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《The Art of Julius Katchen》より ~ バルトーク/ピアノ協奏曲第3番(1965年ステレオ録音)
カッチェンが録音した現代もののピアノ協奏曲は、ラヴェル、ブリテン、ガーシュウィン、プロコフィエフ、バルトークが残っているが、そのうちプロコフィエフとバルトークのピアノ協奏曲第3番はいずれも2度録音している。

バルトークのピアノ協奏曲第3番の録音は、
1度目は、アンセルメ指揮スイスロマンド管弦楽団の伴奏で、1953年のモノラル録音。(プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番も同時期に録音)
2度目は、ケルテス指揮ロンドン交響楽団の伴奏で、1965年のステレオ録音。(プロコフィエフは1968年に録音)

プロコフィエフの第3番は私には感覚刺激型のコンチェルト。何度聴いてもその時は楽しく聴けるけれど、しばらくすると旋律も何もかも忘れてしまって、曲がなかなか思い出せない。
バルトークの最後のコンチェルトは、前2作に比べて叙情性が強くて聴きやすくはあっても、どことなく理屈っぽいところがあって、逆にしっかり記憶に残る。いろんな思念や感情が織り込まれているように感じるので、考えながら聴いているせいだろうと思う。聴けば聴くほど面白いというか、いろいろ考えたくなってしまう。

作曲家の吉松隆によるバルトーク論「バルトークに関するバトルトーク」。小論ながら作曲技法などについても書かれているし、語り口が彼らしくて結構面白い。

もう少し本格的なバルトーク論なら、音楽評論家の川鍋博著「バルトークを考える~音楽、絵画、思想からのアプローチ」という論文がある。(雑学辞典ドットコムのサイトに掲載)
ピアノ協奏曲第3番の第2楽章が典型的なバルトークの「夜の音楽」だと、ナクソスのオンライン解説に書いてあったので、バルトークの「夜の音楽」とは何のこと?と思って探していたら見つけた論文。
絵画の部分はともかく、バルトークのピアノ作品《戸外にて》に登場する《チェイス:The Chase》の生命力と《夜の音楽》の静けさという正反対な性格の分析をもとに、バルトークの作品を論じたのは「第二章 ミクロコスモス」。
全三章からなる論文(PDFファイル)のダウンロードもできる。


2度行ったバルトークのピアノ協奏曲第3番の録音では、カッチェンの弾き方がかなり違っているので、聴き比べるととても面白い。
若々しく軽快で爽やかなタッチの1953年のモノラル録音と違って、1965年のステレオ録音はより深い叙情性を感じさせるとともに、力強さと技巧性も強く出した演奏になっている。
演奏時間を比べると、2つの録音ではかなりテンポが違う。
  モノラル録音/第1楽章 6:37/第2楽章 9:16/第3楽章 7:24
  ステレオ録音/第1楽章 7:16/第2楽章 10:54/第3楽章 6:51
ステレオ録音は第2楽章をゆったりと弱音主体に弾き進めているので、この曲の静謐な雰囲気が良く出ている。第3楽章は切れの良いスピード感があったが、やはり演奏時間が30秒ほど短くなっていた。
録音状態・演奏内容とも、ステレオ録音盤の方がずっと良いと思っているので、もし入手可能ならそちらがお薦め。
                          
このステレオ録音を収録したCDは、国内盤・海外盤の2種類があるが、ともに廃盤になっているので、入手はかなり難しい。たまにオークションに出ていることはあるが、それも極めて稀。新たに入手できた人はとっても運が良いです。
”Julius Katchen: Decca Recordings 1949-1968”に収録されているのは、1953年のモノラル録音の方です。

バルトークのピアノ協奏曲第3番を収録した国内盤。すでに廃盤。
グリーグ,ラヴェル,バルトーク:ピアノ協奏曲グリーグ,ラヴェル,バルトーク:ピアノ協奏曲
(2004/10/27)
カッチェン(ジュリアス)

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"The Art of Julius Katchen”のVol.6。
ガーシュウィン、ラヴェル、バルトーク、ブリテンの20世紀に書かれたピアノ協奏曲を中心に収録した盤。これも廃盤。
"The Art of Julius Katchen”シリーズのブックレットには、楽曲解説に加えて、カッチェンの友人・知人・DECCA関係者等の回想を元にしたカッチェンのミニ伝記”Julius Katchen and the unification of day with night”が記載されていて、これがとても秀逸。
The Art of Julius Katchen, Vol. 6 [Australia]The Art of Julius Katchen, Vol. 6 [Australia]
(2004/11/09)
Julius Katchen

商品詳細を見る(試聴ファイルなし)
この盤は、たまにオークションに出てます。(1年に1回か2回くらい?)

