*All archives*

ハゲワシ再導入プロジェクト/スペイン・フランス(ヒゲワシ)
<スぺイン>
1)アンダルシア再導入
1986年:アンダルシアでヒゲワシが絶滅。原因は、営巣地での直接迫害、野生生物中毒、巣エリアでの人間による妨害。
1996年:Junta de AndaluciaとVCFが再導入プロジェクトを開始
2006年:ハッキングにより、最初の飼育下繁殖鳥をリリース
2015年:アンダルシアで最初に野生繁殖に成功、雛は巣立ち。繁殖ペアは2006年リリースの雄と2010年リリースの雌。
2021年:グアダレンティンのヒゲワシ飼育下繁殖センターで、1回の繁殖シーズンで合計雛10羽が誕生(世界記録更新)
2021年:幼鳥8羽リリース
2023年:幼鳥8羽リリース
2023年:5組の繁殖ペアが雛を生み、3羽が巣立ち
2023年までの放鳥数は合計79羽。放鳥場所はアンダルシアのハエン州とグラナダ州。
現在、アンダルシアには繁殖ペア5組以外に40羽以上(合計50羽以上)が生息
BEARDED VULTURE TO ANDALUSIA[VCF]
The Bearded Vulture reintroduction project in Andalusia sees a record number of wild-hatched fledglings[VCF]

2)バレンシア再導入
・バレンシアのマエストラズゴ地域は歴史的にヒゲワシの繁殖地。現在は生息していないが、南部にあるアンダルシアの個体群からヒゲワシが定期的に飛来。
・目的:北部のピレネー山脈と南部のアンダルシア山脈の個体群を橋渡しする野生繁殖個体群を確立。
・ピレネー山脈の生息数は、人口密度に依存する出生率が低下するまで増加。
・2018年:最初の飼育下繁殖鳥2羽を放鳥。今後数年間、VCFは毎年2?3羽の飼育下繁殖鳥を放鳥予定。
・放鳥場所はティネンサ・デ・ベニファッサ自然公園の山中に特別に建設された巣。
・ユニークな実験:ピレネー山脈の個体群から、非繁殖または浮遊鳥の成鳥を捕獲後、マエストラズゴ地域に移送。効果とピレネー山脈個体群の生殖生産性への影響を実験。マエストラズゴはピレネー山脈からわずか約300kmのため、リリースされた個体が新しい生息地に適応しない場合にはピレネー山脈に戻ることができる。
BEARDED VULTURE TO MAESTRAZGO[VCF]
The Lammergeier reintroduction in Spain(動画)

Bearded Vulture - Spain. Also known as the Lammergeier.



<フランス>
LIFE GYPCONNECT[VCF]
”The LIFE GypConnect”プロジェクト:欧州のヒゲワシ個体数を強化するため、フランス南東部に再導入。フランスのプレアルプスと中央山脈での種の再導入を通じて、最終的にはアルプスとピレネー山脈の個体群をつなぐリンクとして機能する新しい個体群の形成。
・再導入サイト:セヴェンヌ国立公園、グラン・コセス自然公園、中央山塊のバロニー・プロヴァンス自然公園、プレ・アルプスのヴェルコール自然公園。
・2019年現在、放鳥数27羽。
・放鳥時に装着した軽量衛星追跡装置でモニタリング。装置は通常3年-5年持続。
・Audo地域における2つの個体群と新しい個体群の間の移動促進のため、食料入手性を改善。給餌ステーションのネットワークを設定し、地元の食肉処理場や肉屋から2つの山脈の間を移動するヒゲワシに餌を供給。
・感電死防止のため送電線の絶縁実施。風力発電タービンとの衝突事故を回避するため、ヒゲワシにとって最もsensitiveな地域をマッピングし風力発電所の開発サイトに通知。

The First Bearded Vulture release of 2022 took place in Grands Causses


(動画説明)2022年最初のヒゲワシ放鳥動画
・”LIFE GypConnect”プロジェクトの一環。セヴェンヌ国立公園の中心部で2羽の幼鳥をリリース。フランスのグランコス地域では10回目の放鳥。
・チェコ共和国オストラヴァ動物園とオートサボアのアスターズ繁殖センターで飼育下繁殖した幼鳥。
・放鳥の準備:雛が約90日齢に達すると放鳥場所に到着。識別リングを装着。野生で識別できるよう数枚の羽を白く塗る(Bleached)。
・GPS送信機により巣立ち後の動きを追跡。主要な脅威への取り組みや必要に応じてタイムリーに鳥を救助する時に役立つ。
・ハッキングプラットフォームから2羽のヒゲワシを開放。捕食者が囲いに入るのを防ぐ電気柵を閉じた後、技術チームは撤退。約1か月後にハゲタカが巣立つまで、ハゲタカを邪魔することなく、遠くから日々の進捗状況を監視。翼の鼓動、相互作用、動き、摂食など、成長の様子をく観察。
・ハッキング方法では、飼育下で飼育された雛を、ヒゲワシが野生で持っていたであろう巣に似た人工の巣に入れる。人工巣を適切な生息地に配置することで、幼鳥が最初の飛行を行う前の今後数週間、自然環境に順応できる。
・ハッキング技術により、雛は放流される場所と孵化の領域を関連付けることができ、繁殖年齢(約8〜10歳)に達したときに、孵化した場所に近い場所を選択して繁殖する傾向がある。


<ヒゲワシ再導入強化プログラム(進行中)>
Strengthening the reintroduction program to restore the Gypaetus barbatus metapopulation between the Alps and the Pyrenees[European Commission/LIFE Public Database]
事業期間:01/12/2022-30/11/2028
Eligible budget: 13,465,098ユーロ
”The LIFE GypConnect”プロジェクトの強化プログラム。アルプス-ピレネー間のヒゲワシ・メタ個体群を回復させるための再導入プログラムの強化。目的は、最大60羽の放鳥により、ピレネー山脈からアルプス山脈を経由し中央高地(Massif Central)に広がるヒゲワシ個体数の増加。

Iberian Corridors Pro Bearded Vulture[European Commission/LIFE Public Database]
事業時間:10/01/2022-09/01/2027
Eligible budget: 2,678,434ユーロ
・目的:スペイン政府は長期的保全を確保するため、再導入プログラムを通じてピレネー山脈の外にある新しい安定したヒゲワシ個体群核に到達し、遺伝子交換と回廊を通じた個体移動を促進する。
・ヒゲワシは南西ヨーロッパのほとんどの山に生息していたが、2019年までに個体数はEUでわずか252ペアに減少し、その75.8%がピレネー山脈に生息。
・猛禽類のスカベンジに影響を与える脅威(主に中毒と違法狩猟)の大幅減少で、イベリア半島での猛禽類の数と分布は目覚ましく回復。
・ヒゲワシの個体数は、ヨーロッパで最も重要な拠点であるピレネー山脈で回復したが、地域的に拡大せず。
・ピレネー山脈の個体群は、生産性を低下させる繁殖トリオの増加(全体の30-35%)。非繁殖成鳥の増加(人口の51%)。「島」の個体群に典型的な問題。・ヨーロッパ最大の個体数(74ペア)を持つアラゴンでは、繁殖成功ペアは27.1%のみ。
・最初のアンダルシア再導入プロジェクトにより、12繁殖ペアのコアを確立。
・2013年にピコス・デ・エウロパ国立公園でFCQによって進められた再導入プロジェクトでは、繁殖ペア1組が成立。

ハゲワシ再導入プロジェクト/スイスアルプス(ヒゲワシ)
<ヒゲワシ再導入のタイムライン>
1913年:アルプス最後のヒゲワシがアオスタ渓谷で射殺され絶滅。ヒゲワシは欧州からほぼ消滅し、1970年代までに西欧の残存ペアは70組。
1978年:スイス・モルジュで開催されたヒゲワシ保護活動家の会議で、飼育下繁殖プログラムに基づく再導入プロジェクトの開始を決定。
1982年:WWF、国際自然保護連合(IUCN)、フランクフルト動物学会の支援により研究チームが実施した「アルプス5カ所の再導入候補地域比較」の結果、オーストリアのホーエタウエルン国立公園が最適。
1986年:研究チームが上記研究を拡大し、完全な生息地調査(食料源や種に対する社会的態度等を含む)完了し、地域の保全状況を評価。
1986年:オーストリアのホーエタウエルン国立公園で最初の放鳥。続いて、フランスのオートサボワ、スイスとイタリアのスイス国立公園とステルヴィオ国立公園、フランスとイタリアのメルカントゥール国立公園とアルピマリットタイム国立公園で放鳥。

1992年:ヒゲワシ回復への取り組み強化のため、ヒゲワシ保護財団(Foundation for the Conservation of the Bearded Vulture ,FCBV)設立。フランクフルト動物学会に属する飼育下のヒゲワシ49羽が財団に寄贈され、飼育下繁殖プログラムが開始。
・ヒゲワシが成熟・繁殖するまで5~7年。繁殖は通常8歳で始まり、1年に1羽の雛しか生まれない。ヒゲワシ飼育下繁殖計画の目的は、再導入のためにできるだけ多くのヒナを生み出すこと。それにより生息域外保護(ex situ reserve)における高い遺伝的多様性を維持し、飼育下集団内での繁殖成功が拡大した。

1997年:フランスの野生の巣で繁殖ペアが育雛に初成功
2006年:アンダルシア再導入
2009年:ハゲワシ保護財団(Vulture Conservation Foundation ,VCF)設立。欧州の全ハゲワシ種(ヒゲワシ、クロハゲワシ、エジプトハゲワシ、シロエリハゲワシ)を対象に保護活動を拡大。
2014年:IUCN絶滅危惧種レッドリストで”Near Threatened (NT)”(準絶滅危惧)
2018年:バレンシア再導入
2019年:進行中の4ヶ所の再導入エリアに対し22羽の幼鳥をリリース
2021年:ドイツ・バイエルン州のベルヒテスガーデン国立公園で2羽放鳥。ドイツでは140年以上前にヒゲワシが絶滅

<再導入・補強方法>
・ハゲワシ(ヒゲワシも含む)の個体を再導入または補強する方法は、飼育下繁殖の幼鳥のリリース、または、ある国のより豊富な個体群から別の国の小さな個体群に野生育ちの個体をリリース。
・ハッキング:飼育下繁殖個体の放鳥方法で最も成功した技術の一つ。幼鳥を人工の巣に入れ、約20-30日間人間と接触せずに給餌し、巣立ちまたは巣を離れる年齢に近づくと羽ばたきの練習をし、やがて初飛行に飛び出す。
・渡り鳥のエジプトハゲワシについては、ハッキングに加えて、放鳥後の移動時の生存率向上のため、2種類の方法(放鳥時期の繰り下げ、野生の巣で養子縁組(adoption))を採用。

<再導入実績>
・1978年-2020年:ヒゲワシ雛飼育数585羽。放鳥数343羽。欧州のアルプス+プレアルプス(230羽以上)、グランドコースリージョナルパーク(フランス)、地中海、スペインに再導入。
・放鳥後の生存率:88%~96%(2020年時点)
・繁殖ペア数:アルプス+60ペア(全体の生息数は300羽以上)、アンダルシア55ペア。グランコースでの繁殖はまもなく開始予定。

<ハゲワシ保護財団(Vulture Conservation Foundation,VCF)>
・2009年設立。前身はヒゲワシ保護財団(Foundation for the Conservation of the Bearded Vulture ,FCBV)。ヨーロッパでのハゲワシ再導入を主導する国際組織。
・欧州でヒゲワシは着実に回復中。欧州におけるヒゲワシのメタ個体群形成、欧州(ピレネー山脈、コルシカ島、クレタ島)の既存の孤立した先住個体群と、再導入された個体群(アルプスとアンダルシア)、およびアジアと北アフリカの個体群との間に遺伝子流動の創造を目的とする。
・欧州の全ハゲワシ種(ヒゲワシ、クロハゲワシ、エジプトハゲワシ、シロエリハゲワシ)を対象に保護活動を拡大。
・世界中の飼育下にあるヒゲワシのほとんどを所有。40を超える動物園や繁殖センターと協力して、欧州のヒゲワシ飼育下繁殖を調整。
・1986年-2019年:VCFはパートナーとともに合計560羽のヒゲワシの雛を飼育。340羽以上の幼鳥を欧州全土でリリースし、種の個体群を野生に再導入または補充。

Reintroduction of Bearded Vultures in Europe[Reversethered.org]
BEARDED VULTURE TO THE ALPS[VCF]
REINTRODUCTION & RESTOCKING[VCF]
BEARDED VULTURES Europe's rarest vulture[VCF]
Bearded Vultures “Bavaria” and “Wally” successfully released in the Berchtesgaden National Park in Germany[VCF]

Bearded Vulture Reintroduction in the Swiss Alps


Wild Again – The return to the wild of young Bearded Vultures in central Switzerland



Philopatry in a reintroduced population of Bearded Vultures Gypaetus barbatus in the Alps
(David Jenny, Marc Kery, Paolo Trotti & Enrico Bassi ,Journal of Ornithology,volume 159, pages507-515 (2018))
・本論文は中央アルプスのヒゲワシ・サブ個体群の成長と定住パターンを研究。
・ヒゲワシは20世紀初頭にアルプスで絶滅後、1986年以降4ヶ所のアルプス地域に再導入。1997年の西アルプス、1998年の中央アルプスで繁殖に初成功し、2つのサブ個体群を確立。
・2015年までに中央アルプスに繁殖ペア15組が生息。コアエリア内の密度はコアエリア外の密度よりも顕著に高い。
・新しい繁殖ペアの定住地は最も近い放鳥地から最大距離が49.2kmで、出生地定住性が高い。中央アルプスで生まれたか放鳥された鳥のうち、85%(n=26)がこのサブ個体群内でペアとなり定住。東または西方から移住したのは3羽。
・1998年から2015年にかけて、ペア数、子孫数ともに指数関数的に増加。中央アルプスのサブ個体群の成長は、放鳥地を中心とした同心円状の連続的な成長が特徴。コア・エリア内のペア密度も増加。
・出生地におけるphilopatry(定住性)の高さは、適応的遺伝的要素、豊富な食物資源、同一種の魅力等が考えられる。
・個体数の大幅増により、中央アルプスのサブ個体群の放鳥は2008年以降中止。それ以来、個体群の増加はほぼ野生個体のみ。アルプス地域のヒゲワシの主要なサブ個体群となった。

