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カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (16)ピアノ・ソナタ第1番
ブラームスのピアノ・ソナタは、20歳頃に作曲した3曲しか残されていない。
第2番のソナタの方が最初に完成したが、出版の関係で作品番号が前後してしまったため、この第1番は、実際にはピアノ・ソナタの第1作ではない。

ピアニストが弾くのは圧倒的に第3番が多い。
ブラームスのソナタを全曲録音するピアニストは多くないので(演奏時間も30分~40分はそれぞれかかる)、どれか1曲となると、最も規模が大きく完成度の高い第3番を、ということになるらしい。
第2番は荒削りというか、最初のピアノ・ソナタというだけあって、主題の展開はさほど凝った感じはしない。第1番と第2番を続けて聴いていると、内容的には第1番の方がずっと充実している。1つの楽章のなかでもいろいろな旋律が現れて展開していき、緩急や明暗が交錯して、曲自体はずっとこなれた感じで完成度も高いと思う。

第3番になると、ハンマークラヴィーア並みに規模が拡大して、40分は軽く超える演奏時間。
第3番は壮大なピアノ・ソナタだけど、私はこの第1番のソナタが3曲中最も気に入っていて、何度聴いても飽きない。
明るく華やいだ曲想のなかに翳りが潜んでいて、美しい旋律が多く、表情の変化がとても細やか。繊細さと力強さが交錯するところはまさにブラームスらしさがあって、この第1番のピアノ・ソナタがあまり演奏されていないのは、とても惜しい。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル



 ピティナの楽曲解説
 楽譜ダウンロード(IMSLP:国際無料楽譜図書館プロジェクト)


第1番のソナタは、和音の響きが厚く深みがあり、鍵盤上をダイナミックに動き回って、交響曲のピアノ編曲版を聴いているような堂々としたピアノ・ソナタ。
カッチェンの速いテンポでも演奏時間は25分以上かかるが、これはリピート記号がついているところを、リピートせずに弾いているから、まだしも短くてすんでいる。リピートを入れると30分前後くらいの演奏時間になる。
本来は楽譜どおりリピートするべきなんだろうけど、レコード時代なので収録可能時間がCDよりも短いのが関係しているのかもしれない。
ブラームスの曲は作りがややこしくなっているところがあるので、25分くらいだと曲の見通しもよく凝縮されてすっきりしたまとまりの良さがある。ゴルトベルク変奏曲とかでも、リピートなしで演奏するバージョンを見かけることもある。(グールドもリピートしていなかったような気がする)。

第1楽章 Allegro
冒頭はとても華やかな幕開け。明るく輝くような和音主体の主題がとても爽やか。カッチェンのピアノは力感はあるけれど、両手とも8度の和音進行をとても軽やかに弾いている。
その後に主題の変奏が次々と続くところが鮮やかで、感情がこぼれ落ちてくるような叙情的な旋律がとても美しい。
この第1楽章は、長調と短調が入り混じり、曲想も明るさと暗さ、静けさと激しさが激しく交錯していく。この曲で最もロマンティックな楽章。カッチェンのピアノの表情が力強さとしっとりとした叙情の間をコロコロ変わっていくので、この反対方向へ度々急変していく曲の雰囲気が良くわかる。

第2楽章 Andante(nach einem altdeutschen Minneliede)
「古いドイツのミンネリートによる」と速度記号の真下に記されている。その歌詞自体は、冒頭の1~13小節の下に書かれていて、ピティナの解説によると
”ひそやかに月はのぼる、青い青い小さな花、しろがねの小雲をぬいつつ天ののぼる、青い青い小さな花、ばらは谷間に、乙女は広間に、おお世に美しきばらよ”とかいう意味らしい。
冒頭は淋しく暗い雰囲気で始まったが(ひそやかに月はのぼる様子だろうか)、そのうち清楚な雰囲気の旋律が出てきたり(青い青い小さな花のことかも)、明るく晴れやかな旋律に変わったりと(ばらは谷間に、乙女は広間に、おお世に美しきばらよ、と賛歌のよう)、この詩の情景が順番に曲で表現されているような感じがする。
カッチェンの柔らかく丸みを帯びた弱音が美しく、もの哀しげだったり、穏やかだったり、音の表情が豊か。特に哀しげな表情が良く出ていて、その雰囲気の余韻が残るせいか、後で明るい曲想に変わっても、なぜか控えめな感じがする。

