久しぶりに買ったブッフビンダーのCD(新譜)はレーガーがピアノ編曲した『ブラームス歌曲集』。彼のCDで持っているのはTeldec盤の『ベートーヴェン:ピアノ独奏曲作品全集』とスーク・シュタルケル・ブッフビンダーによるライブ録音『TRIO RECITAL 1973(シュヴェツィンゲン音楽祭)』の2枚。
    ブッフビンダーの録音はほとんど聴かないけど、このレーガー編曲版だけを収録したアルバムは他には見あたらないので、かなり希少なアルバムだと思う。

    試聴ファイルで聴いた時には、ちょっとエコーかけたみたいな人工的な響きに聴こえたけど、ブラームスもレーガーも好きな作曲家だし、なにしろ珍しいピアノ編曲版歌曲集なので購入。

    ブラームス/レーガー: Song Transcriptionsブラームス/レーガー: Song Transcriptions
    (2024年03月15日)
    ルドルフ・ブッフビンダー

    <収録曲>
    1) 6 Gesänge, Op. 3 - No. 1, Liebestreu (愛のまこと)
    2) 5 Gedichte, Op. 19 - No. 4, Der Schmied (鍛冶屋)
    3) 4 Lieder, Op. 46 - No. 4, An die Nachtigall (夜鶯に寄せて)
    4) 5 Lieder, Op. 47 - No. 3, Sonntag (日曜日)
    5) 5 Lieder, Op. 49 - No. 1, Am Sonntag Morgen (日曜日の朝)
    6) 5 Lieder, Op. 49 - No. 2, An ein Veilchen (すみれに寄せて)
    7) 5 Lieder, Op. 49 - No. 4, Wiegenlied (子守歌)  ※レーベルサイトの曲名は「黄昏」間違い
    8) 5 Gesänge, Op. 71 - No. 5, Minnelied (愛の歌)
    9) 5 Gesänge, Op. 72 - No. 1, Alte Liebe (昔の恋)
    10) 5 Romanzen und Gesänge, Op. 84 - No. 1, Sommerabend (夏の夕べ)
    11) 5 Romanzen und Gesänge, Op. 84 - No. 4, Vergebliches Ständchen (甲斐なきセレナーデ)
    12) 6 Lieder, Op. 85 - No. 6, In Waldeinsamkeit (森の静寂の中で)
    13) 6 Lieder, Op. 86 - No. 2, Feldeinsamkeit (野の寂しさ)
    14) 6 Lieder, Op. 86 - No. 3, Nachtwandler (夜にさまよう男、夢に遊ぶ人) ※レーベルサイトの曲名は「夢遊病者」
    15) 6 Lieder, Op. 86 - No. 4, Über die Heide (荒野を越えて)
    16) 5 Lieder, Op. 94 - No. 4, Sapphische Ode (サッフォー頌歌)
    17) 7 Lieder, Op. 95 - No. 4, Der Jäger (狩人)
    18) 4 Lieder, Op. 96 - No. 1, Der Tod, das ist die kühle Nacht (死、それは清々しい夜 )
    19) 4 Lieder, Op. 96 - No. 2, Wir wandelten, wir zwei zusammen (我らはさまよった)
    20) 6 Lieder, Op. 97 - No. 1, Nachtigall (夜うぐいす)
    21) 6 Lieder, Op. 97 - No. 4, Dort in den Weiden steht ein Haus (あそこの牧場に一軒の家が立っている )
    22) 5 Lieder, Op. 105 - No. 1, Wie Melodien zeiht es mir (歌の調べのように私をよぎる)
    23) 5 Lieder, Op. 105 - No. 2, Immer leiser wird mein Schlummer (私のまどろみはますます浅く)
    24) 5 Lieder, Op. 105 - No. 4, Auf dem Kirchhofe (教会の墓地にて)
    25) 5 Lieder, Op. 106 - No. 1, Ständchen (セレナード)
    26) 5 Lieder, Op. 107 - No. 2, Salamander (サラマンダー)
    27) 5 Lieder, Op. 107 - No. 3, Das Mädchen spricht (乙女は語る)
    28) 5 Lieder, Op. 107 - No. 5, Mädchenlied (乙女の歌)


    <ブックレットの解説>
    個々の作品解説はなし。レーガーとブラームスの関係と、レーガーが編曲版を書くに至った経緯と編曲上のポリシーについて書かれている。特にレーガーどれほどブラームスを尊敬し賞賛していたかが、引用されているレーガーとブラームスの言葉からよくわかる。新人作曲家だった頃のレーガーの状況と彼のブラームスへの想いが伝わってくる良い解説だった。(以下、引用と要約)

