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スティーヴン・ハフ&リットン指揮ダラス響 ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
スティーヴン・ハフの名盤であるラフマニノフのピアノ協奏曲全集のなかでも、第2番のコンチェルトの演奏は素晴らしい。アンドルー・リットン指揮ダラス交響楽団の伴奏で、2004年5月、ハフが42歳の時の録音。

Rachmaninov: Piano Concertos Nos. 2 & 3Rachmaninov: Piano Concertos , Paganini Rhapsody
(2007/10/09)
Stephen Hough (Piano), Andrew Litton(Cond.), Dallas Symphony Orchestra

試聴する(hyperionサイト)

※第2番と第3番だけを収録した分売盤もある。

ハフが弾いていたブリテンのピアノ小曲集『Holiday Diary』ではそれほど超絶技巧が目立たなかったが、さすがにこのラフマニノフのコンチェルトともなると、際立った鮮やかさが良くわかる。
ラフマニノフ自作自演のように早いテンポながら、どんなに加速しても一つ一つの音が粒立ち良く明瞭に鳴り響き、全く崩れることがない堅固なテクニックで、ライブ録音ながら大したキズもない。
アール・ワイルドのテクニックの切れ味も良かったが、加速するとやや筋肉質的になりかけたり、割り切りのよい明るさと硬質な冷たい叙情を感じさせるところがある。それはそれで悪くないが、ハフの演奏を聴いてしまうと、ワイルドの演奏も印象が薄れてしまう。
ハフはテクニックの切れの良さと力強さに加え、ダイナミックで推進力が強く勢いのある演奏だが、潤いのある情感も全編に溢れている。これほど3拍子揃った演奏はそうそうないでしょう。
今までラフマニノフの第2番を聴いた中では、このハフ&リットン/ダラス響の演奏は素晴らしく良くて、個人的な好みとしてはベストの演奏。(リヒテルのようなスローテンポでロシア的な憂愁を感じさせる重みのある演奏を好む人は、合わない可能性が高い。)

ハフが別の演奏会で、このピアノ協奏曲第2番を弾いている映像[Youtube]がある。(ハフがこの曲について語り、途中でハフの演奏シーンが挿入されている。)
CDでは、技術的な難度を感じさせない余裕のある弾きぶりに聴こえるが、映像で見るとフォルテでは渾身の力を込めて打鍵していて、これはかなり体力がいりそう。
ハフはわりと華奢な体つきなので、フォルテになると上半身の力を込めて鍵盤を強く叩いている。この弾き方はブラームスのコンチェルトを弾くときでも同じ。というか、ブラームスの第1コンチェルトを弾くときの方がもっと凄い。
ラフマニノフもブラームスも見ている方も同じように力が入ってしまうくらいに、なかなか面白い映像です。<ブラームスのピアノ協奏曲第1番第3楽章の演奏映像[Youtube]>
映像を見るとハフの演奏の勢いがよくわかるが、CDで聴いていても勢いと迫力が伝わってくる。このCDの演奏には、ダラスで行った演奏会のライブ特有の熱気と緊迫感もあるのだろう。

ハフは、ラフマニノフのコンチェルトの奏法について、「現代のピアニストの演奏には、本当に当惑してしまった。ラフマニノフの演奏に見られた特徴的なルバートはどこへ行ってしまったのだろう?常に熱っぽく前に進もうとする、柔軟で流れるようなテンポは?旋律と対位法を形成するかのように、色彩豊かに移り変わる和声を形作る、じらすような、陰影の濃い内声部の動きは、どこへ行ってしまったのだろう?そして、弦楽器が生み出す“ポルタメント”は?」と言っていて、この考えは彼の演奏にも反映されている。

全体的にかなり速いテンポをとり、勢いと推進力のある演奏。しかし、結構ルバートを効かせてテンポが伸縮し、強弱のコントラストも鮮やかなので、とてもメリハリがある。どんなに速くて音がこみいっているパッセージでも、一音一音がクリアに響き、いつもは聴き取りにくい左手や内声部の旋律が聴こえてくる。
ハフは硬質のタッチで鋭く引き締まった響きがするが、打鍵のコントロールがしっかりしているので、弱音は柔らか。全体的にタッチは重くはなくきびきびとした軽やかさがある。音の粒立ちがよいことと、音の強弱に関わらず濁りのないクリアな響きなので、表現の細やかさが細部までしっかりと聴きとれる。
ヴィルトオーゾ系のピアニストは、概してテクニックは鮮やかだが表現力不足の傾向がある。ハフはシャープで知的な演奏ではあるが、わりと起伏の多くて感情の揺れの大きな表現で叙情性はとても豊か。
叙情的な第2楽章を聴けば良くわかる。情念べったり系ではなくて、強弱のコントラスとテンポの伸縮が明確でストレートな表現だが、潤いがあって後味の爽やかさがとても良い。

ラフマニノフの第2番協奏曲の冒頭のピアノソロは、スローテンポで始めるのが普通。
なぜかハフはテンポを落とさずに、その後の主題を弾くのと同じ速さで弾いている。あれれと初めは思うが、慣れたら違和感もなく、かえってこのテンポの方がハフの弾き方に似合っているように思えてくる。
第3楽章になると、一転して速いテンポに力強さが加わり、一気に終盤まで弾き進んでいくが、ためるべきところはため、加速するところは加速しと、テンポの緩急のつけ方が見事。
サビの有名な旋律はとてもロマンティックで、クライマックスの高揚感も素晴らしい。終楽章が終わったとたんに、会場から一斉にブラボーの声と拍手の嵐。これをライブで聴いた人がうらやましい。

このオケの演奏がまた素晴らしく、ロシア的憂愁というでもいうのかやや暗めの太くて重みのある音をだすが、かなりの高速で演奏しているので、演奏自体に重たさやべったりとした情念は感じさせずに、勇壮で華麗でドラマティック。
古きよき時代の演奏のような大時代がかったドラマティックなところはあるが、これだけスピード感・力感とロマンティシズムが溢れている演奏は聴いていた楽しいもの。
ハフは、ラフマニノフの自作自演のスタイルを真似たところで意味はなく、大事なのは「当時のピアノ言語を理解し、それに習熟することである。そうすれば、私達は本物の語彙とイントネーションで、自分自身の言葉で語り、歌うことができるのである。」と言っている。このライブ録音もラフマニノフの生きていた時代のスタイルをベースに、彼自身の演奏解釈で弾いているのだと思う。

ハフはすでに40枚近いCDをリリースしている。リストやブラームス、ラフマニノフという難曲を録音しているのは理解できるが、モンポウ、サン=サーンスのコンチェルト、シューベルトのピアノ・ソナタ、ショパン(バラードとスケルツォ)まで録音しているから、かなり詩的な感性を持っている人らしい。
彼は自分で作曲・編曲もするので、小品を収録したピアノアルバムシリーズには、ハフの自作自演のピアノ曲も入っていたりするのが面白い。

スティーブン・ハフの公式サイト[英文のみ]
ハフの執筆文、CDのブックレットにハフが寄せた文章などを英文で読むことができる。
このアルバムに関しては、「Recording Rachmaninov」、「Album Note-Rachmaninov: Piano Concertos」の2文が掲載されている。国内盤ではその一部が日本語訳で載っている。

tag : ラフマニノフ スティーヴン・ハフ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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好きな写真家:アーウィット

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