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シュニトケのカデンツァ ~ ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲、モーツァルト/ピアノ協奏曲
シュニトケのディスコグラフィを見ていたら、なぜかカデンツァの作曲が多い。
数えてみたら、6つの曲についてカデンツァを作っている。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、モーツァルトのピアノ協奏曲(4曲)、同じくモーツァルトのバスーン協奏曲。1曲について複数のカデンツァを書いているのもあるので、カデンツァ自体の数は10曲。
シュニトケは、バッハの音楽に大変傾倒していたのはよく聴く話だけれど、ベートーヴェンやモーツァルトにも興味があったらしい。そういえばモーツァルトの音楽をもじった曲をいくつか書いていた。

Cadenza to Mozarts Piano Concerto in C minor KV 491 (first movement) (1975)
Two Cadenzas to Beethoven's Violin Concerto in D major opus 61 for solo violin, 10 violins and timpani (1975-1977)
Three Cadenzas to Mozart's Piano Concerto in C major KV 467 (1980)
Cadenza to Mozart's Piano Concerto in C major KV 503 (first movement) (1983)
Two Cadenzas to Mozart's Bassoon Concerto in B flat major KV 191 (1983)
Cadenzas to Mozart's Piano Concerto in B flat major KV 39 (1990)


シュニトケが書いたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のカデンツァは、クレーメルが弾いているので、さすがに有名。
モーツァルトのピアノ協奏曲のカデンツァの方は聴いたことがない。
もともとモーツァルトはほとんど聴かないし、それ以上に、シュニトケのカデンツァでモーツァルトのピアノ協奏曲を弾こうなどという、チャレンジングなピアニストがいないせいもある。
一度は聴いてみたいシュニトケのモーツァルトのカデンツァ。ピアニストでこのカデンツァを弾いている人はいるんだろうか。誰かがピアノ版のカデンツァについて調べているかもしれない。


・・・・いろいろ探したけれど、やっぱりシュニトケのカデンツァを使ったモーツァルトのピアノ協奏曲はなし。(英文検索で海外サイトを探せばあるかもしれないけど)
最後にYoutubeで探してみたら、個人でピアノ協奏曲第25番(KV 503)カデンツァを弾いている映像をアップロードしている人を発見。
Youtubeはなんて役に立つんだろうとつくづく思う。こういう自作映像をアップロードするのが、Youtube本来の使い方らしい。

2台のピアノ用(か何かに)に編曲したオーケストラパートを先に弾き、それからシュニトケのカデンツァを弾き(開始から30秒後)、最後にオケパートを弾いて締めくくっている。
ミスタッチとかいろいろあるのはご愛嬌。ご本人も、”それは個性的に弾いているだけなんだ”...なんてコメントしてます。

このカデンツァを聴く限り、とてもまともで立派なカデンツァ。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲とは全然違って、これをシュニトケが書いたとは誰も思わないに違いない。
でも、よくシュニトケの曲を聴いていれば、中盤あたりで弾くトリル(2分22秒くらいから)にシュニトケらしい和声(やや不安さを感じさせるが不協和的ではない)が使われているのがわかる。
これだけまともなら、別にシュニトケのカデンツァを弾いて演奏しても良いじゃないかと思うけれど、逆にあまりにまともすぎて驚きがないので、誰も弾こうとは思わないに違いない。
他の協奏曲も、この曲と同じように同じように意外とまともなカデンツァを書いているのかもしれない。

                                 

このベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のカデンツァについて、コンパクトにまとめた「ベートーヴェン : ヴァイオリン協奏曲ニ長調 CDレビュー」というホームページがあります。
CD評も多数あり、カデンツァは実に12種類(ダーヴィッド、ヴュータン、ヨアヒム、ラウブ、ヴィニャフスキ、サン=サーンス、アウアー、イザイ、ブゾーニ、クライスラー、ミルシテイン、シュニトケ)。ハイフェッツのカデンツァは有名だけれど、アウアーを編曲したものなので、リストには記載されていない。
スークが弾いているプシホダのカデンツァはさすがに入っていなかった。たぶんマイナーなんだろう。
CD評にはヴァイオリニストが弾いているカデンツァを明記しているので、特に聴きたいと思うカデンツァの入った録音を探すのには便利。カデンツァでCDを選ぶことはあまりと思うけれど。

そのなかでは、ヴァイオリニストが作曲したカデンツァが有名で、実際演奏されるのもそのうちのどれかがほとんど。
昔はヨアヒム版で録音するのが主流だったが、今は技術的難易度が高いクライスラー版が大半だという。
腕と作曲能力に自身のあるヴァイオリニスト(ハイフェッツ、ヴェンゲーロフ)は自作カデンツァ。
ただし、ハイフェッツはアウアーの編曲版。ブラームスの協奏曲の方はハイフェッツ自作らしい。
それにしても、ヴァイオリン協奏曲のカデンツァはこんなにたくさんあるのに、ピアノ協奏曲の方は作曲家以外のカデンツァはほとんど残されていない。
カデンツァをいくつか作曲したバックハウスとケンプは作曲・編曲もしたピアニストだった。

下手なカデンツァを即興演奏されると作品の質と統一性が損なわれると考えたベートーヴェンは、ピアノ協奏曲第5番はカデンツァまで書き込んでいる。メンデルスゾーンもヴァイオリン協奏曲のカデンツァは自作。

                                 

やはり一番変わっているのはシュニトケのカデンツァ。このカデンツァで演奏しているのはクレーメル(だけらしい)。

クレーメルには、ベートーヴェンのカデンツァを自ら編曲したバージョンがある。1992年のライヴ録音で伴奏はアンノンクール指揮ヨーロッパ室内管弦楽団。
ベートーヴェンはヴァイオリン協奏曲をカデンツァ付きのピアノ協奏曲に編曲、クレーメルはそれを自ら編曲したカデンツァを弾いている。
ピアノとティンパニがカデンツァに登場するので、よけいに有名になったらしい。

