カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (8)6つの小品 Op.118 

2009, 02. 15 (Sun) 20:48

ブラームスの後期ピアノ曲のなかでも、特に良く演奏される曲集が「6つの小品 Op.118」。(ピティナの楽曲解説)
鬱々とした翳りのある前作のOp.117よりは、かなり明るさの垣間見える曲集である。
おそらく、ブラームスの後期ピアノ曲の中でも最も良く演奏されるのが、このOp.118の第2曲のインテルメッツォ。
アンコールピースとして弾かれることも多く、この曲以外で良く演奏されるのは、Op.117の第1曲やOp.119の第1曲のインテルメッツォではないかと思う。
ブラームスは、ドヴォルザークのようなメロディメーカーではないと考えられているが、これほど美しく気品のあるインテルメッツォをいくつも書ける作曲家は他にはそうそういるわけがない。



この曲集は、前作Op.117に比べて陰鬱さはかなり後退しており、甘美で切ない思い出を回想するかのような雰囲気が漂う。インテルメッツォに加え、バラードとロマンスが加わっている。

第1曲は珍しく華やかさの漂うインテルメッツォ。ややほの暗い翳りを漂わせながらも、アルペジオが鍵盤上を上下に移動する。演奏時間が2分程度の短い曲で、まるでこの曲集の始まりを告げる序曲な感じがしてきた。

最も有名な第2曲のインテルメッツォは珍しく明るいイ長調。まるで過去を回想するかのような穏やかで幸福感のある旋律が始まる。
カッチェンのピアノの音は、柔らかくややこもったような残響の短い響き。遠い記憶をまさぐるようなレトロな雰囲気を漂わせている。時々揺れるテンポが心の中の微妙なひだを映し出しているようで、この味がなんともいえず良い。
しかし、この穏やかさがこのまま続くはずもなく、中間部はやはり短調に転じて、まるで過去の切ない思い出が、音の間から流れ出して零れ落ちてくるようだ。
ここは、ブラームスが哀感を強く訴えようとする時によく使う音型で、左手1拍3連符の伴奏にのせて右手で旋律を弾いている。これはヘンデルバリエーションでも他の小曲集でも度々見かける音型である。
その後に長調に転じて穏やかになったと思うと、また短調に転じてフォルテで切々と訴えだすといういろいろな感情が交錯していく。最後は主題に戻るが、ここも時折短調の旋律が混じり合いながら、最後は穏やかに終わる。
陰鬱ではないが、甘美さと切なく苦い思い出が交錯するようなところがあって、なかなか複雑な余韻に満ちている。

第3曲のバラードは一転して、冒頭から短調の和音で激しく動き回るが、中間部はテンポは速いが、一時的な心の凪のように穏やかな曲想に変わる。カッチェンはフォルテの力感と量感はかなりあるが、テンポが速く、タッチも軽やかで鋭く歯切れが良い。フォルテの中でも強弱や起伏をつけているので重たさはなく、激情が一気に駆け抜けていくような勢いがある。

第4曲のインテルメッツォは、速いテンポで、かなり激しく感情が噴出している曲。突如としてフォルテが暴れだすようで、激情をぶつけるのにバラードだけでは収まらなかったようだ。

第5曲のロマンスは一転して穏やかな長調に。激情が過ぎ去り失われてしまったロマンスを回想しているような穏やかさと距離感を感じる。遠い過去の記憶をさまようかのようなこの曲には、カッチェンの柔らかくてこもるような響きが良く似合っている。最後に過去へ別れを告げるかのように突然にフォルテで弾かれる和音が印象的。

第6曲のインテルメッツォはとりわけ陰鬱な曲。Op.117のインテルメッツォの暗い雰囲気が忍び込んできている。主題は、得たいの知れない不安げで重苦しく鬱々とした旋律。
カッチェンのピアノは、ここをとても曖昧模糊とした響きで弾いていて、漠然として忍び寄る不安感のような雰囲気が良く出ている。テンポは相変わらず速く、響きの厚みも薄めなので、息の詰まるような重苦しさは強くない。
中間部は突如激しい曲想に変わって、何かに対する怒りをぶつけるかのようだ。それも長続きせずに、また内面へと閉じこもっていくが、最後に抑圧した怒りが噴出するようにフォルテで和音が打ち鳴らされてから静かに終わる。

華々しい幕開けのインテルメッツォで始まったけれど、幸福感や甘美な思い出に浸ったかと思えば、激情が激しく交錯し始め、やがて全てが追憶の中へと穏やかに消え去るかのようだったが、最後には忍び寄ってくる漠然とした不安と怒りで覆われてしまった。
この「6つの小品」は、有名な第2曲だけとか、抜粋ではよく聴いたが、こうやって全曲通してあらためて聴いてみると、一つのストーリーのように構成されている曲集なのだと思う。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

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