    ブラームスが亡くなった時、レーガーは1987年の手紙にこう書いていた。
    "Johannes Brahms is dead. This news has left me even more shaken than I would have been at the death of a close relative.", "I became very close to him over the course of the last few years, and only last autumn(September) I spent a fortnight as his guest at Bad Ischl. He was undeniably the greatest musician since the death of Wagner and it will be a very long time before anyone else emerges to uphold the great and venerable ideals of a Bach or a Beethoven as powerfully as he did in the face of the party currently trying to subvert the world music."
    「ヨハネス・ブラームスが亡くなった。この知らせは、近親者の死よりも私を震え上がらせた」、「ここ数年、私はブラームスと親しくなり、昨秋(9月)にはBad Ischlで2週間、彼のゲストとして過ごした。彼は紛れもなく、ワーグナーの死後最も偉大な音楽家であり、現在世界の音楽を破壊しようとしている党派の前で、バッハやベートーヴェンの偉大で由緒ある理想を彼ほど力強く支持する人物が現れるのは、かなり先のことになるだろう。」

    ブラームスとレーガーは、彼ら自身の時代と同時代人に対して懐疑的な立場にあったという点で、実際に同じ(Kindred)精神を持っていた。別の言葉で言えば、レーガーの表現(wording)は、ブラームス-長い間ウィーンにおける主要な(leading)の作曲家であり今や尊敬されている(Feted)-と、レーガー-Wiesbadenに拠点を置く新参者-との間にある程度の親密があることを示唆している。しかし、より詳しく調べれば、かなり違った風景が現れてくる。Bad Ischlでレーガーがブラームスと過ごした点について第三者(Independent)による証拠はない。当時、レーガーは依然として大して成功していなかったし、彼の作品の大部分は無視されていた。さらに借金をかかえ精神的にも肉体的にも重い病気だったので、故郷に帰って両親と住まなければならなかった。彼は自分のことを”failure(失敗した人間)”だと言っていた。彼が他の傑出した作曲家の威光に浴しそうと(bask in the rays)したことは理解できる。

    1986年春、レーガーは新作《オルガン組曲Op.16》のコピーをブラームスに送った。受取人を"my highly revered & deeply admired master"(非常に尊敬し深く憧れている師)と呼び掛けて。同時に最初の交響曲をブラームスに献呈しても良いかどうか敬意をこめて尋ねた。数週間後にブラームスから届いた返事は;
    ”Dear Sir, I must thank you most sincerely for your letter, whose warm - and far too friendly - words certainly struck a chord with me. You are also thinking of offering me a splendid gift in the form of a dedication. But do you really need my permission? I had to smile at your request & also at your enclosure of a work whose all too brazen dedication left me feeling shocked", "In that case you may certainly add the name of your devoted servant, Jahannes Brahms." 
    「Dear Sir、このたびはお手紙をいただき、誠にありがとうございました。温かく、そしてあまりにも親しみやすい言葉が、私の心を打ちました。あなたはまた、献呈という形で私に素晴らしい贈り物をしようと考えておられる。でも、本当に私の許可が必要ですか?私はあなたのリクエストに微笑まざるを得なかった。そしてまた、同封された作品のあまりにも臆面の無い献辞に私は驚きました。」(レーガーはオルガン組曲を”The Shades of Johann Sebastian Bach”に献呈していた。※shades of: something that reminds you of someone or something…(誰かまたは何かを思い出させる何か)
    「その場合は、あなたの献身的なしもべであるヨハネス・ブラームスの名前を付け加えてください。」

    数日後、レーガーは彼が崇拝する人から写真を受け取った。お返しにブラームスは彼の若い同僚のポートレートを求め、面会することを約束した;”merely cheering your works can satisfy neither you nor me.”
    「あなたの作品を単に喝采するだけでは、あなたも私も満足できない。」

    レーガーがブラームスに会いにBad Ischlに行ったかどうかは、ブラームスに献呈する計画だった交響曲の所在と同じく明らかではない。
    1904年までにレーガーは結婚してミュンヘンに住み、市のRoyal Academy of Musicに指名されようとしていた。ちょうどベルリンに拠点を置く出版社Simrock(ブラームスと何よりもまっ先に関連づけて考えられる会社)からアプローチされた。レーガーは名誉に感じたが、今ある他の出版社とのつながりを捨てたくはなかった。そこで2つの条件(twofold sense of that term)をつけて編曲として書けることものを契約した。つまり、1)彼はピアノソロ用にブラームス歌曲のいくつかを編曲したい、2)1905/06年の冬にブラームスの生涯にわたる歌曲作品のなか14曲を選んで編曲を行うと言明した。6年後に同数の曲を編曲し、歌詞を添えて4巻に分けて出版された。レーガー自身の作品では、しばしば Out-Brahms Brahms(ブラームスから遠く離れたブラームス) の誘惑に負けて、彼自身を”Super-Brahms”や”Brahms raised to the power of two”(ブラームスの2乗)に転換したが、ブラームス歌曲の編曲ではレーガーは厳しく、慎み深くあり続けた。

