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ベートーヴェン/交響曲第8番
ベートーヴェンの交響曲第8番は、さほど人気があるというわけでもなく、演奏会で演奏されることも、第3~7番や第9番に比べて、はるかに少ないに違いないとても地味な曲。
”舞踏の権化”の7番と”歓喜の歌”の9番という目立つ2曲に挟まれているのも不運かもしれない。

第8番は<不滅の恋人>にまつわるエピソードと関連しているという点で、いろいろと想像をめぐらせることのできるところがあるのが、他の交響曲とは違う。
この交響曲は唯一、誰にも献呈されていないという珍しいところがある。ベートーヴェンが自分自身のために書いた曲だったのだろうか。

第3楽章のホルンの二重奏の旋律は、カールスバードの郵便馬車の「ポストホルン」を元にしたことで有名。
このポストホルンの旋律は、ベートーヴェンが<不滅の恋人>を追憶したような他の曲にも使っている。カールスバードはボヘミアの保養地で、1812年の夏にベートーヴェンが滞在し、<不滅の恋人>と会っていた思い出の地。
この旋律以外にも、<不滅の恋人>と関連したフレーズや曲というのがいろいろあって、この「ポストホルン」の響きやそれにまつわる出来事は、生涯忘れることのできなかった記憶だったのではないかと思わせられる。
 
 「ポストホルン」の旋律が使われているのは、
  -交響曲第8番:第3楽章のメヌエットのトリオを開始するホルンの二重奏の旋律
  -連作歌曲「遥かなる恋人に寄せて」:第Ⅱ曲のピアノ伴奏
    この「遥かなる恋人」というのは、<不滅の恋人>のこと。
    破局後に作曲したので、遠く離れた彼女を想って「遥かなる」というタイトルになっている。
  -ディアベリ変奏曲:第5変奏(献呈はアントーニオ・ブレンターノ夫人)

<不滅の恋人>に関係したものでは、ゲーリー・オールドマン主演の映画版「不滅の恋/ベートーヴェン」というのがあったけれど、あれは全く不可解なストーリー。出版されている伝記や文献に書かれている内容とは違うフィクションだと思って見ないといけない。

昔からかなりの研究書が出ているが、海外の翻訳書で定評があって比較的新しい文献としてはメイナード・ソロモンの「べートーヴェン」の伝記が定番。
上下2冊の大著だけれど、ベートーヴェンの誕生から亡くなるまで克明に追っていて、不滅の恋人=アントーニオ・ブレンターノ夫人説を提唱したこともあって、とにかく面白い。

日本の研究者では青木やよいの『[決定版]ベートーヴェン<不滅の恋人>の探求』が充実していると思う。最新の海外の研究成果も取り入れているので、彼女の著作の中では内容的に最も新しい。
本の中身自体も歴史ミステリーの謎解きを読んでいるようで、とても面白い。
その上、付録の「楽譜にみる<不滅の恋人>への手紙」(筆者は北沢方邦)は、<不滅の恋人>との思い出や追憶を作品の中にいろいろな形で織り込んでいるのを検証している。
「ポストホルン」の旋律や他のモチーフが、どういう形で<不滅の恋人>との思い出を織り込んでいるのか、譜例も載っているので視覚的にもわかりやすく、面白い論考だと思う。

ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の探究 決定版 (平凡社ライブラリー あ 21-1)ベートーヴェン〈不滅の恋人〉の探究 決定版 (平凡社ライブラリー あ 21-1)
(2007/01)
青木 やよひ

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第8番の録音は、チェリビダッケとジョージ・セルくらいしか持っていない。この2人、演奏スタイルからいうとたぶん両極。
チェリビダッケのスローペースには慣れているし、セルの速いテンポでシャープな演奏にも違和感がなく、それぞれ持ち味が出ていて面白い。

