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アンデルシェフスキ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 (カーネギー・ホール・ライブ)
アンデルシェフスキの2008年12月3日カーネギー・ホール・リサイタルのプログラムは、バッハ「パルティータ 第2番ハ短調 WV826」、シューマン「ウィーンの謝肉祭の道化 作品26」、ヤナーチェク「霧のなかで」、ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 作品110」。

選曲がかなり充実していますが、演奏はそれにも増して素晴らしいもので、特に最後のベートーヴェンは凄かった。演奏が終ったとたん、聴衆からは拍手喝采の嵐。New York Times紙のレビューでも、このベートーヴェンの最後のソナタが、リサイタルのプログラムのなかで最も圧倒的な演奏だったと評していた。

続けて弾いたアンコールは、バルトークの「チーク地方の3つのハンガリー民謡」。
とても叙情的な旋律で、バルトークってこんな曲も書いてたのかしら?と思える美しさ。
まるで聴衆との別れを惜しむかのような哀愁漂う曲でした。

アンデルシェフスキは、さらにアンコールとして2曲(バッハのイギリス組曲第6番「プレリュード」、モーツァルトのハ短調ソナタから「アダージョ」)弾いているのに、このCDには収録されていないのがとても残念。

New York Times のリサイタル・レビュー(英文)


Piotr Anderszewski at Carnegie HallPiotr Anderszewski at Carnegie Hall
(2009/03/30)
Johann Sebastian Bach,Bela Bartok,Ludwig van Beethoven,Leos Janacek

試聴する(国内盤へリンク)

アンデルシェフスキは、ベートーヴェンの第31番ソナタを以前にスタジオ録音してます。
このライブ録音は、スタジオ録音盤よりも残響が少なく、音がずっと明瞭で、弱音の繊細さが特によくわかります。それにかなり近くから音が聴こえてくるので、とても聴きやすく、ライブ特有の雑音がきわめて少なく音質は良好。
スタジオ録音盤よりも演奏内容が深化しているので、このライブ録音の方がスタジオ録音盤よりもおすすめです。



ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 Op.110

 第1楽章 Moderato cantabile molto espressivo
とても柔らかく繊細な響きの冒頭の和音。続いて夢見心地のような軽やかさと美しいアルペジオが続くけれど、フォルテをかなり大きく弾いているので、強弱のコントラストがとても強い。これは全楽章に特徴的。
彼の奏法はいつもピアノはより弱く、フォルテはより強くなり、その上音色・響きが多彩なので、色彩豊かで繊細かつダイナミックに聴こえてくる。
過去の幸福な想い出を追憶するかのような甘美な美しさに、思わずうっとりとしてしまう。

 第2楽章 Allegro molto
少し遅めのテンポでかなり弾力のある力強いタッチ。特に左低音部がかなり強い。
中間部の左手のスタッカート気味のタッチが良く効いている。ここをフォルテで荒っぽく弾いているのをよく聴くが、アンデルシェフスキもフォルテで弾いているが、打鍵がとても丁寧なので安定した力強さがある。
それにしても、やや力強くて元気すぎる気がしないでもないけれど、優美な第1楽章と悲痛な始まりの第3楽章の間に挟まれているので、そのコントラストは鮮やか。
この元気さと力強さは、運命の急転の不吉な予兆か、それとも、破滅の予感を紛らわすような威勢の良さか。この第2楽章を聴くたびにいつも不思議に思えてくる。

 第3楽章 Adagio, ma non troppo
前章とうって変わって、とても密やかな静けさのアダージョ。弱音はほんとに弱々しい響き。
「嘆きの歌」はかなりゆっくりしたテンポをとっているせいか、ほぼインテンポ。
この「嘆きの歌」はかなりルバートをかけて弾くピアニストが多いが、アンデルシェフスキはほとんどルバートをかけず、弱々しい弱音で黙々淡々として弾いている。
下手にルバートをかけないで、このゆっくりとしたインテンポで感情を抑制したように弾いていると、もう心身とも疲れ果てて、一人静かに耐えながら心の中で泣いているような雰囲気になる。
感情をどう表現するかもいろいろあって、この弾き方はとても上手い。

