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シュニトケ/ピアノ五重奏曲、管弦楽編曲版「イン・メモリアム」
アルフレード・シュニトケは、家族や親しい演奏家が亡くなった時にたびたび追悼の音楽を作曲している。
シュニトケが書いた追悼曲には、「イーゴリ・ストラヴィンスキー追悼のカノン」(1971)、「ショスタコーヴィチ追悼の前奏曲」(1975)、「オレーク・カガン追悼のマドリガル」(1990)などがある。
いずれの曲も故人を偲んだ痛切な思いがこめられているが、なかでも亡くなった母を追悼して作曲した「ピアノ五重奏曲」の悲痛さと美しさは際立っている。

「ピアノ五重奏曲」は彼の代表作の一つで、1972年に作曲が始まったが、様式上のいろいろな葛藤があったらしく、何度もスケッチをやりなおして、1976年に完成。
他の作品に比べて、かなりの時間がかかっているが、1978年には管弦楽編曲版「In Memoriam(イン・メモリアム)」も完成している。
このピアノ五重奏曲は、その後15年にわたってシュニトケの作曲様式上のテンプレートになったといわれている。確かに構成がかなり練られているし、シュニトケ独特の音型や和声の響きが詰め込まれていて、シュニトケの曲だと一目見て(一聴して)わかる。


「ピアノ五重奏曲」が収録されたアルバム。カップリングは「カノン - イーゴリ・ストラヴィンスキーの思い出に」「ピアノ四重奏曲」「弦楽三重奏曲」。
Schnittke: Piano Quintet, String Trio, etc.Schnittke: Piano Quintet, String Trio, etc.
(1993/06/23)
Roland Pontinen(piano),Tale Quartet

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管弦楽版の「In Memoriam」が収録されているアルバム。ピアノとオルガンが使われている。
ピアノ五重奏曲よりも音が重層的なので、かなり重苦しい感じが強くなっているが、色彩感があって、演奏もかなりドラマティック。
第5楽章はピアノの代わりにオルガンによって主題がオスティナートされているが、好みとしては、ピアノの音の方が澄んだ響きで透明感があって、ずっと美しい感じがする。
室内楽版よりは聴きやすい気がするけれど、シュニトケの心のうちがストレートに表現されているのは、凝縮力のある室内楽版の方だと思う。

Schnittke: In Memoriam, Viola ConcertoSchnittke: In Memoriam, Viola Concerto
(1993/06/23)
Nobuko Imai,Lev Markiz,Malmo Symphony Orchestra

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「ピアノ五重奏曲」は5つの楽章で構成されているが、第1楽章~第4楽章はテンポやリズムの違いはあるが、精神的に深く落ち込んだような陰鬱さが強い。弦楽パートは重奏して不協和音を奏でるが、ピアノは調和的な和声が多く、響きと和声のコントラストがよく効いている。
一見似たような和声の響きはするけれど、何回か聴くと楽章ごとに弦とピアノのバランスや音の配列がどう変わっているのかわかるようになる。「ピアノ協奏曲」とか「エピローグ」もそうだったけれど、だいたいシュニトケの曲は2~3回くらい聴くと、霧が晴れるように良さがすっとわかってくる。理解するプロセスに時間はかかっても、それがわかった時は結構うれしいものがある。

第1楽章 Moderato
弱々しいピアノ・ソロの沈み込むような陰鬱な旋律で始まり、徐々に強まっていき、やがて弦楽が不協和な響きを通奏低音のように奏でていく。弦楽が徐々に前面に出てくると、ピアノは同音のオスティナートを強めていき、やがて両者とも弱々しくなり、やがてピアノ・ソロと弦楽のソロになって次々に消えていく。この曲は全楽章とも、音が徐々に少なくまばらになって、弱々しく消えていくように終わるのが共通している。

第2楽章 In Tempo di Valse
ビタースイートなワルツでなぜか軽快なオープニング。しかし、この楽章は感情が大きく揺れ動くように、かなり起伏が激しい。
弦楽がかなり強い調子でカノン風の不安げな旋律を弾いていて、強い精神的苦痛を感じさせるものがある。解説によると、このワルツは”死の舞踏”のようなものらしい。
ピアノの方はとても密やかで美しい旋律を弾いているけれど、これも時にフォルテを打ち鳴らしたり、急激に下降したりする。終盤になるとワルツのリズムを弦とピアノが強いフォルテで協奏してから、弦楽が徐々に下降して弱々しくなり、最後は沈潜して終える。
途中でトリルで下降していくフレーズがあるが、これはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第13番を想起させるらしい。作曲中だった1975年の夏にショスタコーヴィチが亡くなっているので、彼へのオマージュでもあったのかもしれない。

第3楽章 Andante
陰鬱な弦楽の哀歌で始まるが、この楽章は弦楽パートが前面に出てきて、キリキリと硬く神経質な響きの旋律を弾いている。全体的に重苦しさの強い楽章。
ピアノパートの音はまばらで、終盤は通奏低音のようなオスティナート。最後は第4楽章へつながるように響きが分散し消え去っていく。ピアノのカデンツァはショスタコーヴィチのピアノ五重奏曲を思い出させるところがある(らしい)。

第4楽章 Lento
第1楽章に回帰したような雰囲気とテクスチュア。弦楽のソロはカデンツァ風に力強い旋律を弾き、一方で弦楽アンサンブルは叙情感のない不協和な旋律を弾いている。この楽章はピアノもかなり無表情な旋律を力強く弾いていて、大切な人を喪った悲しみが怒りへと転化したかのように、荒々しさを感じさせるものがある。最後は全てが弱音のなかに消えていき、そのままフィナーレへつながる。

第5楽章 Moderato pastorale
今までの楽章とは違って、ピアノが高音でメロディアスな旋律を囁くように弾いて始まっている。澄み切った透明感のあるピアノの響きがとても美しい。pastoraleとシュニトケが指示しているように、天国的な安らかさと美しさ。最後はこの美しい旋律を何度もピアノがリフレインして、静かに消え去るように終える。まるで母が天国で安らかに眠れるようにと祈る心のよう。
弦楽は相変わらず情感を排除したような不協和な響きの旋律とはいえ、荒々しさは全くなく、とても穏やかで静けさに浸っていて、シュニトケの心にも平穏が訪れたかのように聴こえる。

第1~第4楽章は陰鬱で悲痛さと不安に満ちたような曲想で、ようやく最終楽章ではその重苦しさと悲嘆から解放されて、安息と平安が訪れるという流れ。それまでがかなり暗い色調だったせいか、ラストのピアノが奏でる旋律の美しさが際立っている。
この曲はシュニトケの作品のなかでも叙情性がとても強く、母への追悼曲として、彼の感情や想いを織り込んで書かれたのだろう。

                                  

シュニトケ作品に関しては、「烏鵲の娯楽室」という、うじゃくさんのサイトがります。ほとんどのシュニトケ作品について簡単な解説とCDリストが載っているので、シュニトケを聴くときの参考になります。

tag : シュニトケ ペンティネン

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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