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リパッティ ~ バッハ/パルティータ第1番 (ブザンソン音楽祭の最後のリサイタル)
ディヌ・リパッティが病で亡くなる直前の1950年9月16日、最後の演奏会となったブザンソン音楽祭で弾いたのは、バッハの『パルティータ第1番』。
医者が命を縮めるだけだと演奏会を中止するように説得したにも関わらず、リパッティは、演奏会で弾くという約束を守りたいのだと強く主張し、鎮痛剤の注射を打ちながら、ピアノを弾いたという話は有名。
リパッティ本人も、家族も医師も聴衆も、みんなこれが最後の演奏会になるということがわかっていたという。彼はこの演奏会の2ヶ月後、12月2日に亡くなる。

リパッティの演奏は清楚で気品があるのだけれど、残されているリパッティの録音は1950年以前のものが多くて、録音状態も悪いものが少なくない。しかし、この最後の演奏会のライブ録音は、音質はそれほど良くないとはいえ、リパッティの演奏がどんなものだったのかが克明に聴きとれる。

ブザンソン音楽祭における最後のリサイタルブザンソン音楽祭における最後のリサイタル
(2007/10/24)
リパッティ(ディヌ)

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パルティータ第1番のライブ録音(Youtube) (第1曲~第6曲まで分割されています。)

パルティータ第1番は、1950年のスタジオ録音が別盤で残っているし、録音年がそれ以前の盤もある。
1950年のスタジオ録音はミスタッチもなく、タッチもやや柔らかく良くコントロールされていて、完成度が高くなっていると思えるが、このライブ録音のような張り詰めた雰囲気はあまり感じられず、落ち着いた雰囲気の中で弾いている感じがする。
でも、一時的に病気が小康状態になったときにレコーディングしていたらしいから、実際はどうだったのかはわからない。

Dinu Lipatti Plays BachDinu Lipatti Plays Bach
2000年06月25日


試聴する(NAXOSサイト)


                                 

最後の演奏会となるステージで最初に弾いたバッハの『パルティータ第1番』。
なぜかこのパルティータには澄んだ明るさがあって、気品どころか神々しささえ感じてくる。
会場につくまでは自力で歩けるのかというくらい衰弱も激しかったらしく、当然充分に練習もできる状態ではなかったはず。

このパルティータの演奏は、ところどころミスタッチがあるが、それでもひたすら前へ進もうとするかのようにテンポは緩むこともなく、軽快なタッチで、きりっと引き締まっている。そんなコンディションだったとはとても思えない。
リパッティの硬質でやや丸みのある音質は、とても瑞々しくて濁りがなく品のある響きがする。響きの短いレガートなタッチが、軽快でとても滑らかに音が流れていく。
表現自体はとてもシンプルで、音色や響き、装飾音などアーティキュレーションに凝るのではなく、無理なく自然に流れていくようで、すっと核心を突いていくような率直さ。

第1曲は、優しさよりも、力強さのあるプレリュード。スタジオ録音では、もっと柔らかいタッチで、フォルテもそれほど強くはなかった。かなり力が入っているのが感じられる。
速いテンポに軽快なタッチで弾く第2曲のアルマンドは、とても若々しく颯爽としている。第4曲のサラバンドは穏やかでどこか物思いにふけるような静けさのなかにも、力強く訴えかけるようなところがある。

この演奏を聴いていると、全くどこにも隙がなく、張りつめたものが伝わってくる。
リパッティらしい飾り立てることのない演奏には、凛とした気品があって、名演といわれる幾多のパルティータの演奏とは違った特別な何かを感じるものがある。

リパッティは、モーツァルト、シューベルト、ショパンと引き続けていくが、とうとう最後には力尽きてしまい、予定していたプログラムの最後の曲(おそらくショパンのワルツ)を弾くことができなかった。
一度倒れてから少し休んで、再びステージに戻ったときに弾いたのは、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」。
コンサートホールにいた聴衆やスタッフにとっては突然のことだったらしく、この演奏はどんなディスクにも録音が残っていない。
これが最後のリサイタルだと知っているせいか、繰り返し聴くほどに、このパルティータの明るさが逆にもの哀しくなってくる。
まるで短くなったろうそくの火が最後に急に明るくなって、燃え尽きてしまったような演奏会だったのだろうと思う。

tag : バッハ リパッティ

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(非公開コメント受付中)

こんにちは。

リパッティの弾くパルティータ第1番は大好きです。
パルティータは数種類のCDをもっています。ピアノについて詳しいことはわからないので演奏比較はできませんが、リパッティには人をひきこむ何かがあります。

僕の持っているのはスタジオ録音の方で、ブザンソン音楽祭でのライヴ録音は聞いたことがありません。聞いてみたいです。
リパッティのパルティータはシンプルですが気品があります
よんちゃん様、こんにちは。

私はパルティータの中で第1番が一番好きで、プレリュードとアルマンドはピアノで良く弾きます。
パルティータはいろんなピアニストで聴いていますが、技術や音色・響きでリパッティよりも優れた演奏はいろいろあると思いますが、リパッティはそれらにはない何かがありますね。
リパッティは特別なことは何もしていないシンプルな演奏ですが、本質的なものが優れていれば飾る必要もないですから、リパッティのパルティータはその種の演奏だと思います。
この気品のあるパルティータは、リパッティにしか弾けないでしょう。

記事中に書いてあるYoutubeの音声画像が、ブザンソンのライブ録音です。私の持っているCDでも確認しましたが、ミスタッチの場所が同じなので、間違いありません。
音は圧縮されて良くないですが、CDの音質もさほど良くないので(最近のリマスタリング盤は良いかもしれませんが)、それほど気にすることもないかと思います。
ブザンソンのライブ録音のCDは、モーツァルトやシューベルト、ショパンも収録されているので、とてもお薦めです。

コンディションが最悪だったので、ミスタッチも結構ありますし(それにしては驚異的な出来だと思いますが)、繊細なタッチのコントロールが充分ではないのですが、何かにつき動かされるようにひたすら前進していくようなテンポと推進力には、ぴんっと張られた弦のような緊張感を感じます。
演奏自体は、スタジオ録音の方が完成度は高いと思いますが、やはりこのライブ録音はそれを超えた価値を感じさせるものがあります。
グールドはテンポが速いのですが
リパッティのパルティータのことを薦められてUTubeで聞いてみました。一番BWV825の三楽章クーラントに素朴さと品格を感じて聴きあきません。この曲はもっぱらG.Gouldの全曲版CDで聞いております(グールドはテンポが速いのですが)---それぞれに心を止めるものがあります。
このウエブサイトも検索で偶然見つけて、「ブザンソンの最後の演奏会」をアマゾンで注文したところです。「気まま生活」の主宰者の方及びコメント寄せられた方々へ、大変役立つ話題をありがとうございました。
リパッティのパルティータは気品があります
Uncle Tim様、はじめまして。
コメントありがとうございます。

リパッティのパルティータ第1番の録音は昔からとても有名です。
特に工夫を凝らしているわけではないのですが、シンプルに飾り気のない演奏が逆に魅力的で、気品を感じさせます。
バッハに限らずどんな曲でも自分の音楽をするグールドとは対象的ですね。
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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