ジョン・マスト/インプロヴィゼーションとフーガ 

2009, 06. 20 (Sat) 01:11

ジョン・マストは1954年米国生まれのピアニストで現代音楽の作曲家。
彼はマンハッタン音楽学校でリプキンにピアノを学び、プロのピアニストとして活動しているが、独学した声楽曲の作曲では数多くの賞を得ている(NAXOSの解説より)。
私は名前も作品も全く聴いたことがなかった作曲家。今回のヴァン・クライバーンコンクールで、現代音楽の課題曲を作曲していることから知りました。

コンクールでは、この新曲を唯一暗譜して演奏した辻井さんが「ビヴァリー・テイラー・スミス賞」(コンクールのために書かれた新曲の最も優れた演奏に対して授与される)を受賞している。
コンクールでの演奏を収録しているCDが、もうナクソスのNMLに登録されている。この異常な速さは驚き。
このCDはナクソスのトップページに「今週の一枚」として紹介されている。
今日配信されたばかりなのに、ショパンのエチュードが収録されている方のアルバムは、すでに今週のランキングの2位。(ショパンには興味がないので聴いてません)
この録音のことは、Schweizer_Musikさんの「鎌倉スイス日記」の<話題の辻井伸行氏のコンクールのライブ>で教えていただきました。

マストの新曲「インプロヴィゼーションとフーガ」は、辻井さんの演奏では8分あまりの曲(人によってかなり違うはず)。
現代音楽のピアノ独奏作品としては、それほど短い曲とは言えない。
練習期間が楽譜を手渡されてから1カ月。他にも課題曲はたくさんあるので、この曲ばかり練習するわけにもいかないだろうし、それに彼の場合は暗譜必須なので、かなり厳しい条件だったに違いない。

現代音楽では、完璧に暗譜して楽譜なしで演奏することは少ないらしい。
協奏曲なら暗譜して弾いていると思うが、室内楽やソロは譜面がピアノによく置かれているようだ。
ポリーニは普通は1回弾けば暗譜できたが、現代音楽は3回弾かないと暗譜できなかったらしい。(それでも3回で暗譜できるのは凄い。)

マストの曲は現代音楽にしてはとても聴きやすい。
旋律は叙情的、和声も調和的で美しい。緩急のコントラストやリズム・テンポなども明確。曲想も良く変化するので、退屈することはないでしょう。
一体どんな曲だったのかさっぱりわからなかった・・・という現代音楽にありがちなところは全くなし。
元の譜面を見ていないので、どういう表現記号がついているのかよくわからないが、ピアニストの演奏解釈がしっかりしていたのもあるかもしれない。
辻井さんもこの曲には”共感を寄せることができた曲”と言っているくらいなので、演奏もどういう曲想なのかを明確に打ち出していて、よく弾きこなしていたんじゃないでしょうか。
ビヴァリー・テイラー・スミス賞を受賞したということは、この演奏の評価が高かったということ。

録音で聞いてみると、打鍵ミスもほとんどない(ように聴こえる)し、テンポ設定も表現も、この曲が一体どういう曲なのかを明晰に解説してくれているようなわかりやすさ。
曲想に合わせてタッチやテンポをいろいろ変えて、とても表情ゆたかな起伏のある演奏なので、ピアノがおしゃべりしているような感じがする。
なにより演奏に硬さがなくて、伸びやかに弾けているような感じがする。彼自身も楽しんで弾けたとか言ってましたし。

debutヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール2009 - セミファイナル(辻井伸行)
(2007/10/24)
辻井伸行

試聴する(NAXOS)

これは輸入盤でも国内盤でも、まだ日本国内では販売されていない盤ではないかと思います。
(HMVでは、8/10にコンクールのライブ録音を発売予定です。収録曲がこのCDとは違うようなので、HMVのサイトで確認してください。)



Ⅰ Improvisation
冒頭は甘美な叙情性のあるゆっくりとした旋律で始まる。ネットリとした情趣とやや神秘的な響きがとても美しい。
途中からテンポが上がっていき、ジャズ風のリズムと旋律が少し織り込まれている感じがする。
やがて高速のパッセージが続いて、疾走感のある曲想に変わる。追いかけっこをしているような感じ。短いながらも、なかなか表情豊かな演奏です。

Ⅱ Fugue
現代音楽のフーガというのは、調性音楽のフーガよりも弾くのに苦労しそうな気がする。
テンポの速いフーガで、躍動感とスピード感がきびきびして、とても鮮やかな弾き方。
かなり音が重なって錯綜しているので、フーガのような、フーガでないような。一応主旋律らしきものが、ずっと聴こえてはくるが、譜面を見ないとつくりが良くわからない。
遁走曲(フーガ)という意味では、確かに疾走感に満ちてはいる。
曲自体はとても面白いので、主旋律と副旋律がどうなっていて...などといろいろ考えずとも、気楽に聴けます。

マスト自身がピアニストであるだけあって、どう書けばピアノのもつ音色や響きが引き出せるかをよくわかっている。
曲想もバリエーション豊かだし、技巧的にも凝っているので曲自体が面白い。
その上、演奏もしっかりしているので、努力する必要もなく繰り返し聴けてしまうし、聴いていて楽しい。
わかりにくいタイプの曲だと、かなり努力して集中して聴かないといけないし、2回続けて聴きたいとは思わなくなるものです。

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