ブリテン/セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための 

2009, 11. 16 (Mon) 18:15

ブリテンが錚々たるイギリスの詩人たちのテキストをもとに作曲した歌曲集『セレナード~テノール、ホルンと弦楽のための Op.31』。
『イリュミナシオン』が毒気のあるランボーの詩を使っていたのに比べれば、この『セレナード』を聴くと至極まともなロマン派的な歌曲に聴こえる。

ブックレットに載っているボストリッジの解説を読むと、ブリテンは、100年以上早く生まれていたら、ロマンティックな音楽を書いていただろうと言っていた。
ブリテン自身はこの『セレナード』について”重要な作品ではないが、とても楽しいもの”と素っ気ないが、元々ロマン派音楽に対する親近感はあったらしい。

この歌曲集は卓抜した技巧をもつホルン奏者のデニス・ブレインのために書かれた曲で、各曲のホルンパートは雰囲気や性格が異なっていて、バラエティ豊か。このホルンという楽器は、ロマン派の作曲家にとってイメージを喚起する楽器らしい。
詩がそれぞれ異なるテーマと雰囲気を持っていて、ブリテンがつけた曲もそれに合わせて走馬燈のようにイメージが次々と変わり、死の重荷とともに、ホルンによって森のごとき深さと形容しがたい憧憬を想起させる。

ボストリッジの解説はとてもわかりやすく、やはりCDを買ったのは正解。
ituneでダウンロードしたコンテンツにはブックレットもついていないし、オンラインでも読めない。(米国サイトだとデジタルブックレットが付いているアルバムもある。)

ブリテン:歌曲集ブリテン:歌曲集
(2005/11/09)
ボストリッジ ラトル&BPOボストリッジ(イアン)

試聴する

伴奏は小沢征爾指揮のベルリン・フィル。カップリングは、メインの『イリュミナシオン』と『夜想曲~テノール、7つのオブリガート楽器と弦楽のための』。
『セレナード』の日本語訳詩を探してみると、<梅丘歌曲会館「詩と音楽」>のブリテンのページのところに載っている。
 
Ⅰ プロローグ(Prologu)
ホルンのソロのみ。ゆったりと演奏されるホルンの低くて深い響きが綺麗。

Ⅱ パストラ-ル(牧歌) Pastoral 詩:チャールズ・コットン
詩はイギリスの田園風景の夕暮れを歌った美しくのどかな詩。
弦楽の伴奏にのって、ホルンのソロとテナーの歌声がとてもよく映える曲。
ホルンのゆったりとした深い響きが詩のイメージによく似合うし、ボストリッジの明るい色調で伸びやかな歌声にはとても開放感があって爽やか。
ところどころ翳りを感じさせる不協和的な音が入ってくる。最後は黄昏のように、消え入るように静かに終えている。

Ⅲ 夜想曲 Nocturne 詩:アルフレッド・テニスン
「牧歌」とは違って、テニスンの詩は同じ言葉を何度も繰り返し、自然に対する人間の感情が強く表現しているように思える。
3節に分かれていて、各節の前半は静かな曲想だが、後半の”Blow,bugle,blow,set the wild echoes flying””Bugle,blow ; answer,echoes”というようなフレーズにくると、ホルンが高らかになり、”dying,dying,dying”でホルンが静かに消えていく。

Ⅳ 悲歌 Elegy 詩:ウィリアム・ブレイク
ブレイクの詩は象徴的なところがあって、わかりにくい。ブレイクといえば、大江健三郎がよく引用していた記憶がある。 弦楽の悲痛な響きを背景に、ホルンが重苦しく物憂げ。

Ⅴ 挽歌 Dirge 詩:作者不明(15世紀)
「Dirge」は日本仏教でいうところのお通夜。
静かな曲を予想したけれど、歌詞はキリスト教の天国(地獄?)への道のりを描写したようなオドロオドロしさがある。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の暗い世界を連想してしまった。
曲も、詩に合わせて、静かどころかとても劇的でいかつい。

Ⅵ 賛歌 Hymn 詩:ベン・ジョンソン
一転して、明るく躍動感と開放感のある曲。シンシアは月の女神。夜空を支配し輝かせる月を賛美した美しい詩。ホルンが速いテンポなのにとても軽やか。

Ⅶ ソネット Sonnet 詩:ジョン・キーツ
夜を照らす月への賛歌の次は、昼間の疲れと苦悩を癒す眠りへの賛歌。ボストリッジは、この詩の言葉は、”Innocence”から”Sin”へ遡っていきながら、この歌曲を一つのミクロコスモスのように総括しているという。
静かな夜想曲風の叙情的な曲で、ホルンは入っていない。

Ⅷ エピローグ
ホルンのソロのみ。歌曲集を封印するプロローグとエピローグでは、プロローグはホルンが近くから聴こえてくるが、エピローグはかなり遠くからかすかに聴こえてくる。
ボストリッジは、単純さと自然の秩序が失われた世界を思い出させるような自然なハーモニクスで演奏されると書いている。

元から詩というジャンル自体にさほど興味がない上に、キリスト教世界の死生観が背景に埋め込まれているような詩が多いので、どうもピンとこないところがあって、詩に対する共感はあまり感じない。
ホルンのソロとボストリッジの歌声を聴くだけでも、十分満足。曲にはブリテン独特の翳りと不安定さを感じさせる和声が流れていて、ブリテンの場合は、歌曲はピアノ伴奏より管弦楽伴奏の方が聴く楽しみが多い。

タグ:ブリテン

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment