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ブゾーニ/ピアノ協奏曲(男声合唱付き)
ブゾーニといえばすぐに浮かんでくるのはバッハのピアノ編曲版《シャコンヌ》。ブゾーニはバッハの曲を数多くピアノ独奏用に編曲しているが、《シャコンヌ》は別として、バッハのピアノ編曲版は、ケンプが編曲した曲を弾くピアニストがなぜか多いような気がする。

ブゾーニのオリジナル曲で有名なのは、演奏時間が1時間半もかかるといわれる最長の《Fantasia Contrappuntistica 対位法的幻想曲》というピアノ独奏曲らしいが、これはまだ聴いたことがない。
1時間半もかかるピアノ独奏曲を聴くのは、夏の暑い時には避けたいので、まだしも短いピアノ協奏曲の方にしたけれど、これも80分くらいかかる大作。
正式名称は、《ピアノと男声合唱付きオーケストラのための協奏曲ハ短調 op.39》
最後の楽章は、オーケストラと男声合唱のために作曲されているという珍しい構成。
ブゾーニが1902 年に作曲を始め 1904 年に自作自演したというこの曲は、技巧的な難曲の最たるもので、腕力と体力も要求されるので有名らしい。
よほど腕に覚えのあるピアニストでないと弾けないようで、この曲の録音は、オグドン、アムラン、オールソン、ヨハンセンなどが残しているくらいで、あまり多くはない。
ブゾーニの弟子ペトリはこの曲をレパートリーにしていて、そのペトリの弟子がヨハンセン。

このピアノ協奏曲は、ピアニストに”血と汗を要求する”と言われる(確かに汗はかかないといけない)ブラームスのピアノ協奏曲第2番よりも難曲ではないかという感じがありあり。
この曲の楽曲解説やレビューを調べると、なかなか複雑怪奇な曲。実際聴いてみても、たしかに要塞のような厚みのある響きと形式的カオスが共存するような、一度聴いただけでは何がなんだかよくわからない曲。
各楽章は全く違う曲だと思ってそれぞれ集中して聴くと、それはそれで面白くは思える。結局、3回聴き直すことになってしまった。

日本初演は、マルク = アンドレ・アムランによる2001年4月22日の東京オペラシティでの演奏会。
このときのプログラムの解説らしきものが、”Marc-André Hamelin (マルク = アンドレ・アムラン) 「史上最大のピアノ協奏曲」”というサイトに掲載されている。
これはとても詳しい解説なので、これを読んでから聴くと、まだしも曲の構成や性格が把握しやすくはなる。

ブゾーニの曲は特に好きでも嫌いでもないので、後学のためにこの曲を聴こうとNMLで録音を探していたら、ちょうどイタリアの若手ピエトロ・マッサというピアニストが30歳くらいの時のライブ録音があった。
本格的に聴きたいなら、アムランの録音(Hyperion盤)が評判が良いし、アムランの演奏ならまず間違いない。演奏時間が72分とマッサよりはテンポが全体的に速い。
マッサのライブ録音盤は79分。この録音だけを聴いていればそれほど気になる遅さでもなく、そもそもこの曲をライブ録音しようなどという新鋭のピアニストにしては大胆なところが面白そうで聴いてみた。
さすがに、アムランほどのテクニックの切れ味はないけれど、オーケストラともどもライブ特有の集中力と臨場感があるし、この協奏曲がどういう曲なのかというのはわかる。

Busoni: Concerto for Piano, OrBusoni: Concerto for Piano, Or
(2008/12/15)
MassaNeubrandenburg Philharmo

試聴する(NAXOS)


構成からして、5楽章編成で最終楽章は男声合唱付きという、やはり普通のピアノ協奏曲とは違う。
ピアニストが華麗にメロディアスな旋律を弾いていくようなものではなく、オーケストラの一つのパートのように協奏していくというシンフォニックな曲で、ソリストにとっては、甚大な労苦を要求されるわりには華々しい見せ場は少ない。
厚みのある和音とアルペジオが多用され、88鍵ある鍵盤を惜しみなく使っているので音の響きの厚みと多彩さがとても華麗には聴こえるが、ロマン派的なピアノ協奏曲ではないので、全体の流れや構成はすぐにつかみにくい。
重厚なレーガーのピアノ協奏曲をはるかに凌駕するほどの音の厚みはあるが、和声の響きが自体は美しく流麗で、ブゾーニらしいイタリア風な華やかさがあるので、レーガーよりはずっと聴きやすい。
このコンチェルトは、ドイツとイタリアの旋律やリズムが混在しているので、形式的統一感がないと批判されているらしい。
80分近くかかるこの曲を聴くことを考えれば、その方が楽章ごとの性格も違っていて曲想もかなり変化するので、とらえどころのなさはあっても、単調にならずに聴きやすい気はする。

