カッチェン《Decca Recodings 1949-1968》より ~ プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番 

2009, 04. 14 (Tue) 20:04

プロコフィエフのピアノ協奏曲のなかで最も陽性な第3番。
猛烈なスピードで技巧の冴えという力技を要求する曲だが、聴く方にとっては明るく華やかで一番の人気もの。ピアニストの腕の見せ所がたくさんあるので、第3番は5曲中一番演奏・録音されることが多い。
スピード感に加えて、シニカルで不可思議な雰囲気があったり、美しい叙情的な旋律が流れたりと、聴いていて面白い曲だけれど、聴くたびに鍵盤上でアスレチック競技を聴かされている気分になる。
シニカルなところは、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲の方が屈折度が増しているので聴き終わっても考えるところが多い。
プロコフィエフは、聴いている時は感覚的を刺激するような面白さがあって好きだけど、聴き終わると刺激がなくなるせいか、曲自体はきれいさっぱり頭の中から消え去ってしまう。
この曲を続けて何回か聴いているととても疲れた気がするのは、感情的にシンクロするというよりは、音とリズムが感覚を刺激するせいに違いない。それにしても、この錯綜しながら疾走する面白さという点で、この曲に優る曲はないんじゃないかと思う。

カッチェンは、モノラル録音で1953年にアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団と、ステレオ録音では1968年のケルテス指揮ロンドン交響楽団と、2度この第3番のコンチェルトを録音している。
両方とも滅法速いテンポで弾いていて、各楽章の演奏時間は、あの名盤とされる爆走する(らしい)アルゲリッチの演奏とあまり変わらないか、速かったりする。
(楽章ごとの演奏時間:モノラル録音①8:20/②8:44/③8:26、ステレオ録音:①8:39/②8:43/③9:04)

プロコフィエフの自作自演盤だと、第2楽章がさらに1分くらい短いが、他は8分台で同じくらい。
プロコフィエフは、この曲は「スピードが命」とか何とか言っていたはずなので、とにかくトロトロと弾く曲ではないのは確か。
超快速ではないピアニストでも、第1楽章と第3楽章は遅くても9分台の半ばくらいでおさめている。

Julius Katchen: Decca Recordings 1949-1968 [Germany]Julius Katchen: Decca Recordings 1949-1968 [Germany]
(2006/01/02)
London Symphony Orchestra,Suisse Romande Orchestra

試聴ファイル

これはケルテスの指揮で弾いたステレオ録音を収録している。
アンセルメの指揮で弾いたモノラル録音は、別に輸入盤で2種類が出ているし、そのうちの1枚はNAXOSのミュージックライブラリにも登録されている。


Wikipediaの作品解説
がやたらに詳しく、目まぐるしく展開するこの曲の構成がよくわかる。

カッチェンは第1楽章の冒頭から速い、速い。硬質で鋭角的なタッチはとてもシャープで、演奏がとても引き締まっている。ここぞというときの力感もあるので、線の細さはなくなかなかパワフル。
細かいスケールが軽快に上昇していくスピード感は爽快。と思ったら、次は打楽器のように鍵盤を叩いて弾くのはプロコフィエフらしいところ。途中で人をからかっているかのような旋律に変わったり、いろいろ忙しい。
カッチェンのタッチや響きも、旋律のもつニュアンスにあわせてコロコロ変わっている。主題が再現されると叙情的というかやや妖艶で怪しげな響きで弾いていたりする。このクルクル変わるピアノの表情を聴いているだけでも楽しいものがある。

伴奏も機動力のあるロンドン響なので、軽快でパワーもある。
第1楽章と第3楽章のラストのピアノとオケの協奏部分はダイナミック。そこに限らず、かなりオケのパートの存在感が強いので、この曲は協奏曲というよりも”競奏曲”のような感じがする。

第2楽章は緩徐楽章なのでテンポはゆっくり。
ここはピアノの響きが柔らかくやや幻想的な雰囲気で、静かな曲想だと思っていたら、時々またピアノが走り回り出したり、やや不協和的な和音で移動したり、相変わらず落ち着きがない。
ラストはなぜか伴奏が俄然元気になって、勇壮な旋律に変わっている。
いろんな旋律が急転直下するようには現れてきて、軽妙などこか人を食ったようなところがある。

第3楽章は、オケとピアノの掛け合いが面白い。
始まりのところは抜き足差し足のような、ちょっとふざけたような旋律。そのうち、ピアノが短いスケールで上昇と下降を繰り返し、それから、いろんな旋律が入れ替わり立ち代り現れては消えていく。
第1楽章の主題を変形したような叙情的な旋律が出てきたと思ったら、異世界のような不可思議な旋律が現れたりと、常にいろんな方向に変転してしていて、つかみどころがない。
そのせいか、ラストで、ピアノが高速のスケールで鍵盤上を上下して、華やかに終わるところはとてもまともに聴こえる。

カッチェンの演奏スタイルは、アルゲリッチのようなテンペラメントで弾くタイプではないので、破天荒なところはないけれど、テクニック的な切れ味と疾走感は抜群。硬質で冷たく輝くような叙情も美しく、スタイリッシュでシャープな演奏。
一緒に聴いたキーシン、ベロフの演奏もそれぞれ個性があるが、それと比べてもカッチェンのプロコフィエフは遜色ない演奏なので、一番良く聴いている。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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