シュニトケのカデンツァは、バッハのコラール、ベートーヴェンの交響曲第7番第2楽章とブラームスのヴァイオリン協奏曲第1楽章冒頭部分(この2つはすぐにわかる)、ベルクのヴァイオリン協奏曲、バルトークのヴァイオリン協奏曲(第1番か第2番のいずれか)のモチーフに加え、ヴァイオリンによるクラスター効果も取り入れて、ベートーヴェンの原曲のモチーフを織り込みながら、バロック~現代までを敷衍しているかのような壮大さ。
これは全然パロディではなくて、多様式時代のシュニトケを象徴するようなとても真面目なカデンツァ。
好きか嫌いかは別にして、これだけの構成力と創造性のあるカデンツァは、ヴァイオリニストが即興で弾けるものではなく、作曲家にしか作れないもの。

Beethoven Violin Concerto - Schnittke Cadenza Mov 1 - Kremer


実際に聴いてみると、このカデンツァはとても面白い。
ときどき不協和音や現代音楽的な和声が顔を見せるけれど、想像していたよりもずっとまとも。
一瞬宇宙空間か異次元にでもワープしたような感覚がしないでもないけれど、ベートーヴェンの原曲との断絶を感じることもなく、格調高さと品の良さは崩していない(と私は感じる)。
ただし、これはシュニトケの作品をいろいろ聴いているからそう思えるのであって、このカデンツァで初めてシュニトケを聴いた人は、面白いと思う反面、違和感も感じるかも。

このシュニトケ版のカデンツァを弾いた演奏の録音はPHILIPS盤。
DECCAの廉価盤としてもリリースされている。ただし、カップリングの曲が違う。
シュニトケのカデンツァを使っていることが、必ずCDの紹介文に明記されているのが面白い。
やっぱり、このカデンツァで昔から有名な録音なんだと思う。
シュニトケのカデンツァは、クレーメルが音楽監督として製作した映画「無伴奏シャコンヌ」でも使われているらしい。
PHILIPS盤のカップリングはベルクのヴァイオリン協奏曲。コリン・デイヴィス指揮バイエルン放送交響楽団による伴奏で1984年の録音。これは、スークと並んで定評のあるもの。

ベートーヴェン&ベルク /ヴァイオリン協奏曲ベートーヴェン ベルク
(1996/06/05)
クレーメル(ギドン)

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tag : シュニトケ ベートーヴェン モーツァルト

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YouTube
こんにちは、うじゃくです。
私はカデンツァというものに全く関心を抱いてなかったので、新鮮でした。
YouTubeの動画を拝見しましたが、モーツァルトに傾倒しながらも自分の色を少し出そうかなとやや欲を出したような、そんな感じに聴こえました。でも言われなければ聴き流してしまいそう。
YouTubeは面白いものが転がってますよね。シュニトケがアニメーションにつけた音楽だって視聴できるのですから。
モーツァルトのカデンツァは意外と書きにくかったのか
うじゃくさま、こんにちは。

たまたまカデンツァを作曲しているのを見つけたのですが、ベートーヴェンの方はかなり面白いです。
さすがに有名なだけのことはありますが、このカデンツァを弾いたクレーメルの功績も大きいでしょうね。

モーツァルトは古典形式の枠がきっちりしているので、ベートーヴェンほどカデンツァの自由度が高くなさそうですから、シュニトケもそれほど冒険しなかったのではないかと思います。
そういう意味ではベートーヴェンの曲は包容力があるといいますか、聴く方も多少変わったものでも受け入れられるのだと思います。

アニメーション用の劇伴音楽があるんですね。Youtubeをちょっと探してみます。

いいものを聴きました
また登場します。

確かにベートーヴェンのほうがいいですねぇ。一瞬ショスタコのヴァイオリン協奏曲第1番か?!なんて思わせる箇所もありましたが、ベートーヴェンの色を殺さず美しいカデンツァに仕上がってます。作曲年代が1975-77なんで、その頃にクレーメルと知り合っていたかどうかは分りませんが、完全にこれはクレーメルのものになってますね。御紹介ありがとうございました。

今まで自分がYouTubeで発見したアニメは"船上のバレリーナ""蝶々""寓話の世界で(RAREと書かれているアニメです。1973年頃というのでおそらくはそれかと)""君たちのところへ飛んでいくよ…""鉛筆と消しゴム(中身は合奏協奏曲第1番です)"といったところですが、中には共作と思われるものもあり、自分の資料にも載っていないものがあるようです。
本当に良いカデンツァですよね!
うじゃく様、こんばんは。

早速、聴いて下さったのですね。どうもありがとうございます。

カデンツァに組み込まれているのは、記事中の曲がよく上げられています。
バルトークは1番と良く書かれていますが、それは間違いで2番と断言している人もいます。
ショスタコのヴァイオリン協奏曲は聴いたことがないのですが、それも入っているかもしれません。
シュニトケはショスタコーヴィチをとても尊敬していたようですから。「シュニトケとの対話」を読むと、ショスタコーヴィチがたびたび登場してました。
シェーンベルクが入っているとか書いてあることもあって、クイズにするには良い素材だなあと思えてきます。

これだけコラージュ的に、違った様式と時代の曲を組み込んでいるのに、ベートーヴェンのモチーフとも上手く融合させて、原曲とあまり違和感がないところがさすがだと思います。

アニメの情報、ありがとうございます。後で探して見ます。シュニトケとアニメというのは意外な接点ですね。映画音楽はクラシックの作曲家でもたくさん作ってますから不思議ではないのですが。


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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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