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ゲオルグ・ショルティ著 『ショルティ自伝』
ショルティのCDはほとんど持っていないし、ショルティ&シカゴ響はどちらかというと避けるタイプの演奏。しかし、自伝を読むとバルトークやマーラーは聴いてみても良いかなという気になってきた。もしかしたら、ショルティのバルトークは持っていたかもしれない。(探したらオケがロンドン響のCDだった。)

『ショルティ自伝』は、子供の頃から晩年までの音楽をめぐる人生をたどったもの。
子供時代~リスト音楽院での学生生活を書き綴ったブタペスト、ナチス占領のため亡命生活を送ったチューリヒ、戦後直後の混乱したミュンヘン時代の章は、その時代の政治情勢や空気のようなものがわかり、ショルティを育んだ音楽的バックボーンや、亡命者としての苦難、無名の新人時代の苦労などが書かれていて、リアリティ溢れる回想。
フランクフルトやロンドン、シカゴ時代になるとオペラの話が多くなってくる。もとからオペラには興味がないのでさらさらっと読んだだけだが、ストラヴィンスキーとの邂逅など、作曲家に関する話はどの時代でも面白い。

ショルティ自伝ショルティ自伝
(1998/12/10)
ゲオルグ ショルティ

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ハンガリーというと、バルトークやコダーイをすぐ連想するが、ハンガリー出身の音楽家は意外に多いのに気がついた。
ショルティは、ハンガリーは「日々の暮らしの中で音楽が重要な部分を占めている。」という。民謡、ジプシー音楽、自国・他国の名曲、いろいろな要素を取り込んで独自の味付けをした軽音楽などがあって、そのおかげで人口1千万人の国なのに、多くの音楽家を輩出しているのだという。
この本で登場(または言及)しているハンガリー人の演奏は、アニー・フィッシャー、ゲザ・アンダ、ヤーノシュ・フェレンチク、アンタル・ドラティ、エルンスト・フォン・ドホナーニ、フリッツ・ライナー、etc.。
ここでは出てこないが、ハンガリー人のピアニストなら、ゾルタン・コチシュ、アンドラーシュ・シフ、デジュ・ラーンキ、ジョルジュ・シフラなどがすぐ浮かんでくる。確かに、人口わずか1千万人の国にしては優秀なピアニストや指揮者が数多い。

リスト音楽院時代には、ショルティはバルトークやコダーイなどの元で学んだ。
バルトークはピアノを教えていて、作曲の方は全く教えなかったという。作曲技法は学べたとしても、聴くにたえるものをつくるのは、作曲の才能があるかないかにつきるからだ、とショルティは書いている。
コダーイは、バルトークに比べては保守的な作風だったが、音楽院の中では急進派の旗手ではあり、独自のメソッドを開発して、対位法の16世紀~現在までの推移を教えていたそうだ。コダーイは、のちにショルティが指揮した演奏会を聴きに来たりしていて、教え子のことは忘れなかったようだ。
他にも、シクローシュ(作曲)、レオ・ヴェイネル(室内楽)、ドホナーニ(ピアノ)などの教えを受けていたが、それぞれの教え方の違いや個性の強さが書いてあって、このリスト音楽院時代の章はとても面白い。

チューリヒ時代にトスカニーニ、ミュンヘン時代にリヒャルト・シュトラウスと会ったときの話も載っている。とりわけ、フランクフルト時代には、フランクフルト学派の哲学者テオドール・アドルノと交流があったことが書いてあって、これはかなり驚いた。
アドルノ、マックス・ホルクハイマーなどのフランクフルト学派の著作は大学時代にいろいろ読んだし、本棚にそれ以来ずっと鎮座している。難解なものが多くて読み終わるのに苦労したし、理解したかどうかも定かではないところはあるが...。
アドルノはクラシック音楽への造詣が深く、ベートーヴェンの音楽に関する論考も残している。これがまた難解。シェーンベルクやベルクに関する研究も有名。
ショルティにマーラーを演奏するのを勧めたのは、このアドルノだったそうだ。当時はマーラーブームが来るずっと前。まず交響曲第9番から始めると良いとアドルノに言われたショルティは、よりによって難しい第9番を手がけるとすぐに気に入ってしまい、マーラーをレパートリーに加えた。
ブルックナーの交響曲第7番がよくわからないとアドルノに話すと、まずピアノ連弾用の編曲版で弾いてみることに。ピアノも上手かったアドルノと一緒に弾いてみると、曲が理解できるようになったそうだ。シェーンベルクの「モーゼとアロン」、ベルクの「ルル」をショルティに勧めたのもアドルノだったという。
さすがにアドルノの慧眼は凄い。