最初のフーガはバッハが得意なアンデルスジェフスキらしい立派なフーガ。
やわらかい響きから徐々にクレッシェンドしてフォルテへ以降し、声部がきっちりと弾き分けられているので、それぞれの声部の音色・響きが違うかのように聴こえてくる。
ピアノとフォルテのコントラストが大きく、その間を絶えず行き交うように弾いている。傷心から立ち直ろうと自分自身を鼓舞しているかのような力強いフォルテ。このフォルテで弾くところは、左手低音部がとても強いタッチで鐘を打ち鳴らすかのように響いている。本当にドラマティックなフーガ。

再び「嘆きの歌」。フーガがとても力強かく輝きもあったせいか、一転して静けさが支配するアリオーは、よけいに沈鬱に聴こえて、心の傷の深さを強く感じさせる。
テンポは初めのアリオーソと同じくらいにゆっくりだが、こんどはあちこちでテンポをルバートしている。初めのアリオーソよりも、強い感情的な揺れが伝わってくる。
ここは、「力尽き、嘆きつつ」とわざわざベートーヴェンが指示しているから、初めのアリオーソよりもさらに沈鬱でなければいけないので、同じアリオーソでもその意味合いの違いが明確にわかるように弾いている。
最後の和音を鐘のように力強く響かせてから、消え入るような弱音になり、そのままフーガへすっとつながってしまう。そのつなぎ方の間のとり方がとても上手い。

再びフーガ。ここは弱音ペダルを使っているのか、本当に弱々しい弱音の始まり。まるでコラールのような美しさ。
すぐに徐々に覚醒していくかのように、軽やかなノンレガートのタッチで、生気を帯びていくように動きを出しながら、フォルテへとクレシェンドし、テンポも加速。
フィナーレは速いテンポだが、タッチは一音一音力強く明瞭で、音に輝きがあり、全く崩れないような堅牢さと力強さ。
最後のアルペジオは、確信に満ちたように弾力があって力強く、いくつもの鐘の音が鳴り響いているかのようだった。
第3楽章はいろいろなところで、なぜかピアノの音が鐘の音のように聴こえてくる。でもそれぞれの意味合いは違うはずなので、その意味の違いを考えるのも面白いかもしれない。


現代フランスの作曲家兼批評家のギイ・サクルは、この31番目のピアノ・ソナタに、心と身体の回復を主題にした物語を見出したという。
まるで幸福-崩壊-悲嘆-再生という物語をピアノで表現しているかのような、繊細でも力強くもあり、ドラマティックなソナタ。そういう演奏はなかなか聴けるものでもないでしょう。
最後の音の残響が消えるか消えないかというところで、聴衆のブラボーの声が飛び交い、拍手と大喝采。それも当然というしかないくらいの素晴らしいベートーヴェンでした。

tag : ベートーヴェン アンデルシェフスキ

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聴きました。
お久しぶりです(^ ^*)
このBlogを見てこのCD(Diabelliの方も)を買いました♪今Piano Sonata No.31を聴き終えたところです。
31番は、ポリーニとシュナーベルの録音を持っていて、どちらも大好きな演奏です。が、このCDがあると、ポリーニやシュナーベルはしばらく聴かなくなりそうです。
アンデルジェフスキはとても個性的な弾き方をしますね。でも独りよがりじゃなく、その音楽の魅力を引き出す演奏っていうのが凄い。そういう弾き方があるのかとびっくりします。また好きなピアニストが増えて感激です。
6つのバガテルop.126も録音してるようですね、30番や32番もいつか録音してほしいです(゜ ゜*)
アンデルジェフスキは素晴らしいピアニストですね
エウロパ様、お久しぶりです。コメントありがとうございます。

