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アンデルシェフスキ ~ ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲
なぜか偶然に知ったピアニストのアンデルシェフスキ。そういえば、BOOKOFFで売っていたCDがあったっけ、くらいにしか記憶していなかった。(私はそのCDは買わなかったけれど)

たまたまディアベリ変奏曲の録音をしていたのを見つけて、HMVのレビューが異常に良かったので試聴してみると、すぐにこれは凄い演奏に違いないとわかる。
すぐにオーダーして、全曲聴いてみると本当に凄い。今まで録音されてきた数多のディアベリの録音がかすんでしまうくらいに素晴らしく、技術も表現力も最高か最高レベルじゃないかと思うくらい、驚きのディアベリだった。

ゆったりしたテンポで、細部まで彼自身の解釈が尽くされているようなとても密度の濃い演奏。といってもそういう風に弾くのが納得できてしまうので、1時間以上の演奏時間でも全く飽きることなく聴ける。
ピアノ~フォルテにいたる音の幅が広く、階層がとても多いので、それだけでも表現の広がりが大きくなる。特に弱音の繊細さとやわらかさが素晴らしいし、ニュアンスも多彩。
左手低音部のフォルテの力強さは印象的で、ピアノが揺れているんじゃないかと思うくらいに力強い。左手がかなり強いタッチでリズムを刻んでいるので、テンポが遅めでも演奏自体に躍動感やリズム感があってとても軽快。打鍵もシャープでメカニカルな精密さがある。
バッハを弾くときのように、各声部が綺麗に聴こえてくるが、その声部ごとに音色・響き・強弱などが弾き分けられているかのように、曲が立体的に聴こえてきて、主旋律以外の旋律の動きも鮮明にわかる。今まで埋もれがちだった音や旋律の流れが聴こえてくるのが面白い。
今までモノクロ写真を見ていたのが、急にフルカラーに変わったように、変奏ごとの性格づけもしっかりしていて、これだけ多彩な表情を見せるディアベリはそうそう聴けない。この演奏にしっかりはまってしまったおかげで、当分他のディアベリの演奏は聴けなくなってしまった。

今まで聴いたのは、ゼルキン、ブレンデル、ポリーニ、アラウ、バックハウス、カッチェン、コワセヴィッチ、シュナーベル。他にもあったけれどさほど印象に残らないものは忘れてしまった。
個々の変奏をとれば、好みもあって、アンデルシェフスキの演奏よりも他のピアニストの演奏の方がしっくりくるところもないことはないが、全曲通して考えれば、技術、表現、構成の全てが素晴らしく、個人的にはこの曲のベスト。
今までは、ブレンデルが最も表現が繊細で豊かだと思ったけれど、それを上回るくらい表現が多彩で密度も濃い(と思う)。
個性がかなり強い演奏なので、好みが分かれそうな気もするけれど、そういう次元を超えて演奏そのものが素晴らしく、ディアベリが好きな人なら一聴の価値はあります。

Beethoven: Diabelli VariationsBeethoven: Diabelli Variations
(2001/04/28)
Piotr Anderszewski

試聴する(米国amazonのサイト)


これは同じ音源の廉価盤。今ならTOWERのオンラインで入手可能。ジャケットはポートレイトではなくイラストの方が好みなので、こちらを買いました。
Beethoven: Diabelli VariationsBeethoven: Diabelli Variations
(2007/09/24)
Piotr Anderszewski



アンデルシェフスキを語るときに必ずついて回るのは、1990年のリーズ国際ピアノ・コンクールでのエピソード。わずか20歳で難曲のディアベッリ変奏曲を弾き絶賛されたのに、ウェーベルンの変奏曲では納得のいく演奏ができなかったために、最終審査に参加しなかっという有名な逸話。これには審査員も聴衆もびっくりしたらしい。

あのリヒテルとグールドの伝記映像を製作したことで有名なフランスの映像作家ブリュノ・モンサンジョン監督も、アンデルシェフスキには魅かれるものがあったようで、《ディアベリ変奏曲》の録音風景を撮影したDVDがリリースされている。さらにドキュメンタリー映画『アンデルシェフスキキ/アンクワイエット・トラベラー』(第22回国際テレビ映像祭(FIPA)で金賞を獲得)まで製作するほどの熱の入れようで、これは6月に発売予定。
彼の指や手首の動きは、他のピアニストがピアノを弾く姿とは、かなり違っていてとても個性的。あのタッチや音色や響きは、こういう奏法から生まれてくるのかと全くの驚き。ピアノを弾く人が見れば、実にスリリングな映像じゃないかと思います。