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ボネリークマタカのスペイン再導入・強化プロジェクト
<LIFE BONELLI プロジェクト>
INTEGRAL RECOVERY OF BONELLI’S EAGLE POPULATION IN SPAIN[European Commission]
・LIFE BONELLIプロジェクト:ボネリークマタカのスペインの個体群回復を目的とし、イベリア半島とバレアレス諸島(マヨルカ)の復興プログラムを実施。マドリード、アラバ、ナバラの個体数を増やし、マヨルカ島での再導入を促進。
・事業期間:2013年7月-2017年9月
・総予算( Total Eligible Budget): 2,060,339ユーロ。
・4つの地域(ナバラ、バレアレス、アラバ、マドリード)の行政機関は、ボネリークマタカの2つの国際繁殖センター(GREFAとLPO)と協力
・結果:ナバラとマドリードの個体数強化が成功、バレアレス諸島(マヨルカ)の再導入により繁殖ペア確立、野生の雛も孵化。主要な獲物の生息環境の改善、感電などの脅威(人間による妨害、ハッキング施設での捕食)減少。
・個体数強化:プロジェクト4年間合計67羽。うちマドリード地域36羽、ナバラ23羽、アラバ6羽。
・バレアレス諸島(マヨルカ)への再導入:合計25羽を再導入。既に野生で孵化した雛が11羽(プロジェクト期間が短いことを考慮すると非常に珍しい)。プロジェクト終了時点の生息数は7ペア+27羽。確立された個体群が自己持続可能であり、長期的に有効と評価。

Vídeo sobre la reintroducción del águila de Bonelli en Mallorca

※動画説明;2011年、バレアレス諸島政府はマヨルカ島におけるボネリークマタカの再導入計画を開始。Red Eléctricaは他団体と協力し、スペインの他地域から移送された幼鳥22羽のリリースに貢献。2014年には、数カ月のモニタリング後に野生で初めて雛の孵化が観察された。

LIFE Bonelli: final balance of the season 2015 of the captive breeding programme[>LIFE Bonelliプロジェクト公式サイト]
・2015年の飼育下繁殖プログラムでは、GREFA(マハダオンダ、マドリード)の飼育下繁殖センターで、豊富な経験を持つ繁殖ペアから雛4羽が誕生。
・最初の産卵から生まれた2羽はLife Bonelliプロジェクトのマヨルカ島リリース地点でハッキングにより放鳥。
・2回目の産卵で生まれた2羽はナバラでハッキングにより放鳥。うち1羽は野生生活での適応能力に問題があったため、数週間後に再捕獲。
・フランス・アルデシュ県の飼育センターでは、プロジェクト開始以来初の雛2羽の育成に成功。最初の産卵で生まれた個体はマドリード州で放鳥したが、翼の発達異常のため捕獲後GREFAの野生動物病院に入院。2回目の産卵から生まれた個体はアラバで放鳥。
・協力者クリスチャン・パクトーの飼育センター(フランス・ヴァンデ県(Vendée))で合計10羽が誕生。3月-5月に生まれた5羽はマドリード州で放鳥。4月に生まれた3羽はナバラで放鳥。
・2015年に飼育下繁殖により合計16羽の雛が誕生したのはかなりの成功。

Proyecto Life Bonelli.



<AQUILA a-LIFEプロジェクト>
AQUILA a-LIFE[European Commission]
・AQUILA a-LIFEプロジェクト:地中海西部(イベリア半島の中央部と北部、サルデーニャ島)でボネリワシの個体数を増やし、かつて生息していた生息地の回復に寄与することで、現在の退行的な個体数傾向を逆転させることを目的。LIFE BONELLIプロジェクトの第2フェーズ。
・事業期間:2017年10月-2022年9月
・総予算(Total Eligible Budget): 4,752,383 ユーロ。
・プロジェクトエリアで130羽を放鳥。繁殖ペアが占める地域が15増加。40年ぶりにアラバで繁殖したワシと、種が絶滅したサルデーニャで最初に確立された繁殖ペアを含む。


<マヨルカ島のボネリークマタカ再導入に関する研究>
Raptor reintroductions: Cost-effective alternatives to captive breeding(Jaume Adria Badia-Boher, Antonio Hernandez-Matias, Carlota Viada, Joan Real,31 July 2021)
(生息状況)
・ボネリークマタカは東南アジアから地中海西部まで生息する長命の猛禽類。ヨーロッパでは準絶滅危惧種、スペインでは絶滅危惧種。
・本研究の対象は、生息地の喪失、獲物の不足、特に直接的な迫害により、1970年代頃に種が絶滅したマヨルカ島のボネリークマタカ再導入。
・2011年マヨルカ島への再導入開始。2011年~2016年合計39羽放鳥;NestHackで雛9羽、CaptHackで雛14羽、WildTransで非若年個体(1歳以上)16羽。
・放鳥個体にはPVCリングとGPSタグ装着。
・2016年までに繁殖ペア5組が地域に定着、雛6羽が巣立ち。

(再導入手法の評価)
・飼育下繁殖は動物の再導入に広く採用されているが、失敗率や経済的コストが比較的高い。動物再導入の世界的な失敗率は33%から89%と推定。
・マヨルカ島再導入スキームで使用された3つのリリース戦略の成功と費用対効果を比較:1)飼育下繁殖に基づくハッキング(CaptHack)、2)自然個体群の野生の巣から抽出された雛のハッキング(NestHack)、3)リハビリテーションセンターから回収された野生の非若年個体の移動(WildTrans)。
・野生の非若年個体の地域移動(WildTrans)が、再導入された集団を確立するための最も費用効果の高い戦略:理由1)幼鳥よりも年齢の高い鳥のリリースは、より短い期間で繁殖ペアを形成し、繁殖を成功させる可能性が高まる。理由2)野生の非幼体個体のリリースは飼育下繁殖・飼育の必要がなく、どのハッキング戦略よりも著しく安価。
・野生育ちの個体は、放鳥後に再導入地域から永久に移動する懸念がある。ほとんどの猛禽類は出生エリアに留まる傾向が強い(「ホーミング行動」)。
・ハッキングによりホーミング行動を防止:成長最終段階に再導入地域での雛への給餌・飼育により、放鳥サイトへの刷り込みを促進し、他地域への拡散阻止。
・マヨルカ島の場合は全WildTrans個体がリリース地域に放鳥後に再度現れた。島が陸から150 km以上離れているため、自然障壁と出生地-放鳥地間の長距離により、再導入エリアでの定着が促進された。
・シナリオによっては、野生で育った個体の方が放鳥後の影響が強い。その理由は、移動ストレスの大きさ、放流後の分散(他地域への移動)。

(結論)
・野生で育った非幼若個体の地域移動(WildTrans)は、動物の再導入における潜在的に費用効果の高い戦略として考慮されるべき。非幼体の使用は、繁殖個体群への募集と早期繁殖を促進可能。
・再導入戦略における放鳥後の効果は、種、年齢、性別、および放鳥領域の特殊性によって異なる可能性。すべての選択肢の長所と短所の慎重な評価必要。
・猛禽類に関しては、ハッキングが選択された場合、飼育下繁殖プログラムを実施する代わりに、健康な野生個体群の巣から取り出された雛の使用など費用効果の高い代替案を分析推奨。

(論文要旨)Bonelli’s eagle: successful reintroduction of an endangered species in Mallorca(04-10-2021,Institute of Research in Biodiversity (IRBio) ,Univ.Barcelona)
・現在の生息数は約40羽(繁殖ペア9組を含む)
・自然生息地の改善が生物多様性を保全するための最初の戦略。前提条件として、種の存続可能性に影響を与える要因(死因、食料の入手可能性など)を除去する必要。

カリフォルニアコンドル再導入プロジェクト
1)生息数の激減
・カリフォルニアコンドルの歴史的な生息地は、カリフォルニアからフロリダ、カナダ西部からメキシコ北部。
・1880年代~1924年にはアリゾナ州にも散在。1930年代後半までにカリフォルニア以外で消滅。1982年まで総個体数は22羽に減少し絶滅寸前。
・激減の原因:、射撃、採卵、コヨーテ用に設定された毒罠、送電線に衝突、全体的な生息地の劣化、鉛中毒。特に、餌とする死骸と一緒に鉛弾薬の破片を摂取するため、鉛中毒は現在の最大の脅威。
・再導入後、野生個体は300羽以上に増加、2004年に野生で最初の雛が孵化。2008年、プログラム開始以来初めて、野生個体数が飼育個体数を上回る。

2)保護活動
1967年:1966年の絶滅危惧種保存法に基づき、カリフォルニアコンドルを絶滅危惧種にリスト。
1979年:米国魚類野生生物局(FWS)がカリフォルニアコンドル回復プログラム(California Condor Recovery Program)設立。
1982年までに野生の残存個体は22羽に激減。種の絶滅回避のため、FWSとパートナーは残存している野生個体の捕獲開始。
1983年:飼育下繁殖プログラム開始。FWSはロサンゼルス動物園、サンディエゴ野生動物公園と協力し飼育下繁殖実施。ペレグリンファンドの猛禽類世界センター(World Center for Birds of Prey,Idaho)、ポートランドのオレゴン動物園が参加。
1985年にまでに野生個体が9羽に減少したため、FWSは残存するコンドルを全てを飼育下に置く決定をし、1987年に最後の野生個体を捕獲。

3)繁殖プログラム
・コンドルは約6歳になるまで繁殖不可能。繁殖ペアは通常、1-2年に1個産卵。
・飼育下繁殖技術の開発:世界猛禽類センターで実施。産卵時に卵を取り除くことで、飼育下のコンドルが2個目、時には3個目を・産卵する。余剰な卵は人工的に孵化され、飼育係がコンドルの頭に似せた手人形を使って雛の世話する。手人形は雛が人間に刷り込み(自分自身の種ではなく人間だと自己認識する)を防止。産卵を倍増させた場合、親鳥(卵1個)と成熟個体(余剰卵1個)により孵化・羽化まで育てることもある。
・飼育下のコンドル個体数は1987年27羽から、現在177羽に劇的に増加。

4)再導入
1992年1月:飼育下で繁殖したコンドルたちがカリフォルニアで野生に放鳥。(現在127羽以上がカリフォルニア州内を飛行)
1992年10月:メキシコのバハ半島で3羽のコンドルが野生に放鳥。1937年以来初の飛行。
1996年12月:6羽の飼育下繁殖個体がペレグリンファンドによってアリゾナの野生に放鳥。その後毎年リリース。
1996年:復興計画策定。絶滅危惧種から絶滅危惧種へのダウンリスティングを目標(基準)。地理的に異なる2つの野生自立個体群(各群が個体数150羽と少なくとも15繁殖ペア)の確立。飼育下のコンドルの第3個体群維持(a third population of condors)。

・現在のカリフォルニアコンドルの生息数は全世界で約400羽、その半分以上が野生で生息中。
California Condor Recovery Program[U.S. Fish and Wildlife Service]
Condor Re-introduction & Recovery Program[National Park Service]

California Condor Recovery


5)繁殖施設
【オレゴン動物園野生動物保全ジョンソンセンター】
・コンドル繁殖施設。土地面積52エーカーの隔絶された施設で人間との接触を制限する設計。ジョンソンセンターは53羽(繁殖ペア11組を含む)が飼育可能。
・2003年に6繁殖ペアが初めてジョンソンセンターに移送。オレゴンにコンドルが戻っていたのはほぼ100年ぶり。
・1月~3月に産卵。巣から孵化器に移され、孵化し始めると両親の元へ戻す。54〜57日後に孵化。毎年恒例の伝統として、部族のパートナーは雛に名づける。
・生後約8ヶ月で雛は繁殖用鳥舎(pen)から巣立ち用飛行エリアに移動。飛行に適応できる準備を開始、成鳥の「メンター」コンドルと交流。
・嫌悪訓練:幼鳥に電柱に着陸しないように教える。エンクロージャー内の模擬電柱は、着地時に軽度の電気ショックを与える設計。
・放流場所:メキシコのバハカリフォルニア半島、カリフォルニア中部と南部、アリゾナ州北部の5つの放鳥場所の1つでフィールドペンに移動、野生にリリース。
・園内の”Condors of the Columbia”の生息ゾーンには、動物園のジョンスン野生動物保護センター・コンドル回復プログラムで放鳥できなかった成鳥3羽を飼育。
California condor[Oregon Zoo]

A Condor Chick Grows Up



【世界猛禽類センター】
・ペレグリンファンドが1993年からコンドル繁殖事業に参加。1996年にアリゾナ・Vermilion Cliffs National Monumentで初リリース。
・「世界猛禽類センター」(アイダホ)のカリフォルニアコンドル飼育数60羽(世界最大)。
・25年間で270羽以上を飼育。遺伝的に価値が高すぎて放鳥できない個体はブリーダーとして継続、または、世界猛禽類センターの教育スタッフに加える。
・孵卵初期に最初の卵を取り除き、非繁殖ペアの成鳥1羽が孵化。ペアは2番目の産卵をし、両方の雛がコンドルによって育雛。
・捕食者、事故、食品汚染などのリスク制御により、飼育下繁殖鳥が一貫して90%超の成功率を達成。毎年繁殖プログラムで飼育されるコンドルの半分以上(毎年16~20羽)を生み出す。(オレゴン動物園でも実施)
・若いコンドルが人間を食物報酬に関連付けたり、人間に慣れたりしないように、エンクロージャーはコンドルが人間をほとんど見聞きすることがない設計。近辺の芝生を刈るために、芝刈り機ではなく山羊の群れを使う。
・元々の野生個体22羽のうち4羽は放鳥したコンドルに遺伝子が受け継がれているため、繁殖鳥としての役割を終え野生復帰。40年前に住んでいた野生の生息地に戻し、数百羽の子孫たちと暮らしている。
・繁殖ペアの産卵に快適な場所:多数のとまり木、美味しい食べ物、日当たり、巣箱のある広いスペース。
・雛が孵化後、5~6カ月は両親が育雛。その後、他の幼鳥と一緒に大きな飛行小屋(flight pen)へ移動し、飛び方や相互の付き合い方を学ぶ。
・野生復帰の準備できるとアリゾナの放鳥場所へ移動。他のコンドルと大きな小屋に入り、新しい生息場所の景色や音に慣れて安心感を感じるようになる。
・放鳥直後は生物学者が供給する餌のためにリリース場所に戻り続けるが、そのうち自分で餌を求めて旅立っていく。コンドルは狩猟せずに、死んだ動物の肉を探す。
Condor Breeding BOLSTERING WILD REPRODUCTION[Peregrine Fund]
California Condor Gymnogyps californianus[Peregrine Fund]

2021 年カリフォルニア コンドルのリリース - フィールド チームの一日


コウノトリの個体群管理に関する機関・施設間パネル(IPPM-OWS)によるコウノトリ保全活動/IPPM-OWS コウノトリ保全セミナー2023
(オリバーライダー博士講演)
・カリフォルニアコンドルはアメリカ合衆国絶滅危惧種法で1971年に絶滅危惧種指定。
・2021年12月現在、世界中のカリフォルニアコンドルの総数 537 羽、内 334 羽が複数地域に生息(FWS調査)

(再導入)
・過去10年間の個体数の増加:飼育下個体群は 170~200 羽で維持。野生個体群は 340 羽に増加。
・個体数は増加傾向にあるが、この増加傾向は主に飼育下個体の野生復帰による。
・個体群の増加がこのまま続くことで問題になるのは、野生から飼育下への個体の導入。鉛のコンドルへの影響を減らすアクションに左右される。

