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ボストリッジ ~ ブリテン/イリュミナシオン
ブリテンの歌曲の中でとりわけ有名な「イリュミナシオン」。
これは元々はソプラノ歌手のWyssのために作曲された管弦楽伴奏つきの連作歌曲だけれど、ピーター・ピアーズがレパートリーにして歌って、それが素晴らしいために、ピアーズのために書かれた曲のように思われている。
それにブリテン自身にとっても、Wyssの存在はどこかに消えてしまって、ピアーズに置き換わっているに違いない。

原詩はランボーの詩集「イリュミナシオン」から選ばれている。ブリテンが使っている詩文とその解説を読むと、女声ではなくて、男声で歌うためにあるような詩だと思える。

「イリュミナシオン」の代表的名盤は、何と言ってもブリテンがロンドン交響楽団を指揮して、ピーター・ピアーズが歌っている盤。
最近リリースしたイアン・ボストリッジ(ラトル指揮ベルリン・フィル)のアルバムもかなり評判がよい。

どちらにしようか結構迷ったけれど、試聴するだけで2人の声質の違いがすぐわかる。
ピアーズの硬くて乾いた声で格調の高さを感じさせる歌とは違って、ボストリッジの歌声は潤いと色彩感があって、表情がとても豊かな歌。
ピアーズ盤は、ブリテンがピアーズのための書いた曲ということと、ブリテンが指揮しているというのにとても魅かれるものがあったけれど、ピアーズの声質はどうも好みに合わない。
結局、声質の良さと歌としての面白さでボストリッジのアルバムにした。それでも、ブリテン&ピアーズ盤もそのうち手に入れたい気はする。

ブリテン:歌曲集ブリテン:歌曲集
(2005/11/09)
ボストリッジ ラトル&BPOボストリッジ(イアン)

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カップリングは、テノールのための代表的な歌曲集「セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための」と「夜想曲~テノール、7つのオブリガート楽器と弦楽のための」。

輸入盤なので日本語訳詩がついていない。
英文でも簡単な詩なら言わんとすることがわからないことはないとはいえ、このランボーの英訳詩はかなり厄介。詩なんかめったに読まないので、なおさら。
ネットで翻訳を探してみると、<梅丘歌曲会館「詩と音楽」>のブリテンのページのところに載っていた。
ベリオの『フォーク・ソングズ』の歌詞も載っていたし、本当に役に立つサイトです。

詩としての「イリュミナシオン」に関する本格的なサイトは、門司邦雄さんの「Rimbaud Illuminations」。この方はランボーなどのフランスの詩を研究している人らしく、訳詩と解説が載っていて、この解説を読んでようやく歌詞の意味するところがわかってきた。

歌曲の類はそれほど歌詞は気にせず、もっぱらメロディを聴いているとはいえ、この歌曲集は歌詞を知っておかないとさっぱり何を歌っているのか、雰囲気さえわからない詩もある。
その上、ドイツ系のヘッセやハイネの詩は英語であっても概ね字面どおりに素直に理解できるが、ランボーの詩は象徴詩というのか、詩の解説文まで読まないと、詩が象徴するものや意味するものが理解しがたいところがある。
さすがに解説まで読むと、なるほどこういう詩だったのかとわかって、結構面白い詩だと思えてくる。
詩の解説までしっかり読んで聴いた歌曲は、マーラーの歌曲とこの曲くらいかも。

ブックレットには、ボストリッジのブリテン歌曲に対する解説が載っている。
ランボーの詩を選択したことの意味と効果や、ランボーのフランス語のテキストと英語との関係などについて、テナー歌手の彼の解釈がわかる。
ボストリッジは、ブリテンが選択したランボーの詩もいろいろな点で印象的(Striking)だと言っているが、これはボストリッジの見解と詩の解説の両方をじっくり読むとよくわかる。
最後まで歌詞とつきあわせて聴いたことは聴いたけれど、メロディと伴奏だけ聴いてもそれはそれで面白い。
ボストリッジの潤いのある伸びやかな美声と、抑揚がついて起伏に富み、表情がクルクル変わる歌い方は、歌詞なしで聴いていても結構楽しめる。

冒頭の<Ⅰファンファーレ(Fanfare)>は、オープニングに相応しく、格調高く華やか。
いつ聴いてもこのファンファーレは良い。ボストリッジの伸びやかで明るめの声がとても素敵。彼は本当に良い声をしている。弦の響きも艶やか。

<Ⅱ都市(Villes)>の歌詞は、色彩感があってとても視覚的な詩。
いろんな人と物が集まってくる活気とざわめきと華やぎに満ちた都市の描写が生き生きとしている。
曲の方はまるで馬が駆け回っているかのような疾走感。
ボストリッジの歌は、目の前で都市のいろんな情景がパノラマのように展開している如く、シーン(歌詞)に合わせた表現が鮮やか。この曲集のなかでは一番わかりやすい曲想で、明るく華やかな曲。

<Ⅲa 断章(Phrase)>は、歌詞がとても夢幻的。
「星から星へ」のフレーズで、思わず宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を思い出してしまった。
曲も神秘的というか、密やかな雰囲気のある、不思議な響き。

<Ⅲb古代(Antique)>はメロディがとても流麗で美しく、伴奏の高音の弦の響きも格調高い。

<Ⅳ王権(Royaute)>も華やかで明るい曲。
歌詞をみるとちょっと揶揄したようなところがあるような気がしたけれど、解説を読むと良くわからなくなってきた。

<Ⅴ海景(Marine)>は、標題どおり広々とした海原がイメージできる開放感のある曲。これは歌詞にぴったり。

<Ⅵ間奏曲(Interlude)>の歌詞は、ファンファーレで歌われた「私だけがこの道化芝居の鍵を持っている」の一文のみ。
弦が順番に高音から低音へと下降していくので、何かが起こる予兆のような不思議な雰囲気がある。
弦の合奏が続いて、最後にテナーがゆっくりと歌って終わる。

<Ⅶ美麗なる存在(Being Beauteous)>はとてもセクシュアルな即物的な詩として解説されているが、いろいろな解釈があるらしい。
曲の方は前半は線が細くて繊細さがあるが、歌詞に合わせてだんだんネットリとしたところが出てきて、最後は耽美的な雰囲気も漂っている。

<Ⅷ客寄せ道化(Parade)>の歌詞は、イメージ的に混沌として毒々しい原色のような色合い。
ブリテンの曲も詩の言葉をそのまま話しているような旋律で、とてもアクの強い曲。

<Ⅸ出発(Depart)>は、一転して象徴的な美しさのある歌詞。
曲の方は、消え行くような静けさ。こういう終わり方はブリテンらしい。

前半の曲は、わりと明るい色調で旋律もわかりやすく綺麗で、躍動感や華やかさもあったけれど、<Ⅵ間奏曲>から雰囲気が変わっている。
<Ⅶ美麗なる存在>と<Ⅷ客寄せ道化>はそれぞれ歌詞のアクの強さが際立ち、曲もそれに合わせて独特の濃厚さがあって、馴染みにくさはある。

何度か聴くと、ブリテンの音楽の底流にある屈折して鬱屈したような雰囲気が、このランボーの詩の雰囲気とよく似合っているような気がしてきた。
<Being Beauteous>は、ボストリッジの解説と詩の解説の両方を読めば読むほど、ランボーとヴェルレーヌの関係と、ブリテンとピアーズの関係とを思わずオーバーラップさせてしまいそうになる。
ドイツロマン派の歌曲と違って、「イリュミナシオン」は幻想性と象徴性とカオスに満ちていて、一筋縄ではいかない独特の面白さがある。

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好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

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