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カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (14)創作主題による変奏曲
「シューマンの主題による変奏曲」があまりに暗かったので、今度はほのぼのと明るく穏やかな「創作主題による変奏曲 Op.21 No.1」。(ピティナの楽曲解説)

これはブラームスの自作主題による変奏曲。
ピティナに解説によると、前作「シューマンの主題による変奏曲」ではあまりに主題旋律にとらわれていたので、この自作主題を使った変奏曲では、主題のバスや和声構造に基づいて、新しい旋律へと変化させることを意図したという。
確かに、前作よりははるかに主題の展開が凝っていて、ブラームスらしい和声や、和音の高速移動や跳躍がちりばめられている。
子守歌風の優しい雰囲気と主題と変奏に加えて、激しい感情がほとばしるような変奏も終盤には現れて、まるで起承転結のような構成。16分と短い曲だけれど、コンパクトにまとまっている。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル


この曲はバックハウスも録音している。若い頃のバックハウスはショパンやピアノを良く弾いていた。これはバックハウスの古い録音の試聴ファイル(NAXOS)。音は古めかしいけれど、切れ良いタッチで勢いのある演奏。普通15~16分くらいかかるのに、わずか9分ほどで弾いていて、全体的にテンポは速い。速すぎて叙情が吹き飛びがちの変奏もないとは言えないけれど、第8変奏と第9変奏はとても見事。

 「創作主題による変奏曲」の楽譜(IMSLP)

この変奏曲は24歳の時に書いた作品。晩年の重く鬱々とした寂寥感などは全くなく、若々しさや爽やかさを感じさせるところがとても良い。

主題は、とても明るく穏やか子守歌のような安らかさとロマンティックな薫りが溢れる旋律。和音の響きが心地よい。
この子守歌風の旋律をブラームスは好んでいたのか、ワルツや小品集などブラームスのピアノ曲のいたるところで現れる。
カッチェンのとても柔らかい優しげな響きが、この曲想にとても良く似合っている。高音部の旋律は強めに響かせているので、主題がくっきり鮮やかに聴き取れる。リピートして弾いている時は、少し弱めの音で弾いていてずっと柔らかい雰囲気になっている。

変奏は11。楽譜で音の配列をみると、変奏同士で関連性のあるものもある。聴いていてもわかる部分もあるけれど、楽譜を見るとどういう風に展開させているのか視覚的に良くわかる。

第1変奏と第2変奏は左手はアルペジオ。
第1変奏は、主題の雰囲気をそのまま受け継いだような夢見るような穏やかさ。主題の変形らしきものが、左手と右手のアルペジオに織り込まれているような。
第2変奏は右手が和音で主旋律を弾く。第1変奏よりもややテンポを上げているので、軽やかな躍動感がある。
カッチェンの響きは柔らかくて丸みを帯びた響きで残響が短い。自然な感じのする包み込むような暖かさがある。

第3変奏と第4変奏は両手とも和音が主体。
第3変奏はゆっくりしたテンポなので、10度の和音が入っていてもレガートで滑らか。
第4変奏は、16分音符主体なので、音が倍に増えていてテンポが上がった感じになる。連続する2音ごとにスラーがかかっていて、ここは下手に弾くとドタドタしそうなところ。
カッチェンの弾き方は、軽やかで滑らか。音の響きも短く、ペダルを入れていても浅いので、和音の音が濁らずに響きが綺麗。まるで鐘の音が鳴っているように聴こえてくる。

第5変奏と第6変奏は左手3連符の伴奏。
第5変奏は左手3連符の伴奏に合わせて、右手は16分音符の主旋律を弾く。この音型はブラームスの曲でよく登場する。特に叙情的な雰囲気の強い部分で使われていることが多い。この変奏の旋律はとても美しく、感情がこぼれ落ちてくるよう。
第6変奏は、両手とも3連符で、華やかなムード。右手はだいたいオクターブの音で移動していくが、左手のアルペジオは音があちこち飛びはねている。楽譜には、”piu facile”で音を減らした簡単な弾き方がわざわざ書かれているくらいだから、厄介なんだろうと思う。カッチェンにはさほど難しくはないのだろうから、もちろん原曲の方を弾いている。

第7変奏は、ゆったりしたテンポに戻り、単音の旋律がシンプルで、とても美しい曲。夢見心地の雰囲気で、柔らかく透明感のあるピアノの響きがとても綺麗。次の変奏を考えれば、これは嵐の前の静けさ。

第8変奏と第9変奏は、ブラームスらしい和音をフォルテで高速移動させる変奏。こういう曲を聴くとすぐにブラームスの作品だとわかる。2つの変奏とも短調で激情的な曲想。どちらかというと第8変奏の方が音が少なくてシンプルな旋律だけれど、とてもロマンティック。最後の6小節で和音で鍵盤上を駆け上がって急降下するという盛り上がり方が爽快。
この2つの変奏はピアニストによってテンポがかなり変わる。和音の高速移動が苦手のピアニストは、遅めのテンポで重くひきづりがちになる曲。
カッチェンはいつもながらテンポは速く、和音を弾くタッチも力強くて鋭くて軽快。こういうタイプの曲を弾くときは、強い推進力と躍動感は抜群に良い。(荒っぽいとか言う人もいるが。)
第9変奏の左手低音部のオクターブで弾くところは、太く重い響きで安定感がある。2つの変奏を切れ目なく続けて弾いていて、ほの暗い音色で情熱的な勢いのあるとても鮮やかな演奏。

第10変奏。激情の嵐が去って少し落ち着いたような雰囲気。ほの暗い憂愁と哀感を感じさせるロマンティックな旋律が美しく、最後はアタッカで最終変奏へつながる。

最終変奏は全体的に穏やかさが戻ってきて、冒頭から始まる左手のトリラーの伴奏がとても柔らかく通奏低音のように響いている。次にアルペジオの伴奏に変わって徐々に沈潜したり、高揚したりと、いろいろと浮き沈みはあるが、終盤は和音主体に変わり、柔らかい響きが明るく晴れやか。

この「創作主題による変奏曲」は、同じ明るい色調のヘンデルバリエーションほどにかっちりとした構造感や変奏の多彩さはないけれど、逆に若々しくピュアな情感がストレートに感じられて、とてもロマンティックで叙情的な曲。何回も繰り返し聞いてしまったほどに、思いもかけずとても良い曲で、ヘンデルバリエーションと同じくらい、というよりもそれ以上に気に入ってしまった。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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yoshimi

Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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