ゼルキン ~ ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲<BBCライブ盤> 

2009, 02. 03 (Tue) 20:00

ゼルキンが得意とするベートーヴェンのディアベリ変奏曲が録音されたCDは、現在3種類が入手できる。
 
 1954年ライブ録音  [プラド音楽祭] [M&ACD1200]
 1957年スタジオ録音           [SONY/SK93441]
 1969年ライブ録音   [ロンドン]     [BBC LEGENDS/BBCL4211]

1954年盤は録音音質がかなり悪いが、全盛期のゼルキンのディアベリが聴ける。
1957年と1969年の演奏では、1969年の方が変奏によってはテンポが若干遅めで、タッチもやや重たいため、軽快さは若干後退している。反面、重厚でより堅固な構造を感じさせる骨格のしっかりした演奏になっている。
1970年前後は、響きにこだわり始めた頃なので、より深みと厚みのある響きになっている気もする。(録音条件が違うので、なんともいえないところはあるので)

Mendelssohn: Prelude & Fugue; Brahms: 4 Piano Pieces; Beethoven: Diabelli VariationsMendelssohn: Prelude & Fugue; Brahms: 4 Piano Pieces; Beethoven: Diabelli Variations
(2007/07/31)
Rudolf Serkin

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このライブでゼルキンが弾くディアベリ変奏曲は、フォルテ主体の変奏では、テンポは遅めで打鍵をしっかり明確にして重い響きで、堂々とした重厚な変奏。速いテンポで軽快さを出すよりも、遅いテンポで細かい起伏をつけたり、アクセントなどでリズムを強調している。多少重たさは感じるが、単調さはなく表情がいろいろあって、面白くは聴ける。
アリアを聴いていると、テンポはやや遅めで、スタッカートというよりもテヌート気味のタッチで弾いているが、細かな起伏をつけているので、こんな単純な旋律なのに、面白さがある。
第9変奏も遅いテンポだが、リズムを上手く強調して面白みがある。おどけたような悲愴感めいたところが良く出ている。こういう雰囲気を出すのはとても上手い。

明るい色調で弱音が支配的な変奏(第3変奏など)は、柔らかいタッチで弾いているが、響きは明瞭で優美さが漂う弾き方。
第11変奏はゆっくりとしたテンポで響きが重なっていくのが美しく、問いかけるような雰囲気を出している。第26変奏はやや遅めのテンポで各音を綺麗に響かせた優雅なアルペジオ。
特に第24変奏のフーガは素晴らしい。柔らかいが明瞭な響きで、主旋律を明瞭に歌いながら、副旋律も綺麗に浮き上がってくる。本当にとても美しく優しさがあって気品溢れるフーガ。この変奏曲で最も良いと思った演奏。

哀感や悲痛感の強い第29~31変奏は抑揚をやや押さえ気味なので、美しい叙情は漂っているが、切々と訴えるような強い情感はやや薄い。第30変奏はカンタービレにしてはかなり淡々。第31変奏の叙情的な旋律は流れるようなレガートでとても美しく弾いてはいるが、微妙な陰影や痛切さはやや弱い気がする。
他の曲の録音を聴いても同じように、こういう曲想のゼルキンの演奏には、いつも同じ印象を持ってしまう。

第32変奏のフーガは、やや遅めのテンポで、1音1音力強く打鍵するので、各旋律とも明瞭に浮かび上がり、響きが荘重。堂々とした重みのあるフーガ。ゼルキンが弾くフーガはいつ聴いても素晴らしい。

最後の第33変奏は、とても愛らしく明るさがあって情感豊か。レガートで弾いていて優美さがある。
哀感の強い第29-31変奏ではやや抑制した表現で物足りなさも感じるが、明るく優しい曲想を弾くゼルキンのピアノはとても美しい。こういう明るめの色調の曲の方が、ゼルキンのピアノには似合っている。

1957年のスタジオ録音も良いが、それから12年後のライブ録音もその間のゼルキンのピアノの変化が感じられることと、やはりライブ独特の雰囲気や集中力が伝わってくる。
ライブならではのミスタッチも聴こえはするが、ゼルキンの弾くディアベリ変奏曲が好きな人なら、聴いて損はしないと思う。

このBBCライブ録音盤では、得意のメンデルゾーンの「前奏曲とフーガ」に加え、珍しくもゼルキンのブラームスのピアノ小品が聴ける。カップリングされているのは、「4つの小品 Op.119」。
「前奏曲とフーガ」は、リサイタルの最初の曲なのでちょっと硬さがある気もしないではないが、いつもながら優美さとダイナミックさを併せ持った、ゼルキンらしいメンデルスゾーン。

続くブラームスの4曲。全体的にテンポは遅めで、時々まるでベートーヴェンのような力強さと重みを感じさせる渋みのあるブラームス。
第1曲目の間奏曲ロ短調は、とてもゆっくりしたテンポで1音1音丁寧に弾いていて、起伏はとてもゆるやかだけれど美しい。次のホ短調は、軽やかな柔らかいタッチで、流れるような透明感のある旋律が綺麗。3曲目のハ長調は、柔らかく軽いタッチだが、もう少し軽快さが欲しい気はする。
最後のラプソディは、力強く堂々とした重厚なラプソディ。続いてベートーヴェンのディアベリ変奏曲を聴いても、全く何の違和感もなく、まるでブラームスの続きのようにディアベリの主題が聴こえてきた。
ゼルキンのブラームスは、ただでなくとも重いブラームスがよけいにずしっとくるところがあるので、もう少し速いテンポと柔らかな響きで詩情を感じさせる弾き方が個人的には好み。ブラームス晩年独特の渋みや重厚さが好きな人にとっては、これは実に味のある演奏だとは思う。
好みの違いはあるとしても、ゼルキンのブラームスが聴けるだけでも、これはなかなか貴重なライブ録音である。

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