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ショスタコーヴィチのピアノ曲 ~ ピアノ・ソナタ第2番、 子供のノート、明るい小川(ピアノ編曲版)
ピアニストであったにしては、ショスタコーヴィチはそれほど多くのピアノ曲を残してはいない。
ショスタコーヴィチのピアノ曲は、ピアノ協奏曲以外はそれほど有名ではないとはいえ、独奏曲、室内楽曲とピアノが入った作品はいろいろ手がけてはいて、いずれも個性のある曲だと思う。

交響曲がショスターヴィチの公的生活の顔だとすれば、ピアノ独奏曲はそれに比べて比較的自由に振舞える分野で、ショスタコーヴィチの隠された心情が垣間見えるような気がする。
それに交響曲で聴かれるショスタコーヴィチ独特の旋律や響きがエッセンスのように凝縮されていて、小宇宙のなかで完結したような美しさがある。

コンスタンティン・シチェルバコフショスタコーヴィチのピアノ曲集(全2巻)を録音している。
Vol.1は、「ピアノ・ソナタ第1番」と「24の前奏曲 Op. 34」、「10の格言集 Op. 13」、「3つの幻想的舞曲 Op. 5」が収録されていて、ショスタコーヴィチらしい旋律と雰囲気は充分にあるけれど、かなり不安げな不協和な響きが多く、前衛色が強い。
それでも、和声自体は全体的に美しくはあるので、シュニトケのピアノ独奏曲に比べればはるかに聴きやすく、聴きやすさだけを言えば天と地ほどに違う。

このCDはVol.2にあたる。初期作品から中期くらいまで年代的にまたがっていて、「ピアノ・ソナタ第2番」、初期の前奏曲や子供向けの練習曲、バレエ音楽「明るい小川」と、ジャンルも幅広く、比較的聴きやすい曲が多い。Vol.1と合わせて聴けば、作風の変遷も聴き取れて面白い。

ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第2番/「明るい川」(ピアノ編)/子供のノートショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第2番/「明るい川」(ピアノ編)/子供のノート
(2006/11/01)
シチェルバコフ

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ショスタコーヴィチの器楽曲に関する作品解説・名盤については、工藤庸介氏の「Шостакович」というサイトが詳しい。交響曲に関する解説サイトは結構あるけれど、ピアノ曲については少ないのでとても役立ってます。工藤氏は『ショスタコーヴィチ全作品解読』の著者です。

 「ピアノ・ソナタ第2番 ロ短調 Op.61」(1942年)
第2番は1943年の作曲で、交響曲第7番や第8番を作曲した頃の作品。
第1楽章はどことなく人を食ったようなやや不安定な響きのある旋律で、テンポが速くて軽快。第2楽章はラルゴで沈潜したような密やかさのある曲。第3楽章は左手の律動するリズムや右手のスタッカートで引く旋律とか、リズム感が面白いところがあって、何かに追い立てられるようなやや切迫感のある。

第1楽章と第3楽章は面白い曲だけれど、演奏機会の多いプロコフィエフのピアノ・ソナタ群と比べると地味というか、強いインパクトがないような印象。それでも第3楽章は弾き映えがするし、ギレリスやアシュケナージなど録音しているピアニストは多い。
この曲は、ピアノ独奏より管弦楽版(実際には作曲されていないが)で聴いたらずっと面白くなる感じがする。ピアノ協奏曲は人気があるし、ショスタコーヴィチ自身も自作自演の録音をいくつか残しているので、やはりオーケストラの入った曲の方が書きやすくて、気に入っていたのじゃないかと思う。
初演はあまり評価が良くなく、ショスタコーヴィチ自身も強い愛着がこの曲にはなかったようなので、結局ピアノ・ソナタはこれで打ち止め。
でも、ソナタ以外のピアノ曲には印象に残る作品が多く、なかでも「24の前奏曲とフーガ」はとても素晴らしい作品なので、ソナタ形式が得意ではなかったのかもしれない。

 「3つの小品」
第1曲メヌエット、第2曲プレリュード、第3曲インテルメッツォ。作品番号がついていないので作曲年は不明。
軽快で楽しげなメヌエット、やや憂いをおびたプレリュード、晴れやかで明るいインテルメッツォ。いずれも旋律はメロディアスで親しみやすい。

 「子供のノート(7つのピアノの小品)」 A Child's Exercise Book, Op. 69(1945年)
ショスタコーヴィチの長女ガリーナのピアノ練習曲として作曲されたもの。1944年から1945年にかけて作曲されたが、第7曲は後に追加されたらしい。
ショスタコーヴィチらしい雰囲気のある旋律やリズムで織り込まれているけれど、子供向けなのでとても弾きやすい感じがする。
ショスタコーヴィチの愛娘に対する愛情が伝わってくるようで、聴いていてとても微笑ましい。

