森雅裕 『ベートーヴェンな憂鬱症』 

2009, 03. 21 (Sat) 20:16

図書館でたまたまタイトルが目にとまって手にとって見ると、カバーイラストに笑ってしまったのが『ベートーヴェンな憂鬱症』。知っている人なら一目でわかるはず。あの『パタリロ!』の魔夜峰央のイラストです。

著者の森雅裕という作家は知らないし、当然読んだこともないので、過去の著作を検索すると、『モーツァルトは子守唄を歌わない』で第31回江戸川乱歩賞受賞した作家。この『ベートーヴェンな憂鬱症』はその続編。

『モーツァルトは子守唄を歌わない』もついでに読んだけれど、謎解きの部分があまり面白いと思わなかったので、こっちの短編集の方が話のバリエーションがあって面白い。
両方読むと、第1作では30歳半ばでやや難聴気味のベートーヴェンが、続編はチェルニーとの出会う頃から始まり、最後の話では50歳を過ぎたベートーヴェンはもう会話帳が手放せなくなっている。チェルニーも40歳頃で名教師の誉れも高く、リストという弟子もできて、年月の経過を感じさせるものがある。

ベートーヴェンな憂鬱症 (講談社文庫)ベートーヴェンな憂鬱症 (講談社文庫)
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続編の方は、楽聖ベートーヴェンとその弟子チェルニーが19世紀のウィーンを舞台に、彼らが巻き込まれる殺人事件やミステリーを解決するという4話の短編集。
カバーデザインの雰囲気のごとく、ユーモア小説風(というでもいうのだろうか)の軽いタッチ。著者はベートーヴェンの音楽をこよなく愛する人らしく、登場人物に対する愛情がそこはかとなく感じられる。
偏屈で世渡り下手、シニカルなところもあるが根は実直なベートーヴェン。これは結構(良い意味で)笑えるキャラクター。ちょっと生意気だけれど利口なチェルニー君、さらには、その弟子の神童リスト君まで登場する。このチェルニーとベートーヴェンの会話はかけあい漫才みたいで面白い。
月光ソナタを献呈されたジュリエッタ・グィチアルディ伯爵令嬢も、一癖ある役回りで、身分をころころ変えて登場する。
短編集なのでそんなに凝ったプロットではないが、殺人事件や囚われの身の王女の救出作戦に巻き込まれたり、突如ベートーヴェンの子だという少年少女が現れたりと、作曲家のベートーヴェンが探偵稼業で大忙し。
ベートーヴェンにまつわるいろんなエピソードやセリフがさらっと織り込まれているので、伝記とかを読んだ人なら、それに気づくはず。こういうところを見つけるのは、結構楽しいものがある。

ピアノ教師として名声を博すほどになった大人のチェルニーは、練習曲を作曲中。彼は「音楽史の上で、その作品が演奏される回数において最多数記録保持者たる作曲家を目指してるんです。人前で弾かれるかどうかは別としてね。」
今はどうかしらないが、チェルニーの意図通り、彼の書いた練習曲は数十年前から日本では定番中の定番。この練習曲で挫折してピアノの練習を辞めた人も数知れず。幸い私は挫折することもなく、無事に50番まで通り抜けたけど、指の練習にはなったとはいえ、全然面白くなかった練習曲だった。

これはあくまで歴史上の人物を題材にしたフィクションであって、歴史小説でも歴史書でもない(あたりまえだけれど)。レギュラーの登場人物は限定されているが、これは歴史の教科書じゃないし、短編集なのでオールキャストは無理。
読めばそんなことはすぐにわかるが、なぜか、いちいち史実と違うといって追求する人(読者、評論家など)がいるらしい。
作者がわざわざ巻末に3ページほどの後書きをつけて、歴史的史実との相違について説明している。これも結構面白い。「僕の本を読んで何かを学ぼうなんて、とんでもない間違いである」、「このシリーズはフィクションであるから、いちいち本気にしないでいただきたい」とか書いているが、こんなことをわざわざ言わないといけないほど、ベートーヴェンの威光は凄いものがある。
歴史的事実と違っているとはけしからん!とか思うスクエアな人は、こういう小説は読まない方が良いでしょう。

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