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パスカル・ロジェ ~ サン=サーンス/ピアノ協奏曲全集
サン=サーンスの曲で有名なのは 「動物の謝肉祭」と交響曲第3番「オルガン付き」だろうか。
特に、 「動物の謝肉祭」は2台のピアノが入っていて、ピアノ曲としてはとても面白い曲だけれど、有名曲のパロディとシニカルな毒気のあるせいか、サン=サーンス本人は「白鳥」以外は公開演奏と楽譜出版を許可していなかったと言われる。

作品の素晴らしさのわりにあまり知られていないと思うのがピアノ協奏曲。
全部で5曲残されているが間違いなく彼のピアノ曲の代表作であり、中でも第2番は人気があるので、たまにコンサートで演奏されているのを見かける。
録音されている曲もこの第2番とエジプト風の趣きのある第2楽章が有名な第5番が多く、第4番の録音もときどき見かける。
サン=サーンスのピアノ協奏曲はピアノパートがかなり技巧的なので、レパートリーにするにしては誰でも弾きこなせるわけでもないのも、演奏される機会が少ない理由になっている。(5つのピアノ協奏曲に関するピティナの楽曲解説はこちら。)

サン=サーンスのピアノ協奏曲の録音で定評があるのは、パスカル・ロジェ&シャルル・デュトワのDECCA盤。オーケストラは、フィルハーモニア管、 ロイヤル・フィルハーモニー管、 ロンドン・フィルハーモニー管。
やっぱりロジェとデュトワのコンビでフランスものを演奏すると、安心して聴ける。
オケはイギリスのオケだけれど、かなりしなやかな伴奏に聴こえる。

サン=サーンス:ピアノ協奏曲全集サン=サーンス:ピアノ協奏曲全集
(2003/10/22)
ロジェ(p)、デュトワ&フィルハーモニア管弦楽団、ロイヤル・フィル、ロンドン・フィル

試聴する (国内盤にリンク)


ピアノ協奏曲第2番ト短調 Op.22(1868年)
サン=サーンスのピアノ協奏曲のうち、聴くのはもっぱら第2番。
短調の第1楽章がとても美しくてダイナミックでもあり、華麗なロマンティシズムが漂っていて、陽性の曲が多いサン=サーンスにしては珍しい。全くこの楽章は、メロディアスな主題とメロディから溢れでる叙情が素晴らしい。
ロマン派のピアノ協奏曲はブラームス(と、たまにシューマン)以外はさほど好きではないが、さらっとしたロマン派的な雰囲気につかりたいときに、ブラームスでは重過ぎてシューマンでは情緒不安定なので、思い出したようにサン=サーンスを聴く。

第2楽章は軽やかで明るい楽しげなスケルツォ。なぜかどこかでピクニックをしているようなイメージが浮かんでくる。
ロジェのピアノは、第1楽章のほの暗い音色から、軽やかで明るい音色に変わって、タチも喋々のように軽やかで、とても可愛らしい雰囲気を出している。

第3楽章は、プレストで疾走するピアノの技巧が冴えわたる曲。
ところどころ挿入される力を抜いた軽やかなフレーズで一息つくと、またピアノが華やかに登場する。
この楽章はいつ聴いても気分爽快。

この曲はとにかくピアニストの腕の見せ所が多い曲で、かなり体力と集中力が入りそうな気がする。
ピアノパートは、数オクターブにわたって音が細かく積みあがったスケールやアルペジオ、重音・和音で、メカニカルな感じのする音の配列。
両端楽章はだいたい速いテンポなので、高速移動が多くて、指回りの良さと手首のやわらかさに加えて力技もいりそう。
ロジェは柔らかく軽やかなタッチでスラスラと弾いているが、必要なときは結構なフォルテで打鍵しているので、メリハリがあって快活なピアノ。
緩徐楽章はロジェらしく繊細な音色と表現で叙情性は充分。
なにより輝きのある音色と響きと、ふわ~とした柔らかい雰囲気があって、フランス音楽らしい薫りとファンタジーがいっぱい。
それよりも疾走感を味わいたいときは、スティーブン・ハフのピアノで。
テンポがロジェより速く鋭い打鍵で息をつく間もないくらいに、スピード感が凄い。
それなのに隅ずみまで音が明瞭に聴こえるので、とても明晰でシャープな印象。
フランスものを弾かせたらファンタジーと洒落っ気を忘れないフランス人のロジェとは違って、英国人のハフはどちらかというと明晰さとダイナミックさをあわせもったストレートなところがある。
どちらもそれぞれの個性が出ていて面白い。

