カッチェン《ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集》より ~ ピアノ協奏曲第3番 

2009, 10. 25 (Sun) 18:00

ベートーヴェンのピアノ協奏曲のなかでも、この第3番はどうも相性が悪くてあまり本気で聴いたことがない。
このままでは惜しい気もするし、持っているCDも聴いていない録音が多いので、この際全部しっかり聴いてみると、ようやくしっくりとくるものがあって、一番好きな第4番と同じくらいに気に入ってしまった。

10種類くらい聴くと、それぞれ弾き方が違って、雰囲気も十人十色。バックハウス、アラウ、ゼルキン、ポリーニ、グルダ、ギレリス、フライシャー、ムストネンは聴いたけれど、結局、ケンプとカッチェンの演奏が、この曲を聴くならこういうピアノでと思っていたイメージ通り。この曲に限らず、カッチェンとケンプが弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲はぴったりと波長に合っている。
方向性は違うけれど、どちらも弱音の響きがとても美しく、叙情的でロマンティックだけれど、きりっと筋の通った強さのあるところが似ている(と思う)。
カッチェンの録音は1958年と古いので、DECCAにしては音質がもう一つ。ピアノの音が少し後方から聴こえてシャープさにやや欠けるところはあるが、モノラル録音でなかっただけでも喜ぶべきかも。
Piano Concertos 1-5 (Coll)Piano Concertos 1-5 (Coll)
(2007/05/15)
London Symphony Orchestra

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第1楽章 Allegro con brio
短調と長調の主題が頻繁に入れ代わって明暗のコントラストが強い第1楽章。
カッチェンのピアノだと青春期の爽やかなロマンティシズムが漂い、いつもながら硬質の響きで引き締まった叙情感がとても美しい。
ピアノの音色はやや暗めで(録音のピアノの音も篭もり気味)、やや粘りのあるレガートで微妙な強弱をつけて弾く短調の第1主題は、ほろ苦い切なさが漂って初期のブラームスのような感じもしたりする。
そのせいか、力強くて線の太いフォルテで弾く部分もかなり多い楽章にしては、メロウでロマンティックな印象が強い。
弱音で弾く長調の第2主題になると、打って変わって柔らかい響きでとても優しいタッチ。
強弱のタッチの変化が明瞭なので、コロコロと表情が変化していて、揺れ動く感情が感じとれるような生き生きとしているし、特に弱音の表現がとても丁寧で細やか。

第2楽章 Largo
とてもゆったりとしたテンポで(他のピアニストに比べてもかなり遅い)、冒頭のピアノ・ソロで弾く和音の弱音の響きがとても柔らかくて温もりもあり、静かで穏やかな雰囲気。
全体的に柔らかな響きの弱音で弾いているが、この弱音がとても美しくて、時間が止まってしまいそうな静けさが漂っている。時々出てくるくフォルテとの落差が大きく、コントラストがよくきいている。
弱音のパッセージのなかでも、細かに強弱をつけてたり、ルバートをかけたりしているので、とてもリリカル。
様々に移り変わっていく弱音の響きがとても美しく、まるで過ぎ去った時間を追憶しているようなイメージが浮かんでくる。

第3楽章 Rondo
ここはかなり速いテンポに変わり、ほのかな哀感と優しさが交錯した爽やかな雰囲気。
感情が浮き沈むような第1楽章と想い出に浸っている第2楽章を経て、第3楽章は憑き物が落ちたようにふっきれた...というような感じだろうか。
第1楽章のように主題をテヌート気味に弾くようなことはなく、柔らかく軽やかなタッチで、かなりさっぱりとした弾き方。
フォルテも力強いが響きに柔らかさがあるので、全体の雰囲気をかき乱すことなく、さらさらと滑らかに音楽が流れていく。
ラストのPrestoではさらにテンポが速くなっているが、ここも前のめりになることなく、打鍵が安定している。

いつもなら高速の細かいパッセージが多いと、つい突進するように加速してしまうのに、なぜかこの曲では終始安定したテンポで弾いているのが珍しくて、ちょっと不思議。かなり叙情性を強く出した弾き方をしているので、気分的に前のめりになることがなかったのかもしれない。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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