似ていて、ルイスのタッチがコミカルな曲想にぴったり。(ベートーヴェンの方がもっとコミカルだけど)


ブリュッセルのFlageyのリサイタルで弾いていたライブ映像。
paul lewis | sonata no. 40 in G major, hob, XVI :40 (1784) presto



リサイタルに先立って、ハイドンやベートーヴェンの音楽について語るルイス。(ルイスの英語はとても聴き取りやすい)
paul lewis | haydn and brahms | drive


paul lewis | haydn and brahms | surprise & humour



<インタビュー>
『レコード芸術5月号』に掲載されていたインタビューでは、ルイスがハイドンのピアノ曲の特徴について語っている。
ハイドンに関心を持ったのは、子供の頃や10代の頃から。ブレンデルの弟子として知られるルイスは、20歳の時に初めてブレンデルのマスタークラスを受講し、その時演奏したのがハイドンの最後の変ホ短調ソナタ。
それを聴いたブレンデルから連絡を取り合おうと言われたという。(ブレンデルから、ウィーンの自宅でレッスンを受けないかとオファーされた、と別のインタビューで言っていた。)

「ベートーヴェンやシューベルトに集中していたのであまり演奏しなくなっていました。ですが、いつも身近にあり、いつ焦点をハイドンに戻そうかと考えていた。」

「ハイドンの場合は、全ての音が意味と色彩と性格を持っていて、しかも隠し立てすることがないので、奏者は全てを現前させなくてはいけない。つねに焦点があっていて、そこで非常に難しいところでもある。」
「ハイドンのユーモアは幅広いもので、驚きもあれば、いたずらもあり、とても洗練されたものにもなりえるし、ナンセンスやばかばかしさもある」
「おそらくベートーヴェンは基礎を作って、ジョークを落ちにもっていきますが、ハイドンは即座に笑いをとります」
「ハイドンはなんら偽ることがないのです。たとえば、シューベルトだと、なにかを語りかけるとき、水面下で語ることが表立ったメッセージに影響を及ぼします。ハイドンでは、私はそのように感じたことはありません。メッセージはメッセージとしです。そう非常にダイレクトですぐに語りかける。と同時に、ハイドンにはもっと内省的な瞬間もあり、緩徐楽章では優美さも聴かれますが、これもまた直接的で、曖昧なものではない。明快だと言っていい」


この言葉通り、ルイスが弾くシューベルトとハイドンではタッチも響きも歌い回しも全然違っている。
シューベルトでは、少しルバートのかかったフレージングで、響きに脆さを感じさせる繊細さがあり、音や情感が内側・表層下へ向かっていくように感じるのに、ハイドンでは芯がしっかりした輪郭が明瞭なクリアな響きで、音や情感が外側へ伸びやかに広がっていく。
ハイドンの演奏は直截的というか明快で、シューベルトを聴いたときのような微妙なニュアンスを含んだ陰影や曖昧さ、つかみどころのなさは感じられない。


ルイスが王子ホールで2017年から4年間に渡って行うリサイタルシリーズ『ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス プロジェクト(HBBプロジェクト)』のプロジェクトリリースでもハイドンについて語っている。

 「ハイドンの音楽は私たちを微笑ませてくれるだけではなく、声を出して笑わせてくれます。そのような作曲家は他にはなかなかいません。ベートーヴェンもユーモアは使いますが、彼は人をびっくりさせることで笑わせます。でもハイドンは後ろから忍び寄ってきて脇腹をくすぐるのです!モーツァルトも笑わせてくれますが、彼の場合は、私たちが彼はいったいどうやってこんなすばらしい音楽を作曲したのだろうと驚嘆しているのをどこかから見てにやりと笑っているような印象があります。

 ハイドンはいたずらっぽく私たちを驚かせるのであって、ベートーヴェンのように不機嫌だったり荒っぽかったりすることはありません。ハイドンの音楽には悪意はなく、つねに上機嫌で愛想がよいのです。現代のように極端なことが当たり前な時代においても、ハイドンの聴き手をびっくりさせたりからかったりする手法は斬新に感じられます。本当にすばらしく創意に満ちた音楽であり、このたび演奏および録音できることにわくわくしています」

 「ハイドンの音楽には無駄な音はひとつもありません。ですので、一つ一つの音の色合い、性格、そして意味合いがとても重要なのです。それはとりわけピアノ・ソナタの緩徐楽章において顕著で、彼が少ない音でこれほど深い表現ができるのは本当に驚異的です」



今後のハイドン録音については、2019年に2枚目のピアノ・ソナタ集をリリース予定。その後も、継続的に取り組みたいのだそう。
もしかしたら、数年とかもっと長い時間をかけて、結果的に全集を録音したりするのかも。ルイスのハイドンならもっといろいろ聴きたい。


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タグ:ハイドン ルイス

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yoshimi

Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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