(飼育)
・野生ではコンドルは洞窟や大きな木に空いた穴に巣を作る。1 年おきに 1~2 個の卵を産卵。
・飼育下では卵を人工孵化、必要な場合は(自然)孵化を補助。人工孵化させた雛は個体ごとに管理され、コンドルの形をしたパペットや成鳥のコンドルの鳴き声の音声を育雛に使用。
・コンドルは一夫一婦制で、巣に一緒にいる両親は雛の両親と考えられていたが、野生個体群では必ずしも一夫一婦制ではないことがサンプルの遺伝的解析から判明。

(野生個体の鉛中毒)
・コンドルは腐肉食性。狩猟で死亡した動物の肉を食べる時に弾薬の破片も一緒に摂取し、血中鉛濃度が上昇。定期的に野生個体を捕獲し血液検査を実施、要治療の場合は一時的に飼育下で個体を管理。
・野生個体の剖検結果から、判明している死因の51%が鉛中毒。
・2014 年にカリフォルニア州で鉛弾薬の使用禁止、2019 年に州内の鉛弾薬の販売禁止(連邦法では規制なし)

ついに鉛弾がカリフォルニアコンドルを全滅させてしまうのか(2013年5月7日 YALE Environment 360)
・2008年にカルフォルニア州はコンドルの生息域の中心と推測されている中部と南部の郡の全域または一部、および7つのシカ狩猟区域で鉛弾を使った狩猟を禁止。
・この法律があまり効果がないのは、コンドルたちが鉛弾使用禁止区域とは別の地域にも移動するため。コンドルはアリゾナ州やユタ州でも腐肉を食べている。
・1996年から166羽ほどの捕獲飼育鳥が2つの州に再導入され、その内38羽は鉛中毒で死亡。
・2012年の米国科学アカデミー(National Academy of Science)の研究によると、2014年の鉛弾薬使用禁止法案がなければカルフォルニアコンドルの絶滅は避けられないという予測だった。

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ハワイカラス”アララ”再導入プロジェクト
1)生息状況
・アララはハワイ原産のカラス。黒い羽と大きなくちばしを持ち、非常に知的で、人間のような叫び声、悲鳴、うめき声を上げる森の中でも最も騒々しい鳥。
・ フアラライとマウナロアの斜面にある乾燥した森と半乾燥した森に生息。森の下層には多数の結実植物があり下層低木が捕食者から身を隠すための食物と覆いを供給。アララの好物にはネイティブフルーツが含まれ、アララは大きな実をつける在来植物にとって重要な種子散布機。
・1992年までにハワイの森林には13羽のアララが生息。野生のアララが最後に確認されたのは2002年。
・絶滅の原因:捕食者(野良猫、マングース、ネズミ等)、病気(鳥のマラリア、蚊が運ぶ痘瘡、野良猫が運ぶトキソプラズマ症)、牧場と伐採による生息地の森林の変化、家畜による下層植物の食い荒らし・踏みつけ。木・下層低木の喪失により、アララの餌と捕食者から隠れる場所が減少。

2)飼育下繁殖プログラム
・保存繁殖のために少数のアララが最初に繁殖施設に持ち込まれたのは1970年代。
・1990年代に飼育下繁殖したアララの幼鳥21羽を放鳥。捕食者(タカ、野良猫・犬など)に食べられ、生き残った6羽は捕獲され繁殖センターに戻された。
・卵が孵化後、繁殖センターの専任スタッフが人工飼育(餌の準備、給餌、鳥小屋掃除、繁殖活動の管理、獣医によるケア等)。
・人工飼育中に、雌鳥が追加の産卵・育雛を行うため、繁殖数を増やすことが可能。
・一部のアララは巣の中で雛を育てることができる。2013年に育雛で初成功。子育てが許可されている鳥は良好な営巣行動と座位行動(sitting behaviors)を行う。

3)再導入状況
・”Alalā Project”:プウ・マカアラ自然保護区で進行中のアララ再導入プロジェクト。ハワイ州土地天然資源局、米国魚類野生生物局、サンディエゴ動物園グローバルの共同プロジェクト。
・再導入コスト(予定額):初年度80万ドル、以降毎年40万~50万ドル。
・放鳥数:2016年5羽放鳥し3羽死亡(2羽はタカの攻撃、1羽は環境的ストレス)。2017年11羽、2018年10羽、2019年4羽、2016-2019年合計30羽。その後3年間で負傷や行方不明で数羽を失い、残存数は20羽台だった。
・生存中のアララは野生生活によく適応し、在来の結実植物を採餌、ハワイノスリ(ハワイ語で「イオ」)のような捕食者に挑戦し、他の森の鳥種の卵や雛を日和見的に採餌。補助フィーダーから引き離し自立に向けた前向きな兆候。
・求愛行動、複数の繁殖ペアの形成、予備的な巣作り行動(巣を正常に完成させたペアは1組のみ)
・交配ペアの大半はアララの繁殖に好まれる在来の開花常緑樹である「オヒアの木」を巣の場所に選択。この「オヒア」はハワイの森林の大部分を占める樹木を素早く殺す侵入真菌種の脅威の直面。

・2016年以降、野生に放鳥された合計30羽のうち、25羽が死亡または行方不明。死因の大半はイオによる捕食。
・2020年10月:生き残った5羽(雌3羽、雄2羽)が捕獲され、2か所の繁殖センター(サンディエゴ動物園がBig IslandとMauiで運営)で飼育。
・ハワイのタカによる捕食の脅威を考慮し、アララプロジェクトは当初2022年に計画されていた飼育下繁殖で育ったアララの放鳥を一時停止。
・2020年現在、飼育下のアララは110羽以上。

4)捕食者対策
・研究の重要な分野の1つはイオによる捕食。アララを再放鳥する前に、イオの個体数、分布、領土の大きさ、日々の動きについて知ること。
・アララを放鳥する前に、飼育下のアララにイオを避ける訓練を実施していたが、放鳥後アララの一部は攻撃的なイオから自己防衛するも、他のアララはイオが捕食。
・アララを再放鳥するための取り組み:野生のイオを捕獲しGPS追跡器を装着してリリース後監視。一部のイオは他のイオよりもはるかに広い縄張りを持つ。野生のアララがイオに遭遇する可能性を低くする一つのアイデアは、広い縄張りを持つイオの近くにアララを置くこと。
※イオの捕獲方法:サンディエゴ動物園のチームは、ポータブルスピーカーから猛禽類の名前の由来である「eeeh-oh」の鳴き声を放送。イオが近くの止まり木に誘い込まれる⇒マウスが入ったリング状のワイヤーケージを置く⇒ケージ内の餌をイオが急襲する⇒イオの爪が罠の上のプラスチック製ループに引っかかり捕獲。

Hawai'i Science Walk-- The 'Alalā Project


The Alala Project FAQs[State of Hawaii]

Is Hawaii ‘the extinction capital of the world’? Exhibit A: The alala bird.[April 25, 2016,Washingtonpost]
This crow is ‘very intelligent’ — and it’s struggling to survive in the wild[March 17, 2023,Washingtonpost]
Reintroduced Hawaiian Crows Are Learning How to Live in the Wild[September 18, 2019,Audubon]
The Hawaiian Crow Is Once Again Extinct in the Wild[October 16, 2020,Audubon]

Adapting conservation breeding techniques using a data-driven approach to restore the ‘Alalā (Hawaiian crow, Corvus hawaiiensis)(Alison M. Flanagan,HUSBANDRY REPORT,21 June 2023)
・アララの保護繁殖プログラムでは、ペアの分離と再社会化、部分的な人工巣の提供、卵の人工孵化、人形を使った雛の飼育など、実践的飼育アプローチを活用してきた。
・保護繁殖プログラムの最優先事項は、再導入と野生復帰を成功させるために、放鳥後の生存と繁殖に不可欠な自然の行動を維持すること。
・論文では、アララの飼育技術をどのように適応させ、フルタイムの社会化を通じてペアの絆を強化し、ペアが頑丈な巣を作ることを可能にし、メスが卵を孵化させることを奨励し、ペアとその子供に重要な育児経験を与えているのかを説明。
・標準化されたデータ主導の方法を用いて、親繁殖の成功に向けた進捗状況を客観的に追跡し、野生での生存と繁殖の可能性に基づいて放鳥候補を選定。


M・R・オコナー『絶滅できない動物たち 自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』(原題:Resurrection Science: Conservation, De-Extinction and the Precarious Future of Wild Things, M. R. O'Connor, 2015)(以下、186-192頁の一部抜粋)
※本書は2015年出版のため、その後の飼育下繁殖プログラムと再導入に関する情報は反映されていない。

「現在生息しているアララの唯一の個体群は、保護された10羽が飼育下繁殖で維持されてきた。」
「1950年になると、アララは手つかずの森として残っている狭い地域に追いやられてしまう。そして1985年には、アララの生存に暗雲が立ちこめた。生物学者の予想では、野生に生息しているのはわずか5羽から15羽、その大半はマッカンドレス牧場に集中していた。コナ地区の私有地だ。絶滅の危機という事態を受けて、アメリカ魚類野生生物局は、野生のアララを数羽捕まえて、ハワイのボハクロアにある絶滅のおそれがある動物の飼育施設に移した。・・・・・連れてこられたアララのうち、ひなが生まれたつがいは4組だけだった。」

「1980年代後半から1990年初めにかけて、野生のアララの個体群の衰弱が進み、飼育下繁殖プログラムもうまくいかなかった。そのため、もっと多くの野生のアララを施設に移して飼育しようとしたら、これが大論争に発展した。」
「訴訟になり、・・・政府および自然保護主義者側と、ハワイの先住民および土地所有者の象徴的な代表・・・側との膠着状態に決着をつけるための専門委員会が結成された。」
「1993年、両者は合意書に署名した。成体ではなく野生の集団が産んだ卵なら、生物学者はアララを採取してもよいという内容だった。これらの卵は飼育下繁殖プログラムで孵化させてから、ひなの一部は野生に還され、残りは遺伝子的多様性を増やすために飼育下繁殖させている個体群に追加される。だが1993年から1999年のあいだに、飼育下繁殖プログラムで育てられ、のちに野生に戻された27羽のうち21羽が死亡してしまった。」
「1996年、最後の受精卵が生物学者によって野生の巣から採取された。・・・それは受精卵でひなは孵った。・・・・・オリ(と名付けられたひな)はたった6羽しかこどもを作らなかった。・・・オリのこどももみな繁殖能力があり、次世代に繁殖能力のある子どもを残した。」

「2002年、野生の最後のアララ2羽が消滅して以来、森でアララは目撃されていない。・・・飼育下繁殖プログラムの114羽のうち47羽がオリの遺伝子を受けついでいる。これらのアララの繁殖能力はじゅうぶんあり、生物学者は、うまくいけば何羽かは管理されている森林保護区に放せるかもしれないと思っている。それらは厳しい管理下に置かれ、餌や治療の面では人間に半依存状態となるだろう。」
「鳥類専門の絶滅研究という新しい分野における世界有数の研究者」であるヴァン・ドゥーレンの説明では、「アララが森林性鳥類としての行動を維持していけるかどうかが、保全の取り組みにとっての中心課題となる。ほかの鳥と違い、アララは特定の行動をとるように生まれついておらず、言ってみれば、少しずつ学習してカラスになっていくのだ。いかにしてカラスになるかは、孵化した年から親に教わる。その後、幼鳥になると群れに合流する。この群れには、幼鳥の一族が数世代所属している。」
「一方、20年以上、飼育下繁殖しているアララが産んだ卵は、巣から取り出されて、確実に雛が孵るように保育器に移される。最初の雌は自分で卵を孵化させてひなを育てることが許されたが、現存しているアララについては、抱卵、孵化、飼育を人間が一手に担っている。その結果、アララの文化が一変したという証拠がある。かつては世代間で継承されてきたアララ特有の行動が消滅したのだ。発声のレパートリーは減った。1990年代に飼育下繁殖のアララを自然に還そうと試みたが、ハワイノスリの避けかたがわからなかったらしい。かつては仲間と結束して戦っていたというのに。また、人間にすっかり慣れてしまって自分で餌を探さなくなった。習性を失ってしまったために、野生で生きていくのは不利になるおそれがあった。」

「ほかの鳥と違い、アララは特定の行動をとるように生まれついておらず、言ってみれば、少しずつ学習してカラスになっていくのだ。いかにしてカラスになるかは、孵化した年から親に教わる。その後、幼鳥になると群れに合流する。この群れには、幼鳥の一族が数世代所属している。」
「現存するアララについては、抱卵、孵化、飼育を人間が一手に担っている。その結果、アララの文化が一変したという証拠がある。かつては世代間で継承されてきたアララ特有の行動が消滅したのだ。発声のレパートリーは減った。1990年代に飼育下繁殖のアララを自然に還そうと試みたが、ハワイノスリの避けかたがわからなかったらしい。かつては仲間と結束して戦っていたというのに。また、人間にすっかり慣れてしまって自分で餌を探さなくなった。習性を失ってしまったために、野生で生きていくのは不利になるおそれがあった。」
イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/フィリピンワシ保全繁殖プログラム

<フィリピンワシ>
・フィリピンワシの生息地は低地や中程度の標高にある原生林など。開発や伐採で消失した森林は75%近い。フィリピンワシが巣をかける熱帯の硬い巨木は、違法伐採者間で材木として珍重。
・現在生息中の繁殖ペアは約400組以下。フィリピンワシは世界自然保護連合(IUCN)から「近絶滅種(critically endangered)」に指定
・ダバオのフィリピン・イーグル・センターを運営する「フィリピンワシ基金」の保護件数はパンデミック以前1〜2羽程度(年間)、2020年4月〜2021年3月に過去最高の10羽。
・長いロックダウンで経済が低迷し、食料・違法取引目的で保護動物を狩猟するケースが増加。エコツーリズムが停止すると、レンジャーは職を失い、保護区は密猟者等の侵入に無防備。
・フィリピンワシを1羽殺すと懲役12年。

残り400組、“鳥の王”フィリピンワシの保護がコロナ禍で急増 フィリピンの国鳥、経済活動の停滞で保護区が無防備に[NATIONAL GEOGRAPHIC]
【動画】残りあと400組、フィリピンワシの子育て 「鳥の王」の一家を5カ月間撮影、胸を打つ貴重映像[NATIONAL GEOGRAPHIC]
子を手塩にかけて育てる 絶滅危機のフィリピンワシ[NATIONAL GEOGRAPHIC]

絶滅危惧種、フィリピンワシを救う為、親鳥に偽装して餌を与える保護センター職員[カラパイア 不思議と謎の大冒険!]
・新型コロナの影響で人が森に入る頻度が高くなり密猟が増加。
・人間との接触を最小限に抑えるため、フィリピンワシの親鳥のマスクを手に装着して雛に給餌。野生の森に帰ったとき不用意に狩猟者に近づくことを避けるため。

