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バックハウス~ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番
ヴィルヘルム・バックハウスの最も愛した曲は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。第5番の「皇帝」の方を好みそうな気がするが、第4番は愛らしく明るくて気品もあって、「皇帝」と同じくらいに素晴らしい曲。
バックハウスの録音でも、この第4番と第5番は数多く残っているが、DVDだと第4番の2種類の演奏映像が出ている。

これはバックハウスの言わずと知れた名盤であるピアノ協奏曲全集。イッセルシュテット指揮ウィーンフィルが伴奏。1955年録音(1954年かもしれない)のモノラル録音のディアベリ変奏曲も入っているのが良い。
コンチェルトは1958~59年の録音で、それにしてはとても音が鮮明で響きも美しい。DECCAの音質はもとから良いものだし、リマスタリングも良いのかもしれない。
スピーカーで聴いていると全然気がつかなかったけれど、AKGのモニター用ヘッドフォンで聴いていると、マスターテープのつなぎ目らしきところを境に微妙に音量や音質が変わっているような感じがする。

Beethoven: Piano Concertos 1-5; Diabelli VariationsBeethoven: Piano Concertos 1-5; Diabelli Variations
(2003/04/08)
Ludwig van Beethoven、

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バックハウスが弾くピアノの音はとても美しい。バックハウスはベーゼンドルファーを愛用していたというから、これもベーゼンドルファーなのかも。
ピアノ協奏曲第4番は1958年、74歳頃の録音。ピアノ・ソナタ全集もその頃から録音している。
もう何百回も(リハーサルも入れたら1000回は超えているに違いないと思う)弾いてきた曲だろうから、無理なく自然に弾いているような伸びやかさと自由さがある。
この高齢にしてはテクニックの大きな崩れはなく、タッチもしっかりして粒立ちの良い綺麗な音を弾いている。
アラウやゼルキンの同年齢くらい時の演奏に比べると、バックハウスの方が技巧的な衰えがかなり少なく思える。

第1楽章は速めのテンポでいつものようにさらっとした表現で淡々としたように聴こえる。
この柔らかい音がコロコロと流れるように転がっていく響きと、抑制の聴いた硬質の叙情が美しい。
第4番のカデンツァは第1楽章と第3楽章に入っているが、第1楽章はベートーヴェンの作曲したカデンツァを弾いている。このカデンツァは曲自体も良いし、演奏も素晴らしい。
第3楽章は、おそらくバックハウス自身が編曲したカデンツァ。
聴いたことがないカデンツァだったけれど、ベートーヴェン作のカデンツァに比べて、バックハウス版だとやや男性的というか力強くシンフォニックな響きがする。
この楽章は軽やかに弾く演奏が多いような気がするけれど、バックハウスのピアノはリズム感や軽快さはおさえて、優美さはあるけれど堂々としたもの。
第5番が「皇帝」なら、この第4番は「女帝」という雰囲気かも。

全体的に細部の表情づけはあっさりしているが、音の流れが途切れることがなく、その流れにのって自然と表情がいろいろと変化していくようで、硬派だけれど澄みきった叙情がとても美しい。
渋さとか枯淡とかそういう類の音楽ではなく、力強さと生気に彩られた煌くような輝きと気品に溢れている。

                                      

この第4番の演奏には、DVD映像が2種類残っている。
指揮者はクナッパーブッシュで1962年のモノクロ、ベームとは1967年の録音でカラー。バックハウスは1969年、84歳で亡くなるので、ベーム/ウィーンフィルとの演奏が、この曲の最後の録音かもしれない。

Beethoven Piano Concerto n. 4 - I mvt. - Wilhelm Backhaus (Piano) [1 of 2]


穏やかな雰囲気のなかで淡々と演奏されているが、暗めの色調の映像と相まって、流麗な音の流れがとても美しい。
バックハウスはもう83歳くらいになるというのに、歳のわりにはタッチは鮮やかで指も良く回っていて、力強さもある。
高齢のピアニストは、概してテンポが遅くなるものだけれど、バックハウスはテンポをそれほど落としてはいない。
最晩年のルービンシュタインが弾いた第4番と第5番は、本当にスローだった。
昔のバックハウスと比べたらやはり少しテンポが遅く、ところどころ指がもたつき気味のところもあるが、音の切れがよく軽やかさもあるので、あまり気にはならない。
映像でみるとバックハウスの指はやや細身でしなやか。(クナッパーブッシュと演奏した映像だと、やや太めの指に見えた。)
彼はわりとフラットな指で滑らかに弾いている。
あまりに指の動きが綺麗なので、つい音楽よりも指の方に気をとられてしまう。
第3楽章はとても軽やか。
打鍵した後の力の抜き方もいろいろあって、鍵盤から指をすべり落とすような感じで弾く(ここはとても可愛らしさを感じてしまう)。
打鍵したあとでも、ヴァイオリンの弦をヴィブラートさせるように、鍵盤を押したまま指を揺らす(ピアノだと音の余韻をコントロールできないけれど)。
それに、鍵盤を押した後に指をふわっと高く上げているとか、聴くだけではわからないことが見えてくる。

スコアの31頁目、第1楽章終盤近くで右手が2音づつ同音を弾いて移動していく時に、ピアノがややもたついて遅れ気味になるところがある。(同じパターンの音型は初めの方でも出てきて、ここでも少し遅れ気味だった)。
バックハウスの映像から、ショットが変わってベームの指揮姿がアップになる。
ピアノが遅れてきているのがわかって、ちょっとテンポを緩めたような感じで、すぐにピアノが追いついてくると、またシャッキとした指揮ぶりに変わるシーンがある。
こういう姿は映像でしか見られない。

ピアノを弾いている映像はいろいろ見ているけれど、このバックハウスのピアノを弾く姿は、想像と全く違うところがあって、見ていてとても面白い。
特にピアノの響きがとても美しくてきらめきがあり、淡々とした音楽の中の澄んだ叙情が美しく、カデンツァもなかなか迫力があってとてもロマンティック。
もはや気負うようなこともなく、音楽が自然に流れていくような演奏で、80歳を超えてこんなに弾けるというのは凄い。
バックハウスの弾き方はかなり無造作な感じがするが、若いころはともかく、晩年はいつもこういう雰囲気で弾いていたのだろうと思えてくる。

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(2006/09/26)
Johannes Brahms、Ludwig van Beethoven

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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