I. Prologo e Introito(序奏と入祭唱) : Allegro, dolce e solenne
この楽章はドイツ・ロマン派的で壮大な曲想。初めの方は、ピアノの和音によるアルペジオがとても華やか。主題的な旋律はオケが弾き、ピアノは伴奏的にシンフォニックな響きの旋律を弾いているが、どちらも歌謡性があってメロディアスというわけではないので、音のタペストリーを聴いているような気がしてくる。

II. Pezzo giocoso(おどけた楽曲) : Vivacemente, ma senza fretta
ナポリの舟歌 "Fenesta ca lucive”(あそこの窓から入る光) が引用されているという。
冒頭はやや幻想的なアルペジオによる旋律をピアノが弾いていて、中間部ではおそらくナポリの舟歌らしき、歌謡的な旋律が登場する。
それ以外にも諧謔さのある旋律が織り込まれていたりして、いろいろなモチーフが断片的につながっているような、ややつかみどころがない曲。

Ⅲ Pezzo serioso(厳粛な楽曲): Introductio - Prima Pars - A Rera Pars - Ultima Pars
第3楽章は緩徐楽章で約25分の演奏時間。これでちょっとした協奏曲1曲分の長さがある。
「厳粛な曲」というタイトルどおり、Introductioは生真面目な厳かさがあるが、ピアノ・ソロが入ってくると、静かで清々しい透明感のある旋律に変わる。この楽章は、ピアノの弾く旋律も多少はメロディアスになっている。
長い緩徐楽章なので3部で構成され、中間部はフォルテに変わって勇壮な曲想に変わって盛り上がるところはあるが、それでも長さをひしひしと感じてしまう。

IV. All'Italiana(Tarantella)(イタリア風に-タランテラ) : Vivace - in un tempo
延々と長かった緩徐楽章から一転して、名前の通りイタリア風の舞曲で、とても軽快で明るい雰囲気。
ピアノの音の詰まった細かいパッセージが鍵盤上を速いテンポで疾走するので、ブゾーニらしい華やかさがあってなかなか爽快。ただし、オケも盛大に鳴っているので、両方が協奏するところでは時々ピアノが埋もれがち。
ナポリ民謡「毒のあるバラード」が引用されているらしく、そのせいか時々怪しげな雰囲気の旋律が聴こえてくる。
この楽章もモチーフが次々と変わるので、流れがよくわからないが、そういうことはわからずとも、あれよあれよという間に終盤に。
終盤近くはオケが壮大に高揚し、ピアノも加わってクライマックスに。これで終ったと思ったら再びクライマックスに向かうので、なかなか終らない。
それでもようやくラストを迎え、ここはピアノのカデンツァが圧巻。今までピアノがオケと協奏してソロらしい見せ場が少なかったので、これでようやくカタルシスを迎える。最後にこんなパワフルで技巧的難度の高いカデンツァを弾かされるピアニストは、本当に大変。

V. Cantic(賛歌): Largamente
もともとはさっきの第四楽章で終わる想定だったというが、やはりこの異例なピアノ協奏曲には、それに相応しい終り方が良いとブゾーニが思ったために、この珍しい合唱付き楽章が終楽章になっている。
なぜか「アラーへの賛歌」(アダム・エーレンスレーア劇詩 「アラジン, 又は魔法のランプ」中の詩)という詩をテキストにして、男声合唱を入れている。
ピアノは控え目で、ようやく最後にピアノが少しだけ登場して、オケとともども華々しくこの曲を締めくくる。終ったとたんに盛大な拍手と歓声。
実質的には第4楽章でこの曲は完結していると思うくらいに、前の4つの楽章とは違った趣き。
ピアノ協奏曲で合唱付きといえば、ベートーヴェンの《合唱幻想曲》を連想してしまうが、この第5楽章は、ラストには一応高揚していくとはいえ、宗教的な静謐な雰囲気が漂って意外と穏やか。
作曲意図も違うので比べても意味はないのだろうけれど、せっかく終楽章に合唱を入れているので、ベートーヴェンほどの高揚感を期待してしまった。

各楽章ごとに集中して聴いていけば、楽章ごとに性格が違って、これはこれで面白い構成の大曲だとは思う。
ただし、よほど精神的に元気で集中力が続くような状態でないと、この80分近くかかる曲をそう頻繁に全曲聴こうという気には全くならない。
もう一度聴くのなら、最も軽快でリズム感が良く、ピアノのカデンツァが素晴らしい第4楽章だけにしたいと思ってしまうほど、壮大だけれど本当に長い。”誇大妄想的”などと陰口を叩かれるのが良くわかる。
それでも、やはり聴いておいてよかったと思えるくらいには面白い曲だったので一応満足。

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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