せっかく全集盤を持っているので、あまり聴かなかった他の曲を全曲通してきっちり聴いてみると、第1番はやはり最初のコンチェルトだけあって、まだこなれていないような...。
どうも聴いているともうひとつノリの良くないところがある。
第3番は第1楽章がとても幻想的な曲想で始まっていて面白いけれど、第1楽章がモデラート・アッサイ、第2楽章がアンダンテと動きが少ない構成。
全体を聴くと印象がもう一つ薄くて、第1番と第3番は度々聴きたいという気があまり起こらない。


ピアノ協奏曲第4番 ハ短調 Op.44(1875年)
意外に第4番がかなり良い。
2楽章構成だけれど、各楽章はさらに2つのセクションに分かれている。演奏上は全体を連続した1つのまとまった曲として弾くべき曲らしい。
第1楽章は、2番と同様に短調の静かな主題で始まり、どこかしら不安な雰囲気を感じさせるところがあるが、旋律はとてもロマンティック。
やがてスケールやアルペジオを駆使して、憂いを帯びた華やかさのあるピアノに変わるが、後半(第2部分)に入ると今度は曲想が穏やかで清々しい雰囲気に変転し、夢見るようなピアノが美しい。

第2楽章は明るい雰囲気で始まるが、第1楽章の主題に基づいた変奏が展開されていく。
第2主題も登場するが、これがとても明るくて、ギャロップしているようにリズミカル。
後半(第2部分)のアレグはとても爽やかで雄大さのある美しい主題。
ここもピアノの見せ場の多いところで、スケールとアルペジオの速いパッセージで鍵盤上を高速で動き回っている。柔らかさのあるコロコロと転がるような軽快なタッチのロジェのピアノがとても良い。

第1楽章で登場するいろいろな主題を変形した曲にしては、その変奏が凝っているせいか、似通った単調さは感じさせず、広がりのあるスケール感のある曲になっている。
変奏を多用した形式的な構成感の強さが感じられて、"職人芸"のようなつくりのしっかりした曲で、形式的な自由さが強い5番よりも、この4番の方がずっと好み。


ピアノ協奏曲第5番ヘ長調「エジプト風」 Op.103(1896年)
第5番は、エジプト滞在のおりに作曲されたので、第2楽章のエジプト風の情緒を感じさせることで有名。
第1楽章はまるで映画音楽を聴いているかのように、流麗でロマンティックな旋律が現れる。
サン=サーンスのロマンティズムは、ショパンよりも洗練された流麗さがあって、儚げな透明感もあるので、さらっとした叙情性が美しい。
時々ロジェがピアノを弾きながらメロディを歌っているような声が聴こえている。
いろんなピアニストを聴いていると、旋律をはもりながら弾いている人が結構多い。
特にAKGのヘッドフォン(K240S)はモニター用なので、こういう”雑音”のような音までよく拾ってくるという特徴があるらしい。

有名な第2楽章の方はあまり好きではないので、それよりもピアノが技巧的に華やかな第3楽章が聴いていて楽しい。
雰囲気はフランス風のエスプリに溢れた小粋さがあって、踊るような軽やかさとリズム感が気持ちよい。
ピアノがユニゾンのスケールで徐々に鍵盤上を駆け上がっていくラストが爽快。
サン=サーンスのピアノ協奏曲の第3楽章は、どの曲も開放感と躍動感があって、とても明るいのが共通している。

                            

スティーブン・ハフのサン=サーンスピアノ協奏曲全集。
かなり評判になったアルバムで、ロジェとは違ったサン=サーンスが聴ける。
ロジェがファンタジー溢れるパステル画だとしたら、ハフは色彩感と輪郭がより明瞭な写真的絵画のような感じかも。
第2番の第3楽章のテクニックの鮮やかさと疾走感は、ほんの少し試聴しただけでもすぐにわかる。

Saint-Saëns: The Complete works for piano & orchestraSaint-Saëns: The Complete works for piano & orchestra
(2001/10/09)
Stephen Hough, Sakari Oramo, City of Birmingham Symphony Orchestra

試聴する(hyperionサイト)

tag : ロジェ サン=サーンス スティーヴン・ハフ

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(非公開コメント受付中)

まさに。
ロジェ盤もハフ盤もいずれも愛聴してますが、まさに同感です。
全集版の双璧ですね
SI様、こんばんは。
ご訪問、コメントありがとうございます。

同じ印象を持たれた方がいらして嬉しいです。
ロジェは昔からの定番なので有名ですが、ハフの方は日本ではあまり知られていないみたいですね。
ハフの鮮やかなサン=サーンスは、もっと多くの人に聴かれて欲しく思います。

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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