Philippine EaglePithecophaga jefferyi[Asian Species Action Partnership (ASAP)]
・フィリピンワシの生息数(推定):ミンダナオ島82-233ペア。他地域はサマール島6ペア、レイテ島2ペア、ルソン島僅少で合計90-250ペアまたは成熟個体180-500羽。全島合計250-750羽の個体。(Bueser et al. 2003)
・フィリピンワシに対する長期的な脅威:商業木材の採取や転換耕作による森林破壊と断片化。生息域内には9,220 km2のみ残存の可能性。残存中の低地林の大半は伐採権が貸与、鉱業申請。無制限の狩猟(食料や、少なくとも以前は動物園の展示や貿易のため)は、短期的には最も重要な脅威の可能性。他に野生の豚・鹿捕獲用の罠、農薬の蓄積(生殖力の低下)、台風等の天候など。

Philippinne Eagle Foundation/CONSERVATION BREEDING
・フィリピンワシ基金:1987年に飼育繁殖保護プログラムで設立。
・飼育下での自然繁殖及び協同人工授精を実施。
・1992年以降、Philippine Eagle Centerで生まれたワシは28羽。

Philippine Eagle Pithecophaga jefferyi[Bird Life International]
2004年:飼育下繁殖のフィリピンワシを初リリース。ミンダナオ島アポ山の森に雄ワシを放鳥。9か月後に感電死。
2008年:(飼育下繁殖ではない)ワシをリハビリ後にミンダナオ島で放鳥。4か月後にハンターが狩猟。

飼育下のフィリピンワシの映像。
Nature Talks 2021: PHILIPPINE EAGLE Breeding and Conservation


Nature Talks 2021: Philippine Eagle Behaviours

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/米国ハヤブサ回復プロジェクト
<ハヤブサ>
1)生息数の推移
1940年代より以前には、北米の営巣ペア3,875(推定)⇒1966年までに東部で消滅、70年代半ばまでに西部の生息数は最大90%減少⇒1975年までに米国内324ペアが残存。
減少の原因:生息地の喪失、銃撃、採卵、その他の人間の妨害に加え、劇的減少の原因はDDT。獲物に蓄積されたDDE(DDTの代謝物である)を摂取することでハヤブサの体内にDDEが蓄積され、正常なカルシウム産生を妨げ卵殻を薄く脆弱にし、抱卵中に親鳥の体重で壊れた結果孵化する雛が激減。

2)保護政策・回復プロジェクト
・1965年:鳥類学者ジョセフ・ヒッキーがウィスコンシン州マディソンでハヤブサ個体数の減少に関する国際会議を開催。
・1966年:国際会議出席者13人が中心となり、猛禽類研究財団設立。
・1979年:アメリカハヤブサは1969年の絶滅危惧種保護法の下で絶滅危惧種としてリスト(絶滅危惧種法により1973年に再リスト)
・1970年:コーネル大学の鳥類研究所トム・ケイドとがペレグリンファンドを共同設立(NYのコーネル大学に本拠)。
・1972年:EPAがDDT禁止。回復プロジェクトが具体化。
・1974年以降:ペレグリンファンドが米国とカナダの国・州機関と共に、ハヤブサ再導入プログラムに着手。
・飼育下繁殖の成功:コーネル大学の研究者たちにより、飼育下繁殖に成功。卵が孵化後、生後3週間まで実験室で育雛。その後両親が育てる。野生の巣から採取した卵を使う場合もある。
・ハッキングサイト(人工営巣地)に移送後、飛行・狩猟技術が独り立ちに十分なレベルに達するまで(姿は見せない)人間が給餌。
・野生の巣から巣立ち(養子縁組):飼育下繁殖または野生の巣で産まれたハヤブサの卵を人工孵化し、約3週齢まで飼育後、雛を元の巣か別の巣へ移入、または、ソウゲンハヤブサの巣の雛と交換し、いずれも成鳥ペアが巣立ちまで育てる。
・飼育下繁殖の基本的な開発は1970年代初頭に行われ、放鳥技術は1970年代後半に完成。
・1999年:連邦絶滅危惧種のリスト解除(現在渡り鳥条約法で連邦政府によって保護)

3)放鳥数
・放出方法:主にハッキング。野生の巣の卵をダミー卵に交換し、人工孵化後3週齢の雛を元の巣の繁殖ペア(または別の巣のソウゲンハヤブサの養親)が育てて巣立ちさせる方法も採用。
・1974年-1994年放鳥数:主要施設約5500羽、民間ブリーダー約750羽、合計6,250羽。うち約500羽は野生のハヤブサから採取した卵から孵化した若鳥。連邦および州の魚類野生生物局(FWS)、ペレグリンファンド、中西部ハヤブサ修復プロジェクト、サンタクルーズ捕食鳥研究グループが相互協力。
・アイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州:1992年までに832羽放鳥、1994年に62ペア。
・中西部:1992年までに667羽放鳥、1994年には55ペア。
・東部:1992年までに1,229羽放鳥、1994年に約104ペア。
・カナダ南部:1992年までに約1,300羽放鳥、1994年には41ペア。
・ 全体的に1980年以降、テリトリー上で数えられた総ペア数は著しく増加。1980年には中緯度カナダから内陸メキシコまで約200ペア。1985-86年に439、1990年に698、1994年に1,001に増加。
・都市に営巣したのは、1994年時点で米国とカナダ南部に約90組。

4)ハッキング
・人工の巣で作られた飼育施設(ハッキングタワー/ハックタワー/ハックボックス)で巣立ち可能な状態になるまで幼鳥を飼育し、そこから放鳥するための管理手法。
・元々は鷹匠がハヤブサの訓練に使っていた手法。ハヤブサはハックボックスから飛び出して飛行・狩りの練習する。幼鳥が狩りを習得して自立する前に鷹匠がハヤブサを捕獲する。
・コーネル大学教授(後のペレグリンファンド創設者)であるトム・ケイド(Tom Cade)が、鷹匠のハッキングのアイデアを逆転させ、ハヤブサが飛行可能な状態になるとハックボックスを開放し続けることで、若いハヤブサが自然に巣立ち・独立する。最初に使用されたのは1974年の米国東部ハヤブサ再導入。
・ハッキング施設は雛が人間と食べ物を関連付けないような建物設計とオペレーション。ハヤブサの場合は崖や塔の上に設置。トレーやシュートを通じた給餌等により、幼鳥たちは給餌したり世話をする人間の姿を見ることはない。
Peregrine Falcon Nature's finest flying machine.[The Nature Conservancy]
Captive Breeding and Releases of Peregrines Falco peregrinus in North America(James H. Enderson, Clayton M. White and Ursula Banasch,Chancellor, R.D., B.-U. Meyburg & J.J. Ferrero eds. 1998 Holarctic Birds of Prey )
Hacking: A Method for Releasing Peregrine Falcons and Other Birds of Prey. Third Edition March 1987 John Barclay et al. (by Sherrod, Steve & William Heinrich, W Burnham , The Peregrine Fund)


VIRGINIA HACKING[The Center for Conservation Biology]
・ハヤブサ再導入のハッキング(ウェストヴァージニア州New River Gorge National Park)
・人工鳥小屋から猛禽類の幼鳥を放出する手法であるハッキングは、実際の訓練の前に飛行スキルと強さを構築する手段として何世紀も前に鷹匠が開発。
・ハッキングはハヤブサなどを野生に再導入するための非常に有用なツール。
・ハッキングプロセス:放鳥まで幼鳥を収容するハックボックス、放鳥、巣立ち前後の給餌、放鳥後の監視
・ハヤブサの場合、通常約15-30日齢で放鳥地に移送。雛はハックボックス(柵を通して周囲を観察可能、箱からは出られない)で飼育。死んだウズラや他の獲物を毎日給餌。42-45日齢に達すると、2-3日間分の給餌があり、ハックボックスの側面が撤去され、飛行可能になる。
・リリース後にも自身の獲物を狩ることができるまで数週間ウズラを供給。給餌頻度を減らしていくと、探索飛行時間が長くなり、最終的にはサイトから完全に去る。
・通常、身体の小さい雄は雌よりも早く飛行開始する。生後1年間で死亡する幼鳥が最も多いのは、飛行の制御方法を学ぶこの巣立ち時期。

Peregrine Falcon Recovery[Yukon - Charley Rivers/National Preserve Alaska]
・ハヤブサの頭を模倣したハンドパペットを使った人間が雛の給餌・世話をした。
・飼育下で繁殖したハヤブサを放鳥するため、人工の塔または崖の棚の上にある特別に設置された箱に収容。chute(落とし口)通して餌を与えられ、人間の姿は見えない。充分な週齢に達すると箱が開放され、幼鳥は飛行を始め、自分で狩りを学ぶ。与えられる餌は徐々に減少。

The Reintroduction of the Peregrine Falcon to Utah(ユタ州ハヤブサ再導入)


Natural Heritage & Endangered Species Program Peregrine Falcon [Massachusetts Division of Fisheries & Wildlife]
・マサチューセッツ州ハヤブサ回復プロジェクト
・放鳥場所:リンカーンのマス・オーデュボン・ドラムリン・ファームのタワー(1975年)、オリョークのトム山の崖(1976~1979年)。野生で繁殖するまで生き残った鳥はいなかった。
・1983年:“Nongame and Endangered Species Program”(非狩猟対象種及び絶滅危惧種プログラム)創設。資金は自発的な寄付。ハヤブサの回復がこのプログラムのプロジェクト。幼鳥が1984年にボストンのダウンタウンにあるコーマック郵便局と裁判所ビルの屋上に放鳥。1987年にマサチューセッツ州初の近代的な巣。
※歴史的にハヤブサは露出した崖が営巣地。マサチューセッツ州のハヤブサは多くの建物や橋、タワー、採石場など多様な構造物に営巣。

Peregrine Falcon[Institute for Wildlife Studies]
Peregrine Falcon[Channel Islands/National Park/California]
・チャンネル諸島のハヤブサ回復プロジェクト(サンタクルーズ捕食鳥類研究グループが実施)
・1983年-1998年:チャンネル諸島でハヤブサ37羽を放鳥。
・1992年:チャンネル諸島4島でアクティブな巣9ヶ所を発見。
・1999年:ハヤブサが絶滅危惧種から除外。チャンネル諸島 (5ペア)と太平洋岸(185ペア)の繁殖目標を大幅超。
・2007年:全8島中5島に営巣中のペア25組を確認。DDE汚染によって繁殖成功率が低下。
・2013年4月末:チャンネル諸島8島にハヤブサの巣45カ所、うち27カ所に卵か雛が存在。
・2013年:島別テリトリー数は、アナカパ島5、サンタクルス島16, サンタローザ島13, サンミゲル島9, サンタバーバラ島3(Sharpe, 2013)。
・1940年代半ばまで:カリフォルニア州では毎年約100カ所のハヤブサの巣で雛が産まれていた。巣の1/3以上は海から10マイル以内(チャンネル諸島を含む)。
・1970年まで:カリフォルニア州の繁殖ペア数は少なくとも95%減少。 南海岸沿いの巣が最も早く減少、チャンネル諸島の個体数は1955年までに激減または絶滅。
・1983年から1998年の間に、サンタクルーズ捕食鳥類研究グループはチャンネル諸島で37羽のハヤブサを放鳥した(Latta 2012)。1992年の調査中、Hunt(1994)はチャンネル諸島の4島で9つの活動中の巣を 発見した。アメリカハヤブサは1999年に絶滅危惧種から除外されたが、その時点でチャンネル諸島 (5ペア)と太平洋岸(185ペア)の繁殖目標を大幅に超えていた(Mesta 1999)。2007年に行われた別の調査では、8つの島のうち5つの島で25組の活動中のペアが確認されたが、DDE汚染によって繁殖成功率が低下していることも判明した(Latta 2012)。

Dr. Peter Sharpes' Presentation of the Restoration of Bald Eagles- and Peregrine Falcons 9-12-15


ハヤブサの動画(1)  FalconCam Project(2021年、2022年)
Falconの雄Xavierと雌Diamond が雛Yurrugaを育てて巣立ちさせるまでのダイジェスト動画。
ファルコンは白目の多い眼が表情豊かでユーモラス。ひとりっ子のYurrugaの行動が面白い。

Yurruga story 2021 💗🌞💗 FalconCam Project, CSU

巣の略歴:2007 年からこのタワー上の巣をWebcamで観察。1 シーズンあたり最大 3個産卵、平均して1.5羽が巣立ち。両親の雌はSwift-Diamond(2015) 雄はBeau -Bula(2015)-Xavier(2016)と代わっている。
2016年10月初め、最初の雛が孵化した頃、Bulaが行方不明に。その後新しい雄Xavierをダイヤモンドが受け入れた。その年、XavierとDiamondは雛3羽を巣立ちさせた。Xavierは抱雛と給餌はしなかったけど、餌を運んで来た。ハヤブサは継父(Stepdad/Stepfather)でもちゃんと雛を育てている。
※ハクトウワシの継父は雛の面倒を見ないと言われる。でも、2023年のDaleHpllowではStepdadがDH17に毎日何匹も魚を届けていた。

ハヤブサのオスはメスより 3 分の1くらい小さく、胸の斑点が少なく、爪とくちばしが明るい黄橙色。渡りをせず、求愛の儀式と巣の構築が年間を通じて続くが、7月と8月に雄が持ってくる餌と共に激しさを増す。通常8月下旬に産卵、10月に孵化、11月に巣立ち。幼鳥は親から狩りを教えられて 3 月頃まで巣や周辺に留まることが多い。


ファルコンの雛はワシやタカの雛と違って、ボンキングとカイニズムの習性はなく、大きい雛が小さい雛を突いて攻撃することはない。餌を親からもらう時でも餌の取り合いはするけど、兄弟姉妹を排除しようとはしない。
Indigo(左の大きい雛)とRubus(右の小さい雛)も同じ。穏やかでちょっと動きの鈍いIndigoは、ポジショニングと反射神経の良い小さなRubusに餌の取り合いで負けているので、Rubusの方が餌をたくさん食べていることが多い。
親鳥が1日に何回も餌を運んでくるので餌不足になることはなく、2羽ともムクムク太って順調に育っている。 餌をパクパク食べているRubusをあんぐり口を開けて横目で見ているIndigo。(”頑張れ、Indigo!”って言いたくなる)

FalconCam Project - Sokoły wędrowne - Xavier & Diamond & Indigo🐥🌹🍀 & Rubus 🐥🌹🍀- Karmienie



お腹が空いているのに、餌を持って来てくれないDiamondに絡むIndigo。
@FalconCamProject 31 10 2022 ~ Indigo decides to bully Diamond but Mum is the boss!