面白いエピソードは、イギリス人ピアニストのジョン・オグドンとコンチェルトを演奏した時の話。
1965年頃のテルアビブでイスラエル・フィルの客演指揮に行ったが、その頃はリストとチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のどちらかを演奏会のプログラムに載せていた。ソリストはいずれもオグドン。
この時はリストのコンチェルトを演奏していが、カデンツァに入ったオグドンは、なぜか途中からチャイコフスキーのピアノ協奏曲のカデンツァへと迷いこんでしまった。
それに気がついたショルティはパニック状態。このままでは45秒後にオーケストラがリストを演奏し始めるが、リストとチャイコフスキーでは調性が全く違う。まさに悪夢だ。
しかし、オグドンはなんとか最後で辻褄を合わせて、無事リストのコンチェルトに戻ったのだった。
後で楽屋でオグドンを締め上げたショルティだったが、これは実はエイプリルフールの冗談だったのだとわかった。
なかなか洒落た冗談を仕掛けたとはいえ、指揮台のショルティは本当に冷や汗ものだったのはよくわかる。

ショルティはクリフォード・カーゾンとも共演したことがある。
ショルティはジュネーブのピアノコンクールで優勝したくらいピアノが上手かったので、カーゾンがなぜピアニストにならなかったのかとたずねた。
ショルティは、ジュネーブのピアノコンクールに参加したときの練習中に、記憶が途切れて暗譜したはずの曲のあるパッセージを途中で思い出せなくなったことを話した。神経質なカーゾンは、この話が結構こたえたらしく、本番前にかなり怯えていたそうだ。
ピアニストにとって、暗譜したはずの曲を演奏途中に忘れるというのは、まさに悪夢。リヒテルはその恐怖心から、完璧に暗譜しているのに、とうとう楽譜をピアノの上に置いて演奏するようになったほど。
この一件はショルティにとって、精神状態が演奏に深く影響するアーティストに対しては配慮が必要なのだという教訓になったという。

最後の章は指揮者としての心構えや、ショルティが演奏してきた作曲家の作品の演奏方法などについて触れていて、これは指揮者の楽曲へのアプローチのしかたが垣間見える。
ベートーヴェンの交響曲では、テンポ設定が速すぎるものがあってかなり悩ましいようだ。ベートーヴェン自身がメトロノームでのテンポ指示を残しているので、これが混乱を招いているらしい。
指揮者が書いている楽曲解説は、演奏上悩む点-テンポの話や拍子のとり方(「運命」の冒頭部分など)の話が頻繁に出てくる-が書かれていることが多くて、評論家の解説よりも数倍面白い。

tag : 伝記・評論

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ショルティ
こんにちは。

ショルティはあまり聞きませんが、今日の記事を読ませていただくと、『ショルティ自伝』がすごく読みたくなりました。
これは面白い自伝です
よんちゃん様、こんにちは

伝記・自伝の類は結構好きなので、指揮者・ピアニスト・作曲家ものは結構読みましたが、自ら書く自伝というのものはあまり出版されていないようです。

この自伝は1人称で書かれていて文章も平易で、時代の流れが良くわかり、とても読みやすい本です。特に、シカゴ時代より前の章の方が、読み物としては新鮮で面白いと思います。
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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