    ”These will not be transcriptions embellished with 'brilliant' passagework. In the case of such masterpieces, any embellishment and any attempt to introduce a note of brilliance would be an unheard-of act of vandalism. I mean to adopt a different approach by bringing out the vocal line and, where possible, retaining the original accompaniment in the most faithful way that I can."
    「"華麗な"パッセージで装飾された編曲にするつもりはない。このような傑作の場合、装飾を施したり、才気煥発さを導入しようとすることは、とんでもない破壊行為となる。私は、歌曲の旋律(Vocal line)を引き出し、可能であれば、できる限り忠実な方法でオリジナルの伴奏を保持することによって、異なるアプローチを採用するつもりだ。」
    (要約終)


    ステレオでCDを聴くと残響やや多めの普通のピアノの音で全然問題なかった。編曲自体は期待以上に素晴らしく、好きな曲が多い。短調の曲は大体好きで、長調の曲は民謡風のリズミカルな曲よりは、子守歌風の旋律の綺麗な曲が好きだった。
    元々レーガーのピアノ曲(小品集の方)は、ブラームスと比べれば、陰影がそれほど濃くなく、重音が多いわりに響きがすっきりしている。この編曲版も原曲のシンプルなピアノ伴奏を生かし、歌の旋律も重音を使っていても音は多くなくてごちゃごちゃせず、元の歌曲の旋律とピアノパートとの分離が良いので、聴きとりやすい。
    原曲の歌曲も聴いたけど、歌の旋律自体はピアノ編曲版の方がはっきりと聴きとれるし、男声か女声かを意識せずに聴けるのが私には良かった。でも、ピアノ独奏か原曲かどちらの方が好きかは曲によって違う。

    1)Liebestreu (愛のまこと)
    陰翳濃い目でシリアスで、ドラマの幕開けのような主旋律が印象的。
    歌詞を読むと、母に対する子の愛の重みを歌っているらしい。
    Brahms: 6 Gesänge, Op. 3 - No. 1, Liebestreu (Arr. Reger for Piano)


    Liebestreu, Op. 3/1

    Liebestreu Op.3-1 Sechs Gesänge/ 愛の誠 (6つの歌)


    3)An die Nachtigall (夜鶯に寄せて)
    主旋律が愛らしく、中間部の夢見るような旋律も綺麗。主旋律はピアノで弾いた方が愛らしい。
    歌詞を読むと、「夜鶯」(ナイチンゲール)の愛らしい歌を聴いて、失った愛を思い出させられた男の歌のように思える。
    Brahms: 4 Lieder, Op. 46 - No. 4, An die Nachtigall (Arr. Reger for Piano)


    An die Nachtigall, Op. 46/4

    An die Nachtigall Op.46-4 Vier Lieder ナイチンゲールに寄せて(4つの歌曲)


    4)Sonntag (日曜日)
    シンプルな旋律と伴奏でほのぼのとしていて、とても好きな曲。この曲も主旋律はピアノで弾いた方が優しくてほっこり。
    日曜日の風景の歌かと思ったら、歌詞は好きな女の子に会いたい男の子の気持ちを綴っていた。
    Brahms: 5 Lieder, Op. 47 - No. 3, Sonntag (Arr. Reger for Piano)


    Brahms: Fünf Lieder, Op. 47 - III. Sonntag "So hab ich doch"

    Sonntag Op.47-3 Fünf Lieder / 日曜日(5つの歌曲)


    5)Am Sonntag Morgen (日曜日の朝)
    日曜日の朝の浮き浮きした気持ちを歌っているのかと最初は思ったら、途中で短調に転調。歌詞は、好きな女性が別の誰かに会いに行ったことを知った男のつらい気持ちを歌っていた。ピアノよりもフィッシャー=ディースカウの歌の方が男の悔しさを感じる。
    Brahms: 5 Lieder, Op. 49 - No. 1, Am Sonntag Morgen (Arr. Reger for Piano)


    Brahms: Fünf Lieder op.49 - 1. Am Sonntagmorgen

    Am Sonntag Morgen Op.49-1  Fünf Lieder / 日曜の朝に (5つの歌曲)


    6)An ein Veilchen (すみれに寄せて)
    主旋律が可憐なスミレのイメージみたいで、伴奏のアルペジオが流麗。歌詞は男の片思いの歌らしい。
    Brahms: 5 Lieder, Op. 49 - No. 2, An ein Veilchen (Arr. Reger for Piano)


    Brahms: Fünf Lieder op.49 - 2. An ein Veilchen

    An ein Veilchen Op.49-2  Fünf Lieder / スミレに寄せて (5つの歌曲)

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    Author:Yoshimi
    <プロフィール>
    クラシック音楽に本と絵に囲まれて気ままに暮らす日々。

    好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

    好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、ミンナール、アラウ

    好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

    好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

    好きな作家;アリステア・マクリーン、エドモンド・ハミルトン、太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭
    好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
    好きな写真家:アーウィット

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