カッチェンのプラハ音楽祭ライブ ~ モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番 

2009, 05. 27 (Wed) 19:48

ジュリアス・カッチェンのモーツァルトの録音は、ピアノ協奏曲第13番(マーク指揮新交響楽団、1955年録音)、ピアノ・ソナタ第11,13,15番(1954年録音)、ピアノ協奏曲第20・25番(ミュンヒンガー指揮シュツットガルト室内管弦楽団、1966年録音)が残っている。いずれもスタジオ録音のDECCA盤。

これ以外に珍しいライブ録音が2つ残っていて、1つは1960年にコンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲバントハウス管弦楽団の伴奏で、アンコールで弾いたピアノ協奏曲第20番の第2楽章。これはブラームスのピアノ協奏曲第1番のライブ録音のCDにカップリングされていて、入手可能。

もう1つは、1966年11月29日のプラハ音楽祭で、ピエトロ・アルジェント(Pietro Argento)指揮プラハ交響楽団の伴奏で、ピアノ協奏曲第23番を弾いたライブ録音。
カッチェンは度々プラハ音楽祭で演奏していたが、初めて参加したのが1956年、30歳の時。その時弾いたのはブラームスのピアノ・ソナタ第3番。
最後に参加したのは1968年の”プラハの春音楽祭”。ヨゼフ・スークの伴奏者としてブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲、ソリストとしてベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ノイマン指揮プラハ響の伴奏)を演奏している。
このベートーヴェンのピアノ協奏曲については、ライブ映像が残っているようで、Youtubeには第1楽章の演奏映像が登録されている。[Youtubeのライブ映像]

1966年のプラハ音楽祭のライブ録音は、地元チェコのレーベル「Multisonic」がCD化したが、すでに廃盤。Multisonicは、1990年に活動を始めた新興レーベルで、プラハ音楽祭のライヴ録音をCD化「プラハの春」シリーズとしてリリースしている。
第23番のコンチェルトはスタジオ録音をしていないので、このライブ録音はカッチェンのディスコグラフィの中でも、かなりのレア物。
国内外のCD販売サイトでは新品の在庫が無く、USED品も出ていないので、結局Yahooのオークションで出品されていたのを見つけて入手した。欲しがる人はほとんどいない(はずの)CDなのに、たまたまカッチェンの録音を収集している人がいて、結局新品のCD2枚分くらいの価格まで上がって落札。
コレクター(私もその一人かも)と競合すると価格がかなり上がってしまうので避けたいけれど、廃盤は見つけたときに手に入れないと、次の機会がいつくるかわからないし(特にこのCDを持っている人は少ないはず)、CDを聴いてみると、やっぱり手に入れて良かった~と今回はとても満足。
この録音は、カッチェンのピアノが好きな人のためのコレクターズ・アイテム。もしどこかで見つけたら、必ず手に入れましょう。

Mozart : Violin Concerto 5 / Piano Concerto 23Mozart : Violin Concerto 5 / Piano Concerto 23
(1995/12/20)
Katchen(piano),Schneiderhan(violin),Ancerl(con.),Argento(con),Prague Symphony Orchestra,Czech Philharmonic Orchestra

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カップリングは、アンチェル指揮チェコ・フィルの伴奏で、シュナイダーハンが弾いたモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番。これも珍しい録音なのかもしれない。これは後でまたゆっくりと聴くことに。


ライブ録音にしては、会場のノイズは少ない。オケとピアノの音は綺麗に分離しているので、音はわりとクリアには聴こえるし、ピアノはやや前面から聴こえてくる。
ピアノは丸みのあるもこもこした篭ったような音はするが、かえって室内楽的な親密感があって、こういう音も嫌いではない。
ライブ録音だからこういう響き方になるのかと思ったけれど、よく聴いていると、元々そういう響きになるようにピアノを調律している感じがする。

このライブ録音は、ライブ特有のキズがあちこちあるけれど、スタジオ録音と違って、ひやひやしながら聴けるというスリル(?)もあり、ライブ録音を聴くのは楽しい。
ライブでもあるせいか、ミュンヒンガーとスタジオ録音した時よりもずっと伸びやかさのある演奏になっている。
他の曲のスタジオ録音やライブ録音とは違って、カッチェンがピアノを弾きながらメロディを口ずさんでいるのがたびたび聴こえてきて、とても楽しそうに弾いている
私がよく聴くピアニストは、なぜか歌いながら(唸っている場合もある)ピアノを弾く人が多くて、これを雑音だと嫌がる人もいるけれど、歌声がちゃんと録音されているとリアリティが感じられて楽しい。

第1楽章はそれほどテンポも速いというわけではないので、オケとピアノがわりとよく揃っている。
ピアノは軽快で快活。硬質で明瞭なタッチできりっと引き締まった演奏だとは思うけれど、響きに丸みがあって柔らかさがあり、音色にはほんのりと暖かみがある。この時期の演奏でよく使っている弱音のかすかな響きが美しい。

第2楽章は、もこもこした響きのせいか、透明感よりも親密感を感じさせるピアノ。ホールで聴けば、この録音よりももっと澄んで綺麗に聴こえるとは思うけど。
カッチェンのピアノは、しっとりと抒情を歌うというような哀しげなトーンではなくて、さらりとした哀感があって、どこかしら澄んだ明るさや温もりを感じさせるところがある。

第3楽章は、冒頭から速めのテンポのピアノと、それに合わせようとするオケのアンサンブルが、ぴたっと綺麗にはそろわないところがあちこちあって、テンポがやや不安定な感じがする。
Allegroなので、こういう音の少ない曲だと、カッチェンの指がよく回ってしまうようで、どうしても速くなりがち。それでも以前の録音よりは、突進するのがセーブされていて、年もとっていくとそういうクセはかなりコントロールできるようになっている。
演奏全体のテンポが頻繁に微妙に伸縮しているので、指揮者がピアノとオケを揃えていくのに苦労している気配がする。
ピアノの弾き方自体は、コロコロと固めのタッチと響きで、テンポも速くてとても溌剌として軽快で、そう悪くはない。この楽章は、このピアノとオケのアンサンブルのズレやテンポの揺らぎが気にはなるので、カッチェンのピアノに集中して聴くようにしておいた方が、気が散らなくて良い。
第3楽章は気になるところが多かったけれど、ピアノ自体は勢いもあって躍動的。第1楽章はわりと落ち着いたテンポで表情にもいろいろ変化があって一番良くて、第2楽章も柔らかな響きとさっぱりした叙情感が綺麗。

オケの弦楽パートはさほど気になるところはなく、全楽章を通じて管楽パートのいつくかがときどきちょっと遅くなりがちで、アンサンブルのばらつきが結構ある。ピアノが速すぎるせいかと思ったけれど、ピアノが入ってなくてもずれていたりする。どうしてモーツァルトの曲で、こんなにばらつくのか不思議。

スタジオ録音の第20番や第25番に比べると、ライブのせいか第23番は完成度がやや落ちるところはある。なにしろ、第20番はカッチェンが11歳のデビュー時に弾いた曲で、プロのピアニストになってからも弾いていたので、完成度が最も高い。しかし、ミュンヒンガーとスタジオ録音したモーツァルトのコンチェルトは端正だけど、どこか堅苦しさを感じてしまう。
このライブでは、スタジオ録音とは違って、いろいろキズがあるけれど、カッチェン自身が伸び伸びと楽しそうに弾いているので、聴いていても楽しい演奏です。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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