第3楽章 Scherzo: Allegro molto e con fuoco
とても華やかなスケルツォ。ここも和音主体だが、力強くて鋭いタッチだけど、軽快でアクセントも良く効いていて、躍動的。
三部形式なので、前半は何かが始まるような期待感、舞曲風の躍動感でリズム感も良い。中間部になるとテンポを落としてロマンティックな曲想に変わって(少しショパンのスケルツォ風かも)、最後に曲の最初へ戻って、主題部をもう一度全て弾いて終わる。

第4楽章 Finale: Allegro con fuoco
フィナーレらしく、冒頭からアレグロで疾走感のある主題が華やか。和音主体なので堂々とした力強さがある。ここはスタッカートでマルカートという指示が書いてあって、ピアノのタッチはとても歯切れよい。
カッチェンのテンポは、ブラームスのピアノ曲全集を録音しているオピッツやレーゼルの演奏よりも、かなり速い。音が軽く浮かないように、タッチはとてもシャープでスフォルツァンドやアクセントはかなり強く弾いてメリハリをつけている。
途中でゆったりと優雅な旋律が出てきて休息するけれど、ロンド形式(A-B-A-C-A-コーダ)となっているので、主題がまた再現される。形式がきっちりしているので主題の転換がわかりやすい。
コーダは、プレストになってテンポがさらに上がり、駆け抜けるような勢いがあって舞うように華やかで、素晴らしいラスト。
若い頃に作曲したソナタであっても、ブラームスらしい重厚さを強調して弾くスタイルもあるけれど、カッチェンの演奏は、かなり速いテンポをとっていて、力強く軽やかで疾走感がある。
叙情表現は細やかだけれどウェットな感傷はなく、押し付けがましさのないさりげなさがとても良い。


第2番のピアノ・ソナタは、第1作ということもあってかなり肩に力が入ったような力作だったけれど、この第1番の方はもっと余裕のある落ち着いたところがある。明るく躍動感があって華やいだ雰囲気は、聴いていてもとても爽快。
最初から最後までブラームスが書いた刻印があるような曲で、ピアノ・ソナタは有名な第3番からではなくて、この第1番から聴き始めた方がずっと馴染みやすいんじゃないかと思う。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

tag : カッチェン ブラームス

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ブラームスのソナタ
こんにちは。詳しい解説を読みにまた来てしまいました(笑
少し前に若林 顕さんというピアニストの演奏会に行き、落ち着いた響きのベートーベンがとても良かったので、このCDを買って連日聴いています。

ブラームス:ピアノソナタ第1&2番 若林 顕
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005F3EK

カッチェンの演奏も聴いてみたいですねー。1年くらいかけて第1番の全楽章を練習しようと思っていますが、ちゃんと仕上がるかな・・。最終楽章のキレのある演奏、私には難しそうでしが。。音が浮かないようにシャープなタッチで・・って私の課題です(^^;
基礎練習も並行して頑張りまーす。
聴き比べると面白いです
むらさき様、こんばんは。

若林さんは名前だけは知ってます。
そういえば、図書館に彼のヘンデルバリエーションのCDが置いてあったような気がします。今度聴いてみます。

ブラームス全集は、昔はカッチェンの録音くらいしかなかったですね。
米国では相変わらず人気があるようです。
Youtubeに、カッチェンの第1番(全楽章)の音源がありますよ。
勢いの良さとパッションがあふれ出るようなところが彼らしいブラームスです。
http://www.youtube.com/watch?v=drOzWiCarIo

今ではレーゼルやオピッツなどの全集も出ていますが、日本ではレーゼルが人気がありますね。
レーゼルの音源(第1楽章)はこちらにあります。
カッチェンよりもレーゼルの方が、メカニックは精密です。折り目正しい生真面目さがありますね。
http://www.youtube.com/watch?v=ahFVxBol0SM

両方の録音を聴いていると、やっぱりこの曲は素敵ですね~。
それぞれ、ピアニストの個性が出ていますから、聴き比べると面白いと思います。
それに、自分がどういう演奏が好きなのか、よくわかります。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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