第1曲 行進曲 "March":とても明るく楽しげな行進曲。ピアノを習い始めた頃に弾くには良いくらいに易しい。
第2曲 ワルツ "Valse":やや憂いのあるとても綺麗な旋律のワルツ。
第3曲 熊 "The Bear":「熊」にしてはとても穏やかなゆったりとした曲。うとうととまどろんでいるような雰囲気。”くまのプーさん”のイメージにぴったり。
第4曲 楽しいお話 "Merry Tale":ショスタコーヴィチらしい軽快でちょっとシニカルな旋律。
第5曲 悲しいお話 "Sad Tale":タイトルに比べて、それほど悲しそうでもなくて、それよりも期待はずれで残念でした...というニュアンスのある旋律。そういう意味では”悲しい”のかも。
第6曲 機械人形 "Clockwork Doll":アレグレットで機械仕掛けの人形が動き回る感じが良く出ている。これはリズム感が良く、旋律にはどことなく哀感があって、わりと面白い。
第7曲 誕生日 "Birthday":冒頭のファンファーレ風の和音が晴れやか。続く主題はちょっとユーモラス。

 「8つの前奏曲 Op.2」 (1919~20年)
前奏曲といえば、Op.34の「24の前奏曲」のことを指すことが多いはずなので、この初期のプレリュードは聴いたことがない。出版自体はずっと遅くて1960年。
全体的に調和的な和声が多くて、叙情的で聴きやすい。曲自体はシンプルな構成で初期の習作風。
前奏曲といっても、「24の前奏曲」とは全く雰囲気が違って、それよりも「24の前奏曲とフーガ」の平明さに近いものを感じる。

No. 2 in A minor(Op. 2, No. 5):左手がリズムを規則的に刻む軽快な曲。
No. 3 in G major(Op. 2, No. 2):何かがこれから始まろうとしているような期待に満ちたポジティブな曲想。
No. 4 in E minor: 和音主体だが変拍子風のリズムが一風変わっている。
No. 15 in D flat major(Op. 2, No. 7 or 8):穏やかで内省的な静けさ。
No. 18 in F minor(Op. 2, No. 6):やや憂いのあるアンダンティーノ。

 「明るい小川」Op. 39 (抜粋)[ピアノ編曲:ショスタコーヴィチ]
「明るい小川」はコルホーズでのソヴィエト生活をテーマにしたバレエ。
作曲家の吉松隆が<音楽の荒唐無稽とウソ~ショスタコーヴィチ「明るい小川」をめぐって>という小論を書いているが、これがなかなか面白い。
このバレエ「明るい小川」は、明るく平明かつダンサンブルな音楽。バレエというよりはほとんどミュージカルに近く、どこまでも「みんなで楽しく」の世界なのだそうだ。
そういうことを念頭にピアノ編曲版を聴くとそれもその通りかも、と思える屈託のなさがある。

バレエの「明るい小川」は1934~35年にかけて作曲されたが、このピアノ編曲版自体は1997年に出版された。シチェルバコフの硬質で透明感のあるピアノの響きが、この曲の軽やかで明るい雰囲気にとてもよく似合っている。

工藤氏の解説よると、”この音楽はショスタコーヴィチが自ら語ったように「楽しい、軽快な、気分の浮きたつようなもので、主として舞踏風のもの」である。実際、結構大衆受けした舞台だったらしく、評判は悪くなかったようだ。”
交響曲や弦楽四重奏曲とは違った世界でリラックスしているショスタコーヴィチを聴いているようで、大衆的とか俗っぽいとか言われていても、これはこれで彼の心的世界の一つには違いない。
彼の映画音楽やジャズ組曲と合わせて面白い曲集で、ブラインドで聴いたら、だれもショスタコーヴィチの曲だとはわからないだろう。
この曲集を聴いていると、ショスタコーヴィチは、かなりのメロディメーカーだったんだな~と思う。

Act I Scene 1: No. 7. Scene and Waltz-Entr'acte
 -透明感があって、陽光が差し込むような明るさと爽やかさ。ワルツのリズムが軽やか。徐々に晴れやかな舞曲風に盛り上がっていく。
Act I Scene 2: No. 12. Dance of the Milkmaid and the Tractor Driver
 -ダンスシーンらしく、楽しげで浮き浮きと心が弾むような曲。
Act I Scene 2: No. 13. Ballerina's Waltz
 -バレリーナのワルツらしく、優雅で踊るように軽やか。
Act II Scene 3: No. 23. Tango
 -どこか調子ハズレなところがあるタンゴ。段々スピードアップして華麗なタンゴに。テンポがしょっちゅう伸び縮みするところがとても面白い。

tag : シチェルバコフ ショスタコーヴィチ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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