                                  

バルトーク/ピアノ協奏曲第3番 BB 127/Sz. 119(Wikipediaの楽曲解説)

この曲は、優れたピアニストであるディッタ夫人の誕生日のための贈り物として、そして、夫人のレパートリーの一つとして、作曲されたというのは有名。
そのため、第1番や第2番のようなパワフルで難度の高い技巧は控えめにして、打楽器的な奏法はほとんど用いず、調性の安定した馴染みやすいメロディアスな旋律を多用した叙情性豊かな曲に仕上げている。
作曲にとりかかった時には、すでに白血病が進行していたバルトークは、残り17小節分のオーケストレーションを残して亡くなってしまう。バルトークの”白鳥の歌”とも言える曲である。
自身の余命のことをどのくらいわかっていたのかは知らないが、第2楽章”Adagio religioso”が内面に沈潜していくような静謐さを持っているのが、死期が迫っていることを悟っているような暗示にも感じられる。しかし、それにしては、この曲全体に暗い翳りや絶望感・焦燥感のようなものが希薄で、どこかしら透徹した澄んだ明るさがあり、第3楽章には力強さが溢れているようにさえ感じられる。

ピアノ協奏曲の第1楽章を聴いた時に、《管弦楽のための協奏曲》の第2楽章Giuoco delle coppie(対の遊び)に良く似ている気がした。
オケが楽器を次々に変えて弾く”遊び”の旋律を、ピアノで弾いたらこういう曲になるだろうという気になる。旋律自体も似ている部分があるし、何よりも曲のもつ雰囲気に相通ずるものがある。

この《管弦楽のための協奏曲》が生まれていなかったら、このピアノ協奏曲第3番も作曲されなかった可能性は高かったらしい。
《管弦楽のための協奏曲》は、米国移住後、病気と経済的な困窮で精神的なうつ状態に陥っていたバルトークを助けようとした友人たちの発案で、指揮者のクーセヴィツキーが、自身が設立した財団を通じて、バルトークに作曲を委嘱したと言われている。
「アメリカへ移住したバルトークは、完全に創作の意欲を失っており、この委嘱が無かったら、弦楽四重奏曲第6番がバルトークの最後の作品になっていたであろうと考えられている。」とWikipediaには書いてあった。
《管弦楽のための協奏曲》をわずか2ヶ月で書き上げたことによって、バルトークは創作意欲を取り戻し、『無伴奏ヴァイオリンソナタ』や『ピアノ協奏曲第3番』を作曲したという。

第1楽章 Allegretto
冒頭の主題は、解説によるとハンガリー風やルーマニア風の薫り。
ピアノが軽やかに弾く主題を聴くと、探究心と好奇心に満ち溢れた子供の眼差しのようなイメージが浮かんでくる。その後、オケが入ってきてからピアノが弾くトリルがとても力強い。
これからしばらく、主題が軽快なタッチのピアノによって展開されていくが、この主題がハンガリー化ルーマニアの民謡旋律を素材にしているのかもしれない。
主題の展開が終ると、今度はピアノのアルペジオを背景に主題がオケによって力強いフォルテで展開されていく。このピアノのアルペジオが力感・量感とも充分で、結構音量の大きなオケと互角。
冒頭こそ軽やかに始まっているが、ピアノとフォルテで交互に主題が展開されていて、意外と力強さを感じさせる構成になっている。
カッチェンのピアノは、フォルテは力感・量感豊かに弾くが、弱音になると軽やかなタッチで好奇心にあふれた軽妙さ。この両者のコントラストが明確でダイナミック。オケも盛り上がりのあるスケール感のある演奏で、全体的にモノラル録音とはかなり違う雰囲気の演奏に変わっているのが面白い。

