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ムストネン ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲ニ長調(ヴァイオリン協奏曲の編曲版)
ベートーヴェンはヴァイオリン協奏曲のカデンツァは残していなかったため、ヴァイオリニストや作曲家が自作したカデンツァが多い。
ピアノ協奏曲の方はベートーヴェン自らカデンツァを書き残していて、ほとんどのピアニストはそのカデンツァを弾いている。この違いは面白いものがある。

ベートーヴェンは、ヴァイオリン協奏曲をピアノ協奏曲版に編曲しているが、それにはちゃんとカデンツァを書き込んでいる。やはりベートーヴェン自身、技巧でならしたピアニストだけあって、こちらはいいろと凝っている。
このピアノ協奏曲は「ピアノ協奏曲 ニ長調 Op.61a」。ヴァイオリン協奏曲の作品番号がOp.61なので、編曲版の作品番号は「Op.61a」。

このピアノ協奏曲版のカデンツァをさらに編曲して、原曲のヴァイオリン協奏曲の自作カデンツァとして弾いたのがクレーメル。
巡りめぐって里帰りしたようなクレーメル編曲版のカデンツァには、ピアノとティンパニが使われているそうで、ティンパニはもともとピアノ編曲版カデンツァにも入っていたので理解できるとして、ピアノを使っているところが面白い。(私はまだ聴いていませんが)

楽譜を見ながら聴けば他にもいろいろわかるのだろうけれど、あまり演奏される曲でもないせいか、この協奏曲の楽譜はなぜかIMSLP(国際楽譜図書館)に登録されていない。

「ピアノ協奏曲ニ長調」はコンサートで演奏されることはあまり多くはないが、この曲をレパートリーにしているのがオリ・ムストネン。最近のN響の定期公演でも弾いていたらしい。
スタジオ録音のCDもリリースされていて、タピオラ・シンフォニエッタを弾き振りしている。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)[SACD]ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)[SACD]
(2008/07/10)
ムストネン(ピアノ・指揮),タピオラ・シンフォニエッタ

試聴する(米amazon)



ムストネン&タピオラ・シンフォニエッタの演奏は、テンポがやや速く、響きは薄めで透明感があり、全体として軽快でシャープ、すっきりとした爽やかさがある。こういうベートーヴェンも良いですね。
ピアニスト自ら指揮しているだけあって、堂々とした重めのタッチではなく、優美で清々しい雰囲気で、ムストネンが弾くピアノの方向性とぴったり合っている。

ピアノ編曲版は、オーケストレーションは一切変更せず、ヴァイオリンのソロ・パートがピアノ用に編曲されている。
原曲のヴァイオリン協奏曲に関する渡辺和彦氏の名曲解説を読んでいると、カデンツァ部分を除くと、「重音でさえ終楽章副主題まで登場せず、極端にいうとソロは転調を重ねながら音階を上下するだけ。演奏者は純粋に音の美しさと、音楽的な表現で勝負しなければならない。ヴァイオリストにとってはこんな恐ろしい作品は無い」という。
確かに、ピアノ協奏曲に比べて、なんか起伏の少ない曲だな~といつも思っていた。
そのヴァイオリン・ソロをベースにしているので、やっぱりピアノ・パートの音の配列がベートーヴェンにしては音が少なめに感じるものがある。
聴きなれたヴァイオリン協奏曲をピアノ版で聴くと、ヴァイオリンとピアノでは響きも抑揚の付け方も違うし、ピアノ・パートはいろいろ凝ったことができるので、メロディラインと伴奏は聴きなれていても、やっぱり別もの。
やや重々しい雰囲気で弾くこともできる曲だけれど、ムストネンのピアノで聴くと、ヴァイオリン協奏曲よりも、軽やかで可愛いらしい優美な雰囲気があるし、第3楽章はとても爽やか。

第1楽章と第2楽章は、ピアノが弾く音域は低音域が少なくて、中音域~高音域よりになっているので、音色も明るめで透明感があり、軽やかで綺麗な響きがする。
ムストネンは、いつもながら、エッジの利いた鋭く飛び跳ねるような軽やかなタッチを交えて弾いている。
ムストネンの奏法はつねに強弱の起伏が多く、それも1音ごとに変化するのではないかと思うくらいに、急速に変化するので、とてもうねりのある旋律。まるで息を吸ったりはいたりしているような感じがする。
このタッチでレガートで弾くと、ヴァイオリンを弾いているような起伏に近くなってくる。
ヴァイオリンの息の長い伸びやかな響きとは違うけれど、ピアノの音で聴いても、主題の旋律は堂々とした気品があって、やっぱり美しい。

第1楽章のカデンツァは125小節もあるらしく、かなり長い。それまでと違って、ピアノがかなり躍動的で華やか。スケールとアルペジオを多用しているのに加えて、舞曲風のリズムが入ったり、カデンツァをピアノが弾いている背後で、ティンパニが鳴っていたり、ちょっと風変わりで面白い。

第2楽章は、ムストネンのピアノの鋭く透明感のある響きがとても鮮やかで、細かくもダイナミックな起伏のある旋律の歌いまわしと相まって、ムストネンの瑞々しい感性がキラキラと煌いている。
彼の感性とベクトルが合う人なら、この演奏がとても美しいと感じるに違いない。

第3楽章はフィナーレらしく、ピアノも軽快に動き回っている。飛び跳ねるようなタッチが独特だが、第1楽章よりも左手の伴奏に音の厚みが出て、かなり華やか。終盤のカデンツァもユニゾンのスケールとトリルが華やか。

ムストネンは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を第1~3番まで録音しているが、基本的な奏法は同じ。
エッジの利いたスタッカート気味のタッチを交えて、強弱の起伏をかなり細かくつけて旋律がうねるように響かせたり、逆にフォルテからピアノへ急降下したり、個性的というかクセのある弾き方ではある。
しかし、ピアノの響きは澄んでいて冷たい透明感があってとても美しく、独特のタッチと相まって、普通のベートーヴェンのコンチェルトの響きとは違って聞こえる。
有名な5つのピアノ協奏曲だとすでにある程度の好みのイメージが出来上がっているので、ムストネンの弾き方はさすがに違和感を感じるものがある。
でも、このニ長調協奏曲だと、ヴァイオリン協奏曲のイメージしかないので、ムストネンの弾き方もそれほど?と思うこともなく聴けてしまう。
こういう才気溢れた感性と新鮮さを感じさせる演奏に出会うことはあまりないし、その上ムストネンのピアノは音がとても綺麗なので、聴いていてもいろいろ楽しみがある。
といっても、はっきりと好みの分かれる弾き方で、人にはまず勧めません。

tag : ムストネン ベートーヴェン

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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