カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (7)3つの間奏曲 Op.117 

2009, 02. 13 (Fri) 20:51

ブラームスの後期ピアノ曲集の中でも、叙情性の強いインテルメッツォのみ構成されている曲集が、この「3つの間奏曲 Op..117」。(ピティナの楽曲解説)(国際楽譜図書館の楽譜ダウンロード/PDF)

Brahms - Katchen - Klavierstücke op 117 n°01 à 03


第1番 変ホ長調
の楽譜の右上にあるのは子守歌の歌詞。詩人ヘルダーの民謡集に載っているスコットランド民謡の「不幸な母親の子守唄」。楽譜によっては載せていない版もある。

Schlaf sanft, mein Kind, Schlaf sanft und Schon!
Mich dauert's sehr, dich weinen sehn.
(Schottisch. Aus Herders Volksleidern.)

「やすらかに眠れ、わが子よ。美しく眠りなさい。お前の泣くのを見るのが私にはたまらない」

子守歌が載せてあるくらいなので、旋律も子守歌風。と思いながら、主題がとても優しさのあるメロディ。
安心して聴いていると、やはり晩年のブラームスらしく、徐々に翳りを帯びて、変ホ短調の痛々しげな中間部に入り、その後、再び安らかな主題へと回帰していく。

冒頭の主題では、中低音部に主旋律が現れる。カッチェンはこの旋律を強いタッチではないけれども、くっきりと浮かびあがらせて、高音と低音部は柔らかい響きで子守歌のように優しい。
全体が柔らかく優しく包み込むような響きで覆われ、まるで夢のなかでまどろんでいるかのようで、とても綺麗。
短調に転じた中間部も柔らかいタッチで、悲痛感をことさら強調するような感情表現はしていないけれど、深く沈潜したような感じがする。

全体的にとても柔らかな雰囲気のなかで、抑制した表現で淡々と滑らかに旋律が流れている。微妙に揺れるテンポが絶妙で、さりげなく感情がにじみ出てくる。この何ともいえない叙情感にはまるとなかなか抜けられない。


第2番 変ロ短調
カッチェンはやや速めのテンポ。この曲をゆっくり弾くと物悲しさがうつうつと増してきそう。
第1番の夢のような優しさとは違って、何かしら哀しさを訴えかけるような切迫感のある旋律。
この叙情的な旋律を軽やかに、少し強めのタッチで弾いている。まるで音の間から押さえ切れない感情がほとばしるかのよう。
中間部で長調に変わっていても、徐々に翳りがさして、また主題に戻り、こんどはあちこちで感情が高ぶったかのように、アルペジオがクレッシェンドしてフォルテになりと、かなり悲痛感が強い。
カッチェンの弱音はとても優しく柔らかい。ほんのりと霞がかかったような夢幻的な雰囲気が漂う。
でも、クレッシェンドしてフォルテへ向かうときはタッチは力強く音量も大きい。このコントラストがとても鮮やかで、感情の昂ぶりがドラマティックに聴こえてくる。


第3番 嬰ハ短調
第3曲はとりわけ暗い色調の曲。冒頭から不安感のあるユニゾンの旋律。
中間部は長調へと転調しても、翳りの方が多くて明るさがちらっと垣間見えるのみ。何かへの憧憬を感じさせるところもあっても、それが翳りで妨げられがち。
主題へ回帰する直前の音にはフェルマータがかかり、何かが終わってしまったように、時間が静止している。
ラストも冒頭主題が変形した和音とアルペジオで、寂寥感が漂うなかを静かにゆっくりとフェードアウト。
この曲はブラームス晩年の小曲のなかでも、とりわけ鬱々とした雰囲気がする。

ただでなくとも暗いこの曲を叙情たっぷりに弾くと、ますます重苦しく陰鬱になる。
カッチェンは、テンポは速めでタッチもやや軽やか。柔らかな響きを主体に、強弱のコントラストが鮮やかで、感情を込めてはいてもウェットな情緒性はなく、感情が揺れ動く様が強く感じられる。
外面へと感情を開放させるというよりは、外へ向かう感情を抑えて内面で静かに向き合っているようで、抑制した感情が音の隙間からにじみ出てくる。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

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2 Comments

fairchild670  

この曲から

この曲の、まさにこの演奏からブラームスのピアノの世界が開けてきました。すでに晩年のブラームス。枯れた重い演奏もありますが、この叙情の前にはいつまでも浸っていたい演奏ですね。

2009/02/13 (Fri) 22:07 | REPLY |   

yoshimi  

特にOp.117は陰影が濃いです

fairchild670様、コメントありがとうございます。

Op.116の幻想曲集から少し翳りが見え始めてはいますが、おっしゃる通り、Op.117で一気にブラームス的な明暗の交錯する世界に入りますね。
この後のOp.118・119よりも、ずっと内面に沈潜している曲集だと思います。
私は、まだしも陰鬱さの少ない第1曲が一番好きですが、第2曲の”ため息”のような2音の下降音形がかもし出す哀感には、なんとも言えない叙情があります。
この曲集をゆっくり叙情たっぷりに弾く演奏も結構多いのですが、自分で弾いていても、スローだと余計に暗く重くなるのがよくわかります。わりと淡々と弾いている方のグールドの演奏でも、意外と重さと暗さを感じます。
もとから速いテンポの演奏を好む方なので、カッチェンくらいの弾き方が一番相性が良いのです。それにカッチェン独特の音色と響きが心地良いです。

2009/02/13 (Fri) 23:44 | EDIT | REPLY |   

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