チェリビダッケはスローペースなのはいつもの通り。初めて聴いた時は第3楽章はスローテンポのような気はしたが、他の楽章はそれほどテンポが遅いとは思わなかった。
セル盤を聴いてしまうと、チェリビダッケはやはり遅いと感じるが、かえってゆったりと優雅に優しく、包み込むような懐の深さがある。全体的に起伏がゆるやかで雰囲気が似てくるのは、このペースだとしようがないところ。いつもながら、凝縮されたような音色の美しさは格別。
解説ではかなりデフォルメされた癖のある演奏らしいが、それほどいろんな演奏を聴いてはいないので、そこはよくはわからない。
少なくとも、カップリングされている第7番のカタツムリペースよりははるかに速いテンポ。第7番は最後まで聴き続けるのが大変だったけれど、それに比べれば、第8番は最後までわりと集中して聴けるし、これはこれで良い演奏だったと思う。


セルは、正反対に速いテンポで躍動感やリズム感が小気味よく、オケの音がシャープで切れ味良く、とても引き締まったフォルム。(チェリビダッケのスローペースの後だと、なおさらそういう気がする。)
巷で言われるほど”冷たい”演奏でもないし、メカニカルな気もしない。
外形的な派手さや仰々しさはなく、感染性のある熱狂とは無縁なので、そういうタイプの演奏に慣れていると、ドライな感じがするのかも。
セルの指揮で聴くと、楽譜を厳密に追っていくと自然と曲の構造や叙情性が浮き出てくるような造形力や叙情性があって、品の良い整った演奏。
隅ずみまで絞りあげたような様式美と、きりっとした緊張感がある。聴いている方も、きちっと聴こうという気にさせられる。
それでも、心が弾むような喜びや明るさに溢れていて、何回も聴いてしまったほどに、良い感じの演奏だと思う。


これはセル指揮クリーブランド管弦楽団による第3番&第8番の分売盤。私はピアノ協奏曲全集がカップリングされた交響曲全集の方を持っている。

Beethoven: Symphonies Nos. 3 & 8Beethoven: Symphonies Nos. 3 & 8
(2002/01/30)
George Szell, Cleveland Orchestra

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EMIから以前リリースされた「チェリビダッケ・エディション」の分売盤。
「チェリビダッケ・エディション」はVol.1とVol.3だけ持っている。
今は、Vol.1~3が統合されて、33枚入りのBOXセットに模様替えしている。これが結構な値段がする。Vol.2のブルックナーシリーズは聴かないので、昔リリース直後に買っておいて良かった。

ベートーヴェン:交響曲第7番ベートーヴェン:交響曲第7番・第8番
(1999/07/07)
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

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tag : ベートーヴェン セル

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不滅の恋人は
yoshimiさん、こんにちわ

映画「不滅の恋/ベートーヴェン」はご覧になられましたか。この中に描かれた「不滅の恋人」はおそらく事実では無いのでしょうが、衝撃的で、納得できるものでした。
伝記を読んでいるとどうしても違和感が...
matsumo様、こんにちは。

コメントありがとうございます。
この映画は公開されてしばらくしてから見ましたが、ベートーヴェンの伝記類をいろいろ読んでいたので、やはり奇妙な説だと思ってしまいました。
そういう知識を頭から消して、単なるフィクションだと割り切って見れば、映像は綺麗ですし、ストーリーは面白く作ってあったと思います。
この映画はDVDになってますが廃盤らしく、再び見ることはないかもしれませんね。

同じベートーヴェンの映画で「敬愛なるベートーヴェン」というのが以前公開されましたが、これも史実とはかなり違うことが多いのですが、こちらの方が私にはストーリーに説得力があって、違和感なく見ることができました。
劇中音楽に、ベートーヴェンの後期の作品を中心に使っているのが、なかなか渋めではありました。
「敬愛なるベートーヴェン」も観ています
yoshimiさん、こんにちわ

私は映画は女優さんで観ていますので、「不滅の恋」はイザベラ・ロッセーリーニ、「敬愛なるベートーヴェン」はダイアン・クルーガーの出演作と言う訳で、勿論、観ております。

それにしても、後者は第九の初演の際、ベートーベンが途中から舞台に上がってきたり、クルーガーが舞台の奈落から指揮を行ったりしていて、あまりに史実と異なるのには参りました。と言っても、おっしゃられる通り、背景に流れていた弦楽四重奏曲は素晴らしかったですが。
やっぱりフィクションなので
matsumo様、こんばんは。