巣立ちする前日、IndigoがRubusを追い回して足で捕まえたり蹴ったりしている。エネルギーを持て余しているようで(巣立ち前なので興奮しているのか、狩りの練習しているのか?)、可哀相なRubusはピーヨピーヨと鳴きながら逃げ回っている。Indigoは翌朝巣立ち。
FalconCam Project~Indigo literally attacks Rubus~4:38 p.m. 2022/11/10



DiamondがRubusに餌を与えていたところに、巣立ちして3日ほど外で暮らしたIndigoが戻ってきて、餌をひったくるようにマウントして猛烈な勢いで食べ始めた。巣立ち前は大人しい性格だったのに、外で暮らしてサバイバルモードに切り替わったみたい。前日は雨で餌にありつけなかったようなので、この日は親が餌を運んでくるたびにマウントしてはひたすら食べていた。
面白かったのは、餌をひったくったつもりで反対側のコーナーで食べようとしていたindigoは、慌てて餌を持ってくるのを忘れたのに気が付き、すぐに引き返して餌を確保していた。
FalconCam Project / Indigo RETURNS HOME



巣立ち後に帰巣したindigoと弟のRubusは巣立ち前よりもずっと仲が良い。Indigoがいなくて寂しかったのか、RubusがIndigoにくっつきたがるし、2羽で嘴を突きあって(親愛の印)ほのぼの。
22.11.15 FalconCam Project - 相親相愛的Indigo和Rubus🥰 Indigo and Rubus have a great relationship🥰



風に煽られて”Fludge”(不本意な”Fledge”)したRubusは、巣に戻らずに元気に外で暮らしていた。数日間姿が見えなくなり、その後随分たってから地面で死んでいるのを発見された。首が折れていたので何かに衝突したらしい。
FalconCam Project~Lovely moments in the short life of Rubus! Fly high little one. ❤️~November 2022



Indhigoのある一日。
23.01.09 FalconCam Project - Indigo的一天 Indigo's day



Indigoはまだ自分で鳥は捕まえられないけど、昆虫なら大丈夫。何回もカブトムシみたいな昆虫を捕まえては巣に持ち帰ってスナックみたいに食べていた。たぶん「クリスマスビートル」と呼ばれるコガネムシ?。
23.01.11 FalconCam Project - Indigo的蟲蟲大餐 Indigo caught four bugs today and brought them home to eat



獲物を食べている時に新しい獲物が到着。どちらを食べようか大混乱のIndigo。最後は食べさせてもらっていた。
Falcon Cam Project~🤣Indigo is in great panic for his prey😆~6:28 p.m. 2022/11/29



時々巣に帰っては餌を食べたり眠っていたりしていたIndigo。ある日Diamondが入口に立ち塞がり体を大きく膨らまして、巣に入ろうとするIndigoを威嚇しブロック。研究者によると”She's telling him that it's time to go.”。 壁にしがみついていたIndigoはなぜ突然拒絶されたのか理由がわからなかったに違いない。それからIndigoは二度と巣に戻らず、やがて姿も見なくなった。どこかへ旅立ったのだろう。
FalconCam 2023 03 18 Diamond blocks Indigo's entrance

※2020年の幼鳥Izziは8月になっても地域を去らなかったので、Izziが巣箱へやって来るのを両親がブロックした。
ケストレルの動画(1)
Mrs.Kesは6羽の雛を巣で育てている最中の雌ケストレル。連日巣に侵入しようとするフクロウやタカを撃退していたが、そのストレスのためか、身の危険を感じたのか、ある夜巣を離れて、翌晩になって巣の入り口に戻るも、フクロウの鳴き声が聞こえた途端に飛び去ってから行方不明に。
残された雄のMr.Kesが6羽の雛を育てなければならない。雄のケストレルは雌と雛に獲物を届けるのが仕事で、雛を温めたり餌を与える習性がない。
この動画は、Robert Fullerが介入(手助け)しつつも、Mr.Kesが雌に代わって雛を育てる方法を見つけ出し、6羽の雛を巣立ちさせるまでのストーリー。
Fullerが介入(弱っていた雛の保護飼育、巣に敷いた保温マット、巣での給餌)しなかったら、弱っていた3羽は生き残れなかっただろうし、残り3羽も全て巣立ちできたかどうかはわからない。雄(または雌)1羽で独力で6羽の雛を育てるのは不可能だった。

Kestrel Dad Raises Chicks Alone After Their Mum Disappears | Full Story of Mr Kes


雄ケストレルは抱卵はするが、抱雛はしないという。抱雛するMrs.Kesの姿を見ていたせいか、雛たちを温めなければならないと思ったMr.Kes。慣れていないのでバランスを崩して前につんのめる姿が涙ぐましい。
Male Kestrels Don't Brood 🐥 But Mr Kes Does All He Can to Save His Chicks


フラーが保護して育てていた3羽の雛を巣に戻した時の様子。元々巣に残っていた雛たちは突然現れた巨大な手にびっくり仰天。壁にへばりついて、目を見開き、口はあんぐり、たぶん心臓ドキドキ。ケストレルの雛の表情が豊かでユーモラス。でも、突然戻って来た雛たちが自分たちの兄弟姉妹だとちゃんとわかっている。
Rescued Kestrel Chicks Go Back in Nest & Mr Kes Barely Breaks his Stride


やっと子育てが終わったMr.Kes。ガールフレンドに求愛の鳴き声で呼びかけたのに、やって来たのはすでに巣立ちしている子供たち。どうやらディナーの招待と勘違いしたらしい。巣の入り口を塞いでピーピー鳴きながら餌を催促する子供から逃げようとして、出入り口は1つしかないのに、なぜか壁をよじ登ろうとするMr.Kes。
When Kestrel Dad Calls for New Mate, Youngsters Come Instead



こっちは別の巣の動画。”養子”が巣にやってきた時のケストレル親子の反応。雛はびっくり仰天、巣の隅にへばりついて怖がっている。
Watch the alarm of these kestrels as a foster chick is put in their nest


Foster kestrel chick settles in


雌ケストレルは、自分の雛に与えるはずの餌を見ず知らずの”養子”に横取りされて、取り戻そうとしている。雛は親を突いて、速く取り戻して食べさせて..と催促している。
Surrogate Kestrel Chick Investigated by Female | Nestcam Stories


雄ケストレルは”養子”の雛でも気にせずに給餌。
When dad comes home to find a new kestrel chick in the nest


イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/英国のオジロワシ再導入プログラム
英国のオジロワシは、特に19世紀に狩猟と大規模な生息地の変化の結果、英国で絶滅。最後に繁殖したのは、1830年代にイングランドとウェールズ、1898年にアイルランド、1916年にスコットランド。

<スコットランド>
オジロワシの英国再導入が初めて開始されたのはスコットランド。英国生まれのオジロワシが最後に射殺されたのは1918年のシェトランド諸島。

1968年:アーガイルとフェアアイルでオジロワシの小規模な再導入実施。
1975年-1985年:政府の自然保護協議会(Nature Conservancy Council)による本格的な大規模導入プログラム開始。ノルウェーの巣から82羽の幼鳥をラム島に移送。
王立鳥類保護協会(RSPB)は、1970年代後半に再導入に関与し、ラム島で放鳥されたオジロワシがスコットランド西海岸へ達すると、RSPBは新しい縄張りエリアを見つけて監視・保護する責任を負う。
1983年:最初に再導入されたオジロワシが繁殖、最初の雛は1985年に巣立ち。オジロワシの繁殖開始は5歳-6歳からで、繁殖ペアの雛が1羽しか育たない場合もあるため、生息数の増加は遅かった。
1993-98年:オジロワシの再消滅のリスクを減らすため、ノルウェーの巣で孵化した58羽の幼鳥がSNH(Scottish Natural Heritage)によってウェスターロスで放鳥。
2007-2012年:第3段階の再導入プロジェクト。スコットランド東海岸で合計85羽の若鳥が放鳥。2013年にこのプロジェクトで放鳥されたオジロワシが繁殖ペアになり雛1羽が巣立ち。この地域で200年以上ぶりに繁殖した最初のペア。

ノルウェーのヌールラン、後にモーレ&ロムスダルから移送したオジロワシの繁殖ペアは現在150組。
繁殖ペア数と生息地域は急速に拡大し、インドランド南海岸にあるワイト島でイングランド初のオジロワシ再導入を実施するために、ノルウェー生まれのオジロワシの子孫を使うのに十分な規模になっている。

※王立鳥類保護協会(Royal Society for the Protection of Birds,RSPB):イングランド、ウェールズ、スコットランドで登録さた慈善団体。1889年設立。活動目的は鳥類の生息環境保全・保護の促進。とより広い環境
2021/22年の収益は1億5700万ポンド、従業員2200人、ボランティア10500人、会員110万人。世界最大の野生生物保護団体の1つ。RSPBには多くの地元グループがあり、222カ所の自然保護区を維持管理している。

Restoring populations of white-tailed sea eagles in Europe[Norwegian Institute for Nature Research,NINA]
The RSPB's work has helped the white-tailed eagle, the UK's largest bird of prey, to return to the stunning landscapes of Scotland.[RSPB]

Magnificent White Tailed Eagles of Scotland



<アイルランド>
1)再導入プログラム(2007-2011年)
・ケリー州のキラーニー国立公園で100羽の若いオジロワシを放鳥。アイルランド全土に広く分散し、2012年にクレア州のダーグ湖で初の繁殖成功。
・2020年7月までに、8~10ペアの小規模な繁殖個体群が、コーク、ケリー、クレア、ゴールウェイ、ティペラリーの各郡で31羽のヒナの巣立ちに成功。
・一部のアイルランド生まれのオジロワシが成鳥になり、野生で繁殖開始。
・科学的レビュー:少数の個体群が依然として鳥インフルエンザ、違法な中毒、異常気象などの死亡率に対して脆弱。
・放流地域と鳥が繁殖するために定住する場所の農業コミュニティとの協力が重要。
・NPWSとゴールデンイーグルトラストが管理するプロジェクト第1段階では、農家が複数の営巣地で鳥や巣を監視するのを手伝う。
・空輸された雛は、成長、成熟、飛行に必要な羽と筋肉が発達するまで、7つの場所で専用囲いに収容。衛星タグにより鳥たちの分散状況とアイルランドの繁殖個体群との統合を監視できる。

2)再導入プログラム(第2段階:2020-2022年)
2020-2022年にダーグ湖、シャノン川下流河口、キラーニー国立公園などで放鳥計画(50羽)
2020年6月初旬:ノルウェー中西部のトロンハイム地域全体の巣から10羽の雛(7〜10週齢)を収集(ノルウェー自然研究所のライセンスに基づく)。ケリー空港に空輸後、ミュンスターの特別設計の鳥小屋に収容。6月に翼タグと衛星タグを装着し放鳥。
2021年初頭まで衛星追跡によりミュンスターを越えてシャノン川を北上していることを確認。
2021年6月:ノルウェー生まれの雛21羽がアイルランドに到着、8月にシャノン河口、ダーグ湖、ウォーターフォード、キラーニー国立公園の4つのミュンスターサイトで放鳥。
2022年8月:ノルウェー生まれの雛4羽を放鳥。

White-tailed Eagle Reintroduction (Second Phase)
Milestone moment as 21 White-Tailed (Sea) Eagles released into the wild[From Department of Housing, Local Government and Heritage]


【Glengarri nest】
雌ワシは再導入プロジェクト(第1フェーズ)で2011年にアイルランドにやって来たノルウェー生まれのオジロワシ。
雛が生後2週間強で雄ワシが去り、雌ワシだけで雛を育てて2020年8月に巣立ちさせた。コーク島で100年以上ぶりに巣立ちした最初の雌ワシ。
雛の育成期に地元漁師、船員、Fota Wildlife Parkの支援によりNational Parks and Wildlife Serviceが補助食料を供給した。
Name the Glengarrif white-tailed eagle chick

Norwegian sea eagle success in Ireland[storymaps]
・ノルウェー中部トロンデラーグのオジロワシの巣で雛を収集。巣に複数の雛がいるのは繁殖ペアの5組に1組のみ。

Norwegian white-tailed sea eagles successfully released in Ireland


The white-tailed eagle in Ireland



<イングランド>
・Forestry Englandとロイ・デニス野生生物財団が共同でオジロワシのイングランド再導入プロジェクトを開始。
・目的:ワイト島と本土沿岸に6~8組の繁殖ペアの初期個体群を確立するため、5年間で最大60羽のオジロワシをワイト島で放鳥予定。
・Natural England(政府の野生動物に関する許認可当局)の許可を得て実施。プロジェクトに関わる雛の収集はScottish Natural Heritageの許可に基づき、スコットランドの野生の巣からワイト島へ移送。
・プロジェクト費用:5年間で約25万ポンドに加え、衛星追跡機器の費用。当初2年間は個人寄付者(1名)で確保。

・ワイト島:イングランド南部で最後の既知の繁殖地。最適な採餌地域の周辺に位置し、森や崖に多数の潜在的な営巣地や幼鳥にとって閑静な地域もある。島は南部海岸の中心に位置しているため、オジロワシが分散してスコットランド、アイルランド、大陸の他の個体群とつながることが可能。
・スコットランド西部(繁殖ペア約130組が生息)の巣からライセンスに基づいて、2~3羽の雛がいる巣から1羽を収集。
・幼鳥を助け、海岸定住の促進のため、最初の冬中まで給餌ステーションを設置し主に魚を供給。(しかし最初の鳥が秋に地域外へ分散開始すると予想)
・幼鳥が定着するまで数年かかるため、繁殖は少なくとも2024年までは開始されないと考えられる。
・オジロワシには衛星トラッカーが装着されており、放鳥後の状況を監視・追跡可能。同様の再導入プログラム基づいたデータでは、繁殖年齢までの生存率は約40%。(2019年放鳥されたオジロワシ6羽のうち4羽が2020年9月時点で生存)
・アイルランドでは放流後の最初の年の生存率は75%、その後の年間生存率は90%。スコットランドでは放鳥後約37%が繁殖年齢(5歳)の到達。

2019年夏 5年間のオジロワシ再導入プログラム開始。ワイト島で6羽放鳥。G318はイングランド北東で1年近く過ごす。G393は9月に島を去り17カ月放浪し、イングランド中を飛行。
2020年夏 ワイト島で7羽放鳥。
2021年3月20日 2019年放鳥後に生き残った4羽全てがワイト島に帰還。オジロワシは通常約2~3歳で出生場所から50km以内に戻って来る。将来的に南海岸に繁殖地を設立する可能性がある。

White-tailed eagle reintroduction to Isle of Wight | August 2019[Forestry England]
White-tailed eagle project | June 2021 update Homecomings and hunting behaviour[Forestry England]
Successful second release of white-tailed eagles takes place in landmark English reintroduction project[Forestry England]
White-tailed Eagle Project – Frequently Asked Questions[Roy Dennis Wildlife Foundation]
White-tailed Eagle Scientific name: Haliaeetus albicilla Identification[Roy Dennis Wildlife Foundation]

Chris Packham seeks out White Tailed Eagles on the Isle of Wight | Our Wild Adventures | Jul 2021


イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/チャンネル諸島ハクトウワシ回復プロジェクト
DDTの海洋汚染の影響で、ハクトウワシはチャンネル諸島から1960年代初頭に消滅。ハクトウワシの回復活動はカタリナ島で1980年から、北チャンネル諸島では2002年~2006年にかけて”Bald Eagle Restoration Project”(チャンネル諸島のハクトウワシ復元プロジェクト)が開始された。このプロジェクトの目的は、チャンネル諸島で自己維持(外部からの支援なしで自然環境の中で繁殖し、生き残ることができる)ハクトウワシの個体群を形成すること。

Return Flight: Restoring the Bald Eagle to the Channel Islands


Bald Eagle Restoration on the Channel Islands



1940年代後半から1970年代初頭にかけて、数百万ポンドのDDTとPCBが南カリフォルニア沖の海洋水域に放出された。その大半は世界最大のDDT製造工場の1つであるモントローズ化学工場(カリフォルニア州トーランス)から発生したもの。工場は、ロサンゼルス郡衛生区が運営する集合管に排水を放出し、ホワイトポイント沖の沖合排水口を通じて海に放出され、大量のDDT汚染物質がパロスベルデス大陸棚に沈着。同時期に、ロサンゼルス盆地全域の多数のポイントからPCBが大量に放出され、同じ排水口を通じて海洋水域に放出された。また、モントローズ化学工場は、サンタカタリナ島近くの海域にドラム缶入りのDDT汚染廃棄物を何百トンも投棄した。
これらの汚染物質は魚を汚染し、鳥の卵殻が薄くなり孵化する前に壊れ、チャンネル諸島のハクトウワシやファルコンの個体群を減少させた。

<サンタカタリナ島ハクトウワシ回復プロジェクト>
Restoring and monitoring bald eagles in Southern California: The legacy of DDT[Peter B Sharpe、 David K Garcelon,2010,Environmental Science]

1)1980年~1986年:ハッキングタワーから放鳥
・野生動物研究所(Institute for Wildlife Studies,IWS)はハクトウワシの繁殖個体数の回復を目指し、チャンネル諸島サンタカタリナ島のハッキングタワーから33羽の幼鳥をリリース。
・Hacking(ハッキング):人工的に作れられた巣がある塔(Hacking Tower)で雛を育て、そこから野生環境へリリースするという管理手法。
・雛たちはカリフォルニア州北部、ワシントン州、ブリティッシュコロンビア州の野生の巣から集められ、3つの人工巣あるいは”ハッキング”プラットフォームからカタリナ島で放鳥。最初の放鳥が成功し、多くが成熟して島で繁殖ペアを形成。
・ハッキングワーの構造:壁面には給餌口と一方向のガラス窓、ケージの側壁の後半分はコンクリート、各側壁の前半分とケージの前面全体は垂直の金属棒。前面扉が開放されるのは12週齢。

2)1987年、1988年:最初の産卵
・巣の中で卵が破損。卵の残骸を分析した結果、DDE(DDTの分解物)濃度が高く、カタリナ島周辺で採集された魚類、カモメ、海棲哺乳類のDDE汚染が潜在的な餌生物の分析で確認された。

3)1989年以降:巣操作
IWSはワシの個体数を維持・増加させるため、さらなるハッキングと並行して、積極的な「巣操作」(nest manipulation)を開始。
・ワシの抱卵確認日より1~4日以内に人工卵(ワシの卵と同じ一般的な大きさ、形、重さの樹脂製卵)に交換。
・卵はサンタクルーズ捕食鳥類研究グループ(SCPBRG、1989-1991)またはサンフランシスコ動物園の鳥類保護センター(ACC,1992-)に輸送し、人工孵化を実施。巣から取り出した卵の孵化率は20%程度。
・カタリナ当の成鳥が約30日間(交換された)卵を温めた後、健康な雛を1〜2羽を巣(出生巣か別の繁殖ペアの巣)に戻した。巣の人工卵は回収。
・巣に戻された雛たちは、元々巣で生まれた卵か、ACCで飼育繁殖しているワシが産んだ卵から孵化した。
・動物園で飼育下のワシが産んだ雛もカタリナ島でハッキングタワーから放鳥。
・野生の巣の”viable egg”(生存可能な)をカタリナ島の巣へ移植。(1991年2回、1995年1回)
・人工卵に交換後、成鳥が巣を放棄したのは2ペア。両方とも1か月以内に再度産卵したが、1ペアは人工卵に交換後、再び巣を放棄。
・成鳥が巣を放棄するのを減らすために、巣操作(卵と雛の入れ替え)の間、巣の中にいるのが見えている時間を20分未満にした。
・雛が8週齢になると、巣で雛に金属製足輪、カラー足輪、ウィングマーカー、バックパック型無線送信機を装着。汚染物質分析のために血液サンプルを採取、性別決定のため形態学的な測定も実施。

3)1991年-2003年:ハッキングタワーから放鳥
・巣を利用できない場合、ハッキングタワーからワシを放鳥。
・8週齢の雛をカタリナ島に運び、ハッキング・タワーで飼育し、放鳥前にマーキングと無線タグを装着。

1989年以降、ハッキングタワーから放鳥21羽。巣で育てられた雛42羽、1991年には巣で卵が2個孵化、うち35羽(80%)が巣立ち。
放鳥された鳥の約50%は、巣立ち後2~3ヶ月で島を離れ、カリフォルニア州サンディエゴからブリティッシュコロンビア州まで飛行した報告がある。初年度の最低生存率は70%以上。島には通常15~20羽のハクトウワシが生息しており、うち5組が繁殖中。

A Recovery Takes Wing : Bald Eagle Shows Signs of Overcoming DDT in Return to Catalina[JAN. 26, 1992,latimes]


<チャンネル諸島のハクトウワシ回復プロジェクトト>
・”Montrose Settlements Restoration Program(MSRP)”から資金提供。
・MSRP:Montrose Chemical Corporationなどの南カリフォルニアの産業源から放出されたDDTおよびPCBによって環境が損なわれた自然資源を回復することを目的とした多機関プログラム。2001年に設定されアメリカ海洋大気庁、他の連邦機関、州政府などが協力して運営。

1)”Northern Channel Islands Feasibility Study
・北チャンネル諸島においてハクトウワシの保全活動を行うために実施された調査。2002年から2006年にかけて、MSRPが野生動物研究所と協力して実施。得られた情報はハクトワシの移動、生存率、健康状態を監視に役立つ。
・残留DDTが鳥類に影響を与え続けたため、人工孵化による卵の保護、営巣中の巣で孵化した雛を養育(fostering)、ハッキングタワーから継続的な放鳥によって、生息数を維持。
・ハッキングタワー:生後約8週間の雛は、サンタクルーズ島のハックタワー(2棟)で巣立ちできるまで飼育。巣立ち前に、翼マーカーや足輪を装着し、汚染物質や安定同位体分析のために血液検査を実施。2002年~2006年合計61羽を放鳥。
・監視活動:毎年実施。新しい営巣ペアの発見、繁殖行為のデータ収集、ハクトウワシの追跡、汚染物質分析等。

2002年:MSRPはパートナーのIWSと共同して、北部チャンネル諸島に幼鳥のハクトウワシの導入開始。主要なDDT源であるPalos Verdes Peninsulaから遠く離れた場所にあるサンタクルーズ島で5年間のハクトウワシ回復実現可能性調査を開始。
2002年~2006年:IWSは61羽のハクトウワシをサンタクルーズ島に放鳥。
2006年:北部チャンネル諸島で50年ぶりに巣作りが初めて確認され、2組のハクトウワシが各1羽の雛を育てた。その後、島々でハクトウワシの個体数が増加。
2007年:カタリナ島の一部の巣に卵を残し始め(=人工孵化の中止)、2009年に巣操作を中止。
2013年:繁殖ペア数は、サンタクルーズ島に5ペア、サンタローザ島に2ペア、アナカパ島に1ペア。北部チャンネル諸島には40羽以上のハクトウワシが生息し、現在、ハクトウワシが再び島の生態系の重要な部分となっている。

(2014年レポート)
・チャンネル諸島で合計15羽(サンタカタリナ島5羽、サンタクルーズ島6羽、サンタローザ島4羽)の雛が孵化。15羽中14羽が巣立ち(2013年は16羽)。
・カタリナ島では7つの巣から4羽のみ巣立ち。DDT汚染とは関係なく自然現象が原因。ウエストエンド・ネストのペアは今年新しい雌ワシ。エンパイアクエリーでは新しい営巣ペア。2つの巣は雛を産なまかった。初めて繁殖するペアが最初の数年間に「学習曲線」を持つことは一般的。Twin Rocksの確立されたペアも2014年に失敗した可能性があり、メスが30歳のため繁殖成功率に悪影響を与える可能性がある。
・2006年以降(2014年までに)、サンタクルーズ島、サンタローザ島、アナカパ島、サンタカタリナ島、およびサンクレメンテ島の巣で自然孵化した121羽の雛にバンドを装着。

(2016年レポート)
・チャンネル諸島の5島で営巣7件。繁殖成功率は59%(17回中10回)、雛16羽が10カ所の巣で孵化、全て巣立ち。この生殖率は2015年よりも高かったが、米国魚類野生生物局が設定した目標を下回る。
・失敗の大半は孵化期後半または孵化直後。DDTまたはドイモイ酸中毒の影響の可能性がある。
・目撃情報からチャンネル諸島には少なくとも44羽(主に繁殖成鳥)が生息すると推定。他に若鳥/亜成鳥も存在する可能性がある。さらに13羽の追加のワシが本土で報告された。

北部チャンネル諸島でのハクトウワシの回復は、絶滅危惧種である島狐(Island Fox)の回復にとって重要。1990年代に北部チャンネル諸島の島狐が大量減少した原因はイヌワシによる捕食だった。巣を作ったハクトウワシの活動領域が広がることで、イヌワシが島々で繁殖地を確立することを防ぐ可能性がある。

(プロジェクト報告)
Bald Eagle Restoration on the California Channel Islands
Bald Eagle Restoration on the California Channel Islands  January — December 2016 15th Annual Report

A man who saves eagles by helicopter[BBC]
野生動物研究所の研究生態学者として、チャンネル諸島国立公園内のハクトウワシ監視プログラムを指揮しているシャープ博士はのプロフィールと活動内容。
1997年に繁殖ペア数3組と過去最低。2006年に回復プロジェクト終了以降、合計129羽の雛が島で自然孵化。現在ワシの個体数には20の繁殖ペア。

ハクトウワシのジレンマ:農薬と希少種[National Geographic]
ハクトウワシ復元プログラムが島の生態系に与える影響に関する情報。


Fostering Bald Eagle Chicks to the West End nest in 2007


Growth and Flight in nest

2002年のWest End bald nest(Santa Catalina Island)で成鳥3羽(雄1、雌2)が雛を育てている動画。解説によると、3羽で雛を育てるのは稀な出来事だが現実に起こることはある。当時の雄が少なく、2羽の雌が一緒に放鳥されたことが原因の可能性があり、雌たちは姉妹だったかもしれない。

Dr. Peter Sharpes' Presentation of the Restoration of Bald Eagles- and Peregrine Falcons 9-12-15


ディルドリン、TBTO、DDT、HBCD の鳥類繁殖毒性試験結果の概要等[環境省]
・DDT、特に DDT の代謝物である DDE については、鳥類の繁殖の成功に深刻な悪影響を与える卵殻厚の減少を引き起こすことがよく知られている。
・鳥類の種によって DDT による卵殻厚減少に対する感受性はかなり異なるが、猛禽類については最も感受性が高く、自然界において卵殻厚の減少が広く観察される。
・DDE の卵内残留濃度と DDE の餌中濃度の密接に関連しており、卵殻厚の減少度と DDE の卵内残留濃度の対数は比例関係にあり、フィールドデータもその傾向を証明している。

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ニューヨーク州ハクトウワシ回復プロジェクト
Bald Eagle Restoration in New York, 1976 to 1989[New York State, Department of Environmental Conservation]

1969年にニューヨーク州にはハクトウワシの繁殖ペア1組が残存。毎年産卵してもDDTの影響で孵化中に卵が破損し、ハクトウワシの生息地域には人間が移動・居住するようになった。
ニューヨーク州の新環境庁の生物学者たちのアイデア「もし他州生まれの幼鳥をNYで放鳥すれば、彼らがNYの巣で孵化した場合と同じように、おそらくNYに戻って繁殖するだろう」

「ハッキング:実験フェーズ」
・2つの技術を使用。1)他州生まれの幼鳥をリリース、2)州内唯一のネイティブな繁殖ペアを操作して若鳥を育てさせる(fostering)
・他種のハッキング経験があるコーネル大学鳥類学研究所のトム・ケイド(Tom Cade)博士と環境保全局(Department of Environmental Conservation,DEC)が協力。
・ハッキングプロセス:DECスタッフが考案。巣立つ数週間前に幼鳥を人工的な巣箱に収容し、羽毛が完全に発達するまでケージで生活。幼鳥が人間への恐怖心を持ち続けるように、(ワシから見えない)ブラインドから人間が給餌・監視。
・12~13週齢の若鳥が開放されたケージから巣立ち。小型無線送信機を一時的に鳥の背中に装着。最初の数週間は幼鳥の健康状態を監視可能。永久的な翼マーカーにより個体を識別し継続的に観察。
・世界初のハッキングタワー:ニューヨーク州中央部のモンテズマ(Montezuma)野生生物保護区に設置。DDTフリーを確認済み。
・当初5年間:米国魚類野生生物局(US Fish and Wildlife Service,FWS)およびコーネル大学と協力して、毎年4-5羽、合計23羽のハクトウワシの幼鳥をリリース。雛はミシガン・ミネソタ・ウィスコンシンの各州、およびメリーランド州パタクセントにあるFWSの飼育繁殖施設から供給。
・幼鳥は親鳥の指導なしで狩りを学び、自分たちで餌を食べ、野生で生き残り、後年にリリースサイトに帰還。
・1976年にモンテズマで最初に放鳥されたワシ2羽が1980年にニューヨーク州北部で営巣。2羽の雛が孵化、1羽が巣立ち。

「里親による子育て」
・ニューヨーク州唯一の残存ペアが産卵・抱卵開始から2週間以内に、生物学者が巣から卵を除去(DDTの影響で毎年卵が破損する)、石膏製のダミー卵に交換。繁殖ペアはダミー卵を2~4週間抱卵。その間に、プロジェクトスタッフが飼育施設からハクトウワシの雛を入手し、残存ペアの巣に「移植」。このペアは3年間、飼育施設で生まれた雛を育て巣立ちさせた。
・最初のペアの雄が死亡後、雌はハッキングされたワシと交尾後、元の巣に戻り、数年で合計5羽の雛を育てた。その後ハッキングされたワシが巣を占有し継続使用。

「フェーズ2:大規模ハッキング」
・目標:ハッキング手法によりニューヨーク州に10カ所の巣の復元する。FWSはハクトウワシの大規模生息地であるアラスカから年間約20羽の雛入手計画を承認。
・有望なニューヨーク州の生息地にコンドミニアム型のハッキングタワー3棟を建設。9年間で175羽が飼育できる。(第1フェーズも含めて合計198羽をタワーから放鳥した)
・ハッキングされたワシがニューヨーク州へ帰還して作った巣は、監視・管理し、冬期に生息するワシの増加を追跡。
・ハクトウワシ回復プログラムは、「州内で10組のハクトウワシが繁殖する」という目標を達成し1989年終了。ニューヨーク州のハクトウワシの個体数は継続的に増加。営巣・越冬場所は州環境品質債券法と環境保護基金からの資金で取得した開放的な土地や生息地。

Bald Eagle[DEC]
・2010年、ニューヨーク州には繁殖ペア173組、巣立ちした幼鳥244羽。毎年、巣立つ鳥は前年比約10%増加。

ニューヨーク州のハクトウワシ回復プロジェクトに関する映像。
How did the eagles return?