ベートーヴェン:ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲 [DVD]ベートーヴェン:ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲 [DVD]
(2004/08/18)
アンデルシェフスキー(ピョートル)

商品詳細を見る



アンデルシェフスキに関する情報はこの2つのサイトでだいたいわかります。

アンデルシェフスキの公式サイト(EMI MusicJapan/日本文)
アンデルシェフスキの公式サイト(英文)

                                 

アンデルシェフスキが弾くディアベリ変奏曲は、テンポは遅めだが、その分、響きや表情の変化が目まぐるしくて、表現の密度が濃いので、テンポの遅さ自体はあまり気にはならない。強弱・緩急のコントラストが明瞭で冗長さは全く感じさせない。逆に言えば、これだけ細部まで表現しつくそうとすると、このくらいのテンポでないと難しいような気もする。
演奏時間は約63分。ディアベリの演奏は50分台が多いので、アンデルシェフスキはかなり遅い方だと思う。

テンポの速い変奏は、ペダルは少なめ。響きが短くクリアで濁りもなく、すっきりと引き締まった印象。テンポが遅い叙情的な変奏は、響きを十分に残していて(でも濁ることはない)、この響きの余韻だけでもかなりの繊細さを感じてしまう。

何より面白いのは、声部ごとの動きや表情が鮮やかに聴き取れて、それも響きやタッチが声部によって変わっていたりするところ。いろいろ発見することが多く、何度聴いても面白くて、新鮮さのある演奏です。



<メモ(また聴きなおして書き直します)>
テーマ
テンポは速めで軽快。左手のバスがかなり力強く、リズムを鋭く刻んでいる。これはこの曲全体を通して特徴的なところ。

第1変奏
この変奏は、右手よりも左手側の旋律を強く弾いている。

第2変奏
かなり弱めの弱音がくぐもったような響きで少し摩訶不思議な雰囲気。

第3変奏
この変奏もかなり弱めの弱音で始まるけれど、第2変奏とちがって響きはかなり明瞭。弱音の響きのバリエーションがかなり多いので、曲のニュアンスをいろいろ変えられる。

第4変奏
やや速めのテンポで、弱音~フォルテの幅がかなりある。なかなか力強い。

第5変奏
カッコウがエコーするようなリズムが鋭いのと、スタカットの弾き方に特徴があってちょっと変わったリズム感。

第6、7変奏
リズム感が鋭く、右手と左手の響きがかなり違っていて、それぞれの旋律がくっきりと明瞭に聴こえる。それぞれ別人が弾いているような感じがして面白い弾き方。これも演奏全体を通じた特徴。

第8変奏
柔らかい弱音の響きがとても綺麗。ここも弱音の響きのバリエーションがあるので、右手と左手の旋律のニュアンスの違いが明瞭にわかる。

第9変奏
タッチは力強いけれど、軽快。リズム感がとても良いうえ、面白くて、ユーモラスな感じがよく出ている。装飾音が付いている音や四分音符の弾き方をいろいろ変えているので、違う響きがする。同じ音型で構成する一見単調そうに見えるこの変奏が、とても面白く聴ける。

第10変奏
テンポの速いスタッカートだけれどとても軽やか。14小節目の左手2分音符のGの音が浮き上がるようにくっきりと聴こえてきて、しっかり響きが持続しているところが面白い。

第11、12変奏
第11変奏はゆったりとまどろんでいるような雰囲気の曲。第12変奏は何かが起こりそうな感じがする曲。両方の変奏とも靄のかかったような弱音の響きが綺麗。

第13変奏
フォルテとピアノの対比が鮮やか。彼はフォルテはリズム感を鋭く、力強い。逆にピアノはとても弱い響きだけれど、響きそのものはしっかりと聴き取れる。

第14変奏
とてもテンポの遅い変奏。響きの余韻をたっぷりと響かせてから、次の音を弾いていくのが面白い。

第15変奏
スタカットの軽やかな変奏。8小節目の左手第2~4音が綺麗に聴こえてくる。

第16変奏
フォルテとピアノの部分のタッチと響きがコロッと変わっていて、コントラストが鮮やか。左手のリズムの刻みが明瞭で躍動的。

第17変奏
フォルテとスタッカートで鋭く刻むリズム左手と柔かい響きで細かいパッセージを弾く対比が鮮やか。

第18変奏
ゆったりしたテンポで弾く柔らかい弱音で、まどろむような雰囲気。

第19変奏
ややゆったりしただが、タッチが軽やかでアクセントが効いているので、とても軽快なリズム。カノン風に旋律が交錯していく様子を鮮明に聴こえるように弾いているのが、面白い。

