シュニトケ/古い様式の組曲 

2009, 07. 01 (Wed) 18:28

シュニトケは、なぜか時たま限りなく調性音楽に近い曲を書くことがある。その数は少ないが、とりわけ旋律が美しいのが『古い様式の組曲』。
まるで、バロックか古典主義時代あたりのヴァイオリン・ソナタではないかと見(聴き)紛うような曲で、さっと聴いただけだと、形式的にも内容的にもシュニトケが書いたとはわからないかもしれない。

シュニトケ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 他 [Import]シュニトケ:ヴァイオリン・ソナタ第1番&第2番、他 [Import]
(1991/01/01)
ウルフ・ヴァリン (ヴァイオリン)、ローランド・ペンティネン(ピアノ)

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シュニトケはバッハを大変尊敬していて、有名な次の言葉を残している。
 
 あまねく世界に神は存在し
 あまねく音楽にバッハは存在する


この曲を聴いていると、バッハへの敬意を込めて”古い様式”の音楽を書いたのではないかと思えてくる。(本当にそうかどうかはわかりません)
シュニトケがこういう曲を書くとすぐにパロディだとか良く言われているが、バッハやバロック・古典様式を研究して多様式という書法へ向かった頃のシュニトケだったら、意外と真面目な気持ちで作曲してたんじゃないかという気がする。

この曲は、シュニトケがソ連映画"The Aventures of a Dentist"のために作曲したものを素材にしているが、基本的な様式はバロック。
全体的には完全調性音楽だけれど、ほんの少しだけ、シュニトケらしい突発的な不協和音がはさみ込まれていたり、曲の終わり方が安定していなかったりする。
シュニトケを聴き始めたころに初めて聴いたときは、独特の語法に慣れていなくて、全くバロック風な曲だとばかり思っていたけれど、今日久しぶりに聴いてみると、ああやっぱりシュニトケらしいと思い直しました。
もっと波乱万丈の曲を期待している人はシュニトケらしくないと思うでしょうが、こういうシュニトケもたまに聴くと良いものです。

Ⅰ Pastorale
タイトルどおり、とても穏やかで爽やかな曲。ヴァイオリンが主に牧歌的な旋律を弾いて、ピアノがとても軽やかに伴奏している。
終盤近くになると、時々休止の長さがそれまでよりも幾分引き伸ばされていて、どうしたのかな?と一瞬思わせて、ラストはやや不安げな響きと中途半端な旋律で終わるところがシュニトケ風。それ以外はとってもまともな曲です。

Ⅱ Ballett
ヴァイオリンとピアノとも、スタッカート気味に弾く、快活で躍動的な曲。前半は長調で安定しているが、この曲も終盤近くに調性が微妙に狂って不協和的な和声がちらっと聴こえてくるが、すぐに元通りの調性に戻って、今度はちゃんと和音で決めて終わっている。

Ⅲ Menuett
どこかで聴いたような哀しげな旋律を弾くピアノで始まる。その後にヴァイオリンが同じ主題旋律を弾き始めるが、本当に旋律・和声とも綺麗な曲。
ピアノがほとんど中音~高音域で弾いているので、響きが細くて綺麗で、ヴァイオリンの高音の旋律と相まって、叙情感の強い曲になっている。
どこで歪みが出てくるかとじっと待っていたのに、この曲は特に何の変哲もなく、初めから終わりまで優雅でした。

Ⅳ Fuge
メヌエットの雰囲気をそのまま持ち込んだような短調の旋律だけれど、これはかなり力強くて疾走感のあるフーガ。ヴァイオリンとピアノが主旋律も副旋律も弾くので、両方が主役みたい。
ピアノで弾くフーガはかなり好きなのに、ヴァイオリンとピアノのフーガはあまり聴いたことがない。
聴いてみると、これがとても面白い。ピアノとヴァイオリンの音色も響きも違うので、声部がはっきり分かれて聴こえるところが、ピアノだけで弾くフーガとは違う。
もちろんピアノ独奏でもフーガの声部は弾き分けてはいるけれど、音色や響きまで綺麗に弾き分けるテクニックが使えるピアニストは少ないので。
この曲も初めから終わりまで、とてもまともでした。

Ⅴ Pantomime
穏やかで優雅な曲想に変わって、美しいヴァイオリンの旋律と軽やかなピアノの伴奏。
でも、終曲がこれで終わるはずはないのはわかっているので期待して待っていると、中盤に急に密やかに足踏みをするかのような行進曲風の旋律に変わっていき、とうとう最後にピアノがダメ押しのように和音をフォルテで弾いて、ヴァイオリンとピアノが不協和音に。
すぐに元通りの調性に戻って、何事もなかったかのように引き続けているけれど、終盤になると徐々にリタルダントとディミヌエンドしつつ、ヴァイオリンとピアノとも不安げな音を連続して弾きだして、最後にはそのまま音が消えてしまう。
シュニトケらしいところはあるけれど、意外と穏やかな終わり方ではありました。

全体的には、大きな不協和的な破綻を引き起こすこともなく、ちょっとした毒が入っていたくらいで済んでいる。
他にもいろいろな毒をひそませていたとしても、普通は気がつかないくらいの毒なのかもしれない。
ごくごく普通の演奏会のプログラムに載せたとしても、現代音楽やシュニトケを聴きなれて聴衆の不興を買うことはほとんどないであろうと思うくらいの、かなりまともな曲です。
そう思って少し調べてみると、やっぱりこの曲は、シュニトケの室内楽曲としては珍しくと言いたくなるほど、コンサートのプログラムに結構載ってました。

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2 Comments

うじゃく  

シュニトケの音楽

不協和音大好きっ子の(もう子供じゃない)うじゃくでございます。

クラシックじゃないものとか頻繁に聴いたりしているせいか、ちょっとの不協和音は慣れっこなのです。でもそれじゃ一般受けしない。

シュニトケの音楽はちょっと背伸びしたい音楽家からは手を出したい存在で在り続けるのでしょうが、やはり音楽の本流には成り得ないのかなぁ。

2009/07/02 (Thu) 22:07 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

好みと慣れの両方が必要なんでしょうが

うじゃく様、こんにちは。早速、コメントありがとうございます。

シュニトケに限らず、現代音楽というカテゴリーの音楽自体が、傍流のままですね。比較的聴きやすいペルト、新古典主義のストラヴィンスキーなども、それほど演奏会のプログラムには載っていませんし、録音も人気曲以外は限られていますし。
受け入れる側の聴衆がいなければ、商業的にもコミュニケーション的にも成り立たないので、音楽家は手を出したくても難しいでしょう。

シュニトケは現代音楽のなかでは、比較的聴きにくくはない方だとは思いますが(かといって聴きやすいかというと....)、独特の書法や和声があるのと、やや理詰めなところが(私には)感じられるので、とっつきが悪いかもしれませんね。不協和といっても和声は綺麗ですし、ピアノの使い方などはとても面白いところがあると思いますが。
わりと人気のあるメシアンや武満徹ほどには、好まれて演奏される(聴かれる)音楽ではないような気はします。

2009/07/02 (Thu) 22:46 | EDIT | REPLY |   

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