シュニトケ/チェロ、ピアノとテープのための「エピローグ」 ~ バレエ音楽「ペール・ギュント」より 

2009, 03. 29 (Sun) 20:36

シュニトケはあの有名なバレエ「ペール・ギュント」のために、劇伴音楽を作曲している。
そのなかの「エピローグ」を室内楽用に編曲したのが、『チェロ、ピアノとテープのための「エピローグ」 』。
「烏鵲の娯楽室」のうじゃくさんに、とても美しいからと勧められた曲。

テープというと、ジョン・ケージみたいな前衛風の音楽を思い浮かべるが、この曲は不協和的な音で構成されてはいるけれど、至極まっとうな曲。
冒頭は、叩きつけるように力強くものものしい、重苦しい雰囲気のピアノ・ソロで始まる。
しばらくすると一転して静寂に。テープから合唱が聴こえてくるが、これはスキャット(というのか)で歌詞のない合唱で、とてもかすかな響き。
この背景に流れる合唱が通奏低音のように響いていて、これがとても美しい。なぜテープを使っても合唱を入れたのか、納得してしまう。

この合唱を背景に、深々とした音のチェロが哀しげな旋律を弾き、ピアノがシンプルな音の伴奏を厳粛な雰囲気で、ひそやかにポツポツと弾いている。
中盤あたりでピアノが覚醒したように力強く弾き始め、チェロも感情が高ぶったかのように朗々とした響きに変わる。
やがて何が差し迫ってくるかのように、チェロとピアノの同音連打の合奏になってから、再び落ち着いたムードになる。と思ったら、ピアノがガンガンと駆け出して、チェロも後を追って、風雲急を告げる如くの旋律に変わる。
終盤はテンポが落ちて、曲も落ち着いてはいくが、チェロもピアノも雄弁。切々と訴えかけるようなチェロの旋律と、力強く打鍵するピアノの伴奏が続く。
ラストはさすがに静寂に戻り、チェロのソロがか細い音色で消え行くように終える。

中盤以降はなかなか目まぐるしい展開で、25分くらいの演奏時間でもそう長くは感じない。
バレエ音楽が元になっているだけあって、かなりドラマティック。バレエ自体を見たことがあれば、イメージがもっと湧いてくるはず。
和声自体は不協和的で、全く調性音楽とは別世界の響き。でも、不快感やざらざらした無機性を感じさせるような響きではなく、不協和の世界なりに均整の取れた美しい響きがする。
特に、チェロが弾く旋律は叙情的で、悲痛感や哀感に加えて妖艶ささえ感じさせるほどに、ねっとりとした情念をおびた美しさがある。ピアノの方は、逆に打楽器を打ち鳴らすように打鍵することが多くて、荒々しさや非情さが強く出ている。このチェロとピアノの対照的な響きと雰囲気が、この曲の悲愴感を強めている。

シュニトケにしてはとても美しい旋律と深い叙情がストレートに流れているので、聴きやすい曲(だとは思う)。ただし、中盤くらいまではゆったりとしたテンポだし、単一楽章で演奏時間は26分と短くはない。
途中でいろいろ展開があって、飽きることはないとは思うけれど、シュニトケとかこういうタイプの音楽に慣れていないと途中で挫折するかも。


このCDは、チェロ・ソナタ第1番と第2番、「Musica nostalgica」をカップリング。
この「Musica nostalgica」は、古典的な旋律と調性の安定した曲。シュニトケは、時々こういうマトモな古典回帰の曲を書いている。....と思って聴いていると、最後の方はやっぱり不協和音の不条理の世界に。それでも、この曲は好きなタイプ。
チェロはアレクサンドル・イワシキン、ピアノはシュニトケの奥さんのイリナ・シュニトケ。

Schnittke: Complete music for cello and pianoSchnittke: Complete music for cello and piano
(1998/11/17)
Alexander Ivashkin(Cello),Irina Schnittke(Piano)

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2 Comments

うじゃく  

こちらでははじめまして

どうも、うじゃくと申します。"烏鵲の娯楽室"の管理人をしています。
本日、"そう言えば烏鵲の娯楽室でググるとどういうサイトが出てくるだろう"と思って検索をかけてみたら、yoshimiさんのサイトに到着した…という次第です。本当ならもうちょっと早くお目通りが出来れば良かったです。ゴメンナサイ。

シュニトケのCD情報が随分お役に立てたみたいで、正直うれしいです。ピアノに主眼を置いた聴き方も私はいいと思います(その上で鍵盤楽器の使用頻度の多い作品群に注目していただければ私の本懐です。例えば交響曲第4番とか。まぁ合唱が入ったりするのでお好きなタイプの曲からは外れるかもしれません。あしからず)。文才の無い私が"そういうこと言いたい"というのを代弁されていて、有り難い限りです。ちなみに私はこの"エピローグ"という曲で何回も泣いてしまいました。

日本人作曲家の曲もお聴きになるのですね。私は故・芥川也寸志氏の作品が好きです。

またお邪魔させていただくと思いますので、よろしくお願いいたします。

2009/05/07 (Thu) 22:29 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

いつも勉強させていただいてます

うじゃくさん、こんにちは。

掲示板にコメントを書くときに、URLを書いておけばよかったですね。気がつかなくてすみません。
「エピローグ」もとても美しい曲ですね。ピアノ五重奏曲やピアノ協奏曲も美しいですが、シュニトケには独特の美しさがあって、最近ようやく理解できるようになりました。これもうじゃくさんのおかげです。ありがとうございます。

合唱曲は聴かないことはなくて、ベートーヴェンの合唱幻想曲(これが一番好きです)とかマーラーの第4番と大地の歌、現代音楽ならペルトの合唱曲は好きです。ペンデレツキ、ヤナーチェクや現代北欧の合唱曲など、いろいろとかじっていますので、合唱が入っていても全然大丈夫なのです。
シュニトケは作品がかなり多くて、ピアノが入っている曲を先に聴いているので、それ以外の曲までなかなか手が回らなくて...。交響曲第4番がおすすめなんですね。ピアノ三重奏曲を聴いたら、それも聴いてみます。

日本人の作曲家なら吉松隆と伊福部昭は結構よく聴いてます。矢代秋雄のピアノ協奏曲や高橋悠治の「光州」は、この前聴いて気に入った曲です。
芥川氏の曲は聴く機会がなかったんですが、ナクソスのオンラインで聴いてみます。いくつか登録されていたはずなので。
芥川氏は若いころに国交のないソ連へ単身渡航して、ショスコターヴィチやソ連の音楽家と知り合いになったという武勇伝をおもちですね。日本での楽譜の出版までまかされたとか。自伝(か伝記)で読みました。真面目で控え目そうな外見からは想像もつかない行動力には驚きました。

私もうじゃくさんのサイトへは、いろいろ勉強しにお邪魔させていただきます。こちらこそよろしくお願いします。

2009/05/08 (Fri) 00:15 | EDIT | REPLY |   

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