このライブ録音とディアベリのCDをお買いになられたのですね!
かなり個性的ですが、おっしゃるように”独りよがりじゃなく、その音楽の魅力を引き出す演奏”というのは、全く同感です。新しい発見も多いので、音楽が新鮮に聴こえてきますし、とにかくインパクトが強いです。
好みが分かれるピアニストではありますが、ピタっと波長が合うと、絶賛している方は多いです。私もその一人ではありますが...。
でも、バガテルは表現が濃すぎてちょっと苦手です。構造的にシンプルな小曲なので、もう少しさらっと弾く方が好みです。
規模・構造・内容とも、大きく深みのある30番と、特に32番は、彼のピアノでぜひ聴いてみたいですね。

彼のバッハのパルティータ集もとても良い演奏だと思います。ピアノの響きが美しく、旋律の横の流れが綺麗に出ています。グールドのパルティータも素晴らしいのですが、基本的にはドライなタッチのノンレガート奏法が苦手なので、アンデルジェフスキの弾くバッハはかなり好きなのです。

NHK-BSで7月18日にアンデルジェフスキの特集がありますので、都合が合えばご覧になると良いと思います。私はもともとTVは見ないのでBSも入れてなくて見れませんけど(こういう時だけそれを後悔しますが...)、そのうちDVDを買おうと思っています。
BS入れてないんです;
> バガテルは表現が濃すぎてちょっと苦手です。
そうなんですか~、確かに彼なら、すごい弾き方をしているところを想像できます。協奏曲第1番とのカップリング(っていうんですか?)ですよね。協奏曲は3番以降しか殆ど聴かないので迷います…。

このCDもパルティータ第2番が入っているようですね。まだ聴いていませんが;また聴いてみます。

yoshimiさんはTV見ないんですね~私もあまり見ない方です。TVの音だと好きな曲だったとしても大抵興ざめしてしまいます。マルツィン・ヘルムヒェンとN響のピアノ協奏曲第4番だけは良かったです。
そんな話は置いといて、残念なことにBS放送は入れてません!!どうしてNHK総合とか教育じゃないんでしょう。DVD買おうかなどうしようかな…DVDはケースがでかいのが難点だといつも思っています。
もう少し地上波番組も充実させてほしいですね
エウロパ様、こんにちは。

協奏曲もなかなか良いと思いますが、アンデルジェフスキの真価は、難易度の高い独奏曲で発揮されます。
第1協奏曲とバガテルがお好きなら聴いてみても良いかもしれませんが、コレクターになってから揃えても良い録音だと思います。(バガテルなら、ほどよい表現の濃さのシュナーベルの演奏がとてもお薦めです。)

パルティータ集は1.3.6番だけ収録しているので、このカーネギーライブの第2番は私も初めて聴きました。彼のバッハは繊細な表現でわりと濃密なところはありますが、基本的にはインテンポなので、チェンバロのネットリした演奏よりはずっと聴きやすく感じます。

TVはここ数年ほとんど見ていないような気がします。ニュースくらいは数度見たかもしれませんが。BSは特集とか特番ものがウリなのはわかりますが、地上波の方が受信料は高いのだから、再放送でもいいから放映してほしいですよね。
ちなみに、Youtubeには、ディアベリのDVD映像が登録されてます。

DVDはロード・ムービーのようなものらしいので、ドキュメンタリーが好きな私としては見たい映像です。モンサンジョン監督のリヒテルの伝記映画はかなり良い出来でしたので、期待しているのですが、今はかなり多量のCDをオーダー中なので、しばらしくしてから買うと思います。
すぐに在庫切れになることもないでしょうから、先にCDをじっくり聴かれてから、検討されても良いと思います。

DVDでも、CDサイズのDVDケースがあるので、あれならコンパクトで良いですね。CDと一緒に並べていると紛らわしいところがあって、間違いやすいかもしれませんが、あの大きなDVDケースに収納する必然性はないと思っています。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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