ハクトウワシの回復プログラムではNY以外にも多数実施。

<オクラホマ州のハクトウワシ回復プロジェクト>
・1984年から1992年の間に、サットンセンターは米国南東部で275頭のハクトウワシを飼育・放鳥。
・フロリダの巣からハクトウワシの卵を取り除き、オクラホマ州バートルズビルの飼育施設に輸送。
・抱卵・孵化後、雛は南東部の5カ所にある高品質な施設(habitat)で飼育、放鳥。多くは、縄張りや巣を確立するために放鳥エリアに帰還。
・1990年以来、オクラホマ州のハクトウワシの巣は毎年増加、2005年に記録的な55カ所、2020年約290カ所(グラフから読み取り)。
BALD EAGLE RECOVERY

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/アイルランド・イヌワシ再導入プログラム

<アイルランドのイヌワシ再導入プログラム>
The re-introduction of Golden eagle into the Republic of Ireland[European Commission CINEALIFE Programme LIFE Public Database]
イヌワシの欧州内の個体数:約5,077ペア(推定)。迫害、繁殖地の破壊、汚染の結果として、過去100世紀にわたって大幅に減少し。
現在の繁殖地:スウェーデン、フィンランド、スコットランド、および南ヨーロッパの一部の遠隔地の山岳地帯。
欧州中央部の営巣密度:1912km²あたり12ペアよりも低いことが多い。
アイルランドの個体群は1912年に絶滅。最後に残った strongholds拠点の1つがドニゴール州のアイルランドの最北西海岸で高地と山々で構成され strongholds沼地が広がる。全盛期にこの地域には最大12のイヌワシの巣のなわばりがあった。
長期的には50-100繁殖ペアが生息可能。
ドニゴール州のグレンヴェー国立公園:十分な生きた獲物の密度、適切な営巣岩、多数のカラスとノスリ、および特別保護地域(SPA)としての指定による法的保護メカニズムがあるため、種にとって理想的。
放鳥数:プロジェクト存続期間中に42羽。予想は60〜75羽だったが予想よりもはるかに高い生存率で補われた。2001年から2004年の放鳥35羽のうち死亡は3羽のみ。2007年春にアイルランドで約100年ぶりに雛が誕生した。

2001年6月、スコットランド猛禽類研究会の協力のもと、SNHの特別許可を得て、スコットランド内の巣からイヌワシのヒナ(生後5~6週齢)の採取を開始。
採取条件:採取許可数は年間12羽、累計75羽が上限。雛を採取できる場所とブルードサイズに関する厳しい条件付き、ヒナが1羽の巣やSPA( Special Protection Area)からのヒナの採取は不可)
幼鳥はドニゴール州に移送し、人工の巣台・止まり木を備えた特別設計の鳥小屋に収容。人工飼育し放鳥後は、無線追跡と翼のタグで観察・追跡調査実施。
グレンヴェイグ国立公園の放鳥数は53羽。広範囲に分散し、ドニゴール州で最大で6つの生息域を占有。
2007年にペア2組が繁殖、1つの巣から巣立ち。2008年に、ペア1組が産卵、孵化せず。2009年に1巣から2羽のヒナが誕生。

Press Release: Starving Golden Eagles require urgent government action[Irish Wildlife Trust ,25 November 2015]
・担当大臣にイヌワシ金色の鷲再導入プロジェクトを失敗から救うために緊急行動を要請。
・Golden Eagle Trustはプロジェクトの失敗を確認。ドニゴール州の丘陵地帯には十分な食物がなく、イヌワシの数の維持が不可能。
・2014年は1羽のみ孵化、2015年は雛が孵化せず。親鳥が歳をとるにつれ、生存可能な生息数を構築する時間がなくなっている。
・4つの繁殖ペアの領土内により良い食料供給があれば、2015年には複数の雛が孵化した可能性あり。
・グレンベイ国立公園や周辺の「特別保護地域」の管理計画や鷲を保護するための保全措置は何もない。
・スコットランドではイヌワシの主食は野ウサギまたはアカライチョウ。ドネゴールでは、カラスやアナグマの幼体の捕食を観察し、好ましい獲物数が少ない。
・イヌワシへの脅威はアイルランド高地生息地の健康状態が持続的に低下。主に無制限な野焼き、芝引抜、羊による過放牧が原因。

Golden Eagles reintroduction to Ireland 'could fail'[Irish Examiner ,25 November 2015]
・今年のドニゴール州では繁殖ペア3組から雛が巣立ちしなかった。主因は丘陵地帯の根本的な状況。
・5〜6年以内に山地で変化が見られければ、20歳前後で寿命を迎えて繁殖を止め、高齢の繁殖鳥の一部がいなくなり、再び繁殖ペアが1組または2組になる。
・次の6年間は重要。ターゲットを絞った山地管理を2〜3年行えば変化が見られるが、より持続可能な管理計画が実施されれば本当の結果を見るには7〜10年かかる可能性。
・ドニゴールプロジェクトでは、毒殺や人間の干渉は主要な問題ではなくなった。山地農業の経済、土地利用の持続可能性、農村社会と野生生物に利益をもたらすために必要な措置に焦点を当てる必要。
・巣立ちの時期には主にノウサギやウサギ、小さな獲物を食べるが、西海岸の1組は海鳥も捕食。
・現在までに通算11羽の雛が野生で誕生したが、今年のような悲惨な繁殖年を乗り切るには、個体数を大幅に増やす必要。

Biodiversity spotlight: golden eagles[Green News/March 11, 2022]
・”Reasonably successful”(適度に、そこそこに、成功した)再導入の取り組み
・現時点でドニゴール州以外の地域にもイヌワシの生息地が広がっている可能性があったが、そうなってはいない。
・国立公園野生生物局による事前調査では、山岳地帯には餌がもっとあるはずだった。プログラム開始後に生息地の条件が悪化し、ドニゴールの高地では野ウサギやアカライチョウなどのイヌワシの餌が減った可能性があり、イヌワイシの生息域が拡大しない原因かもしれない。


Can Ireland's golden and white-tailed eagles continue to soar?[BBC/9 Apri, 2022]
2001年-2012年に63羽のスコットランド産イヌワシがドニゴール州内で放鳥。新たに生まれた21羽-22羽の雛が巣立ち。
初期の重要な優先事項は羊農家と話し合い安心させること。(イヌワシの消滅原因の一つは羊農家等による射撃)

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/スコットランド南部イヌワシプロジェクト
<スコットランド南部イヌワシプロジェクト>
GOLDEN EAGLE Aquila chrysaetos Britain’s second-largest bird of prey, the majestic raptor is a population control expert[Rewilding Britain ]
18世紀から19世紀にかけて、羊農家による殺処分とゲームキーパー(猟場管理人)による射撃のため、イヌワシは1850年までにイングランドとウェールズで絶滅し、スコットランドの人里離れたハイランド地方で少数が生き残った。
さらに20世紀半ばに有機塩素系農薬の使用により、イヌワシは不妊症や卵殻の菲薄化を起こし、ただでさえ少ない雛の生存率(推定25%)が低下。1960年代後半から2000年代前半まで湖水地方に1つだけ巣があった以外はイギリスの他地域に広がることはなかった。
現在、イヌワシが直面している最大の脅威は、ライチョウの飼育場管理に関連した違法な迫害、第二優先課題は、生きた獲物の不足の解消。獲物の減少は主に鹿や羊の管理が変わったことによる。


<South of Scotland Golden Eagle Project(SSGEP)>



(背景)
スコットランドの大部分でイヌワシの生息数が全体的に増加。一方で、セントラルベルトの南側の地域では増加の兆しがなかった。北部で成長している個体群が南方へ移動することを躊躇。
Scottish Borders ,、Dumfries、Galloway地域の生息数は2~4組の繁殖ペアのみで孤立し脆弱。イングランドとウェールズで起こったことと同様に、この地域から消滅する危険に瀕している。

(目的)
スコットランド南部に生息する少数のイヌワシが絶滅するのを防ぐための重要な(viral)ライフラインの供給。(オジロワシ、ミサゴ、レッドカイトの再導入などの他の同様のプロジェクトとは目的が異なる)
NatureScotの調査によると、この地域の生息地は最大16組のペアに適している。(※米国のイヌワシ(とハクトウワシ)の生息数調査では、繁殖ペアと同数の非繁殖ペアが生息すると算定。この比率を元に計算すると、16ペア×2羽×2倍=64羽が少なくとも生息可能)

<プロジェクトスキーム>
プロセス:移送⇒衛星追跡機(satellite trackers)装着⇒放鳥⇒モニタリング⇒監視 + コミュニティアウトリーチ&教育(コミュニティアウトリーチ)

(移送・飼育)
・北方にあるワシの巣(eyries)からモファットヒルズにある非公開の特注鳥小屋(aviaries)へ移送。短期間とどまった後、サザンアップランドで放鳥され、そこで生息中のイヌワシと接触することで南部に留まるインセンティブを提供。
・雛の収集方法:2羽の雛がいるイヌワシの巣から、1羽を取り出して移送。残り1羽は巣に残す。
・雛は約6〜8週齢で収集され鳥小屋に収容。羽毛が生え、体温維持・防水力も取得し、配給した餌を自己給餌できる。
・イヌワシの幼鳥の飼育・放鳥には、過去のオジロワシとアカトビの再導入プロジェクトから得られた試行錯誤を重ねた方法を使用。
・猛禽類の専門家と土地所有者(estates)の協力により、イヌワシの雛を飼育・放鳥する方法を確立。

(移転/translocation)
・野生の若鳥(亜成鳥:6カ月~3歳くらい)をアウター・ヘブリディーズ諸島の餌場で慎重に捕獲。
・成鳥・繁殖鳥は除外するため、羽毛から鳥の年齢を割り出す。
・若鳥を輸送箱に入れ、陸路と海路でスコットランド南部まで迅速に輸送。衛星タグ装着後速やかに放鳥。(鳥小屋へは収容しない)
・どの各段階でも鳥たちのwelfare(福祉、快適さ)が最優先される。

(衛星追跡機/satellite trackers)
・放鳥された幼鳥に全て装着。太陽光発電で定期的に情報送信し、幼鳥の移動ルートを正確に追跡可能。
・タグ装着はリリース直前にライセンス保有者によって装着。重さは鳥の総体重の4%未満。視界が良ければ野外でも読み読み取り可能なカラーの足輪(文字と数字付)も装着。

(放鳥)
・幼鳥がリリース可能な状態になると、鳥小屋の正面扉が開かれ幼鳥が自由に離れることができる。
・鳥小屋から見える場所に設置された餌場には、晩夏~寒季にかけて屍肉を供給し、幼鳥が冬を乗り過ごし、南部地域に留まることを促進する。
・歴史的な鳥小屋は、プロジェクトの後期以降に初めて繁殖を試みる可能性に備えて増強される予定。

(モニタリング)
・放鳥後、プロジェクトチームは衛星データを追跡・監視。
・イヌワシたち全て新しい生息地に慣れ、自活中。Beakyが境界を超えて長年繁殖ペアがいなかったノース・ペニーズ地方へ訪れ、プロジェクトによってこの地域に移動させた雄のSkanと求愛行動をする姿も目撃された。
・衛星送信機によって、スコットランド南部のイヌワシ集団は、ハイランド地方の個体群から隔絶されていることが判明。

(評価)
・このプロジェクトによって特定されたことは、断片的で脆弱なイヌワシの個体群を強化する最善の方法は、若いワシの供給を増やすことで、そのワシが最終的に繁殖集団に加わること。
・かつての営巣地および潜在的な営巣地の再占有を確実にすることに重点を置き、地域の餌の供給をさらに改善するための生息地管理の追加策を特定する。

<プロジェクト・タイムライン>
2016年7月 プロジェクトが百万ポンド以上をHeritage Lottery Fund(ヘリテージ宝くじ基金)から確保。
2018年8月 生後約6~8週間で採取された幼鳥3羽をスコットランド・ハイランド地方→スコットランド南部へ移送後、放鳥(リリース)。この構想が最初に生まれてから10年以上経過。
2019年8月 今月新たにリリースされた幼鳥3羽が、昨年リリースされた雌1羽に攻撃を受け、1羽が死亡、1羽が行方不明。プロジェクトが後退。
2021年8月 8羽の幼鳥をリリース。
2022年9月 6羽の幼鳥をリリース。合計20羽リリース(うち2羽を失う)
2021/22年冬 30羽以上の生息を確認。さらに野生のイヌワシ7羽(生後6カ月~3歳)を英国で初めて移送(translocation)・リリース。合計生息数約39羽。
今後2年間、イヌワシの幼鳥と亜成鳥の移送を継続する予定。(2023年?にアウターヘブリディーズ諸島で7羽を捕獲・移送・放鳥)

<支援、資金援助>
・ Scottish Land & Estates、RSPB Scotland、Scottish Forestry、NatureScot. The Southern Uplands Partnershipの支援。
・ 資金援助:ナショナル・ロッタリー・ヘリテージ・ファンド(The National Lottery Heritage Fund)(150万ポンド)、スコットランド政府、Scottish Power Renewables
・スコットランド政府および欧州連合(LEADER 2014-2020プログラム)から150,000ポンド以上のマッチングファンド。

BBCの記事を読めばプロジェクト概要と進捗が分かる。
Golden eagle chicks released to boost south of Scotland population [BBC,21 August 2018]
South of Scotland golden eagle population reaches new heights[BBC,3 March 2022]
The highs and lows of the South of Scotland Golden Eagle Project[1 May 2023 ]
・2021年の放鳥により、移転された幼鳥は12羽(他に2羽死亡)。地域の生息数を3年間で倍近くに増やした。(⇒ プロジェクト前の地域の生息数は12羽程度と思われる)
・2022年までに、スコットランド南部のイヌワシ生息数は過去300年間で最高レベルの39羽。
・直近の移送・放鳥は7羽。アウターヘブリディーズ諸島で捕獲・移送・放鳥。