第20変奏
いつ聴いても摩訶不思議な変奏。かなり弱い弱音でテンポも遅い。響きの引き伸ばし方というか残し方が上手いので、一層摩訶不思議な曲に聴こえる。

第21変奏
これも左手のリズムの刻み方が鮮やか。この変奏はテンポが何回が変わるのが面白いが、テンポの変わる直前の小節の最後の音の後に一瞬静止するような瞬間があって、この間合いがあることで、テンポの急変と曲想の転換が効果的に聴こえる。ここはとても上手いし、鮮やかな弾き方。

第22変奏
三連符のニュアンスがいろいろあるのと、スフォルツァンドがよく聴いている。

第23、25変奏
リズムが正確で打鍵も鋭いので、とてもシャープでクリアな演奏。メカニカルな正確さがあって面白い。

第24変奏
とてもゆったりとしたテンポで、弱音の柔からな響きがとても綺麗な弾き方。声部によって違う響きが聴こえてくるので、声部ごとの旋律がくっきりと鮮やかに浮き上がってくる。

第26変奏
両手の旋律の受け渡しがとても滑らかで響きが綺麗。

第27変奏
アクセントがついている音が、独立してくっきりとよく響いているのが特徴的。他のピアニストだと、この音が他の音の響きの塊のなかに埋もれてしまいがち。

第28変奏
アレグロにしてはテンポが遅め。(全体的にアレグロの変奏でもテンポは速くない)
リズムの刻み方が鋭くてスフォルツァンドのつけ方も正確なので、この変奏のリズムの面白さがよくわかる。

第29~31変奏
叙情的な曲想が3つ続く。第29変奏は、映画「敬愛なるベートーヴェン」で使われていたはず。(タイトルの「敬愛なる」という日本語の使い方が変だといつも思うけど。)
ゆったりとしたテンポでほとんど弱音で弾かれる変奏だけれど、アンデルシェフスキの弱音の響きのニュアンスがいろいろあって、この音色と響きを聴くだけでも十分なくらいに美しくて繊細なピアノ。
フォルテへとクレッシェンドする山がとても高いので、切々とした悲愴感が伝わってくる。

第32変奏
かなりゆったりしたテンポで弾いているので、各声部の旋律の動きやリズムがよくわかる。盛り上がりには欠けるけれど、とても面白く聴けるフーガ。

第33変奏
大河ドラマか長編小説の締めくくりのような気がする最後のメヌエット。この変奏はほとんど弱音域で弾かれているけれど、やっぱり表情がいろいろ変化していて、弱音の表現の幅の広さがよくわかる。
ずっとかなりドラマティックで密度の濃い変奏を聴いてきたので、穏やかで親密感のあるこの変奏を聴くとほっとする。

tag : ベートーヴェン アンデルシェフスキ

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注文しました
こんにちは。

タワレコで注文しました!
yoshimiさんのアンデルジェフスキの演奏についての記事を読み、なんとしても聞きたいと思いました。
リストの中にあって購入待ちのCDを一気に飛び越しての注文です。
早く届かないかなと心待ちにしています。
これは素晴らしいディアベリです
よんちゃん様、こんにちは。

早速注文されましたか!HMVにレビュが載っていますが、専門的にピアノに詳しいレビュワーも絶賛していますから(この人たちのレビュはいつも確かです)、本当に素晴らしいディアベリです。
私は、試聴した段階で、わあ、凄い~!!と思いました。

とても個性的な演奏ではありますが、アファナシエフなどの奇を衒うような(と私は思う)タイプの演奏ではなく、”正統派”だと言ってよいと思います。
好みにもよるとは思いますが、他のピアニストでは聴けない響きや表現がたくさんあるので、ピアノの弾き方に注目してみても、面白いことは間違いないと思います。

それにしては、あまり知られていないのが不思議です。(私も最近知ったくらいなので)
彼のディアベリをじっくりと楽しんでくださいね!

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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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