イザベラ・ロッセリーニは、母親ゆずりの品の良さがあって、美しいですね。
私はイングリッド・バーグマンが大好きなので、イングリッドの映画の方は結構いろいろ見ているかもしれません。
ロッセリーニ監督と撮影した戦争三部作も、学生時代ミニシアターで見た覚えがあります。
バーグマンの最後の作品はたしか「秋のソナタ」でしたでしょうか。これも随分昔に見ましたが、ピアニストがらみの話なのでもう一度見たくなりました。

「敬愛なる...」は、これはまったく史実と違いそう....と雰囲気が冒頭から漂ってきたので、そういうモードで見ていたので、ストーリーは面白かったですね。やはりドキュメンタリではなくてフィクションなので、ストーリー重視ですから。
映画だけしか見ていない人も多いでしょうから、間違った事実が記憶の中でデフォルトになってしまうということはあるでしょうね。
バークマンは
yoshimiさん、こんにちわ。若き日のバークマン、私も好きです。彼女のスェーデン時代の映画から1950年頃までのものはかなり観ております。と言っても、勿論、ビデオでですが。

さて、バークマンの出演作と言えば、スェーデン時代の「間奏曲」、そして、そのハリウッド・リメイク版の「別離」はご覧になられていらっしゃいますか。両方とも、彼女はピアニスト役を演じており、ピアノを弾く場面もあります。特に、後者では、バイオリンとピアノで「グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調」を弾く場面がありますが、これほど素晴らしい演奏は、CD等では聴いたことがありません。また、バークマンの出演作では、この映画の時が最も綺麗だったと思います。

なお、このビデオ、現在でも本屋さん等で販売されている500円DVDで入手可能と思います。
それはぜひ観ないといけないですね!
matsumo様、こんばんは。

「間奏曲」、「別離」ともタイトルだけは知っていたのですが、観たことはありません。ピアニスト役で吹き替えなしで弾いているのなら、絶対に観ないといけないですね!
教えてくださってどうもありがとうございます。

こういうときはyoutubeで探してみると結構登録されているんですが、やっぱりリメイク版の方が全編載ってました。(著作権は??とは思いますけど)

スウェーデン版も一部のシーンが登録されていて、ピアノをバーグマンが弾いています。あの手と指の形がとっても気になります...。(→あとで良く確かめると、これはハリウッド版のシーンでした。)

今日はこの映画を観て、明日DVDの方を探してみます。この映画で今日・明日と楽しめそうです ♪♪♪
バーグマンのピアノは熱演です
早速「別離」を見ましたが、ストーリーはメロドラマティックでしたけれど、ヴァイオリンとピアノの演奏シーンがしっかりしているのと、BGMにもクラシック音楽がいろいろ使われているところが、良いですね。それに、バーグマンの若かりし頃は、とても瑞々しくて美しいです。

グリーグのピアノ協奏曲のカデンツァ部分のピアノ&ヴァイオリンバージョンは初めて聴きました。一瞬グリーグとは違う音楽のような気がするくらい、オケで聴くよりも繊細さがよく出た感じがします。
このシーンのバーグマンは熱演です。音自体はプロの録音に吹き替えてますが、一見そうとはわからないほどの弾き方です。
たぶん元からピアノが弾けるんでしょうね。それでもかなり練習したはずです。スウェーデン版ではピアノを弾くシーンでも手や指は映していないので。

バーグマンの弾いているピアノは、指のポジションは(ほぼ)正しいと思います。わずかに指と音楽とがずれているところがいくつかありますが、かなり注意して見ていても、ほとんど気がつかない程度のものです。
もしかしたら本当に演奏しているのかなという気がしたのですが、指と腕の動きや力の入れ具合をみると、やっぱり違うんですね。

ヴァイオリンの方は、音を出していないのはわかるのですが、俳優さんが全然弾けないために、ヴァイオリニスト2人が俳優の背後から手を回して、右腕と左腕でヴァイオリンを弾いているそうです。

この演奏シーンはよく工夫されているので、実際の演奏と同じくらいのリアリティがありますね。
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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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