第2楽章 Adagio Religioso
第2楽章冒頭は、オケによる透明感のあるコラール風の旋律。
やがてこの楽章の中心となる”夜の音楽”にかわり、コラール風の旋律を弾くオケと対話するように、ピアノが静かにつぶやくように弾いていく。ひそやかな雰囲気の中にも、ピアノが時々強く訴えかけるようなフォルテを鳴らしている。
そのうち、深い内面への沈潜から覚醒させるように、木管がコラールからオケを引き戻して、鳥のざわめきのような音をたて、ピアノも眼が醒めて辺りを見回すかのように鋭く打鍵し、そのうち小鳥のようにさえずり始めて、これがとても可愛らしい響き。
オケが弾く鳥の鳴き声のような旋律は、いろんな楽器の音色と旋律が登場して、森に住む鳥たちがあちこちで会話しているような雰囲気がする。コラールから抜け出てから、とてもイメージ喚起力が強くなっていくのがとても印象的。
最後にはピアノのアルペジオが森のざわめきを表現しているかのように大きくなって、やがて元通りの静けさにもどる。終盤にピアノが弾く旋律はとても叙情的で美しいけれど、感情が昂ぶったようなフォルテになったり、安らかさと不安感(やや悲愴感もある)とが同居するような雰囲気が漂っている。

第3楽章 Allegro Vivace
第3楽章は、一転してテンポが速くなり、ピアノの力強いアルペジオで始まる。カッチェンのタッチは力強いが、硬質でシャープなので、力感とスピード感があって、とても躍動感のある弾き方。
主題を弾くピアノに合わせて、伴奏もやや騒然とした力強いタッチで演奏しているが、すぐにピアノがモダンで軽快な旋律を弾き始める。(ここは、ブリテンのピアノ曲の洒落た雰囲気に良く似ている。ショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」の第3番のフーガも、雰囲気的に似たものがある。)
やがて、ロマンティックな叙情的な旋律や、舞曲風の旋律が登場したりと、この楽章は主題を変形したいろんなモチーフがフーガのように次から次へと移り変わっていく。
ころころと変わるピアノの表情の変化にオケが良く合わせていて、オケとピアノが掛け合いながら展開していくが、速いテンポのなかでも呼応するタイミングがぴったり合っている。
ラストはオケが勇壮な雰囲気で力強く盛り上がっていき(これはなかなかカッコイイ演奏)、ピアノもそれに合わせて、フォルテで重音・和音の連打・スケールが続き、ラストは華やかに上行するクロマティック・スケールで締めくくる。

このラストのクロマティック・スケール(半音階)は、両手のユニゾンかと思っていたら、楽譜上では、左手の単音(終わりの方はオクターブの重音)、右手の8度重音を交互に弾いて半音階にしているという、いわゆる「リストの半音階」。
カッチェンのスケールが滑らかだったので全然わからなかったが、楽譜を見ていて気がついた。モノラル録音や他のピアニストの演奏をいくつか聴いていると、自然にマルカート気味のタッチになるので、ちょっとゴツゴツしたところのあるスケールになっている。
この奏法だと、普通のユニゾンで半音階を弾くよりかなりしっかりしたタッチと音になるので、オケの音量にも負けていない。

この曲は、バルトークにしては穏やかというか、革新性・前衛性が希薄なのでさほど評価されてこなかったというが、最近は録音も増えて人気がでてきているような感じがする。(グリモー/ブーレーズの録音の影響かも?)
プロコフィエフの第3番よりもずっと好きな曲なので、40年近くも昔にカッチェンがステレオ録音を残してくれていて良かった。この録音は海外盤を最近手に入れたばかり。以前から聴いていたモノラル録音は音質が悪くて、とてもストレスがたまっていたので、今はこのステレオ録音の演奏を全く飽きもせずに繰り返し聴いている。


 ピアノ協奏曲第3番(2台のピアノ用編曲版)の楽譜
IMSLPには、第3番の楽譜が登録されていないため、Scribdというサイトに掲載されている楽譜にリンクしています。閲覧のみだとユーザー登録不要。楽譜の閲覧だけしたところ特に問題はないようですが、私は初めて知ったサイトなので、ご自身の判断で利用してください。


 ピアノ協奏曲第3番のモノラル録音の記事

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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