《The Art of Julius Katchen》より ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第2番 

2009, 04. 01 (Wed) 12:02

カッチェンが録音したブラームスのピアノ協奏曲は、第1番と第2番で指揮者を変えてスタジオ録音している。
第1番はピエール・モントゥー(1959年)、第2番はヤーノシュ・フェレンチク(1960年)。
第1番はカッチェンにしては珍しくゆったりとしたテンポで弾いていた優雅で優しげなブラームスだった(時々アンサンブルのバラつきがあったけど)。リマスタリングの音が変なのもあって、あまり好みの演奏ではなかったのが残念。

第2番は全く逆のタイプの弾き方で、速いテンポで力強いタッチと柔らかな響きの弱音で、明暗の感情のコントラストを出したブラームスらしい協奏曲。
力感と情感、重厚さと軽快さ、翳りと明るさがほどよくバランスされていて、この演奏はなかなかに素晴らしい。

あまり異聴盤を持っていなかったので、初めて聴いたツィメルマン&バーンスタインがずっとベストだったけれど、いろいろなピアニストの演奏を聴いてからは、マイベストも変わってしまった。
ストイックで凝縮された様式美が素晴らしいゼルキン(オーマンディとの共演ではなく、セル指揮クリーブランド管との録音)と、それにこのカッチェンの演奏を聴けば十分。
名演だと言われるアラウも良いけれど、あの超スローテンポは独特の世界で、やっぱり遅い。そう思いつつも、アラウの演奏というとついつい手が出てしまって、アラウのブラームスのコンチェルトは、結局3種類のCDを持っている。たまに聴きなおしては、やっぱりアラウのブラームスは素晴らしいといつも思ってしまう。

The Art of Julius Katchen, Vol. 3The Art of Julius Katchen, Vol. 3
(2004/01/12)
Julius Katchen(piano),Istvan Kertesz,Janos Ferencsik,Pierre Monteux,Israel Philharmonic Orchestra, London Symphony Orchestra


試聴ファイル



フェレンチクはハンガリーの指揮者。カッチェンとは初めての録音。
この頃は曲ごとに指揮者をいろいろ変えて録音していたようで、例外的に多くの曲を録音したのはケルテスくらい。以前はピエロ・ガンバとも良く共演していたが。
フェレンチクは、同時代のハンガリー出身の指揮者が欧米へ移って成功しているさなか、なぜか祖国にとどまり続けて、指揮者として活動し続けたという。

全体的にテンポは速い。全体の演奏時間は46分少々。すこぶる遅いテンポのアラウやハフの50分~51分と比べると5分も短い。わりと速いテンポのフライシャーでも47分くらい。ポリーニでも48分くらいで弾いているから、このテンポの速さはたぶん最速レベル。それにしては速すぎるという感じはしないんだけれど。

第1楽章は、ピアノの低音の響かせ方がやや古風な気がしないでもないが、あちこちでテヌート気味にアクセントをきかせていて、重みを出した弾き方。タッチは硬質で指回りがすこぶる良いので、フォルテで和音を高速移動しても、重たさが全くなくきりっと引き締まっている。
強弱のコントラストを細かく振幅も大きくつけているので、パワーとスピード一辺倒のような単調さはなくて、かなりドラマティック。
やはりカッチェンのクセで、曲がクライマックスにさしかかって高揚してくると、テンポがかなり速くなっていくが、以前よりもその突進するペースが抑制されているところがよくわかる。

第2楽章は、冒頭からピアノがなかなか激情的で、テンポが速いのもあって、疾風怒涛の如く。この曲ではこの第2楽章が一番好きなので、こういうストレートな感情表現と勢いのある弾き方が、この曲想に良く合っている。

第3楽章は、冒頭のチェロがゆっくりと穏やかに歌う旋律が有名だけれど、ピアノが入ってくると徐々に感情が溢れだしていくように高揚していくので、それほど穏やかな曲ではない。ここは、第2楽章の雰囲気をひきづって、力強く切々と歌うピアノがとても情熱的。
その激しさも徐々に収束していき、内面に沈潜した瞑想的な雰囲気のピアノに変わる。ここは時間を止めてしまいそうなピアノ弱音の響きが素晴らしい。直前の激しさとは打って変わった静けさで、ピアノの沈みこむような静かな響きを背景に弾くラストのチェロ独奏がとても美しい。

第4楽章は、ピアノは今までとは違って、柔らかいタッチと響きで、明るく優しげな雰囲気で始まる。フライシャーの屈託のない明るく軽やかな演奏を聴いた後だと、躍動感はかなり控えめ。時々、憂いを帯びた短調の旋律が現れてきて、ピアノも翳りと哀感のある表情になるので、光と影が交錯している。イタリアの陽光のような明るさが射してはいるが、抑制された感情があちこちでにじみでているような...。さすがに終盤になると、ピアノのテンポがあがってとても軽やかで快活な表情で終わる。

この演奏はピアノがかなり前面に出ている。重みのあるオケの伴奏に負けずに、かなり存在感がある。録音条件のせいかどうかはわからないが、ピアノの力感・量感が豊かなのは確か。特に低音の響きが太くて重く、音量も大きいため、ブラームスの曲らしい重心の低い安定感がある。
速いテンポでもカッチェンのピアノは技術的に安定しているし、オケのアンサンブルも乱れることがない。オケとピアノとも低音の響きが太く重いのが耳に心地良く、聴いていて安心。
伴奏は厚みのある落ち着いた響きでブラームスらしい重みがあるし、明快で振幅の大きい強弱のコントラストをあって、ドラマティック。ピアノの細かな表情の変化によく合わせていて、感情の浮き沈みが激しく明暗が交錯するような雰囲気がよく出ている。



 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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