カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (5)ハンガリー舞曲集 

2009, 02. 09 (Mon) 20:25

ブラームスのハンガリー舞曲集は、オーケストラ版と連弾版で演奏されることが多いが、ブラームスは初め、連弾用にハンガリー舞曲21曲を作曲している。
その後、第1、3、10番を管弦楽用に編曲しているが、有名な第5番はブラームスによる編曲ではない。
ブラームスは、前半10曲を1872年にピアノ独奏用に編曲している。シフラのピアノ独奏用編曲も有名。シフラ編曲版は、リスト的に派手な編曲で、装飾的な音が多くて技巧的にかなり懲っている。(シフラ自身の演奏の試聴リンク)
曲自体の良さを味わうなら、ブラームス自身の編曲版の方が良いと思う。シフラ版で弾くピアニストは少ないし、カッチェンもブラームス自身の編曲版で弾いている。

ハンガリー舞曲のピアノ・ソロ版を全曲録音しているピアニストはほとんどいない。
新しい録音ではナクソスレーベルのビレット(控え目に言ってもこの演奏はあまりよくないと思う)、アンドレ・ゴログ(私はよく知らないピアニスト)のCDがある。
キーシンは、第1,2,3,6,7番の5曲だけ収録している。少し素直すぎてほの暗さがない気はするが、さすがにキーシンだけあって鮮やかな演奏。(キーシンの録音の試聴リンク)
オピッツとレーゼルはブラームスのピアノ独奏曲全集を完成させているが、このハンガリー舞曲集は録音していない。ワルター・クリーンによる全集は連弾版(ブレンデルと一緒に弾いている)のみ収録。
というわけで、このカッチェンのピアノ・ソロ版の全曲録音は珍しいもので、演奏内容も申し分ないと思う。

カッチェンのピアノ独奏でハンガリー舞曲を聴くと、音の厚みがあるオケや連弾で聴くのとは違って、ほの暗さと憂愁が漂っていても、残響が短いのですっきりとした音像で圧迫感があまりなく、心地良い響きがする。(キーシンの演奏だと、ホール残響が長くて音の厚みがかなりある。)
音が適度に密なので、華麗であって軽やかさもあり聴きやすさがある。
今までオーケストラ演奏で、アンコールとかで第5番くらいしか聴いたことがなかったが、ピアノの音で21曲全曲を聴いてみるとこれがかなり面白い。ピアノ・ソロで弾いても、やはり有名な第1番と第5番はとりわけ華麗でロマンティック。第2番、第6番もとても良い。

聴いていると音があちこち飛び跳ねていて、1人で弾くには、指回りのよさと跳躍力が結構必要な感じがする。楽譜を見たら、左手が跳躍だらけで、和音や8度の重音の跳躍。単に鍵盤を叩けば良いわけでもなく、そこそこの速いテンポで軽やかに、表情もつけないといけない。筋力・体力がかなりいりそう。

楽譜ダウンロードはこちら(「国際楽譜図書館」(IMSLP)より)


カッチェンのハンガリー舞曲[第4番・第7番]
Hungarian Dances Nos. 4 & 5


カッチェンのピアノの音色は、ほの暗さと帯びていて、その響きにはまさにハンガリーの舞曲らしい(と感じる)憂愁が漂い、それでいて演奏には華やかさもある。
なによりも、スピード感が抜群。もとからテンポが速いので、テンポを落とした時の緩急の対比が鮮やか。フォルテの打鍵もパワフルで力強さも十分。
第5番を何人かの演奏で聴いてみると、途中でテンポを急に上げるところがあるせいか、みんな最初はゆっくり弾いている。
カッチェンは最初からかなり速いテンポだが、タッチは軽快。力感もあるので、演奏に勢いがある。本当に惚れ惚れしてしまうほどに切れ味の良い演奏である。

ピアノ・ソロ(第1-10番)から連弾(第11番以降)へと曲が変わっていても、音の印象としてあまり違和感を感じないのは、ピアノ・ソロ版がかなりの音の密度があり、鍵盤も広く使っているからだと思う。

ピアノ演奏自体は、カッチェンとマルティの連弾よりも、カッチェンのソロの方が聴いていて面白い。
ピアノ・ソロは、かなりのテクニックが要求される上に、華やかで憂愁漂う雰囲気を表現しないといけないので、やはり集中力や演奏に漂う緊張感が連弾とは違う。1人で技術と表現の全てをコントロールするので、演奏としての構成力や統一感がある。なによりも、ピアニストの個性というかオーラみたいなものが感じられる。
カッチェンはタッチや響きをいろいろ変え、この曲の入り組んだ雰囲気を出していて、ソロの方は何回聴いていても、面白くて飽きないところがある。

連弾の第11番~第21番の演奏も、かなりのスピード感と力感がある力強い演奏。
タッチと表情が曲想に合わせてころころと変わっているし、この曲特有の哀愁と情熱的な雰囲気も良く出て、連弾もこれはこれで面白い。派手さからいえば、やはりソロの方がダイナミック。
カッチェンが第1奏者に違いない。高音部の主旋律と、低音部の第2奏者の伴奏とでは、タッチや音の切れ味が違っているところが、全体的には多少バランスが悪いような感じがしないでもないけれど....。
他のピアニストの連弾演奏を聴くと、第1奏者と第2奏者がわりと似た感じの弾き方をしているので、よけいにそう感じるのかもしれない。


このCDにはハンガリー舞曲集とワルツ集が収録されている。
ブラームス:ハンガリー舞曲集ブラームス:ハンガリー舞曲集
(1994/04/22)
カッチェン、マルティ

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ブラームスのピアノ作品全集にももちろん収録されている。
Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル



 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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