詳細なプロジェクト報告。
Pioneering conservation project reveals new record number of golden eagles soaring in southern Scottish skies ahead of UK’s only golden eagle festival (8 September 2022)[South Scotland Golden Eagle Project]


Commissioned Report No.193 A conservation framework for golden eagles: implications for their conservation and management in Scotland (ROAME No. F05AC306)(11pageTable3) 
(ハイランド地方の巣の数)
           Known/1997Active/2003Active/
Northern Highlands 90 / 45 / 43
Western Highlands 67 / 54 / 51
Central Highlands 26 /12 / 12
合計        183 / 111 / 116

2015年全国調査:スコットランド全域の繁殖ペア数は508組(Golden eagle | NatureScot



The south of Scotland golden eagle project, part 1 (雛の収集)


Releasing golden eagles - South of Scotland golden eagle project, part 2(衛星通信タグ装着と放鳥)


イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/ユタ州のイヌワシ保護プロジェクト
Saving the golden eagle - Populations are struggling in Utah, the West[Deseret News、2021.7.29]
この記事はユタ州におけるイヌワシ保護プロジェクトのリポート。このプロジェクトでは、米軍と連携し、GPS送信機を利用した生存率調査、ドローンを活用した巣の特定と監視活動を実施。また、プロジェクトとは別に実施されている巣の周辺地域における風力発電のバードストライク対策、ロードキルに誘引された自動車衝突事故対策についても書かれている。

ユタ州での保護プロジェクトの概要報告動画。
Golden Eagle Nesting & Landscape Change in Utah — HawkWatch International


1)イヌワシの生存率を低下させたジャックラビットの大量死
2013年以来、連邦政府、州政府、その他のパートナーの協力を得て、Hawkwatch Internationalのスタッフと野生生物学者は、崖の上の巣から雛を回収し、健康診断後、GPSバックパック送信機を雛に取りつけた。GPS送信機を装着した回数は2020年まで70回以上。
送信機を装着して巣立ちした若いイヌワシは約半数が生後12か月以内に死亡した。イヌワシの巣の生存率は、スレーター(Hawkwatch)が少なくとも40年間見てきた中で最悪のシーズン。イヌワシは初期の数ヶ月を生き残ることができれば通常長命であり、最高齢記録はユタ州で死んだ31歳の個体。
最悪の生存率の原因は、イヌワシの主な獲物であるジャックラビットを一掃している病気「兎ウイルス性出血病(RHD)」のタイプ2(RHDV2)。

「ウサギ版の新型コロナ」が米国に拡散、数千匹が既に死亡[Forbes Japan]
ウサギの間で広まる「兎ウイルス性出血病(RHD)」のタイプ2(RHDV2)が 米国南西部で数千匹のウサギを死滅させ、ウサギを餌とする野生動物にも危機をもたらしている。科学者らは兎ウイルス性出血病が家畜から欧州の野生のウサギに広まったと考えている。コロラドやカリフォルニア、テキサス、アリゾナ、ニューメキシコ、ネバダなどの州で数千匹の野生のウサギがこの病気にかかり、体内の出血や臓器の膨張、肝臓のダメージなどで死んでいる。

2)米軍と連携したイヌワシの監視・追跡
GPS送信機で収集された情報はデータベースの構築に利用され、生物学者や保護活動家は数千ペアのイヌワシがユタ州に存在することをより詳細に記録することが可能。
Hawkwatchのスレーターによると、イヌワシにとって最高の生息地は、国防総省の軍事施設と共存しており、特にユタ州西部の辺境にあるダグウェイ実験場はその代表格。Hawkwatchは数年前からダグウェイ、ヒル空軍基地、ユタ試験訓練場と連携し、イヌワシの営巣地を記録中。この種の研究では米国西部で最大規模で、環境安全保障技術認定プログラム(Environmental Security Technology Certification Program:ESTCP)による2020年資源保全・回復力プロジェクト・オブ・ザ・イヤーを獲得した。

※プロジェクト概要:Use of sUAS/UAS to Cost Effectively Monitor Eagle Nestingエグゼクティブサマリー

イヌワシは保護種であるため、軍事訓練を含むあらゆる人間活動は、動物を守るために可能な限り最小限に抑えなければならない。国防総省はGPS発信機の導入に資金を提供し、Hawkwatch等とと協力して巣の様子や生存率を記録するようになった。
軍とHawkwatchは、これらのプラットフォームを使って巣の確認と鳥の監視を行うため、地上でのアプローチ、市販ドローンの飛行、軍用ドローンの飛行による観測の3本立てのブラインド調査を実施。
軍にとってもうひとつのメリットは、ダグウェイ実験場の自然資源プログラムマネージャーによるイヌワシの監視行為が任務遂行のための貴重な訓練になった。


3)エネルギー産業と連携したイヌワシと生息地の保護活動
Hawkwatchがより貴重な情報を提供しているのは、ユタ州中央部のプライス近郊の油田とガス田。天然資源の採掘において、地表面に影響を与える前に、巣の場所への潜在的な影響を含む広範なレビューを要求しているため。敷地内に営巣地がある場合は、イヌワシを保護するのにかなり有効な半マイル(約800m)の緩衝地帯の設置が義務付けられている。
エネルギー企業がパッド(土壌保護用の土や砂利)やパイプラインのために地面を掘削する時、イヌワシの狩りを妨害する植生であるピニョンジュニパーも除去されるため、イヌワシにとっては有益。
※ピニョンジュニパー(pinyon juniper):アメリカ西部の砂漠近くの高地にある植生で、低く、茂み状の常緑樹の群落。ピニョン松。

風力発電所の運営者も、他の鳥やワシが風力タービンのブレードして衝突して起こる死亡事故を最小限に抑えるために効果的な協力を行っている。Hawkwatchは、サンフアン郡モンティチェロ地域の風力発電所運営者と協力し、ワシが接近する前に風車が迅速に停止するようにしたり、ユタ州を含む3州にまたがる大規模な車両衝突調査(Eagle Vehicle Strike Project)も行っている。イヌワシはロードキルを食べるために車道に飛び出して事故死する。この調査の第2段階が終了し、5年間で73羽のイヌワシが車両に衝突したと記録されている。
※米国魚類野生生物局(U.S. Fish and Wildlife Service)によると、北米におけるイヌワシの死亡事故は年間545件(推定)、うち車両衝突事故が大きな割合を占める。

ユタ州の農村地域にある風力発電所の従業員は、ワシが風力タービンと衝突することを防ぐための方法の一つとして、高速道路に飛び出して道路上で死んだ動物を安全な場所に移動させ、そこでワシがロードキル(交通事故死した動物)を食べられるようにすることも可能だ。
この手法の有効性を研究するため、ユタ州、オレゴン州、ワイオミング州の合計1,850マイルに及ぶエリアを対象に、3年連続で秋冬シーズンにオレゴン州とユタ州に重点を置いて調査した。この研究は米国魚類野生生物局西部イヌワシチーム、各州の野生動物管理局や交通部門、風力発電産業等と広範な協力下で実施され、研究資金の主な提供者は風力発電産業。

研究調査報告:Golden eagle use of winter roadkill and response to vehicles in the western United States(Steven J. Slater他,04 May 2022,The Wildlife Societ)
・160のロードキルを監視し、58の死骸で2,146回(1〜240回/ロードキル)のイヌワシ-車両間の相互作用を補足。
・モーションセンサーカメラ設置後に時間が経つにつれて、イヌワシがロードキルを利用する頻度は減少。道路からの距離が遠いほど利用頻度は増加。
・(通過する)車両からワシが飛び出す回数は、ロードキルから道路までの距離が遠いほど減少、朝には増加、大型車両や最も近いレーン内の車両に対しても増加。
・ロードキルから飛び出すことがイヌワシの車両衝突の主要因。道路からロードキルまでの距離が最も簡単に操作できる要因であり、ワシへの食料提供を増やし、飛び出しによる車両衝突リスクを減らすという二重の利益がある。
・道路から少なくとも12m離れた場所にロードキルを移動することを推奨。道路端で観察された行動に比べて、ワシのロードキル利用を増やし、かつ、飛び出しを1/4(decrease flushing 4-fold)に減らすことができる。


ヤマヨモギが自生する草原・低木地帯に生息するイヌワシや他の動物にとって、最大の脅威は猛烈な山火事によってその植生が破壊され、代わりに侵略的なチートグラスが残されること。
※チートグラス:アメリカ合衆国西部に自生する多年生の草で、乾燥した環境に適応。他の植物と競合し、土壌中の栄養素を吸収する能力が高いため、他の植物が生育できなくなる。

イヌワシは食物連鎖の頂点に位置するため、その状況は環境の健康状態を示す良いバロメーターとなる。

イヌワシ・ハクトウワシ関連情報/動物虐待防止協会(イングランド/スコットランド)、アメリカイーグル財団
スコットランド動物虐待防止協会(SSPCA)
・Scottish Society for the Prevention of Cruelty to Animals。1839年設立。収入1660万ポンド(29.3億円)、支出1890万ポンド(33.4億円)。10センター合計費用880万ポンド(15.5億円)
・Animal Rescue and Rehoming Centre(9ヶ所)(ペット用)
・National Wildlife Rescue Centre(全国野生動物救護センター)(2012年設立):2022年/治療動物4908(2021年6605)、うち74%が野生復帰(以前は40-45%)。22年は大型哺乳類の復帰率が90%と高い。
・収支(2020年):収入1660万ポンド(29.3億円/うち寄付・遺贈93%)、支出1890万ポンド(33.4億円)。10センター合計費用880万ポンド(15.5億円)

スコットランド SPCA 国立野生動物保護センター(Sspca National Wildlife Rescue Centre)⇒「国立」ではなく「全国(全スコットランド)」


Annual Report(2022)


英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)
・The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals。1824年設立。世界で最も古く最大の動物福祉団体、英国で最大の慈善団体のうちの1つ。活動エリアはイングランドとウェールズ。(Royal=「国王に許可された」の意味)
・リハビリ施設wildlife centre4ヶ所、animal centres14所運営。2021年の受入動物6万のうち野生動物2.3万。
・総収入152億ポンド(268億円)、大半が寄付・遺贈。

wildlife centres



アメリカイーグル財団
・1985年設立、会員数732人、寄付者約950人、スタッフ約30人。2020年収入114万ドル、支出142万トドル。501(c)(3)非営利団体。
・拠点:テネシーに保護施設、リハビリ受入10-50羽/年(どこからでも受入OK)。野生復帰合計600羽(1985-2020年)。リハビリ中72羽。
・プロジェクトイーグル:テネシー州コダック均衡で建設中の北米最大の猛禽類教育およびリハビリテーション施設(2022年秋にオープン予定)
Claws out: Sevier County is a center of raptor rehab[The Environmental Journal of Southern Appalachia]

【Eagle Mountain Sanctuary】
・Dollywoodにある野生復帰不可能なハクトウワシの終生飼養施設(米国で最大)。
・ ‘Pick a Mate’セクション.:最大のエンクロージャー。適格な雄雌の非ペアのワシの居住エリア。身体障害はあるが、部分的な飛行能力は維持。お互いをペア相手として選択したワシたちが繁殖ペアになる。
・繁殖ペア専用エンクロージャー(3セクション):人工の巣枠と、エンクロージャー内の天然素材を使ってペアが自分で作る入れ子構造。現在住んでいる繁殖ペアは、イザヤ&ジェファーソン夫人、グラント&グレンダ。
・4つの繁殖ペア(ハクトウワシとイヌワシ)は、AEFの公園外施設の広々とした繁殖用エンクロージャーに居住。
・5番目エンクロージャー:メイン展示と離れた平地に自然造園で設置。飛行能力(翼切断)を失った個体を収容。

A look inside Dollywood’s Eagle Mountain Sanctuary



【Eagle Hacking】
・ハッキング:ハクトウワシを人工の巣で作られた塔から野生環境で生活できるように飼育し放鳥するための管理手法。
・AEF飼育下の繁殖ペアの巣で孵化し育てられた雛が6〜8週齢(AEF本部の鳥小屋の雛は約8週齢、AEFのオンサイト(Dollywood)の鳥小屋の雛は約6週齢)に達すると、テネシー州東部Douglas Lakeのハックタワーへ移送、野生へのリリース準備を開始。
・独自の放鳥施設を持たない他組織や、野生の巣から転落した雛を受入。リリースまで飼育・リハビリ実施。負傷で野生復帰できなくなった場合は終生飼養。
・ハックタワー:人工飼育・放鳥施設。1992年-2021年にハクトウワシ180羽、イヌワシ11羽放鳥。東テネシー州のGreat Smoky Mountainsのふもとでリリース。
・雛が人間と食べ物を関連づけないような建物設計・オペレーション。
・同じ年齢の雛を4ケージの最大各3羽配置可能。同じ両親の雛である必要はない。
・野生で飛べるようになる約13〜14週齢でリリース。6.5~7.5フィートの翼幅で完全な成鳥サイズ。
・リリース時に装着するのは、翼にpatagial tag 、リリース場所・日付を識別するレッグバンド、無線送信機(尾羽が脱皮すると廃棄)
・ダグラスレイクコーブエリア内で監視し、イーグルが餌を見つけられなかった場合に備えて数日間湖のほとりに残置。

※ハックタワーへ移送する週齢
・Dollywoodの場合、雛が巣の下の地面や繁殖施設のスタッフを見下ろし始める直前に実施(通常約6週齢)。
・雛が巣の側面から見下ろし始めると、AEFのスタッフが鳥小屋内の地面に食べ物を置いて、親ワシが巣に持ち帰っているのを目撃してしまう。雛が人間を食料源として永続的に関連付けることになり、自分で狩り(釣り)をすることを学ぶ必要があることを理解できなくなる可能性があり、放鳥後に餓死するリスクがある。
・雛がDollywoodの訪問客を80フィート離れた場所から数週間見ることで人間の存在に慣れすぎると、幸福が大幅に低下する程度に野生を失う傾向がある。


ハックタワーへの移送シーン。野生復帰不可能な繁殖ペアの巣で孵化したイーグレット3羽は、6週齢になるとダグラス湖のハックタワーへ移送。約13週齢で野生へ放鳥される。この巣は森の中にあるので、普通の野生の巣と変わらない。
Eaglets Taken to Hack Tower June 16, 2013 (AEF)


給餌シーン。イーグレットが人間の姿を見ないようにカーテンの奥から餌の乗ったトレーを差し出す。顔も見られないようにスタッフが迷彩着を頭からかぶっている。もしイーグレットに人間=餌をくれるという刷り込みが起こると、放鳥後に餌をもらうために人間を探すことになるので、それを避けるための給餌方法。
Bald Eaglet Placed in Hack Tower AEF)


放鳥シーン。
Bob Hatcher Discusses Hack Tower Release Success (AEF)


AEF 2020 Annual Report
AEF 2020 Financial Statement

カレンダー
05 | 2023/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。