カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (17)ピアノ・ソナタ第3番 

2009, 05. 10 (Sun) 12:00

ブラームスが残したピアノ・ソナタは、20歳前後で書いたわずか3つのピアノ・ソナタのみ。この第3番は1853年に完成したが、第1番・第2番と比べて規模が拡大して5楽章構成とし、まるで交響曲のような構えになっている。完全主義者のブラームスはさらに度々改訂を加えていたそうだ。

前作の第1番(第2番と出版順の関係で作品番号が前後している)に比べて、さらに主題の展開が工夫されて、紆余曲折とは言わないまでも明暗・強弱が錯綜して、より起伏の激しい曲になっている。第1番の主題が明るく穏やかな子守歌風だったのとは反対に、ほの暗い情熱を感じさせる冒頭の主題がこのピアノ・ソナタの性格を物語っているかのようで印象的。

第1番の方が明るく開放的なので好きではあるけれど、この第3番はより構造的な堅牢になっていてどっしりと安定感がある。曲の流れは第1番の方がずっと自然に感じられるけれど、第3番が5楽章構成に拡大して楽章ごとの性格づけが面白く(第3楽章を境にして対照形のような)、立体感のある構成になっている。この第3番は何よりも、第2楽章の美しさが際立っている。

ブラームスのピアノ・ソナタ自体をあまり聴かなかったので、この曲の演奏は、カッチェン、ルプー、キーシンの3つの録音を持っているだけ。(探せばもう1枚か2枚くらいはCDがラックの奥から見つかるかもしれない)
ルプーは全体的に柔らかいタッチで響きがまろやか。あまり起伏を大きくとっていないので、ブラームスにしてはとても優美な演奏。楽章間の性格のコントラストがやや弱いので、ゆっくりめのテンポで40分以上かけた演奏を聴くのはちょっとつらいものがある。
キーシンの演奏はさすがに鮮やか。ブラームス的なほの暗さや陰影は薄めなので爽やかな感じがする。やや駆け込むような勢いで弾く主題には切迫感があり、ゆったりと弾く緩徐部分は情感深く、全体的にやや速めのテンポで歯切れの良い軽やかさがあり、起伏を大きくつけたダイナミックな演奏。

カッチェンの録音は1962年のステレオ録音だが、このピアノ・ソナタ第3番は彼が23歳の1949年にDECCAへ最初に録音した曲で、モノラル録音が残っている。
この曲を含めて、カッチェンはブラームスのピアノ独奏曲全集を1960年代に集中的に録音して完成させている。
それ以前の1950年代には、ヘンデルバリエーション(2度の録音)、パガニーニバリエーションをモノラル録音しているくらいだから、デビュー当時からブラームスの曲には愛着があったに違いない。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル



 ピティナの楽曲解説
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第1楽章 Allegro maestoso
冒頭の主題は、力強いフォルテの和音で何かが起こりそうな予兆。これは後で何度もリフレインされる。主題の提示が終わってからは、曲想がガラッと変わって晴れやかで開放感のある旋律(やや子守歌風にも聴こえるけれど)になるが、ほっと一息ついたと思うと、またあの”タッ、タラ、タ~”という主題が登場する。この楽章はこういう緊張と弛緩が何度も交代してやってくる。
特にカッチェンの基本的な演奏スタイルは、やや速めのテンポで緩急・強弱のコントラストによってメリハリを強くつけ、ダイナミックであって叙情感も強く表現するものなので、この曲はそのスタイルにぴったり合っている。左手の低音部の響きは太めで力強いので安定感があるが、弱音になるととても柔らかい響きになるので、響きのコントラストもよくついている。力感がありとても堂々とした構えの演奏。

第2楽章 Andante espressivo
ピアノ・ソナタ第1番と同じように、この曲でも第2楽章にも詩が記されている。ピティナの解説によると、詩人シュテルナウの「若き恋」という詩の一節だそうで、「黄昏はせまり、月は光り輝く そこに二つの心が、愛で結ばれて 互いによりそい、抱き合う。」という内容らしい。
冒頭からとても優しげな主題がゆっくりと流れていて、この詩の内容に相応しい曲になっている。
カッチェンのピアノは、ゆっくりしたテンポで夢見るような雰囲気を出していて、透明感のある弱音の響きがとても美しい。
第1楽章が力強く起伏が大きかったので、第2楽章の穏やかさがよけいに強く感じられる。この第2楽章だけが演奏されることもあったそうで、それも良くわかるくらいにこの楽章は美しい。

第3楽章 Scherzo: Allegro energico
ピティナの解説では、「第2、第4楽章はいろいろな意味で対になっており、また、第1楽章は第5楽章に密接に関連しているので、全曲は、この第3楽章を中心にして、対照形のようになっている。」ということらしい。
第3楽章は、短調だけれど華やかで堂々としたスケルツォ。やや舞曲風の雰囲気があって、ピアノ小品に出てくるようなフレーズも聴こえてくる。ブラームスのスケルツォは、ピアノ独奏曲でも、ピアノ協奏曲でも、濃い陰影をもちながらも力強くて華やかなので、聴いていて楽しいものがある。
カッチェンはこういうリズム感のある舞曲風の華やかな曲を弾くと、ピアノ独奏版のハンガリー舞曲のように、勢いがあってダイナミック。

第4楽章 Intermezzo (Ruckblick Andante molto)
ブラームスは「回顧」という副題をつけていて、シュテルナウの詩の題名だそう。
普通のピアノ・ソナタの構成とは全く違って、第4楽章に緩徐楽章が再度おかれている。第2楽章の緩徐楽章の明るい雰囲気とは違い、逆にやや陰鬱さと瞬間的に激情的なところがある。
第2楽章と第4楽章は雰囲気は違っても、旋律のつくりかたに似通ったところがあって、まるでポジとネガのような気がする。

第5楽章 Finale: Allegro moderato, ma rubato
何かが起こりそうな感じのする主題で始まって、やがて明るく晴れやかな旋律(ヘ長調の第1副主題)が登場し、再び主題が変形されて展開していく。
構成が”A-B-A-C-A-結尾”となっているので、この主題の入れ替わりが何度か続いて、ブラームスらしく明暗が交錯しているが、ここが結構長い。主題がそれほどメロディアスでないし、内面にこもったようなところもあって、フィナーレにしては開放感がなく、やや地味な感じがする展開。それでも、カッチェンは強弱をかなり明確につけて、明暗のコントラストを強く出して、わりとドラマティックに弾いている。ラストはテンポも上がって細かいパッセージで駆け回り、華やかな展開で終わって、ほっと一安心。

第3番のソナタは構成的に凝ったところがあるし、第1~第3楽章は主題や展開がわかりやすくて好きだけれど、第1番が曲の流れがすっきりと自然に流れている気がする。やはり3つのソナタの中では、一度聴いてとても印象が良かった第1番が一番好みに合っている。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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