内田光子 ~ シェーンベルク/ピアノ協奏曲 

2009, 05. 21 (Thu) 12:00

シェーンベルクのピアノ作品は、難解で無機的でロマン派的な音楽的感性を拒絶するかのような曲だが、内田光子の演奏を聴くとシェーンベルクが全く違って聴こえてくる。
古典・ロマン派を弾く内田光子の演奏は、隅ずみまで表現が尽くされ情感が込められいて、聴いていても、演奏する姿を見ていても、疲れてくるものがある。
好みのタイプでは全くないピアニストだけれど、このシェーンベルクの演奏については全く別。
その情感過多(と私には思える)な表現が、現代音楽の無機的な性質を有機質に変化させたかのようで、情感を排除して成り立っているかのうようなシェーンベルクの旋律と音の響きが、なんて叙情豊かに聴こえてくるんだろうと驚き。

彼女の演奏に関する浅田彰の批評【内田光子のシェーンベルク】は、全く的を射ていて、”反動的”だと思える彼女の演奏がシェーンベルクの曲に生気と感情を与えている。

このアルバムの収録曲は、シェーンベルクの「ピアノ協奏曲 Op.42」、「3つのピアノ曲 Oop.11」、「6つのピアノ小品Op.19」、ウェーベルンの「ピアノのための変奏曲 Op.27」 、アルバン・ベルクの「ピアノ・ソナタ Op.1」。
10年前に現代音楽を聴き始めた頃に、この演奏を最初に聴いていれば、好みに合うわけではないにしても、シェーンベルクやウェーベルンの音楽の印象も変わっていたのにと思う。

ポリーニやグールドの演奏と聴き比べてみると、いかに彼女の弾くシェーンベルクやウェーベルン、ベルクがロマン派的な豊かな情感に彩られているか良くわかる。
ポリーニは昔からシェーンベルクを弾いていたが、このピアノ協奏曲も録音していて、それは強弱で起伏はつけながらいろいろ表現してはいるのだろうけれど、やはり無機質的色合いの強い演奏になっている。そもそもポリーニは元から叙情表現がそんなに豊かとはいえないので、こういう演奏になるのはよくわかる。
それに比べれば、グールドが弾くピアノ協奏曲は、かなりドラマティックな演奏だとは思うけれど、もとからドライな音楽をするピアニストなので、醒めた感性で研ぎ澄まされたようなストイックなところがある。
ベルクのピアノ・ソナタはとても好きな曲。グールドが弾くと張り詰めた緊張感と硬質で突き刺すような美しさがある。もともと後期ロマン派的な音楽なので、内田光子の演奏だとやや柔らかなフォルムと響きに聴こえる。どちらの弾くベルクも素晴らしい。

シェーンベルク :ピアノ協奏曲 作品42シェーンベルク :ピアノ協奏曲 作品42
(2000/11/22)
内田光子、ブーレーズ指揮クリーブランド管弦楽団

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このアルバムでは、ピアノ協奏曲が一番面白い。独奏曲はどうしても色彩感が薄くメロディも凝縮されてシンプルなため、無機的な性格が強くなるので、聴きにくいものがある。

ピアノ協奏曲は、ピアノのリズム感が良く、それに乗ってまるで話しかけるように起伏のついたフレーズを弾くので、本当に表情豊か。こんなに饒舌なシェーンベルクも珍しいが、現代音楽だからといって無機的に弾かなければならないというわけでもないから、この解釈はとても新鮮。

第1楽章冒頭からとても柔らかな雰囲気のピアノで始まり、オケ伴奏もそれにあわせて包み込むようにふんわりとしたタッチ。ピアノは初めは問いかけるような旋律を弾いていたが、オケと対話し始めてからはおしゃべりするかのようで、細部まで細かくニュアンスづけをしたコロコロと表情の変わる饒舌なピアノに変わる。
オケも表情豊かなピアノに良く合わせて、カラフルでしなやかさな演奏で、このオケとピアノの掛け合いがかなり面白い。

第2楽章はかなり激しい曲想で鋭く荒々しい旋律が続く。第3楽章のアダージョは叙情的ではあるけれど、ロマン派的な感情に強く訴えかける叙情性とは無縁。冷徹な叙情が突き刺すように美しく、とてもドラマティック。

第4楽章はGiocoso(陽気に、楽しげに)。無調の世界で”陽気で楽しげな”音楽って?と思ったが、ちゃんとそういう風に聴こえてくる。どことなく飄々としたところのある旋律がいろいろと登場して、ピアノもオケも軽やかで柔からめのタッチで、時々リタルダントを入れてリズムも伸縮させている。プロコフィエフを無調にするとこんな感じになるのかも。
何回か聴いていたら、4つの楽章の性格付けがまるで「喜怒哀楽」の順になっているような気がしてきた。

「Arnold Schönberg Center」のサイトにあるピアノ協奏曲の録音と聴き比べてみれば、表現の違いが良くわかる。
ピアニストの表現によってあの無機的(と思える)な曲の表情が変わって、シェーンベルクの曲がこういう風に聴こえてくるのかという驚きと新鮮さがある。本当に面白いシェーンベルクのピアノ協奏曲だった。

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